2017.10.22

北斎のダイナミズム!

Img     上町祭屋台天井絵‘男浪図’(1845年 小布施町上町自治会)

Img_0001      ‘女浪図’

Img_0004          ‘滝に鯉’(1834年 大英博)

Img_0002     ‘長春・黄鳥’(1834年 大英博)

Img_0003     葛飾応為の‘関羽割臂図’(1844~54年 クリーブランド美)


以前小布施の北斎館でみた祭屋台天井絵‘浪図’が大英博物館で展示されるという話が今年初めに放送された日曜美術館にでてきたとき、イギリスの浮世絵ファンはどんな反応をするだろかと思った。おそらく、北斎は‘グレートウエーブ’のほかにこんな波も描いていたのか!とびっくりしたにちがいない。

‘男浪’と‘女浪’をあらためてじっくりみると、やはり‘男浪’のほうにぐっと惹きつけられる。どちらも濃い青の中心部分は巨大な渦巻きがトンネルのようにダイナミックに描かれている。そしてその渦巻きが回転速度を増すたびに大きなしぶきが上から下から飛び散る。まさに動画をみているよう。

大英博物館から色がよく残ったすばらしい版画が沢山やって来ているが、思わず足がとまったのが‘滝に鯉’。鯉の体が流れ落ちる滝によって分断されるというシュールな表現がなんともすごい。円山応挙にもこんな絵があることをすぐ思い出した。

北斎の魅力のひとつが花鳥画。大英博の摺りのいい13点を息を呑んでみていた。お気に入りは正面をむいた鳥が印象深い‘長春・黄鳥’、海外のブランド美術館が所蔵する花鳥画はいずれも心を打つ。ミューズに感謝!

NHKは展覧会に関連してを北斎の番組をつくったが、今回は娘の応為にも光を当てている。応為の作品は会期中5点でてくるが、チラシで気になっていたのは‘関羽割臂図’。三国志を全巻読破したのでこの絵には敏感に反応する。

関羽は毒矢で傷ついた腕を治すため荒っぽい治療をうけても平気な顔をしているのに、まわりの者は痛そうでみておれないとあたふたしている。これは記憶に残る一枚。応為もやるねぇ。

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2017.10.21

大盛況の‘北斎展’!

Img     ‘雪中虎図’(1849年)

Img_0001     ‘鍾馗図’(1846年 メトロポリタン美)

Img_0002     ‘露草に鶏と雛’(1832年 メトロポリタン美)

Img_0003     ‘河骨に鵜図’(1847年 大英博)

国宝展をみたあとヘビーな昼食をとり、大阪の天王寺をめざした。大阪に土地勘がなく天王寺駅と難波駅との区別があやふや。そのため、ホテルの案内係から教えてもらったJRで大阪まで行きそのあと環状線に乗り換え天王寺で下車するというルートを選択した。

天王寺にある日本一高いビル、あべのハルカスは駅から歩いて5分で着いた。現在‘北斎ー富士を超えて’(10/6~11/19)を行っているあべのハルカス美は16階。ガラス越しに外がみえるエレベーターの大きいこと!30人くらい乗せられそうな広さに目を白黒させていた。

国宝展は入館に40分かかったが、ここでもチケットを買うのに長い列ができていた。この展覧会は当初パスのつもりだったのでローソンで前売り券を購入するのを忘れていた。20分くらい待ってようやく館内に入ることができたが、なかも人だらけ。京都が国宝展で大賑わいなら、大阪は北斎展で大いに盛り上がっている。

今回、関心を寄せていたのは肉筆画だが、作品の構成は版画が予想以上に多く2005年に東博であった北斎展以来の質の高い回顧展となっていた。まさに超一級の浮世絵展。出かけたのは大正解だった。これも龍光院の曜変天目が出品されたおかげ。

