2008.12.06

Bunkamuraのワイエス展

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渋谷のBunkamuraで開催中の‘アンドリュー・ワイエス展’(11/8~12/23)を見た。この展覧会の情報を得た時、出品作に対する事前の期待は半分々だった。そして、開幕近くになると、昨年福島県美で見た‘ガニング・ロックス’(拙ブログ07/4/18)がチラシで一番大きく扱われていたから、‘あまり期待できないな’という気分。

‘ガニング・ロックス’はとても気に入っている作品だが、これが第一のアピールポイントだとすると、アメリカの美術館からの作品は少ないことはおおよそ察しがつく。

果たして、どうだったか?予想に反して、心に響くいい絵が結構あった。これは嬉しい誤算!ワイエスの画集が手元になく、MoMAにある‘クリスティーナの世界’のほかにどんな絵がこの画家の代表作となっているのかわからないので、胸を打った作品がどのあたりのものかイメージできない。

今回はテーマを‘創造への道程’としているので、最終のテンペラ画とその前の素描や水彩を連続的に展示している。絵描きではないから、習作には興味がない。で、それらをパスして完成した作品だけを時間をかけてみた。ぱっとみて完成作は30点くらいしかなく、残りの120点は習作。アメリカで絶大な人気を誇るワイエスの絵を日本で沢山見れるとははじめから思ってないが、‘30点で1400円もとるのか’というのも率直な感想。

作品自体には青山ユニマット蔵の‘オープンハウス’(07/6/17)などで目慣らしが少しできているので、その繊細な描写が心をとらえてはなさない。上は‘粉挽き小屋’
(1962、フィラデルフィア美)。風がゆるやかに吹いているのか、二本の木の棒をつなぐ鉄線に枯れ草がかかり揺れている。向こうにみえる粉挽き小屋の石の壁がなんともリアル。

草木や木々をこのように一本々実に細かく描く風景画は森本草介(07/5/23)やロシアのポポフ(07/5/22)の絵とよく似ているし、最近見た日本画の速水御舟の‘丘’(10/5)とか石田徹也の‘前線’(11/15)にみられる描写力とも通じるものがある。

これほど繊細なリアリズム画に感動するのはワイエスの描くアメリカの田舎の風景が静謐そのものだからである。鳥が空を飛んでいるとか、馬が走っている光景でもなく、また、雲が早いスピードで動いているとか、風がビュービュー吹いているわけでもない。人の気配がしない、時間が止まっているような実に静かな世界をこういう、ハイパーリアリズムで描くと見る者はいやがおうでも画面の中に惹きこまれる。アメリカの原風景がここにある。

真ん中は鹿が地面に落ちた林檎を食べようとしているところを描いた‘ジャックライト’
(1980、個人蔵)。太い幹が真ん中で左右に枝分かれし、そこに体を寄せるようにしている鹿が真っ赤な林檎のほうへ首をのばしている。光が幹の表面に強く当たるところと下の影のところの対比が目に焼きつく。

下の‘三日月’(1987、個人蔵)も画面手前が強いインパクトを持っている作品。軒下に懸けられている籠を見て、瞬時にダリが描いた‘パン籠’(06/10/2)を思い出した。籠や柱は木の質感が200%伝わってくるのに対し、雪の積った地面や遠くの小山は霞がかかったように描き、クリスマスツリーのような木の隣に三日月を配している。冬の厳しさと幻想的なイメージが溶け合わさった画面を息を殺して眺めていた。

福島県美がワイエス作品をどういう縁で手に入れたのか知らないが、昨年、‘ガニング・ロックス’と一緒に見た‘農場にて’のほかにも裸婦図の‘そよ風’、‘松ぼっくり男爵’など全部で7点あった。青山ユニマット(15点)とともに福島県美がこんなにワイエス作品をコレクションしていたとは。習作の大半は丸沼芸術の森蔵だったが、ぐっとくる完成作がなかった。今回は習作だけに絞って出したのか、それともいいテンペラや水彩は所蔵してない?

ワイエスについては、凄い画家であることは前からわかっているので、一度過去行われた展覧会の図録とかちゃんとした画集を手に入れ、どのくらいの名品がどこにあるのかチェックしてみたい。

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2008.05.15

その十二 サージェント  ルノワール  ドガ

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いろいろある西洋画のなかで最も楽しい気分にさせてくれるのはギリシャ神話を題材にした絵、女性を描いた絵、モネの風景画、そしてシュルレアリスム絵画。すでにお気づきだと思うが、この名画紹介の多くが女性画。メトロポリタンにもお目当ての女性画がいくつもある。そのなかで重点鑑賞にしていたのが上のサージェント(1856~1925)の代表作、“マダムX”。

