2024.12.23

2024年 日本美術で‘最高の瞬間’ ベスト10!(3)

Img_20241223230401    国宝 ‘阿弥陀二十五菩薩来迎図’(鎌倉14世紀 知恩院)

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‘青磁水仙盆’(北宋12世紀 国立故宮博物院)

Img_0003_20241223230401    ‘肉形石’(清18∼19世紀 国立故宮博物院)

Img_0001_20241223230401    志村ふくみの‘野の果てⅡ’(2023年)

今年、日本美術および中国美術で遭遇した傑作の残り4点は仏画と中国の
やきもの、工芸品、そして染織。気持ちを高ぶらせて出かけた特別展は、
☆‘法然と極楽浄土’    4/16~6/9    東博
☆‘故宮の所蔵品展’    8/4         国立故宮博物院
☆‘人間国宝・志村ふくみ’ 11/21~1/19  大倉集古館

国宝に指定された美術品が登場する展覧会は年間の鑑賞計画の中では◎つ
きで強く記憶される。東博で開催された‘法然と極楽浄土’には4点の国宝が
出品された。その中で特に心をとらえたのが‘阿弥陀二十五菩薩来迎図
(早来迎)’、会期中出ずっぱりだったので2度足を運んだ。修復が完了し
てはじめての披露だというのも背中を押した。色がよくでており、左上か
らの対角線に沿ってすーっと降りてくる阿弥陀様と大勢の菩薩のスピード
感がじつにいい。

今年はこの‘早来迎’がドドーンと心を揺るがしたが、中国美術でも‘最高の瞬間!’が連続した。舞台は台北にある国立故宮博物院。ここを訪問するのは30数年ぶりで2度目。お目当てはなんといっても世界に誇る陶磁器の名品。お宝中のお宝が北宋時代の12世紀につくられた‘青磁水仙盆’。この汝窯で焼かれた絶品の青磁との対面を長い間夢見てきたがようやく実現した。天にも昇る気持ちだった。

もうひとつサプライズMAXの工芸品がある。それは2014に開催された特別展‘台北 国立故宮博物院 神品至宝’(東博&九博)で九博のみの展示のため見逃した‘肉形石’。玉髄という石を豚の角煮を連想させるつくりものに変える超絶技巧に大きな衝撃を受けた。専用の展示室では普段は横に飾られている有名な‘翠玉白菜’はどこかへ出張中で楽しめなかったが、求めていた‘角煮’がみれたので言うことなし。12月に入ってでかけた志村ふくみさんの染織の回顧展も幸運なめぐり合わせだった。最新作の‘野の果てⅡ’の品があって優しい色づかいに心が洗われる思いだった。

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2024.12.22

2024年 日本美術で‘最高の瞬間’ ベスト10!(2)

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 池上秀畝の‘四季花鳥 春(右) 夏(左)’(1918年 長野県美)

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  田中一村の‘不喰芋と蘇鉄’(1973年以前)

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   山本芳翠の‘浦島’(1893~95年 岐阜県美)

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   山本芳翠の‘灯を持つ乙女’(1892年 岐阜県美)

日本美術で‘最高の瞬間’の(2)は絵画を4点選んだ。感動の傑作に巡り合
った展覧会は次の通り。
☆‘池上秀畝’     3/16~4/21   練馬区美
☆‘田中一村展’    9/19~12/1   東京都美
☆‘山本芳翠’     9/27~12/8   岐阜県美

練馬区美は過去に日本画家の高山辰雄や若くして亡くなった現代アートの石
田徹也などの回顧展を行っており、好感度の高さから特別展のスケジュール
を定点観測している美術館。今年は回顧展が開催されることがまったく頭に
なかった池上秀畝が登場した。三の丸尚蔵館でみた代表作の‘国之華’に大変
魅了され、その存在を知ることになったが、今回の回顧展でこの日本画家の
真髄にふれることができた。2度でかけたが、もっとも惹かれたのが‘四季花
鳥’、色彩にとても力があり装飾性豊かな花鳥画をひきたてている。

