2016.10.26

川村記念美の‘レオナール・フジタとモデルたち’!

Img_0001     ‘眠れる女’(1931年 平野政吉美)

Img     ‘カルチェ・ラタンのビストロ’(1958年 カルナヴァレ博)

Img_0003     ‘ジャン・ロスタンの肖像’(1955年 カルナヴァレ博)

Img_0002     ‘自画像’(1936年 平野政吉美)

藤田嗣治の絵をみるため久しぶりに佐倉の川村記念美を訪問した。今、ここで‘レオナール・フジタとモデルたち’(9/17~1/15)が開催されている。4、5年ぶりに出かけたのでJR佐倉駅に着いて美術館行きのバスの停留所にむかうとき何分にでるのか忘れていた。1時間に1本で30分に出発する。駅から美術館までは20分かかる。途中、景色がだんだんよみがえってきた。

今年は藤田嗣治(1886~1968)の生誕130年にあたるため、これを記念して川村記念美と府中市美で回顧展が行われる。府中は‘藤田嗣治展 東と西を結ぶ絵画’というタイトルで会期は10/18~12/18。日本にある作品とフランスの美術館のものがどういう具合に配分されているのか興味深いところだが、さて2回の出動でどれだけプラスαに遭遇するだろうか。

ひそかに期待していた豊田市美蔵の女性画は残念ながら出品されていなかったが、収穫はそこそこあったので足を運んだ甲斐はあった。そのなかで思わず惹きつけられたのが風俗画の‘カルチェ・ラタンのビストロ’、藤田のこういう画風の作品が一番のお気に入り。人物の生き生きとした表情と木製の椅子やテーブルのリアルな質感描写をみると藤田は本当に絵が上手いなと思う。同じカルナヴァレ博のコレクションの‘ジャン・ロスタンの肖像’は以前あった回顧展にでていたが、目の前に本人がいるような錯覚を覚える。

秋田市にある平野政吉美に来年あたり行く計画をアバウトもっているが、今回ここから藤田の乳白色が存分に味わえる‘眠れる女’や‘自画像’など6点くらいやって来ている。だから、大作壁画‘秋田の行事’を除けば出かける必要はないかなという気もする。とはいっても‘秋田の行事’をみないと藤田は済にならないので新幹線に乗ることになりそうだが。

府中ではどんな新規作品が待ってくれているだろうか。川村記念美の半券をもっていくと割引料金になるらしいので忘れないようにしたい。

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2014.01.27

藤田嗣治の宗教画と風俗画!

Img     ‘十字架降下’(1927年 ひろしま美)

Img_0005     ‘優美神’(1946~48年 聖徳大学)

Img_0003     ‘カフェにて’(1949~63年)

Img_0004     ‘朝の買物’(1962年)

この半年の間にTVの美術番組で藤田嗣治(1886~1968)の物語を2回みたので、今年は新しい建物になった秋田県美へ出かけ大壁画‘秋田の行事’をみようという気になっている。まだ足を踏み入れていない地というのは情報がないせいかちょっと心細いところがある。秋田も心理的には遠い街、でも気持ちがこの地にむかいだすと、秋田新幹線に乗れば2時間くらいで着くことに気づく。これで心のバリアが消えた。

藤田の作品に全部魅せられているわけではないが、上手い絵だなと思うものがいくつもあるから、これからもずっとつきあっていく画家であることに変わりない。そう思わせるきっかけとなった作品がひろしま美でみた‘受胎告知’、‘山王礼拝’、‘十字架降下’。

広島に住んでいるときこの美術館には何度も足を運んだが、出かけるたび藤田の宗教画を描く腕前に感心させられた。強いインパクトを持っているのが琳派をイメージさせる金箔の地、日本人だからこそ描ける日本流宗教画という感じ。

8年前東近美で開催された回顧展でお目にかかった‘優美神’もじっとながめてしまう作品。これをみていると二つののことが思い浮かぶ、古典絵画ではお馴染みの三美神とボッティチェリの‘春’に描かれた様々な草花。精緻に描きこまれた美しい花々、これほど見事な西洋絵画を描いてしまうのだから藤田の描写力は本当にすごい。

