2011.10.12

‘モダンアート、アメリカン’展でモーゼスおばあさんの絵をみた!

3159_2     グランマ・モーゼスの‘フージック・フィールズの冬’(1944年)

3160_2     ホーマーの‘救助に向かう’(1886年)

3161_2     ホッパーの‘日曜日’(1926年)

3162_2     ブルースの‘パワー’(1933年)

国立新美で開催中のフィリップス・コレクション‘モダン・アート、アメリカン’(9/28~
12/12)のお目当てはオキーフでもホッパーでもなく、モーゼスおばあさん(1860~
1961)。美術館へ足を運んだのはこの農婦が84歳のときに描いた‘フージック・フィールズの冬’をみるため。はじめからこの展覧会は1点買いと決めている。

絵は章立てでいうと7章‘記憶とアイデンティティ’のコーナーに展示してある。冬一色の景色がとてもあたたかく感じられるが、絵のサイズは想像していたものより一回り小さかった。視線が集中するのが海坊主のように大きく蛇行する川と中央の鉄橋を渡る列車。人物も家々も平べったく子どもが描いたような絵だが、なぜか惹きつけられる。この絵を知ったのは今から25年前。次回のワシントン旅行で対面のはずだったが、日本でみれることになった。素直に嬉しい。

もうひとつの収穫はホーマー(1836~1910)の‘救助に向かう’。とびっきりの絵というのではないが、この画家の特徴である動きのある描写に思わず足がとまった。ホーマーの油彩の回顧展と遭遇することを願っているから、1点でもヴァリエーションが増えると心がはずむ。

ホッパー(1882~1967)は2点ある。3年前シカゴ美の回顧展でみた‘日曜日’と‘都会に近づく’。‘日曜日’をみていて、家の前で座っているつるっぱげの男の位置について思いをめぐらした。もし右端、あるいは左端に座っていたらどんないイメージになるか?都会に生きる人間が体験する孤独さはやはりこの絵のように真ん中でないと強く伝わってこない。

NYはまだ3回しか行ったことがないので、この街の風景をあれもこれも知らない。ブルースの‘パワー’ではNYが豊かな近代社会における理想都市として崇高な雰囲気で描かれている。しばらく息を呑んでみていた。

好きな画家オキーフ、ポロック、ロスコはどれも小さくてグッとこない。あまり期待しないほうがいい。これよりローレンスの‘大移動’シリーズの5点のほうが心を打った。展覧会の満足度は◎とはいかないが、モーゼスおばあさんの代表作があったから○とした。

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2011.07.06

もっと見たいオキーフの名画!

2822_2     ‘赤い丘’(1927年 フィリップス・コレクション)

2819_2     ‘ジャック・イン・ザ・ブルビットⅢ’(1930年 ワシントンナショナル・ギャラリー)

2821_2     ‘オニゲシ’(1928年 ミネソタ大ワイズマン美)

2820_2     ‘それは青と緑だった’(1960年 ホイットニー美)

アメリカの女流画家、ジョージア・オキーフ(1887~1986)に大変魅せられており、回顧展に遭遇することを夢見ている。08年に美術館めぐりをしたとき、どこにもオキーフの絵はあり、この画家がアメリカでは特別の存在であることを実感した。

国立新美では今秋ワシントンにあるフィリップス・コレクションが所蔵するアメリカ絵画を公開する‘モダン・アート、アメリカ’展(9/28~12/12)が開催される。チラシにはオキーフの作品が2点載っている。日本に居ながらにしてアメリカの画家の絵を楽しむのだから、あまり贅沢はいえず無理とはわかっているがこの2点と‘赤い丘’をとっかえて欲しかった。

‘赤い丘’は18年前、週間美術本‘ラ・ミューズ 世界の美術館 フィリップスコレクション’で知って以来、丘の強烈な赤と沈みゆく太陽をいつかこの目でと思いをつのらせている。このすばらしい風景画とともに、ワシントンではみたい絵がもう数点ある。それはナショナル・ギャラリーが所蔵する連作‘ジャック・イン・ザ・ブルビット’。

ここに6点全部あるかわからないが、TASCHEN本には4点載っている。前回みたのはⅣ1点のみ(拙ブログ08/4/17)。花の絵をみているのか抽象画をみているのか不思議な体験だった。この絵以上に心に響くのがⅢ。

