2014.12.18

心にとまった言葉! ‘幸福の3つのレシピ’

Img     バシュキルツェフの‘ミーティング’(1884年 オルセー美)

Img_0001 ルパージュの‘10月、じゃがいもの収穫’(1878年 ヴィクトリア国立美)

Img_0002セザンヌの‘頭蓋骨を前にした青年’(1898年 バーンズコレクション)

今年Eテレで放送されている白熱教室を4回みた。1月に楽しんだのが‘幸福学’、確か4回くらい続いたと思うが、みたのは最初だけ。この講義を担当したエリザベス・ダン博士(カナダ・ブリティッシュコロンビア大学心理学)はなかなか興味深い話をしていた。

ここ数年心理学や行動経済学に関心を寄せているため、心理学者の話にはいつも敏感に反応する。彼女は人が感じる幸せは人それぞれだが、十人十色の幸せにも欠かせない共通する要素があるという。

ケーキをつくるのには小麦、砂糖、卵が必要なように‘幸福のレシピ’がある。それは‘人との交わり’、‘親切心’、‘ここにいること’の3つ。‘ここにいること’は目の前のことに集中するという意味。

ほかの博士が行った幸せ度調査の結果をみると、幸せな人たちには運動好きもいればインドア派もいる、信心深い人もいれば無神論者もいる。上位10%の人たちに共通しているのは社会との結びつきが強いことだった。内向的な人も人と交わることで幸せを感じていた。普段の生活でほんの少しでも人と関わるだけでわれわれは幸福を感じることができる。

親切心と幸せのむすびつきはボランティア活動を思えばすぐ理解できる。最近亡くなった高倉健さんも‘人に親切にすると自分の心が豊かになる’といっている。

最後の‘ここにいること’は心にとまる言葉、目の前のことに集中することが幸せなんだというのはすごくいい!嫌な仕事やおもしろくないことには集中できないが、そうでない場合はたしかに目の前のことに集中しているほうが物思いにふけるよりは心は充実している。

ダン博士はテクノロジーの進化によって日常的に注意力が散漫になっていることを考えると、ここにいること、今この瞬間に集中することは人の幸福にとって重要なことだという。ルパージュとセザンヌの絵に描かれている人物の表情をみればこの話が腹にすとんと落ちる。

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2014.12.12

収穫の多いホイッスラーの風景画!

Img_0001     ‘バルパライソ’(1866年 テートブリテン)

Img  ‘オールド・バターシー・ブリッジ’(1875年 テートブリテン)

Img_0002‘オールド・ウエストミンシター・ブリッジの最後’(1862年 ボストン美)

Img_0003    ‘オールド・バターシー・ブリッジ’(1863年 アディソン美)

横浜美はここ数年いい展覧会を行っているので好感度が上昇している。京近美から巡回してきた‘ホイッスラー展’(12/6~3/1)も大ホームラン、日曜美術館でホイッスラー(1834~1903)が取り上げられ、作品一点々が作曲家千住さんが選んだベートーベンやショパンの名曲を流して紹介されていたので、その作品の前では流れていた曲想を思い出しながらみていた。

‘ノクターン’がタイトルにくっついてないが、このシリーズの一枚としてもおかしくないのが1866に描かれた‘肌色と緑色の黄昏:バルパライソ’、描かれているのはチリの要港バルパライソに多くの軍船がひしめきあって停泊している光景。だが、港内はいたって静か、黄昏時、陽が落ちてだんだん暗くなっていく感じがじつによくでている。

この絵がすごく穏やかな気分でみられるのは船の配置が緻密に計算されているから。動きを止めるため多くの船が画面の中央で横にぽんぽんと並べられている。ほかの作品でも船が数隻でてくるときはホイッスラーはこのように縦とか斜めとかではなく水平に描いている。

一見して浮世絵の影響を強く受けたことがわかるのが‘ノクターン:青と金色 オールド・バターシー・ブリッジ’、この絵の横に歌川広重の摺りのよい‘名所江戸百景 京橋竹がし’(大英博)が展示してあるので、ジャポニスムの影響力を実感する。

この縦長の橋のフォルムがすごくインパクトをもっているため、遠くで打ちあげられた花火が金で描かれていてもあまり反応しない。橋の太い橋脚と小舟をこぐ男のシルエットがこの絵を一生忘れられないものにしている。

今回とても嬉しい絵が目の前に現れた。画集でみて追っかけ画のリストに載せていた‘オールド・ウエストミンシター・ブリッジの最後’と‘オールド・バターシー・ブリッジ’、チラシにこの2点はなかったのでびっくりした。急に宝物が出現したみたい。どちらも橋だけでなく、その上を歩く人々や川沿いでたむろしている人たちも描かれているので風景画というよりロンドンの日常の光景を描写した風俗画をみている気分。

ホイッスラーの作品の魅力をあますところなく伝える大回顧展、200%満足した。ミューズに感謝!