2010年に千葉市美で開催された回顧展で大きな衝撃をうけた田中一村の
作品が東京都美で再度ラインナップを強化して披露された。東京都美で日本
画家の作品をみるなんて思ってもみなかったが、これからは西洋絵画だけで
なく日本画にも力を入れる方針に変えたのだろうか。14年前同様、奄美で
描かれた傑作‘アダンの海辺などの縦長作品のシリーズに視線が釘付けになっ
たが、今回は千葉市美のときとくらべて3倍くらい時間をかけてみたのが
‘不喰芋と蘇鉄’。アンリ・ルソーがこの絵の緑のグラデーションをみたら裸足
で逃げるにちがいない。真にすごい絵だなと思った。

今月の3日に訪問した岐阜県美にたくさん展示されていた山本芳翠の絵でう
けた感動の余韻がまだ残っている。久しぶりにお目にかかった‘浦島’の画面
の大きさ、細密描写のすごい技、綺麗な女性たちの姿を息を呑んでみていた。
大きな収穫は‘灯を持つ乙女’、みた瞬間、ラ・トゥールの‘大工の聖ヨセフ’や
‘聖ヨセフの夢’に描かれた蝋燭の灯の表現を思い出した。乙女の左手が蝋燭
の炎で透けて見えるのはラ・トゥールとそっくり。山本芳翠がこんな絵を
手掛けていたとは。

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2024.12.21

2024年 日本美術で‘最高の瞬間‘ ベスト10!(1)

Img_0003_20241221230001    鳥文斎栄之の‘新大橋橋下の涼み船’(1790年頃 ボストン美)

Img_0001_20241221230101    喜多川歌麿の‘吉原の花’(1791~92年 ワズワース・アセ―ニアム美)

Img_20241221230101    歌川広重の‘平清盛怪異を見る図’(1843~46年)

Img_0002_20241221230101    英一蝶の‘僧正遍照落馬図’(17世紀後半 大和文華館)

今年開かれた日本美術関連の特別展は年間を通してレベルが高く多くの美術
ファンを惹きつけるものが数多く登場した。そのなかで浮世絵、風俗画が大
当たりでベスト10に4つ入った。それらが展示された話題の展覧会は上か
ら次の通り。
☆‘鳥文斎栄之展’     1/6~3/3     千葉市美
☆‘大吉原展’       3/26~5/19   東芸大美
☆‘広重ー摺りの極みー’  7/6~9/1     あべのハルカス美
☆‘英一蝶’        9/18~11/10  サントリー美

ここ10年のスパンでみて、これほど感動する浮世絵展が揃った年はほかに
ない。大収穫は鳥文斎栄之の回顧展が実現したこと。会場は浮世絵展では定
評のある千葉市美。海外からは大英博物館やボストン美の摺りのいい作品が
どどっと里帰りし、鳥居清長のワイド画面を彷彿とさせる‘新大橋橋下の涼み
船’などが目を楽しませてくれた。またまた大ホームランをかっ飛ばしてくれ
た千葉市美に感謝々である。本当にすばらしい。

この浮世絵バトンが次に送られたのが東芸大美の‘大吉原展’。ここへも千葉市
美同様、2回喜び勇んで出かけた。美人画と吉原は深く結びついているから
ラインナップを構成する作品には事欠かない。目玉はアメリカのワズワース
・アセ―ニアム美から特別出張をして頂いた喜多川歌麿の‘吉原の花’。
2017年、箱根の岡田美で感動の対面してから7年が経過し、またこの
肉筆画の大作に遭遇した。歌麿の版画を含めて最高傑作と思っているから存
分に楽しんだ。

開館10周年をむかえた大阪のあべのハルカス美で行われた‘広重展’も一生の思い出になった。出品作の大半はパリ在住のポーランド人コレクター、ジョルジュ・レスコヴィッチ氏が所蔵するもので、いずれも極上の摺りの状態により色が輝いていた。これまで同じものを国内の美術館蔵や海外の浮世絵のブランド美術館の里帰り展でみているのに、まったく別の浮世絵をみてる感じ。そして、‘最高の瞬間’を感じたのは図版では知っているがまだ本物に縁がなかった‘平清盛怪異を見る図’。仰天するのが広重流のシュールな表現。積もった雪の形と骸骨がダブルイメージになっている。日本で最初のシュルレアリスム絵画を広重が手掛けていたとは!サントリー美の‘英一蝶展’は期待値を大きく上回ってくれた。‘僧正遍照落馬図’をはじめとして追っかけリストに載せていた作品をおかげで8割方みることができた。