オキーフの絵というと画面いっぱい描かれた大きな花とか牛の頭蓋骨がイメージされる。モチーフとしての花をクローズアップして描くという発想は花鳥風月の国、日本では生まれてこない。これが広大な自然をもつアメリカに住む画家の手にかかると画面が大きくなり、花も巨大化しついには一部がキャンバスからはみだす。こうなると具象の感覚は半分溶け抽象化された形と色彩に心はむかう。

ホイットニー美でまずみたいオキーフの絵は‘夏の日々’(10/9/22)だが、高層圏を飛ぶ飛行機の窓から見た光景を白をバックにやわらかい曲線のフォルムで自由に表現したような‘それは青と緑だった’にも惹きつけられる。この美術館はまだ足を踏み入れてないので、次回のNYではいの一番にでかけるつもり。

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2011.07.05

もっと見たいサージェント・ホイッスラーの名画!

2815_2            サージェントの‘バラを持つ婦人’(メトロポリタン美)

2816_2     サージェントの‘ハラ湖’(1916年 フォッグ美)

2818_2     ホイッスラーの‘ウェストミンスター旧橋のとり壊し’(1862年 ボストン美)

2817_2     ホイッスラーの‘ノクターン:青と金色 サウサンプトン’(1872年 シカゴ美)

アメリカの美術館は当然のことではあるが、アメリカの画家の作品を多く所蔵している。今日とりあげるサージェント(1856~1925)とホイッスラー(1834~1903)は本籍アメリカ、現住所ヨーロッパの画家。だから、その作品はボストン、メトロポリタン、シカゴ、フリーアだけでなく、ロンドンやパリにある美術館でもお目にかかることができる。

サージェントを知ったのは18年前ボストン美で少女画の傑作‘エドワード・ダーレイ・ボイドの娘たち’(拙ブログ08/4/22)に出会ったとき。その衝撃は以後体のなかにずっと残っていたが、ほかのいい絵をみる機会は08年テートブリテンやメトロポリタンを訪問するまでなかった。

METでは有名な‘マダムX’(08/5/15)をみてとてもいい気分になった。でも、アメリカンウィングが改装中で限られた作品しか展示されてなく、必見リストの上位に載せていた‘バラを持つ婦人’は姿をみせてくれなかった。次回はなんとしてもみたい。

初訪問のボストン美のあとハーヴァード大のフォッグ美にも寄った。ここにはゴッホの自画像やモネの‘サン・ラザール駅’など印象派の名画がいくつもあり、それらに夢中だった。で、ボストン美ではじめて画家の名前を知ったサージェントの風景画に気づくはずもない。購入した図録にすばらしい‘ハラ湖’がでていた。サージェントは肖像画だけではなく、風景画も描いていた!3年前は大学の構内は散策したが、時間がなくリカバリーはお預け。

ボストン美にあるホイッスラーの橋の絵は、新館建設中でほかのアメリカ絵画とともに縁がなかった。‘ノクターン’シリーズの‘青と金色 サウサンプトン’はテートブリテンでみた‘青と銀色 クレモンの灯’(10/12/23)と同じ調子の絵。ワシントンのフリーアでホイッスラーの作品は沢山みたので、この2点をみれれば一区切りできる。

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2011.07.04

もっと見たいハドソンリバー派の名画!

2812_2   コールの‘雷雨のあとのホウリオウク山からの眺め’(1836年 メトロポリタン美)

2814_2     コールの‘ナイアガラの滝の眺望’(1830年 シカゴ美)

2813_2     チャーチの‘コトパクシの眺め’(1857年 シカゴ美)

2811_2   ビーアスタットの‘ロッキー山脈 ランダーズ・ピーク’(1863年 メトロポリタン美)

NYのメトロポリタン美ヘ08年行ったとき、とても楽しみにしていたのがハドソンリバー派の風景画。このハドソンリバー派の絵画については、03年に放送されたNHK人間講座‘美は時を超える’の講師をつとめた日本画家千住博から教えてもらった。