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2014.12.11

予想を上回る傑作が揃った‘ホイッスラー展’!

Img     ‘白のシンフォニー NO.3’(1867年 バーバー美)

Img_0002  ‘6つのマークのランゲ・ライゼン’(1864年 フィラデルフィア美)

Img_0004     ‘灰色のアレンジメント 自画像’(1872年 デトロイト美)

Img_0001     ‘トーマス・カーライルの肖像’(1873年 グラスゴー美)

横浜美ではじまった‘ホイッスラー展’(12/6~3/1)を早速みてきた。アメリカ人のホイッスラー(1834~1903)はイギリスで名が知れた画家なので画集に載っているいる作品の多くがテートブリテンなどイギリスにある美術館の所蔵。

その一つバーミンガム大学にあるバーバー美からすばらしい傑作がやって来た。‘白のシンフォニー NO.3’,テートブリテン蔵の‘白のシンフォニーNO.2’とともにチラシで大きく扱われているこの作品、チラシを眺めているときみたいという思いは手に団扇をもち顔が後ろの鏡に映っている‘NO.2’のほうが強かった。

ところが、隣同士に並んだ2枚をみると、心は一気に‘NO.3’のほうに傾いた。とくに視線が釘づけになるのが左にいる女性。身に着けている衣服の白いこと。この白の輝きが整った顔立ちをいっそうひきたてている。普通の肖像画とはちがい2人の女性は舞台で芝居を演じている役者がみせるようなくだけたポーズをとっている。だから、どこかゆったり気分で女性の美しさを感じることができる。Myお気に入り女性画に即登録した。

ジャポニスムの話には日本の浮世絵や美術品に心を奪われた画家やデザイナー、工芸家がたくさんでてくる。ホイッスラーもそのひとりで浮世絵や陶磁器の収集にも励んでいた。そうした日本熱が高じてホイッスラーは一人の西洋の女に着物を着せ200%ジャポニスムの香りがする作品を3点描いた。

2点はワシントンのフリーア美にある‘陶器の国の姫君’と‘金屏風’、もう1点は今回フィラデルフィアからお出ましいただいた‘紫とバラ色:6つのマークのランゲ・ライゼン’、昨年現地でもお目にかかったが、この絵が日本にやって来るのは2度目。今ではジャポニスムというと真っ先にこの絵を思い浮かべる。

男性の肖像画で大変魅了されたのは展示室に入るとすぐ出迎えてくれる‘自画像’とオルセーにある母親の肖像と同じように横向きで描いた‘トーマス・カーライルのの肖像’、画集でみて気になっていたが本物はまさに肖像画の傑作だった。

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2012.09.14

邸宅美術館にぴったりはまる‘シャルダン展’!

4281     ‘木いちごの籠’(1760年頃 個人)

4282     ‘桃の盆とぶどう’(1758年 ストラスブール美)

4283     ‘食前の祈り’(1740年頃 ルーヴル美)

4284     ‘羽根を持つ少女’(1737年 個人)

静物画というとすぐでてくるのはセザンヌとシャルダン。そして、もう一人イタリアのモランディ。そのシャルダン(1699~1779)の回顧展(9/8~1/6)がはじまった。

3人のなかで体験した作品の数はモランディが一番少ない。シャルダンは4年前ルーヴルのロココ作品が展示してある部屋で画集に載っている‘赤えい’やこの展覧会にも出品されている‘銀のゴブレット’などをゆっくりみたから、ある程度は目が慣れている。

でも、シャルダンは印象派のように世界中の美術館でみれるという画家ではないから、ルーヴルへでかけたときにまた楽しめばいいかなという構えだった。ところが、三菱一号館美が回顧展をやってくれるという。こうなるとおおいに期待してしまう。おかげでシャルダンにかなり近づけたような気がする。

