2014.07.04

木版画家 ヴァロットンの魅力!

Img     ‘版画愛好家’(1892年)

Img_0001     ‘入浴’(1894年)

Img_0003     ‘怠惰’(1896年)

Img_0004     ‘有刺鉄線’(1916年)

三菱一号館美が所蔵するヴァロットン(1865~1925)の版画作品、全部で187点あるそうだが、今回の回顧展(6/14~9/23)には60点あまりが展示されている。このなかに過去みたものが4点あった。

そのひとつが‘怠惰’、ベッドでうつ伏せになっている裸婦が手をのばして猫の顔を撫でている。この手と猫の体、そして尾っぽを結ぶラインが目にどんと入ってくる。これはモノクロの版画だが、油彩の作品として制作されていたとしたらこの絵以上に足がとまるだろう。

色がついた作品を想像してみると、誰の絵が思い浮かぶか、その画家はズバリ、マティス! ベッドの平板でありながら奥行きがあるようにもみえる描き方はエルミタージュにあるマティスの‘赤の食卓’のテーブルとよく似ている。ヴァロットンの魅力はこの絵にみられるように対象を斜めに配置して動きをつくりだすところ。

ベッドが斜めに置かれ、裸婦の手と猫はもうひとつの斜めのラインをつくる。そしてこの光景は部屋の天井から斜めに見下ろすかたちで描かれている。だから、ぱっとみると平板なイメージだがじつは立体的な空間のなかにいることになる。こういう発想は並みの画家の頭の中からは生まれてこない。

今回はじめてみる版画に多く遭遇したが、ロートレック(1865~1925)のポスターや油彩を意識させるものがいくつかあった。ロートレックそっくりだなと思わせるのが‘版画愛好家’、これも通りが斜めに走っている。その左端、シルクハットを被った男の体の半分は画面からはみ出している。そして手前の男たちの描き方がうまい。右はでっぷりした男が横を向き、その後ろを急ぎ足の人物が通り過ぎようとしている。この静と動の対比が見事!

‘入浴’もロートレックが描く娼婦がダブってくる。この絵が印象深いのは画面の中央を横切るバスタブの曲線、女性がバスタブの縁に手をやっているのをみると入浴中というより小舟に乗っている感じ。タオルをもち横に立っているメイドの体の一部をカットするのはヴァロットンの常套手段。

最後の部屋に展示してあった‘これが戦争だ!’シリーズでは‘有刺鉄線’にぐっときた。これはまさに漫画、有刺鉄線にからまった二人の兵士、一人は太鼓腹をみせてひっくり返っている。顔をみせない兵士の死体を漫画チックに描くことで戦争のむごたらしさを浮き彫りにしている。

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2014.07.03

ヴァロットン サプライズは神話画!

Img ‘竜を退治するペルセウス’(1910年 ジュネーヴ美術・歴史博)

Img_0002     ‘立ち上がるアンドロメダとペルセウス’(1918年)

Img_0003 ‘引き裂かれるオルフェウス’(1914年 ジュネーヴ美術・歴史博)

Img_0005     ‘女性を連れ去るサテュロス’(1910年 ローザンヌ州美)

ヴァロットン(1865~1925)の作品でこれまでみたものは版画を数点とオルセーにある‘ボール’や男性の群像肖像画などの油彩を合わせて両手くらい。だから、三菱一号館美の回顧展(6/14~9/23)で神話を題材にした作品が目の前に現れたときは大げさにいうと仰天した。

アンドロメダを救うペルセウスの絵が2点あるがともに大変魅せられた。大作‘竜を退治するペルセウス’で強い存在感を放っているのは中央のペルセウスよりやっつけられているワニのほう。竜ではなくワニもありか、ヴァロットン、おもしろい発想をするじゃない、という感じ。

そして、左にいるアンドロメダ、顔から表情が消えているペルセウスとは対照的に鋭い目でペルセウスとワニの格闘をみつめている。恐怖におびえるアンドロメダのイメージではなく、‘ペルセウス、助けに来るの遅いじゃない、私は早く家に帰りたいんだから、このワニさっさとかたずけてよ’とでもいいたげな顔。

‘立ち上がるアンドロメダとペルセウス’は構図と色使いがすばらしい。感心しながらみていた。天の裂け目から現われるペルセウス、その姿を海を進む竜が睨みつける。まさに激しい戦いがはじまる寸前、そして左では岩を背にしたアンドロメダが‘早く助けて!’と声を震わせている。ここで使われている色は青(ペルセウス)、緑(竜)、赤(アンドロメダ)、赤茶色(岩)の4色、この色が黒と黄色で二分された画面に浮き上がり、いっそうの緊迫感を生み出している。

最後の部屋に飾ってあった‘引き裂かれるオルフェウス’を立ち尽くしてみていた。哀れ、オルフェウス、失意にくれて冥界から戻って来たというのに、何がトラキアの女たちの癇にさわったのか、石をぶつけられ、背中の皮を引き裂かれ血が吹きだしている。トラキア人は男も女も強いワインを水で割らずに吞んでいたから、女たちの気性も激しかったにちがいない。

‘女性を連れ去るサテュロス’をみた瞬時にピエロ・ディ・コジモの描く暴力的な人物描写が頭に浮かんだ。そして、背景のキラキラ光る海面にも目が吸いこまれた。

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2014.06.30

思わず足がとまるヴァロットンの女性画!

