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2025.01.31

永青文庫の‘細川家の日本陶磁’!

Img_20250131224501   河井寛次郎の‘兎糸文火焔青花瓶’(1921年)

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河井寛次郎の‘草花文花瓶’(1921年)

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河井寛次郎の‘三彩人馬文煙草筒’(1922年)

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 ‘瀬戸肩衝茶入 出雲肩衝’(16~17世紀)

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 ‘瀬戸肩衝茶入 銘 塞’(17世紀)

Img_0005_20250131224501   長次郎の‘黒楽茶碗 銘 おとごぜ’(16世紀)

今年前半に行われる特別展で関心を寄せているものを選んだとき、みどりが
めさんから永青文庫で河井寛次郎(1890~1966)が登場することを
教えてもらった。その‘細川家の日本陶磁 河井寛次郎と茶道具コレクション’
(1/11~4/13)をみるためJR秋葉原駅から山の手線を上野、池袋まわ
りで目白をめざした。久しぶりなので乗車したバスの下車は野間記念館前よ
りひとつ早くランプを押してしまった。違う風景だから、すぐ歩いている人
に永青文庫の道順を尋ね、慣れた通りに復帰した。

以前よく通った永青文庫に河井寛次郎のやきものがあることははじめて知っ
た。34点あり、今回全部展示されている。その多くは第十六代当主の細川
護立(1883~1970)が蒐集した寛次郎の大正時代の作品。
寛次郎が初期の中国の古陶磁をもとにした作品はこれまで何度もみてきたが、
ここに並んでいるものは形、色合いがワンランク上の出来ばえという感じを
強くもった。流石、一級の目利きならではのすばらしいコレクションである。

寛次郎、41歳のときの‘兎糸文火焔青花瓶’と‘草花文花瓶’を息を呑んでみて
いた。深くて神秘的な青や赤紫は惹きこまれるほどの気品を漂わせている。なんだか凄いやきものに遭遇した思いで、一気にテンションがあがった。三彩は3点あり,煙草筒ははじめてお目にかかった。これは大きな収穫、生き生きした人馬の文様に思わず足がとまった。

2010年東博で開催された‘細川家の至宝’に出品された名品の瀬戸肩衝茶入
2点‘出雲肩衝’と‘銘塞’と再会できたのは想定外の喜び。さらに、長次郎の
‘黒楽茶碗 銘 おとごぜ’まで一緒にみれるのだから、言うことなし。満たさ
れた気分で館を後にした。みどりがめさんに感謝!

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2025.01.30

六町ミュージアム・フローラに伊藤若冲の絵が!

Img_20250130224701    伊藤若冲の‘巖上鷲図’(18世紀)

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伊藤若冲の‘白梅’(18世紀)

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那波多目功一の‘耀’(1986年)

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郷倉千靭の‘紅白梅’(20世紀)

東博で‘大覚寺展’を楽しんだあと、みどりがめさんから情報をもらった美術館、
六町ミュージアム・フローラを目指した。JR上野駅へ戻るとき、西洋美のまわ
りは‘モネ展’(2/11まで)をみる人たちの長い行列ができていた。チケット
をもっている人の待ち時間が100分!平日なのに凄いことになっている。
過去モネ展を見逃さず足を運んできたが、こんな待ち行列をみたのははじめて。

六町ミュージアムは秋葉原からでているつくばエクスプレスに乗車して六町駅
(15分くらい)で下車すると、そこからは徒歩5分で到着する。2012年
に開館したらしい。こじんまりしたデザインセンスのいい洋風の邸宅美術館で
ある。コレクションを春、夏、秋、冬と4回展示替えして披露している。入館
料は300円。今回の冬展示(1/31まで)ではチラシに目玉の絵がどんと使われている。それがこの美術館に出かけるように背中を押した伊藤若冲(1716~1800)の絵。

3点飾られていた。思わず足がとまるのが‘巖上鷲図’。こんないい若冲を手に
入れていたとは。家に帰ったあとこれまで鑑賞した若冲の作品をMy図録5冊
でチェックすると、この絵と絵柄がよく似た‘鷲図’があった。これは以前プライ
ス氏が所蔵していたもので現在は出光美のコレクションになっている。ほかに
鷲を大きく描いたものを3点みていた。

‘白梅’は5点くらいお目にかかった梅図の別のヴァージョン。もう一点は‘伏見
人形図’で、目が細くて笑っているようにもみえる丸顔の人形は3体描かれてい
る。ぱっとみて、個人蔵となっていたのはここのものだったのかと思った。
ところが、図録をめくってみると10点のなかにこれは含まれてなかった。
また別の伏見人形がでてきた。一体、若冲は全部で何点描いたのだろう。

日本画では1/10に茨城県近美で知った那波多目功一(1933~)の‘耀’と
郷倉千靭(ごうくらせんじん 1892~1975)の‘紅白梅’を長くみてい
た。急に関心が高まった那波多目功一の回顧展が目黒区にある郷さくら美で
開催されている(12/7~2/24)ので出かけてみるつもり。

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2025.01.29

東博の‘大覚寺展’!

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Img_20250129231901    狩野山楽の‘牡丹図’(重文 17世紀)

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Img_0003_20250129231901    狩野山楽の‘紅白梅図’(重文 17世紀)

Img_0005_20250129231901    狩野山楽の‘松鷹図’(重文 16~17世紀)

Img_0004_20250129231901    渡辺始興の‘野兎図’(重文 18世紀)

Img_0006_20250129231901    明円の‘軍茶利明王’(重文 1177年)

チラシを手に入れたときから出かけることを決めていた東博の‘大覚寺展’
(1/21~3/16)。期待値が高かったのは障壁画がほとんど披露される
ことになったから。これは特別展のなかでも‘事件’といってもいいほどのビッ
グイベント。その障壁画は2度の訪問で記憶に強く残っているのは狩野山楽
(1559~1632)の‘牡丹図’と‘紅白梅図’の2つのみ。公開されるもの
を観たはずだから、ほかがどんな襖なのか見当がつかない。だから、収穫の
多い展覧会だというのは容易に想像できる。

果たして、最後の部屋に待っていたのは予想を上回る数の襖絵がずらっと並
んでいた。写真撮影OKというのだから、観る者の心に応える配慮に好感がも
てる。圧巻は全18面がすべて揃った‘牡丹図’。襖に最接近してみている
と、前と同じように安定感があり装飾性にも富む牡丹の姿に感動した。
そして、‘紅白梅図’にも思わず足がとまった。狩野派とはいえ永徳のような圧
倒されるダイナミズムに目を奪われるというよりは、金色の地に美しく映え
る優しい梅をみている感じ。この2つは通期の展示。

ほかはお目にかかったという記憶がないものばかり。山楽の‘松鷹図’は前期(1/21~2/16)の展示なので、見逃したくない方は早く出かけたほうがいい。松や鷹は小ぶりなので、永徳のパワーには勝てないが、その狩野派様式のうねりや鋭さの真髄はしっかりみてとれる。運が良かったのは琳派で名前を知っている渡辺始興(1683~1755)が描いた‘野兎図’(通期展示)。障子の腰板絵に登場したいろいろなポーズをとる兎たちに頬が緩んだ。

平安時代後期の傑作といわれる‘五大明王図’に遭遇したのも大きな収穫だった。空海の構想による東寺講堂像を範としており、不動明王,降三世明王、軍茶利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王どれも長くみてしまう。怖い顔をした明王と対面すると体と心がピリッとするから、ときどきこういう鑑賞体験は必要かもしれない。後期(2/18~3/16)も出動の予定。

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2025.01.28

聖書から生まれた傑作アート! ダニエル エゼキエル イザヤ

Img_20250128230601   ルーベンスの‘ライオンの穴の中のダニエル’(17世紀 ワシントン国立美)

Img_0001_20250128230601   レンブラントの‘ベルシャザルの饗宴’(1636~38年 ナショナルギャラリー)

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青木繫の‘ネブカドネザルとダニエル’(1906年 ニューオーサカホテル)

Img_0002_20250128230601   ラファエロの‘エゼキエルの幻視’(1518年 ピッティ美)

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ラファエロの‘預言者イザヤ‘(1512年 サンタゴスティ―ノ聖堂)

預言者の物語でとくに印象深いのはダニエル。ワシントンにあるナショナル
ギャラリーでみたルーベンス(1577~1640)の‘ライオンの穴の中の
ダニエル’が忘れられない。ダニエルをとりかこむライオンの群れに驚いたが、
なぜかこのライオンたちは顔は獰猛さ丸出しなのに、ダニエルに襲いかかる
気配はまるでなくペットの犬のように大人しい。

ダニエルはバビロンに強制連行されたユダヤ捕囚の民のひとりで、すごく頭
が良かったため新バビロニアのダレイオス王の寵愛を受ける。ところが、そ
れを重臣たちに嫉妬され、反逆罪で飢えたライオンのいる洞窟に投げ込まれ
る。でも、ライオンはダニエルと仲良くしている。で、王は恐れをなして釈
放する。

