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2023.10.31

オリヴァー・サックス ‘レナードの朝’!

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食べ物に好き嫌いがあるように絵画についても大変のめり込むものがある一
方で、どうしても好きになれない画家もいる。それでも、つきあうアーテイ
ストはなるべく多くし美術を幅広く楽しむように心がけている。こうしたこ
とは知的興味が専門分野の外に広がる場合でもそうありたいと思っているが、
能力に限界があり長く知識をためこんでいる分野に比べると相当ハードルが
高くなる。たとえば、10年くらい前からチャレンジしている脳の話は理解
が進むように時間をさいて集中的に本を読んでいる。しかし、本を一冊読み
終わったらといって頭がクリアになったということにはならない。だから、
何度も何度もページをめくりポイントがそこそこつかめるようなったら、少
しレベルアップした本に時間とエネルギーを注ぎ込んでいく。

今年は買い込んでいた脳関連の本を何冊も読んだ。一番多いのが脳神経科医
として活躍したオリヴァー・サックスの著作。お陰で理解の小さなジャンプ
が何度か起こった。その本をあげると
☆‘レナードの朝’(1973年 早川書房)
☆‘妻を帽子とまちがえた男’(1985年 早川書房)
☆‘火星の人類学者’(1995年 早川書房)
☆‘音楽嗜好症’(2008年 早川書房)
☆‘見てしまう人びと 幻覚の脳科学’(2012年 早川書房)

ラマチャンドランの‘脳のなかの幽霊’(1998年 角川書店)を読んだとき、解説を書いた養老孟司さんの冒頭の文章が目にとまった。こうある。‘ラマチャンドランの本にオリヴァー・サックスが序を書いている。それなら面白い本に決まっているから、本当は蛇足の解説は必要ない’。オリヴァー・サックスの本を5冊読んで、その通りだということがよくわかった。文章が本当に上手いからおもしろい上に、難しい話がすっすっと頭に入ってくる感じ。頭が緻密に整理されていて複雑なことをイメージできるように語ってくれるのだからスゴイ。だから、2015年に出版された658頁もある分厚い文庫本‘レナードの朝’を夢中になって読んだ。この本は1920年代に流行した謎の眠り病‘嗜眠性脳炎’にかかって話すことも動くこともできない患者にかかわったオリヴァー・サックスの奮闘記が元になっている。

この原作を映画化したのがロバート・デ・ニーロがレナード役、ロビン・ウイリアムズがオリヴァー・サックス役で共演した‘レナードの朝’(アメリカ 1990年)。本を読んだあとすぐブックオフへ行き、DVDを探しゲットした。この映画は一度観たことはあるが、記憶がまったくなくなっていたので、あらためてまさに真剣にみた。30年間も半昏睡状態だったレナードをはじめとする患者たちが試験的な新薬の投与により奇跡的に‘めざめ’ていく。だが、その効果は長くは続かなかった、、原作をしっかり読んだので患者たちの身振りや行動が胸を打った。ほかの本も今繰り返し読んでいる。

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2023.10.30

ヒッチコックのサスペンス映画ベスト10!

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コレクションの数が300本を超えた映画DVDのなかで数が圧倒的に多い
のが刑事もの、探偵もの、サスペンス。はじまりはBSプレミアムでみた
‘シャーロック・ホームズ‘シリーズ(イギリス制作)。41本全部購入し、
そのあと‘オックスフォードミステリー ルイス警部’(イギリス制作、
16本)も手に入れた。イギリスづいてしまうと次はサスペンス映画の
天才といわれるヒッチコックへという流れはとめられない。そして、秀作
を何本もみているうちに1966年に出版された’定本 映画術 ヒッチコ
ック/トリュフォー’(1990年 山田宏一 蓮實重彦訳 晶文社)にまで
手を出してしまった。

これまでヒッチコックのサスペンスは20本くらいみたが、手元に残して
いるのは10本。
☆めまい
☆北北西に進路を取れ
☆サイコ
☆ダイヤルMを廻せ
☆バルカン超特急
☆海外特派員
☆三十九夜
☆白い恐怖
☆レベッカ
☆マーニー

このなかで以前みたことがあった(プロットはほとんど忘れていたが)のは
‘サイコ’だけで、ほかは初物。それらの作品がどういうふうに製作されてい
たかは‘定本 映画術’に詳しく書かれているので脚本のおもしろさはどうやって練りこんでいったのか、アイデアのもとは何だったのかなどいろいろな情報にふれることができた。映画の評価はシナリオがいいものかどうかで決まるから、関心はそこにいく。

この10本が何度もみたい作品だが、ベスト3は最初の3つ。ネタバレにな
るので詳しくはふれないが、1位の‘めまい’は秀作中の秀作。高所恐怖症の
刑事(名優ジェームズ・スチュアート)というアイデアが意表をつく。それ
が殺人事件とどう関係してくるのか、観てのお楽しみ!
以前からタイトルが気になっていた‘北北西に進路を取れ’はラストのハラハラ
ドキドキの舞台が4人の大統領の巨大な彫刻が露頭に彫られていることで知
られる‘ラシュモア山’(アメリカサウスダコタ州)だったのがおもしろかった
。この彫刻を知ったときいつかでかけてみたいなと思っていたから、のめり
こんでみた。

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2023.10.29

圧倒的な存在感をみせる老女ベスト5!

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   ジョルジョーネの‘老女’(1508~10年 アカデミア美)

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 カラヴァッジョの‘ユデイトとホロフェルネス’(1599年頃 バルベリーニ国立古代美)

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   ラ・トゥールの‘女占い師’(1630年代 メトロポリタン美)

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   ラ・トゥールの‘楽士たちのいさかい’(1625~30年 ポール・ゲッテイ美)

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  マースの‘レースを編む老女’(1655年頃 マウリッツハイス美)

海外の美術館を本格的にまわりだしたとき、いつも必見作品のリストを事
前につくっていた。時間が限られているのでお目当ての名画を絞り館内を
走るようにみてまわった。ヴェネツィアにあるアカデミア美ではジョルジ
ョーネ(1476~1510)の‘嵐’との出会いが一番の楽しみだった。
長年の思いの丈を叶えるとすこし緊張がほぐれる。でも、横に飾ってあっ
た鋭いリアリズムで描かれた‘老女’に目が点になり、テンションがまた上が
った。モデルは画家の母といわれているが、16世紀の初頭に老女と今
対面しているような感じになる絵があったとは!

この絵をカラヴァッジョ(1571~1610)はヴェネツィアへ行った
とき、みたのかもしれない。それを思わせる絵がローマのバルベリーニ
宮殿にある。暴力性がMAXにでた‘ユディトとホロフェルネス’の右に描かれ
ている従者の老女との関連性をつい想像してしまうのである。ホロフェル
ネスの首をユディトがありったけの勇気を振りしぼり、のこぎりで引きよ
う切っているのを表情を変えず凝視している。スゴイ絵をみてしまった。

昨年、メトロポリタンから名画がどどっとやって来たが、圧巻だったのは
ラ・トゥール(1593~1652)の‘女占い師’とカラヴァッジョの‘音
楽家たち’が並んで展示されたこと。METで二つの絵を一緒にみたのは5回
でかけて1回しか経験してないので、エポック的な鑑賞になった。長くみ
ていたのは‘女占い師’のほう。一番右端のしわくちゃだらけの顔をした老婆
が占い師。がらがら声でぽんぽんしゃべり女性のような顔をした若い男の
注意を自分のほうに引こうとしている。そのため可哀そうにこの金持ちの
青年は女スリの手がポケットに入るのが気が付かない。ラ・トゥールには
もう一点忘れられない絵がある。2016年、プラドで開催された大回顧
展で運よくお目にかかった‘楽士たちのいさかい’。左端で夫のヴィエル弾き
がやっつけられているのを心配そうにみている老女の表情がじつにリアル。

オランダのニコラース・マース(1634~1693)の‘レースを編む
老女’にも魅了される。レース編みに精を出す老女が左からの明るい
光によって浮かび上がっている。マースの風俗画は気になるものが多いの
でマウリッツハイス美でこれをみれたのは大きな収穫だった。

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2023.10.28

映画の楽しみ方 ‘グランド・ホテル形式’!