‘カフェにて’は数点のバリエーションがあるようで、回顧展にでた2点(ともに個人蔵)とポンピドーにある1点をみた。テーブル席につき手をあごのところにやり物思いにふけっている女性の姿はドガの絵にでてくる女性を連想させる。そしてマネの絵も浮かんでくる。パリの日常の光景をとらえたドガ、マネ、藤田はしっかりつながっている。

藤田は子ども画の名手、‘朝の買物’やポーラ美やパリ市美にある子どもたちを描いた作品に200%魅了されている。口元をきゅっとしめ買ったフランスパンを手にもっている女の子、つい‘パンは好きかい’と声をかけたくなる。

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2014.01.26

藤田嗣治とアンリ・ルソーのコラボレーション!

Img     藤田嗣治の‘2人の少女と人形’(1918年)

Img_0002     藤田嗣治の‘2人の子どもと鳥かご’(1918年 松岡美)

Img_0004    ルソーの‘詩人に霊感を与えるミューズ’(1909年 バーゼル美)

先日あった日曜美術館に現在秋田県立美で開かれている‘レオナール・フジタとパリ 1913~1931’(12/7~2/2)がとりあげられた。昨年9月BS朝日で放送された藤田嗣治物語をとても興味深くみたので(拙ブログ13/9/29)、日曜美術館でも大壁画‘秋田の行事’の制作にスポットをあてるのかなと予想していた。

その予想は当たっていたが、これだけなら情報の増分にならないのだが、1点ハッとさせられる絵があった。それは藤田嗣治(1886~1968)がパリに渡り売れっ子画家になる前に描いた‘2人の少女と人形’、これははじめてみる絵で手元の画集にも載っていない。

よく似た絵を藤田はもう1点描いている。東京の松岡美が所蔵している‘2人の子どもと鳥かご’、こちらのほうは今は足が遠ざかっているが、この美術館によく通っていたころお目にかかった。この絵は普通に鑑賞したのに、秋田県美の展覧会にでている絵にハッとしたのはこの絵に影響を与えたのがアンリ・ルソー(1844~1910)だったという話がでてきたから。

藤田はピカソのアトリエでルソーの‘詩人に霊感を与えるミューズ’をみて大きな刺激を受けたという。このルソーの絵は画集でもよくみており、最初に描かれプーシキン美が所蔵しているものを昨年横浜美で嬉しいことにみることができた。

正面向きに大きく描かれたミューズと詩人のアポリネール、これをじっとみて藤田の描いた‘2人の少女と人形’に目を移すと‘確かに2人の女の子の描き方はルソーの画風を彷彿とさせるな’と素直に思う。藤田がルソーを吸収していたとは!これまでまったく気づかなかった。この話は藤田が西洋絵画を古典でも新しい絵画でも貪欲に研究していたことのあらわれであり、藤田の吸収能力の高さを如実に示している。

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2012.11.29

脳が本気になるモディリアーニの絵!

4502_2     ‘青い瞳(ジャンヌの肖像)’(1917年 フィラデルフィア美)

4503_2         ‘少女の肖像’(1918年 アサヒビール大山崎山荘美)

4504_2         ‘ネックレスの女’(1917年 シカゴ美)

4505_2         ‘女の肖像’(1917~18年 クリーブランド美)

TV局が制作する美術番組をみるのは大リーグ中継とともに日常生活における大きな楽しみ。だから、年間を通してみるとかなりの数をみている。定番は‘日曜美術館’と‘美の巨人たち’、そして昨年からはこれにBS各局の番組が加わった。最近はなくなったがBSプレミアムの‘極上美の饗宴’と‘美の浪漫紀行’(BSジャパン)、そして今も残っている‘世界の名画’(BS朝日)などなど、、

そうした番組のなかにはすごく刺激的な内容のものがときどきある。今年2月に放送された‘極上美の饗宴 モディリアーニ’に出演した脳科学者茂木健一郎さんがとてもおもしろい話をしていたので、今日はそのことを少し。

