2015.12.29

期待通り質の高い‘ラファエロ前派展’!

Img   ミレイの‘いにしえの夢ー浅瀬を渡るイサンブラス卿’(1857年)

Img_0002    ロセッティの‘シビラ・パルミフェラ’(1865~70年)

Img_0003     バーン=ジョーンズの‘レバノンの花嫁’(1891年)

Img_0001     ムーアの‘夏の夜’(1890年)

渋谷のBunkamuraでは現在‘英国の夢 ラファエロ前派展’(12/22~3/6)が行われている。昨年1月、森アーツセンターであったビッグなラファエロ前派展はテートのコレクションだったが、今回公開されているのはリバプール国立美の所蔵作品。

はいってすぐミレイ(1829~1896)の‘いにしえの夢-浅瀬を渡るイサンブラス卿’が出迎えてくれた。これはミレイの画集には必ず載っている作品、今回ミレイはこの中世的な騎士が2人の子供を馬に乗せて進むという物語性を感じさせる傑作のほか‘春’や‘ブラック・ブランズウイッカーズの兵士’も含まれている。

2008年にBunkamuraは質の高い作品を集めたミレイ展を行っているが、今回出品された8点はそのときに欠けていた主要なピースをもってきた感じ。おそらくこれで‘ミレイのいい絵は全部おみせしました!’という思いだろう。すばらしい。

ロセッティ(1828~1882)の‘シビラ・バルミフェラ’もラファエロ前派ファンにとっては嬉しい一枚。理想をいえばウォーカーアートギャラリーにある‘ダンテの夢’をみたかったが、これは強欲というもの。イギリスを訪問する機会がまたあればロンドンから高速鉄道に乗ってリバプールをめざしたい。

リバプールにあるバーン=ジョーンズ(1833~1898)は手元の画集に載っている2点を期待していたが、出品されていたのはこれではなく水彩画の大作‘レバノンの花嫁’、昨年は森アーツセンターで‘愛に導かれる巡礼’に出会い、今年はボストン美でも‘希望’と再会した。一歩々コンプリートの道を進んでいると思えるのが嬉しい。

日本ではなかなかみることができない耽美主義派のムーア(1841~1893)、これまでみたのは1人の女性を描いたものだったが、目の前に現れたのは横に並んだ4人の群像画。絵をみているというより古代ギリシャの大理石彫刻をみているような気分。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2014.02.28

ターナーやコンスタブルとは違う風景画!

Img     ミレイの‘安息の谷間’(1858年)

Img_0002     ブラウンの‘干し草畑’(1855年)

Img_0003      コリンズの‘5月、リージェンツ・パークにて’(1851年)

Img_0005     ダイスの‘ペグウエル・ベイ、ケント州’(1858~60年)

ラファエロ前派で関心の大半を占めているのはロセッティ、ミレイ、そしてバーン=ジョーンズ、だから正直言ってハントとかブラウン、ヒューズの作品の前に立っている時間は長くない。

ロセッティの描く女性画は歌麿の大首絵の美人画のようにどっと迫ってくる感じだが、ミレイ(1829~1896)の女性肖像画は子どもでも大人の女性でも全身像によりその美を完璧に表現しているイメージが強い。とにかく肌合い、髪の毛、衣装がびっくりするほど精緻に描かれているので強く印象に残る。

1858年に制作された‘安息の谷間’は2008年にBunkamuraでお目にかかったとき、右の尼僧の目力に圧倒された。夕暮れ時の墓場、左ではもうひとりの尼僧が腕まくりをして墓を掘り起こしている。この手前の二人とその向こうに立ち並ぶ糸杉とポプラは並行的に描かれているので、画面はとてもみやすい。だから、よけいにこの右の女性の目が気になる。

はじめてみたブラウン(1821~1893)の風景画が新鮮だった。イギリスの画家の風景画というとコンスタブルとターナーをすぐイメージするが、ラファエロ前派のブラウンにも風景を描いたものがあった。モチーフは干し草畑、モネの有名な連作積み藁やミレーの農村の絵とはちがい、ここでは月が輝いている。これは農村のイメージが変わる幻想的な光景。小さな絵なのに強く印象付けられた。

もう2点足がとまった風景画がある。コリンズ(1828~1873)とダイス(1806~1861)の作品。どちらもすごく奥行きを感じさせる絵。共通しているのは視線が横に動くこと。手前をまず左右にみてだんだん上にあがっていく。こういう風にみていくと遠近法とはちがって人物でも木々や草花、そして断崖でもじっくり目が追っていける。そのため、描かれた人物がなにをしているのかよくイメージできる。

‘ペグウェル・ベイ、ケント州’はモネやクールベが描いたエトルタの海岸を連想した。テートブリテンが作った図録(英語版)にこの絵は載っており目にとまっていたが、本物は見ごたえのあるいい絵だった。これでイギリスの風景画に対する見方が変わった。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2014.02.27

名作揃いのミレイと仰天のバーン=ジョーンズ!