作品の数は全部で38点。シャルダンはこういう邸宅美術館でみるのが一番いい。部屋を進んでいくうちに国立新美であったセザンヌ展のことが思い出された。静物画との関連というのではなくここに展示されている作品を所蔵する美術館のこと。

セザンヌ展と同様にブランド美術館が次々とでてくる。ルーヴルを筆頭にエルミタージュ、ワシントンナショナル・ギャラリー、フィリップス・コレクション、ボストン、フィラデルフィア、フリック・コレクション、ティッセン・ボルネミッサ。これはどこからみてもグローバルレベルの特◎回顧展であることは間違いない。

絵の前に長くいたのが‘木いちごの籠’。絵の存在を知ったのは25年前のことだが、日本でみれることになろうとは!典型的なピラミッド構図で描かれた赤い木いちごに目が吸い寄せられていく。いちごの生感覚の存在感をこえ永遠の神々しさまで感じさせるのだからシャルダンの画技はすごいところにいっている。

静物画に描かれた果物で最も好きなのは葡萄。だから、‘桃の盆とぶどう’や‘桃の籠とぶどう’、‘ティーポットとぶどう’、‘ぶどうの籠’をうっとりした気分でみてしまう。また、シャルダンの静物画はオランダの画家たちの描くものと比べ対象が少ないから、果物などと一緒に並べられている瓶やゴブレットやガラスコップの見事な質感描写に釘付けになる時間もつい長くなる。

人物画の収穫は2点ある‘食前の祈り’。ルーヴルのものは前回展示されてなく、またエルミタージュが所蔵するものは現地を訪問したときはシャルダンまで気が回らなかった。それが一気にリカバリーできたのは嬉しいかぎり。オランダの風俗画にもこんな親子の場面が登場するが、シャルダンの絵のほうがなにか静かでやさしい感じ。
二人の女の子の姿をみていると肩の力がすっとぬける。

‘羽根を持つ少女’はちょっとフェルメールの絵と似た雰囲気をもっている。子どもが一人で描かれるときはいつも横向きで暗い背景のなかに浮き上がっている。少女の赤いほっぺと木の質感がよくでているラケットをしばらくみていた。

バーン=ジョーンズ展に続き満足度200%の展覧会だった。

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2012.08.11

心に響く‘レーピン展’!

4165_2     ‘休息 妻ヴェーラ・レーピナの肖像’(1882年)

4164_2     ‘あぜ道にて’(1879年)

4167_2     ‘ウラジミール・スターソフの肖像’(1873年)

4166_2     ‘思いがけなく’(1884~1888年)

モスクワにあるトレチャコフ美が所蔵する作品をBunkamuraで楽しむのは09年に開催された‘忘れえぬロシア’に次いで二度目。今回は近代ロシア絵画のビッグネーム、イリア・レーピン(1844~1930)の作品を集めた期待の回顧展(8/4~10/8)。

作品は全部で習作を入れて99点。このうち4点は09年に展示されたもの。おそらく、トレチャコフ美にあるレーピン・コレクションの主要な作品はかなりやってきたのではなかろうか。じつはこの美術館は1999年に訪問したことがあるが、そのときはガイドさんの後をついていくだけだったのでレーピンの絵で覚えているのは大作の‘クールスク県の十字行’だけ。

収穫の作品がいくつもあるので選択に迷う。最も惹かれたのは妻を描いた‘休息’。肘掛椅子で眠っている姿をじっとみつめてしまう。そして、再会した息子の肖像画にも足がとまる。妻の着ている洋服も息子の背景の布も赤茶色、強く印象に残る色だった。

‘あぜ道にて’は3年前にもみた。黄色のライ麦畑の真ん中にできた道に母親と娘たちがいる。これはどこかでみたことのある絵、そう、モネやルノワールにもこれとよく似た構図の絵がある。こういう子どもが登場する絵をみていると心が安らぐ。

男性肖像画で長いことみていたのが顔の肌がとても生感覚な‘ウラジミール・スターソフの肖像’。肖像画というのは誰でも描けそうだが、その内面に迫る表現で仕上げられるのはほんの一握りの才能のあるものに限られる。レーピンはそんな画家のひとり。

‘思いがけなく’は衝撃度200%の絵。部屋に入ってきた男をみつめる女性や子どもたちの視線がじつにリアル。‘まさか、あの人物なの!?ええー、本当に’といった感じでびっくりしている。舞台の芝居の一場面をみているような緊張感があり、思わず画面に見入ってしまう。これはいい絵をみた。

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2012.03.16

オルセーにクールベの気になる絵が!