ダニエルの絵でもう一枚とても惹かれているのがある。それはロンドンのナショナルギャラリーに飾られてる‘ペルシャザルの饗宴’。描いたのはレンブラント(1606~1669)。注目は左にいる女性のびっくり眼、‘ええー?王様が怯えちゃっている、ドドーしたの?’。こういう顔をする人は日常生活の中でもTVドラマや映画でも確かにみかける。レンブラントの感情表現は本当にリアリティに満ちている。

宴会の真っ最中に、王の背後の壁に指が現れ文字を書き綴り、そして消えた。王はそれをみて恐怖にうち震え、‘なんて書いてあるのか?’と叫ぶ。そこでダニエルが登場し‘その神秘的な文字の意味は神がバビロニアをメディアとペルシャに分割されるということです’と答えた。その夜に王は殺されてしまった。日本の洋画家の青木繁(1882~1911)も旧約聖書を8点描いており、‘ネブカドネザルとダニエル’はその一枚。

ラファエロ(1483~1520)の‘エゼキエルの幻視’は小品だが大変見ごたえのある宗教画。ラファエロは有翼のライオン、牛、鷲、人間を描き、中心にゼウスのような神の姿を配している。この絵は2013年、西洋美で開催された‘ラファエロ展’に目玉の‘大公の聖母’とともに披露された。‘預言者イザヤ’はローマで美術館めぐりをしたとき、サンタゴスティーノ聖堂で長年の夢を叶えた。ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂壁画を学んだ成果がよくあらわれている。

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2025.01.27

聖書から生まれた傑作アート! スザンナの水浴 ユディト

Img_0001_20250127231201  ティントレットの‘水浴のスザンナ’(1555~56年 ウィーン美術史美)

Img_0004_20250127231201  レンブラントの‘スザンナと長老たち’(1636年 マウリッツハイス美)

Img_0002_20250127231201  カラヴァッジョの‘ユディトとホロフェルネス’(1599年 バルベリーニ宮)

Img_0003_20250127231201  アルテミーシア・ジェンティレスキの‘ユデイトとホロフェルネス’(1620年頃 ウフィツイ美)

Img_20250127231201   ジョルジョーネの‘ユディト’(1500~05年 エルミタージュ美)

絵画を鑑賞してもっとも心が高揚するのは色が輝いている作品に出会ったと
き。その体験が強く目に焼き付いているのがウィーン美術史美でお目にかか
ったティントレット(1519~1594)の‘スザンナの水浴’。はじめて
の訪問ではまだティツィアーノとティントレットの区別がつかなかったので
こんなことにはまるで気がつかなかった。しかし、2003年のときは水浴
中のスザンナの体の白さに目が点になった。絵から少し離れてみてみ強く輝
いており、発光体のようだった。隠れて覗き見している二人の長老は心臓が
バクバクしたにちがいない。

レンブラント(1606~1669)が同じテーマで描いた作品ではスザンナはティントレットのように気品ある女性ではなく、どこか危険を感じ不安な心情が表情に現れている。悪事を企んでいるのは後ろに潜んでいる長老なのに、スザンナは鑑賞者の視線に怯えている。ルネサンスからバロックになると、画家の人物描写がリアルになり描く題材の物語性が観る側に生感覚で伝わってくるので、画面のなかにのめり込む度合いが深くなっていく。レンブラントはこういう表現が天才的に上手い。

か弱い寡婦ユディトが敵軍の将軍ホロフェルネスをやっつけ国を救ったという旧約聖書外典の話は何点も絵画化されているが、最初の出会いはエルミタージュ美でみたジョルジョ―ネ(1593~1652)の作品。穏やかな顔をした長身の女性が現れたなという感じだったが、視線を下に移すと青白くなった男の首を左足で踏んづけている。予想だにしない絵柄だから強い衝撃を受けた。

そして、‘ユディトとホロフェルネス’がバロックの画家に受け継がれると、その残虐性、暴力性は一段と強くなってくる。これがMAXに達したのがカラヴァッジョ(1571~1610)とカラバッジョ流の表現で注目を集めた女流画家、アルテミーシア・ジェンティレスキ(1593~1652)。知識や理屈をもとにして描かれたものより刺激が強くギョッとするくらいの方が好まれる時代になってきた。こうした超リアルな描写による風俗画的な作品が人々を楽しませているのである。

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2025.01.26

磯田湖龍斎の‘雛形若菜の初模様’!

Img_20250126225001   ‘雛形若菜の初模様 丁字屋内ひな鶴’(1775年頃 東博)

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‘雛形若菜の初模様 松葉屋内松の井’(1775年頃 東博)

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‘雛形若菜の初模様 大ゑびや内染山’(1775年頃 ギメ美)

Img_0003_20250126225001   ‘雛形若菜の初模様 あふぎや内夕はゑ’(1777~78年 足立区郷土博)

Img_0004_20250126225101   ‘雛形若菜の初模様 大かなや内なをえ’(1772~81年 山口県美浦上記念館)

毎週放送がはじまるのが楽しみなNHKの大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃
夢噺~’。浮世絵ファンは同じような気持ちで蔦屋重三郎(1750~97)
の物語にのめりこんでいるかもしれない。4回目は蔦重がはじめて出版し
た錦絵‘雛形若菜の初模様’の話だった。描いた浮世絵師、磯田湖龍斎
(1735~没年不詳)は安永・天明期を代表する絵師のひとりで、明和期
には鈴木春信に私淑し、春信そっくりの作品を描いている。

‘雛形若菜の初模様’は安永4年(1775)から天明元年(1781)にかけ
て150点あまり版行された。吉原の花魁を名入りでとりあげた最初期の作
品で、‘雛形’は衣裳の見本帳を、‘若菜の初模様’は正月に初めて着る着物の模
様を意味する。絵柄は一図に花魁一人、そこに新造や禿を配している。

蔦重は版元の西村屋与八との共同出版でこの大判の新機軸を使った遊女絵シ
リーズをはじめた。蔦重と西村屋の版元印(蔦重のは耕書堂)のある作品
は11図あり、安永4年の前半につくられた。ここにあげた5点のなかでは東
博蔵の‘丁字屋内ひな鶴’と‘松葉屋内松の井’、パリのギメ美が所蔵する‘大ゑび
や内染山’の3点が、蔦重がてがけたもの。

蔦重はまもなく‘雛形若菜の初模様’の出版から手を引く。だから、吉原の賑や
かな雰囲気が満載の‘あふぎや内夕はゑ’や、尺八を奏でている花魁と二人の禿
の姿にとても惹かれる‘大かなや内なをえ’は西村屋の単独出版となっている。

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2025.01.25

聖書から生まれた傑作アート! ヤコブ サムソン

Img_0003_20250125234401    ゴーギャンの‘説教のあとの幻影’(1888年 スコットランド美)

Img_0004_20250125234501    レンブラントの‘天使と格闘するヤコブ’(1660年頃 ベルリン絵画館)

Img_0001_20250125234401    リベーラの‘ヤコブの夢’(1639年 プラド美)

Img_20250125234501    レンブラントの‘目を潰されるサムソン’(1636年 シュテーデル美)

Img_0002_20250125234501    ルーベンスの‘サムソンとデリラ’(1609年頃 ナショナルギャラリー)

これまで数多くの絵画をみてきたが、ときどきエポック的な鑑賞体験に遭遇することがある。そのなかには旧約聖書の物語を題材にした作品がいくつか含まれている。2010年の秋ロンドンを旅行したとき、1日団体ツアーから離れて美術館めぐりをした。喜び勇んで向かったのはゴーギャン(1848~1903)の大回顧展が開催されていたテートモダン。もっとも期待していたのが美術本でよくながめていた‘説教のあとの幻影’。これを所蔵するエディンバラのスコットランド国立美はとても遠く、本物に出会うのは難しいと思っていたが、運よくロンドンで回顧展が開かれたため思いの丈を叶えることができた。

この絵は明らかに浮世絵の影響をうけている。手前に大きくブルターニュの女性たちが描かれているのも、画面を横切る大きな樹木も広重の‘名所江戸百景’の描き方を彷彿とさせる。そして、樹の向こうで天使とヤコブが闘っている(北斎漫画の相撲の絵を参考にしている)場面は、彼女たちが教会の説教を聞いた話の幻影で目に見えない世界。聖書の話と浮世絵が結びついているのがとても興味深い。一方、レンブラント(1606~1669)の‘天使と格闘するヤコブ’では、ヤコブは必死に天使と組み合っている。これは日本で開かれた‘ベルリン絵画館展’で運よくお目にかかれた。この2枚でアブラハムの孫のヤコブと縁ができたが、3度目のプラドのとき追っかけリストに載せていたのがリベーラ(1591~1652)の‘ヤコブの夢’。これも記憶に強く残っている。

2002年、京博で忘れられないビッグな特別展が開かれた。京博のイメージは日本画の展示なのだが、なんと‘大レンブラント展’が登場した。ワールドクラスのレンブラント展なので、一点々大興奮だったが、‘最高の瞬間’がやってきたのが‘目を潰されるサムソン’。フランクフルトにあるシュテーデル美から出品された傑作である。この鑑賞以降、‘夜警’とこの絵をMy好きなレンブラントのNo.1に登録している。