一番のお目当ては肉筆の‘雪中虎図’、この虎が気持ちを揺すぶってきた。なにか優しそうで愛嬌のある虎が雪のなか横を飛ぶように描かれている。雪が積もった木の枝に上下から囲まれるように虎を配置する構図がとてもいい。本物は図版でみるより3倍も魅了された。

赤一色の‘鍾馗図’はチラシで気になっていた作品。すみだ北斎美にある体を横に曲げた鍾馗も展示されるが(11/6~19)、シャンとした姿で鋭い目で前をみつめるこのMET蔵のほうに惹かれる。同じくMETからやって来た‘露草に鶏と雛’と大英博の‘河骨に鵜図’も浮世絵本でみたことのない絵、こんないい北斎に出会えるのだから回顧展はありがたい。

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2017.10.03

浮世絵で盛り上がる秋の展覧会!

Img

今年も残り3ヶ月となり、でかける予定の展覧会は少なくなってきた。前半はミュシャの‘スラブ叙事詩’やブリューゲルの‘バベルの塔’、アルチンボルトなど西洋絵画が美術ファンの心を奪ったが、後半は日本美術が断然輝いている。

今日から京博で‘国宝展’がはじまり(11/26まで)、東博では大運慶展(11/26まで)が行われている。そして、西でも東でもこの秋は浮世絵の展覧会が充実している。すでにみたものを含めざっとあげてみると、

★‘深川の雪と吉原の花’   7/28~10/29   岡田美
★‘鈴木春信展’       9/6~10/23    千葉市美
★‘北斎~富士を超えて~’  10/6~11/19  あべのハルカス美
★‘北斎とジャポニスム’   10/21~1/28   西洋美

まわりにいる浮世絵が好きそうな人には岡田美と千葉市美で展示してある歌麿の傑作‘吉原の花’と春信の美人画を見逃さないように言っている。二人の美人画をみれば西洋画ではマネとルノワールの女性画を存分に楽しんだようなもの。アクセスがちょっと悪いがそれでもでかける価値がある。

大阪で話題の北斎展がもうすぐスタートするが、北斎は東京でも登場する。21日からはじまる西洋美の‘北斎とジャポニスム’、ともに未見の北斎に何点遭遇するか、西洋美がつくるチラシには作品の情報がないがはたしてどんな北斎に出会えるか、サプライズに期待したいところ。。

これに対して、あべのハルカス美では狙いの作品は決めてある。美術館は天王寺駅にすぐそばにあるらしいが、天王寺で降りたことはないので、京都からどういう風にいくのが一番早いのかあれこれ調べている。やはり、四条烏丸から阪急で梅田まで出て、そこから地下鉄御堂筋線に乗り換えるのがベストルートだろうか。

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2017.09.30

期待を上回る‘鈴木春信展’!

Img_0002     ‘八つ橋の男女(見立八橋)’(1767年)

Img     ‘流れのほとりで菊をつかむ女(見立菊慈童)’(1765年)

Img_0001     ‘夕立’(1765年)

Img_0003     ‘風流江戸八景 両国橋夕照’(1768年)

千葉市美では現在、ボストン美所蔵による‘鈴木春信展’(9/6~10/23)が行われている。ここは15年前にも超一級の春信展をやり世の浮世絵好きを大いに楽しませてくれた。当時横浜にはいなかったが、幸運にも萩の浦上記念館に巡回してくれたので広島からクルマでかけつけた。

このときボストン美からは16点でてきたが、今回はこれらを含む90点ほどが里帰りした。ボストンにこれほど多くの鈴木春信(1725~1770)があったとは!ボストン、メトロポリタン、シカゴ、フィラデルフィア、アメリカのビッグな美術館には感心するほど質の高い浮世絵が揃っている。そして、それらが頻繁に日本で公開されるのだから嬉しくなる。

足がとまることたびたびなのでどれを選ぶか悩む。ポイントは色彩の鮮やかさとハッとする構図と描写、‘八つ橋の男女(見立八橋)’は画面をジグザグに曲がる八つ橋の造形的なおもしろさと鮮やかな黄色が目を釘づけにする。