3635_2     クールベの‘追い詰められた雄鹿’(1867年)

3636_2     クールベの‘オルナンの埋葬’(1849~50年)

3637_2     クールベの‘負傷者’(1844年)

3638_2     クールベの‘雷雨のあとのエトルタの断崖’(1870年)

この1ヶ月、テレビ東京の‘美の巨人たち’やBS各局の美術番組は昨年10月に新装オープンしたオルセーをとりあげそのすばらしい展示空間とそれによってさらに輝きをました名画の数々を紹介してくれた。印象派狂いだけでなく多くの美術愛好家が興味深くみられたにちがいない。

オルセーには年間300万人が訪づれるという。まったくスゴイ人数だが、今回の全面リニューアルでさらに多くの人が押し寄せているようだ。番組でみると壁の色の変更や自然光のとりこみ方の改良などにより作品が確かに驚くほど鮮やかにみえる。印象派の鑑賞がライフワークだから、ひゅーと展示室にまで飛んでいきたい気持ちになる。

関心の的はもちろんマネやモネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンなどの名画だが、今日はその話ではなくつい数日前放送されたBSジャパンの‘美の浪漫紀行 ミレーの晩鐘’にでてきたとても気になる絵のこと。

その絵はクールベ(1819~1877)の狩猟画‘追い詰められた雄鹿’。これは08年グランパレで開催された大回顧展(拙ブログ08/2/23)に出品された。びっくりするほど大きな絵(縦3.55m、横5.05m)だから、目に焼きついている。問題はこの絵の所蔵先。

展覧会のときはブザンソン美術考古学博物館蔵となっており、出品された3点の1点だった。これが今新オルセーで‘オルナンの埋葬’と‘画家のアトリエ’の大作2点の横に展示してある。一見すると常設展示だから、この絵はオルセーの所蔵作品。ということはオルセーはこの鹿を射止めた絵をブザンソンから買ったことになる。それとも、新オルセーに華をそえるために特別展示されているのだろうか?

次回オルセーへ足を運んだとき所蔵先がわかるだろうが、もし常時展示されているのならオルセーはスゴイ絵を手にいれたものである。印象派のほかに大きな楽しみが加わった。

オルセーはクールベの油彩画を17点所蔵している。件の大作2点をはじめてとして風景画の傑作‘エトルタの断崖’や人物画、動物画、静物画などのコレクションは世界一。また再会したい。

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2008.07.16

コロー 静かなる森のささやき

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人気美術番組の“美の巨人たち”(TV東京)と“新日曜美術館”が2週連続でコローを取り上げてくれたので、コローの画家人生や画法の特徴、秘密がだいぶわかってきた。

どちらもよくできていたが、写真家の藤原新也さんと西洋美で開かれている“コロー展”(6/14~8/31、6/186/19)を企画した高橋明也氏(三菱一号美術館館長)がゲスト出演した先週日曜の“コロー 静かなる森のささやき”のほうが構成が上手で解説もわかり易かった。得心した話をいくつか。

山よりは海のほうが好きで、登山愛好家やハイキングを楽しんでおられる方のように山や草原、森の美しさを肌で感じる経験がきわめて乏しい。だから、この番組をみたからといって信州方面への旅行を増やそうという気持ちはない。でも、コローが描いた森の情景にたいする藤原新也さんの語りがすごく心に沁みたから、奥入瀬のようなところを再訪することがあったら、自然の感じ方が変わるかもしれない。

コローが絵にした森の何気ない風景は“ゆっくり歩いて、ゆっくり見ないととらえられない”と藤原さんは言う。そして、上の代表作“モルトフォンテーヌの思い出”についての写真家らしい感想に目からうろこが落ちる思いがした。

“コローは写真をみて、新しい絵画を生み出そうとしたのではないか。右の木では焦点の当たっているところの後ろはぼやけている。人間の目はこの二つは同時には見えない。だが、レンズは同時にとらえられる。逆光でしかも日が落ちたあとの光がまわる状態だと、木の内面とか気配がでてくる。この気配とか空気をコローは描きたかったのだろう”。初期の写真はレンズの性能がまだ高くなかったから、風景写真は確かにコローの霧にけむるような表現のようにぼやけたやわらかい仕上がりになっている。