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わが家では三度の食事のほかに音楽を聴くこと、絵画など美術品をみること、
読書、そして、体操、散歩が毎日のルーチンになっている。もちろTVで
ニュースをみたりYouTubeを楽しんでいるがこれは呼吸をしているようなも
のだから、とくに意識するようなことでもない。もうひとつ、こちらは毎日
の楽しみとはなっていないが、気になる映画をDVDでみることはいつも頭
のなかにある。コレクションは今320本。映画鑑賞は読書と同じで少なく
ない時間とエネルギーを要するので、他との兼ね合いのつけかたが悩まし
いところ。買い込んだのにまだ観てないのが65本もある。

ここ2年くらい過去に観たもので好きな映画をもう一度みて、名作の力を
存分に感じている。これに味をしめるとまだ観てないのにタイトルはインプ
ットされている作品にも関心が広がっていく。好きなジャンルたとえば、
刑事ものやサスペンスだったりモノクロの古い映画にも手を出してみたくな
る。期待ほどではなかったな、というのも含まれているが、いい映画にめぐ
りあったという思いを強くする作品も数多くある。‘グランド・ホテル’
(アメリカ 1932年 112分 モノクロ)もそのひとつ。

アカデミー賞の作品賞を受賞しているのは観終わって即納得。ベルリンにあ
る超一流の‘グランド・ホテル’が舞台となり、様々な人物がホテルにつどい
それぞれの人生模様が同時進行で繰り広げられる。高貴な生まれだが、じつ
はギャンブルで身を滅ぼしホテル専門の泥棒に成り下がった男爵。その男爵
に恋する落ち目のロシアバレエ団のプリマドンナ、、、話がいろいろ交錯し
ながら進行するのをみて、これはアガサ・クリスティの‘ナイル殺人事件’と
かパニック映画の‘タワーリングインフェルノ’と同じ形式の脚本ということに
気づいた。こういう形式を‘グランド・ホテル形式’と呼ぶらしい。そうだった
のか!この映画以降、ホテル、空港、駅、災害などのモチーフを元に同じ
手法で映画が製作されるようになった。

この手法は映画にとどまらない。NHKの‘ドキュメント72時間’も同じ発想で
ファミレス、居酒屋などにカメラをずっと固定しやって來る人たちの話をさ
らっと聞き出している。そして、‘駅・空港・街角ピアノ’でも老若男女、腕
自慢のピアニストが気軽に鍵盤をたたき名曲を気持ちよさそうに演奏してい
る。そのあとピアノとのかかわりや好きな曲についてしゃべっている。こう
いう普通の人の行動や話はすごく親しみを覚えるし共感できる。

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2023.10.27

コロー クールベ 風景画の傑作!

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  コローの‘フォンテーヌブローの森’(1864年 ボストン美)

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  ‘モルトフォンテーヌの想い出’(1864年 ルーヴル美)

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 ‘アルルーの風景、道沿いの小川’(1871~74年 ナショナルギャラリー)

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  クールベの‘村の娘たち’(1851~52年 メトロポリタン美)

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   ‘エトルタの断崖、嵐の後’(1870年 オルセー美)

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   ‘シオン城’(1874年 ギュスターヴ・クールベ美)

絵画の一つのジャンルが真に楽しめるようになるには作品の数を多く積み重
ねる必要がある。たとえば、西洋で描かれた風景画についてオランダ、イギ
リス、フランス、イタリアの景色などいろいろ目に入ってくるとそのなかか
ら傑作が浮かび上がってくる。フランスでは印象派のモネ以前の風景画なら
コロー(1796~1875)とクールベ(1819~1877)に心を打
つ絵が多くある。

幸運なめぐりあわせにより、コローは2008年日本の西洋美、クールベは
2007年パリのクラン・パレでともに大規模な回顧展に遭遇した。二人と
もこの特別展をみるまでは画業のほんの一部をみただけなので、一気に
作風に開眼した。コローの作品がたくさん結集したなかでチラシに使われて
いたのが‘モルトフォンテーヌの想い出’。風景をいきいきとしているのはCM
制作の‘ABC理論’でいうとBのBeauty(美人)が描かれているから。そして、
AのAnimal(動物)の牛の姿が添えられているがボストン美蔵の‘フォンテー
ヌブローの森’。CのChild(子ども)は‘モルトフォンテーヌ’には女の子が、
‘アルルーの風景、道沿いの小川’では元気のいい男の子が登場する。

クールベの回顧展で気になっていた‘エトルタの断崖、嵐の後’に出会ったのは
生涯の喜びである。このノルマンディーの奇観をちょうどいい角度でとらえ
る表現力が本当にスゴイ。クールベの風景画家としての才能はまさに一級品。
メトロポリタンにある‘村の娘たち’でもABC理論のA、B、C全部がでてくる。
だから、窪地とごつごつした岩の塊はさらっとみて視線は娘たちと女の子、
犬、牛に向かう。

スイスに住んでいたから‘シオン城’には限りない愛着を覚える。2年前、パナ
ソニック汐留美で開催されたクールベ展にこのシオン城の別ヴァージョン2点
をみたが、やはり故郷にあるクールベ美蔵のものが一番いい。

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2023.10.26

オランダの‘笑い絵’ベスト5!

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   フェルメールの‘士官と笑う女’(1658~59年 フリックコレクション)

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   ハルスの‘ジプシー女’(1628~30年 ルーヴル美)

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   ホントホルストの‘ヴァイオリン弾き’(1626年 マウリッツハイス美)

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   レンブラントの‘笑う自画像’(1662~64年 ヴァルラフ=リヒャルツ美)

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   ヤン・ステーンの‘陽気な家族’(1668年 アムステルダム国立美)

風俗画というとまずブリューゲルとミレーの農民画を思い浮かべ、次にでて
くるのがオランダの画家によって描かれたもの。オランダの作品に目が慣れ
るとどの画家も何点か庶民の笑顔を描いていることに気づく。この‘笑い絵’
はハルス(1582/83~1666)や騒々しい家族図を得意とするヤン・
ステーン(1626~1679)の専売特許かと思いきや、そうでもなく
あの人気の画家、フェルメール(1632~1675)にも数点ある。NY
のフリックコレクションでみた‘士官と笑う女’に魅了され続けている。椅子
に座って士官と向き合っている美形の女性がみせるやさしい笑顔にメロメロ。

笑った瞬間の顔を生き生きと描いたハルスにルーヴルでガツーンとやられた
のが‘ジプシー女’。乱れた長い黒髪や大胆に広く開けられた襟元などからみ
てこの女は娼婦であることは間違いない。明るい表情で愛嬌のある笑いは
性格の良さが現れている感じ。いつも奔放に逞しく生きているのだろう。

カラヴァッジェスキの一人、ホントホルスト(1592~1656)の‘ヴァ
イオリン弾き’にお目にかかったのは2012年に開催された‘マウリッツハ
イス美展’(東京都美)。ハーグではみていないので思わず足がとまった。
こんな若さがはじける笑顔をみせる女性ヴァイオリン弾きをモデルにしてい
たとは。これで知っている有名なオランダ人画家は皆オランダ流’笑い絵’を
制作していたことを確認した。

レンブラント(1606~1669)の‘笑う自画像’をみたのは2002年
に京博で行われた‘大レンブラント展’。日本でこれほど充実したレンブラン
トの回顧展が実現したことは信じられなかった。ケルンの美術館から出品さ
れた晩年の自画像は老人の笑う姿だった。レンブラントがすごく人のいい
老人にみえた。今、この絵をみるとレンブラントに強く感情移入してしまう。
ステーンの‘陽気な家族’はタイトルそのままで老いも若きも笑い、飲み、歌い、
楽しくやっている。

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2023.10.25

袋田の滝!

