2008.06.27

東博浮世絵エンターテイメント! 春信

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相変わらず東博の平常展に出品される浮世絵を見続けている。現在でている作品29点の展示期間は6/3~6/29。2月以降、西洋画の紹介に追われ、鑑賞した作品をアップできなかったので、本日は久しぶりの“東博浮世絵エンターテイメント!”

ここへはもうかれこれ4年近く通っているから、鈴木春信のような重点鑑賞絵師は二周り目の絵にちょくちょく遭遇する。今回出ているのは“小野道風”(上の画像)、“見立伊勢物語(八つ橋)”(真ん中)、“舫い舟美人”(もやいふねびじん、重美、下)の3点。

春信の絵は中国や日本の古典文学にでてくる話とか歴史上の人物の逸話を題材にしたものが多いので、絵の楽しみにプラスαがある。“小野道風”はあの逸話“柳に蛙”を絵画化したもの。話を知らない人でも絵の中にすっと入っていける。柳に一生懸命跳びつこうとしている2匹の蛙は真剣そのもの。川岸には傘をさし、口を真一文字にむすんだ貴族がいる。この男が平安の能書家、小野道風。

“俺は今、書の手習いに行き詰まっているが、蛙も柳の葉につかまるのになかなか苦労しているなあー。でも、この蛙たちは俺みたいに気が萎えることもなく黙々と跳んでいる”。数度のチャレンジの末、首尾よく柳に跳び移った蛙をみて、小野道風は“もっと努力しないといけない!”と心を入れ替え、書の修行に再び精進する。春信は“見立小野道風”という絵暦も描いており、ここでは蛙は一匹で、道風は若い娘の姿に置き換えられている。

真ん中の“見立八つ橋”はお気に入りの一枚。目を惹くのが腰をかがめて草藁の紐を締めなおしている若衆と菅笠を被り右足を一歩踏み出すポーズをしている女性。春信は菱川師宣同様、動きのある表現が大変上手い。動感描写の上手い絵師は観察力に長じているだけでなく、運動神経もよかったのではなかろうか。話が横にそれるが、クラシックの指揮者のクライバーはシャープで優雅な指揮ぶりで有名だったが、踊りもものすごくうまかったらしい。

動きのある人物表現とともに感心するのが八つ橋と杜若(かきつばた)の配置の仕方。ジグザグに曲がった八つ橋を全部見せてくれないので、見る者は画面からはみ出した部分を自分でイメージして、絵よりもっと広い空間を想い描く。こういう絵をみると浮世絵の画面構成というのはすごいなと思う。

下はチラリズム描写の効果がさらっとでている絵、“舫い舟美人”。これは画面をしっかり見ないとどこがチラリズムなのかわからない。右の舟から陸に上がろうとしている若い芸者の隣に膝下と腕が少しみえる。茶褐色の直方体は三味線を入れる箱で、これを運ぶ男(箱屋と呼ばれている)がチラッと描かれているのである。柳の下で後ろを振り返っている先輩芸者は“お玉ちゃん、宴席で旦那衆がお待ちだから急ごうか!”と声をかけている様子。

季節柄、山種の花尽くしのように、ここでも北斎の“牡丹に蝶”や勝川春湖の“杜若”などがあった。北斎が70代前半に描いた花鳥画に魅せられているが、この牡丹にもぐぐっと惹きこまれた。

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2008.06.10

広重とマンテーニャのシュール感覚に驚愕!

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今日はおよそ結びつかない二つの絵の不思議な響き合いをご紹介したい。

美術館をまわっていると時々とんでもないサプライズの絵に出くわすことがある。大丸ミュージアム東京で開かれていた“四大浮世絵師展 中右コレクション”(4/25~
5/12)は閉幕間際に行ったので、記事にできなかったが、ここにびっくりする絵がでていた。もちろんはじめてみる絵。

それは歌川広重(1797~1858)の“平清盛怪異を見る図”。上は大判、三枚続の右と真ん中で、真ん中は一番左。体の中央で床に立てた刀をもち、庭のほうを見ているのは平清盛。ここは福原の殿舎。庭の雪の積もった築山や燈炉、松の木を何気なしに見ていたが、すぐここにはスゴイものが描かれていることに気づいた。築山は大きな髑髏に見え、松の葉に積もっている雪のかたまりは小さな髑髏々!

これはまさにシュルレアリスム絵画によくでてくるダブルイメージ。松の横にある細い木に目をやるとそれがさらに明確になる。幹と枝が5つの骸骨に変わっている。この髑髏や骸骨は平治の乱で平家に殺された源氏の武士。木の中から骸骨の姿で“おのれ、清盛!いつか復讐してやるからな”と呪っているのである。これは参った!

思わず、“ええー、広重がこんなシュールな絵を描いてたの?!”と心の中で叫んだ。そして、すぐ、一枚の絵を思い出した。ルーヴルでみた下のマンテーニャ(1431~
1506)が描いた“美徳の勝利”(部分)。これは1504年頃の絵で、左の盾と槍をもった知恵の女神ミネルヴァがヴィーナスと悪徳を美徳の園から追放する場面が描かれている。

ミネルヴァの後ろの暗い緑色をした木をよく見ていただきたい。まっすぐに立つ木が足と胴体が異様に引き伸ばされた女になっている。このダブルイメージにびっくりしたことは“ルーヴル その二”(2/26)で書いたが、日本の浮世絵でも同じような絵に遭遇したのである。340年の時を隔ててマンテーニャと広重が響き合っている!これはおもしろい。

16世紀のはじめに、シュルレアリスムのイメージを彷彿とさせる絵を描くマンテーニャの想像力にも驚愕だが、広重の骸骨も衝撃的。広重には体をいろいろ捻ってその影を障子にうつして石燈篭にみせる“即興かげぼかし尽し”のような戯画があるから、ダブルイメージも一連の遊び心から生まれたのだろうが、それにしても頭が柔らかい。同門の国芳の影絵やアンチンボルド風の寄せ絵から刺激を受けたのかもしれない。

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2008.06.09

江戸東京博物館のペリー&ハリス展

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昨日の大田南畝展同様、江戸東京博物館の“ぺりー&ハリス展”(4/26~6/22)も関連史料を見るのが目的。今年は1858年(安政5年)に日米修好通商条約が結ばれてから150年にあたる。ここ数年、幕末史の本をとんと読んでないが、ペリーとハリスに焦点をあてた企画展となると、歴史好きとしてはつい足が向く。

展示されている国内外の博物館などの所蔵する史料は全部で250点。これらがわかりやすい6つのくくりでまとめられている。
序章 黒船前後~米国と日本の出会い~
1章 ペリーの来航から日米和親条約の締結へ 
2章 日米の饗応と交歓 
3章 ハイネの見た日本 
4章 日米修好通商条約 
終章 遺米使節の見たアメリカ。

前半で熱心にみたのが“サスケハナ号模型”(1/50)、日本語訳で読んだ“ペリー艦隊日本遠征記”(初版)、“阿蘭陀風説書”。嘉永6年(1853)浦賀沖に来航したぺりー艦隊4隻の1隻サスケハナ号の全長は78m。艦隊のまわりに浮かんでいる日本の小舟に較べるとやはり大きい。“たった四はいで夜も寝られず”がよくわかる。

