2013.12.30

麗しの女性画 エル・グレコ ゴヤ フラゴナール!

Img_0005   エル・グレコの‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’(1577~90年 グラスゴー美)

Img_0009  ゴヤの‘サバーサ・ガルシア’(1806~11年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0002   フラゴナールの‘読書する少女’(1776年 ワシントンナショナルギャラリー)

わが家では年末必ず行っているルーチン作業がある。年初に更新した追っかけ美術品のリストをながめこの一年で鑑賞した作品に済みマークをつけていく。これがじつに楽しい。女性画部門は運よく18点に済みマークがついた。

★エルグレコの‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’(グラスゴー美)
★ゴヤの‘サバーサ・ガルシア’(ワシントンナショナルギャラリー)
★ゴヤの‘バスキーニャをまとった少女’(ワシントンナショナルギャラリー)
★フラゴナールの‘読書する少女’(ワシントンナショナルギャラリー)
★フラゴナールの‘恋文’(メトロポリタン美)
★ルノワールの‘ティラ・デュリューの肖像’(メトロポリタン美)
★ルノワールの‘海辺にて’(メトロポリタン美)
★ルノワールの‘女性大水浴図’(フィラデルフィア美)
★ドガの‘バレエのレッスン’(フィラデルフィア美)

★マネの‘ベルヴューのマネ夫人’(メトロポリタン美)
★ゴッホの‘麦藁帽子を被った若い農婦’(ワシントンナショナルギャラリー)
★ゴッホの‘カミーユ・ルーラン’(フィラデルフィア美)
★サージェントの‘バラを持つ婦人’(メトロポリタン美)
★ホーマーの‘秋’(ワシントンナショナルギャラリー)
★クリムトの‘踊り子’(ノイエギャラリー)
★クリムトの‘黒い羽根帽子’(ノイエギャラリー)
★クリムトの‘メーダ・プリマヴェージの肖像’(メトロポリタン美)
★クリムトの‘純白の婦人の肖像’(メトロポリタン美)

そのなかで思い入れの強いのがここにあげた3点。ゴヤとフラゴナールは08年ワシントンナショナルギャラリーを訪問したときは改築工事のためみれなかった作品。5年経ってようやく対面できたので感激もひとしお。‘サバーサ・ガルシア’は誰かに似てない?そう今年大ヒットした連続ドラマ‘あまちゃん’に出演した薬師丸ひろ子。そのためこのスペイン女性には親しみを覚える。

エル・グレコの‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’は‘夢の絵画’のラベルがずっととれないと思っていたら、なんとグラスゴーからやって来てくれた!ミューズに感謝。グレコがこんな麗しの女性の肖像を描いていたことが今だに信じられないのだが、その絵を前にして天にも昇るような気持ちだった。

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2013.11.24

2014年 トレドでエル・グレコ没後400年の展覧会!

Img_0003       トレドの景観

Img_2       ‘聖衣剥奪’(1577~79年 トレド大聖堂)

Img_0002     ‘聖衣剥奪’(1580年代 ブダぺスト国立美)

Img_0001_2     ‘オルガス伯爵の埋葬’(1586~88年 サント・トメ教会)

BS朝日の美術番組‘世界の名画’(金曜)は15日がベラスケス、22日がエル・グレコとスペインものが続いた。2日前の‘世界遺産トレドの旅 神秘と祈りの画家 エル・グレコ’は9月頃ほかのBS局でトレドの旅物語をみたから、今回はパスでもよかったが、エル・グレコ(1541~1614)にスポットをあてた番組を見逃すわけにはいかないのでビデオ収録しておいた。これが大正解、昨日みたら貴重な情報が含まれていた。

来年2014年はグレコ没後400年、そこでトレドでは1年にわたって様々な催しが企画されている。市の観光局の女性局長の話によると6つの展覧会が開催され100以上のグレコの作品が鑑賞できるという。これはグレコの大回顧展!グレコの大ファンだから血が騒ぐ。

勝手な予想だが、グレコの傑作がプラド美をはじめとするスペイン国内の美術館や教会からどどっと集められてくるのではなかろうか。そして、海外の美術館にあるものもスペインに里帰りすることだって十分ありうる。すぐ思いつくのはアメリカの美術館、質の高い名画が揃っているメトロポリタン美やワシントンナショナルギャラリー、そして1点あるシカゴ美。