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    袋田の滝

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 葛飾北斎の‘諸国瀧廻り 下野黒髪山きりふりの滝’(1833年頃 太田記念美)

本日、NHKで正午のニュースのあとに放送された‘にっぽん百低山’を見てい
たら茨城県にある‘袋田の滝’が登場した。今回は昨年12月に酒場詩人の
吉田類さんがゲストの女優と一緒に登った‘月居山’の再放送。見た覚えがあ
るが、名瀑の‘袋田の滝’の感動がもどってこないのでなにかルーチンの作業
をしながらぼやっとみていたのかもしれない。で、あらためてこの滝をいろ
んな角度からみるとどのカットもすばらしい景観で200%惹きこまれた。
出かける時期としてはやはり咲き誇る紅葉とのコラボにより生み出された
絶景がみれる秋がよさそう。

番組が終わったあと、たしか葛飾北斎(1760~1849)の‘諸国瀧廻
り’シリーズの8枚のなかにこの滝があったはずと思った。4段の袋田の滝
のフォルムが‘下野黒髪山きりふりの滝’と似ているため、これが袋田の滝と
むすびついた。しかし、この滝は描かれてなかった。当時は有名でなく
北斎の耳には入ってなかったのだろうか。

さて、袋田の滝観光の実行計画をたてるとなると人気の滝だから大混雑の
ことがまず頭をよぎる。クルマを茨城県の大子町まで走らせるのはしんどい
のでJRで乗り継いで水郡線袋田駅をめざし、そこからバスで滝まで行くの
が時間はかかるが最良の選択かもしれない。町の観光センターに混み具合と
東京駅からの所要時間を聞いてみるつもり。

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2023.10.24

オランダとイギリスの風景画!

Img_0002_20231024224601    フェルメールの‘デルフト眺望’(1659~60年 マウリッツハイス美)

Img_0001_20231024224601    ホッベマの‘ミッデルハルニスの並木道’(1689年 ナショナルギャラリー)

Img_0003_20231024224601  ライスダールの‘漂白場のあるハールレムの風景’(1670~75年 マウリッツハイス美)

Img_0005_20231024224601    コンスタブルの‘干し草車’(1821年 ナショナルギャラリー)

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コンスタブルの‘デダムの谷’(1828年頃 スコットランド国立美)

Img_20231024224701    コンスタブルの‘チェーン桟橋、ブライトン’(1826~27年 テート美)

日本や中国では山水画は古来、絵画の中心的分野だが、西洋で風景画がひと
つの独立したジャンルになったのは17世紀のオランダから。人気の画家、
フェルメール(1632~1675)が描いた‘デルフト眺望’に心底魅了さ
れている。この絵はハーグのマウリッツハイス美にある。2011年ハーグ
とフェルメールの故郷デルフトを訪問できたのは生涯の喜びである。典型的
な邸宅美術館に入館するとまっさきに‘デルフト眺望’をめざした。皆が風景
画の傑作というのは、本当だった!すごく心が鎮まるこの絵と再会したい
が、実現するだろうか。

ライスダール(1628~1682)の‘漂白場のあるハールレムの風景’も
この美術館にあるが、広々としたパノラマ画の地平線に見えるのが画家が生
まれたハールレム。さほど大きくない絵なのにこのフラットさを実感できる
風景に惹きつけられ立ち尽くしてみてしまう。ロンドンのナショナルギャラ
リーが所蔵するホッベマ(1638~1709)の‘ミッデルハルニスの並木
道’はオランダの臨場感あふれる田舎道の遠近法描写が目に焼き付いている。
消失点に向かって誘われているよう。

19世紀に描かれたコンスタブル(1776~1837)の風景画にはオランダの風景画と似た描写がみられる。たとえば、画面の多くを使った空とボリューム感のある雲の表現、そしてはるか遠くをみせる構図のつくり方。1821年に制作された‘干し草車’は2004年に行われた‘イギリス最高の絵画’の人気投票ではターナーの‘戦艦テレメール号’に次ぐ2番目に人気のある絵画に選ばれた。

昨年、国立新美で開催された‘スコットランド国立美展’に出品された‘デダムの谷’は縦長の画面をぎゅーっと横にのばしたらライスダールの絵のようになりそう。ロンドンの南に位置し海に面するブライトンのチェーン桟橋を描いた風景画は大きな画面の効果があって現地にいるようで潮の匂いを感じてしまう。

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2023.10.23

塩野七生さん 文化勲章受章!

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塩野七生(しおのななみ 86歳)さんが今年の文化勲章に選ばれた。
拍手々! 発表のあった20日(金)に文庫本になった‘ギリシャ人の物語2 
民主政の成熟と崩壊’と‘々3 都市国家ギリシャの終焉’を購入したところだ
った。おもしろいことに8月の発売になった‘ギリシャ人の物語1 民主政の
はじまり’を買うためにすぐ本屋に走ったのに、そのあと毎月3回続くのをす
っかり忘れていたからあわてて2冊ゲットしたら、その日に文化勲章受章の
ニュースが入ってきた。最後の‘4’は10/30に手に入ることになっている。
時間をつくって一気に読みたい。

そして、もうひとつ塩野さんとむすびつくことが同じ日にあった。ブックオ
フでお目当ての画家・作曲家のDVDを探していたら、ある映画が目にとま
った。‘ボルジア家’とタイトルのついたTV映画のシリーズものが2つ並んで
いた。ボルジア一族の物語なら血が騒ぐ。‘塩野七生ルネサンス著作集3 
チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷’(2001年 新潮社)をむさ
ぼり読んだから、購入意欲を刺激された。その日はほかのものを買いこんだ
からパスしたが、文化勲章受章をというめでたい話がでてきたので来週あた
りはレジにもっていきそう。

塩野さんの著作は‘ローマ人の物語’をはじめてとして‘わが友マキアヴェッリ 
 フィレンツェ存亡’、‘神の代理人’など主要作品はほとんど読んできた。
古代ローマ&カエサルのことやルネサンス物語は塩野さんに教えてもらっ
たといっても過言でない。だから、作品のなかにでてくる惹かれた文章は
メモに記してある。たとえば、
‘カエサルは一級の合理主義者であり理性の人であった’、
‘カエサルには強い責任感と持続する意識があった’
‘人間の現実を重視したローマ人’
‘人間ならば誰でもすべてがみえるわけではない。多くの人は自分がみたいと
欲する現実しかみていない’

なにかの本に塩野さんはローマに住み‘ローマ人の物語’を書いていたとき、
息抜きに寺院をまわってカラヴァッジョの絵をみていたという話が載ってい
た。カラヴァッジョ好きだった塩野さんとさらに深くつながった。

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2023.10.22

画家・作曲家の伝記映画に心が動く!