講座のなかではMETにあるトマス・コール(1801~1848)、フレデリック・エドウィン・チャーチ(1826~1900)、アルバート・ビーアスタット(1830~1902)の作品が紹介された。千住博ご推奨の風景画だから、入館すると真っ先にアメリカン・ウイングをめざした。ところが、生憎改装中でみれたのは雄大なアンデスの風景が信じられないほど緻密に描かれたチャーチの‘アンデスの山奥’(拙ブログ08/5/11)のみ。思い入れが強かったので1点だけだと消化不良の感はいなめない。

だから、次回のMETではコールの長いタイトルがついた‘雷雨のあとのマサチューセッツ州ノーサンプトン、ホウリオウク山からの眺め’とビーアスタットの‘ロッキー山脈、ランダーズ・ピーク’のリカバリーをまず果たしたい。ハドソンリバー派はこの3点で終わり?画集がないので一体どのくらの数があるのかわからないが、作品情報はもう数点ある。

それはシカ美が所蔵するコールのナイアガラの滝を描いたものと図版をみているだけでも心が震えるチャーチの‘コトパクシの眺め’。シカゴ美ではオマケのホッパー展とホーマー展が急遽入り、スーラの点描画などの追っかけ画を大急ぎでみることになったため、アメリカ絵画の部屋はオキーフ以外はパスした。

ここにとりあげた2点は鑑賞のあと購入した館の図録に載っていたもの。頁を開いた瞬間、ため息がでた。METにあるものと勝るとも劣らない傑作!こういうコレクションがあるのだから、シカゴ美というのはやはり凄い美術館。会えなかったのは残念だが、またここへ出かけるインセンティブができたと思うことにした。

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2011.07.03

もっと見たいホーマーの名画!

2807_3          ‘見張り’(1896年 ボストン美)

2810_2     ‘八点鐘’(1886年 アディソン・ギャラリー)

2808_2     ‘ライフライン’(1884年 フィラデルフィア美)

2809_2     ‘メキシコ湾流’(1899年 メトロポリタン美)

08年はじめて訪れたシカゴ美ではお目当てのスーラの‘グランド・ジャット島の日曜日の午後’がみれただけでなく、予想もしなかったビッグなオマケが3つもあった。それはホッパーとホーマーの回顧展(拙ブログ08/4/9)と図版では想像もつかないほどすばらしかったカイユボットの‘パリの通り、雨’。

これだけ大きな感動をもらうと、シカゴ美のことは一生忘れない。ここにはホッパーだけでなく、アメリカ人画家ホーマー(1836~1910)のいい絵があることは回顧展に並んだ水彩や油彩をみるまで知らなかった。見終わったあと、ホーマーの海洋画を1点々追っかけようと思った。

ボストン美は10年秋に新館のアメリカ館が完成した。3年前は工事中のため、必見リストのトップに載せていた‘見張り、すべてOK’がみれなかった。ボストン美へはじめていったのは今から18年前。当時はモネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホの絵に夢中だった。で、‘見張り’はこれほど力強い絵なのにみた記憶がない。だから、そのリカバリーに意気込んで行ったのだが、残念なことに部屋がクローズ。新装なったニューボストン美に期待したい。

‘八点鐘’も‘見張り’とともにぐっと惹きこまれる絵。手前に大きく描かれた2人の船員は六分儀で太陽の高度を測っている。帽子のハイライトと大きく揺れる波頭の白が強く目に焼きつく。この絵をみれる機会があるだろうか?

救難隊員が難破した船から女性を救い出すところを描いた‘ライフラン’はフィラデルフィア美を訪れたら真っ先に足を運ぶことにしている絵の一枚。まるで遭難映画の一場面、荒れ狂う波すれすれ女性を救いだす隊員の動きを固唾をのんで見守っている感じ。

メトロポリタンで‘ライフライン’同様、緊迫感につつまれる‘メキシコ湾流’をみた。荒波に翻弄される船はマストが折れ、みるからに悲惨な状況。黒人の若者が必死に船につかまっているが、まわりを鮫が大きな口をあけてぐるぐるまわっているから生きた心地がしないだろう。

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2011.07.02

もっと見たいホッパーの名画!

