2024.05.07

レイチェル・カーソンの‘センス・オブ・ワンダー’!

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拙ブログでは写真の展覧会はわずか片手ほどしかとりあげてない。散歩のと
きたまにでくわすアマチュア写真家のように風景や手が届くようなところに
ある木や花などを写真に撮るという習慣がないので、写真の魅力には縁がな
い生活がずっと続いている。でも、最近数点の写真をみてすごく心に沁みる
ことがあった。

昨年手に入れた新潮文庫からでているレイチェル・カーソン(1907~
1964)の‘センス・オブ・ワンダー’(1965年)を風の知らせで読んで
みた。この作品は上遠恵子氏の訳で1996年7月新潮社より刊行されてお
り、60頁くらい(中くらいの文字で)の文庫本だから1時間も読んでいれ
ば終わる。2021年、文庫化されたとき写真家の川内倫子氏の撮った写真
が表紙を含めて全部で19枚載っている。その3枚をピックアップしたが、
どれもレイチェル・カーソンのすばらしい文章に200%マッチしたとても
いい写真。

心に響くレイチェルの言葉を上遠氏の名訳で
「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激に
みちあふれています。残念なことにわたしたちの多くは大人になるまえに澄
みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直観力をにぶらせ、
あるときはまったく失ってしまいます。

 もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける
力をもっているとしたら、世界中の子どもに生涯消えることのない‘センス・
オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性’を授けてほしいとたの
むでしょう。

この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然
という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になるこ
となどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」

本当にいい本に出会った!  

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2024.05.02

ポール・エクマンの‘暴かれる嘘’&‘顔は口ほどに嘘をつく’!

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  顔面表情にみられる感情

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   ニューギニア人の顔の表情と感情

海外でつくられた映画を鑑賞するとき俳優がみせる顔の表情からすぐに内面
の感情がどんなものかはつかまえるのはなかなか難しい。日頃つきあいのな
い外国人だから、日本人のようには理解できないのは仕方がないのは当たり
前のことでもある。サスペンスや裁判もの映画などをみていると顔の表情と
か身振り手振りによりその人物が嘘をついているのがすぐわかるケースがあ
る一方で、心の動揺を微塵もみせず嘘をつき続け追及を逃れる犯人や悪党が
いろいろでてくる。

映画をみればみるほど俳優業というのは大変な仕事だなと思う。一体どうや
って監督が求めている演技をすることができるのか、いろんな人をただ観察
するだけではそう上手くは真似られないだろう。どんな訓練をしてるのか、
そんな関心事についてすこし応えてくれる本を最近読んだ。だいぶ前に手に
入れたのに積ん読のままだった‘暴かれる嘘 虚偽を見破る対人学’(1985
年)と‘顔は口ほどに嘘をつく’(2003年)。著者は感情研究の世界的権威
とみなされているアメリカ人のポール・エクマン。

読んでいるうちにこの2冊をマスターしたら、刑事や裁判官になれるかなと
思ったりした。‘暴かれ嘘’に演技法として有名なスタニスラフスキー演技術と
いうのがでてきた。感情が顔の表情にあらわれるが、これは筋肉が司ってい
る。この作用の仕方は悲しみ、恐怖、怒り、驚きで夫々異なる。筋肉がいろ
いろ組み合わされて表情が生まれてくるが、この動きを意識して行うのは
大変難しい。たとえば、実験に参加した人たちのなかで恐怖の表情をつくる
ことができたのは10%足らずだった。

スタニスラフスキー演技術は俳優にある感情を想起させ追体験させ、筋肉を
動かせるやり方を覚え込ませることによって、感情を正しく表現できるよう
にもっていく技法。こういうテクニックを俳優というのは訓練している。
俳優でなくても詐欺師や極悪人だって、これを身につければ偽りの表情をみ
せることができる。

2003年に書かれた‘顔は口ほどに嘘をつく’も小説を読んでいるようでと
てもおもしろいし役に立つ。大きな収穫は顔の表現が万国共通、普遍的であ
るということ。ニューギニアの人たちが装ってくれた4つの顔の表情をみる
と、どこに住んでいようと喜び、怒り、悲しみ、嫌悪の表情はそうかわらな
いなとつくづく思う。

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2024.01.05

森鴎外物語と‘猿沢池の歌’!