以前から関心の高かった“阿蘭陀風説書”(重文、江戸東博蔵)をはじめてみた。これは近藤重蔵の遺品で、現存する唯一の原本とのこと。隣にある“阿蘭陀機密風説書”も興味深い。老中阿部正弘はペリー艦隊の動きをこうした別段風説書で知っており、この情報を島津斉彬ほか雄藩大名に極秘で流したが、具体的なアクションをとるにはいたらなかった。

上のようなペリー図がいろいろある。米国で描かれた肖像画や写真よりも、こちらのほうが格段におもしろい。当時の瓦版などのメディアは伝聞情報と既存の図版をミックスさせて種々なぺりーのイメージをつくりだした。前期に出ていたのは西郷さん似。これは実像に近いが、手の爪が長く鳥のように描かれている。

ペリー艦隊に随行した画家、ハイネが日本の風景や人物を描いた絵が今回、ミュンヘン国立民族学博物館から20点出品されている。真ん中はその一枚、“東海道の宿”。ほかは大きな江戸市中俯瞰図や富士山や下田の風景とか、火事や裁判の場面を描いたものなど。

浮世絵で目をひくのが一点あった。下の“東都名所見物異人 神田神社内 ふらんす”。中景で小さく描かれた町のひとたちが遠巻きに眺めている男女の異人さんの体が大きいこと。人々には彼らが怪物のように見えたのだろうか。幕末史はライフワークなので、今回の図録は貴重な資料。収穫の多い展覧会だった。

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2008.06.08

蜀山人 大田南畝 ー大江戸マルチ文化人交遊録ー

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展覧会のチラシは美術館を訪問し、図録を購入すればほとんど処分する。でも、現在、浮世絵の専門館の太田記念美術館で行われている“蜀山人 大田南畝展”(5/1~6/26)のチラシはなかなかよくできているので、ずっと持っていようと思う。

3年くらい前、野口武彦著“蜀山残雨 大田南畝と江戸文明”(03年12月、新潮社)を読んだので、大田南畝(1749~1823)については少なからず興味がある。だから、この展覧会は文献資料収集の一環みたいなもの。いい浮世絵があるにこしたことはないが、それよりは大田南畝の幅広い文芸活動を示す関連資料や浮世絵作品が収録された図録を入手するのに大きな喜びがある。

狙い通り、狂詩の“寝惚先生文集”や大田南畝が賛をした浮世絵とか谷文晁らとコラボした書画などが沢山あった。上はチラシにも使われている興味深い絵。八百善の二階の座敷で大田南畝が仲間と料理を食べながら歓談しているところ。右側にいるのが74歳のころの南畝。

手前の坊主頭の人物がこの絵を描いた鍬形薏斎(くわがたけいさい)。薏斎(1764~1824)は今年の二月ごろ東博で展示してあった“近世職人尽絵詞”を描いた絵師。南畝の右隣にいるのが書で有名な亀田鵬斎(かめだぼうさい、1752~1826)。そして、左で手を前に出し笑っているのが漢詩の大窪詩仏(おおくぼしぶつ、1767~
1837)。

南畝は“狂歌連”のネットワークの中心人物。その交際範囲は広く、酒井抱一や人気の歌舞伎役者五代目市川団十郎らもお仲間。狂歌師、絵師、文人たちは活発に交流し、その中からいろんな合作が生まれた。

真ん中は酒井抱一、鈴木其一が絵を描き、亀田鵬斎が賛を書いた“松に鶴亀図”。これは所蔵している江戸民間書画美術館で一度みたことがある。ここはNHKの歴史大河ドラマなどでよく重臣の役で出演されていた有名な俳優、渥美國泰氏の個人美術館。

渥美氏は役者であるとともに、江戸絵画の知る人ぞ知る有名なコレクター。とくに亀田鵬斎のコレクションは日本一と言われている。世田谷にある自宅の一部にこれらを飾っておられる。上の八百善の絵も渥美氏の所蔵。もうだいぶお年をとられている渥美氏と懇意にしている友人から声がかかり、みせてもらったというわけ。

4,5点あった歌麿の絵で足が止まったのが下の“水辺で寛ぐ三美人”(太田記念)。色がよくでており、とてもいい気分になった。今回は大田南畝が主役だから浮世絵はこの一枚で充分。

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2008.06.07

広重の六十余州名所図会

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ららぽーと豊洲(地下鉄有楽町線豊洲駅から徒歩5分)のなかにあるUKIYOーe TOKYOで開催される浮世絵展はなるべく見逃さないようにしているが、現在行われている“広重ぐるり日本一周ー六十余州名所図会”(5/17~6/29)は行くかどうかでかなり迷った。というのも、“六十余州”は昨年8月、神奈川県歴史博物館で見ているから(拙ブログ07/8/24)、今回はパスかなという気分が強いのである。

でも、HPの文言“摺り、保存状態とも優れていると評価の高い”が気になってしょうがない。また、一月、江戸東博であった“北斎漫画展”(1/11)のときお話をさせてもらったプロの摺師の方も“UKIYO-e TOKYO(平木浮世絵財団)の所蔵している浮世絵は摺りがいいのが多いから、よく見に行きます”と言っておられた。見逃して後で後悔するのも嫌なので、やはり出かけることにした。

果たして、これが大正解!ここのは初摺で、昨年見た丹波コレクションは大半が後摺だった。昨年買った図録で一点々見比べてみると、初摺のほうが断然すばらしい!だから、もう夢中になってみた。展示スペースは広くないが、浮世絵のサイズは小さいから
69点が全部みられる。

“六十余州”の3年あとに描かれた“江戸名所百景”でも言えることだが、初摺と後摺の顕著な違いは、後摺では初摺にあった海や川の藍のぼかしとか空にうっすらと流れる“あてなぼかし”が一部無くなっていたりすることや藍とか緑の微妙なグラデーションがなく均質な色になっていること。

また、色が初摺とまったく違っていたりするのもある。一番びっくりしたのが“美濃 養老ノ滝”。後摺では滝の両端をのぞき空摺の白で表現されているのに、目の前にある滝はまったく逆で大部分が濃い藍で、端にいくにつれてぼかされている。そして、滝のまわりの岩の色が緑と黄色ではなく、まさにこげ茶のグラデーション。“ありゃりゃ、こんなに違うの!”という感じ。

とにかく初摺のほうが海、川、空、そして家の屋根にまで色の諧調をきかせ、色の微妙な変化を詩情豊かに表現している。広重のやわらかい感性がこうした色調を生み出したのだが、後摺になると、絵師の表現しようとした風景のイメージから変容し、画面全体が平板な印象で強い色味になってくる。広重のはっとする大胆な構図とかはもちろん後摺でも変わることはないから、後摺でも広重の魅力を充分に味わえるが、こういう摺りのいいのを見ると、やはり浮世絵の楽しみは初摺を見ることだなとつくづく思う。

気に入っている絵はいくつもあるが、昨年取り上げなかったのを3点選んだ。上は風のシュールな描写にびっくりする“美作 山伏谷”。川を流れる舟のまわりを囲むように藍のぼかしがきっちりはいっている。真ん中はかつお漁を描いた“土佐 海上松魚釣”。大きな波のうねりを表す藍の濃淡が目に飛び込んでくる。下は“薩摩 坊ノ浦雙剣石”。この奇岩が実際にこんな面白い形をしているかわからないが、いつかこの目で見たくなるような光景である。