Img_0001_2     ミレイの‘オフィーリア’(1851~52年)

Img_0002_2     ミレイの‘両親の家のキリスト’(1849~50年)

Img_0003_2     スタンホープの‘過去の追想’(1858~59年)

Img_0004_2     バーン=ジョーンズの‘愛に導かれる巡礼’(1896~97年)

昨年7月テレビ東京の人気番組‘美の巨人たち’でターナーの‘戦艦テメレール’がとりあげられたとき、興味深い話が盛り込まれていた。それは2005年にBBCラジオが行ったアンケート結果。

質問は‘イギリスでみることのできる最も偉大な絵画は何か?’というもの。ベスト10のなかで6つがイギリスの画家の作品。その顔触れの半分はなるほどと思ったが、半分は意外なものだった。ランキングの上からあげてみると、

1位 ターナーの‘戦艦テメレール’
2位 コンスタブルの‘干し草車’
5位 ホックニーの‘クラーク夫妻とパーシー’
7位 レイバートンの‘ウォーカー師’
8位 ブラウンの‘イギリスの見納め’
10位 ホガースの‘放蕩息子一代記’

ターナーやコンスタブルがイギリス国民に大変愛されている画家であることはよくわかる。わからないのはここにミレイ(1829~1896)の‘オフィーリア’もロセッティ(1828~1882)の‘プロセルピナ’も入ってないこと。同じラファエロ前派のブラウンの名前があるのに。

‘オフィーリア’はイギリス人にとっては偉大な絵画ではないのだろうか?イギリス国内で長いことミレイの回顧展が行われなかったのはこの画家の愛され度が関係しているのかもしれない。

今回ミレイの作品は6点、いずれも魅力的な作品だが08年Bunkamuraであった回顧展でも展示された。何度対面しても言葉を失いじっとみてしまうのが‘オフィーリア’、こんな傑作がベスト10にあがってこないのが不思議でならない。

‘両親の家のキリスト’もお気に入りの一枚。視線が向かうのは中央の左手を釘で傷つけたキリストではなく、右端で傷を洗うために水をもってきたヨハネ少年。その目がじつにいい。こういう少年はどこにでもいる。この絵は宗教画ではあるが日本の浮世絵でいう見立て絵と同じ発想。普通の人たちの日常生活に置き換えて描いているので宗教臭さがなくすっと入っていける。

スタンホープ(1829~1908)の‘過去の追想’は非常に気になる絵。この気持ちは東京都美ではじめてみたときと同じ。女性の表情はどうも冴えない、感情の起伏が激しそうにはみえず、どちらかというと内向的な性格でなにか気の晴れないことをずっと引きずっている感じ。この絵をみるたびにドガの‘アプサント’を思い浮かべる。

今回でていた作品のなかで一番のサプライズはバーン=ジョーンズ(1833~1898)の描いた‘愛に導かれる巡礼’、縦1.57m、横3.05mの大作、美術本では見慣れた絵だがこれほど大きな絵だったとは!左に描かれた頭巾を被った巡礼者はちょっと不気味。横を向き腰を老人のように大きく曲げているのでぱっとみると悪魔と見まがう。この絵を日本でみれたのは幸いだった。ミューズに感謝。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2014.02.26

魅力いっぱいの‘ラファエロ前派展’! ロセッティ

Img_0001       ‘プロセルピナ’(1874年)

Img_0002        ‘ベアタ・ベアトリクス’(1864~70年)

Img_0003_2       ‘モンナ・ヴァンナ’(1866年)

Img_0004       ‘聖なる百合’(1874年)

現在、六本木ヒルズにある森アーツセンターで開催中の‘ラファエロ前派展’(1/25~4/6)をみてきた。この展覧会は4/6までのロングラン興行、作品を所蔵するテートブリテンは自慢のお宝であるロセッティ(1828~1882)の‘プロセルピナ’やミレイ(1829~1896)の‘オフィーリア’をこれほど長いこと不在にしていいのだろうかと、つい余計な心配をしてしまう。

