


東京都美術館の“芸術都市 パリの100年展”(4/25~7/6)を見た。この展覧会への期待がとくに高かったわけではなく、まだ訪問したことのないパリの美術館にひょっとしてサプライズの作品があるかも?という軽い気持ち。結果は?小さなサプライズのみで、チラシをみて是非見たいと思っていたモネ、シニャック、ユトリロを楽しんだだけに終わった。
海外の展覧会を見るとき、○の評価基準にしている目玉の作品2~3点には足らない!ユトリロの代表作中の代表作“コタン小路”(真ん中の画像)があるから1点はとれるが、あとは残りを全部集めても1点にはならず、せいぜい1.5~1.7点。展示室を進んでも気分が盛り上がらないのは知らない画家が多すぎるから。海外のあまり有名でない画家の作品を見せられて楽しめるはずがない。美術の専門家向けに内々でやる美術史学会の研究会ならこれでもいいだろうが、一般の美術ファンを相手に作品を展示する展覧会としてはセンスがない。
ここ数年、東京都美が企画した展覧会のなかでは作品の質の総量はもっとも小さいのではなかろうか。昨年のフィラデルフィア美展を10点としたら、3点がいいとこ。厳しすぎる?ほかの美術館より高く評価している東京都美だから、期待をこめてあえて厳しく言っている。作品の数は148点。とにかく知らない画家の作品が多すぎる。馴染みの画家の作品で心の中に出来上がっているパリのイメージを見せてほしい。芸術都市、パリのお話なら5章もいらない。作品の数は70~80点くらい、3章で充分。それを名の通った画家のそこそこの作品で構成する。
チラシに載っていたシニャック(1863~1935)の上の“ポン・デ・ザール”(カルナヴァレ美)は見ごたえのある絵。アーチの数にあわせて横長のカンヴァスを選んだのだろうか。点描技法で平面的に描かれているので、橋のボリューム感とか後ろの奥行き感はないが、明るい空と美しいセーヌ川の流れからは花の都、パリの雰囲気がストレートに伝わってくる。これまでシニャックというと“ヴェネツィア”(拙ブログ07/5/24)とか国立西洋美にある“サン=トロペの港”などの海の絵を多くみてきたが、こういう川の絵がはじめてだから、貴重な体験だった。
“コタン小路”(ポンピドゥー)は誰もが知っているユトリロ(1883~1968)の傑作。絵は何回かみているのに、まだここへ行ったことがない。“ラパン・アジル”(05/9/25)もまだ。でも、“コタン小路”の奥の階段は1月、モンマルトルのあのキツイ坂を上ったから、イメージできる。たしかに、石畳と白壁に囲まれた通りはこの絵のように人があまりおらず、静かで寂しい感じ。アル中で衰弱したユトリロが裏通りをよろけながら歩いている姿が目に見えるよう。この“白の時代”の名画と再会できたのは大きな喜びである。
下はサプライズの作品。キース・ヴァン・ドンゲン(1877~1968)が描いた大きな縦長の絵、“ポーレット・パックの肖像”(ポンピドゥー)。昨年、国立新美であっ“たポンピドゥーセンター展”で“スペインのショール”といういい裸婦像をみたが、これもグッとくる。フォービスムの画家らしく、顔や足の一部に緑が使われている。
エルミタージュ美にある“黒い帽子の女”(04/12/30)を見逃したのは今から思うと残念でならないが、少しずつドンゲンの作品(05/4/13、07/5/15)が増えてきた。先月出かけた名古屋市美の平常展示にもいい絵があった。いつかドンゲンの回顧展と遭遇するのを楽しみにしている。
帰り際、図録を買うかどうかで迷った。ルノワールの2点はアベレージだし、気に入っているモネの“テュルリー”(マルモッタン美)はすでに見ている。また、モロー美から出品されている6点も心を奪われるほどでもない。ドンゲンの絵葉書があればパスだったが、これがなかったからやむなく買うことにした。
サブタイトル“ルノワール、セザンヌ、ユトリロの生きた街 1830-1930年”にはくれぐれも惑わされないように。実際は“モネ、シニャック、ユトリロ、ヴァラドン、ドンゲンが生きた街”!
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