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2008.05.04

暁斎 Kyosaiー近代へ架ける橋

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京博で行われている河鍋暁斎の大回顧展(4/8~5/11)を見てきた。会期は昨年あった狩野永徳展同様、一ヶ月と大変短い。作品の数は135点。この中には下絵が13点あるから、本画は120点ちょっと。質、数ともに文句のつけようの無い10年とか20年に一度クラスのすばらしい回顧展である。

会期は短いがその分、会期中作品の展示替えがまったくない。“風俗鳥獣画帳”、“地獄極楽めぐり図”(静嘉堂文庫)など4点は前後期で作品が替わるが、これはシリーズもので数が多いため。京博はこの展示方法を狩野永徳展からはじめたが、二重丸で評価したい。大規模な日本美術の展覧会では嫌になるくらい展示期間を細かく分け、作品の展示替えをするので、全部見ようとすると割高な料金を何度も払わなければならない。

会期を2~3ヶ月とり、作品を沢山展示する展覧会がもちろんあってもいいが、永徳とか暁斎といった日本美術史のなかで重要な位置を占める作家の場合、展示替え無しで国内外の美術館から集めてきた名品が一発で見られるのは大変有難い。京博は画家の発掘もそうだが展示のやり方にもイノベーション精神にあふれている。他の美術館でも京博方式の展覧会が増えることを期待したい。

さて、河鍋暁斎の大回顧展はどれくらい面白いか。目の前にある作品は期待値を大きく上回っている。暁斎は04年12月、東京ステーションギャラリーであった“国芳・暁斎展”で一ラウンドこなしているから、手元にある画集に載っている作品をながめて狙いの絵を代表作中の代表作“大和美人図屏風”(下の画像)と“地獄極楽めぐり図”に定めていた。

この2点がみれればもう元はとれるという考えだから、それほど作品にのめりこむことはないと思っていたが、会場を進むにつれてだんだんテンションがあがってきた。つくづく残念なのが“これはいいな!”と惹きこまれた作品は大英博物館など海外からやってきたものが多いこと。大英博物館の“閻魔”、“幽霊図”、“鳥獣戯画”、イスラエル・ゴールドマンコレクションの“大仏と助六”、“猿図”など。

上は“鳥獣戯画”シリーズのなかで“蛙と猿の的射ち”とともに足をとめニコニコ顔でみていた“蛙のヘビ退治”。“国芳・暁斎展”のときにも“鼠の猫退治”(拙ブログ04/12/14)と一緒に同名の戯画(河鍋暁斎記念美蔵)が展示してあったが、こちらのほうが断然いい。二つの棒に頭と胴体をくくりつけられたヘビの上で蛙が逆立ちをしたり、曲芸やブランコ遊びに興じている。今までいじめられてた弱者は強者をこれくらいやっつけられれば痛快だろう。こういう絵を思いつく暁斎の想像力はとてつもなくすごい。

静嘉堂文庫の“地獄極楽めぐり図”(前期11図、4/27で終了)は狙いの作品だったが、それほど感激しなかった。また、惜しいことに見たかった“極楽行汽車”は後期(4/29~5/11)の展示だった。お目当ての美人画のほかで惹かれたのは碁打ちを楽しんでいる鬼たちを岩の陰から見ている鐘馗を描いた“鬼碁打図”、曽我蕭白の画風をイメージさせる“白鷲と猿”、“浮世絵大津之連中図屏風”、プライスコレクションにも同じような絵がでていた底抜けに楽しい“吉原遊宴図”。

真ん中は再会した大きな“新富座妖怪引幕”。これは仮名垣魯文が開場して2年目の新富座に贈った引幕で、人気役者達を妖怪に仕立てている。暁斎は酒を飲みながら4時間で描きあげたという。大目玉のろくろ首で“暫”の出で立ちが団十郎で、般若のような顔をした“化猫”が菊五郎。とにかく迫力のある絵である。

最後の部屋で一際輝いているのが下の“大和美人図屏風”。これは右隻のほう。誰がみても頭がデカイと思うはずだが、不思議なことにそれが全然気にならない。白い顔と赤い地に文様が精緻に描かれた衣装はうっとりするほど美しい。弟子のコンドルに贈ったこのすばらしい美人画を見れた喜びを今かみ締めている。

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2008.04.18

フリーア美術館 その一 尾形光琳  葛飾北斎  高麗青磁

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スミソニアン協会本部の隣にあるフリーア美術館を訪問するのが長年の夢だった。夢のど真ん中にあるのが俵屋宗達の“松島図”。アメリカへ出発する前、美術館のHPを開けばこの絵が展示してあるかどうかはわかるのだが、美術館に入ったときのサプライズのためにあえてこれを見なかった。

はたして、わが愛する琳派の最高傑作は目の前に現れてくれたか?入館する前、飾りつけのバナーに絵の一部が描かれていたから、“これは展示されているかも?!”と色めきたったが、ううーん、ダメだった。残念、残念!見れる確率は30%くらいと思っていたからこれは仕方がない。

ここには“松島図”のほかにもチャールズ・ラング・フリーア(1854~1919)が蒐集した日本画の傑作が沢山ある。それらがもし出ていたら見逃すと悔いが残るから、事前に美術本でフルチェックしていた。ざあーっとあげてみると、

★宗達 “雲龍図”、“扇面貼付屏風”
★尾形光琳 “群鶴図屏風”、“伊勢物語図”、“菊流水・蔦の細道図団扇”
★酒井抱一 “三十六歌仙図屏風”
★鈴木其一 “白椿・薄野図屏風”
★狩野永徳 “琴棋書画図屏風”
★狩野山楽 “花鳥図屏風”
★狩野光信 “玄宗・楊貴妃図屏風”
★円山応挙 “雁図”
★英一蝶 “田園風俗図屏風”
★渡辺崋山 “佐藤一斎像”
★喜多川歌麿 “月見の座敷図”(肉筆画)
★葛飾北斎 “富士と笛吹童子”、“波濤図”、“海浜富士遠望図屏風”、
  “富士の見える田園風俗図屏風”(すべて肉筆画)。 

いずれも図版をみるかぎりどうしようもなく見たくなる絵。このなかで二重丸は宗達の“雲龍図”、光琳の“群鶴図”、応挙の“雁図”、そして歌麿と北斎の肉筆画。

館内は中国、日本、インド、イスラム、ホイッスラーコレクションなど20の部屋からなり、日本美術は4つの部屋に展示されている。作品は快慶の“菩薩坐像”などの仏像、“阿弥陀二十五菩薩来迎図”、日本画、浮世絵(今回は相撲絵)、陶磁器など。こういう展示の構成だから、リストに載せていた絵画では宗達の“扇面貼付屏風”、上の光琳
(1658~1716)の“群鶴図屏風”しか見れなかった。

“群鶴図”(六曲一双、上は左隻)はコンディションが少し悪いが、金地に様式化した鶴を横にリズミカルに配置する構成に魅了される。江戸琳派の酒井抱一、鈴木其一はこの絵を模写しており、其一の絵は06年東博で開催されたプライスコレクション展に出品されたので記憶に新しいところ。