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レンブラント物語を深堀りするのに伝記映画‘レンブラント 描かれた人生’
(イギリス 1936年)が大変役立った。これに味をしめ、今ブックオ
フで画家や作曲家の映画DVDをゲットしようと躍起になっている。画家の
映画で‘レンブラント‘のほかに手元にあるのはチャールトン・ヘストンが
ミケランジェロを演じた‘華麗なる激情’のみ。このミケランジェロ物語は昔
レンタルでもみたことがあり、DVDをなんとかコレクションしたいと思っ
ていた。ところが、探せどなかなか遭遇しないのでレアものかなと、諦め
ていた。あるとき、‘華麗なる激情’が目にとまり手に取ったら、これがずっ
と求めていたものだった!タイトルにミケランジェロの名前がついている
と勝手にインプットしたので、長い時間がかかってしまった。

今、気持ちをこめて探しているのは
☆ゴッホの‘炎の人’(アメリカ 1956年)
☆モディリアーニの‘モンパルナスの灯’(フランス 1958年)
☆‘カラヴァッジョ 天才画家の光と影’(イタリアなど4ヶ国合作 2007年)

カーク・ダグラスがゴッホ役になった‘炎の人’は以前みたことがあるが、
レンブラントの例があるので、気づかない情報にふれられることを期待して
手に入れたくなった。店に出てくるだろうか?同じく古い映画、‘モンパル
ナスの灯’はレンブラントを買う前はみたことがあったが、まあ、これはい
いかと、レジにもっていかなかった。2007年銀座テアトルシネマでみた
‘カラヴァッジョ’についても同じでパスしていた。でも、気が変わった。

クラシック音楽の作曲家ではモーツァルト物語の‘アマデウス’(1984年)
をときどき聴いている。アカデミー賞8部門受賞した作品だから作曲家の
伝記映画としては群を抜く一級の作品である。また、昨日は1974年に
製作された‘マーラー’を購入した。これは今まで見たことなかったDVDだが、
マーラー狂だから見逃すわけにはいかない。どんなマーラー像になるのだろ
うか、興味津々である。

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2023.10.21

作業がはかどるクラシック音楽!

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お気に入り映画のDVD集めがおおよそ完了したのと歩調を合わせるように
クラシック音楽やオペラのCDについても充実したコレクションができつつ
ある。そのお陰でわが家では以前とはちがって生活のリズムが名曲の旋律
によって快適に流れていくようになった。たとえば、朝食時には必ずCDを
聴いているし、展覧会の図録の整理や好きな画家の美術本つくりに精をだ
しているときは同じCDが繰り替えし流れている。

前々からYouTubeで1時間以上も続く‘作業用〇〇音楽‘を聴きながら水泳の
後の体をリラックスさせたり本を読んでいるが、実際にクラシックのCDを
流しながらルーチンの作業をすると長時間にわたってもそれが続けられる
ことわかってきた。そして、どんな曲が適しているかも気が付いた。複数
の図録を1,2冊にまとめる際はダブっている絵画の図版を1点にしほか
はどんどんカットしていき、その空いたところに必要な情報をぺたぺた貼
っていく。この編集作業は結構時間がかかる。だから、流している曲が終
わるとまた再生し手がとまらないようにしている。

クラシックのジャンルとしては交響曲は音量が大きいので作業用には適さ
ない。聴いてて作業効率がいいのは組曲とかピアノやヴァイオリン、チェ
ロのソロ、そして協奏曲。お気に入りをいくつかあげてみると、
☆ヘンデルの‘水上の音楽’、‘王宮の花火の音楽’
☆モーツァルトの‘オーボエ四重奏曲へ長調K.370’
☆モーツァルトの‘オーボエ五重奏曲ハ短調K.406’
☆モーツァルトの‘フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299’
☆モーツァルトの‘クラリネット協奏曲イ長調K.622’
☆サティの‘3つのジムノペディ’ほか

クラシックCDを揃えだして、大きな収穫だったのがヘンデルの‘水上の音楽’。
いつもいい気持になっている。また、モーツァルトのオーボエ、フルート&
ハープ、クラリネットは心が軽くなる天上の音楽の感じで耳に心地いい。
だから、単純な作業が長く続けられる。気になっていたサティはちょっと
抽象的な曲想のところがあるがあのゆったり流れる音のつながりがいい。

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2023.10.20

日本画・洋画 女の子の絵ベスト10!

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   岸田劉生の‘麗子微笑’(重文 1921年 東博)

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   黒田清輝の‘もるる日影’(1914年)

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   中村つねの‘少女裸像’(1914年 愛知県美)

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   安井曾太郎の‘孫’(1950年 大原美)

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   会田誠の‘あぜ道’(1991年 豊田市美)

今年開催された展覧会のまとめをするのはまだ早いが、西洋美術、日本美術
ともに記憶に残るいい特別展がバランスよく組み合わさった印象を受ける。
日本美術では春に東近美であった‘重要文化財の秘密’は一大イベントの様相を
呈していた。そして秋は日本美術の決定版ともいえる‘やまと絵展’が10/11
から東博ではじまった(12/3まで)。有名な‘源氏物語絵巻’など国宝が続々
登場するからわくわくする。

‘重要文化財の秘密’は明治以降の絵画・彫刻・工芸に燦然と輝く名画、名品が
ずらっと並ぶまさにオールスター日本美術展だった。実質的には国宝展をみ
たのと同じ。ここで久しぶりに岸田劉生(1891~1929)の‘麗子微笑’
と対面した。岸田劉生と青木繁がスゴイなと思うのはヨーロッパへ行ってな
いのに西洋絵画を深く吸収して、独自の表現を生み出したこと。‘麗子微笑’は
ダ・ヴィンチの‘モナ・リザ’が重なってくるし、その写実的な細密描写はデュ
ーラーの作風を彷彿とさせる。

黒田清輝(1866~1924)の主要作品となっている女の子の絵‘もるる
日影’はぱっとみると印象派のルノワールの描き方を思わせる。じっとこちら
をみつめる表情がなかなかいい。中村つね(1887~1924)がパトロン
の相馬夫妻の娘を描いた肖像画は3点お目にかかった。中村屋蔵は衣服を着
ているが、愛知県美と横須賀美のものは裸像。名古屋にいるときみた‘少女裸
像’はリンゴのよう赤い頬が目に焼きついている。

男性の肖像画や中国服を着た日本の女性を描いた‘金蓉’で知られる安井曾太郎
(1888~1955)には子どもの絵でも大変惹かれる作品がある。それ
は大原美が所蔵する‘孫’。はじめてみたとき顔も服も白一色だったので、舞妓
さんとかサーカスのピエロを思い浮かべた。色彩のもっている力の強さは
マティの色彩の革命をイメージさせる。
新潟出身の会田誠(1965~)は3歳年上の村上隆ほど前のめりになって
いるわけではないが、‘あぜ道’には200%KOされている。セーラー服を着た
女の子の髪の分け方とあぜ道をダブルイメージで表現する発想は並みのアーテ
ィストからは生まれてこない。日本にあるシュルレアリズム絵画ではこれが
No.1と思っている。

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2023.10.19

日本画・洋画 女の子の絵ベスト10!

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    安田靫彦の‘菊慈童’(1939年 五島美)

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    小林古径の‘琴’(1927年 京近美)

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    島成園の‘祭りのよそおい’(1913年 大阪中之島美)

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    菊池契月の‘少女’(1932年 京都市美)

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    小倉遊亀の‘蛇の目草をもつ少女’(1968年 ウッドワン美)

今年は東京ステーションギャラリーで2度大きな満足がえられる展覧会に出
会った。4月にあった‘大阪の日本画’と7月の‘甲斐荘楠音の全貌’。昨年、
大阪中之島美に足を運び‘モディリア-二展’を楽しんだとき、大阪で活躍した
日本画家たちにスポットを当てた特別展が行われることを知ったが、東京に
も巡回するというので期待していた。果たして、期待を倍くらい上回る充実
したラインナップだった。そのなかにとても惹かれた童画があった。はじめ
てお目にかかった島成園(1892~1957)の‘祭りのよそおい’。右にい
る女の子は祭りといっても左の3人の着飾った子にくらべると見劣りする装
いをしている。こういう生活環境が違う子どもたちを一緒に描くこの画家の
表現姿勢に感心した。

安田靫彦(1884~1978)の‘菊慈童’はほかの画家、たとえば横山大観
や菱田春草らも描いているが印象に強く残っているのは右にみられ菊の花がわ
かり易い構図になっているこの絵。そして、小林古径(1883~1957)
の‘琴’は仏さんを連想させる静寂さと少女の安定した三角形構図が目に焼き付
いている。モデルは古径の娘。

日本画家の名画がずらっと並んだ美術本がよくみているが、まだ回顧展に遭遇
してない画家は何人もいる。大観のように何度も特別展が開かれる画家がいる
一方で、体験したのが一回にとどまっている画家もいる。そのひとりが
菊池契月(1879~1955)。この一回組は時が経って振り返ると、回顧
展がみれたのは本当に運が良かったなと思う。契月で嬉しかったのは‘少女’に会
えたこと。とくに惹かれているのが足を投げだして床にすわり両手を立てた膝
の下のところに置くポーズ。こういうくだけた姿は親近感を覚える。

小倉遊亀(1895~2000)の‘蛇の目草をもつ少女’は日本画家が描く人物
表現からはだいぶ違っている。小倉遊亀はマティスやピカソの影響をうけてい
るので、こんないい絵が描ける。洋画家でもマティス的な表現でこれほど上手
く描いたものはいない。すばらしい!