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2024.12.20

2024年 西洋美術で‘最高の瞬間’ ベスト10!(3)

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デ・キリコの‘予言者’(1914~15年 MoMA)

Img_0004_20241220230301  カナレットの‘カナル・グランデのレガッタ’(1730~39年 ボウズ美)

Img_0002_20241220230301    モネの‘シュザンヌ・オシュデと向日葵’(1890年)

Img_20241220230301   ミュシャの‘ハーモニー’(1908年 堺アルフォンス・ミュシャ館)

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ミュシャの‘クオ・ヴァディス’(1904年 堺アルフォンス・ミュシャ館)

西洋美術で‘最高の瞬間’を味わった残りの作品が展示された特別展は上から、
☆‘デ・キリコ展’        4/27~8/29    東京都美
☆‘カナレットとヴェネツイアの輝き’  10/12~12/28   SOMPO美
☆‘モネ 睡蓮のとき’      10/5~2/11    西洋美
☆‘ミュシャ ふたつの世界’   9/21~12/1    府中市美

気になる画家の回顧展に巡り合うのが展覧会に出かける一番の楽しみである
が、その回数で理想としているのは3回。形而上絵画のデ・キリコは東京都
美で行われた回顧展でそれに達した。出品作のなかに追っかけリストに載せ
ていた‘弟の肖像’(ベルリン国立美)と‘運命の神殿’(フィラデルフィア美)にお目にかかれたのは幸運だった。そして、デ・キリコのイメージとしてすぐ思い浮かぶ‘マネキン’シリーズにMoMA蔵の‘予言者’が加わったのも大きな収穫。

今年はモネの大当たりで年初の東京都美だけでなく、西洋美で秋から‘モネ 睡蓮のとき’が開催された(来年の2月まで)。パリのマルモッタンモネ美からどどっとやって来た‘睡蓮’は多くをすでにみている。そのため、作品の衝撃度でいうと感動は‘睡蓮’ではなく肖像画の‘シュザンヌ・オシュデと向日葵’のほうが大きい。これは手元のMyモネ図録にも美術本にも載ってない。こういうモネのイメージとはひと味もふた味も違う作品をみせてもらうと、流石、西洋美!と拍手したくなる。

SOMPO美の今年2本目のクリーンヒットが‘カナレットとヴェツィアの輝き’。以前、ロンドンのナショナル・ギャラリーでカナレットのすばらしいヴェネツィアの海景画をみて大感激したことをよく覚えているので、イギリスの美術館が所蔵するカナレットには自然と期待値が高くなる。果して、予想通り見ててすごくいい気持になる‘カナル・グランデのレガッタ’が姿を現してくれた。カナレットに乾杯!また、府中市美で堺アルフォンス・ミュシャ館のお宝中のお宝である大作の‘ハーモニー’と‘クオ・ヴァディス’をミューズのおかげで見逃さずにすんだのもよかった。

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2024.12.19

2024年 西洋美術で‘最高の瞬間’ ベスト10!(2)

Img_20241219231501  エークマンの‘イルマタル’(1860年 フィンランド国立アテネウム美)

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ブランクーシの‘空間の鳥’(1926年 横浜美)

Img_0001_20241219231501    村上隆の‘白虎 京都’(2023~24年)

Img_0002_20241219231501    村上隆の‘阿像(右) 吽像(左)’(2014年)

4作品が登場した展覧会は次の通り。村上隆の作品が2つあるのは、
(1)のマティス同様 ‘同点1位’という考えから。
☆‘北欧の神秘’      3/23~6/9   SOMPO美
☆‘ブランクーシ’     3/30~7/7   アーティゾン美
☆‘村上隆 もののけ 京都’  2/3~9/1    京都市京セラ美

新宿にある新装なったSOMPO美との相性がとても良く、今年は‘北欧の神秘’で大きな感動をもらった。2018年に北欧(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)を旅行し、念願のフィヨルド観光やムンクの‘叫び’を楽しんだ。そのため、日本の美術館でははじめてお目にかかった北欧の絵画にもすっと入っていけた。知っている画家はムンクを除いて一人もいなかったが、フィンランドのエークマンという画家が描いた‘イルマタル’に大変魅了された。海外の画家については、美術の本に載っている画家くらいしか馴染みがないから、北欧絵画に接すると新鮮な驚きが生まれる。当たり前のことだが、どこの国にも才能豊かな画家がいることを見せつけられた。