北斎(1760~1849)の“富士と笛吹童子”(拙ブログ06/3/22)と対面できなかったのは残念でならないが、真ん中の“雷神図”と“玉川六景”(ともに肉筆画)がみれたのは大変ラッキーだった。この2点は06年の3月から5月にかけて、フリーア美術館と同じ敷地内にあるサッカラー美術館で開かれた北斎展に出品された肉筆画40数点のなかに入っているものだし、東博の図録で惹きつけられた躍動感あふれる雷神図と遭遇したのは大きな収穫である。

もうひとつのサプライズが下の“高麗青磁辰砂彩水注”(1250年)。13世紀に流行した辰砂彩は銅が紅色に発色するが、安定した発色を得ることがなかなか難しい技法。筍の皮を縁どったような鮮やか紅色と形のよさに200%感動した。

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2008.01.11

北斎諸国名橋奇覧と諸国瀧廻りの復刻版画

166北斎漫画展を見た後、会場の一角で放映されていた浮世絵制作のビデオを見ていたら、摺師の方が“何かお聞きになりたいことがありましたら、遠慮なく”と声をかけてこられた。

こういうプロの摺師とお話しができるのは滅多にないから、浮世絵の摺りのことをあれこれ聞いてみた。

摺師、沼部伸吉さん(摺歴30年)は浮世絵木版画彫摺技術保存協会会員の一人で、北斎漫画展と同時開催されている“諸国名橋奇覧”(11点)と“諸国瀧廻り”(8点)の復刻版画を各一点ずつ摺られている。

右は沼部さんが摺られた“東都葵ヶ丘の瀧”。この復刻版画は東京伝統木版画工芸協同組合が行っているもので、広重の“江戸名所百景”、“東海道五十三次”に続く第三、四弾が今回展示されている北斎の“橋”と“瀧”シリーズ。手元にある“浮世絵・名所百景復刻物語”(監修小林忠、芸艸堂、05年10月)をみると、4点が沼部さんの摺りだった。

現在、日本全国で彫師は20人、摺師は40人いるそうだ。多いのは東京と京都。木版画家、吉田博一族の専属摺師でもある沼部さんは職人にありがちな気難しい感じではなく、とても気さくな方。有難いことにいい摺りと悪い摺りを目の前にある復刻版画で教えてもらった。

藍色を例をとると、藍のグラデーションがスムーズでしっとりした感じに仕上がっているのがいい摺りで、ぶつぶつがあったり、色が紙にはじかれてかさかさしているのはダメな摺りとのこと。沼部さんが摺られた右の“東都葵ヶ岡の瀧”を細かくみると、確かに空と瀧が落ちるところの藍色はしっとりしており、とてもいい感じ。

色の発色具合は使用する紙の質とか絵具の状態などで微妙に変わるが、大事なことは指示された色をいかに丹精こめて摺り込んでいくかだそうだ。絵具のにじみが出るのを防ぐためのドーサ引き(紙の摺面にドーサを引くこと)は専門職の“ドーサ屋”が行っているが、今、一人しかいないらしい。もし、この方が亡くなられたら摺師自身でやることになると言っておられた。伝統の技を継承するということは傍目以上に大変なこと!

美しい浮世絵はいろんな職人の高い技によって生み出され、われわれの目を楽しませてくれているのである。いい話を聞いた。

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2008.01.09

北斎漫画は楽し!

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現在、江戸東博で行われている常設展示企画“北斎漫画展”(1/2~2/11)を楽しんだ。ぐるっとパス券(2000円)は2ヶ月間に気に入った展覧会があるかどうかさほどチェックせず、アバウトに購入する。で、さっそくこれをみるために一枚消化。あと2,3回は多分あるはず。

5階の展示室へ来るのは2度目。あまり広くないが、浮世絵自体が小さいものだから、この広さでもあの北斎漫画が目いっぱいみれる。これまで鑑賞した3回の大きな北斎展には北斎漫画が必ず展示してあったから、画集に掲載されているような絵は目の中に入っている。でも、全編を通してこれほど多くの絵をみるのははじめて。こんな機会はめったにないので、目に力を入れてじっくりみた。

これは北斎の弟子が絵を学ぶ際の手本であり、職人が絵柄をきめるときに参考にした図案集。“漫画”の意味はわれわれがすぐイメージする漫画ではなく、人物、花鳥、動物、風景、風俗、神仏などを気のむくまま描いたスケッチ集のこと。

植物より実際目にする動物や想像上の動物を描いたもののほうがおもしろい。上は今年の干支、子年にちなんだ鼠の絵。題名は“鼠の隠れ里”。小山のように積み上げられた米俵に座って熱心に算盤をはじいている。勘定は合っている?鳥を捕まえた網を縛り、引っ張るのに使っているのは縄ではなく、横にいる仲間の鼠の尻尾。さりげなくこういう笑いをいれるところが憎い。

ぎょっとしたのが画面いっぱいに描かれた大きな象。“群盲象を撫でる”のとおり、11人の男が象の背中に乗っかったり、鼻や牙、尻尾に触ったりして、象の大きさを思い々に推し量っている。また、“鰻登り”がユーモラス。三匹の巨大鰻が体を左右にくねらして垂直に立ち、その一匹にねじり鉢巻をした男が抱く様がおもしろい。

下はフォルムの美しさに立ち尽くした“魚濫観世音”。昨日取り上げた速水御舟の鯉の絵にみられる動感の度合いをさらにパワーアップした感じである。自然のダイナミズムがひしひしと伝わってくる“風”(拙ブログ07/12/15)や“阿波の鳴門”にも目が釘付けになった。

帰りがけにミュージアムショップで“北斎漫画”と“続北斎漫画”(芸艸堂)を買った。これからこの本をながめている時間が長くなりそう。

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2007.12.29

07年もう一度見たい名品・ベスト10! その二 日本画

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西洋絵画に比べ、日本画を美術館でみる回数は倍以上あるから、ベスト10を選ぶのに苦労する。今年は仏画、水墨画、地獄絵、絵巻、屏風、浮世絵、近代日本画の傑作を沢山見た。どの作品と対面したときの感激が大きかったか、鑑賞のシチュエーションを思い出しながら決めた。

体がほてってくるほど感動するのは念願の追っかけ作品の前に立ったときと全くNO情報のすばらしい絵が突然目の前に現れたとき。下はそんな感動体験から選んだ10点。その一同様、初見の作品で見た順に並んでいる。

★“北国五色墨 川岸”  喜多川歌麿  ギメ美術館蔵

★“花丸図”  伊藤若冲  金刀比羅宮蔵

★“雨月物語”  鏑木清方  霊友会妙一記念館蔵

★“保津川図屏風”  円山応挙  千總蔵

★“六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波” 歌川広重 神奈川県歴博蔵

★“釈迦金棺出現図”  京博蔵

★“長岡の花火”  山下清

★“五代岩井半四郎の助六”(上の画像)  歌川豊国  ミネアポリス美蔵

★“唐獅子図屏風”  狩野永徳  三の丸尚蔵館蔵

★“紅葉舞”  鈴木春信  東博蔵

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2007.12.23

東博浮世絵エンターテイメント! 歌麿&国芳

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今年の東博浮世絵展示も今回が最後(12/18~08/1/14)。ここの浮世絵は展示が替わるたびに出かけているから、年間を通してみると結構な数を見た。展示してあるのは30数点だから鑑賞の時間は短いが、毎回収穫となるのが2、3点あるので非常にいい気持ちになる。楽しみの真ん中にあるのが喜多川歌麿の美人画。