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2023.10.18

西洋絵画 女の子の絵ベスト10!

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 ホイッスラーの‘シシリー・アレキサンダー嬢’(1872~74年 テート・ブリテン )

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  カサットの‘青いひじ掛け椅子の少女’(1878年 ワシントン国立美)

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  ルノワールの‘すわるジョルジェット・シャルパンテイエ嬢’(1876年 アーティゾン美)

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   ムンクの‘思春期’(1894~95年 オスロ国立美)

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   バルテュスの‘目を覚ましたテレーズ’(1938年 メトロポリタン美)

本籍地アメリカ、現住所イギリスの画家、ホイッスラー(1834~
1903)は東京都美で1998年に開催された‘テート・ギャラリー展’が
きっかけとなりつきあいがはじまった。ここに出品された‘シシリー・アレ
キサンダー嬢:灰と緑のハーモニー’は今でも鮮明に記憶が残っている。モデ
ルの女の子は美術収集家で銀行家の8歳の娘。少女のまわりには菊の花があ
り蝶々が舞っているので演出はまるで日本画のよう。でも、当時はそこまで
関心がいかず、視線は美形のシシリーに集中。じっとみているとこの子は機
嫌がよくない感じでふくれ面をしている。図録を読むとその理由がわかった。
少女は70回もポーズをとらされ、もう我慢の限界にきていて泣きながら立
ち続けたらしい。

幼い子を描くのは大変なことは容易に理解できる。最初はじっとしているが、
だんだん飽きてきたり退屈になって落ち着きが亡くなる。それをあの手この
手で気をひかせ自然なポーズを続けさせる。画家も苦労が多い。カサット
(1844~1926)の‘青いひじ掛け椅子の少女’は女の子がだいぶ疲れて
きたようで心のバランスが崩れ、目の覚める青のひじ掛け椅子の前に足を投げ
出しちゃんと座っていない。でも、このありのままの姿が逆に見る者の気持ち
をこの子に向かわせる。

JR東京駅八重洲側から数分で到着するアーティゾン美にルノワール(1841
~1919)のとてもいい絵がある。それは特別展をみたあと通常展示を楽し
んでいると思わず足がとまる‘すわるジョルジョット・シャルパンティエ嬢’。
この子はルノワールのパトロンだったシャルパンティエ夫妻の長女で当時6歳。
足を組むポーズが様になっているのだから本物のお嬢ちゃん。日本でこんな
輝く女の子が見れるのだから幸せである。

オスロ国立美で念願のムンク(1863~1944)をみたのは2018年
の春。念願の‘叫び’と‘思春期’に遭遇し長年の思いの丈を叶えた。‘思春期’の裸
の少女に目力の強さを感じた。図版ではこれを意識しなかったが、本物の前で
じっとみられると緊張する。同じことがバルテュス(1908~2001)
の‘目を覚ましたテレーズ’にもいえる。大人のまなざしが半分入っている。

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2023.10.17

西洋絵画 女の子の絵ベスト10!

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   フォルリの‘リュートを弾く天使’(1480年頃 ヴァチカン絵画館)

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   ルーベンスの‘少女の肖像’(1615~16年 リヒテンシュタイン公家コレクション)

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   ベラスケスの‘ラス・メニーナス’(1656年 プラド美)

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   フラゴナールの‘読書する娘’(1775年頃 ワシントン国立美)

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   ミレイの‘初めての説教’(1863年 ギルドホール・アートギャラリー)

西洋絵画で多くの人に愛される傑作を一点でも多くみたいと強く思うように
なったころ、海外にある有名な美術館のどこを訪問するかをおおよそ決めた。
ターゲットにしたのはやはり大きな美術館、ルーヴル、プラド、ウフィッツ
ィ、エルミタージュ、メトロポリタン、ナショナルギャラリー。このなかで
女の子の絵ベスト10!に入ったのはプラド。ご存じ、ベラスケス
(1599~1660)の‘ラス・メニーナス(女官たち)’、マドリードで
プラドは定番の名所観光スポットだから、5歳の王女マルガリータが描かれ
たこの絵をみたことは一生の思い出になる。

ヨーロッパの美術館に出かけたとき、情報がまったくない絵に遭遇しびっく
り仰天することがある。たとえば、メロッツォ・ダ・フォルリ(1438~
1494)が描いたフレスコ画‘リュートを弾く天使’。これが飾ってあったの
はローマのヴァチカン絵画館。大好きなラファエロの‘椅子の聖母’のおよそ
30年くらい前に街のどこかで出会いそうな可愛い女の子が清々しい天使の
モデルになっていたとは。フォルリ、恐るべし!

ロココの画家、フラゴナール(1732~1806)の‘読書する娘’にお目
にかかったのはワシントンのナショナルギャラリー。この画家の作品情報は
多くなく、NHKの日曜美術館で幾度かロココに焦点があたったとき、フラゴ
ナールの作品にこの絵が含まれてなかった。そのため、絵の存在を美術本で
知ったのはアメリカの美術館めぐりでワシントンに行った2008年の2年
前。期待で胸をふくらませて入館したのに、なんと、展示室の改築でクロー
ズ。なんという不運、リカバリーが叶ったのは5年後。明るい黄色の服を着
た少女の横顔を目に焼き付けた。18世紀に描かれているのに、古さを
感じさせないところが本当にすごい。それを生み出しているのが大胆な筆の
タッチとリズム感、色彩の美しさ。フラゴナールに乾杯!

日本で運よくお目にかかったルーベンス(1577~1640)の‘少女の肖
像’は有名なリヒテンシュタイン公家のコレクションの一枚。画面いっぱいに
正面向きに描かれている女の子はルーベンスの娘、5歳のクララ=セレーナ。
小品だが忘れられない絵になった。ミレイ(1829~1896)の‘初めて
の説教’はBunakmuraであった回顧展(2008年)に出品された。代表作
‘オフィーリア’で知られるミレイだが、子どもの絵は得意中の得意。この女の
子はミレイの長女で5歳。じつに可愛い。

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2023.10.16

日本画・洋画 男の子の絵ベスト10!