アーティゾン美で開催された‘ブランクーシ’はひとつの‘事件’ともいえるグローバルクラスの回顧展だった。美術ファンにとって抽象彫刻の先駆者であるブランクーシの作品がまとまってみれるのは一生に一度の幸運かもしれない。これを企画したアーテイゾンに感謝々である。横浜美から出品された‘空間の鳥’はつるつるした黄金の金属の心地いい質感描写ときりっとしたフォルムの強さを目に焼きつけた。

京都市京セラ美で7ヶ月のロング興行が行われた‘村上隆 もののけ 京都’では現代アートがつくりだす最高レベルのエンターテイメントを体験させてもらった。村上本人が日本ではもう回顧展はないと言っているので、京都旅行には嬉しさがぎっしりつまっている。村上隆で‘最高の瞬間!’はズバリ ‘白虎 京都’と展示室に入る前のフロアにどーんと飾られていたパワフルMAXの‘阿像、吽像’。

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2024.12.18

2024年 西洋美術で‘最高の瞬間’ ベスト10!(1)

Img_0002_20241218232001    

モネの‘睡蓮’(1908年 ウースター美)

Img_20241218232001    マティスの‘花と果実’(1952~53年 ニース市マティス美)

Img_0001_20241218232001    マティスの‘蜜蜂’(1948年 ニース市マティス美)

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エリアソンの‘呼吸のための空気’(2023年)

今年、美術館で開催された展覧会(台北も含む)へ出かけたのは全部で
45回。ここ数年は50回前後の訪問が定着してきた。昨年同様、感動し
た特別展を10選ぶのはやめて、展示された作品にフォーカスして‘最高の
瞬間’を感じたベスト10を選んだ(作品同士の順位はつけず鑑賞した順番に並んでいる)。まずは西洋美術から。4点が展示された特別展は上から次の通り。

☆‘印象派 モネからアメリカへ’ 1/27~4/7   東京都美
☆‘マティス展’        2/14~5/27  国立新美
☆‘オラファー・エリアソン展’ 11/24~3/31 麻布台ヒルズギャラリー

東京都美で開催されたアメリカのウースター美のコレクション展でお目にかかったモネの‘睡蓮’には200%KOされた。この睡蓮は手元にある美術本にまったく載ってない。静かで美しく輝く絶品の睡蓮は名前を知らなかったアメリカの美術館が所蔵していたとは!これまでみた‘睡蓮’の連作では5本の指に入る傑作である。美術好きの友人にみせたくて2度出かけた。

昨年に続き、今年もマティスの回顧展が国立新美で開かれた。出品作は若い頃スイスのジュネーブに住んでいたとき、クルマで出かけたのに休館で中に入れなかったニース市マティス美が所蔵するもの。予想だにしなかったリカバリーの機会が訪れ切り紙絵‘花と果実’と‘蜜蜂’に遭遇することができた。天にも昇る気持ちだった。

昨年の11月に開館した麻布台ヒルズギャラリーで現代アートのトップランナーのひとり、オラファー・エリアソンの個展に足を運んだのも忘れられない鑑賞体験。スマホの写真撮影がOKなので自由で開放的な展示空間を忙しくパチパチ撮り、最新作の‘呼吸のための空気’などを息を呑んでながめていた。

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2023.10.06

美術で‘最高の瞬間‘! 崎山隆之 市野正彦 今泉今右衛門

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    崎山隆之の‘扁壺 「聴涛」’(2007年)

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     ‘花器 「聴涛」’(2010年)

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   市野雅彦の‘Untitled’(2007年)

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    ‘丹波赤ドベ采器’(2010年)

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   十四代今泉今右衛門の‘色絵薄墨はじき時計草文鉢’(2010年)

現在、青磁で人気の高い陶芸家を選んだとき、個展の機会をこれからみつけ
だしていくことを述べたが、ほかにも同じ思いの作家がいる。崎山隆之
(1958~)、市野雅彦(1961~)、十四代今泉今右衛門(1962~)
。いずれも鑑賞した作品は片手ほどで最後にみてからだいぶ間隔があている
ため、現在どんな作品群が出来上がっていのかまったく情報がない。だから、
余計に鑑賞意欲が湧いている。来年は刺激を求めて積極的に動いてみようと
思っている。