代表作に数えられる3点がでている。上の“歌撰恋之部・深く忍恋”、“高名美人六家撰・扇屋花扇”、そしてミネアポリス美所蔵展にも出品された“台所美人”(拙ブログ10/10)。“深く忍恋”は対面をずっと待っていた作品。画集には東博蔵とギメ美蔵のものがよく載っているが、東博のはギメよりコンディションは少し悪い。でも、やっとみれたので、そこは目をつぶってじっくり見た。インパクトのある巾広の黒しゅすの襟に引き立てられる女の不安げな表情に見入ってしまう。

5枚あるといわれるこの“歌撰恋之部”シリーズは画集には4点しか載ってない。“物思恋”(10/11)、“夜毎に逢恋”は以前見たから、次のターゲットは“稀に逢恋”。これは東博にあるのだろうか?残り2枚と会うのは時間がかかりそう。

歌川豊国のいい役者絵に感激した。それは最近出版された“江戸絵画入門”(別冊太陽、平凡社、07年12月)の浮世絵のところに紹介されている“三代目沢村宗十郎の大星由良之助”。これほど画面一杯に描かれた役者絵も珍しい。胡粉が使われた寄り目や鼻、そして真一文字にむすんだ口がすごく印象的。

風景画にはいつものことだが、いいのが並んでいる。川の青と松に積もった雪が詩情をそそる渓斎英泉作、“江都隅田川雪之遠景”、広重の“名所江戸百景”から“深川木場”、“深川洲崎十万坪”、“王子装束ゑの木大晦日の狐火”、“日本橋雪晴”、“霞かせき”。

下は広重の傑作“東海道五十三次之内 蒲原 夜之雪”同様、静寂な雪景色が心にしみる歌川国芳の“高祖御一代略図・佐州塚原雪中”。これは佐渡に流された日蓮上人が傘をかぶり雪の中を行く場面。雪の描写、墨のぼかし、上人の足跡を釘付けになってみた。

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2007.12.15

江戸東京博物館の北斎展

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江戸東京博物館で開催中の“北斎展”(12/4~08/1/27)に北斎が描いた絵としてはほとんど馴染みの無い絵が展示してある。厳密にいうと北斎工房(北斎&弟子)によるこれらの作品は版画ではなく肉筆画。ところが、肉筆画でも、05年、東博で行われた大回顧展に沢山出品されたような肉筆画とはだいぶちがう。

上は43点あるうちの一枚。浜辺で一服する漁師夫婦と大きな碇に乗って遊ぶ子供たちが描かれている。ぱっと見ると司馬江漢の洋風画とみまがう絵である。碇には影があり、右の石垣にもちゃんと陰影がつけられている。大きな碇を真ん中にどんと置き、子供を動きのある姿態で描くところは北斎流だが、漁師と妻の着物に後ろからあたる光の表現や空の雲を濃淡のある灰色で描写するところなどは西洋絵画の描き方と変わらない。

どうしてこんな絵を北斎は描いたのか?北斎が65歳から67歳のころ、長崎にあるオランダ商館長が江戸にやってきて、人々の日常風景を描いてくれないかと依頼されたから。この外国人の注文を工房で分担して描いたのである。現在、これらの絵はライデンのオランダ国立民族学博物館とフランス国立図書館にあり、合計43点が今回里帰りした。実はフランス国立図書館(25点)のうち6点は93年、東武美術館(現在はない)で行われた“大北斎展”に特別出品された。だから、チラシには“初めて同時に里帰りさせる、、”となっているのである。

さて、この肉筆画は来場者の心をとらえるだろうか?“ぐっときた”という人は3割くらいで、“好みではない、風景版画のほうが楽しいな”という人が7割と多いかもしれない?93年のときと同様、今回もあまり感動しない。前回と較べると数が多いから、北斎が依頼者の注文にどう応えようとしたかが少しわかった。ポイントがいくつかある。

人物は女でも男でも子供でも大きく描く。そして、多くの人を描き込む。これは外人の好みを考えて、画面いっぱいに人物を配置して賑やかにみせたかったからだろう。そのため、余白が少なく、目が休むところがない。北斎は西洋人が余白(描き残すこと)に意味を見い出さないことをよく知っている。例えば“早駆け”では、疾走する手前の2頭の馬の間隔はほとんどない。“富嶽三十六景・隅田川関屋の里”と較べると、この絵が外人が楽しめるように描かれたということがよくわかる。

構成よりもっとはっきりしているのが色使い。誰がみても油絵の具の質感に似せて描いたことは明らか。浮世絵は浮世絵だが、このソース味は心に響かない。これは北斎がサービス精神を発揮して彼らのテイストにあわせて描いた絵だから、自分の好みで見たほうがいいのではないかと思う。

定番の版画や肉筆画を前にすると気持ちは一気に高揚する。真ん中の“北斎漫画”など絵手本や読本挿絵が沢山展示してあるので嬉しくなる。目を奪われたのが読本挿絵、“釈迦御一代記図会”。黒地に大きな渦巻きが白でダイナミックに描かれた場面やら、龍が釈迦を威嚇する場面やら迫力のある描写がてんこ盛り。北斎の並外れた想像力にただただ感服するばかり。

下ははじめてお目にかかった大作“杣人秋山山水図”。中央の杣人(そまびと)の仕事着や左右の山水にみられる青や緑が目にしみるほど鮮やか。そして、切り立った崖を俯瞰の構図でとらえ、坂道を登っていく大勢の人たちを実に細かく描き込んでいる。また、65年ぶりに公開されたという大きな“四季耕作図屏風”や初見の雀と松の絵“松下群雀図屏風”にも心を奪われる。

江戸東博は昨年のボストン美肉筆画展に続き、またまたホームランをかっ飛ばしてくれた。いまや浮世絵展のメッカ。来年の秋(10/7~11/30)にはまたボストン美蔵の浮世絵名品を公開するという。これは有難い!

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2007.12.09

太田記念美術館の肉筆広重展

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半年ぶりに太田記念美術館を訪問した。現在、ここで“肉筆広重展”の後期(12/1~
16)が行われている。先月末、近くの美術館に来たので寄ったら、ドアが閉まっていた。なんと、前期(11/1~25)終了後の休み期間だった。予定の美術館を順調にまわっているというのに、、大失敗!2年前にあった広重の肉筆画展(拙ブログ05/5/8)を見ているから、軽い気持ちで展示期間を確認せず、アバウトに動いたのがよくなかった。

仕切りなおしの鑑賞は事前に図録で前回展示されなかった天童広重の作品を確認しておいたから、30分くらいで済んだ。会期中出ている“日光三滝”はちょっと感慨深い。日光の滝は“華厳ノ滝”のことだと思い、ブログのなかで“裏見ノ滝”と“霧降ノ滝”は実在しないのかもしれないと無知ぶりをさらけ出したら、ご親切にも“この滝はありますよ!”というコメントをいただいたのである。まだ、この滝を見る機会がないが、いつか見てみたい。

上の肉筆画は再会の“京嵐山大堰川・東都隅田堤”。広重の描く美人画に対する思い入れはない。だから、絵の前で足がとまることはないのだが、これは例外。とくに右の“東都隅田堤”がお気に入り。惹きつけられるのがその構図。真ん中の二人の女が歩いているV字のような道は広重の風景画によくでてくる。

画面を立体的にみせ、奥行きを感じさせる工夫がもうひとつある。それは坂道。頭巾を被っている女はやっと坂道を上がったところ。女の重心がまだ半分後ろに残っており、最後の石段を登りきったいう感じが着物の裾から見える右足からうかがえる。広重は人物の動感表現が本当に上手い!