高橋氏の話で興味深かったのが2歳年下のドラクロアがコローを高く評価していたこと。ドラクロアは一度、コローのアトリエを訪ね、日記に“コローはスゴイ画家だ!”と書いているそうだ。真ん中はドラクロアが晩年、サン=シュルピス教会のために描いた“ヤコブと天使の闘い”であるが、コローの絵を参考にして森の木を描いている。

ドラクロアの色彩表現に200%魅せられているから、いつかこの絵をみたいと以前から思っていたが、こういう話を聞くと余計に見たくなる。で、次回パリへ行ったら、この絵と1月のオルセーめぐりで見れなかった下のコローの“朝、ニンフの踊り”を必見作品リストの上位にいれておくことにした。

番組では節々にコローの言葉を声優が語る場面があり、コローの自然を愛するやさしい心根にとても感激した。静かなる森のささやきを聞きにまた、上野へ出かけようと思う。

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2008.06.19

コロー展  そのニ 女性画

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一人の画家の回顧展が開催される場合、誰れしも美術本とか画集に載っている代表的な作品ができるだけ多く展示されていることを期待する。このコロー展にはルーヴルが所蔵する作品のなかで最も有名な3点、“モルトフォンテーヌの思い出”、“真珠の女”(上の画像)、“青い服の婦人”(真ん中)が揃い踏みしているのだからすごい!

もちろんルーヴルにはまだまだコローのいい絵があるので、欲を言ったらきりがないが、この3点を含めてよくぞこれほど多くの名作を貸し出してくれたものである。ルーヴルに限らず、オルセー、ポンピドゥー、ギメなどパリにある美術館はどこも本当に気前がいい。

25点ある人物画のなかにも強い磁力をもっている作品がいくつもある。展示室に入ってすぐのところに43歳の頃の“自画像”(ウフィツィ美)がある。晩年、絵を制作中のコローを撮った写真をみると角々したいかつい顔をしているが、この頃はまだ少年っぽさが残っている。どうでもいいことだが、老人コローをみてすぐ連想したのが俳優の東野英治郎、あの水戸黄門様と日本画家の川端龍子。

人物画のほとんどが女性を描いたもの。裸婦図も一点“水浴するディアナ”がある。お目当ての一番はルーヴルで会えなかった“真珠の女”。背景の色と着ている服が土色系なので派手さはないが、その目鼻立ちの整った容貌は近づきがたいほど美しい。コローは画面の中に木の葉を散らすのが好きで、この女の髪飾りにもお決まりの赤やうすい青緑の葉がみえる。この絵にはすごく惹きつけられるが、一方でどうしても絵のなかに入りきれない壁のようなものも感じる。だぶん、内面の揺れが見えてこないからだろう。

これと較べると真ん中の“青い服の婦人”はどうしようもなく心をゆすぶり、“ちょっとお休みですか?”と声をかけたくなる絵。ルーヴルで対面したときは、時間があればいつまでも見ていたい気分だった。肩から腕にかけての肉付きのよさはいかにも欧米の女性を思わせ、ピアノの上に肘をつき口元に手をやる姿がなんとも魅力的。

横向きでこちらを振り返る珍しいポーズに惹きこまれるが、同時に女性の心のなかがふと顔や体全体に表れたところを捉える描写力はどこかドガの“菊の花と女”(メトロポリタン、拙ブログ5/15)やマネの“プラム”(ワシントンナショナルギャラリー)に通じるものがある。これまで好きな女性画の上位はフェルメール、マネ、ルノワール、サージェントの絵で占められていたが、この絵を加えることにした。

下は目の鋭さにタジタジになった“草地に横たわるアルジェリアの娘”(ゴッホ美)。どうでもいいことをもう一つ。この娘は安達裕美とかあの“別に、、、”の沢尻エリカによく似ている。これと同じくらいインパクトがあるのがルーヴルで見れなかった“身づくろいをする若い娘”。また、“本を読む花冠の女”も運良くリカバリーできた。

この回顧展は満足度200%のすばらしいものだったのだが、最後に気になったことを少し。コローに刺激されたり、影響を受けた画家の作品が20数点あったが、会場を進む途中、これらを一緒に展示する必要があったのかな?と思った。純血でいくか?多少ほかの画家の作品を混ぜるか?意見の分かれるところである。