また、ヨーロッパでは10年前‘グレコがここにこんなにあるの!’と感激したブダペスト国立美から‘聖衣剥奪’の別ヴァージョンが出品され、トレド大聖堂のお宝‘聖衣剥奪’と並べて展示されることだって可能性としてないわけではない。

トレドにあるグレコの絵で誰もが大きな感動を覚える作品というと、‘聖衣剥奪’、サント・トメ教会にある‘オルガス伯爵の埋葬’、そして今年1月日本にやって来た‘無原罪の御宿り’(サンタ・クルス美)。

この3つだけでも体はふらふらになるのに、もしもサント・ドミンゴ・エル・アンティーグオ聖堂やドーニャ・マリア・デ・アラゴン聖堂の祭壇衝立のために描かれた作品がプラド美やシカゴ美からもどって来て当時の祭壇が実現するとなったら、これはもうすごいイベント。ひょっとするとこの再現プロジェクトは静かに進行しているかもしれない。

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2013.02.28

生涯の思い出となる‘エル・グレコ展’!

Img_0001_2     ‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’(1577~90年 グラスゴー美)

Img_0004_2     ‘神殿から商人を追い払うキリスト’(1610年 パレス・フィサ・コレクション)

Img_2     ‘聖アンナのいる聖家族’(1590~95年 トレド タベラ施療院)

Img_0002_2     ‘無原罪のお宿り’(1607~13年 トレド サンタ・クルス美)

東京都美で開催中の‘エル・グレコ展’(1/19~4/7)をみてきた。日本で27年ぶりに実現した大回顧展に加え、アメリカの美術館でも名作に出会ったから、今年はてんこ盛りのエル・グレコイヤーになった。

出品された51点のなかで感激の対面となったのが、‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’。この絵を20年くらい前にみたとき、本当にこれがエル・グレコ(1541~1614)の作品!?という感じだった。それまでグレコの絵というと体が異常に引きのばされた人物を描く画家というイメージができあがっているので、こんなまともでしかも絶世の美女の肖像画が同じ画家によって描かれたことがにわかには信じられなかった。その謎は今も引きずっている

これが展示されているのはイギリスのグラスゴー美、ロンドンとか周辺の都市にある美術館なら訪問することはたやすいが、北のグラスゴーとなるとそう簡単には行けない。だから、この絵をみたいという思いは強いものの、この先も縁がなさそうだなと思っていた。ところが、優しいミューズの特別のお計らいで日本で会えることになった。こんな嬉しいことはない。言葉を失ってみていた。生の感じをいだかせるすばらしい女性の絵が16世紀の後半スペインに生まれたことは西洋絵画史における奇跡のひとつではなかろうか。

キリストの物語のなかでキリストが激しい行動をみせるのが神殿から商人たちを追い払う場面。ほかのどの絵よりもこのグレコの描いた右手を大きくふりまわすキリストが強く心に刻まれている。ワシントンのナショナルギャラリーでも別ヴァージョンに出会った。

1886年の回顧展(西洋美)でも展示された‘聖アンナのいる聖家族’はお気に入りの一枚。心の安らぐこの聖家族がまたみれるのだから幸運なめぐりあわせに感謝しなければいけない。目の大きな卵型の顔をした聖母マリアの美しいこと!ラファエロの聖母子像とともにこの絵をMy‘好きな聖母子像’の最上位に登録している。

‘貴婦人’同様、熱い思いで対面を待っていたのがトレドからやって来た‘無原罪のお宿り’。このグレコが晩年に描いた傑作をみないとグレコは済みマークがつけられないので3度目のトレド旅行を計画していた。その絵が日本に来てくれたので、トレドはもう行く必要がなくなった。

息を呑んでみていた。こんな傑作が日本でみれるなんて本当に夢のよう。日曜美術館で絵の下から聖母マリアをみあげると顔がまるくみえると解説していたが、たしかにそんな感じもする。それを確かめるため絵からすこし離れてみると、顔はやはり縦に長くみえる。聖母マリアと同じくらい興味深くながめていたのは下の黄色い衣装をつけた天使、腰の曲がり具合や足の動かし方がとても優雅、その上にいる聖母マリアにつながるラインはゆるくS字になっており、視線を上へと誘導していく。

満足度200%の展覧会を体験して、ますますエル・グレコが好きになった。

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2012.11.18

光の画家 エル・グレコ!