昨年、旧約聖書‘士師記’に基づく古い映画‘サムソンとデリラ’をみて怪力無双のサムソンの物語をたっぷりインプットした。ロンドンのナショナルギャラリーにあるルーベンス(1577~1640)の絵に描かれているように、サムソンはペリシテ人美女のデリラの魅力に溺れてしまった。これが悲劇のはじまり、デリラに寝ている間に力の源泉である髪を切られてしまい、兵士たちに目をつぶされる。カットした髪をもち薄笑いを浮かべるデリラをみるとゾクゾクっとする怖さにおそわれる。

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2025.01.24

聖書から生まれた傑作アート! ダヴィデ

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ミケランジェロの‘ダヴィデ’(1501~04年 アカデミア美)

Img_0001_20250124231701    ドナテッロの‘ダヴィデ’(1435~42年 バルジェロ国立美)

Img_0004_20250124231701  カラヴァッジョの‘ゴリアテの首を手にするダヴィデ’(1606年 ウイーン美術史美)

Img_0002_20250124231701    レーニの‘勝ち誇るダヴィデ’(17世紀 ウフィツィ美)

Img_0003_20250124231701  レンブラントの‘ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ’(1654年 ルーヴル美)

旧約聖書の物語でアダムとイヴやモーセと同様に馴染み深い人物がダヴィデ。
ミケランジェロ(1571~1610)のつくった彫像、たとえばモーセ像
は美術が大好きな人はローマでそれがみれる聖堂に足を運ぶかもしれないが、
団体ツアーでの海外旅行が普通の人はサン・ピエトロ大聖堂で‘ピエタ’にお目
にかかれば十分かもしれない。これに対し、ダヴィデ像はフィレンツェに行け
ばパラッツォ・ヴェッキオの前に複製が立っているので、自由時間にアカデ
ミア美に入館しなくてもその雄姿がしっかり焼きつけられる。だから、彫刻
家ミケランジェロならすぐダヴィデを思い浮かべる人が多いだろう。

フィレンツェにはもう一つ大変カッコいいダヴィデ像がみれる。それはパレッツオ・ヴェッキオから歩いて5分くところにあるバルジェロ国立美に飾られているドナテッロ(1386~1466)が制作したもの。ミケランジェロのような男性的ではなく、未成熟な少年として表わされ中性的な官能性さえ感じられる。このように軸足に体重をかけ優美にS字カーブを描く姿勢はコントラポストといい、ルネサンス時代に好まれた。

ダヴィデはとても勝ち目のなかったペリシテ軍の誇る無敵の戦士ゴリアテに果敢にむかっていく。投げ紐を使って石を飛ばし、見事と眉間に命中させ、この大男を打ち倒した。カラヴァッジョ(1571~1610)の絵では切り落としたゴリアテの首を左手にもっているが、顔は青ざめており心臓はばくばく状態にちがいない。一方、レーニ(1575~1610)はダヴィデが大きな首を石の台に置き、‘お前、この小僧となめていただろう。だから不覚をとったのさ、ざまあみろ。俺は強いんだぞ!’とかなんとかうそぶいてるようにみえる。

ダヴィデのいいイメージががらっと変わったのはレンブラント(1606~1669)の‘ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ’。権力をもつと人が変わるというが、イスラエルに平和と繁栄をもたらし名君の名をほしいままにしたダヴィデは晩年に忌まわしい事件を起こす。家臣のウリアからその妻バテシバを奪ったのである。入浴中の彼女をみてその美しさの虜になってしまったから、もう歯止めがきかない。出陣していたウリアの妻であることを知り、悪事が露見するのおそれたダヴィデはウリアが帰還すると、再び激戦地の戦場へ送り出し、ついに戦死させてしまう。それはないよなあー!と思いながら、いつもレンブラントのこの絵をみている。

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2025.01.23

聖書から生まれた傑作アート! モーセ

Img_0004_20250123231201    映画‘十戒’(1956年 アメリカ製作 220分)

Img_0003_20250123231201    ミケランジェロの‘モーセ’(1515年頃 サン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ聖堂)

Img_0001_20250123231201    プッサンの‘川から救われるモーセ’(1638年 ルーヴル美)

Img_0002_20250123231201    ダントーニオの‘紅海を渡るモーセ’(1480~82年 システィーナ礼拝堂)

Img_20250123231201    プッサンの‘黄金の子牛の礼拝’(1636~37年 ナショナルギャラリー)

Img_0005_20250123231201    レンブラントの‘モーセと十戒の石板’(1659年 ベルリン国立絵画館)

1956年に旧約聖書の‘出エジプト記’を原作として製作されたスペクタクル映画‘十戒’(デミル監督)を観たおかげで、モーセの物語はおおよそ頭のなかに入っている。紅海が割れてできた廻廊をモーセ(チャールトン・ヘストン)を先頭の大勢のヘブライ人が進んでいくあの有名なクライマックスシーンは何度みても感動する。美術鑑賞が趣味になり海外の美術館でモーセに関係する絵画や彫刻に遭遇したときは、この映画にでてきたいろいろなシーンが思い浮かぶので、より深く楽しめるようになった。

映画とともにモーセに最接近したという思いをもっているのがローマのサン・ピエトロ・ヴィンコリ聖堂に飾ってあるミケランジェロ(1475~1564)の‘モーセ’。デミル監督はこのモーセ像により配役のイメージを練り上げ、容貌が好適のヘストンに白羽の矢を立てたという。画家ではモーセと強くつながっているのはプッサン(1594~1665)で、モーセの生涯の出来事を19回描いている。‘川から救われたモーセ’は3度描いており、これは最初のもの。ロンドンのナショナルギャラリーに展示されている‘黄金の子牛の礼拝’にも大変魅了されている。

プッサンの作品は世界中のブランド美術館におさまっているが、ローマのヴァチカンにあるシステーナ礼拝堂では祭壇に向かって左側の壁にはモーセの若き日のさまざまな逸話がボッティチェッリ、ペルジーノらによって6場面描かれている。そのひとつ‘紅海を渡るモーセ’は以前はコジモ・ロッセッリの作品とされていたが、今はダントー二オが描いたとされている。映画のシーンにはかなわないが、右側にはヘブライ人を追ってきたラメセス軍が波間に消える恐ろしい場面がみえる。

レンブラント(1606~1669)の‘モーセと十戒の石板’はモーセの激しい怒りが表現されている。シナイ山に登り神から‘十戒’を授かったモーセがふもとに降りてくると、人々は黄金の子牛をつくり別の神として礼拝していた。神への裏切りの行為を目の当たりにしたモーセは石板を叩きつけて怒り、牛の像をこなごなにした。

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2025.01.22

聖書から生まれた傑作アート! バベルの塔

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Img_0004_20250122231401    ブリューゲルの‘バベルの塔’(1563年 ウィーン美術史美)

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Img_0003_20250122231501    ブリューゲルの‘バベルの塔’(1568年頃 ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美)

2017年の4月から7月にかけて東京都美でオランダ・ロッテルダムにあ
るボイマンス・ファン・ベーニング美が所蔵するブリューゲル(1525~
1569)の描いた最も有名な絵‘バベルの塔’が披露された。この旧約聖書に
でてくる話を題材にブリューゲルは2点描いており、最初のものはウィーン
の美術史美に展示してあり、運よくみることができた。でも、それから5年
くらい後に描かれたサイズ的には縦横ともに2分の1程度しかないボイマン
ス美蔵のものは個人旅行でオランダに出かけないと縁がなさそうだった。
それが日本にやって來るという夢みたいな話がなんと実現した。本当に日本
は美術大国である。

聖書によると、人々が塔を力をあわせてつくり完成に近づいたとき、神は天
から降りてきてこの巨大な塔をみて、こう呟いた。‘彼らは一つの民で、皆一
つの言葉を話しているからこのようなことをし始めたのだ。これでは彼らが
何を企てても、妨げることはできない。我々は直ちに彼らの言葉を混乱させ、
互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう’。そこで神は互いの言葉が
通じないように人々を散り散りバラバラに全地に散らせた。そのため、人間
は混乱し、巨大な塔の建設は放棄された。それで‘バベル(混乱)の塔’と呼ば
れる。

2つの絵ではどちらも塔全体の偉容に見惚れてしまうが、建設現場の細部描写が真に迫っているのでこの塔が着実に高くなっていくことを実感する。ブリューゲルは当時の建築技術に造詣が深く、その豊富な知識がリアルな現場に十分反映されている。たとえば、ウィーンの絵では右の方では2台のクレーン(起重機)を用いて、重い切り石を引き上げる作業がおこなわれている。こういうのを単眼鏡でみると目が点になり、わけもなく興奮する。

ボイマンスのものは塔が高くなっていて、工事が進んでいることが雲の位置からもわかる。天に向かってどんどん伸びていく感じ。上の方の塔では表面は赤く煉瓦が新しいことを示しており、木材で足場をつくり大勢の建設労働者が蟻のように働いている。建設素材は煉瓦と漆喰であり、運搬の途中に落ちた漆喰の粉がかかり真っ白になった人々が大勢いる。これは建設現場そのものであり、その活気がよく伝わってくる。

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2025.01.21

聖書から生まれた傑作アート! ノアの箱舟と大洪水

Img_20250121225701    ミケランジェロの‘大洪水’(1508~09年 システィーナ礼拝堂)

Img_0001_20250121225701    シャガールの‘ノアの箱舟’(1961~66年 シャガール美)