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   土田麦僊の‘罰’(1908年 京近美)

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   竹久夢二の‘かげやとうろくじん’(1912年 竹久夢二美)

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   山下新太郎の‘端午’(1915年 アーティゾン美)

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   小出楢重の‘子供立像’(1923年 山種美)

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   関根正二の‘子供’(1919年 アーティゾン美)

大人でも子供でも見る者の心をとらえる肖像画を描くのは大変難しい。だか
ら、思わず立ち止まるような絵にでくわすと一生忘れられない。土田麦僊
(1887~1936)の回顧展が1997年東近美で開催されたとき、
そんな絵と遭遇した。‘罰’と名前がついているのは3人の子供は学校に遅刻
したのか先生に叱られその罰として廊下に立たされているから。小さい頃
、学校ではこういう光景はよくみられた。女の子、二人の男の子にはそれ
ぞれの理由があったのだろう。女の子は前掛けで顔を覆いしくしくと泣い
ている。視線が向かうのはこの子ではなく、右の男の子。悪ガキっぽい表情
がじつにいい。‘今日は気が重くて学校へ行くいのが嫌だったんだよ、それで
のろのろ足になったのさ、早く教室の中に入りたいよ’。その気持ちはよく
わかる。

竹久夢二(1884~1934)とのつきあいは2003年、尾道美で行
われた回顧展からはじまった。後から振り返るとこれは主要作品が集まっ
た一級の夢二展だった。そのなかにとてもいい童画があった。‘かげやとう
ろくじん’の色彩表現に目が点になった。背後の月に照らされてできる男の
子の影がなんと青で描かれている!これをみたらマティスは裸足で逃げるか
もしれない。

洋画家の描いた子供の絵で深く胸に刻まれているのが3点ある。山下新太郎
(1881~1966)は絵画鑑賞が趣味になり本格的に美術館に通うよう
になってから知った画家。西洋の女性を描いた作品をみた瞬間、これは好き
になりそうと思った。アーティゾン美にその一枚‘読書’があるが、ここは
もう一点いいのをもっている。1915年の制作された‘端午’。可愛い!
そして、大阪出身の小出楢重(1887~1931)の‘子供立像’にも魅了
されている。このくらいの年の男の子の絵では岸田劉生の作品が印象に残って
いたが、この子に出会ってからは関心にぶれがなくなった。

関根正二(1899~1919)の‘子供’もアーティゾン美の所蔵。NHKの
日曜美術館にこの絵が登場したとき、関根の朱色、バーミリオンの輝きに
仰天した。背景の薄青に少年の頭の髪から顔、そして着ている服までみん
な朱色で表現されている。この絵がきっかけとなり関根正二という画家が気
になる存在になった。福島県美へ出かけ関根の作品を自画像など7点みれた
のもいい思い出になっている。

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2023.10.15

日本画・洋画 男の子の絵ベスト10!

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   横山大観の‘無我’(1897年 東博)

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   上村松園の‘母子’(重文 1934年 東近美)

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   鏑木清方の‘汐路のゆきかひ’(1959年 茨城県近美)

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   小杉放菴の‘金時遊行’(1937年頃 出光美)

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   安田靫彦の‘森蘭丸’(1969年 ウッドワン美)

西洋画には肖像画の長い歴史があるから、惹かれる子ども画を思いめぐらせ
るといろいろでてくる。そのためどれに絞り込むかはちょっと時間がかかる。
これに対し、日本で西洋画的な肖像画が登場するのは江戸の後半からなので、
心に刻まれた男の子の絵は割とすぐ思い浮かぶ。たとえば、横山大観
(1868~1958)は‘無我’ですぐ決まり。老子の説く‘無’の思想に着想
しているが、子どもの純真さに託している。

上村松園(1875~1949)の描いた‘母子’をみるといつもラファエロの
聖母子像が重なる。母親が優しい眼差しでみつめる腕の中の男の幼子は顔を
みせないが、きっと可愛い子にちがいない。松園と同じく美人画を得意とする
鏑木清方(1878~1972)は東京下町の生活風俗をたくさん描いている
が、‘汐路のゆきかひ’では男の子たちが竹竿で蝙蝠を追うところをとらえてい
る。その横を女の子たちは手をつないで歌を歌いながら対岸に向かっている。

大観と交流のあった小杉放菴(1881~1964)は‘金時遊行’で明るくて
元気いっぱい金太郎を描いている。別ヴァージョンで鉞を担いで熊にまたが
る金太郎もあるが、笑顔がとってもいいこの絵にもっとも惹かれている。
浮世絵師歌川国芳と放菴に金太郎を描かせたら右に出る者はいない。

安田靫彦(1884~1934)の歴史画には織田信長の‘出陣の舞’
(1970年 山種美)があるが、その一年目に描かれたのが信長の小姓をつ
とめる‘森蘭丸’。女の子のような美少年の蘭丸をみていると黒澤明監督の‘影武
者’に登場した信長、蘭丸を思い出す。二人ともカッコ良かった。

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2023.10.14

西洋絵画 男の子の絵ベスト10!

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   ムリリョの‘犬と少年’(1650年代 エルミタージュ美)

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  ゴヤの‘マヌエル・オソーリオ・デ・スーニガ’(1788年 メトロポリタン美)

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   マネの‘笛を吹く少年’(1866年 オルセー美)

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   セザンヌの‘赤いチョッキの少年’(1888~90年 ビュールレ・コレクション)

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   ピカソの‘アルルカン姿のパウロ’(1924年 パリ・ピカソ美)

いい絵にめぐりあい感動するときは二つのケースがある。ひとつは絵画鑑賞
への思い入れが普通だったころに学校の授業や美術本でみた有名な絵に美術
館や展覧会でお目にかかったとき。二つめは画家の名前を知らなかったり
情報がすくない頃に心を揺るがす作品に出会いその画家にいっぺんで嵌って
しまう場合。1999年に訪問したエルミタージュ美でみたムリリョ
(1618~1682)の‘犬と少年’は後者のケース。ムリリョが生まれた
セビリアには親がいなくて家もない貧しい子どもが路上で暮らしていた。そ
んな環境でも男の子は明るさを失わず笑って犬と戯れている。‘絵は人なり‘で
弱い者に寄り添うムリリョの優しい心根がでている。

NYのメトロポリタン美はこれまで運よく5回訪問することができたが、
2008年に出かけたときゴヤ(1746~1828)のすばらしい絵に
遭遇した。真紅の服を着た可愛すぎる男の子を描いた‘マヌエル・オソーリオ
・デ・スーニガ’。あの有名な絵‘裸のマハ’で知られるゴヤにこんな純真無垢
なイメージの子ども画があったとは!ゴヤを見る目がいっぺんに変わった。

マネ(1832~1883)の‘笛を吹く少年’とセザンヌ
(1839~1906)の‘赤いチョッキの少年’は画家の代表作のひとつとし
て高校生の頃からインプットされているから、実際に本物と対面したときは
興奮した。これが美術の教科書に載っていた名画か、という感じ。‘笛を吹く
少年’は1988年西洋美で開催された‘ジャポニスム展’に登場した。そして、
‘赤いチョッキの少年’は5年前、‘ビュールレ・コレクション展’(国立新美)
で漸く長年の夢が叶った。美術とのつきあいはつくづく長期戦だなと思う。
長生きした者に極上の楽しみがもたらされる。

ピカソ(1881~1973)にもいい絵がある。3歳の息子パウロへの
父性愛にあふれた‘アルルカン姿のパウロ’。アルルカンはイタリアの芝居に登
場する道化師のこと。ピカソは‘泣く女’のように激しい感情をキュビスムで
表現する作品もあるが作風はいろいろ変化する。この絵は古典主義様式なの
でリラックスしてみられる。

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2023.10.13

西洋絵画 男の子の絵ベスト10!