4463_3  エル・グレコの‘燃え木で蝋燭を灯す少年’(1570~75年 カポディモンテ美)

4464_3         ラ・トゥールの‘大工ヨセフ’(1642年 ルーヴル美)

4465_2     ルーベンスの‘蝋燭をもつ老婆と少年’(1616~17年 マウリッツハイス美)

絵画の鑑賞を重ねていくとどういうわけか好きな画家でも相性のいい画家と悪い画家がでてくる。エル・グレコ(1541~1614)は前者のタイプ。

その相性の良さの一つの例が2年前西洋美で開催された‘カポディモンテ美展’。このナポリにある美術館からやって来た作品のなかにグレコの追っかけ画‘燃え木で蝋燭を灯す少年’が含まれていた。この絵は現地に出向かないと一生縁がないなと思っていたから、腹の底から嬉しさがこみあげてきた。

こういう幸運なことが複数回起きるとなるとこれはもうその画家とは相性の良さを通りこして固い絆で結ばれていることになる。じつはそれが来春の‘エル・グレコ展’で実現するのである。‘無原罪のお宿り’(トレド サンタ・クルス美)、‘フェリペ2世の栄光’(エル・エスコリアル修道院)、‘白貂の毛皮をまとう貴婦人’(グラスゴー美)の3点がまとめて日本にやって来るというのだから幸せ三段重ね。

エル・グレコが5年滞在していたローマで制作した‘燃え木で蝋燭を灯す少年’をみるたびにエル・グレコを光の画家と呼びたくなる。この絵はいつもラ・トゥール(1593~1652)の傑作‘大工ヨセフ’を思い起こさせる。言葉を失うほど感動するのが蝋燭の炎に透かされた幼子イエスの左手。これほど繊細な光の表現をする画家はほかにいない。

ラ・トゥールが幼子の顔やヨセフの額を蝋燭の炎が静かに照らすところを描いたのに対し、グレコの絵では蝋燭を灯す燃え木は少年の顔や衣服をぱあーっと照らし闇のなかに少年を浮かび上がらせている。燃え木に息を吹きかける口の動きがとてもリアル。

昨年11月に訪問したマウリッツハイツ美で衝撃的な体験があった。それはルーベンス(1577~1640)が描いた‘蝋燭をもつ老婆と少年’(拙ブログ11/12/13)。グレコの絵と較べてみると、グレコのほうは粗いタッチで描かれているが、二つの絵は画面に占める人物の大きさや顔を明るく照らす光の描写がよく似ている。

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2012.11.17

グレコの傑作が揃うメトロポリタン美!

4459_2     ‘トレド風景’(1597~99年)

4461_2           ‘枢機卿の肖像’(1600年)

4460_4        ‘十字架を担うキリスト’(1580年代)

4462_2     ‘黙示録第5の封印’(1608~14年)

エル・グレコ(1541~1614)の絵に大変魅せられているので、どの絵がどこの美術館にあるかはおおよそわかっている。全部みているわけではないが、幸いなことにコンプリートにもう少しというところまできた。

作品の数が多いのは当然のことながらマドリードにあるプラド美で35点所蔵している。その次がトレドの教会と美術館。スペイン以外の美術館では03年に訪問したブダペスト国立美のコレクションがつとに有名。作品の保存状態のいいものが7点ある。なかでも‘聖衣剥奪’がすばらしい。

そして、アメリカにもどうしてこんないいものがあるの!というくらい数多くの傑作がある。08年に美術館めぐりをしたときの経験や画集に載っているものを総合すると、メトロポリタンが8点、ワシントンナショナルギャラリー6点、ボストン3点、フリックコレクション2点、シカゴ1点

お気に入りの作品からいうとMETとワシントンにあるものに魅了される。METではグレコの絵はハベマイヤーなどのコレクションとロバート・レイマン・コレクションが別々に展示されている。そのなかでググッと惹きこまれるのが唯一の風景画の‘トレド風景’と息を呑むくらい見事に描かれた‘枢機卿の肖像’。この2点は館の大判の図録に収録されている。まさにMETの至宝のひとつ。

‘十字架を担うキリスト’にも思わず足がとまる。プラドにも同じ構成の絵はあるがMETのほうがいい。‘黙示録第5の封印’は左端で両手を上にあげている男のポーズがとても印象深く目に焼きついている。また、晩年の自画像もこの美術館でみることができる。

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2011.12.29

ゴヤの‘着衣のマハ’が40年ぶりにやって来た!