個人的には、静寂なコローワールドに浸っているときに、特段惹かれることもないルノワール、ブラック、ピカソの絵が出てくると、“イメージを分断するような絵を横に置かないでよ!”と言いたくなる。弟子のピサロとかシスレー、モネあたりはOKだけれども、ほかの絵はとても違和感を覚える。どうしてもコローの偉大さを主張したいのなら、昨年の“モネ展”(国立新美)のように別のコーナーを設けてそこで展示したらいい。

海外美術館めぐりで遭遇した大規模な“ホドラー展”、“クールベ展”、“ホッパー展”、“プッサン展”はすべて純血主義だった。今回のコロー展は世界のどこへもっていっても胸をはれる一級の回顧展。これだけの名作を世界中の美術館から集めてきたのだから、コローの絵だけで充分。日本の美術館の悪い癖は説明的すぎること。日本人は世界で一番絵画が好きな民族、質の高い作品をみればコロー絵画のすばらしさはしっかり感じられる。説明に使った絵がコローの足を引っ張ったのでは元も子もない。

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2008.06.18

国立西洋美術館のコロー展  その一 風景画

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待望の“コロー展”(国立西洋美、6/14~8/31)が先週の土曜日からはじまった。初日の朝からそんなに人は来てないだろうと思っていたら、これが大間違い。10時なのに1階のコインロッカーはもう全部鍵がかかっている。となると会場にはかなりの人がいる?!ちょっと信じられない光景だが、絵の前は牛歩状態。“コローのモナリザ(真珠の女)”をャッチコピーにしたチラシの宣伝効果が相当効いている感じである。

出品作は全部で120点。すべてがコローの絵ではなく、コローの影響を受けた画家の作品が26点ある。コロー作品94点はこれ以上望めないすばらしいのが揃っている。西洋美が主催した画家の回顧展としては04年の“マティス展”、05年の“ラ・トゥール展”以来のビッグヒット!

ここの特別展に対する期待値は前からこのレベルなのに、ここ2,3年は美術館が所蔵する自慢の名作をことごとくNG出しされたような“ベルギー王立美術館展”とか普通の美術ファンには見向きもされないマニエリスム絵画を集めて専門家や通好みの受けを狙った“パルマ展”などしか開催してくれなかったから、西洋美の評価は東京都美より下にしていた。だが、今回は久しぶりに本来の実力を発揮してくれた。

少し先走って言うと、このコロー展の内容は8月から約1ヶ月会期が重なる“フェルメール展”(東京都美、8/2~12/14)に一歩も引けを取らない。むしろ、こちらのほうがトータルの質では確実に上回る。もちろん、フェルメール展もすごい企画だから、両方を一緒に見るのが一番贅沢な美術鑑賞の仕方。コローの作品は風景画59点、人物画25点、ガラス版画10点で構成されている。まず、風景画から。

1月、3月に行った海外の美術館めぐりで、コロー(1796~1875)の作品を沢山目に焼きつけた。そのなかで紹介できたのはほかの絵との関係で“モルトフォンテーヌの思い出”(拙ブログ4/2)のみ。この絵との対面はエポック的と言ってもいいくらいで、これまでのコローに対する評価が一変した。コローが好きになれなかったのは要するにいい絵に遭遇しなかったから。再会してまたこの絵に惚れ直した!もう一点、密かに期待していた絵があった。それはオルセーで会えなかった“朝、ニンフの踊り”。これが見れたら代表作はほとんどみたことになったのだが。

コローがイタリア留学したとき描いた作品ではなんといっても上の“ティヴォリ、ヴィラ・デステの庭園”(ルーヴル)が最高にいい。前景中央に添景として描かれた子供の姿がとても印象深く、その向こうには夏の静かな陽光のなか、糸杉が左右にどっしり立ち並ぶ。光の強い南国なのに色彩はそれほど強くはなく、穏やかで画面全体が落ち着いた静けさにつつまれている。

真ん中はぼんやりとした木々や鬱蒼とした森が描かれた作品とは趣が異なる“ドゥエの鐘楼”(ルーヴル)。ドゥエは北フランスの町で、75歳のコローはここにしばらく滞在して町のシンボルである鐘楼を描いた。手前両サイドの建物は大半が画面からはみ出し、視線が中央の鐘楼にすっと集まるように構成されている。通りでは縦に移動する人に加えて、馬や会話している年寄りの男女が横向きに描かれているのがおもしろい。