‘見立菊慈童’は春信全作品のなかでベスト5に入れるほど気に入っている。春信は水の流れの描写が抜群に上手く、娘の前を流れる川にはミニ滝のような激しい流れができている。かわいい娘が醸し出すやわらかい雰囲気が自然の動的描写によってぴりっと締まる感じがする。

‘夕立’の荒々しさは春信のなかでは異色の作品。夕立が急にきたものだから、若い女性は大慌て、急いで洗濯物を取り込もうとするあまり下駄が脱げてしまった。よくある日常の光景をこれほど緊張感をもたせて表現するのだから、春信の画技はずぬけている。少女風の女性ばかり描いている絵師では決してない。

長くみていたのは‘風流江戸八景 両国橋夕照’、立っている女性に目をやると自然にその背景に描かれた富士山と沈む夕日にも視線が向かう。計算された構図のつくりかたに一本とられた。

なお、この春信展はこのあと次の美術館を巡回する。
★名古屋ボストン美   11/3~2018/1/21
★あべのハルカス美  4/24~6/24
★福岡市博        7/7~8/26

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2017.09.17

美人画競演 歌麿 VS 松園!

Img_0002         喜多川歌麿の‘芸妓図’(1802年)

Img_0001       喜多川歌麿の‘三美人図’(1789~1801年) 

Img       上村松園の‘汐くみ’(1941年)

岡田美で今、歌麿の大作‘雪月花’(ただし、‘品川の月’は複製画)を展示しているのは2階、この部屋を出た後、4階へ移動するとこの特別展に関連した‘人物表現のひろがりー土偶・埴輪から近現代の美人画までー’というテーマ展示を楽しめる。

腹が減っていたのでこれはパスして美術館を後にしたが、手に入れた作品リストには前回出会った歌麿と上村松園(1875~1949)の美人画が載っていた。ともに2点ずつ。この美術館が歌麿の肉筆画を何点もってるか正確には知らないが、大作の‘深川の雪’に加え長いことフランスにあった‘芸妓図’と1910年ロンドンで開催された日英博覧会に出品され評判になった‘三美人図’も並ぶとなると日本で一番の歌麿コレクションといっても過言でない。

熱海のMOA美には尾形光琳の国宝‘紅白梅図’があり、箱根の岡田美にはいずれ国宝になると思われる歌麿の‘深川の雪’がおさまっている。パリのルーヴルやNYのメトロポリタンをみれば明らかなようにいい絵を揃えた美術館は観光の大きな目玉になる。そう離れてないこの二つの美術館は今やそんな存在、これからますます来館者を増やすにちがいない。

先月、ホテルオークラで行われた恒例のチャリティ展で松園のとてもいい‘うつろう春’(霊友会妙一コレクション)に遭遇した。そのため、リストにあった‘汐くみ’と‘夕涼’を敏感に思い浮かべた。とくにぐっとくるのが‘汐くみ’、これほどの傑作なのこれまで上村松園展でお目にかかったことがない。例えば、2010年東近美であった超一級の回顧展に‘汐くみ’のタイトルがついた作品は2点でたが、完成度では岡田美のほうが上だった。

コレクターというのは誰も咎められないわがままなところがあって‘うつろう春’と同じようにいい絵ほど展覧会に出したがらない。是非、箱根へお越しくださいと岡田美は言いたいのだろう。

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2017.09.15

待望の喜多川歌麿の‘吉原の花’!