3374_2     ‘着衣のマハ’(1805年)
  
3375_2     ‘レイカディア・ソリーリャ’(1812~14年)

3377_2        ‘自画像’(1815年)

3376_2     ‘戦争の惨禍 37番これはもっとひどい’(1810~14年 1863年初版)

年初、スペインを旅行しマドリードにあるプラド美へ行った時、おもしろいことがあった。館内の休憩コーナーにいた別の旅行会社のツアーに参加された方が‘さっきゴヤの‘着衣のマハ’のところで、ガイドさんがこの絵は秋に日本へ貸し出されるといってましたが、すごいですネ’という。

その情報は昨年どこからとなく入ってきていたが、日本ではまだ公には発表されてない。ところが、現地の日本人ガイドさんはちゃんと知っていて、絵の前で‘裸のマハはダメですが、この絵はまた日本でみれますよ’としゃべっている。西洋美のゴヤ展のチラシやポスターがでてきたのはこれからだいぶ後のことだった。

‘ゴヤ展’(10/22~1/29)は西洋美の実力をみせつける一級の展覧会、流石というほかない。40年ぶりにやってきた‘着衣のマハ’のほかにもいい肖像画がずらずらと揃っている。1月鑑賞したとき大変魅せられた‘ホベリャーノスの肖像’(拙ブログ2/17)をはじめとして、‘自画像’、‘レオカディア・ソリーリャ’、‘赤い礼服の国王カルロス4世’、‘初代フロリダブランカ伯爵ホセ・モニーノ・イ・レドンド’。日本にいてゴヤの肖像画の傑作がこれほど多くみられるのはこの先20年はないだろう。

天才画家に共通してみられる特徴は画風がいろいろ変わること。ゴヤ(1746~
1826)もその例にもれない。カラヴァッジョが裸足で逃げるのではないかと思うほど美しいキリスト磔刑も描けるし、‘木登りをする少年’や今人気の佐々木希のような愛くるしい女の子を描いた‘日傘’といった風俗画で見る者の心を和ましてくれる。

その一方で、画業の後半でゴヤは人間の心の闇や悪魔的気分、そして戦争という悲劇のさなかに容赦なく発揮される人間の狂気や残虐さを黒い絵シリーズや版画で強く激しく表現する。4つある版画シリーズのなかで、緊張感を強いられるのが‘戦争の惨禍’。

‘37番これはもっとひどい’はまさにタイトルの通り。侵略してきたフランス兵は仲間の兵士が殺されればその何十倍の数のスペイン人を虐殺する。そうすればまたスペイン人の怒りは沸騰し、その仕返しにフラン兵の首を刎ね、腕や足をぶったぎる。残虐行為の連鎖はとめようがなくはてしなく続く。

現代なら写真家や映像作家が戦争の悲惨さを生のままとらえて世界に発信するが、当時はまだ写真がないからゴヤの絵画制作が写真の役割を果たした。こうした版画をみていると、芸術作品というものをこえて人間の本質を深くみつめたゴヤの魂の叫びが聞こえてくるような気がする。

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2011.02.17

ゴヤの代表作‘マハ‘と’カルロス4世の家族’!

2385     ‘裸のマハ(上)’(1800年) ‘着衣のマハ(下)’(1805年)

2387     ‘サンタ・クルース公爵夫人’(1805年)

2384_2     ‘カルロス4世の家族’(1800年)

2386            ‘ホベリャーノスの肖像’(1798年)

ゴヤというと二つのマハ。4年前はパスしたので今回は久しぶりにじっくりみた。心がザワザワするのはやはり‘裸のマハ’。その豊満な肉体にクラっとし挑発されている気分にだんだんなるから、あまり長くはみれない。で、‘着衣のマハ’のほうに視線を移すことにしている。

美術の教科書に載っているような名画の鑑賞は美術がちょっと好きな人にとっても、絵画に没頭している人にとっても、人生におけるひとつの出来事であることは確か。ゴヤの‘裸のマハ’はダ・ヴィンチの‘モナリザ’、ボッティチェッリの‘ヴィーナスの誕生’、レンブラントの‘夜警’、ベラスケスの‘ラス・メニーナス’などと同様、そんな思いのする絵である。