イギリスの美術館でナショナルギャラリーの作品は日本で一度も名品展を体験してないのに、テートブリテンのものは幸運なことに鑑賞する機会が多い。1998年には東京都美で名画がごそっと公開され、念願だった‘プロセルピナ’と‘オフィーリア’を今回のようにロンドンではなく日本でみることができた。このときからラファエロ前派の虜になった。

そして、2008年Bunkamuraがなんと‘ミレイ展’を主催、‘オフィーリア’がまた登場した。このようにターナー、コンスタブルとともにイギリス絵画の中核的な存在であるロセッティやミレイの代表作が何度もお披露目されるということは日本でラファエロ前派の人気が高いことの証。そのためか会場の森アーツセンターには予想をこえる大勢の人たちがつめかけていた。

お目当てのロセッティは油彩、水彩があわせて19点でている。圧巻なのが最後の部屋に飾られた7点。これはすごいラインナップ。まさにロセッティのいい絵、全部みせちゃいます、という感じ。一番の収穫はアヘン中毒がもとで亡くなった妻のシダルを回想して描いた‘ベアタ・ベアトリクス’。

ロセッティは長い時間をかけてこの油彩を仕上げたあと、すくなくとも6枚のレプリカを制作している。これまでフォッグ美蔵の水彩ヴァージョンと日本で遭遇し、08年にはシカゴ美で油彩のものに出会った。ところが、最初に描かれた油彩を08年訪問したテートブリテンでみる予定だったの不運にも展示されてなかった。

だから、残念な気持ちを引きずっていたが、6年経ってようやくお目にかかることができた。素直に嬉しい。金髪のまわりに日があたり神秘的な雰囲気につつまれたシダルの姿を息を吞んでながめていた。

黄色の豪華な衣装を身につけたワイルディングがモデルとつとめた‘モンナ・ヴァンナ’は見栄えのする見事な女性画。東京都美の名品展にも展示されたので今回で3度目の対面となったが、その強すぎる魅力のためいつも近くに寄っていけない。

初見の‘聖なる百合’は日本でみたことのある‘祝福されし乙女’(フォッグ美)のための習作、金箔が施された背景と衣装、そしてふさふさとした金髪に吸いこまれていく。瞬時にクリムトの絵が頭をよぎった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.07.05

期待を大きく上回る‘バーン=ジョーンズ展’!

4043_2   ‘連作・ペルセウス 果たされた運命’(1882年頃 サウサンプトン市立美)

4040_2     ‘連作・いばら姫 眠り姫’(1872~74年  ダブリン ヒューレイン美)

4042_2     ‘「怠惰」の戸口の前の巡礼’(1884年 ダラス美)

4041_2   タペストリー‘東方の三博士の礼拝’(1894年 マンチェスター・メトロポリタン大)

三菱一号館美で開催されている‘バーン=ジョーンズ展’(6/23~8/19)をおおいに楽しんだ。‘いつか行きたい美術館’シリーズでバーミンガム美(拙ブログ11/11/17)とサウサンプトン市立美(11/11/19)をとりあげたとき、バーン=ジョーンズの作品を
5点入れていた。その絵が果たしてこの回顧展にやってくるか?

わくわくしながら展示室をまわった。そして、だんだん興奮してきた。なんと‘魔法使い’(バーミンガム美)と‘果たされた運命’、‘聖杯堂の前で見る騎士ランスロットの夢’(ともにサウサンプトン市立美)の3点が飾ってあるではないか!

サプライズはまだ続く。バーミンガム美からは連作‘ピグマリオンと彫像’(4点)や‘巡礼を導く「愛」’が描かれたすばらしい布地がやってくるし、代表作のひとつ‘眠り姫’、そして色鮮やかで見事な出来栄えのタペストリー‘東方の三博士の礼拝’まである。なんとも豪華なラインナップ。本当にスゴイ回顧展。日本でバーン=ジョーンズ(1833~1898)の傑作がこれほど多くみられるなんて思ってもいなかった。グローバルクラスの回顧展に遭遇したことを心から喜んでいる。

‘果たされた運命’はペルセウスの鋭い目がとても印象的。これに対してドラゴンはすでに戦意喪失気味、開いた口は弱々しくイルカの体を連想させるそのながい長い胴体は草月流の生花みたいに装飾的なフォルムをつくっている。