モディリアーニ(1884~1920)の絵が好きな茂木さん、われわれの脳は一体どのように美しいと感じているか?その秘密を研究している。茂木さんはこんなことを言っている。

‘モディリアーニの形の強度は絵画史上でも特筆すべきユニークな痕跡を私たちの脳に残す。顔を前にして脳はいわば本気になる’

‘人間の脳は生身の人間が目の前にいなければ本気にならないということがわかっている。おもしろい事例だと、アメリカの子どもに中国語の発音を教えようとしてもビデオをみせてもなかなか覚えなくて、実際に中国人の先生が前にいると脳が本気になり発音を覚えることが研究でわかっている’

‘モディリアーニの絵は生身の人間が目に前にいるのではないのに、まるで実際にそこにいるかのように強い生命感を感じさせるように思える。そういう意味で目の前に生身の人間がいるかのように脳が本気になる絵ではないかと思っている’

この中国語の発音の話はよくわかる。目からうろこが落ちた感じ。知識の習得でも物づくりの技術の修練でも学校の先生や職場の上司や先輩から直接教えてもらうほうがやはり理解が早く腕が上達する。中学校の英語の授業でのこと、先生は
‘明日 tomorrow’は‘明日は雪が積ろうか’と覚えるんだよと教えてくれた。このときのことを今でも鮮明に思い出す。

モディの描く女性はうりざね顔で首は長く、そして極端ななで肩と随分デフォルメされた姿になってはいるが、ちゃんと生身の人間が目の前にいる感じがしとても惹きつけられる。脳がまさに本気になっているのだろう。

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2012.11.28

もっと見たいモディリアーニの名画!

4501_2     ‘ポンパドゥール夫人’(1915年 シカゴ美)

4500_2     ‘バラ色の裸婦’(1917年 個人)


4498_2     ‘黒いネクタイの女’(1917年 個人)     

4499_3          ‘ジャンヌ・エピュテルヌ’(1918年 個人)

先月BSプレミアムのアーカイブという番組でみた‘モディリアーニ物語 生きた 描いた 愛した’(08年制作)が大変おもしろかったので、またモディリアーニ熱に火がついた。

好きな画家の作品の追っかけは同時並行的に進行しており、陸上のトラックレースのようなもの。ゴールのテープに近づいている画家がいる一方で、作品と出会うペースが遅くまだ第一コーナーあたりにとどまっている画家もいる。

モディは真ん中を少し過ぎたところかなという感じ。だから、みたい絵がまだいくつも残っている。そのなかでブランド美術館にあるものは訪問計画が実行に移ればみることができる。それが4点ある。
‘ポンパドゥール夫人’(シカゴ美)
‘新郎新婦’(NY MoMA 拙ブログ12/8/16
‘ジプシー女と赤ん坊’(ワシントンナショナルギャラリー 12/7/26
‘農家の少年’(ロンドン テートモダン)

4年前名古屋市美でとても立派なモディの回顧展(08/5/19)が開催されたが、残念なことに‘農家の少年’は巡回したほか会場の展示で会えなかった。そして、10年に現地を訪問したときも飾ってなかった。どうもついてない。

もう3点はみな個人の所蔵するものだから、夢のままに終わる可能性も高い。でも諦めたらすーっと消えていく。で、また何年かしたら回顧展に遭遇しいいことがあるかもしれないと思うことにしている。

心のなかで決めている順番で並んでいる。モディの裸婦像は魅力にあふれている。最も引き込まれているのが‘バラ色の裸婦’(ミラノ)とシュツッツガルトにある‘横たわる裸婦’。

‘黒いネクタイの女’もみたくてたまらない一枚。一つの美術本にはこれが東京のフジカワギャラリーの所蔵となっているのだが、現在もそうなのかわからない。日本には名古屋市美蔵の‘おさげ髪の少女’とか‘アレクサンドル博士’(東京富士美)などいい絵が結構あるから、このすばらしい絵が東京の画廊にあっても不思議でもないが、果たして?