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 津和野森鴎外記念館のガイドブック
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猿沢池と興福寺五重塔

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関心のある事柄が段々膨らんでいき、それと生涯離れられなくなることはい
ろいろある。たとえば、長く続けている美術鑑賞もそうだし、世界史、日本
史のことをもっと知りたいと思い、歴史の本を数多く読んできた。この歴史
好きの心を強く刺激する番組のひとつがBSプレミアムの‘英雄たちの選択’
(昨年末からNHKのBS放送が一つに集約されたが、この番組が続く?かは未
確認)。

先月の中頃ブックオフにでかけたとき、ちょうど1年前に放送された‘英雄た
ちの選択 森鴎外 37歳の転換~小倉左遷の真実~’で知った‘猿沢池の歌’
が載っている本がひょいと目の前に現れた。それは興福寺貫長多川俊映氏の
著作‘唯識入門’(春秋社刊 2013年)。そして、‘猿沢池の歌’とは‘手をう
てば 鯉は餌と聞き 鳥は逃げ 女中は茶と聞く 猿沢池’。(手をポンポンと
打ったならば、鯉がエサがもらえると思って岸に泳ぎよってくるが、鳥は身
に危険を感じて逃げていってしまう。一方、旅館の従業員は、お客さんがお
茶をほしがっているのだと思う)

多川氏は唯識の考え方をわかり易く説明するためにこの短歌を例に使ってい
る。‘手をたたく’というひとつのきわめて単純な動作、それによって発生した
単純な音にもかかわらず、それを受け取る側の条件の違いによって意味が異
なっていることを述べている。この話は分かりやすく腹にストンと落ちる。
これが唯識仏教のエッセンスで‘唯識所変’のこと。逐語的にいうと‘ただ(唯)
識によって変じだされた所のもの’。

この‘猿沢池の歌’が森鴎外の左遷の話とどう関係しているかというと、番組で
は司会役の歴史学者がこの短歌をもちだして、鴎外が37歳のときに出され
た小倉行きの辞令(手をポンポンと打つ)を左遷と考えて失意に沈んでしま
うか、出世争いに熱をあげて神経を擦り減らすよりは頭を切り替えて小倉で
普通に生きているひとたちと楽しく暮らすか、それは鴎外の心の持ち方次第
と解説している。鴎外ファンにはこの話はとても新鮮だった。

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2023.12.20

シャーロックホームズ ‘緋色の研究’!

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 Eテレ100分de名著‘シャーロックホームズスペシャル’より

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ドイルが名探偵シャーロック・ホームズ物語の第一作として書いたのが
‘緋色の研究’。この話が9月に放送された‘100分de名著’に登場した‘シャ
ーロック・ホームズスペシャル’の第一回目で紹介された。2年前、ホーム
ズの虜になってイギリスのTV映画として製作されたものをBSプレミアムで
前のめりになってみた。そして、すぐ新潮文庫で映画化された作品を読み、
原作と映画との違いなどを確認した。ところが、1887年に発表された
第一作の長編‘緋色の研究’はなぜか映画化されてないので、原作を読むのは
横においていた。だから、タイトルの‘緋色の研究’が一体何を意味している
のか、ずっとわからないままだった。100分de名著にとりあげられたお
かげでようやく疑問が解消され、原作にもすすむことができた。

ホームズは殺人事件を解決に導くことを‘緋色の研究’といい、こう述べてい
る。‘人生という無色のもつれた糸の束には、殺人という緋色の糸が混じっ
ている。それを解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、すみずみまで明るみに
出すことが、ぼくたちの務めだ’。殺人によって流れ出た血の色が緋色のこ
とであり、殺人とかかわることはその人の人生を研究することにもつながっ
てくる。ホームズは名文句を吐く。

犯人のホープが死んだ恋人とその父親の復讐のためようやく見つけたドレッ
パー殺すために使った方法が刺激的だった。ホープはこう喚く。‘神様にどっ
ちが正しいかのお裁きを願おう。さ、この2つの丸薬のうちどっちでも、
好きなほうを一つ飲め!一つは死で、一つには生がある。おれはお前の残し
たほうを飲む。この世に正義があるものか、それとも単なる運だけに支配さ
れているものなのか、これでわかるのだ’。果たして、どんな結末になったか。

ポープの話はこう続く。‘ふたりはむかいあわせに一分余り黙ってつっ立った
まま、結果いかにと待っていました。どっちが死に、どっちが生き残るかの
緊張した瞬間です。いよいよ最初の激痛がきて、毒は自分が飲んだ丸薬のほ
うにあったと知ったときのドレッパーの顔は、死んでも忘れますまい’。
復讐を果たすのに50%の確率でしか殺せないやり方を使うとは!