大作‘眠り姫’をみているとボッティチェリの‘春’に描かれた花々がダブってくる。‘春‘に登場する女性たちが立ち姿ですがすがしい表情をみせているのとはちがい‘眠り姫’の横たわって眠る姫君と待女たちはロマンと神秘的な雰囲気につつまれているが、画面全体に装飾的な描写がみられる点で二つの絵はよく似ている。

今回びっくりしたのがアメリカのダラス美から出品された‘「怠惰」の戸口の前の巡礼’。‘夢の美術館’に選んだダラス美がバーン=ジョーンズのこんないい絵を所蔵していたとは!若い女性と青年を画面いっぱいに横から描くところは‘ランスロットの夢’の構成と同じ。これは記憶にずっと残りそうな絵。

最後の部屋に飾ってあったタペストリーを気持ちよくながめていた。日本でこんな目の覚めるような赤や青や黄金で彩られたタペストリーを体験できるなんて夢のよう。
満足度200%のバーン=ジョーンズ展だった。

尚、この展覧会は次の美術館にも巡回する。
・兵庫県立美:9/1~10/14
・郡山市美:10/23~12/9

| | コメント (8) | トラックバック (0)

2010.12.16

ロセッティの傑作‘白日夢’と対面!

2204_2           ボッティチェッリの‘婦人の肖像’

2203_2            ロセッティの‘白日夢’

2202_2      バーン=ジョーンズの‘水車小屋’

美術館に入館すると館内の展示地図を一応手に入れるが、はじめてのときはこれがあまり役立たない。世の中には街の地図をみて自分の今いる場所と目的の場所の位置関係がすぐイメージできる人がいる。こういう人をいつも羨ましく思っている人間だから、慣れない美術館では体だけはやたらと動くがその流れは行き当たりばったりが多い。

ヴィクトリア&アルバート美はとても大きな美術館で、展示室の数が多いからお目当ての場所にたどりつくのに時間がかかる。ボッティチェッリ(1445~1510)の初期の作品‘婦人の肖像’を見つけるのに一苦労。

ある係員は‘これは2階の絵画のコーナーにある’といい、別の係員に聞くと‘あの階段を上がって右に進め’とかいろいろ案内してくれるのだが、どこへ行っても姿をみせない。もう、嫌になってルネサンスの彫刻の展示室へ先に行きドナテッロの浮彫りで思いの丈をとげ、さてほかへ移動しようとしていたら、ひょいと現れた。隣の方と顔を見合わせて‘ここにあるじゃない!’ まったく疲れる。

‘婦人の肖像’はボッティチェッリの20代後半の作品。初期の肖像画では、ボッティチェッリは光と陰により顔を生き生きと描いているが、この婦人にもそれがみられる。ボッティチェッリは大好きな画家だから、ラファエロのように全点鑑賞をライフワークにしている。残り2点のラファエロに比べると少し遅れをとっているが、一歩一歩追い上げたい。

狙いのルネサンスが済んだので、次はラファエロ前派のロセッティ(1828~1882)とバーン=ジョーンズ(1833~1898)の絵(拙ブログ09/5/17)。これらは3階のルーム81にあった。途中に目がくらくらするジュエリーの部屋があったが、時間がないので今回はパス。

‘白日夢’はロセッテイが亡くなる2年前に描かれた。期待通りのすばらしい絵だった。あの代表作‘プロセルピナ’(08/2/9)同様、女性から発せられる官能的な香りはまさに生唾もの。それもそのはず、モデルは‘プロセルピナ’同様ジェインで、彼女は同じ絹のドレスを着てポーズをとっている。

ロセッティは‘白日夢’にこんな詩を添えている。
‘女は夢見る、忘れられた書物のうえに
その手から忘れられた花が落ちるときまで’

女性を単独で描いた絵でこれまで体験したものや画集で知っているものをざっとレビューしてみると、‘プロセルピナ’と‘白日夢’はやはり特別な感じがする。傑作2点をみれたのだから、これ以上の幸せはない。

バーン=ジョーンズは期待していた‘愛の車’とは会えず、何年か前日本にやってきた‘水車小屋’が展示されていた。ロセッテイでもバーン=ジョーンズでもみたい絵がまだいくつも残っている。願いを叶えるため、いつかイギリスにある日数滞在して所蔵する美術館、例えば、テート・ブリテンとかマンチェスター市美とかアシュモリアン美を訪問してみたい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.05.01

日本の美術館名品展は夢の競演?