2803_2     ‘サマータイム’(1943年 デラウェア美)

2805_2     ‘夏の夕暮’(1947年 個人)

2806_2     ‘ホテルの窓’(1956年 個人)

2804_2     ‘陽光を浴びる人々’(1960年 ワシントンナショナル・ギャラリー)

この秋、国立新美で行われるフィリップス・コレクションの‘モダン・アート、アメリカ’展と来年2月の‘ポロック展’(東近美)に大変期待している。アメリカのアーティストの作品はパリのポンピドーやロンドンのテート・モダンでもロスコやポロックなどビッグネームのものはそこそこみれるが、やはりアメリカの美術館やギャラリーに足を運ばないと幅広く楽しめない。

08年にシカゴ美やワシントンナショナルギャラリーなどをまわり、アメリカ美術のすばらしさを目に焼き付けた。そのときは印象派やポスト印象派をやっつけようという思いがあり、アメリカのモダンアートへの集中力は半分くらい。で、NYのMoMAやグッゲンハイム、ホイットニー美(拙ブログ10/9/22)は次回の楽しみとした。それから3年経ったので、NYやワシントンへ心が動き始めている。

今頭の中にあるラフな鑑賞計画はNYの上述の3つの美術館、前回工事中だったボストン美のアメリカ館、そしてロスコやリキテンスタインなどの追っかけ画リストの1/3くらいしかみれなかったワシントンナショナルギャラリーの新館。また、時間があればフィリップスコレクションのロスコルームにも立ち寄りたい。

とくに関心の高い画家はホッパー、ホーマー、オキーフ、ワイエス、ポロック、ロスコ、ニューマン、ジョーンズ、ステラ、リキテンスタイン。このなかでホッパー(1882~1967)は08年幸運にもシカゴ美で大規模な回顧展(08/4/8)に遭遇し、念願の‘夜ふかしする人々’をはじめ傑作の数々をみることができた。

好きな画家の場合、こういう回顧展を体験すると美欲がさらにふくらみ、あの絵もこの絵もみたくなる。そんな絵をあげてみた。ホッパーは灯台や建築物、家屋なども沢山描いているが、それよりもっと惹かれているのは人物が登場する作品。

ホッパーの人物描写は印象派でいうとドガ的なイメージが強く、ホテルや建物がある街の雰囲気はどこか静寂で孤独感の漂うデ・キリコの世界。全部とはいわないが、1点でもみれたら幸せな気分になれる。ミューズは微笑んでくれるだろうか。

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2008.12.06

Bunkamuraのワイエス展

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渋谷のBunkamuraで開催中の‘アンドリュー・ワイエス展’(11/8~12/23)を見た。この展覧会の情報を得た時、出品作に対する事前の期待は半分々だった。そして、開幕近くになると、昨年福島県美で見た‘ガニング・ロックス’(拙ブログ07/4/18)がチラシで一番大きく扱われていたから、‘あまり期待できないな’という気分。

‘ガニング・ロックス’はとても気に入っている作品だが、これが第一のアピールポイントだとすると、アメリカの美術館からの作品は少ないことはおおよそ察しがつく。

果たして、どうだったか?予想に反して、心に響くいい絵が結構あった。これは嬉しい誤算!ワイエスの画集が手元になく、MoMAにある‘クリスティーナの世界’のほかにどんな絵がこの画家の代表作となっているのかわからないので、胸を打った作品がどのあたりのものかイメージできない。

今回はテーマを‘創造への道程’としているので、最終のテンペラ画とその前の素描や水彩を連続的に展示している。絵描きではないから、習作には興味がない。で、それらをパスして完成した作品だけを時間をかけてみた。ぱっとみて完成作は30点くらいしかなく、残りの120点は習作。アメリカで絶大な人気を誇るワイエスの絵を日本で沢山見れるとははじめから思ってないが、‘30点で1400円もとるのか’というのも率直な感想。

作品自体には青山ユニマット蔵の‘オープンハウス’(07/6/17)などで目慣らしが少しできているので、その繊細な描写が心をとらえてはなさない。上は‘粉挽き小屋’
(1962、フィラデルフィア美)。風がゆるやかに吹いているのか、二本の木の棒をつなぐ鉄線に枯れ草がかかり揺れている。向こうにみえる粉挽き小屋の石の壁がなんともリアル。

草木や木々をこのように一本々実に細かく描く風景画は森本草介(07/5/23)やロシアのポポフ(07/5/22)の絵とよく似ているし、最近見た日本画の速水御舟の‘丘’(10/5)とか石田徹也の‘前線’(11/15)にみられる描写力とも通じるものがある。