Img_0003_20250121225801    バッサーノの‘箱舟に乗る動物たち’(1590年頃 プラド美)

Img_0002_20250121225801    

シャガールの‘鳩を放つノア’(1931年 シャガール美)

Img_0004_20250121225801    シャガールの‘ノアと虹’(1961~66年 シャガール美)

ゼウスをはじめとする神々や英雄たちがたくさん登場するギリシャ神話でも
聖書の物語でも、書物を読むだけでは理解はなかなか進まない。だから、
それらを題材にして制作された絵画や彫刻をみることは物語の内容や意味に
ついてイメージを立体化するの大いに役立っている。これまでの鑑賞体験で
旧約聖書の話がまとまってインプットされたのは2つある。ローマのシステ
ィーナ礼拝堂の天井にミケランジェロ(1475~1564)が描いた天地
創造の物語と、フランスのニースにあるシャガール(1887~1985)
の専用の美術館に飾られている旧約聖書をテーマにした作品の数々。

ミケランジェロが描いたノアの物語は‘大洪水’、‘ノアの燔祭’、‘ノアの泥酔’の
3つ。アダムとイヴの子孫がいつしか神の教えを忘れ、道徳を乱し堕落して
いったので、神は怒り地上の人間と生き物を洪水によって滅ぼそうと決める。
ただ、信心深い生活を送っていたノア(慰め)には啓示を与え、洪水に先立
って巨大な箱舟を建造させた。ミケランジェロの絵の後ろにみえる箱舟は
カテドラルのような形に描かれている。

箱舟に乗り込んだのはノアと妻、3人の息子とその妻たち。そして、ほかのすべての野の獣、家畜、空とぶ鳥の雄と雌のひとつがい。シャガールの絵では聖書の記述よりかなり多い人々がいる。自然主義による動物の描写を得意としたヤコポ・バッサーノ(1510~1592)をみるとあらゆる動物のつがい(牛、驢馬、馬、羊、犬、猫、兎、鶏など)が列をなして乗り込んでいる。

こうして、7日の後、大洪水がやってきた。雨は40日40夜、大地の上に降り注ぎ、洪水は山の高い嶺にまで達し、地上のすべての命をことごとくぬぐい去った。150日の後、箱舟はアララト山の上に止まった。ノアは箱舟の窓を開け、鳩を2度放ち様子をうかがい、また鳩を放ったが、もう箱舟には戻ってこなかった。大地から水がひいたことを知ったノアは神の声を聞く。‘生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地のすべての獣、空とぶ鳥、海の魚、地を這うものは、すべて恐れおののいてあなたがたの手にゆだねられる。すべてあなたがたの食糧にするがよい’。そのとき雲がおこり、ノアとその子らは雲のなかに燃えるように輝く虹をみた。

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2025.01.20

聖書から生まれた傑作アート! アダムとイヴ

Img_0003_20250120232601    ボスの‘快楽の園 地上の楽園(左翼パネル)’(1503年 プラド美)

Img_0001_20250120232701    デューラーの‘アダムとイヴ’(1507年 プラド美)

Img_0002_20250120232701   パオロの‘天地創造と楽園追放’(1445年 メトロポリタン美)

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マザッチョの‘楽園追放’(1427年頃 ブランカッチ礼拝堂)

Img_0004_20250120232701   シャガールの‘楽園を追われたアダムとイヴ’(1961年 シャガール美)

旧約聖書の最初にでてくる‘創世記’の話は美術鑑賞が趣味でない人でも宗教の教養としてインプットされているし、ローマ観光をすればヴァチカンへ行きミケランジェロが描いた有名な天井画‘天地創造’をみて誰もが感動する。そして、世界はどうやってできたのか、人間や生き物はどのようにして地上に生まれてきたのか、おおよそ頭の中に入る。

エデンの園は一体どんな所だったのか。画家の想像力は多彩に膨らみ、たとえば、ボス(1450~1516)の描く楽園ではアダムとイヴはとんでもなくシュールで怪奇的な生き物や花々、果物、草木に囲まれて平和な生活を送っている。そのため、デューラー(1471~1528)はお花畑の住人、アダムとイヴを当然のように美男美女に描いた。

ところが、突然破局が訪れる。美女のイヴは蛇の誘惑に無邪気にのり、禁断の木の実を食べてしまった。こうなると神は厳しい罰を与えざるをえない。‘アダムとイヴよ、楽園を出て行きなさい!’。二人は楽園を追放された上にイヴは出産の苦しみと夫に生涯尽くすことを運命づけられ、アダムは労働の苦役を課せられた。シエナの画家、ジョヴァンニ・ディ・パオロ(1400~1482)の板絵には左に神が新しく創造した天地が描かれ、右の方ではアダムとイヴが地上の楽園から天使によって追放されている。

二人の悲しみと苦しみが胸を突き刺さる感じなのがマザッチョ(1401~1428)の描く作品。フィレンツェのサンタ・マリア・カルミナ聖堂でお目にかかったとき、イヴの深い嘆きの表情があまりに真に迫っているので立ち尽くしてみていた。一方、ユダヤ人のシャガールが晩年に描いた連作‘聖書の言葉’で表現した‘楽園を追われたアダムとイヴ’は赤い鳥が一緒におり、すこし希望がみえる。

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2025.01.19

聖書から生まれた傑作アート! 聖母マリア

Img_0002_20250119233401    ダヴィンチの‘岩窟の聖母’(1483~86年 ルーヴル美)

Img_0004_20250119233501    ミケランジェロの‘ピエタ’(1499年 サン・ピエトロ大聖堂)

Img_0001_20250119233501    ティツィアーノの‘聖母被昇天’(1516~18年 サンタ・マリア・デイ・フラーリ聖堂)

Img_0003_20250119233501    

エル・グレコの‘無原罪の御宿り’(1607~13年 サンタ・クルス美)

Img_20250119233501    ムリーリョの‘無原罪の御宿り’(1678年頃 プラド美)

西洋美術をみていて心がもっとも穏やかになるのは聖母マリアが描かれた絵画や彫刻かもしれない。だから、海外の美術館に足を運んで傑作に出会うとその感動が長く記憶に残る。そのセレクションは迷うことなくすぐ決まる。もし、どれかひとつ差し上げると言われたら、サイコロを振って頂くことにする。どれが手に入っても天にも昇るような気分になる。

ルーヴルにあるダ・ヴィンチ(1452~1519)で絵の前に何時間でもいたくなるのが‘モナ・リザ’と‘岩窟の聖母’。‘岩窟の聖母’でとても惹かれるのが聖母のやさしい顔とカールする髪の毛のびっくりするほど精緻な質感描写。その宗教画ぽくない人物表現に親近感をおぼえる。同じ感情をもつのがミケランジェロ(1475~1564)の‘ピエタ’。聖母が若すぎるのではと言われて、ミケランジェロは‘汚れのない聖なる処女は常にみずみずしいのです’と答えている。

ヴェネツィアで美術館と聖堂をまわったとき、‘最高の瞬間’を体験するすごい絵に出会った。それはサンタ・マリア・デイ・フラーリ聖堂の祭壇に描かれていたツィティアーノ(1485~1576)の‘聖母被昇天’。金色の光を浴びて昇天する聖母の姿を息を呑んで眺めていた。深紅のガウンを着ている聖母がファッション雑誌から飛び出てきたような美形の女性なので、宗教画をみている気がしない。

スペインですばらしい‘無原罪の御宿り’を描いた画家が二人いる。エル・グレコ(1541~1614)とムリーリョ(1617~1682)。2013年に東京都美でワールドクラスの大エル・グレコ展が開催され、なんとトレドのサンタ・クルス美に飾ってある‘無原罪の御宿り’が披露された。トレドは2度でかけたのにこの美術館に縁がなかったので、本当に有難い展示だった。無原罪懐胎(聖母マリアはその母の胎内にあったときに原罪を免れているとした説)を題材としたムリーリョの作は20点を数えるが、プラドはその4点を所蔵しており、この絵が一番良く知られている。これでムリーリョに開眼した。

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2025.01.18

聖書から生まれた傑作アート! イサクの犠牲

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 ギベルティの‘イサクの犠牲’(1401~02年 国立バルジェロ美)

Img_20250118231001   ティツィアーノの‘イサクの犠牲’(1542~44年 サルーテ聖堂)

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レンブラントの‘アブラハムの燔祭’(1635年 エルミタージュ美)

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マンテーニャの‘イサクの犠牲’(1490~95年 ウィーン美術史美)

Img_0004_20250118231001   カラヴァッジョの‘イサクの犠牲’(1601年 ウフィツィ美)

旧約聖書の物語は多くが絵画や彫刻となって人々の胸に刻まれているが、
表現のヴァリエーションが多いものが記憶に強く残る。‘イサクの犠牲‘もそ
のひとつ。聖書にまだ馴染みがない頃、このテーマが作品となったもので
最初に知ったのはギベルティ(1378~1455)のブロンズ。ルネサ
ンスの幕開けを告げる1401年、フィレンツェでサン・ジョヴァンニ洗礼
堂の北側門扉の制作者を決めるコンクールが開かれた。与えられたテーマ
は旧約聖書の‘創世記’の‘イサクの犠牲’。ギベルティとブルネッレスキ
(1377~1446)が最後まで競ったが、結局勝敗はつかず共同制作と
なったが、ブルネッレスキがこれを拒んだためギベルティが制作者になった。

このブロンズ制作の話が最初にインプットされたので、以降‘イサクの犠牲’をモチーフにした画家の表現の仕方に関心が向うようになる。ある日アブラハムは突然神の声を聞く。‘アブラハムよ、あなたの愛する息子イサクを連れて、モリヤの山に行き、祭壇の前に燔祭としてささげなさい’。燔祭とは祭壇で羊を殺し、焼いて神にささげる儀礼。その羊の代わりに、神はイサクをささげるように命じたのである。どうしてそんな惨いことを神は命ずるの?