モディは愛するジャンヌの肖像を20点以上描いているが、これまでみたのは9点ほど。ベルン在住のコレクターが所蔵する瞳のある‘ジャンヌ・エピュテルヌ’も一度みてみたい。

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2010.09.02

お馴染みのポンピドー蔵シャガール展でも収穫あり!

1910          ‘日曜日’

1911     ‘虹’

1913     ‘彼女を巡って’

1912     ‘モーツァルト・魔笛’

東芸大美で開催中の‘シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い’展(7/3~
10/11)をみてきた。開幕して2ヶ月も経って出動したのは、出品作の多くをみているため期待値が普通だから。会期中に行けばいいと軽い気持ちなのである。

展覧会で出かけるのは画集や美術本に載っている名画や名品をみるため。だから、作家の有名な作品でまだみてないものへの期待が心のなかの8割を占領し、主催者が練りに練ったテーマについては2割しか関心がない。今回も東芸大美には申し訳ないが、シャガールとロシアアヴァンギャルドとの響き合いには心が向かわず、ポンピドーにあるシャガールコレクションのプラスαを期待していた。

シャガール(1887~1985)の絵は19点。これにビッグなオマケがついている。シャガールが1966~67年に制作したNY,メトロポリタオペラの上演作品であるモーツァルトの‘魔笛’の舞台装置と衣装デザイン50点、これは日本初公開。

オマケはさらっとみたが、そのなかでここに取り上げた‘背景幕第Ⅱ幕第30場フィナーレ’の目の覚める赤に足がとまった。音量を落として‘魔笛’を流していたが、このオペラは楽しいからとてもいい雰囲気。

最後の部屋にいい絵が揃っている。3点ある大作のひとつ‘日曜日’は‘ロシアとロバとその他のものに’(拙ブログ08/2/15)とともに今回の目玉作品。これは何年か前、世田谷美であったポンピドー蔵回顧展にやってきた。真ん中にみられる平坦な黄色の色面がとても印象的で、男女が寄せ合う丸い顔におもわず肩の力が抜ける。

タイトルに書いた収穫は‘虹’。これははじめてお目にかかった。馬の背に乗っている男と上で横を向いた鳥の間に白の半円帯が3つある。これが虹?なかなかおもしろい構成。右では鮮やかな赤の地にエッフェル塔がくにゃっと曲がった姿をみせている。

大作の前に並ぶ絵もシャガールの画集に載っているお馴染みの名画。‘家族の顕現’、‘赤い馬’、‘彼女を巡って’、‘空飛ぶアトラージュ’(これだけは福岡市美蔵)、‘村の魂’。‘彼女を巡って’はみるたびに左にいる男の顔にドキッとする。逆さにくっついているのである!

シャガールは体の一部を分離するのが得意。‘ロシアとロバ’では女の頭部は体から離れ、後ろ髪をなびかせて空をさまよっており、‘彼女を巡って’では男が顔を逆さにして何事もないかのように手に絵筆を持っている。

シャガールのような大画家の絵、それもポンピドーの一級のコレクションのなかから18点だから、これは贅沢すぎる展覧会。何度もみているとはいえ、いいものはいい。出動は遅くなったが、久しぶりの‘日曜日’と初見の‘虹’が心を晴れやかにしてくれた。
どうか、ポンピドーの誇るシャガールの傑作をお見逃しなく!

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2010.04.29

2度目のユトリロ展!

1502_2     ‘ラパン・アジル’

1504_2     ‘カルボネルの家’

1503_2     ‘サン=バルテルミィ広場と教会’

新宿の損保ジャパン美で開催中の‘ユトリロ展’(4/17~7/4)をみてきた。ユトリロ
(1883~1955)の回顧展を体験するのはこれが2度目。5年前、日本橋高島屋(拙ブログ05/9/25)のときは80点あったが、今回は90点。フランスの個人コレクターが所蔵するもので、日本初公開。

ユトリロの絵に夢中というわけではないが、風景画を見るのは女性画同様、絵画鑑賞の大きな楽しみだから、ユトリロの描くパリの街やフランスの風景にもおおいに魅せられる。最近は絵のサイズは違うが、ビュフェの絵をみているときの感じ方と似てきた。

