美術館に乾杯! 東京国立博物館 その二十五
明治以降、数多く描かれた日本の洋画でもっとも魅了されているのは岸田劉生
(1891~1929)の‘麗子微笑’。劉生の高い人気を反映して回顧展はよ
く開催される。そのとき、この7歳の麗子像は目玉の作品として出品されるが、
お出ましの回数は少ない。広島にいたころふくやま美の‘麗子展’(2003年)
で運よく遭遇した。会場は大勢の人でいっぱい、みんな麗子の微笑を息を呑ん
でみている。こういう名画は言葉はいらない。ただじっとみているだけで心
が揺すぶられる。2019年東京ステーションギャラリーであった大回顧展に
も出品された。
では、東博の平常展で何度お目にかかったかというと意外に少ない。2017
年にみたのはよく覚えているが、その前となると1回はみたような気がするが、
記憶はあやふや。油絵の具で描かれた人物像だからもっと鑑賞の機会があって
もよさそうだが、重文指定の制約もあるため、なかなか展示されない。オルセ
ーへ行くといつもでルノワールの代表作‘ムーラン・ド・ラ・ギャレット’がみ
れるのに、日本のモナリザはいつも楽しめないというのは変な話である。油絵
の場合は重文のしばりは必要ないと思っている。
黒田清輝(1866~1924)の‘湖畔’と‘舞妓’もお宝中のお宝。フランスか
ら帰国した年に描かれた‘舞妓’は油絵らしい色彩の強さが印象的で舞妓の顔が
溌剌としているのに対し、この4年後に制作された‘湖畔’は静かな湖の光景と
みるからに美形の優しい女性がほわっと溶け込むように日本画を思わせる淡い
色調で表現されている。ここは箱根の芦ノ湖でモデルは黒田の妻照子夫人。
彼女はこのとき23歳だったが、大女優のような風格がある。
黒田があれば藤島武二(1867~1943)もみたくなる。横幅が2.2m
もある‘静’は一見するとスーラやシニャックの点描画を彷彿とさせる。そして、
虹に美しい色彩がじつの印象的で湖面に映る山々や岩の影はスイスのホドラー
の静謐な風景画とのコラボもイメージさせる。こんな装飾的な光景が描ける
のだから日本人画家の枠組みを大きく超えている。
青木繁(1882~1911)の‘日本武尊’はモデルのイケメンぶりが目に焼
きついている。武運だけでなく女のような綺麗な顔貌にも恵まれた日本武尊は
青木の豊かな感性からしか生まれてこない。
これで‘美術館に乾杯!’シリーズのパートⅡ(日本の美術館)は終了です。
2019.8.3の大原美からスタートし、全部で226の美術館(お寺・
神社・城も含む)を紹介してきました。お楽しみいただけましたでしょうか。
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