ティツィアーノ(1485~1576)とレンブラント(1606~1669)の作品では、視線はイサクの命が奪われる寸前のところで姿を現し、アブラハムを制止する天使に釘付けになる。そのとき、天から声が聞こえてきた。‘あなたはわたしのために,ひとり子をさえ惜しもうとはしなかった。わたしは誓う。わたしはあなたを祝福し、あなたの子孫を夜空に輝く星くずのようにいっぱいにする’。

マンテーニャは天使は描かず、‘アブラハム、わかった々、もういいよ!’と告げる神の手を右上に描いている。イサクの表情からは恐怖におびえる心情がくみとれる。そして、これよりアブラハムの暴力性を2倍も3倍も感じさせるのがカラヴァッジョが描くイサク。死の怖さはMAXに達し泣き叫んでいる。

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2025.01.17

聖書から生まれた傑作アート! 受胎告知

Img_20250117225701    フラ・アンジェリコの‘受胎告知’(1440年代前半 サン・マルコ美)

Img_0001_20250117225701    エルグレコの‘受胎告知’(1590~1603年 大原美)

Img_0003_20250117225701   クリヴェリの‘聖エミデイウスを伴う受胎告知’(1486年 ナショナルギャラリー)

Img_0004_20250117225701   ティントレットの‘受胎告知’(1582~87年 聖ロクス同信会)

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ロセッティの‘見よ、われは主のはしためなり’(1850年 テート美)

西洋絵画への関心が強まったとき、観たい絵は二つあった。ルネサンス絵
画と印象派。では、どこの美術館を訪問すると思いの丈が叶えられるのか。
ルネサンス絵画はいい絵がたくさんあるが、先ず目指したのは花の都、
フィレンツェ。ここはあまり大きな街ではないから人気のウフィッツィ美
で傑作の数々をみたあと、ガイドブックに載っている教会へ足を運ぶと、
もういっぱしのルネサンス絵画や彫刻の通になれること請け合い。感じ方
が十分でなくても、本物をみて美術の真髄にふれたのだから、これは大
きな鑑賞体験になる。

サン・マルコ美でフラ・アンジェリコ(1395~1455)の‘受胎告知’
をみたことは一生の思い出である。これが最も有名な受胎告知の絵か、と
息を呑んでみていた。全体に簡素な色彩の中で、聖母マリアに神の子を身
ごもったことを伝える大天使ガブリエルの色鮮やかな翼に目が点になった。
一回目のフィレンツェ旅行ではこの絵とボッティチェッリの‘ヴィーナスの
誕生’に遭遇できたことが一番の収穫だった。

日本の美術館でお目にかかったエル・グレコ(1541~1614)の
‘受胎告知’にも大変魅了されている。この絵と同じ構成で描かれたものは
大原美のほかにもう2点あることを1986年西洋美で開催された回顧展
で知った。その一枚(ブダペスト美蔵)が一緒に飾られていた。こんな質
の高い特別展がどーんと開かれる。日本はつくづく美術大国だなと思った。

もう3点、惹かれるのがある。ロンドンのナショナルギャラリーが所蔵するクリヴェリ(1430年代~1494?)の‘聖エミディウスを伴う受胎告知’。印象深いのは聖霊の鳩が天からマリアの部屋に飛んで来た道筋を示す金色の光線。遠近法の構図で個々の細部が緻密に描写されているのでまるで映画のワンカットをみているよう。ヴェネツィア派の巨匠、ティントレット(1519~1594)の作品は空から舞い下る天使をはじめ、動きに富んだ溌溂とした表現が忘れられない。これに比べると縦長の画面に描かれたロセッティ(1828~1882)の‘受胎告知’はとても静かで、マリアはどうして神の子の母親になるのかしら?という感じ。

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2025.01.16

2024年 訪日客最多3686万人!

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   新幹線で‘駅弁’を食べる外国人観光客が増加!

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   コンビニの‘卵サンド’が大人気!

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   観光客に重宝がられる自動販売機!

2024年日本を訪れた外国人(インバウンド)が2019年の3188万人
を上回り過去最多の3686万人となった。新型コロナウイルスの感染が起
きなければこのくらいの数は2020年に達すると予想されていたが、
4年遅れでこのレベルに到達した。国別には韓国が最も多く、中国、台湾が
続く。

昨年、美術館巡りで首都圏だけでなく、京都、大阪、名古屋、岐阜にもでか
けたが、どこへ行っても外国人観光客は大勢いた。以前との違いは中国人の
団体ツアーをあまり見なくなったこと。そして、目立つようになったのが
アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどからやって来た人たち。東京の
地下鉄でみかけるのをそう驚かなくなった。

最近はYou Tubeで新幹線乗車でサプライズMAXになるものとか、日本の食
べ物を‘美味しい々!’と幸せ顔になる人たちのものをよくみるが、われわれに
は普通のものがこれほど海外の人に大受けなの?!と思うことが多々ある。
たとえば、‘駅弁’。日本人でも旅好きだけでなくたまに旅行する人でもつい買
ってしまうほど、定番の食べ物であるが、彼らはこのランチボックスに幾種
類もの料理がきれいに並んでいるのにびっくりするらしい。

ほかの食べ物でよくでてくるのが、コンビニの‘卵サンド’。やわらかいパンで
はさまれたマヨネーズ&卵が彼らの食欲を強く刺激するようだ。そして、
トンカツに嵌っている人も多い。カツカレーなんかもすごく美味しく食べて
いる。飲み物についてはわれわれ同様、種類の豊富な自販機の便利さを実感し
ている様子。また、自販機で買えるアイスやショートケーキなどに大喜びして
いる。

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2025.01.15

聖書から生まれた傑作アート! マグダラのマリア

Img_20250115233101   ティツィアーノの‘マグダラのマリア’(1533年頃 ピッティ美)

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ラ・トゥールの‘灯火の前のマグダラのマリア’(17世紀 ルーヴル美)

Img_0002_20250115233101   エル・グレコの‘悔悛するマグダラのマリア’(1577年頃 ウースター美)

Img_0003_20250115233101   カラヴァッジョの‘法悦のマグダラのマリア’(1606年)

Img_0004_20250115233101   ドナテッロの‘マグダラのマリア’(1454年頃 フィレンツ・ドゥオーモ付属美)

若い頃、スイスのジュネーヴに住んでいて休暇を利用してイタリアのフィレ
ンツを旅行した。当時はまだ美術への関心は普通の観光客並みで、ガイドブ
ックに必見の名所として載っているウフィッツィ美へでかけボッテイチェリ
の‘ヴィーナスの誕生’に感激したのは、ルーヴルでダ・ヴィンチの‘モナ・
リザ’をみて大騒ぎするようなものだった。

ウフィッツィ同様、観光の目玉として有名なのが巨大聖堂ドゥオーモ。その美しいフォルムを目に焼き付けたあと、聖堂の裏側にある付属の美術館にも寄ってみた。そこにショッキングな木彫像があった。それは高く評価されていたドナテッロ(1386~1466)が仕上げた老いたマグダラのマリア。伸び放題の髪の毛が衝撃的だったので、強烈に印象づけられた。マグダラのマリアのことはまったく知らなかったので、そのときは中国の仙人のように思えた。マグダラのマリアのイメージはこの鑑賞体験によって植えつけられた。

この身の毛がよだつような凄味は長い期間をかけて消えていくことになるのだが、それは絶世の美女として表現されたマグダラのマリアに遭遇する機会が増えてきたから。たとえば、ティツィアーノ(1485~1576)、ラ・トゥール(1593~1652)の作品はその極め付きだが、スーパーモデルとか映画女優並みの美貌なので近づきがたい感じ。これに対し、エル・グレコ(1541~1614)の‘悔悛するマグダラのマリア’は明るくとてもチャーミングな女性として描かれている。

誰もがぼーっとみてしまう美女というより男を誘惑するファムファタルを連想させるのがカラヴァッジョ(1571~1610)の‘法悦のマグダラのマリア’。これは2016年西洋美で開催されたワールドクラスの回顧展に出品されたものだが、2001年岡崎市美であった最初の回顧展でも似たような官能的なマリアの姿を体験した。

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2025.01.14

西洋美術史家 岡田温司氏の本がおもしろい!