このシャーロックホームズスペシャルの講師をつとめた廣野由美子氏(英文
学者 京大教授)の本、‘ミステリーの人間学ー英国古典探偵小説を読む’を今、
興味深く読んでいる。

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2023.11.01

デイヴィッド・イーグルマン ‘あなたの脳のはなし’!

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Img_0002_20231101224301  アングルの‘シャルル7世の戴冠式のジャンヌ・ダルク’(1854年頃 ルーヴル美)

ハヤカワノンフィクション文庫は講談社の‘ブルーバックス’同様、サイエンス
に興味がわき出すとつい何冊も買い込んでしまう。脳関連の本ではいいのが
2冊ある。デイヴィッド・イーグルマンの‘あなたの脳のはなし 神経科学者
が解き明かす意識の謎’(2015年 早川書房)と‘あなたの知らない脳-
意識は傍観者である’(2011年 早川書房)。今年、先入先出法にしたが
って最初に出版された‘あなたの知らない脳’をまず読み、そのあと‘脳のはなし’
に進んだ。

どちらも脳のしくみや心、意識のことがよくわかる名著だが、脳のことは
初歩的な知識がない人は‘脳のはなし’から読み進めるほうがいいかもしれない。
この本は著者が一般視聴者に向けて行ったTV講義(1話1時間ずつ6話)
の書籍版で、写真やイラスト、漫画などがたくさんでてきて用語集までついて
いるので脳のことがトータルでわかるようになっている。アメリカでベスト
セラーになった出世作の‘あなたの知らない脳’同様、この本も本当にわかりや
くて、おもしろい。情報エンターテイメントを味わえてためになるのだから
一読の価値がある。親しい友人や知人に薦めている。

歴史と美術が好きな人にとっては興味をそそる話がでてくる。‘脳のはなし’で
はロシアの画家、イリア・レーピンの描いた有名な絵‘思いがけぬ帰宅’が被験
者にみせてあとで何が描かれていたかを質問する実験に使われている。そして、‘あなたの知らない脳’には‘てんかん’の話があり、あのジャンヌ・ダルクが登場する。

その部分を引用すると、‘てんかんの発作が側頭葉の特定のスイートスポットに集中している場合、本人は運動発作を起こさないが、その代わりにもっと微妙な発作を経験する。その影響は認識発作のようなもので、特徴的なのは人格の変化、異常な信仰心、外界の存在についての錯覚、そしてしばしば神の声を聞くことである。歴史上の預言者、殉教者、そして指導者の一部は、側頭葉てんかんを患っていたようである’。

‘ジャンヌ・ダルクのことを考えてみよう。16歳の少女が百年戦争の流れを変えることができたのは、自分が大天使聖ミカエル、聖カタリナ、聖マルガリタ、聖ガブリエルの声を聞いていると信じていたからだ。彼女は自分の経験をこう説明している。「13歳のとき、自制を助けてくださる神の声が聞こえました。最初は恐怖を覚えました」。のちに彼女は報告している。「神が行けと命令なさったのですから、私は行かなくてはなりません」’。

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2023.10.31

オリヴァー・サックス ‘レナードの朝’!

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食べ物に好き嫌いがあるように絵画についても大変のめり込むものがある一
方で、どうしても好きになれない画家もいる。それでも、つきあうアーテイ
ストはなるべく多くし美術を幅広く楽しむように心がけている。こうしたこ
とは知的興味が専門分野の外に広がる場合でもそうありたいと思っているが、
能力に限界があり長く知識をためこんでいる分野に比べると相当ハードルが
高くなる。たとえば、10年くらい前からチャレンジしている脳の話は理解
が進むように時間をさいて集中的に本を読んでいる。しかし、本を一冊読み
終わったらといって頭がクリアになったということにはならない。だから、
何度も何度もページをめくりポイントがそこそこつかめるようなったら、少
しレベルアップした本に時間とエネルギーを注ぎ込んでいく。