Img_0004_20231013225801     ラファエロの‘椅子の聖母’(1513~14年 ピッティ美)

Img_0001_20231013225501    カラヴァッジョの‘勝ち誇るアモール’(1601年頃 ベルリン国立絵画館)

Img_20231013225501     ベラスケスの‘皇太子バルタサール・カルロスの騎馬像’(1634~35年 プラド美)

Img_0003_20231013225501     ハルスの‘笑う少年’(1625年頃 マウリッツハイス美)

Img_0002_20231013225801     レンブラントの‘机の前のティトゥス’(1655年 ボイマンス・ファン・ブーニンゲン美)

昨年の5/24からはじめた‘美術で最高の瞬間!’のパートⅡ・日本美術が
終わったので、また新たな切り口で国内外の名画・名品の数々と対面して
みたい。作品の深堀りや作家の独自性や先行者との類似性の比較分析など
多様な鑑賞ポイントをいろいろ検討している。そのひとつが‘〇〇ベスト5
あるいは10!’。スタートは西洋絵画のなかで感激度がとくに大きかった
男の子の絵を10点選んでみた。まず5点、画家の生まれた順番で上から
並んでいる。

ラファエロ(1483~1520)の‘椅子の聖母’をフィレンツェのピッテ
ィ宮殿でみたときは天にも昇るような気分だった。この絵を図版でみた頃
は名前は‘小椅子の聖母’となっていた。宗教画らしくないので絵の中にすっと入っていけた。日常生活のなかで優しいお母さんと可愛い男の幼子と出会ったような感じである。宮殿には‘大公の聖母’が同じ部屋に飾ってあるが、これは何年か前日本にやって来た。‘椅子の聖母’も日本で再会したいが、実現の可能性はなさそう。

レンブラント(1606~1669)同様、作品をコンプリートしたいと
強く願っているカラヴァッジョ(1571~1610)は少年を何点の描
いている。お気に入りはベルリンにある‘勝ち誇るアモール’。2010年
ローマで開催された大カラヴァッジョ展で運よくお目にかかることができ
た。肌の質感描写に目が点になり、明るい笑顔が心をとらえて離さない。

カラヴァッジョからも影響をうけたベラスケス(1599~1660)は5,6年前日本で披露された‘皇太子バルタサール・カルロス騎馬像’がすばらしい。宮廷画家らしく脚色もして堂々たる皇太子の姿を描いている。人物の笑顔を描かせたら右に出る者がいないのがオランダの画家ハルス(1580~1666)。ハーグのマウリッツハイス美が所蔵する‘笑う少年’によってハルスの画風のイメージができあがっている。レンブラントは‘机の前のティトゥス’に大変惹かれている。この整った顔立ちをみると、なぜか女優の安達祐実の子役時代を思い出す。

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2023.10.12

レンブラント 神話画・歴史画ベスト5!

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   ‘アリストテレス’(1653年 メトロポリタン美)

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   ‘イサクとリベカ’(1663~65年 アムステルダム国立美)

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   ‘ダナエ’(1636年頃 エルミタージュ美)

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   ‘ペルシャザルの酒宴’(1635年頃 ナショナルギャラリー)

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   ‘ルクレツィアの自決’(1664年 ワシントン国立美)

レンブラントの人物表現はキリスト教や神話の場面を描いた物語画や歴史上
の人物や話をとりあげた作品でも肖像画と変わりがない。登場する人物に対
し近づき安さを感じ、絵画をみているというより人に会ったような印象があ
る。NYにメトロポリタンにある‘アリストテレス’は今まさに古代の世界に足
を踏み入れた気分になる。大詩人ホメロスの胸像に手を載せて瞑想にふける
アリストテレスの心の深層がじわーっと伝わってくる。

アムステルダム国立美が開館したのは1885年のこと。その年ゴッホは
‘イサクとリベカ’と出会い、‘一切れのパンとともにこの絵の前で2週間座っ
ていられるなら、僕の人生の10年を棒に振ってもいい’と言ったという。
圧倒的な表現に32歳のゴッホは震え衝撃を受けた。目が点になるのがイサ
クの黄金の袖の部分の絵の具の厚みが尋常ではないこと。まるで彫刻の浮彫
り。そこに強い光があたり発光体のように輝いている。最晩年にこんな傑作
を描くのだから、レンブラントは本当にスゴイ画家である。

有名な絵画が盗まれたり傷つけられたりすることがある。1985年6月15
日、エルミタージュ美で大事件が起きた。レンブラントの‘ダナエ’が48歳の
リトアニア人に切りつけられ無残にも硫酸まで浴びせられ絵の30%が破壊さ
れた。この話を知っているので念願のエルミタージュではこの絵を必見リスト
の最上位に記していた。描かれているの変身の術を得意とするゼウスが光にな
ってダナエと合体する場面。ティツィアーノもダナエを描いているが、レンブ
ラントのほうに軍配が上がる。

レンブラントは人があらわにする感情をストレートに表現するのが天才的に上
手い。ロンドンのナショナルギャラリーにある‘ペルシャザルの酒宴’にお目に
かかったとき、視線が集中したのが左でびっくり眼をしている女性。‘神様は
怒っておられるのだ、これは大変なことになった!’、一方、‘ルクレツィアの
自決’は専制的なローマ王の息子のセクストゥスに凌辱をうけ、自害する直前の
決意の瞬間をとらえている。

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2023.10.11

レンブラント 肖像画ベスト5!

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    ‘ニコラース・ルッツの肖像’(1631年 フリックコレクション)

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    ‘布地組合の見本鑑査官たち’(1662年 アムステルダム国立美)

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    ‘修道士に扮するティトゥス’(1662年 アムステルダム国立美)

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    ‘マリア・トリップの肖像’(1639年 アムステルダム国立美)

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   ‘マルハレーテ・デ・ヘールの肖像’(1661年 ナショナルギャラリー)

NYにあるフリックコレクションは人気の画家、フェルメールを3点所蔵し
ているから、フェルメールファンにとっては是非とも足を運びたい邸宅美
術館かもしれない。ここがすごいのはレンブラントもいいのを3点所蔵し
ていること。堂々とした自画像と‘ポーランドの騎手’、そしてアムステルダ
ムで活躍した商人ニコラース・ルッツの肖像。まるで人物の息吹を感じさ
せる見事な肖像画である。この商人につい‘儲かってますか?’と声をかけた
くなる。

アムステルダム国立美をこれまで運よく3度縁があった。2011年に
訪問したときはレンブラントは全部で12点飾ってあった。お目当ての
‘夜警’で感動の袋は大きく膨らむが、ほかにも傑作が次々でてくるからさら
に感動の量が増え、もう袋が破れそうになる。その一枚が集団肖像画の
‘布地組合の見本鑑査官たち’。人物の配置が絶妙でもっとも気になるのが
左からふたり目の鑑査官で、立ち上がろうとして腰を浮かせている。誰か
が来たのだろうか。映画のワンシーンをみているよう。こういうさりげな
い瞬間をドラマのようにみせるのがレンブラント流。

レンブラントが描いた息子の絵は3点お目にかかったが、‘修道士に扮する
ティトゥス’は映画監督レンブラントが息子を俳優にして修道士物語を撮っ
ているようなもの。ティトゥスはなかなかのイケメンだから、いい作品に
仕上がっている。これとみるといつもションコネリーが主演した映画‘薔薇
の名前’を思い出す。

女性の肖像画ではひときわ目を引くレースの細密描写が印象深い‘マリア・
トリップの肖像’が忘れられない。こんなに感動する女性の肖像画はそうは
ない。そして、ロンドンのナショナルギャラリーにある年老いた‘マルハレ
ーテ・デ・ヘールの肖像’にも惹きこまれる。なかなか会えなかったが、
2016年日本であった特別展で遭遇した。

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2023.10.10

レンブラント 自画像ベスト5!