‘着衣のマハ’は裸のイメージをすぐリセットできるわけではないが、じっとみていると白いパンタロン、刺繍入りのジャケットを身にまとい長椅子に横たわるマハがとても愛らしくおもえてくる。そして、頬を赤くし、口紅をつけ目いっぱいの化粧をしているのも心を惑わせる。

ビッグニュースをひとつ。この‘着衣のマハ’は今秋、なんと日本にやってくる!もうすぐ正式発表されるはずだが、マドリードの現地日本人ガイドさんも知っているのだからこの話はだいぶ知れ渡っている。出品される展覧会は西洋美術館で開催される‘プラド美所蔵ゴヤ展’(10/22~1/29)。日本でこの絵が公開されるのは2度目。西洋美では1972年にも‘ゴヤ展’が行われ、このとき‘裸のマハ’と一緒に展示された。およそ40年ぶりの公開である。楽しみ、楽しみ!

前回とても魅了されたのが‘サンタ・クルース公爵夫人’。またメロメロになった。この21歳の若い夫人はフィギュアスケートの浅田真央ちゃんを連想させる。当時その美貌は有名で‘微笑の美女’といわれていた。スペイン絵画における女性画ではこれとベラスケスの‘鏡を見るヴィーナス’に最も惹かれている。

ゴヤが首席宮廷画家に任命されたあと、1年の歳月をかけて描いたのが‘カルロス4世の家族’。見事な家族肖像画である。王室の家族たちを素のままで描いているのがいい。存在感NO.1はなんといっても中央で傲然と胸をはる王妃マリア・ルイーサ。王族の気品などまったく感じられず、強欲で虚栄心の塊のような顔をしている。

そして、隣にいるカルロス4世はまるで暢気な父さんのイメージ。このひとのよさそうな王は腕っ節だけは強かったようで、若いころはマドリードの下町で派手な喧嘩をやったらしい。父に比べると左から2番目のフェルナンド皇太子は性格が悪そう。現に、ナポレオンが失脚したあと王位に再びついたときは酷い圧政をはじめる。

男性の肖像では‘ホベリャーノス’が大変気に入っている。この人物は自由主義を信奉する政治家でこの絵は法務大臣のときに描かれたもの。政務机に寄りかかり、その憂鬱そうな表情をみせる姿はなにか親近感をおぼえる。

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2011.02.16

近・現代絵画の先駆者ゴヤ!

2382_2            ‘キリストの磔刑’(1780年)

2381_2     ‘1808年5月2日 エジプト人親衛隊との戦闘’(1814年)

2380_2             ‘わが子を食らうサトゥルヌス’(1821~23年)

2383_2     ‘魔女の夜宴(上) サン・イシードロへの巡礼(下)’(1821~23年)

今回のマドリード美術館めぐりで最も期待値の高かった画家はゴヤとダリ。で、これまでとりあげた作品のなかでは二人の絵が断トツに多い。プラドでもゴヤの絵を10点紹介しようと思う。

4年前、ここの2階と3階に展示してあるゴヤの絵をそれこそ駈けずりまわってみた(拙ブログ07/3/20)。なにしろこれでもかというくらいゴヤ、ゴヤだから、作品のなかには部屋をスルーして見落としたり、見たつもりでも後から振り返ると印象の薄い絵もでてくる。だから、鑑賞時間の3割をそのリカバリーのためにあてた。

いの一番に捜したのが‘キリストの磔刑’。図録に載っているこの絵に対する見たい度は昨年5月ローマでカラヴァッジョの‘キリストの笞打ち’(10/5/15)と会って一気にあがった。絵の題材は磔刑と笞打ちで異なるが、描かれたキリストの全体の印象がすごく似ているのである。実際にゴヤのこのキリストの姿をみて、カラヴァッジョ作品と同じような感動を味わった。これほど美しいキリストの磔刑図を体験するのははじめて。ゴヤの生身の人物をとらえる描写力は本当にすごい!