白の時代(1908~1914)に描かれたものではやはり‘ラパン・アジル’に目がいく。右の白い壁をよくみると、小さな石ころが混じっている。ユトリロは孤独を紛らわせるため、キャバレー、ラパン・アジルで飲んだくれていた。15歳でアル中というのだから半端な酒好きではない。

1915年以降は明るい色彩の画風になり、画面から暗さが消える。モティーフの大半は建物と通り。パリやそのほかのフランスの街を自由気ままに歩いたことがないから、絵に描かれた場所にヴィヴィッドに反応できないが、モンマルトルの坂に限っていえば数回体験したから、雰囲気はよく伝わってくる。

建物を中心に描くといっても、構成が平凡な街の風景だと誰も見てくれない。ユトリロは建物や道の切り取り方をよく心得ている。道の角に立つ家を中央に配置して奥行きをつくったり、画面の手前に道が右とか左に曲がるところを描き動感を与えている。‘カルボネルの家’の前では思わず足がとまった。道を歩く人々については向こうむきの人が多い。男も登場するが大半は女性。

もう一つ惹きつけられるのが遠近法を用いた絵。‘サン=バルテルミィ広場と教会’では道はずっと遠くまでのびている。画面の多くが青い空と白い雲で占められ、広々とした空間が一際存在感のある教会の塔を引き立てている。

大きな満足が得られた回顧展だった。このあと、次の美術館を巡回する。
・新潟県近美:7/10~8/25
・美術館「えき」KYOTO:9/9~10/17
・豊橋市美博:10/22~12/5

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2009.06.13

横浜そごうのレオナール・フジタ展

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横浜そごうで昨日からはじまった‘レオナール・フジタ展’(6/12~7/21)を見た。展覧会の情報を手に入れたとき、内容は昨年11月上野の森美でみたものと基本的には同じであることを電話で確認した。

最初はパスのつもりだったが、途中で藤田嗣治が日本に戻ってきたとき描いた大作がいくつか出品される(上野では展示無し)ことがわかったから、ダブりを覚悟で出動することにした。

上野であったのが全国興行パートⅠ(最後のせんだいメディアテークでの公開が6/7に終了)とすると、これは展示の構成は変えず出品作をマイナーチェンジしたパートⅡ。横浜の後、3ヶ所に巡回する。
・松坂屋美:8/1~9/13
・ベルナール・ビュフェ美:9/19~12/25
・大丸ニュージアムKOBE:2010/1/8~1/28

展示の目玉である‘構図’(上のライオンと犬)と‘闘争’(Ⅰ・Ⅱ、拙ブログ08/12/7)を再度じっくりみた。‘ライオンのいる構図’はこれで三度目の鑑賞だが、毎回感心するのは樽やライオンの木の檻にみられる木目の質感描写。筋肉質の男性や豊満な肉体をもつ裸婦が灰色の陰影をつけて彫刻的に描かれているのに対し、お得意の猫は柔らかい毛やでれっとしたポーズが猫そのもの。

お目当ての日本で描いた大作は5点ある。喫茶店‘銀座コロンバス’の天井画(6点、迎賓館蔵)のうち、今回展示されたのは‘野あそび’と‘葡萄の収穫’。3年前、東近美で行われた回顧展のときには‘母と子’、‘天使と女性’があった。もう3点は真ん中の‘野あそび’(志摩観光ホテルクラシック蔵)と‘ノルマンディーの春’(関西日仏学院)と‘優美神’(聖徳大学)。

長く見ていたのは流行の衣装を着た6人の女性と女の子を前景に大きく描いた‘野あそび’。こういう絵はなかなか見る機会がないから貴重な体験である。実は最も期待していたのは何年か前見たウッドワン蔵の‘大地’(2/3)だったが、残念ながら再会はならなかった。

下は上野の森美でもでていた‘花の洗礼’(パリ市立近代美)。三美神を思わせる長身の女性でも上から綺麗な花をまき散らしている天使でも、顔つきは皆同じ。おでこがでていて目と目の間がひろく、丸い瞳はなぜか横によっている。

この冷たいようで可愛らしい顔に惹かれている。それはそれは綺麗な花々に祝福されたら、三美神は少しは頬をゆるめてもいいはずだが、この顔で通すところがいい。日本の美を象徴的に表現する花を三美神とコラボさせて、藤田はこんな魅惑的な絵を描いた。素直に嬉しくなる。

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2009.02.03

奈良美智はレオナール・フジタの子供の絵に刺激を受けた?!