これほど繊細なリアリズム画に感動するのはワイエスの描くアメリカの田舎の風景が静謐そのものだからである。鳥が空を飛んでいるとか、馬が走っている光景でもなく、また、雲が早いスピードで動いているとか、風がビュービュー吹いているわけでもない。人の気配がしない、時間が止まっているような実に静かな世界をこういう、ハイパーリアリズムで描くと見る者はいやがおうでも画面の中に惹きこまれる。アメリカの原風景がここにある。

真ん中は鹿が地面に落ちた林檎を食べようとしているところを描いた‘ジャックライト’
(1980、個人蔵)。太い幹が真ん中で左右に枝分かれし、そこに体を寄せるようにしている鹿が真っ赤な林檎のほうへ首をのばしている。光が幹の表面に強く当たるところと下の影のところの対比が目に焼きつく。

下の‘三日月’(1987、個人蔵)も画面手前が強いインパクトを持っている作品。軒下に懸けられている籠を見て、瞬時にダリが描いた‘パン籠’(06/10/2)を思い出した。籠や柱は木の質感が200%伝わってくるのに対し、雪の積った地面や遠くの小山は霞がかかったように描き、クリスマスツリーのような木の隣に三日月を配している。冬の厳しさと幻想的なイメージが溶け合わさった画面を息を殺して眺めていた。

福島県美がワイエス作品をどういう縁で手に入れたのか知らないが、昨年、‘ガニング・ロックス’と一緒に見た‘農場にて’のほかにも裸婦図の‘そよ風’、‘松ぼっくり男爵’など全部で7点あった。青山ユニマット(15点)とともに福島県美がこんなにワイエス作品をコレクションしていたとは。習作の大半は丸沼芸術の森蔵だったが、ぐっとくる完成作がなかった。今回は習作だけに絞って出したのか、それともいいテンペラや水彩は所蔵してない?

ワイエスについては、凄い画家であることは前からわかっているので、一度過去行われた展覧会の図録とかちゃんとした画集を手に入れ、どのくらいの名品がどこにあるのかチェックしてみたい。

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2008.05.15

その十二 サージェント  ルノワール  ドガ

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いろいろある西洋画のなかで最も楽しい気分にさせてくれるのはギリシャ神話を題材にした絵、女性を描いた絵、モネの風景画、そしてシュルレアリスム絵画。すでにお気づきだと思うが、この名画紹介の多くが女性画。メトロポリタンにもお目当ての女性画がいくつもある。そのなかで重点鑑賞にしていたのが上のサージェント(1856~1925)の代表作、“マダムX”。

入館して真っ先にこれが展示してあるアメリカン・ウイングヘ行ったが、見当たらなかった。ここは現在工事中のため、2階の19世紀ヨーロッパ絵画のところで展示中とのこと。で、見る順番はだいぶあとになった。縦2mちょっと、横1.1mの大きな肖像画である。隣にもこれよりひとまわり大きい“ウィンダム家の姉妹たち”が飾ってあった。リストにはもう一点、図版でみてもすごく魅了される“バラを持つ婦人”をコピーしていたが、これはなかった。

黒のドレスでいっそう引き立てられるモデルの白子のような白い肌とノーブルな横顔に言葉を失う。この絵が引き起こしたスキャンダルの話はインプットされているから、ほかの女性画よりは目に力が入る。サージェントは憧れのマダムX(マダム・ゴートロー)にもともと、右肩のひもを落としてポーズさせていた。カットの深いドレスで肩のひもを落とした絵が保守的なパリのサロンですんなり受け入れられるはずがない。“退廃的だ、挑発的な姿勢だ”と非難轟々だったので、サージェントは仕方なくここの部分を描き直した。

短期間のうちにすばらしい子供の絵(拙ブログ2/104/22)、ロンドンのテート・ブリテンにある“マクベス夫人に扮するエレン・テリー”、そして“マダムX”と対面し、肖像画家サージェントの高い技量に深く感服した。いつか大回顧展と遭遇することを夢見ている。