555_2
557_2
556_2
東京都美で開催中の‘日本の美術館名品展’(4/25~7/5)を見た。テーマ設定型の企画展にはあまり関心がなく、ひとりの作家の回顧展とか‘自慢のお宝見せます!’という美術館名品展のほうが目に力が入る。だが、この名品展への期待値は普通。

チラシは東京都美のいつもの悪い癖で‘夢の競演 公立100館のコレクション’、‘選りすぐりの名品を一堂に公開します’などPRしまくり。がっかりするような展覧会では決してなく○だが、美術館が宣伝していることのまあ半分がいいところ。夢の競演にわくわくするほどの名品がそれほど沢山ある?という感じ。

公立美術館のネットワーク組織、美術館連絡協議会というのがあってその創立25周年を記念するイベントあるいはお祭りと思ったほうがわかりやすい。だから、数はやたらと多い。協議会から美術館へ‘ご自慢の名品を出品してください。こちらからは指定しませんので、貴美術館の選択にお任せします’という業務連絡メールが入り、100の美術館が応じ、220点が集まったのだろう。

テーマがあるわけではないから、美術館側も楽といえば楽。こういうNO指定の場合は美術館の顔になっているような絵は絶対出さない。だから、夢の競演にはならない。いくつか例をあげると、名古屋市美からの出品はユトリロの‘ノルヴァン通り’で、有名なモディリアーニの‘お下げ髪の少女’ではない。

宮崎県近美にはマグリットの‘白紙委任状’とか‘現実の感覚’といった一級のシュルレアリスム絵画があるのに、でているのはこれではなくてシニャックの絵。シニャックもいい絵だが、やはりマグリットを見たい。山梨県立美だって、‘ミレーの種まく人はとてもとても、ポーリーヌ・V・オノの肖像で回答しとこう’といった具合だろう。

日本の美術館で西洋絵画のいい絵があるのは大原美、ひろしま美、ブリジストン美、国立西洋美、ポーラ美、損保ジャパン美、大阪市立近美準備室、村内美、川村美。また、日本の洋画コレクションで質の高さを誇るのは東近美、東博、ブリジストン、ウッドワン。資金力に制約のある公立の美術館が人気の西洋画を手に入れるのはそう簡単なことではなく、有名な美術館にくらべると数が少ない。

だから、こういう記念展のとき上にあげたような名画がでてくると、この展覧会は気合いが入っているなということになる。だが、実際は予想していた通り。手元にある美術本をいろいろみてみると、100の美術館のうち規模の大きなところでランキング1位の絵を出品したのは少ないのではないか。あまり期待しすぎてもいけないのだが。

が、サプライズの絵が二、三あった。その筆頭が上のバーン=ジョーンズの‘フローラ’。これを所蔵しているのは郡山市美。最近、読み終えた‘バーン=ジョーンズの芸術’(ビル・ウォーターズ著、晶文社、1997年5月)にこの美術館が‘アヴァロンのアーサー王の眠り’のための大型スケッチの所有者としてでてくる。油彩までもっていたとは!どういう縁でこの絵を手に入れたかは知らないが、とにかくすばらしい。これまで日本で見たラファエロ前派の作品は西洋美にあるロセッティの‘愛の杯’しかないから、感心しながら見ていた。

もう一点、初見の絵で足がとまったのがある。エゴン・シーレの大きな絵‘カール・グリュンヴァルトの肖像’(豊田市美)。これは相当の資金を要したであろう。再会を楽しんだのは日本にあるミロ作品で一番いいと思っている福岡市美蔵の‘ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子’、イブ・クラインの‘人体測定ANT66’(いわき市美)、バルラッハの‘母なる大地Ⅱ’(愛知県美)、ブランクーシの抽象彫刻‘空間の鳥’(滋賀県近美)。

日本画は例によって前期(4/25~5/31)、後期(6/2~7/5)に分けて展示される。西洋画に較べると当たり前のことだが、質のいいのが揃っている。でも、秘かに期待していたのは全部ダメだった。普段は行けそうにない佐久市近美にある横山操の‘雪原’とか鹿児島市美蔵の西山英雄作、‘噴煙’とか和歌山県近美の稗田一穂作、‘帰り路’など。やはり、どこも西洋画同様、自慢の代表作は出したがらない。