崎山のテーマとなっている‘聴涛’は2点お目にかかった。2010年菊池寛実
記念 智美術館で開催された‘現代の茶 造形の自由’でこのシリーズをみたと
き、二つのイメージが交錯した。一つはアフリカのサハラ砂漠では局所的に
こういう砂の造形ができるのかなと想像した。もう一つは蛇の通った跡。今も
‘聴涛’は制作され続けているのだろうか。そうであれば、個展でどっと並んだ
のをみてみたい。

丹波焼の市野雅彦は日本民藝館へ通っていたころ作品を知った。TVのやき
もの番組でも見た覚えがある、その造形と強い色彩はとても気になっていた。
ロシアのマトリョーシカを連想させる‘Untitled’はおもしろいアイデアだし、
智美術館で遭遇した窯からでたばかりの灼熱の赤が強烈なパワーを生んでい
る‘丹波赤ドベ采器’にも心を奪われる。

2002年に十四代を襲名した今右衛門は‘色絵薄墨墨はじき時計草文鉢’が気
に入っている。これをみたのは2015年でちょうど宇宙への関心が深まった
時期と重なるので、大宇宙空間に星々が自然法則にしたがって均整のとれた形
で回転しているように映った。この連作は果たしてあるのだろうか?そろそ
ろこの目で確かめたい。

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美術で‘最高の瞬間‘! 十五代楽吉左衛門

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 砕動風鬼’(1990年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 陽谷’(1989年)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 吹馬’(1993年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗’(2004年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 一犂雨’(2005年 楽美術館)

2019年に隠居し現在は直入を名乗り作陶を続けている十五代楽吉左衛門
(1949~)の茶碗に大変魅了されている。だから、個展の情報は見逃さ
ないようにしているが、最近は残念ながら縁がない。はじめて十五代の作品
をまとまった形でみたのは2005年、菊池寛実記念 智美術館で15年ぶ
りに開催された‘楽吉左衛門展’。これが2度目の個展というので幸運なめぐ
りあわせだった。そして、2017年の‘茶碗の中の宇宙 楽家一子相伝の
芸術’(東近美)でも十五代の作品を存分に楽しませてもらった。

NHKでやきもの番組が放送されるときはビデオをとってみていたが、これま
で楽吉左衛門は2度登場し、轆轤を使わず手びねりで茶の湯の茶碗の形をつ
くっていくところから釉がけ、焼成という制作の現場をみせてくれた。その
ため、素人ながら十五代のあのすばらしい茶碗がどうやって生まれてきたか
はおおよそイメージができるようになった。

‘焼貫’は徹底的に火にさらし高い温度で焼く貫く技法で窯の炎や墨が直接作品
にあたり肌が荒々しくなるという特徴がある。これにより新たな‘楽’の世界を
つくりだした。いろんなヴァリエーションがあるのは陶芸家、楽吉左衛門の
技術の高さと表現の強さを反映している。‘焼貫黒楽茶碗 銘 砕動風鬼’は
焼貫茶碗にさらに金銀彩が用いられており、装飾性という要素をつけ加え
十五代流の楽茶碗を創作した。

茶碗の形としては本阿弥光悦の国宝‘不二山’や‘加賀’を連想させる角造りの
茶碗に惹かれている。これには数えきれないほど名品が揃っている。赤と黒
の鮮やかなコントラストが印象的な‘陽谷’、ダイナミックな黒の太い線が馬を
おもわせる‘吹馬’、雨だれのような緑と青が深く響きあっている2004年の
黒楽茶碗、そして、大きくゆがんだ形と群青色や黒、緑が心を打つ‘一犂雨
(いちりう)’が忘れられない。十五代楽吉左衛門に乾杯!