ここにあるルノワール(1841~1919)は“シャルパンティエ夫人と子供たち”などの傑作をすでに鑑賞済みだから、脈拍数が一気にあがることはなかったが、想定外の真ん中の“カティース・マンデスの娘たち”の前では200%KOされた。手元の画集ではこれは個人蔵となっているが、ここに寄贈されたのだろう。

なによりもびっくりするのが女の子の顔や手足と身につけている衣服の白の輝き。すこし離れてみてもその明るい白がくっきり見える。大げさにいうと光を周囲に発している仏さんの絵を見ているような気分になった。ルノワールの絵を1月からの美術館めぐりで沢山みたが、絵の明るさという点ではこれが一番すごかった。もう一点魅了されたのがやわらかい筆のタッチと明るい色彩で女性美を描いた“沐浴する若い女”(レーマンギャラリー)。これは裸婦図ではお気に入りの一枚。

ドガ(1834~1917)のコレクションはオルセーと質量とも遜色ない。画集に載っている“コレクター”、下の“菊の花と女”、オルセーにあるのとよく似た構成の“ダンス教室”、“婦人帽子店にて”、“ソファーで髪をすいてもらう女”などの名画が続々と現れる。また、ブロンズ彫刻“グランド・アラベスク”、“右足の踵を見る踊り子”などもある。

“菊の花と女”でハットするのは浮世絵から得た大胆な構図。ヨーロッパ絵画の伝統をおよそかけ離れて、花を中央におき、女は画面右端に描かれている。構成は浮世絵の影響を受けているが、外をぼんやりみている女の描き方はドガ特有のもので、‘アプサント’の女性同様、内面の深い孤独感がみてとれる顔の表情が心を揺すぶる。

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2008.04.09

その七 ホーマー展  オキーフ

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アメリカ人画家、ホーマー(1836~1910)のいい絵をオルセー(拙ブログ2/21)でみたばかりだから、通路をはさんでホッパー展の反対側で行われている“ホーマーの水彩画展”にも心が動く。これはこの美術館独自の企画展で、全米の美術館や個人が所蔵する水彩画、素描140点あまりが展示してある。大半は水彩画であるが、油彩も数点あった。

アメリカの美術館めぐりだから、普段見る機会がほとんどないアメリカ絵画の名画は見逃さないよう各美術館ごとにリストアップしていた。注目の画家は昨日取り上げたホッパー、ホイッスラー、サージェント、ホーマー、オキーフの5人。シカゴ美術館はホーマーの情報がなくNOマークだったのに、会場をまわってみるといい絵がいくつも目の前に現れた。

上は水彩画ではなく油彩画だが、ここの図録にも掲載されている“漁網”。小さな舟で漁をする2人の漁師が魚のかかった網を力いっぱい引き上げている。魚の鱗のきらきら光る質感と大きく揺れる波の動感描写に釘付けになった。ホーマーは海洋画の名手。手元にある画集に3点いいのがあったから、対面を楽しみにしていたが、先走っていうと、結果は1勝2敗。メトロポリタンの“メキシコ湾流”は見れたが、ワシントンナショナルギャラリーにある北斎の海の上を飛ぶ鳥を参考にして描いた“右に左に”とボストンが所蔵する“すべてOK!”と大きな声をあげている船の見張り役の男を描いた作品は残念ながら見当たらなかった。

ホーマーは40代に入ってイギリスに行き、漁師の厳しい生活を間近にみたのがきっかけで、海や海で働く人々を描くようになる。真ん中の水彩画“風の強い日”(メトロポリタン)でも足がとまった。前掛けが後ろにとばされるほど風が強いため、前に進むのもきつそうな女を二隻の船の間にもってくる構図がなかなかいい。これはNYでみる予定だった絵だが、これほど惹きこまれるとは思わなかった。

会場にはホッパー展には負けるものの大勢の人がいたから、ホーマーはホッパー同様、アメリカ人に愛されている画家にちがいない。次のターゲットは海洋画の傑作の一つに数えられている“八点鐘”(アディソンギャラリー)と救難隊員が難破船から女性を救い出す場面を描いた“ライフライン”(フィラデルフィア美)。