真ん中は竹内栖鳳の‘絵になる最初’(京都市美)。ここへ足を運んだのは実はこの絵と対面するため。女性画を見るのは絵画鑑賞の大きな楽しみだから、西洋画でも日本画でも女性を描いた絵には目がない。この左手で顔を隠すしぐさをする女性が気になって仕方がなかったが、これまで展示替えとかで縁がなかった。やっと会ったが、こういう女性はあまりじっとはみれない。でも、それで満足。

下の小杉放庵の‘金太郎遊行’(栃木県美)と遭遇したのは幸運だった。出光美にもいい金太郎の絵があるが、これにもすごく魅了される。下期に狩野芳崖のお目当ての絵がでてくるので、また出かけるつもり。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2008.12.17

08年感動の美術鑑賞プレイバック! テート・ブリテン

236_2
237_2
238_3
つい最近、ふと立ち寄った古本屋でいい本が目にとまったので即購入し、一気に読んだ。それはラングラート著‘D.G.ロセッティ’(90年9月、みすず書房)。この本は以前どこかの本屋で手にとったことはあるが、価格が4944円と高く、また画家のモノグラフを読む基準としている‘本物の絵7割鑑賞’に届いてないので、買うのをやめていた。

ところが運よく、2000円の格安で立派なロセッティ本が手に入った。1月、テート・ブリテンでこの画家の作品を沢山みたから、本に書かれていることが真綿に水が染み込むように頭の中に入っていく。で、テート・ブリテンで見た感動の絵画プレイバック!はロセッティとこの本により理解が進んだミレイ、ホイッスラーの作品を取り上げることこにした。

★ロセッティの‘受胎告知(見よ、われは主のはした女なり)’(上の画像)
★ミレイの‘両親の家のキリスト(大工の仕事場)’(真ん中)
★ホイッスラーの‘ノクターン:青と金色ーオールド・バタシー・ブリッジ’(下)

ロセッティ(1828~1882)がミレイ(1829~1896)らと共にラファエロ前派を結成したのは1948年、ロセッテイが20歳のとき。ラファエロ前派の活動はわずか3年で終わるが、このとき描かれた代表作が‘聖母マリアの少女時代’(1849)と‘受胎告知’
(1850)。‘受胎告知’のマリアのモデルをつとめたのはロセッテイが女神として恋するエリザベス・シダルで、‘ベアタ・ベアトリクス’(拙ブログ9/15)もこのエリザベス。

ダンテにとってのベアトリーチェのような存在がエリザベスなのに対し、‘プロセルピナ’(2/9)をはじめロセッティが数多く描いた女性が魔性的な美貌のジェイン・バーデン。ジェインはウィリアム・モリスの妻なのだが、ロセッティはエリザベスが死んだのちはジェインの虜になる。

ロセッテイにはこの二人のほかにも最後の最後まで縁が切れなかった娼婦ファニー・コンフォースや最高傑作‘モンナ・ヴァンナ’(テート・ブリテン)のモデルになったアレクサ・ワイルディングなどの愛人がいるが、これらの女性画は歌麿の美人画のように一見すると皆同じ女性に見える。

ふさふさした金髪にはウエーブがかかり、透けるような白い肌が口紅の赤を印象づけ、衣装の緑や赤はステンドグラスのような輝きを放っている。驚愕するのはロセッテイは麻薬中毒で健康状態が終始不安定だったのに、作品は死ぬ間際までしっかり描いていること。やはり、この画家は天才。

真ん中のミレイの絵はテート・ブリテンには展示されてなく、Bunkamuraの回顧展(9/12)ではじめて対面した。‘マリアナ’や‘木こりの娘’同様、マリアやヨセフ、キリストの肉体の精緻な描写と木の質感の見事さにしばらく立ち止まってみていた。この絵で忘れられないのが右にいる幼い洗礼者ヨハネの目つき。日本画家の土田麦僊の絵に、女の子を泣かせた男の子が申し訳なさそうにその女の子を横目にみている絵があるが、これがヨハネがキリストを横目でみるところとそっくり。

ホイッスラー(1834~1903)の絵は日本であった展覧会でもみたから二度目の鑑賞。構図は広重の‘江戸名所百景・京橋竹がし’を参考にしているのは明らか。青一色の背景に光る黄金の点々が視線を引き付け、対象のぼやけた描写や船頭や上の橋を渡る人々のシルエットはノククターンの題名がぴったりの詩情を漂わせている。

ラスキンの侮辱的な批評を訴えた裁判で裁判官からは橋の上の影をさして‘これは人間なのか?’と尋ねられ、ホイッスラーは‘お好きなようにお考えください’と答えている。何であれ先駆者の心は普通の人にはなかなかわかってもらえない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.09.15

もう一度見たいロセッティ、ウォーターハウス、サージェントの名画!