コローの風景画が平穏で落ち着いた気分で見られるのは水平と垂直の線で画面がうまく構成され、そして斜めの線で遠近感を出しているから。その典型的な作品が下の“アルルーの風景、道沿いの小川”。これはロンドン・ナショナルギャラリーでみて大変魅せられた。男が乗った小舟は横向きになっており、左には水鳥が二羽、右の草地には犬がみえる。そして、右の川岸で斜めに等間隔に立つ緑豊かな大きな木の端にはもう一人の農夫が腰をかがめて作業をしている。

国内の美術館から出品された10点のうち8点ははじめて見る絵だった。大作が“ナポリの浜の思い出”(西洋美)と“ボロメ島の浴女”(ひろしま美)、“ヴィル=ダヴレーのあずまや”(丸紅)。丸紅がもっている絵と小品だが光の輝きが美しい“ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸”(村内美)を見れたのは大きな収穫だった。

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2008.05.12

その十 クールベ展

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1月、パリのグラン・パレでみた“クールベ展”(拙ブログ2/28)がメトロポリタンに巡回中だったので(2/27~5/18)、グラン・パレではお休みした隣の方のガイダンスを兼ねてもう一度みた。この特別展は“プッサン展”同様、追加の料金はとられない。世界中の美術館から代表作を集めてきた大回顧展が無料で見られるのだから、ここは本当に有難く愛着を覚える美術館である。

グラン・パレとの違いはオルセー所蔵の作品が半分くらい出品されてないこと。で、クールベ(1819~1877)の名前を一躍有名にした大作2点、“オルナンの埋葬”、“画家のアトリエ”はお目にかかれなかった。これはあまり長くオルセーを離れていると入場者からクレームがつくから、これを避けたのかもしれない。また、日本の村内美術館がもっている大きな樫の木の絵(図録の裏表紙に使われている)やものすごく大きな狩猟画“追い詰められた雄鹿”もなかった。

このほかはまだ記憶にしっかり残っている。出品作の中には今回訪問した美術館所蔵のいい作品が含まれている。ワシントンナショナルギャラりーの“ルー河の水源”、ボストンの狩猟画“分け前”、メトロポリタンの“女とオウム”、“波の中の女”、真ん中の“村の娘たち”。ここには出てなかったが、シカゴにある女性の肖像画“グレゴワール小母さん”もインパクトのある絵。これらはいずれも画集に載っている作品。これをみるとアメリカのコレクターもクールベの名画をきっちり収集している。豊富な資金力だけでなく眼力も一流。

初期に描かれたロマン主義の香りのする自画像にはぐっと惹きこまれるものが多いが、お気に入りベスト3は上の“パイプの男”、“自画像(絶望した男)”、“黒い犬を連れたクールベ”。クールベは背が高く、人目を引くほどハンサムだった。“パイプの男”の何かに陶酔したような貴族的な風貌がとても印象的。そして、髪を手でかきむしり目をかっと見開き正面を見つめている“絶望した男”も心を揺すぶる。

真ん中の写実的な人物風景画“村の娘たち”に描かれているのはクールベの妹3人。背景の緑の山と白い岩肌のなかに明るい陽光をあびた女性たちや牛が浮かびあがっているような感じが心をとらえて離さない。衣装を着ている女性の絵では“眠る糸紡ぎ女”や金髪が眩しい“窓辺の3人のイギリス娘”にも足がとまった。

グラン・パレのときには大好きな風景画“雷雨のあとのエトルタの断崖”を取り上げたが、再会した“シオン城”も忘れられない絵。スイスに亡命を余儀なくされたクールベはレマン湖岸のシオン城からほんの数キロのところに住んでいた。若い頃、スイスのジュネーブにいたとき、9世紀頃建てられたこのシオン城を訪れたことがある。

美しい古城で、遠くから見ると、まるで湖の上に浮かんでいるように映る。まことに絵になる風景である。ジャズピアニスト、ビル・エバンスはアルバムのジャケットにこの城を使っていた。ジャズフェスティバルが開催されるリゾート地として有名なモントレー(晩年チャップリンが住んでいた)はここからすぐのところ。

詩人バイロンはシオン城に監禁された宗教改革者の物語を題材とした“シオンの囚人”(1819年)をつくったが、クールベの心にはこの詩がいたく沁みたにちがいない。

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