特別展のすぐそばにあるのがアメリカ絵画。時間がないのでお目当てのオキーフ
(1887~1986)の絵だけをみた。下は94年のシカゴ美展にもやってきた“牛の頭蓋骨とキャラコ地のバラ”。オキーフは大好きな女性画家だけれど、これまで見た作品は両手もいかない。少ない鑑賞体験の割にはこの画家のイメージは強烈に体の中に染みこんでいる。それは牛の頭蓋骨と大きな花。

前回のボストン美訪問で感動した“白いバラNo.2”や昨年のフィラデルフィア美展に出品された“ピンクの地の2本のカラ・リリー”は一生忘れることのないすばらしい絵だし、再会した“牛の頭蓋骨”も心の中を大きく占領する。この絵の横にあった“黒い十字架、ニューメキシコ”は抽象と具象をミックスした不思議な絵。図録にはこちらが載っているが、十字架が大きすぎてあまりぐっとこなかった。

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2008.04.08

その六 ホッパー展

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ミシガン通り側の入り口から入館しようとしたとき美術館の壁に企画展を案内するバナーが二つ垂れ下がっていた。一つが“ホッパー展”で、もう一つが“ホーマー展”。楽しみにしていたホッパー(1882~1967)の上の“夜ふかしする人々”が見れるだけでもワクワクするのに、ラッキーにも回顧展に遭遇するとは!ミューズに感謝である。で、20ドルの追加料金を払い、急いで特別展の会場へ向かった

この回顧展は昨年5月、まずボストン美ではじまり、その後9月から今年の1月までワシントンのナショナル・ギャラリーで行われ、最後にここシカゴ美にやってきた(2/16~5/11)。作品数は油彩70点、素描12点。図録にはボストン、ナショナルギャラリーだけに展示されたものも含めて全部で110点載っている。ホッパーの代表作を所蔵する美術館から目一杯何集めてきた感じで、何十年に一度開催される大回顧展といっていい。ここだけにへばりつくわけにもいかず、落ちつきのない鑑賞スタイルではあったが、これぞホッパーという作品はしっかり目に焼き付けた。

これまでみたホッパーの絵はNY、MoMAにある“ガソリンスタンド”、“ニューヨークの映画館”、メトロポリタンの“婦人たちのためのテーブル”(いづれも今回展示してあった)と2年前府中市美で開催された“ホイットニー美術館展”に出品された“踏切”、“クイーンズボロ・ブリッジ”、“ニューヨークの室内”の6点しかない。だから、代表作中の代表作“夜ふかしする人々”をみることが長年の夢だった。

この絵で魅せられるのはなんといっても無駄な部分を省略した簡潔な構図。画面右から船の舳先が鋭角的にせりだすように描かれたダイナーとよばれる簡易食堂にいるのは店主と客の3人だけ。店の外の歩道には人っ子一人いない。大都会の夜の孤独感がひしひしと感じられる光景である。蛍光灯の光があたり一際あかるい右奥の壁の近くに座っている男女を見ているだけではそれほど淋しい感じはしないが、目をこちらに背中を向けている男にやると、とたんに不安で孤独な感情に体がつつまれる。抽象的とも思える構成と光と闇の強烈なコントラストで大都市における孤独感を見事に描いた傑作である。

ホッパーが風景画で繰り返し描いたのが鉄道線路、踏切、家屋、建築物、灯台。6点あった灯台の絵でもっとも惹きつけられたのが真ん中の“灯台のある丘”(ダラス美)。下から見上げる感じに描かれている灯台と横の建物は写実的に見えるのだが、灯台にあたる光と縦に中央から分ける影をみていると、デ・キリコの形而上絵画をみているような気にもなる。メトロポリタンでみたのは澄み切った青い空を背景にまぶしい陽光を浴びる灯台だったから、このようなデ・キリコの作風を彷彿とさせる絵があるとは思ってもみなかった。

裸婦図や人物画も沢山ある。女性たちはいずれも部屋の中でぽつんと座っていたり、窓の外をときに虚ろげに、ときに淋しげに眺めている。下は妻のジョーがモデルといわれている“午前11時”。裸婦は窓際で椅子に座ったままでじっと外を見ている。こちらを振り向かれたらなんと言って声をかけたらいいのか困る雰囲気なので、目に力をいれてその記憶を強くとどめ、隣の絵のほうへ進んだ。念願の“夜ふかしする人々”のほか心を揺すぶる名作の数々と対面できた喜びを今かみしめている。

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