入館して真っ先にこれが展示してあるアメリカン・ウイングヘ行ったが、見当たらなかった。ここは現在工事中のため、2階の19世紀ヨーロッパ絵画のところで展示中とのこと。で、見る順番はだいぶあとになった。縦2mちょっと、横1.1mの大きな肖像画である。隣にもこれよりひとまわり大きい“ウィンダム家の姉妹たち”が飾ってあった。リストにはもう一点、図版でみてもすごく魅了される“バラを持つ婦人”をコピーしていたが、これはなかった。

黒のドレスでいっそう引き立てられるモデルの白子のような白い肌とノーブルな横顔に言葉を失う。この絵が引き起こしたスキャンダルの話はインプットされているから、ほかの女性画よりは目に力が入る。サージェントは憧れのマダムX(マダム・ゴートロー)にもともと、右肩のひもを落としてポーズさせていた。カットの深いドレスで肩のひもを落とした絵が保守的なパリのサロンですんなり受け入れられるはずがない。“退廃的だ、挑発的な姿勢だ”と非難轟々だったので、サージェントは仕方なくここの部分を描き直した。

短期間のうちにすばらしい子供の絵(拙ブログ2/104/22)、ロンドンのテート・ブリテンにある“マクベス夫人に扮するエレン・テリー”、そして“マダムX”と対面し、肖像画家サージェントの高い技量に深く感服した。いつか大回顧展と遭遇することを夢見ている。

ここにあるルノワール(1841~1919)は“シャルパンティエ夫人と子供たち”などの傑作をすでに鑑賞済みだから、脈拍数が一気にあがることはなかったが、想定外の真ん中の“カティース・マンデスの娘たち”の前では200%KOされた。手元の画集ではこれは個人蔵となっているが、ここに寄贈されたのだろう。

なによりもびっくりするのが女の子の顔や手足と身につけている衣服の白の輝き。すこし離れてみてもその明るい白がくっきり見える。大げさにいうと光を周囲に発している仏さんの絵を見ているような気分になった。ルノワールの絵を1月からの美術館めぐりで沢山みたが、絵の明るさという点ではこれが一番すごかった。もう一点魅了されたのがやわらかい筆のタッチと明るい色彩で女性美を描いた“沐浴する若い女”(レーマンギャラリー)。これは裸婦図ではお気に入りの一枚。

ドガ(1834~1917)のコレクションはオルセーと質量とも遜色ない。画集に載っている“コレクター”、下の“菊の花と女”、オルセーにあるのとよく似た構成の“ダンス教室”、“婦人帽子店にて”、“ソファーで髪をすいてもらう女”などの名画が続々と現れる。また、ブロンズ彫刻“グランド・アラベスク”、“右足の踵を見る踊り子”などもある。

“菊の花と女”でハットするのは浮世絵から得た大胆な構図。ヨーロッパ絵画の伝統をおよそかけ離れて、花を中央におき、女は画面右端に描かれている。構成は浮世絵の影響を受けているが、外をぼんやりみている女の描き方はドガ特有のもので、‘アプサント’の女性同様、内面の深い孤独感がみてとれる顔の表情が心を揺すぶる。

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2008.04.09

その七 ホーマー展  オキーフ

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アメリカ人画家、ホーマー(1836~1910)のいい絵をオルセー(拙ブログ2/21)でみたばかりだから、通路をはさんでホッパー展の反対側で行われている“ホーマーの水彩画展”にも心が動く。これはこの美術館独自の企画展で、全米の美術館や個人が所蔵する水彩画、素描140点あまりが展示してある。大半は水彩画であるが、油彩も数点あった。

アメリカの美術館めぐりだから、普段見る機会がほとんどないアメリカ絵画の名画は見逃さないよう各美術館ごとにリストアップしていた。注目の画家は昨日取り上げたホッパー、ホイッスラー、サージェント、ホーマー、オキーフの5人。シカゴ美術館はホーマーの情報がなくNOマークだったのに、会場をまわってみるといい絵がいくつも目の前に現れた。

上は水彩画ではなく油彩画だが、ここの図録にも掲載されている“漁網”。小さな舟で漁をする2人の漁師が魚のかかった網を力いっぱい引き上げている。魚の鱗のきらきら光る質感と大きく揺れる波の動感描写に釘付けになった。ホーマーは海洋画の名手。手元にある画集に3点いいのがあったから、対面を楽しみにしていたが、先走っていうと、結果は1勝2敗。メトロポリタンの“メキシコ湾流”は見れたが、ワシントンナショナルギャラリーにある北斎の海の上を飛ぶ鳥を参考にして描いた“右に左に”とボストンが所蔵する“すべてOK!”と大きな声をあげている船の見張り役の男を描いた作品は残念ながら見当たらなかった。

ホーマーは40代に入ってイギリスに行き、漁師の厳しい生活を間近にみたのがきっかけで、海や海で働く人々を描くようになる。真ん中の水彩画“風の強い日”(メトロポリタン)でも足がとまった。前掛けが後ろにとばされるほど風が強いため、前に進むのもきつそうな女を二隻の船の間にもってくる構図がなかなかいい。これはNYでみる予定だった絵だが、これほど惹きこまれるとは思わなかった。