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今日は最近読み終えた林洋子著‘藤田嗣治 作品をひらく 旅・手仕事・日本’(名古屋大学出版会、08年5月、上の写真))のことをすこし。林洋子さんは現在、京都造形芸術大学の准教授で、その前は東京都現代美術館の学芸員をやっておられた。

この美術史家はこの本ではじめて知った。昨年、上野の森美で開催された‘レオナール・フジタ展’(拙ブログ08/12/7)を鑑賞したあと、この本を図録と一緒に購入したのは、本の情報を少し前に入手した際、よく書けていると高く評価されていたから。
511頁もある大著であるが、うわさ通りのとてもいい本だった。

美術史の研究では男性よりは女性の方がいい成果をあげているのではないかと思うことが多いのだが、林さんも一流の美術史家。西洋画で世界的に名の通った日本人画家、藤田嗣治について、日本の研究者がこんな立派な本をお書きになった。本当にすばらしい!読んだあと、収穫がどっさりあることは請け合い。いくつかあげてみると。

1.藤田の画業の変遷が多くの作品を使ってわかりやすく説明されている。

2.日本人、藤田がパリにいるとき、日本に帰って来たとき、またフランスに戻ったとき、日本の文化、絵画とどう向き合い、日本をどう表現したかがこと細かに書いてある。

3.藤田は欧州、アジア、中南米、アメリカと旅した。その多文化の経験が作品にどう表出しているかを鋭く切り込んでいる。

4.作品の分析を軸にしているので、藤田の画技のこと、‘乳白色の下地’の秘密、大作壁画‘構図’、‘争闘’の制作過程、藤田が影響を受けた西洋絵画などについてかなり詳しく知ることができる。

5.藤田が愛した女性、仲がよかった日本人画家や外国人画家、またパトロン、作品が展示されたパリと東京の画廊、開催された展覧会といった話がもれなく、実にていねいに書かれている。

過去経験した2回の回顧展(06/4/4)やほかの美術館で対面した作品で疑問に思っていたことや、これまで知らなかったことがこの本でわかった。その小さなサプライズをいくつか。

・以前、笠間日動美で大きな絵‘家族(室内、妻と私)’を見たとき、どうしてこんないい絵がここにあるのか?だったが、その理由がわかった。藤田が日本に一時帰国した際、個展を開いたところが日動画廊だったのである。

・日本にいるとき描かれた‘ブラジル珈琲店の壁画’は今、サイズが縮小された‘大地’となって、ウッドワン美におさまっている。実はこの絵をある展覧会で見たのだが、購入した図録に図版が載ってなかったのですっかり忘れていた。

・シカゴ美で藤田の作品に遭遇し、びっくりしたが、そのシカゴ出身でパリに住んでいた富裕なアメリカ人女性を描いた絵が紹介されていた。これはアメリカの美術館で公開されている唯一の藤田作品。

真ん中は藤田が最晩年に描いた子供の絵、‘朝の買物’。06年の回顧展に出品された。これや隣にあった‘小さな主婦’が大変気に入っている。女の子は額が広く目がすこし吊り上っている。そしてもっとも惹かれるのが子供らしくないところ。この絵を見たときすぐ、下の奈良美智が描く女の子を思い出した。