Img 喜多川歌麿の‘雪月花 吉原の花’(1791~92年 ワズワース・アセーニアム美)

Img_0004    一階部分の拡大

Img_0002       ‘深川の雪’(1802~06年 岡田美)

Img_0001       ‘品川の月’(1788年 フリーア美)

3年前、喜多川歌麿(1753~1806)の‘雪月花 深川の雪’をみた箱根の岡田美を再訪し、開催中の‘歌麿大作 138年ぶりの夢の再会 深川の雪と吉原の花’(7/28~10/29)をみてきた。箱根はクルマだと1時間半くらいで到着するので、美術館へは楽に出かけられる。

今回のお目当てはアメリカから22年ぶりにやって来た‘吉原の花’。このすばらしい肉筆画の存在は前から知っていたが、千葉市美の歌麿展(開館記念)があったとき生憎東京にいなかったので対面は叶わなかった。図録でいつもため息とつきながらながめていたその絵がまた日本に登場したのだから、幸運というほかない。

入館するとすぐ2階へあがり、‘吉原の花’に突進した。図録通りの見応え十分の大傑作!一階と二階に描かれている女性の数はなんと52人。ちなみに横に飾ってある‘深川の雪’に出てくる芸者たちは28。遊び人の旗本やらお金をたっぷりもっている豪商たちがこぞって繰り出す吉原、この絵にはそうした男たちはでてこないが、きれいな衣装を身につけた遊女たちが満開の桜を楽しむ姿が生き生きと描かれている。

茶屋の二階では武家の奥方たちを楽しませる花笠踊りの真っ最中、踊りを盛り上げる三味線や鼓、太鼓の軽やかな音が聞こえてくるよう。そして、エンターテイメント気分をさらに高める演出が上の金雲、洛中洛外図でおなじみの雲が白い桜の花びらと華やかに響きあっている。この絵に出会ったことは生涯の喜び、ミューズに感謝!

オマケで展示されている‘品川の月’は所蔵しているフリーア美(ワシントンD.C.)からは門外不出となっているため、原寸大の高精細複製画。これもいつかこの目でと思っているが、そのチャンスがやってくる可能性は小さい。だから、本物のつもりで隅から隅までじっくりみた。

今年みた日本画で大きな収穫はボストン美が所蔵する英一蝶の‘涅槃図’と歌麿の‘吉原の花’、当分はこのふたつが心のなかを占領しそう。

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2016.12.21

来年のお楽しみ浮世絵展!

Img       すみだ北斎記念美術館

Img_0001      ‘北斎の帰還’展の図録

ひとりの作家に光をあてた回顧展とともに展覧会巡りの大きな楽しみなのがやきものと浮世絵の特別展。今年は浮世絵で最後に北斎の描いたサプライズの肉筆絵巻が待ち受けていた。

新たにオープンしたすみだ北斎記念美で開催中の‘北斎の帰還’展(11/22~1/15)は想像するに相当混んでいそうな気がする。多くの浮世絵ファンの関心の的は目玉の‘隅田川両岸景色図巻’と関東大震災で焼失した絵馬の復元図。初日でもチケットを購入するのに30分も並んだから今はそれ以上を覚悟しなくてはならないだろう。

昨日からはじまった後期展示はNHKで放送した‘須佐之男命厄神退治之図’の復元図をもう一度じっくりみる狙いもあって出かけ気ではいたが、大混雑の予感がするので止めにした。開館人気が落ち着いたころまた足を運ぶつもり。

来年に開かれる展覧会の情報がいろいろ入ってきた。浮世絵展は期待できそうなのが二つある。
★ボストン美蔵春信展    9/6~10/23     千葉市美
★北斎とジャポニスム展   10/21~1/28    西洋美

ボストン美が所蔵する浮世絵の名品展は2014年上の森美であった‘北斎’で一旦終了と思っていたが、まだ続けるらしい。今度は鈴木春信にスポットをあて場所は東京を離れ千葉市美。これは楽しみ。

驚かされるのは西洋美でも北斎をやること。今から28年前の1988年、大御所の高階秀爾氏が西洋美の館長だったとき、‘ジャポニスム展’が行なわれた。これはパリのクランパレでも開催された一級の展覧会。そのとき高階氏と一緒に働いていたのが現女性館長の馬場さんと三菱一号館美の高橋館長。馬場館長のことだからまたいい作品を集めてくるにちがいない。おおいに期待したい。

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2016.12.19

2016年 感動の日本美術 ベスト10!