33_2
32_2
31_2
1,3月の海外美術館巡りのあと、感動した作品を毎日3点ずつ紹介したが、ほかの画家とのバランスとかでいい絵なのに割愛したものがいくつかあった。3日前からラファエロ前派作品が続いているので、こぼれおちた名画のなかからこれらと響き合うとっておきの3点に急遽登場してもらった。

★ロセッティの‘ベアタ・ベアトリクス’: シカゴ美(上の画像)
★ウォーターハウスの‘レイディ・オブ・シャロット’: テート・ブリテン(真ん中)
★サージェントの‘マクベス夫人に扮するエレン・テリー’: テート・ブリテン(下)

テートのロセッティ作品では、一度みたことのある‘プロセルピーナ’より東京都美にやってこなかった‘ベアタ・ベアトリクス’(ラテン語の祝福されたベアトリーチェという意味)に期待していたのだが、どういうわけか‘プロセルピーナ’しかなかった。スペースの関係で二つは同時に展示しないのか、それともどこかへ貸し出し中だったのか?残念だったが、ウィンスロップコレクション展のとき、水彩のレプリカを見ているので、体中の力がドッとぬけるほどのことはなかった。

この絵のレプリカが6点あるらしいが、上のシカゴ美蔵は1872年に描かれた油彩のレプリカ。テートの原画よりは輪郭がすこしはっきりしており、下のプレデッラには‘神曲・煉獄編’で地上の楽園に来たダンテがベアトリーチェと再会する場面が描かれている。

この絵の前で興味深い光景をみた。70歳をこえている二人のお婆さんが少女のようなまなざしでこの絵を見みつめ熱心に話をしているのである。モネやルノワールの絵の前なら、とくに気にもとめないのだが、普通のお婆さんがラファエロ前派についてしゃべっているのにはちょっと驚いた。この街の文化・芸術度の高さを見せつけられた。二人の会話はこんな風だったかも、

‘ベアトリーチェのモデルはロセッティの死んだ妻よね。瞼を閉じ恍惚状態のベアトリーチェの手に小鳥が死の象徴である芥子の花を落としている’
‘そうね、後ろはフィレンツェの街でしょ。右にいるのがダンテで左が愛の姿ね。ダンテの前の日時計はベアトリーチェの死の時刻を示し、愛の手の消えかかった炎はベアトリーチェの命を表しているのね’

ウォーターハウスが‘オフィーリア’に想を得て描いた‘シャルロット’はいつか見たいと願っていたが、実際絵の前に立つと言葉がでないほど絵のなかに惹きこまれた。ほかにあったウォーターハウス作品にはそれほどぐっとこなかったが、これは別格。まったくすばらしい絵。小舟のまわりの草木や水面を流れる葉などリアルな小川の情景は‘オフィーリア’の雰囲気と似ている。呪いがふりかかり夢遊病者のような目つきになっている美しいシャルロットは、恋い焦がれるランスロット卿がいるキャメロット城のある岸に小舟が辿りつくころまで、命を持ちこたえられるだろうか?悲劇の結末が待っているような気がする。

サージェントの思わず‘うぁー’と声が出そうになる肖像画はラファエロ前派との関連はないが、見ていると体がフリーズする点では‘プロセルピーナ’と同じタイプの絵。まさに目の前の舞台で名女優がシェークスピア劇を演じている感じ。そして目が釘付けになるのは目の覚めるような青や緑の衣装描写とゴールドの飾り物の輝き。この絵と出会ったことは一生の思い出になる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.09.14

もっと見たいバーン=ジョーンズの名画!

30_2
29_2
28_2
ロセッティやミレイより少し若いバーン=ジョーンズもこれからその作品を熱く鑑賞したい画家。バーン=ジョーンズの絵をまとまって見たのは02年に西洋美であった‘ウィンスロップコレクション展’と今年の海外美術館めぐりの2回だけで、まだ十数点しかない。

絵の記憶が今も鮮明に残っているのが1月、3月にみたテート蔵の‘黄金の階段’(拙ブログ2/9)、‘コーフェチュア王と乞食娘’、オルセーの‘有為転変’、ボストンの‘希望’(4/24)。ウィンスロップ展では‘深海’と‘バーンとプシュケ’が印象深い。