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ここ数年映画をDVDで楽しんでいるが、観終わったあと映画に関連する本
を読むのがルーティンのようになっている。その本はすぐ本屋に足を運び
購入したものもあれば、書庫に並んでいるがまだ読んでいないものもある。
本とにつきあいが長くなると買い込んだ本を置く場所の確保に多くのエネル
ギーを割くことになる。本のコレクションには関心がないため、適時処分し
ているので書斎が本の山に囲まれているということはなく、関心のある本は
グルーピングされて上手くおさまっており(これを均衡した!と呼んでいる)
、家のどこにあるかはすぐわかるようになっている。

ここ2週間くらい聖書関連の映画(‘天地創造’や‘偉大な生涯の物語’など)を
ホームシアターで連続して上映したので、手に取る本もそれにつれて10冊
くらいになった。その仕上げに読んだのが西洋美術史家、岡田温司氏
(1954~)の本。岡田氏は京大教授だった方だが、分厚い本‘カラヴァッ
ジョ鑑’(岡田氏編 2001年 人文書院)でカラヴァッジョのことをいろ
いろ教えてもらった。

この本が縁でその後上梓されたものは注目しており、いくつか買いそろえた。
でも、読みたい本が美術本から行動経済学、宇宙論や現代物理学、進化論、
脳科学などへ移っていったので、ここに紹介する本は積ん読になっていた
(‘マグダラのマリア’を除いて)。
☆‘アダムとイヴ 語り継がれる「中心の神話」’(2012年)
☆‘処女懐胎 描かれた「奇跡」と「聖家族」’ (2007年)
☆‘キリストの身体 血と肉と愛の傷’     (2009年)
☆‘マグダラのマリア エロスとアガペーの聖女’(2005年)
☆‘黙示録-イメージの源泉’         (2014年)

岡田氏の本はカラヴァッジョの論考でわかっているが、ちょっと難しく重い
テーマなのに読んでるとイメージができてよく頭に入り、腹にストンと落ちる。
しかも事例が豊富。中世からルネサンス、そして現代美術の絵画、彫刻、映画
にまで話が及ぶ。だから、ついのめり込んで読んでしまう。
西洋美術の研究では岡田氏が今日本ではトップではないかと思う。興味ある方
は是非!

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2025.01.13

喜劇映画‘社長紳士録’に使われた‘吉原細見’!

Img_0004_20250113224601    ‘𠮷原細見「籬の花」’(1775年 西尾市岩瀬文庫)

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Img_0003_20250113224601    喜劇映画‘社長紳士録’(1964年)より

今年は毎週観ることに決めたNHKの大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~’。
昨日放送された2回目は吉原のガイドブック‘吉原細見’の話で、これをたくさ
ん客を呼びこめる強力な必須アイテムにするため、蔦屋重三郎は編集内容を刷
新しようといろいろアイデアを絞り出す。その目玉が平賀源内に序文を書いて
もらうこと。それが安永三年(1774)に鱗形孫兵衛が出版した‘細見嗚呼御
江戸’。

蔦重は小売商としてこの遊郭遊びのための情報誌の拡販に大きな貢献をしたが、
26歳のとき版元として最初に出版したのが‘吉原細見「籬の花」’、そして、
冊子に独自の斬新な仕掛けを次々と加え鱗形版を圧倒し,天明三年(1783年)
蔦重版は独占出版となる。

日本映画で一番のお気に入りは刑事物やサスペンスだが、これと同じくらい楽しんでいるのが東宝が製作した人気喜劇映画‘社長’シリーズ。この‘社長紳士録’に‘吉原細見’の現代版がでてきた。製紙会社の社長(森繁久彌)は取引会社との契約のため秘書(小林桂樹)と営業部長(三木のり平)をつれて新潟に出張する。仕事がうまくいったあとは料亭でのお決まりの大宴会とお得意の宴会芸の披露。

そこに現れた新潟一の美人芸者菊千代(新珠三千代 知っている人は知っている)。社長の席に来た彼女は社長の持っていた芸者の写真がずらっと並んでいる‘新潟花街’を手に取り、自分の写真に口紅で印をつける。社長はすぐ菊千代にほれ込み、芸者たちの踊りを‘新潟花街’を舐めるようにみながら部長の三木のり平と一緒に楽しんでいる。そして、東京に帰ると、自宅では奥さんの大喧嘩が待っていた。お手伝いさんが背広をクリーニング屋にだすときポケットに入っていた‘新潟花街’をだしていたら、子どもたちにとられてしまい、最悪なことに奥さんに見つかってしまった。さあー大変!社長はこれは宴会のどの席にも置いてあって、席が入れ替わったりして秘書のものを誤ってポケットに入れたととぼける。ひとまず燃え上がった火はおさまるが、こんどは秘書の妻(司葉子)と夫のバトルへと発展していく、、

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2025.01.12

‘人間国宝・志村ふくみ’展(2回目)!

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   ‘空と湖’(2007年)

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   ‘若紫’(2007年)

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   ‘柳の国’(2012年)

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   ‘悲歌’(2012年)

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   舞衣‘紅扇’(2021年)

水戸から東京に戻って来たあと、染織家志村ふくみさんの100歳を記念し
た特別展が行われている大倉集古館に向かった。作品が一部を除いて後期
(12/17~1/19)でがらっと替わったので2回目の出動となった。
来館者の大半は女性でその7割くらいの方が着物姿だった。

昨年の展覧会シーンの振り返りで、お気に入りの図録をとりあげ、この特別
展の図録(世界文化社)など4冊がいずれも作品の色がリアルに再現されて
いることにふれた。その特徴はじつは茨城県近美がつくった‘中村彝展’でも
実現されており、図録によって展覧会で受けた大きな感動がまたよみがえる
という以前とは違った展覧会鑑賞の楽しみが生まれている。すばらしい!
だから、ここに選んだ5点も前期の5点同様、本物の色の感じにかぎりなく
近い。

‘琵琶湖’シリーズの後期は琵琶湖の風景をそのまま映したような青のグラデ
ーションが心に響く‘空と湖’、緑と青の組み合わせがえもいわれず美しい‘奥琵
琶’、そして小さな三角形で表現された水鳥が印象的な‘鳰(にお)の湖’の3点。
いい気持でみていた。‘源氏物語’を主題にした連作では再会した‘若紫’の前に
長くいた。まるで光源氏に愛された高貴な女性,紫の上が現れてくるよう。

ふくみさんは文筆でも才能を発揮し、多数の著作を刊行している。リルケの
本を上梓したあとに生まれたのが‘柳の国’と‘悲歌’。心を鎮めてながめていた
。‘悲歌’はこげ茶色の濃淡だが、普通にこの色をみるとちょっと思い気分に陥
るが、今回それがなく深く威厳のある色に感じられた。詩人の石牟礼道子さ
んとコラボした新作能‘沖宮’で後期に並んだのは鮮やかな緋色に惹きこまれる
‘舞衣 紅扇’など3点。着物が好きな方は是非、大倉集古館へ!

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2025.01.11

茨城県近代美術館 名作揃いの平常展!

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   木村武山の‘弁財天’(1926年)

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   横山大観の‘蓬莱山’(1946年頃)

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   安田靫彦の‘源氏若紫’(1933年)

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   那波多目功一の‘アイガー北壁’(2016年)

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   古賀春江の‘卓上静物’(1924年頃)

館内に彫刻作品がいくつも飾られている県立美術館ですぐ頭に浮かぶのはロ
ダンで知られる静岡県美、福島県美、そして茨城県近美。久しぶりの訪問と
なった茨城県近美だが、入館料を払ってまわりをみわたすとすぐ設置されて
いる彫刻の記憶がよみがえってきた。ロダン、ザッキン、マンズー、エミリ
オ・グレコ、チャドウィック(いずれも写真撮影はNGのため、画像はなし)。
1階ではほかにも所蔵する日本画や西洋絵画が展示されているので、お目当
ての‘中村彝展’(2階展示室)を楽しんだあと、寄ってみた。

現在でている作品は2/13までの展示。ここにサプライズMAXの日本画が飾
られていた。それはこの美術館に寄託されている森田曠平(1916~
1994)の見事な出来栄えの四曲一双の屏風‘女神春秋 「花鎮め」「龍田
姫」’(1982~83年)。個人の所蔵のため写真撮影NGとなっているので、
その装飾美につつまれた森田流美人の姿を紹介できないのは残念だが、200
%KOされた。山種にある‘出雲阿国’のほかにもこんないい絵があったとは!

その横に飾ってあった絵にも思わず足がとまった。安田靫彦の‘源氏若紫’と‘鴨
川夜情’、いずれも2016年東近美で開催された決定版の‘安田靫彦展’に出品
された。日本画では初見の木村武山(1876~1942)の‘弁財天’に大変
魅了された。隣に並んだ横山大観(1868~1958)のお馴染みの‘蓬莱
山’より倍の時間をかけてながめていた。

もう2点、収穫があった。那波多目功一(1933~)が2016年に描いた
‘アイガー北壁’、若い頃スイスのジュネーヴに住んでいたから、このアルプス
の名峰には過剰に反応する。そして古賀春江(1895~1933)の‘卓上
静物’も長くみていた。

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2025.01.10

茨城県近美の‘中村彝展’!