下は12月にはうってつけの版画、“忠臣蔵 十一段目 夜打押夜”。地下の展示室に校合摺と一緒に飾ってある。雪の中、これから吉良邸への討ち入りがはじまる場面。追っかけていた絵が突然、目の前に現れたので、釘付けになってみた。ここには名品、“東海道五十三次 庄野 白雨”、“名所江戸百景 亀戸梅屋敷”などがあるから、広重モード全開。

これで広重はしばらくお休みできる。あとは没後150年にあたる広重の大回顧展を東博が開催してくれるのを妄想するばかり。果たして?

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2007.11.28

東博浮世絵エンターテイメント! 春信&歌麿

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東博平常展の浮世絵コーナーに嬉しい絵が出ていた(展示期間は11/20~
12/16)。それは上の鈴木春信作、“紅葉舞”。この絵を知ったのはつい最近。“週間アーティストジャパン・鈴木春信”(デアゴスティーニ)の最初の頁に載っていた。所蔵しているのはボストン美とある。まだこんないい絵が残っていたとは!流石、ボストン美という感じ。

追っかけリストに即加えたが、会えるのはかなり先のことかなと思っていた。ところが、東博がこれをもっていて、平常展に出てきたのである。天にも昇る気持ちで対面した。言葉を失うほどすばらしい絵。あの小柄な春信美人が両手に傘をもち、紅葉が舞い散る中、軽快に踊っている。視線が自然に二つの傘の間にいき、女のしなやかな舞の姿と体の動きにあわせて真横に曲がる着物の袖や裾のフォムルに見入ってしまう。

隣にある同じく春信が描いた釣竿と鯛の玩具を持つ若衆を恵比寿さんに見立てた“見立恵比寿”もぐっとくる。ミネアポリス美に続き、またまた春信のいい絵と遭遇した。“春信をもっともっと楽しみなさいな”というミューズの声が聞こえてくるようだ。

今回は歌麿も豪華3点セット!まず、大作の“橋の上下”。3枚続で橋の上の光景と下の屋根船における遊興の場面を描いている。船頭の2人をのぞく女性群像図は見ごたえがある。手前のお酒を飲んだりして船遊びを楽しんでいる女たちばかりに目がいくが、太い橋柱の間からみえる遠景に目をやると、水面のさざなみや川の両サイドにある家々、米粒みたいに小さな人たちがしっかり描かれている。遠くに浮かぶ船の縮め方が実に上手いので、非常に奥行きを感じる空間になっている。

下は“高名美人六家撰 辰巳路考”。歌麿の美人画のなかではお気に入りの一枚。耳のうしろに手をやるしぐさが愛らしい。富本豊雛(拙ブログ07/8/30)に較べ、色数が多く、袖口の緑との対比が目につく黒襟が画面をひきしめている。もう一枚はこれも傑作、“姿見七人化粧・びん直し”(06/12/10)。襟足の美しさと鏡のなかに表情をもみせる構図が巧み。モデルは難波屋おきた。寛政期、美人の誉れ高かったのがおきたと高島屋おひさ。人気はおきたのほうがあったようで、歌麿もおきたの大首絵を多く描いている。

ここ数年一貫して追っかけている歌麿の名画には会えるし、リーチ一発ツモで春信の絵との対面が実現するし、こんないいことばかりあっていいのだろうか!浮き浮き気分で次の美術館へ向かった。

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2007.11.01

ミネアポリス美浮世絵コレクションの春信

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ミネアポリス美蔵浮世絵コレクション展(松涛美)の後期(10/30~11/25)も前期(拙ブログ10/10)同様、目を見張らされる作品がずらっとある。2階展示室の真ん中にはソファがあり、ひとあたり鑑賞した人たちが喫茶室で注文したコーヒーなどを飲んでいる。こういうくつろいだ雰囲気はホテルのなかで絵画を鑑賞しているみたいで悪くない。

今回もお目当ては鈴木春信。18点ある。前後期あわせて36点もの質のいい春信の錦絵がみれるのだから、これはエポック的な鑑賞体験。専門家たちによって学術的な本をつくるようだが、前回の大回顧展に出品された作品と比較しながら、出品作の摺りのことや色使いについてすこし触れてみたい。

小型版の図録には初摺か後摺かについての記述はないが、手元にある図録(265点収録)とつき合わせてみると、おおよそわかる。作品の多くは色が鮮やかで、これが心を揺すぶることは間違いないが、全部初摺でなおかつ保存状態がいいからこんなに色が残っているということではない。

浮世絵の人気が高ければ高いほど、初摺のあと後摺が多くつくられる。そして、後摺になると、全体的に色彩が濃くなり、使われる色も変わってくる。春信の場合でも、初摺と後摺ではずいぶん色がちがうものがある。版元は買う人のニーズを考え、多くの人に受け入れられやすいはっきりした色調を摺師に指示する。で、春信が初摺で表現した色彩感覚とはちがったイメージのものが存在することになる。

春信の最も早い時期の多色摺版画は中間色の淡い感じを基本にした調和のとれた配色が特徴。上は錦絵スタート時の代表作“座舗八景”の一枚、“扇の晴風”。だが、これは初摺ではない。前期に展示された“塗桶の暮雪”とこの絵の隣にある“行燈の夕照”も同じく後摺。

現在、シカゴ美が唯一所蔵する初摺の8枚(回顧展に展示)と較べてみると、ミネアポリス美の“扇の晴嵐”は初摺の感じが残っているが、前にいる娘の着物の色はうすこげ茶色から深緑色に変わっている。初摺は線の美しさは同じだが、微妙な色合い。好みとしては雪柳が映える緑色のほうがいい。

下はとても気に入っている“採蓮美人”。舟の中から体をかがめて蓮の花を切り取っている。春信は歩いている姿とか、“三十六歌仙 源重之”にみられるような着物が風になびく様子など動感表現が上手い。この絵もこのかがんだポーズに惹かれる。初版(シカゴ美蔵)では舟や立っている女の着物にうす紅は使われてなく、土色と淡い黄色で彩色している。そして蓮の花、葉もうすいこげ茶色。

多くの色が使えるようになった錦絵は春信が生み出したものだが、版元たちは絵師の色彩感覚をとびこえていろいろな色の組み合わせを考え出し、売りまくったのではなかろうか。初期の錦絵はまだ開発途上のところがあるから、初めの版より、春信の手を離れた後摺のほうが人々に好まれるケースもでてくる。初摺がすばらしい作品もあれば、後摺のほうが魅力的な配色になっているのもある。

ちなみに後期の作品で初摺は“見立佐野の渡り”、“見立太田道灌”、“見立羅生門”、“船から下りる芸者”、“桜下の駒”、“見立鉢の木”。

春信のほかにも鳥居清方、歌麿のうっとりする美人画、写楽の人気大首絵“市川鰕蔵の竹村定之進”、国芳の“鯉”、北斎の“百物語”や花鳥画、広重の“魚&鳥画”など心に響く傑作がある。600円で質の高い浮世絵を沢山見せてもらった。松涛美に感謝々!