今年は買い込んでいた脳関連の本を何冊も読んだ。一番多いのが脳神経科医
として活躍したオリヴァー・サックスの著作。お陰で理解の小さなジャンプ
が何度か起こった。その本をあげると
☆‘レナードの朝’(1973年 早川書房)
☆‘妻を帽子とまちがえた男’(1985年 早川書房)
☆‘火星の人類学者’(1995年 早川書房)
☆‘音楽嗜好症’(2008年 早川書房)
☆‘見てしまう人びと 幻覚の脳科学’(2012年 早川書房)

ラマチャンドランの‘脳のなかの幽霊’(1998年 角川書店)を読んだとき、解説を書いた養老孟司さんの冒頭の文章が目にとまった。こうある。‘ラマチャンドランの本にオリヴァー・サックスが序を書いている。それなら面白い本に決まっているから、本当は蛇足の解説は必要ない’。オリヴァー・サックスの本を5冊読んで、その通りだということがよくわかった。文章が本当に上手いからおもしろい上に、難しい話がすっすっと頭に入ってくる感じ。頭が緻密に整理されていて複雑なことをイメージできるように語ってくれるのだからスゴイ。だから、2015年に出版された658頁もある分厚い文庫本‘レナードの朝’を夢中になって読んだ。この本は1920年代に流行した謎の眠り病‘嗜眠性脳炎’にかかって話すことも動くこともできない患者にかかわったオリヴァー・サックスの奮闘記が元になっている。

この原作を映画化したのがロバート・デ・ニーロがレナード役、ロビン・ウイリアムズがオリヴァー・サックス役で共演した‘レナードの朝’(アメリカ 1990年)。本を読んだあとすぐブックオフへ行き、DVDを探しゲットした。この映画は一度観たことはあるが、記憶がまったくなくなっていたので、あらためてまさに真剣にみた。30年間も半昏睡状態だったレナードをはじめとする患者たちが試験的な新薬の投与により奇跡的に‘めざめ’ていく。だが、その効果は長くは続かなかった、、原作をしっかり読んだので患者たちの身振りや行動が胸を打った。ほかの本も今繰り返し読んでいる。

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2023.10.23

塩野七生さん 文化勲章受章!

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塩野七生(しおのななみ 86歳)さんが今年の文化勲章に選ばれた。
拍手々! 発表のあった20日(金)に文庫本になった‘ギリシャ人の物語2 
民主政の成熟と崩壊’と‘々3 都市国家ギリシャの終焉’を購入したところだ
った。おもしろいことに8月の発売になった‘ギリシャ人の物語1 民主政の
はじまり’を買うためにすぐ本屋に走ったのに、そのあと毎月3回続くのをす
っかり忘れていたからあわてて2冊ゲットしたら、その日に文化勲章受章の
ニュースが入ってきた。最後の‘4’は10/30に手に入ることになっている。
時間をつくって一気に読みたい。

そして、もうひとつ塩野さんとむすびつくことが同じ日にあった。ブックオ
フでお目当ての画家・作曲家のDVDを探していたら、ある映画が目にとま
った。‘ボルジア家’とタイトルのついたTV映画のシリーズものが2つ並んで
いた。ボルジア一族の物語なら血が騒ぐ。‘塩野七生ルネサンス著作集3 
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷’(2001年 新潮社)をむさ
ぼり読んだから、購入意欲を刺激された。その日はほかのものを買いこんだ
からパスしたが、文化勲章受章をというめでたい話がでてきたので来週あた
りはレジにもっていきそう。

塩野さんの著作は‘ローマ人の物語’をはじめてとして‘わが友マキアヴェッリ 
 フィレンツェ存亡’、‘神の代理人’など主要作品はほとんど読んできた。
古代ローマ&カエサルのことやルネサンス物語は塩野さんに教えてもらっ
たといっても過言でない。だから、作品のなかにでてくる惹かれた文章は
メモに記してある。たとえば、
‘カエサルは一級の合理主義者であり理性の人であった’、
‘カエサルには強い責任感と持続する意識があった’
‘人間の現実を重視したローマ人’
‘人間ならば誰でもすべてがみえるわけではない。多くの人は自分がみたいと
欲する現実しかみていない’

なにかの本に塩野さんはローマに住み‘ローマ人の物語’を書いていたとき、
息抜きに寺院をまわってカラヴァッジョの絵をみていたという話が載ってい
た。カラヴァッジョ好きだった塩野さんとさらに深くつながった。

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2022.05.23

アメリカ文学の森へ!