マドリードの市民が独立のためフランス軍に蜂起した場面を描いた‘1808年5月2日 エジプト人親衛隊との戦闘’と‘1808年5月3日の銃殺’は同じ部屋で隣同士に並んでいる。ところが、銃殺の絵は強烈なイメージが残っているのに、蜂起の場面はどういうわけかしっかり見たという実感がない。今まさに銃殺されようとしている白い服を着て両手をあげる男に気持ちが入りすぎて、この絵が消されてしまったらしい。だから、初見の感覚でじっくりみた。

絵の舞台となったところはサン・フェルナンド美術アカデミーを訪問するときに通ったプエルタ・デル・ソル。画面で釘づけになるのは白馬の前足の付け根あたりから噴き出している真っ赤な血。馬上のエジプト兵は男たちに倒されナイフでメッタ刺きにされすでに絶命している。民衆の怒りが爆発し、すさまじい闘いのエネルギーがフランス軍は押しつぶしている感じ。

追っかけ画の上位にしていた2点をみたのであとは普通モードの目に切り替え、心のひだに深く刻み込まれている‘黒の絵’シリーズと対面した。足がとまるのはやはり‘わが子を食らうサトゥルヌス’。ギリシャ神話はかなり読み込んだので、サトゥルヌスが5人のわが子を自己防衛のため食い殺す話は知っている。でも、頭の部分が食べられ血だらけになっている体はどうみても大人。ゴヤはギリシャ神話に当時のスペインの圧政的な政治体制を見立て、グロテスクで混沌とした世界を表出したのであろう。

14枚ある黒い絵のなかで不気味でこわい顔をした人物が大勢でてくるのが横長の‘魔女の夜宴’と‘サン・イシードロへの巡礼’。この2枚は1階の食堂の壁に向かい合わせで描かれた。ほかの‘砂に埋もれた犬’(07/3/20)や‘棍棒での決闘’より長くみていたが、夢でうなされるのも嫌だからほどほどのところできりあげた。

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2011.02.15

リベーラ、スルバラン、ムリーリョも見逃せない!

2376_2     リベーラの‘ヤコブの夢’(1639年)

2377_2              スルバランの‘聖女イサベル’(1640年)

2378_2           ムリーリョの‘ロザリオの聖母’(1650年)

2379_2          ムリーリョの‘無原罪のお宿り’(1678年)

グレコの作品がある2階の細長い大きな部屋は25~29の番号がついており、25室にリベーラ、スルバラン、28・29室にムリーリョが割り当てられている。4年前ここはパスしたから今回じっくりみた。

リベーラ(1591~1652)の絵はプラドへ来る前、フェルナンドアカデミーやラサロ・カルディアーノで目慣らしの前菜をいただいたから、メインディッシュへの反応もよい。前回この絵だけはみておこうと思っていたのに時間がなくて実現しなかったのが‘ヤコブの夢’。

これは‘絵でみる聖書・ギリシャ神話’といったコンパクト本には必ず載っている絵で、以前からとても気になっていた。‘ヤコブ’をとると、そこらへんのオッサンが眠っている風俗画。眠っている人物を描いた絵ですぐに思いつくのはゴッホの‘昼寝’(オルセー)、ブリューゲルの‘穀物の収穫’(メトロポリタン)、そしてカラヴァッジョの‘悔悛のマグダラのマリア’(ドーリア・パンフィーリ)。

この3点は‘ああー、気持ちよさそうに寝ているんだ’と傍観者的な見方で終わりなのに、‘ヤコブの夢’は‘この男は一体どんな夢をみているのだろうか?’とつい立ち入って詮索したくなる。不思議な魅力をもった絵である。聖書に書かれている‘天の梯子’は右から射しこむやわらかい光のなかにかすかに描かれている。

06年、東京都美で‘プラド美展’が開催され、スルバラン(1598~1664)の作品が3点展示された。そのなかに‘神の愛の寓意’という目に力のある女性の肖像があった。それ以来、スルバランの女性の絵には関心を寄せている。昨年11月のロンドン訪問では、ナショナル・ギャラリーでカウボーイハットのような帽子を被った‘アンティオキアの聖マルガリア’を楽しんだ。

今回ティッセンでも‘聖女カシルダ’に出会った。そして、プラドの‘聖女イサベル’。またしても目力のある女性が横むきでこちらをみている。強く印象づけられるのは目だけではない。ふんわりした衣服の精緻な描写と白い肌にも惹きつけられる。この絵がやはり最もいい。しばらく息を呑んでみていた。

スペインの画家で心を虜にするのはグレコ、ベラスケス、ゴヤの3強とムリーリョ(1617~1682)。お気に入りのムリーリョの絵は‘ロザリオの聖母’、‘無原罪のお宿り’、そして‘善き羊飼い’(拙ブログ09/9/8)などの幼い聖者を描いた絵。‘ロザリオの聖母’はラファエロの聖母子のように心が癒される。本当にやさしいお母さんという感じ。

‘無原罪のお宿り’は3点あった。どの絵も聖母マリアはスペインの可愛らしい少女そのものだが、天使の数が違う。ここにとりあげたのは沢山の天使が聖母をとり囲んでいるもので、魅力度でいうとこれが一番。あとの2つは天使はぐっと減り下の4人が目立つくらい。ともに日本にやってきた(06/4/2)。

親しみがもてて軽やかな美しさを感じるマリアの前では真に心が洗われる。こういう宗教画ならいつまでもみていたい。

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2011.02.14

プラド自慢のグレコ、ベラスケスの傑作!