まったくの想像だが、奈良智は藤田の女の子を見た?! で、藤田のDNAが奈良智に受け継がれたと勝手に妄想し、二つの絵を響き合わせている。

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2008.12.07

レオナール・フジタ展

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一人の画家の画業については回顧展を2回くらい体験すると、だいたいイメージできるようになる。だから、上野の森美で現在開催されている‘レオナール・フジタ展’
(11/15~09/1/18)は楽しみにしていた。06年、東近美であった‘藤田嗣治展’(拙ブログ06/4/4)からまだ2年半しか経ってないのに、またフジタの作品をまとまった形でみれるのだから、幸運な時の巡り合わせである。

だが、フジタの絵にそれほどのめり込んでない方は前回出品された絵が何点もでてくるので、パスしてもよかったかなという気分になるかもしれない。例えば、前回大変魅せられたパリ市近代美術館が所蔵する作品、愛らしい子供の絵‘アージュ・メカニック’、‘フランスの富(48図)’、宗教画‘礼拝’、‘キリスト降誕’、‘磔刑’、‘キリスト降架’、‘黙示録(七つのトランペット)’、‘黙示録(四騎士)’、‘黙示録(新しいエルサレム)’が再登場している。また、国内の美術館がもっている作品も図録をみると同じものがいくつも出品されている。

‘藤田嗣治展’は東近美、京近美、広島県美の3か所を巡回したが、この度は北海道近美、宇都宮美、上野の森美、福岡市美(09/2/22~4/19)、せんだいメデイアテーク(4/26~6/7)で展示される。出品作は今回も似たようなものだから、2年前にスタートしたフジタ展興行がちょっとお休みして、またはじまったと思ったほうがわかりやすい。

出し物の変更で一番大きいのが1928年に制作された幻の大作、‘構図’(ライオンと犬)と‘闘争’(Ⅰ・Ⅱ、エソンヌ県議会蔵)。この縦横3メートルの4点のうち、‘ライオンのいる構図’は2年前やってきた。‘犬の構図’は描かれた1年後の1929年、日本で展示されたらしいが、‘闘争’の2点は本邦初公開である。長いこと行方不明だったこれらの絵は92年に発見された。痛みがひどかったが、02~07年に本格的な修復が施され漸くもとの姿に戻った。その大作が目の前にある。

‘構図’のほうはさらっとみて、初見の‘闘争’の前に長くいた。上は‘闘争Ⅰ’。裸の男たちが2人または3、4人で取っ組み合いをしている。‘闘争’とタイトルがついているから、互いに激しく火花を散らして戦っている様子をイメージしていたが、顔の表情はそれほど怒りや憎しみに満ちているわけでもなく、オリンピック競技のレスリングの試合をみている感じ。バックをとったり、背負ったり、手を十字に固めたりしている。一番目立つのは真ん中で棒を持ち両足を大きく広げている男。股の下にいる犬も男と同じ方向をじっと見ている。その左では2匹の犬が人間同様、喧嘩の真っ最中。

ここでは女はただ男たちの戦いを不安げに眺めているだけだが、隣の‘闘争Ⅱ’では男に首を絞められたり、足を思いっきり引っ張られる女が数人いる。フジタはミケランジェロの‘最後の審判’に想を得てこの大作を描いたようだが、‘最後の審判’の地獄にいる人々の絶望的な姿や苦悩の形相にくらべると男女の顔や肉体にはそれほど張りつめたものは窺えない。

‘闘争’という題がぴったりなのが真ん中の猫の戦い。展示されていたのはよく東近美でお目にかかるものの別ヴァージョン。二つは構図がほとんど同じで、この色なし
(1932、松村謙三コレクション)のほうが東近美のもの(1940)より先に描かれている。猫の戦いが2点あったとはまったく知らなかった。

収穫はこの絵と下の‘イヴ’(1959、ウッドワン美)、そして‘聖母子’(1959、フランス個人蔵)。‘イヴ’では美しい裸婦の背景に動物たちが沢山描きこまれている。象、カバ、マントヒヒ、キリン、蛇、ダチョウ、ペリカンなどなど。じっとみているとイヴが女ターザンに思えてきた。

これで、フジタの作品には済みマークがつけられる。サントリー美大賞をとった林洋子氏の著書‘藤田嗣治 作品をひらく’(名古屋大学出版会)を読んでみたくなった。

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