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Img_0003_20220523221501  トマス・コールの‘生命の旅、子供’(1842年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

Img_0004_20220523221501  トマス・コールの‘生命の旅、老年’(1842年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

現在、Eテレの番組でみているのは2つ。以前は‘美の壺’をよくみていたが、
やきものなど工芸関連のものはひととおり取り上げてもらったので卒業。
これに対して、‘100分de名著’(月曜夜10:25~10:50)と‘サイ
エンスZERO’(日曜夜11:30~12:00)は毎週ではないが注目
している本やテーマのときは見逃さずにチャンネルをあわせている。

これまで‘100分’は仏教や哲学の名著が登場したときは熱心に聞いていた
が、いかにも大学の文学部の講義を連想させるフランス文学やイギリス文学
などはみてなかった。ところが、ヘミングウエイ(2021年10月)と
エドガー・アラン・ポー(2022年3月)のスペシャルは食いつきがよく
、多くのことを教えてもらった。頭によく入ったのは講師の先生の話が大変
上手だから。こうなると、都甲氏(早大教授)と巽氏(慶大名誉教授)の
著作を買って読もうという流れになる。都甲氏の‘教養としてのアメリカ短篇
小説’(2021年10月 NHK出版)はこの前紹介したので今回は巽氏の
本を3冊。
☆‘E・A・ポウを読む’(1995年7月 岩波書店)
☆‘アメリカ文学史’(2003年1月 慶応義塾大学出版会)
☆‘ニュー・アメリカニズム’(2019年8月 青土社)

どの本も新鮮な心の昂ぶりがある。アメリカ文学を論ずる本というのはこん
な調子なのか、という感じ。これまで岩波文庫で読んだコールリッジの‘シェ
ークスピア論’(1939年)やトーマス・マンの‘ゲーテを語る’(1993年)、‘ゲーテとトルストイ’(1992年)はかなりがっちりした文学論なので、こういう軽く読めるのは楽しい。アメリカの歴史もふくめていろいろな話がでてくる本に遭遇すると、元来好奇心が旺盛なため大学で文学に関する公開講座があるのなら一度出かけてみようかという気になる。

巽氏の分析はなかなか鋭くポウ(1809~1849)への理解がだいぶ進ん
だ。これまでは推理小説の父というイメージだったポウがSF、ホラーなどで
も先駆的な本を書いていたとは。それを可能にしたのはポウが雑誌の編集を
していたからだとわかった。マガジニスト(雑誌文学第一主義者)というのは
はじめて知った。‘E・A・ポウを読む’で驚くことがあった。最後の章‘美女た
ちのいない庭’にハドソンリバー派のトマス・コール(1801~1848)
の‘生命の旅’がでてきた。ポウとコールはほぼ同時代を生きている。コール
は1818年17歳のとき渡米しフィラデルフィアへやって来たイギリス系移
民だった。

ポウの最盛期はフィラデルフィア時代(1838~44年)で傑作‘黒猫’
(1843年)などが生まれている。NYへ1844年移りその2年後ニュー
ヨーク・シテイ北部のフォーダムに小屋を得てハドソンリバー派が描いた
ピクチャレスク風景に囲まれて暮らしていた。アメリカのブランド美術館を
まわるととてもいい気持になる大風景画を描いたコールがポウとコラボして
いた。これは気がつかなかった。

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2022.05.20

探偵ホームズの驚くべき観察力と優れた推理!