テートでは2点しかみれなかったが、ロセッティ、ブレイクと一緒にこの画家の本を買ったので、今はこれで作品を楽しんでいる。画集に載っている作品のなかで是非お目にかかりたいものを3点あげると、

★真鍮の塔が建設されるのを見るダナエ: グラスゴー美(上の画像)
★ウェヌスの鏡: リスボン、グルベンキアン美(真ん中)
★眠り姫: ロンドン、ファリドン・コレクション・トラスト(下)

‘ダナエ’(1888)はバーン=ジョーンズの豊かな想像力に感心させられる絵。よく知っている‘ダナエ’の絵は例えば、ティツィアーノ作品(07/3/23)のように、閉じ込められた部屋にいるダナエにゼウスが変身した黄金の雨が降り注ぐ場面だが、この絵ではダナエがいずれ中に入れられる真鍮の塔の建設現場を手前の部屋から見ているところが描かれている。ちょっと思いつかないアイデアである。神話を題材にするにしても、型にはまった描き方をしないところがラファエロ前派流。

‘ウエヌスの鏡’(1873~1890)にもすごく惹きつけられる。左に立っているのがウェヌスで膝をついて水面をのぞいているのはお付きの女たち。ウェヌスをふくめここにいる女性は皆同じような顔をしている。これはロセッティの絵に登場する女性たちにも言える。もう一つのウェヌスの絵、‘ウェヌス礼讃’(ニューキャッスル・アポン・タイン、レイング・アート・ギャラリー)の装飾性の高い描写と巧みな構成にも魅了されるので、2枚の絵を並べて見てみたくなる。

話が横に逸れるが、リスボンにあるグルベンキアン美の名品展をどこかの美術館で開催してくれないかとひそかに願っている。オルセー、ルーヴル展のシリーズも大歓迎だが、バーン=ジョーンズの絵のほかにもラリックの有名な宝飾品など質の高いコレクションを誇るグルベンキアン美とか古典絵画の傑作が揃っているナポリのカポディモンテ美なども積極的に新規開拓してもらいたい。

バーン=ジョーンズ作品には人物が眠っているのがいくつかあるが、‘眠り姫’(1870~76)はそのひとつ。おとぎ話から霊感を得て甘美に描かれた王女や待女の眠る姿をまじかで見たい衝動に強く駆られる。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

やまと絵 | アメリカ絵画 | アートに乾杯! | アール・デコ | アール・ヌーヴォー | イギリス絵画 | ウィーン世紀末 | エコール・ド・パリ | オペラ | オリンピック | キュビスム | ギリシャ・ローマ史 | クラシック音楽 | サッカー | シュルレアリスム | ジャズ | スペイン絵画 | スポーツ | ズームアップ 名画の響き合い! | ダダ | テニス | ナビ派 | バルビゾン派 | バロック | ファッション | フォーヴィスム | マニエリスム | マラソン | ミュージカル | ミューズに願いを! | ラファエロ前派 | ルネサンス | ロココ絵画 | ロマン派 | 中国絵画 | 仏画 | 個人コレクション 夢の傑作選! | 円山四条派 | 写実派 | 北方絵画 | 印象派 | 古代遺跡 | 夢の‘日本美術里帰り展’! | 夢の展覧会 | 奇想派 | 学問・資格 | 工芸 | 建築 | 抽象絵画 | 文人画 | 文化・芸術 | 新古典派 | 旅行・地域 | 日本の歌 | 日本の洋画 | 日本の美術館 | 日本の美! | 日本映画 | 日記・コラム・つぶやき | 映画・テレビ | | 書籍・雑誌 | 未来派 | 東洋・日本彫刻 | 民画 | 水墨画 | 洋風画 | 浮世絵 | 海外の美術館 | 海外の音楽 | 海外映画 | 満足のキメ手はリファレンス作品! | 狩野派 | 現代アート | 琳派 | 癒しのアートにつつまれて! | 相撲 | 素朴派 | 絵巻 | 美術に魅せられて! | | 芸能・アイドル | 行動経済学 | 街角ウォッチング | 表現主義 | 西洋彫刻 | 西洋画・日本画比較シリーズ | 象徴派 | 近代日本画(古典・歴史画) | 近代日本画(女性画) | 近代日本画(花鳥画) | 近代日本画(風景画) | 近代日本美術の煌き! | 近代西洋絵画 | 野球 | 陶磁器 | 音楽が誘う絵画の世界! | 風俗画 | 食べ物