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2023.10.05

美術で‘最高の瞬間’! ハンス・コパー

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    ‘ポット’(1954年)

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    ‘ポット’(1962年)

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    ‘ポット’(1965年)

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    ‘スペード・フォーム’(1971年)

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    ‘キラクデス・フォーム’(1972年)

2010年は今から振り返るとイギリスの有名な陶芸家に出会ったエポック
的な年だった。4月国立新美で‘ルーシー・リー展’があり、その2ヶ月後に
パナソニック電工 汐留ミュージアムで‘ハンス・コパー展ー20世紀陶器の
革新’に遭遇した。ドイツ人のハンス・コパー(1920~1981)は
1939年19歳のときイギリスに渡り、26歳のとき18歳年上のルーシ
ー・リーの工房で働きはじめる。2人は第二世代の陶芸家として多くのファ
ンの目を惹きつける作品を次々と制作し、世界的に名が知られる陶芸家に
なった。コパーは1958年イギリスに帰化している。

1954年の作品‘ポット’は上下2つの丸い形を合接してつくられている。
この安定感がよく暖か味のある丸さにとても引き込まれる。同様に安心し
て見られる1965年のポットはすっきりした対称形のフォルムに限りな
い愛着を覚える。1962年のポットは一見すると中南米に起こった
古代文明でつくられたやきものとかアフリカにおける部族の宗教行事に使わ
れたシンボルのようなものを連想する。3つのパーツで構成されているが、
上は茶碗で真ん中は円盤、そして下が筒にみえる。

‘スペース・フォーム’は力強いフォルムがだんだん洗練されていく感じ。
上半分が鋭角的な印象の強い農工具とか手提げバッグのイメージで、それ
を柔らかい円筒がしっかり支えている。一度みたら忘れない形である。こ
のタイプはほかに上部が3倍くらい大きな円筒と合体したものもある。

コパーの作品でもっとも魅了されるのが‘キクラデス・フォーム’。
前3000年紀にエーゲ海のキクラデス諸島で栄えた文明の遺品が目の前
に現れたような錯覚にとらわれる。アテネの国立考古学博でみたものが
現代に蘇った感じ。いろんなヴァージョンがあるが、ロケットが宇宙に飛
び出すイメージが湧いてくるこの作品に惹かれている。

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2023.10.03

美術で‘最高の瞬間‘! ルーシー・リー

Img_20231003230001     ‘線文鉢’(1970年頃 東近美)

Img_0001_20231003230001     ‘鎬文花器’(1976年頃 東近美)

Img_0002_20231003230001     ‘青釉鉢’(1978年頃 東近美)

Img_0003_20231003230001     ‘ピンク線文鉢’(1980年頃)

Img_0004_20231003230001     ‘溶岩釉花器’(1980年代 アサヒビール大山崎山荘美)

イギリスの女性陶芸家、ルーシー・リー(1902~1995)の作品をは
じめてお目にかっかたのは東近美工芸館。竹橋にある東近美へ出かけたとき
は時間に余裕があれば、歩いて10分くらいで到着する工芸館へも寄り平常
展に並んでいる作品をみるというのがルーティンの流れだった。ここで
板谷波山のやきものとか着物などいろいろな工芸の分野に親しんできたが、
ときどき情報がまったくなかったのにみた瞬間に虜になるような作品に遭遇
することがある。

目の前に現れたルーシー・リーの‘線文鉢’はそんなやきものだった。説明書きを
読むと陶芸家はウィーン生まれで活動の拠点をイギリスに変えて活躍し、93
歳で亡くなったとある。イギリスの陶芸家としてインプットされている民藝派
のバーナード・リーチを第一世代とするとルーシー・リーは第二世代にあたる
人気の陶芸家のひとり。これでやきものの世界が広がったという思いを強く
もった。

‘線文鉢’は茶褐色の高台の上で乳白色に切り替わり、細い茶色の線がリズミカ
ルに走っている。このすっきり感のある軽やかな文様に大変魅了される。この
形がさらに変化したのが鮮やかな青が目とびこんでくる‘青釉鉢’。これはルー
シー・リーを代表する朝顔型の器形。口縁の直径に比べて高台が小さめにつ
くられているが、不安定な感じはしない。これは強い磁力を放っている。そし
て、さらにインパクトのある色が登場した。‘ピンク線文鉢’。陶芸の色彩に
ピンクがでてくるとは!

ルーシー・リーの作品に大変魅了されるのは形の美が楽しめること。朝顔型のほかで思わず足がとまるのが‘鎬文花器’。鎬文の上は首がぐっと細くなり視線をさらにあげるとラッパのように大きく開いた口作りがみえる。古代ギリシャにやきものでこんな形をみた記憶がある。晩年の作品‘溶岩釉花器(マーブル)’は形は古代の器というイメージが強いのに、色合いは薄土色と淡い青が絶妙に溶け合い上品な雰囲気を漂わせている。すばらしい!

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