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2007.10.31

東博浮世絵エンターテイメント! 師宣&歌麿の肉筆画

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現在、東博平常展にある浮世絵の展示期間は10/23から11/18まで。作品数は29点。いつもと変わりない数だが、このなかにずっと待ち続けていたのが2点入っていた。北尾重政の“東西南北美人・東方乃美人仲町おしま、お仲”と上の菱川師宣の“北楼及び演劇図巻”。

“東西南北美人”は江戸を代表する4つの遊里の女たちを描いた揃物で、この二人は深川仲町の辰巳芸者。顔をみるだけなら、普通の女性のイメージだが、着物の裾をまるくし、足をちらっと見せて気風のいい辰巳芸者の感じを出している。

“北楼及び演劇図巻”は3年前から展示の機会を待っていたが、ようやく登場した。この絵巻には吉原遊郭と芝居小屋の様子が描かれており、長さは7mもある。今回披露されているのは前半部分のみ。上は張見世で遊女を品定めしているところや奥座敷での遊興の場面が描かれている。

この絵の前には太夫が従者をつれて歩くところが3回でてくるが、いずれも先頭の太夫はあの“見返り美人”と同じ髪型をし、赤い着物を着ている。その太夫からでるオーラが強烈なのだろうか、男たちの目は釘付け。菱川師宣や宮川長春の肉筆風俗画はコンディションがいいので、男女が身につけている衣装の絵柄や色を見るのが本当に楽しい。

いつも目を奪われるのがセンスのいい模様。大雑把な意匠ではなく、一つ々の文様が実に精緻で斬新。女性だけでなく、刀をさした武士のデザイン感覚もハイレベル。張見世で女と話している男は黄色とうす青の組み合わせ。なかなか洒落ている。

下は歌麿の肉筆美人画“立姿美人図”(重美)。この絵は画集で知っていたが、ここでお目にかかれるとは思ってもみなかった。これは歌麿が地方の素封家の注文で描いたもので、子孫の家に伝えられていると解説にあるから、おそらく今、東博に寄託されているのだろう。すらっとした立姿にすごく惹きつけられる。そして、とても美しいのが金の線が入った黒衣の裾に散らされた桜の花びら。

出光美にある“更衣美人図”(重文)とこの絵を前にして、もし“どちらか好きなほうを差し上げる!”といわれたら、こちらのほうを選ぶ。歌麿はほかに版画“風俗三段娘”が3点でている。

北斎と広重は定番の“富嶽三十六景”、“東海道五十三次”が2点ずつ。広重の人気の絵、雪景色“蒲原”を“雪が積もっている感じが家の屋根だけでなく、山のかたちもそうだなあー!”と感心しながら見ていた。

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2007.10.19

東博&ミネアポリス美コレクションの写楽大首絵

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東洲斎写楽の役者大首絵は昨年11月、東博の浮世絵コーナーで20点みたから(拙ブログ06/11/17)、つぎの対面は少し間隔があくかなと思っていたら、さにあらず、今年も結構お目にかかる。1月のギメ美展(太田記念美)では状態のいい7点、現在公開中のミネアポリス美コレクション(松涛美)でも3点。そして、東博の平常展で2点。併せて12点になる。ラッキーなことに一枚もダブってない。

上の絵は現在、東博に展示されている“三代目市川高麗蔵の志賀大七”(10/21まで)。松涛美の前期(10/2~10/28)は下の“二代目市川門之助の伊達与作”と“二代目小佐川常世”で、後期(10/30~11/25)は大首絵全28点のなかでも人気の高い“市川鰕蔵の竹村定之進”が登場する。

写楽のデビュー作28点のなかには立役と敵役がセットで描かれているのがいくつかあり、“志賀大七”もそのひとつ。志賀大七は松下造酒之進を殺害し、その娘宮城野としのぶに敵(かたき)として追われる悪浪人。これは話の発端となる大七が造酒之進を殺す場面である。

黒雲母の背景がワルのイメージをいっそう掻き立てる黒紋服の衣装を着た志賀大七を浮かび上がらせている。“三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛”のように相手を震えあがらせるほどの凄みはないものの、口元をきゅっと結び、つりあがった目で相手をにらみつける大七の顔からは冷酷非道な怖さが伝わってくる。

今、松涛美に展示されている下の“二代目市川門之助の伊達与作”は精神が相当まいっている感じ。それもそのはず。この与作は若殿が芸子を身請けする金を悪党に盗まれるわ、腰元との不義密通が露見して追放されるわで、身も心も憔悴しきっている。人指し指を鍵状に曲げるのは刀の柄に手をかける“志賀大七”でもみられるが、これは能の演技からきているといわれている。

ミネアポリス美が所蔵する“伊達与作”は初摺ではなく、色を変えて後から摺ったもの。初摺では着物の色は紫になっている。ちなみに、後期にでてくる“竹村定之進”も衣装が黄色の初摺ではなく、朱色で摺られた同図異版。異版があるのはこの大首絵シリーズが人気を博し、需要が多かったからであろう。

今年2/21の記事に内田千鶴子著“写楽を追え”を紹介したので、写楽に興味のある方は参考にしていただきたい。

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2007.10.11

歌麿美人画鑑賞ツアーのご案内!

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絵画鑑賞の回数を重ねるにつれて、絵を見るときもビジネス同様、“選択と集中”がいいなと思うことがある。浮世絵の場合、ここ数年は喜多川歌麿と歌川広重の主要作品を見ることにエネルギーを注いでいるが、念力が通じるのか予想以上のペースで狙いの名画が目の前に現れる。

昨日紹介したミネアポリス美術館のコレクションには思ってもいなかった歌麿の有名な作品があった。後期(10/30~11/25)には代表作のひとつ“婦人相学十躰 浮気之相”、“高名美人六家撰 富本豊雛”(拙ブログ8/30)などが登場する。

松涛美を出て、ふとあることに気がついた。今から来月末にかけて、都内にある3つの美術館を回ると歌麿の代表作が相当数見られるのである。で、歌麿がお好きな方のために、“都内歌麿美人画鑑賞ツアー!”をご案内したい。回るコースは、

①松涛美術館:ミネアポリス美コレクション、前期(10/2~10/28)・後期(10/30~11/25)、作品数16点、
②UKIYO-e TOKYO(平木浮世絵財団、ららぽーと豊洲内):平木コレクションの珠玉 歌麿10選、10/2~10/28、作品数10点
③東博:浮世絵平常展、9/26~10/21、作品数3点

東博の10/21以降から11月末に展示される作品はまだわからないが、歌麿はいつも3,4点でてくるので、これもカウントすると、3つの美術館合計で30数点になる。以下に説明する平木コレクションもすばらしいから、是非このツアーにお出かけいただきたい。

UKIYO-e TOKYOは“ららぽーと豊洲”(地下鉄有楽町線豊洲駅から徒歩5分)のなかにある。展示スペースは広くないから一度に出ている作品は少ないが、質のいいものが多いので、いつもいい気持ちになる。今回展示されている歌麿の美人大首絵は国内では折り紙つきの名品(7点が重美)である。ちなみに、復刊した“週間アーティストジャパン・喜多川歌麿”(2007.4.3、デアゴスティーニ)には10点のうち下の“歌撰恋之部 物思恋”と“高名三美人”が掲載されている。