Img_0002_20250110223101    ‘少女裸像’(1914年 愛知県美)

Img_0004_20250110223101    ‘女’(1911年 徳川ミュージアム)

Img_0003_20250110223101    ‘友の像’(1912年頃 三井住友銀行)

Img_0001_20250110223101    ‘頭蓋骨を持てる自画像’(1923年 大原美)

Img_20250110223101    ‘静物’(1916年 茨城県近美)

茨城県近美で行われている‘中村彝展ーアトリエから世界へー’(11/10
~1/13)をすべりこみセーフでみてきた。ここへ過去2度きたときはク
ルマだったが、今回はJR常磐線の特急に乗ったので東京駅から1時間ちょ
っとで水戸駅に到着した。正午すぎで水戸だから時間はたっぷりあるので
HPでチェックしたバス乗り場へむかったが、美術館近くに止まるバスは
この時間帯は運行していない!?すぐ頭を切り替えタクシーに乗り込んだ。

以前美術館を訪問したとき、水戸生まれの洋画家、中村彝(1887~
1924)に50%開眼した。そして、これを機に彝という漢字を‘つね’と
読めるようになった。昨年が没後100年だったので回顧展が開かれたの
だが、じつは12月の初旬にこの情報が入ってきた。これはまったく迂闊
だった。‘日経おとなのOFF 絶対見逃せない美術展’に頼りすぎたことの
落とし穴に遭遇したような感じ。年末は忙しいので年明けの出動となったが、
悔いを残さずに済むことになった。ミューズに感謝!

昨年の12/3にみた‘山本芳翠展’同様、中村彝も大回顧展だった。もう完璧
と思うくらい主要作品が国内の美術館からどどっと集結していた。予想通り
の決定版の回顧展。本当にすばらしい!あと3日あるので、好きな方は是非!
パトロンの相馬夫妻の娘俊子を描いた有名な絵、‘少女裸婦’(愛知県美)、
‘小女’(中村屋)、‘少女’(横須賀美)が3点揃って並んでいる。今回の大き
な収穫はこれらより数年前に描かれたルノワールを彷彿とさせる‘女’、思わず
足が止まった。そして、三井住友銀行が所蔵する‘友の像’にもぐぐっと惹きこ
まれた。花魁の化粧を連想させる白い顔と強い目力に吸い込まれそうだった。

数多くある人物画ではチラシに使われている‘頭蓋骨を持てる自画像’はやはり
すごい絵。ヨーロッパに住んでいる美術ファンがこれをみたら多分違和感な
くすっと絵の中に入り、レーニやカニャッチらが描いた髑髏がでてくるマグダ
ラのマリアの絵を思い浮かべるかもしれない。また、セザンヌの影響を受けてたくさん制作した静物画にもいいのがいくつもある。とくに惹かれたのはリンゴの皮の赤がリアルに心に響く茨城県美蔵。前にもみて惹かれていたが、こういう回顧展に多くの作品がでてくるとこの静物画の価値がより際立ってみえる。

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2025.01.09

写楽本で描かれた蔦屋重三郎!

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2007年、写楽・江戸文化研究家、内田千鶴子(1943~)が上梓した
‘写楽を追え 天才絵師はなぜ消えたのか’(イースト・プレス)に蔦屋重三
郎が小説風に生き生きと描かれているので、少しふれてみたい。対話形式で
話が進むのが‘第三部 蔦屋重三郎が見出した男 写楽はこんな絵師だった’。
写楽に会った蔦重のセリフからは写楽にかける賭ける意気込みがひしひしと
伝わってくる。

重三郎  ‘通油町版元・蔦屋重三郎’と申します。お初にお目にかかります。
     隣家の春海先生や北島町の千陰先生からご紹介にあずかりまして’
十郎兵衛 ‘承っております。私は、斎藤十郎兵衛と申します。阿波藩中屋敷
     で能役者をつとめております’
十郎兵衛 ‘私の家は代々能役者の家柄。絵はほんとに手なぐさみでありまし
     て、役者絵を描くことなど、私ごときにつとまるものなのでしょ
     うか’
重三郎  ‘先日、あなたがお描きになった五代目白猿と半四郎の役者絵を見
     て、びっくりしました’
十郎兵衛 ‘あれは、春海先生が欲しいとおっしゃったので差し上げたものです’
重三郎  ‘とにかく、あなたにこの五月興行の三座の芝居絵を描いてもらい
     たい。七月は盆狂言、八月は夏狂言、十一月の顔見世興行、閏
     十一月興行、そして翌年の正月興行まで、私はあなたに賭けてみ
     ようと腹を決めた。眼光から発する目の輝き、頑強な肉体。あな
     たに会った瞬間、この人なら大丈夫だと思った’
十郎兵衛 ‘私は本職の絵師ではありません。私の腕で、そんな大それたこと
     がつとまりますか?’
重三郎  ‘体に似合わず、気の弱いことをおっしゃる。私はこの御改革やら
     出版取締令でずっとお上から手ひどい仕打ちを受けてきた。なん
     としてもここで一発、蔦屋としての鼻を明かさなきゃ。私の男と
     しての意地が立ちません’
十郎兵衛 ‘やってみたい。やらせてください。命がけで、役者絵を描いてみ
     たい’
重三郎  ‘やってくださるか。それは、ありがたい。白猿も南畝先生も了解
     している’
重三郎  ‘必ず、いい役者絵が描ける。あなたなら生写しの役者絵が描ける
     はずだ’
重三郎  ‘ところで斎藤さん。あなたは大名お抱えの士分。表立って名前は
     出せない。あなたの素性を知る人物は、私と番頭の松蔵、手代の
     幸吉、阿波藩中屋敷の柿崎様、それに南畝先生、春海先生、千陰
     先生、芝居界の大立者白猿だけだ。あなたの身分は黙して語らず
     、覆面絵師ということにしよう。そこで、画号をどうするかだが、’
十郎兵衛 ‘私は能の世界で生きてきた男。世間のことは、とんとわかりま
     せん’
重三郎  ‘私は、今日早駕籠で通油町から伊勢町を抜け、江戸橋を渡り、こ
     うして八丁堀にやってきたが、ここへ来るには舟のほうが手っ取
     り早い。芝居町のそばの堀留から日本橋川へ入り亀島橋まで舟で行
     けば、ほんのひと漕ぎだ。周囲をほとんど川と掘割に囲まれた、
     いわば洲ともいえる所。もっとも、昔はすべて海だったようなも
     んだ。方角といえば、八丁堀は江戸城から東だ。ということで、
     東の洲に住む男、東洲斎。描くものは役者絵だ。芝居町と吉原は
     江戸最大の娯楽場、楽しみの場だ。それを写す男、写楽。東洲斎
     写楽という画号はどうかね?ちとじじむさいかな?’
十郎兵衛 ‘東洲斎写楽。いい、いい名だ。語呂もいい’
重三郎  ‘そうか、これで決まりだ。では東洲斎写楽、これでいこう’
重三郎  ‘お互い力を合わせ、江戸っ子の肝を潰してみましょうや’

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2025.01.08

宗教の理解に役立つ美術鑑賞、映画!

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Img_0002_20250108225201   カラヴァッジョの‘イサクの犠牲’(1601年頃 ウフィツィ美)

NHKのBSに最近名作映画がよく登場する。大みそかには黒澤明監督の‘七人
の侍’を上映していたので、早めに恒例の大掃除をすませチャンネルをあわ
した。DVDは手に入れているが、長い映画なのでそう度々は時間をさけな
いから久しぶりの鑑賞になった。NHKは日本映画の傑作をまた放送しようという考えがあるのかもしれない。映画好きにとっては拍手したくなるいい流れである。

映画にはこうした名作のように多くの人々にとびっきりの娯楽を提供する
ほかに、宗教や歴史のことを理解するのに役立つメディアとしての側面も
ある。昨年の11月頃からまだみてなかったDVDで聖書(旧約、新約)
関連のものを集中的にホームシアターで上映した。
☆‘天地創造’(1966年 アメリカ製作 175分)
☆‘偉大な生涯の物語’(1965年 アメリカ製作 260分)

ともに長い映画だから途中で‘インターミッション’(休憩)が入る。今は
映画館に出かけてこういうことは体験しないだろうが、昔はアメリカお得意
のスペクタクル大巨編では、たとえばエリザベス・テーラーが出演した
‘クレオパトラ’などには必ずインターミッションがあった。懐かしい!

2つの聖書映画で映像化された物語の数々は、これまで長きにわたり趣味として鑑賞してきた西洋美術(絵画や彫刻)のおかげでおおよそ頭の中に入っているものなので、カラヴァッジョの‘イサクの犠牲’などをダブらせながら観ていた。長いこと付き合っている友人に大学の神学部を卒業したクリスチャンがおり、その年上の人とお酒を飲む際、話がキリスト教に広がったりしてもこちらがクリスチャンでもないのにそこそこ会話は弾む。それは旧約聖書の話やキリスト物語のことが絵画や彫刻によって情報がインプットされているから。もし美術鑑賞に縁が無かったら、宗教ははじめから話題にならない。つくづく美術とつきあっていて良かったなと思う。

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2025.01.07

NHKの大河ドラマに蔦屋重三郎が登場!