Img_0001     ‘トルコ風呂’(1907年 ジュネーブ美術・歴史博)

Img ‘緑色のスカーフをまとう裸婦’(1914年 ラ・ショー・ド・フォン美)

Img_0004_2     ‘オウムと女性’(1909~13年)

Img_0002     ‘赤い服を着たルーマニア女性’(1925年 オルセー美)

三菱一号館で開催中の‘ヴァロットン展’(6/14~9/23)、最初の部屋にいきなりインパクトのある裸婦群像図が展示してあった。タイトルをみると‘トルコ風呂’、どこかで聞いた名前、そうアングルが83歳のとき描いた作品にこのタイトルがついている。

アングルの絵には数えきれないほどの女性がでてくるが、ヴァロットンのこの絵に描かれた女性は6人。ヴァロットンとアングルがどうつながっているのか全然知らないが、二つの絵を比べたらヴァロットンの絵の前に長くいたくなることだけはたしか。6人のうち中央にいる2人の女性に視線を向かわせる構成がなかなかいい。2人は左のほうをじっとみている。その緊張した雰囲気がすごくいい。

どの女性画よりも心をザワザワさせるのが‘緑のスカーフをまとう裸婦’、じっとみていてスイスのヴィンタートゥールにあるルノワールの‘眠る女’が重なってきた。裸婦の姿が印象深いのは頭と足の先が斜めに伸びているため。モデルをこのように対角線上に配置した絵ははじめてみた。

‘オウムと女性’にはすぐ反応した。思い出した絵は昨年メトロポリタンでみたクールベの‘女とオウム’、クールベは女性の手にオウムをとまらせているが、ヴァロットンはとまり木にいるオウムをえがいている。このオウムの緑がなんとも鮮やか。

この絵や‘緑のスカーフ’をみるとヴァロットンはクールベを相当意識している感じ。以前TVの美術番組でヴィンタートゥールにあるヴィラ・フローラ美がとりあげられたとき、ハーンローザ―夫妻がコレクションしたヴァロットン作品がでてきた。その絵は白人女性と黒人女性の同性愛を描写したもの、

このとき瞬時に頭をよぎったのはクールベの同じく女性の同性愛を描いた‘眠り’。ヴァロットンはこんな絵を描いていたのか、という感じで‘ボール’のイメージと離れすぎていたのでは少々戸惑った。今回裸婦図などと出会ったことで、ヴァロットンにクールベ的なところがあることがわかってきた。

‘赤い服を着たルーマニア女性’にも思わず足がとまった。赤い衣服、背景の赤、そして赤の口紅。そしてとても気になる目。この肖像画は目力の強さではベスト5に入るかもしれない。ルーマニア人についてのイメージがないのだが、この若い女性、ぱっとみる活発なアメリカ人の感じ。だから、すぐにうちとけて会話がはずみそう。

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2014.06.28

二重丸の‘ヴァロットン展’!

Img     ‘ボール’(1899年 パリ オルセー美)

Img_0002     ‘白い砂浜、ヴァスイ’(1913年)

Img_0001     ‘ロワール川岸の砂原’(1923年 チューリッヒ美)

Img_0004     ‘髪を整える女性’(1900年 オルセー美)

名前は知っているが描かれた作品をほんの少ししかみていない画家は何人もいる、ヴァロットン(1865~1925)もそのひとり、こういう画家の場合、回顧展が開かれるといっても胸が高まるということはない。その逆で、展示会場へ入るにもおそるおそるという感じになる。

三菱一号館美で現在開かれている‘ヴァロットン展’(6/14~9/23)の鑑賞はそんな思いではじまった。ところが、作品をみていくうちに不安な気分はすぐ取っ払われ、チラシに踊っていたコピー‘パリで31万人が熱狂’がストンと腹に落ちた。そして思った‘ヴァロットン、やるじゃない!’と、この回顧展は昨年ブリジストン美で行われた‘カイユボット展’に次いで画家の才能の高さを思い知らされる展覧会になった。

縁のうすい画家の作品をみるときはひとつのアンカーが必要、碇を降ろせばこれを基準作にして作品に近づける。そのアンカーの役割を果たしてくれたのがよく知っているうえに大好きな‘ボール’。オルセーではじめてナビ派の画家に会ったころは、ヴュィヤールとヴァロットンがこんがらがっていた。でも、この絵だけはよく覚えている。俯瞰の視点にはっとし女の子の背中にあたる光とその影が強く心に刻み込まれた。

ヴァロットンで魅せられるのはまずはこの光の描写、ほかにもぐっとくる作品があった。思わず足がとまった風景画2点、斜めにのびる砂浜を二人の男が歩いている姿を後ろの高台から描いた‘白い砂浜、ヴァスイ’、そして構図がとてもいい‘ロワール川岸の砂原’、砂がもこっと盛り上がったところが手前から平行的に三つならび、中央には葉を沢山つけた丸い木がぽんぽんと配置される、よくみると左に釣りを楽しむ人物がみえる。

‘髪を整える女性’も‘化粧台の前のミシア’同様、部屋の中に強い日差しが入り込んでいる。おもしろいのは女性の顔をあえて隠していること。だから、女性には視線がむかわず、後ろにのびる椅子の影を追っかけることになる。この絵は大きな収穫だった。

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