“これぞ歌麿の美人画!”というのが10点も並ぶと画像の選択に迷う。考えたあげく、ミネアポリス美蔵では女性の感情がよく表れた“台所”をとりあげたので、ここの大首絵も“顔の描き方は皆同じと思っていたが、言われてみると女の境遇や心理が微妙に表情にでているな”と感じられるのを選んだ。

上は“芸者亀吉”。明るくて根は正直そうな芸者である。思わず“亀吉ちゃん、手を組んじゃったりして、なにかいいことあるの!”と声をかけたくなる。少しさがりかげんの眉をしたこの人のよさそうな品川芸者のあと、下の“歌撰恋之部 物思恋”をみるとドキッとする。この絵をみるのは2度目。松江にあるティファニー庭園美術館ではじめて見たとき(05/10/11)、心がざわざわしたのを今でもしっかり覚えている。版画自体の質は平木コレクションのほうが断然上。

インパクトがあるのがなんといっても眉を剃った顔と手の甲をかえし、頬についた指の表情。そして、髪の生え際の見事な描写とつやつやした島田まげの黒の輝きに目を奪われる。この中年女は若い頃、燃え上がった恋を追憶し、物思いにふけっているのであろうか。物憂げな女を見ていると、アールデコ時代に活躍したレンピカの描く女性肖像画が頭をよぎる。

東博に今出ているのは、美人の顔に輪郭線がない“娘日時計”シリーズの“辰ノ刻”、“午ノ刻”、“未ノ刻”の3点。これも画集に必ず載っている絵である。どうか3美術館に飾られている歌麿の名画をお楽しみください。

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2007.10.10

驚きのミネアポリス美術館蔵浮世絵コレクション!

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松涛美術館で今、ミネアポリス美術館が所蔵する一級の浮世絵コレクションが展示されている。作品数245点は前期(10/2~10/28)と後期(10/30~11/25)で総入れ替え。で、2回の訪問が必要になるが、料金は300円と超格安だから、600円で済む。ご機嫌な浮世絵展である。

02年、山口県美・浦上記念館(萩市)であった“鈴木春信展”にこの美術館蔵の作品が出ていたので、春信のコレクションで有名なことは知っていたが、ほかの絵師もぐぐっと惹きつけられるのがここにもあそこにもあるという感じ。収穫のいくつかを上げてみると、

★春信の質の高い作品が会期中36点みれる。色がよく残っているのが驚異的。
★現在追っかけモード一番の歌麿が16点もある。しかも、摺りの状態が良好!
★国内ではなかなか見る機会がない歌川豊国の“役者舞台之姿絵”が6点みられる
★北斎の絵に大回顧展(05年、東博)にもなかった“壬生狂言”という面白い絵がある

まず、春信から。前期にでているのは半分の18点。柳の枝に飛びつこうとしている蛙を傘をさした娘がながめている“見立小野道風”や男と言われても女が二人いるとしか見えない“三味線を弾く男女”などは浦上記念館でお目にかかった。初見で心を打たれたのは“隅田川舟遊び”、あぶな絵の“船に乗り込む芸者”、そして上の“松もとや前”。

とくに春信の天分の色彩感覚が画面いっぱいに現れた“松もとや前”にふらふら。すばらしい色使いである。ピンクの着物をまとった女は芸者で、後ろにいるのが紫色の三味線箱を運ぶお付。二人は“松もとや”での仕事が終わり、暖簾をくぐって出ていくところ。芸者の着物の裾模様に蝶々がみえる。暖簾の青と柱の黄色、お付の緑の衣装と紫の箱の色彩対比効果があの涼やかな顔をした春信美人を浮かび上がらせ、見る者を甘美で詩的な世界に誘う。

歌麿でわけもなく嬉しくなるのが“青楼仁和嘉女芸者之部”、“難波屋おきた”、下の“台所”。歌麿のこんないい絵をここで見れるとは思ってもみなかった。“台所”は東博の平常展に展示されるのを今か々と待っていたのに、一足先に対面することとなった。歌麿は女が湯を汲もうとして、立ち上る熱い煙に顔をしかめるところを実にリアルに描いている。歌麿の美人画は女性の個性や繊細な感情を写しているといわれるが、それが一番わかるのがこの絵。思いの丈をとげられて気分は最高。

豊国の“役者舞台之絵”(拙ブログ06/11/16)で魅了されるのがクセのあるポーズと精緻な文様や深みのある紫の衣装。“はまむらや”、“音羽屋”など会期中に6点もみられるのは有難い。そして、“豊国も春信に劣らぬカラリストだな”と思わせる“五代岩井半四郎の助六”に大感激した。これは本当に見てのお楽しみである。摺りの状態のいい浮世絵を見ることほど楽しいことはない。図録をみると後期も期待がもてそう。

なお、この展覧会は松涛の後、少し間隔があくが、次の美術館を巡回する。
奈良県立美術館:08/4/5~5/25
サンリツ服部美術館:6/10~7/10

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2007.08.30

東博浮世絵エンターテイメント! 師宣&歌麿

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現在、東博の浮世絵コーナーにある作品(30点)の展示期間は8/28から9/24まで。一度に展示できる数に比べここが所蔵する作品数は膨大だから、毎回はじめてみる作品のほうが圧倒的に多い。

が、ここに通いづめて3年くらいになると、なかには割と早いタイミングで再会する絵も出てくる。上の菱川師宣作、“見返り美人図”は確か一年前くらいに展示されたような気がする。見る側からすると、こういう初期の浮世絵を代表する名画が頻繁に鑑賞できるのはとても有難い。

師宣はどうして後ろを振り向く美人像を描いたのか?これは当時の女性たちの髪形や衣装のファッションと大きく関係している。浮世絵は当世の風俗や流行を写したものだから、絵師は女性の心理には敏感。男たちの目には振りかえるポーズでより強調される女性のしなやかな姿態が焼きつくが、若い女性たちが熱いまなざしをむけるのは最新ファッションの“吉弥結び”という帯の絞め方と髪型の“玉結び”。で、この二つを女性に見せるため、師宣は振りかえるポーズを思いついたのではないかといわれている。

もちろん、ハレ気分をそそる菊と桜模様がきれいな緋色の元禄小袖にも“わたしも着てみたいわ!”となるだろう。男や女の好みや時代の空気を読み取り、斬新な美人像でもってそれに応えるのだから、やはり師宣は並みの才能の絵師ではない。

今回の展示で楽しみにしていたのが、下の歌麿が描いた“高名美人六家撰・富本豊雛”。やっと会えた。こうして東博の平常展で歌麿の名画と月に一度のペースで遭遇するのだからたまらない。内容の乏しい企画展へ出かけるより数倍の満足感がある。

富本豊雛は“寛政三美人”のひとり。この大首絵では、豊雛の顔より襟をつまむ手に目がいく。おもしろいことに扇子のふちと角かくしの線が対応し、その間にある手がゆるやかな曲線をつくっている。白地の多い画面で、すがすがしい感じのする美人画である。画集でみると、同じシリーズの耳のうしろに手をやっている“辰巳路考”や赤い茶托を運ぶ手がかわいい“難波屋おきた”にも魅せられる。いつか見てみたい。

歌麿のいい絵がもう一点