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 蔦重を演じる横浜流星(NHK大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~より’)

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1/5に放送されたNHKの大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~’(初回)
を興味深く観た。1/3の昼のNHKで番宣として、今年の大河ドラマに出演
する俳優陣、舞台となる江戸の街のセットづくり(吉原を中心に)、人々
の着る衣裳や遊女たちの化粧、演技のポイント、テーマ音楽など番組の見
どころをたくさんみせてくれた(いわゆる映画のDVDの特典についている
メイキング映像)。これで強く惹きつけられたので、もう何十年と観てなか
った大河ドラマを今年は毎週楽しもうという気になった。

主役の蔦屋重三郎を演じるにはうってつけの俳優という印象をもった横浜流
星はまったく知らなかった。イケメンで明るいキャラクターのうえ堂々とし
た演技からするとこの出演を機に大ブレイクし、人気俳優への階段をあがっ
ていくことを確信した。名前を知っている俳優はとても少ない、渡辺謙、
高橋克実、石坂浩二、里見浩太朗、女優は3人しかわからなかった。

蔦屋重三郎がどんな人物だったかは、浮世絵とのつきあいが長いからそれな
りには情報がある。手元にキープしている本でお薦めは次の2つ。
☆松木寛 ‘蔦屋重三郎’(2002年 講談社文庫)
☆近藤史人 ‘歌麿 抵抗の美人画’(2009年 朝日新書)

今年前半の展覧会プレビューで選んだ東博の‘蔦屋重三郎 ビジネスコンテン
ツの風雲児’(4/22~6/15)はNHKと連動した特別展、毎週‘べらぼう’を
みると情報が厚くなり、ぐんとエンターテイメント化した江戸の社会・文化
、浮世絵の話にのめり込みそうな予感がする。

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2025.01.06

聖書の話を思い起こさせる映画!(2)

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Img_0004_20250106225501    映画‘M’(1931年)より

Img_20250106225501     ブレイクの‘アベルの死体を見つけたアダムとイヴ’(1826年 テート美)

昨年の末、ブックオフでタイトルが気になって手に取った刑事物の映画に
200%嵌っている。それはドイツで1931年に製作された‘M’。‘世界名作
映画 ベスト10!’を選んだとき、少女連続殺人の犯人の着ているコートに若
い男(警察ではなく裏社会のグループの一員)がぶつかるふりをして手にチョ
ークで書いたMの字をつけたシーンが、とてもおもしろいアイデアだと書いた。

男が‘M’(ドイツ語で殺人者を意味するMorderの頭文字)のマークを
つけたのは仲間に犯人を知らせるためだった。裏社会の者たち(犯罪者、
売春あっせん者、浮浪者)は殺人事件が世間を震撼させているため警察組織の
取り調べが強化され、商売が激減したので自分たちの手で犯人を捕まえようと
浮浪者ネットワークをつくり奔走していた。そして、警察より先に‘M’の男
を捕まえる。

しばらく‘M’つけのことが頭にこびりついていたが、正月をはさんでここ1週間位集中して読んだ聖書関連の本にこれと同じようなことがでてくることに気づいた。その話とは‘旧約聖書、創世記 カインとアベルの物語’。これは人類最初の殺人の話。楽園を追われたアダムとイヴの二人の子どもがカインとアベル。二人は成長しアベルは羊を飼う者となり、カインは土を耕す者となった。

カインは土の実りを、アベルは肥えた子羊を供え物として、神に捧げるが、神はアベルのものを受け入れたが、カインのものははねつけた。これに怒った兄のカインはとうとう弟のカインを殺めてしまう。カインは耕していた土地からも追われてさすらう者となり、エデンの東、ノドの地に住んで町を建てることになる。

さすらう者となったカインが‘私に出会う者はだれであれ、私を殺すでしょう’と神に尋ねると、神はそうならないようにと殺害者に‘七倍’の罰を約束し、カインに出会う者がだれも彼を撃つことがないように、カインにしるしをつけられた。神はカインを守るために慈悲を加えたのである。傑作映画‘M’がカインの殺人の話とつながっていたとは。

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2025.01.05

聖書の話を思い起こさせる映画!(1)

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Img_0002_20250105230901   映画‘恐怖の報酬’(1953年)より

Img_20250105230901   レンブラントの‘聖ステファノの石打ち’(1925年 リヨン美)

2009年千葉市美で開催された‘大和し美し 川端康成と安田靫彦’展では美
術館がつくる一般的な図版とは違う、書籍タイプのものが求龍堂から出版さ
れた。内容が充実しているのでときどき読んでいる。そこに川端康成が映画
について語ったことが書かれている。‘映画はたった一瞬でいい、記憶に残る
シーンがあれば最高である’。昨年の末、感動した世界名作映画として選んだ
10点にもその記憶に残るシーンが勿論でてくる。その場面が聖書の話を思
い起こす作品が2つあったので、そのことを少しばかり。

1953年にフランスとイタリアの共同で製作された‘恐怖の報酬’にこれまでたくさん観てきた映画でお目にかかったことのないハッとさせられるシーンが最後のほうにでてきた。油田で起きた大火災を消すためにニトログリセリンを現場に届けるトラックの運転手マリオ(シャンソン歌手のイヴ・モンタン)が相棒の老人ジョーに大きな石を投げつける。それがもろに顔にあたり老人はぐらっとくる。当たり所が悪ければ顔の骨が折れ大怪我をするところ。日本の映画でもいじめられっ子が仲間に石を投げられて泣くシーンをみるが、これは子どもたちの世界。大人たちが気にくわない相手に石をストレートにがつんとぶつける場面に遭遇したのははじめてなので、オイオイ凄い残虐なことをするな、と思った。

そして、すぐある絵画が思い浮かんだ。それはレンブラントの描いた‘聖ステファノの石打ち’。聖ステファノはエルサレムで説教し奇跡を行ったが、ユダヤ教の律法をおかしたとされて、石打ちという残酷な刑で殉教した。まだ本物とは縁がないが、この石打ちの刑の暴力性が目に焼き付いているので、マリオの石投げと聖書がすぐ結びついた。ジョーは前を走るもう一台のトラック(同じく2人のコンビ)がニトログリセリンの爆破で吹っ飛んだので、自分たちのトラックもちょっとした揺れでニトロが爆発し同じような事態になるのではと頭がパニックになり、トラックから飛び出し逃げてしまう。マリオはあと少しで現場に到着し2000ドルが手に入るのだから、ここで怖気ずくにはいかない。相棒の老人にも一緒に頑張ってもらわないと困る。だから、鬼になってジョーに石を投げて仕事に戻させようとする。監督は素手で殴るのではインパクトが弱いと思い、石打ちの刑にしたのかもしれない。

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2025.01.04

謹賀新年 2025年前半展覧会プレビュー!

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今年も拙ブログをよろしくお願いします。新型コロナウィルス感染の大騒動
がおさまり、2023年以降は展覧会シーンにおける活気が戻り、毎年、
鑑賞意欲を強く刺激する話題の特別展が日本全国あちこちで開催されていま
す。今年はその流れが西洋美術、日本美術とも多彩かつ豪華になり、絶対
見逃せないものが多く登場します。全部出かけられるかわからないが、前半
で関心の高いものをできるだけ多くピックアップしてみた。

☆西洋美術
‘異端の奇才ービアズリー’   2/15~5/11  三菱一号館美
‘ミロ展’           3/1~7/6    東京都美
‘ヒルマ・アフ・クリント展’  3/4~6/15   東近美
‘松山智一展’         3/8~5/11   麻布台ヒルズギャラリー
‘西洋絵画、どこから見るか?’ 3/11~6/8   西洋美
‘セーヴル フランス宮廷の磁器’ 4/5~6/8    渋谷区立松濤美

‘藤田嗣治 7つの情熱’    4/12~6/22  SOMPO美
‘オディロン・ルドン’     4/12~6/22  パナソニック汐留美
‘草間彌生 版画の世界’    4/25~9/7   京都市京セラ美
‘ルノワール×セザンヌ’     5/29~9/7   三菱一号館美
‘パウル・クレー展’      6/7~8/3    静岡市美
‘アボリジナル・アート’    6/24~9/21  アーティゾン美

☆日本美術
‘大覚寺’           1/21~3/16  東博
‘魂を込めた 円空仏’      2/1~3/30   三井記念美
‘司馬江漢と亜欧堂田善’    3/15~5/11  府中市美
‘相国寺展-金閣・銀閣’    3/29~5/25  東芸大美

‘日本、美のるつぼ’      4/19~6/15  京博
‘超 国宝ー祈りのかがやきー’  4/19~6/15  奈良博
‘蔦屋重三郎’         4/22~6/15  東博
‘日本国宝展’         4/26~6/15  大阪市美
‘蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ’ 5/30~7/21  千葉市美

(注目の展覧会)
西洋美術関連の特別展で過去に縁がなかったという点から関心を寄せている
のは‘ヒルマ・アフ・クリント’、‘松山智一展’、‘西洋絵画、どこから見るの?’
で披露されるジョルジョーネなどのサンディエゴ美のコレクション。日本美
術でおもしろそうなのはNHKの大河ドラマとのコラボで盛り上がりが予想される‘蔦屋重三郎’(東博&千葉市美)。そして、1月からはじまる東博の‘大覚寺’も楽しみ。今年の前半でハイライトはなんといっても大阪・関西万博開催と連動して京博、奈良博、大阪市美に結集する日本美術のお宝の数々。

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