2374_2              グレコの‘受胎告知’(1599年)

2375_2             グレコの‘羊飼いの礼拝’(1612年)

2373_3     ベラスケスの‘ウルカヌスの鍛冶場’(1630年)

2372_3     ベラスケスの‘ブレダ開城(槍)’(1634年)

お気に入りのグレコ(1541~1614)の作品は2階のルーム26に飾ってある。2点の追っかけ肖像画‘フェンテ博士’と‘ヘロニモ・デ・セバーリョス’との対面を果たしたあとは、前回時間がなくてパスした‘受胎告知’などの大作をじっくり楽しんだ。そして嬉しいオマケが、どういうわけかトレドのエル・グレコ美にあるはずの‘トレド景観と地図’が展示してある。それともこここが所蔵する別ヴァージョン?

‘受胎告知’で惹かれるのは聖母マリアの卵のような形をした顔と大きな目、そしてマリアの衣の赤と大天使ガブリエルの緑の鮮やかなコントラスト。グレコの内面世界が表現された縦長の宗教画はいずれも神秘的な雰囲気につつまれ劇的な構図で描かれている。

異常に引きのばされたマニエリスム風の人体描写は好みが分かれるところ。マリアはそれほどでもないが、大天使の体の長いこと!中央の聖霊から発せられる光の輝きも目に焼きつく。数多くある受胎告知の絵で黄金色の光がこれほど眩しく描かれたものはほかにない。

‘羊飼いの礼拝’の前にも長くいた。これはグレコが自らの墓所と決めた修道院の礼拝堂に掲げるために描かれたもの。吸い寄せられるのが羊飼いの深紅の衣。生まれたばかりのキリストから放たれる強烈な光にあたり暗闇のなかで輝いている。神の光をあびる年老いた羊飼いはグレコ晩年の肖像といわれている。

プラドにあるグレコ作品(35点)はほぼ鑑賞済みになったので、次の目標はトレドで残っている絵。代表作の‘聖衣剥奪’(拙ブログ05/8/26)や‘オルガス伯の埋葬’(07/3/26)は目に深く刻み込んでいるのだが、サンタ・クルス美にある‘無原罪の御宿り’はまだ縁がない。だから、次回のスペイン旅行ではこれとエル・グレコ美にある聖人の肖像画をなんとしても見ようと思う。

ベラスケス(1599~1660)については昨年4月、日曜美術館が‘ベラスケスの家系はコンベルソだった!’(10/4/5)という興味深い切り口で特集していたので、その分析を思い出しながら‘ラス・メニーナス’などをみていた。‘ラス・メニーナス’は輝いている白い線に惹き付けられて近づきすぎると女の道化のデカイ顔がぼけてみえる。この傑作を楽しむためには、少し離れてみたほうがいい。

作品のなかでは肖像画より風俗画の色合いの強い神話画への関心が高い。画面全体に目が動くのが3点ある。‘ウルカヌスの鍛冶場’、‘織女’(10/4/7)、そして‘酔っぱらいたち(バッカスの勝利’(07/3/19)。大きな絵‘ウルカヌスの鍛冶場’はぱっとみると‘これのどこが神話画なの?’という感じ。でも、このライブな場面がいいのである。

民衆の日常生活のひとこまのなかで神話の題材が描かれているから、見る者はより身近にその神話をイメージできる。左にいるウルカヌスはアポロンから妻のヴィーナスの不貞を聞かされ、ショックを隠しきれない様子。

はじめてここでベラスケスの絵を体験したとき最も感動したのが‘ラス・メニーナス’と垂直に何本も立つ槍が印象的な‘ブレダ開城’。この‘槍’は何度みても魅了される。敗軍の将をこれほどいたわる戦争画がほかにあっただろうか。ベラスケスは本当に心根のやさしい画家である。

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