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今最も関心の高いシャーロック・ホームズの探偵物語は映画のDVDのお陰
で41話が立体的にイメージできるようになった。毎週水曜の午後9時から
放送されるBSプレミアの‘シャーロック・ホームズの冒険’(あと5/25と
6/1の2回で終了)はその日はビデオしておいて、翌日観るというのがお決
まりのルーティン。そして、間をあけず原作を読む。大半が短編だから集中
すれば1時間で読める。

1話の‘ボヘミアの醜聞’は心に深く刻まれた大変な美女の姿を思い浮かべなが
ら原作を1頁々ゆっくりめくっていった。冒頭は依頼者がやって来る前、
ホームズと相棒のワトスンが推理談義をするシーンが多い。これに
よって読者はホームズがどうやって推理していくのかだんだんわかってくる。
おもしろい話が2つでてくる。

ワトスン ‘推論の根拠を聞くと、いつもばかばかしいほど簡単なので、僕に
     だってできそうな気がするよ。それでいて実際は、説明を聞くまで
     は、なにがなんだかわからないのだから情けない。眼だって君より
     悪くなんかないつもりなんだがねえ‘
ホームズ ‘それはそうさ、君はただ眼で見るだけで、観察ということを

しない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ、たとえば君は玄  関からこの部屋まであがってくる途中の階段は、ずいぶん見ているだろう?’
ワトスン ‘ずいぶん見ている’
ホームズ ‘どのくらい?’
ワトスン ‘何百回となくさ’
ホームズ ‘じゃきくが、段は何段あるね?’
ワトスン ‘何段?知らないねえ’
ホームズ ‘そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は17段あると、ちゃんと知っている。そ  れは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ’

依頼主のボヘミア国王から届いた手紙をみて、
ワトスン ‘妙な手紙だねえ。いったいどういうつもりなんだろう?’
ホームズ ‘まだ材料が一つもない。資料もないのに、ああだこうだと理論的な
     説明をつけようとするのは、大きな間違いだよ。人は事実にあう理論
     的な説明を求めようとしないで、理論的な説明に合うように、事実の
     ほうを知らず知らずに曲げがちになる。’

手紙のことでホームズが言っているのは行動経済学にでてくる‘確証バイアス’。
これはいったん自分の意見や態度を決めると、それらを裏付ける情報ばかり集め
て反対の情報を無視したり、さらに情報を自分の意見や態度を補強する情報だと
解釈するというバイアス(思考の偏り)のこと。ホームズは人間の心理やものを
判断するときの傾向をよく心得ている。

以前読んだ‘シャーロック・ホームズの推理学’(1988年)は56話のなかからホームズが推理について語ったところをピックアップしてホームズの見事な推理能力を解き明かしているが、これが映画を観賞し原作を読みこむことによって情報の厚みが増してきた。とてもいい流れ。

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2022.05.11

短編小説と読書時間の関係!

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世の中には‘三度の飯より小説が好き’という人が数多くいる。そういう人の集
まりでは、イギリス文学なら私にまかせといて、アメリカの短編小説だった
ら○○が最高だよ、といった会話がとびかうにちがいない。このなかにはとて
も入れないのだが、今年の3月に放送されたEテレの‘100分de名著 
エドガー・アラン・ポー スペシャル’をみたおかげで今、わが家には文学ブー
ムがやってきている。

ポー物語の2回目は‘アッシャー家の崩壊’(1839年)だったが、ここに
興味深い‘ポーの文学理論’というのがでてきた。‘効果の統一こそはじつは芸術
家にとって世界中の寓喩(アレゴリー)を合わせても匹敵せぬほど重要なも
のだ’。効果(エフェクト)は驚きとか、結末のこと。ポーは小説において
倫理的な‘寓喩’よりも美学的な‘効果’を、さらに‘効果の統一’(驚きが結末にむ
かって最大限発揮されること)を重んじた。

このくだりではっとさせられたのがポーが読者の読書時間を1時間と想定して
いること。1時間で読み切れなかったら効果の統一を乱すとポーは考えている。
これまで短編小説には興味がなかったが、この話を聞いて‘なぜ短編小説だった
のか’、が腹にストンと落ちた。1時間で読める小説なら普通の読者の注意を引
きつけられる。‘効果の統一’が理想的な形で表現されたのが‘アッシャー家の
崩壊’だったのである。

短編小説の見方が変わったので、コナン・ドイルのホームズ物語の短編集
(‘シャーロック・ホームズの思い出’など)を楽しく読んでおり、最近購入した
‘教養としてのアメリカ短篇小説’(都甲幸治著 2021年 NHK出版)を
ガイド本にしてここで紹介されているメルヴィル、フィッツジェラルド、サリ
ンジャーらの作品を少しずつ読んでいこうと思っている。

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