Img_0002

Img_0003    ‘羯鼓催花・紅葉賀図蜜陀絵屏風’(重文 17世紀 静嘉堂文庫美)

Img  葛飾北斎の‘隅田川両岸景色図巻’(1805年 すみだ北斎記念美)

Img_0001    佐竹曙山の‘松に唐鳥図’(重文 18世紀)

美術品と出会って大きな感動をおぼえる作品は二つの場合がある。ひとつはずっと追っかけていたものと対面したとき。もうひとつは情報のなかったものが現れるとき。

ベスト10のうち後者のものは4点、静嘉堂文庫美で開催された‘漆芸名品展’(10/8~12/11)で10年ぶりに公開された‘羯鼓催花・紅葉賀図蜜陀絵屏風’も情報がまったくなかったもの。漆を使って描かれた絵をみる機会はきわめて少ないから、こうした屏風サイズの大きな蜜陀絵と遭遇したことはエポック的な鑑賞体験となった。

西洋画では陰影や奥行きを表現するのは当たり前のことだけれど、日本画では画面は平板で物の影はつけないのが伝統的な描き方。でも、浮世絵師の葛飾北斎(1760~1849)や歌川国芳(1797~1861)は影をつけたり遠近法を使い奥行きのある画面をつくることに躊躇しなかった。

開館を首を長くして待っていた‘すみだ北斎記念美術館’、11/22にはじまった‘北斎の帰還’(来年の1/15まで)には目を釘付けにする肉筆の絵巻が登場した。100年ぶりに日本に帰ってきた‘隅田川両岸景色図巻’、7mもある画面を夢中になってみた。

目を見張らされるのが大川橋や川をいきかう舟の川面に映る影、これほど西洋画的な陰影表現がでてくる浮世絵をみたことがない。流石、北斎! 西洋画の手法でも貪欲に吸収し絵画表現の可能性をとことん極めようとした北斎だからこそこんなすばらしい風景画が誕生した。北斎に乾杯!

サントリー美の‘小田野直武と秋田蘭画’(11/6~1/9)で期待値の高かったのが佐竹曙山(1748^1785)の‘松に唐鳥図’、赤い鳥と近景の松をどんと大きく描いて画面に奥行きを強く感じさせる構図のインパクトの強さが忘れられない。

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2016.11.23

すみだ北斎美術館 開館!

Img_0001     

Img     ‘隅田川両岸景色図巻’(1805年)

Img_0002     ‘遊亀図’(部分 1800年)

Img_0003     ‘寒山捨得図’(1826~33年)

すみだ北斎美術館が開館したので、初日に出かけてきた。これまでJR両国駅で降りて江戸東博に向かうのがお決まりのコースだったが、今回は地下鉄大江戸線に乗り両国駅で下車するとちょうど江戸東博の裏側にでてきた。ここから新しくオープンした‘すみだ北斎美術館’までは歩いて10分くらい。美術館はあまり大きくない公園の一角に建っていた。

時間は昼の1時半、建物の外に行列ができていたのでこれは出遅れたかなと思ったが、20分ほどでチケットが買えた。館内は勝手がわからないまま3階で降りて開館記念展のなかに入った。‘第2章’とあったので?という気がしたが、そのまま進むとうわさに聞いていた絵巻が現れた。

100年ぶりに発見されたこの‘隅田川両岸景色図巻’については、今回その情報にはノータッチだったし、北斎にこういう絵巻があったことも知らなかった。どういう経緯でこの美術館におさまったのか詳細はわからないが、とにかく奇跡がおこったことはまちがいない。2014年、再発見された歌麿の肉筆画‘深川の雪’を箱根の岡田美でお目にかかったが、そのときと同じようにワクワクしながらみた。