会場にはホッパー展には負けるものの大勢の人がいたから、ホーマーはホッパー同様、アメリカ人に愛されている画家にちがいない。次のターゲットは海洋画の傑作の一つに数えられている“八点鐘”(アディソンギャラリー)と救難隊員が難破船から女性を救い出す場面を描いた“ライフライン”(フィラデルフィア美)。

特別展のすぐそばにあるのがアメリカ絵画。時間がないのでお目当てのオキーフ
(1887~1986)の絵だけをみた。下は94年のシカゴ美展にもやってきた“牛の頭蓋骨とキャラコ地のバラ”。オキーフは大好きな女性画家だけれど、これまで見た作品は両手もいかない。少ない鑑賞体験の割にはこの画家のイメージは強烈に体の中に染みこんでいる。それは牛の頭蓋骨と大きな花。

前回のボストン美訪問で感動した“白いバラNo.2”や昨年のフィラデルフィア美展に出品された“ピンクの地の2本のカラ・リリー”は一生忘れることのないすばらしい絵だし、再会した“牛の頭蓋骨”も心の中を大きく占領する。この絵の横にあった“黒い十字架、ニューメキシコ”は抽象と具象をミックスした不思議な絵。図録にはこちらが載っているが、十字架が大きすぎてあまりぐっとこなかった。

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2008.04.08

その六 ホッパー展

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ミシガン通り側の入り口から入館しようとしたとき美術館の壁に企画展を案内するバナーが二つ垂れ下がっていた。一つが“ホッパー展”で、もう一つが“ホーマー展”。楽しみにしていたホッパー(1882~1967)の上の“夜ふかしする人々”が見れるだけでもワクワクするのに、ラッキーにも回顧展に遭遇するとは!ミューズに感謝である。で、20ドルの追加料金を払い、急いで特別展の会場へ向かった

この回顧展は昨年5月、まずボストン美ではじまり、その後9月から今年の1月までワシントンのナショナル・ギャラリーで行われ、最後にここシカゴ美にやってきた(2/16~5/11)。作品数は油彩70点、素描12点。図録にはボストン、ナショナルギャラリーだけに展示されたものも含めて全部で110点載っている。ホッパーの代表作を所蔵する美術館から目一杯何集めてきた感じで、何十年に一度開催される大回顧展といっていい。ここだけにへばりつくわけにもいかず、落ちつきのない鑑賞スタイルではあったが、これぞホッパーという作品はしっかり目に焼き付けた。

これまでみたホッパーの絵はNY、MoMAにある“ガソリンスタンド”、“ニューヨークの映画館”、メトロポリタンの“婦人たちのためのテーブル”(いづれも今回展示してあった)と2年前府中市美で開催された“ホイットニー美術館展”に出品された“踏切”、“クイーンズボロ・ブリッジ”、“ニューヨークの室内”の6点しかない。だから、代表作中の代表作“夜ふかしする人々”をみることが長年の夢だった。

この絵で魅せられるのはなんといっても無駄な部分を省略した簡潔な構図。画面右から船の舳先が鋭角的にせりだすように描かれたダイナーとよばれる簡易食堂にいるのは店主と客の3人だけ。店の外の歩道には人っ子一人いない。大都会の夜の孤独感がひしひしと感じられる光景である。蛍光灯の光があたり一際あかるい右奥の壁の近くに座っている男女を見ているだけではそれほど淋しい感じはしないが、目をこちらに背中を向けている男にやると、とたんに不安で孤独な感情に体がつつまれる。抽象的とも思える構成と光と闇の強烈なコントラストで大都市における孤独感を見事に描いた傑作である。

ホッパーが風景画で繰り返し描いたのが鉄道線路、踏切、家屋、建築物、灯台。6点あった灯台の絵でもっとも惹きつけられたのが真ん中の“灯台のある丘”(ダラス美)。下から見上げる感じに描かれている灯台と横の建物は写実的に見えるのだが、灯台にあたる光と縦に中央から分ける影をみていると、デ・キリコの形而上絵画をみているような気にもなる。メトロポリタンでみたのは澄み切った青い空を背景にまぶしい陽光を浴びる灯台だったから、このようなデ・キリコの作風を彷彿とさせる絵があるとは思ってもみなかった。

裸婦図や人物画も沢山ある。女性たちはいずれも部屋の中でぽつんと座っていたり、窓の外をときに虚ろげに、ときに淋しげに眺めている。下は妻のジョーがモデルといわれている“午前11時”。裸婦は窓際で椅子に座ったままでじっと外を見ている。こちらを振り向かれたらなんと言って声をかけたらいいのか困る雰囲気なので、目に力をいれてその記憶を強くとどめ、隣の絵のほうへ進んだ。念願の“夜ふかしする人々”のほか心を揺すぶる名作の数々と対面できた喜びを今かみしめている。

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