まずびっくりするのはコンデイションの良さ、発見されたあと修復に時間をかけたのだろうか、これまで北斎のこういう風景画で目を楽しませてくれたのは色がばっちりでている‘絵本隅田川両岸一覧’、これに対して‘景色図巻’は肉筆画で描き方はまったく違う。

目が釘づけになるのは川の水面が鏡のように岸のそばの家々や土手、両岸にかかる橋、そして川に浮かぶ舟のそれぞれの影を映しだしていること。これほど影が描かれている浮世絵はみたことがない。まるで西洋画をみているような感覚。

左端は新吉原でお楽しみの場面、大きな鯛を前にしてくつろぐ二人の男、その隣の部屋では女たちがにぎやかにおしゃべりし座はおおきに盛り上がっている。絵巻の長さは約7m、今日はこの前では大勢の人であふれかえっていただろう。本当にいいものをみた。

版画はお馴染みのものが多いので初見の肉筆のほうを長くみていた。収穫は親子亀、子亀を背中に乗せて小岩をよじ登ろうとする親亀の姿についみとれてしまった。北斎の観察力のすごさがこんな絵にもしっかり表れている。

‘寒山捨得図’は2005年、東博で行われた北斎展に出品されていた。このときは墨田区の所蔵と記されていた。それから11年のときが流れ、これからはこの美術館でちょくちょくお目にかかることができる。めでたい話である。

この記念展‘北斎の帰還’は来年の1月15日まで、作品は前期(11/22~12/18)、後期(12/20~1/15)で多くが入れ替わるので後期も足を運ぶかもしれない。

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2016.05.11

日本のラ・トウール、葛飾応為とルーベンス!

Img_0001       葛飾応為の‘夜桜美人図’(19世紀中頃 メナード美)

Img_0003  ルーベンスの‘月明かりの景色’(部分 1637年 コートールド美)

Img          近藤浩一路の‘十三夜’(1936年 東京都現美)

テレビ東京の人気番組‘美の巨人たち’が今、西洋美で回顧展(6/12まで)が行われているカラヴァッジョを取り上げるのではないかと期待していたが、どうも制作される気配がない。2本つくったNHKほどの厚いスタッフをかかえられずで贅沢な予算もないテレビ東京ではカラヴァッジョにまで手がまわらないのだろう。過去に2回いいものをつくっただけに残念!

そのかわりいい絵にスポットをあててくれた。それは先月に放送された葛飾応為の‘夜桜美人図’、ご存知のように応為は北斎の娘、この女流絵師はいうなれば日本のラ・トウールのような存在、目を見張らされるのはその光の描写。

この‘夜桜美人図’は幸運なことに2年前江戸東博で行われた‘大浮世絵展’でお目にかかった。これは浮世絵のオールスターゲームのようなビッグな展覧会だったので、この絵に足がとまった人も多くいるのではなかろうか。絵の見どころはなんといっても灯篭の明かりとその光がうつしだす女性の姿、そして夜空の星。

夜の情景をこれほど強い陰影をきかせて描いた絵はほかにない。こんなすごい絵をあの北斎の娘が描いていたのである。番組の中で詳しく解説していたが、星の描写がじつにリアル。北斎の鋭い観察力はしっかり娘にひき継がれている。

つい見惚れてしまう星の描き方をみてある絵を思い出した。2010年、ロンドンにあるコートールド美でみたルーベンス(1577~1640)の‘月明りの景色’、西洋絵画でも星がこのように繊細に描かれることはほとんどないのでその美しい星の輝きが強く記憶に刻まれている。

もうひとつ、近藤浩一路(1884~1962)の‘十三夜’に描かれた星々も心を打つ。‘美の巨人たち’が応為に光をあててくれたおかげでルーベンス、葛飾応為、近藤浩一路による星のコラボレーションが生まれた。しばらく楽しんでいたい。

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