Img_0004_20231010224601     

‘大きな自画像’(1652年 ウィーン美術史美)

Img_20231010224601     ‘52歳の自画像’(1658年 フリックコレクション)

Img_0002_20231010224601     ‘使徒パウロに扮した自画像’(1661年 アムステルダム国立美)

Img_0001_20231010224701     ‘パレットを持つ自画像’(1665年頃 ケンウッドハウス)

Img_0003_20231010224701     ‘自画像’(1669年 マウリッツハイス美)

拙ブログでとりあげる肖像画は大半が女性を描いたもので、男性の肖像画は
多くない。女性画をみるのが絵画鑑賞の一番の楽しみだから、これからもこ
のパターンが続く。でも、レンブラント(1606~1669)は例外扱い
となっており、女性、男性どちらも同じくらい魅了されている。

レンブラントの絵ですぐ思い浮かぶのは代表作の‘夜警’と自画像。生涯に
100点以上の自画像を描いたといわれるが、これほど一貫して自分を描く
ことに執着した画家はほかにいない。これまでお目にかかった作品の中か
らとくに惹かれているものを5点選んでみた。絞りこんだので順位はつけよ
うがないため、描かれた順番に並んでいる。

ウィーン美術史美でみた‘大きな自画像’はレンブラントが46歳のときのもの。
経済的困難がはじまった時期に描かれているが、画家としては働き盛り
の頃で両手を腰にあて質素なアトリエ用の上着を着た自画像を描いている。
これと同様に厳しい表情をしているのがロンドンのケンウッドハウスにあ
る‘パレットを持つ自画像’。このときレンブラントは59歳。2010年
ロンドンを旅行したとき、隣の方は皆さんと名所観光にでかけたが、この絵
がどうしてもみたくて自由行動を選択し喜び勇んで邸宅美術館をめざした。
若い頃ロンドンに3ヶ月住んでいたので地下鉄ノーザンラインには慣れてい
る。圧倒的な存在感のある自画像に遭遇したのは生涯の思い出である。

ニューヨークのフリックコレクションが所蔵する‘52歳の自画像’ではレン
ブラントは豪華な衣裳を身に着けた王様のような姿に変身している。立ち
尽くしてみていた。そして、とても親しみの湧く‘使徒パウロに扮した自画
像’も傑作。レンブラントライトにより額のあたりは光が強く描かれている。
そして、亡くなった年に描かれた63歳の自画像もぐっとくる。2012年
の‘マウリッツハイス美展’(東京都美)に出品されたので目に焼き付いている。
内面が深く表現されており、本当にすばらしい自画像である!

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2023.10.09

レンブラントと三人の女性たち!

Img_20231009224801    ‘フローラに扮したサスキア’(1634年 エルミタージュ美)

Img_0001_20231009224801    ‘サスキアを膝に載せた自画像’(1635年頃 ドレスデン国立絵画館)

Img_0003_20231009224801    ‘水浴する女’(1654年 ナショナルギャラリー)

Img_0005_20231009224801    ‘ヘンドリッケ・ストッフェルス’(1652年頃 ルーヴル美)

Img_0002_20231009224801    

‘ベッドに横たわる女’(1645年頃 スコットランド国立美)

レンブラント(1606~1669)に関わる大きなイベントは4回あった。
その最大なものはアムステルダム国立美でみた代表作‘夜警’、京博で運よく巡
り合った‘目をつぶされるサムソン’。そして、エルミタージュにある有名な
レンブラントコレクションがみれたこと。そのなかで目を奪われたのが‘フロ
ーラに扮するサスキア’。最愛の妻、サスキアを描いたものではドレスデン
国立絵画館で遭遇した‘サスキアを膝に載せた自画像’も一生の思い出である。

映画‘レンブラント 描かれた人生’には‘夜警’が完成する前に30歳で亡くなっ
たサスキアはレンブラントが‘彼女は元気だよ’と皆に言うだけで顔を見せない。
登場するのは‘夜警’を描き上げたあと暗転するレンブラントの人生にあって
息子のティトゥスを献身的に養育してくれたヘールチェと新たに入って来た
若い家政婦ヘンドリッケ。

昨年、国立新美で開催された‘スコットランド国立美名品展‘に出品された‘ベッ
ドに横たわる女’のモデルがヘールチェ。映画での演技をみながらこの女性が嫉妬にくるいレンブラントを婚約不履行で訴え破産に追い込んだ一因をつくったといわれるヘールチェかと、思った。

ヘンドリッケが絵のモデルとなった作品で有名なのがロンドンのナショナルギャラリーが所蔵する‘水浴する女’とルーヴルにある‘バテシバ’。ルーヴルにはヘンドリッケの肖像画もある。この絵はパリでみた覚えがないが、2011年西洋美で行われた‘レンブラント 光の探求/闇の誘惑’でお目にかかった。健康的な明るい女性である。1654年、ヘンドリッケがレンブラントと暮らしはじめて5年になったとき、教会会議に召喚され、未婚での同居生活のために譴責され教会の儀式の一部から追放された。大変な苦労を強いられたが、ヘンドリッケはレンブラントの創作活動を気丈に支えた。映画をみたのでレンブラントの描いた女性につい感情移入してしまう。

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2023.10.08

映画‘サムソンとデリラ’!

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Img_20231008222901    レンブラントの‘目をつぶされるサムソン’(1636年 シュテーデル美)

Img_0002_20231008222901  カラヴァッジョの‘聖マタイの殉教’(1600年 サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂)

Img_0001_20231008222901    レンブラントの‘サムソンの婚宴’(1638年 ドレスデン国立絵画館)

わが家の映画DVDコレクションは終局に近づいており、今後は好きな映画
を繰り返し観て楽しむステージへと入っていく。現在、集まった映画は
全部で320本、西部劇、戦争映画、神話・歴史劇、伝記映画、サスペン
ス、ミュージカル、コメディ、ラヴ・ロマンス、、いろいろ揃った。昨日、
‘レンブラント 描かれた人生’を紹介したが、レンブラント関連の映画を
つい最近もう1本観た。

それは1949年アメリカで製作された‘サムソンとデリラ’(126分 
カラー)。一度観た覚えがあるが、どんなストーリーだったか全く覚えて
いないので、とてもおもしろかった。この映画をどうしても手に入れたい
と思ったのはレンブラント(1606~1669)の‘目をつぶされるサム
ソン’を2002年京博で開催された‘大レンブラント展’でみたから。

この絵に運よく遭遇したのは生涯の思い出である。だから、‘士師記’にでて
くる怪力のサムソンがデリラに裏切られてその力の象徴となっている髪の
毛を切られた上目をつぶされるという物語をもっと詳しく知りたい。それにはこの映画を観るのが一番いい。サムソンを演じたいかにも映画俳優という感じの美男ヴィクター・マチュアはヘンリー・フォンダ主演の‘荒野の決闘’にも医者くずれの役で出演していたから、前のめりになった楽しんだ。お陰でサムソンに怪力がどうやって備わったかがよくわかった。

10数年間、トランジットでオランダのスキポール空港に寄ったとき、
お店でレンブラント本(英語版)を買った。時間がたっぷりあえるのでぱ
らぱらみていたら、2枚の絵が比較されて載っていた。これに驚愕した。
‘目をつくぶされるサムソン’とカラヴァッジョの‘聖マタイの殉教’。
ありゃー!サムソンと聖マタイがそっくりのポーズで描かれている。そして、
切った髪を手にもって立ち去ろうとするデリラの姿がカラヴァッジョの絵に
描かれた‘ああー、大変だぁー、刺客に殺されちゃう’と手を大きく上げて叫
ぶ男の子(右)と重なる。レンブラントはカラバッジョの絵をみたにちがい
ない!

レンブラントはサムソンをほかにも数点描いている。ドレスデン国立絵画館
でお目にかかった‘サムソンの婚宴’と‘舅を脅かすサムソン’(ベルリン美)
など。婚宴で中央にいるのはサムソンが結婚したペリシテ人の娘セマダール
(デリラの姉)。モデルは最愛の妻サスキア。レンブラントはこのサムソン
の物語への関心が強かったのだろう。

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2023.10.07

映画‘レンブラント 描かれた人生’!

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   レンブラントの‘夜警’(1642年 アムステルダム国立美)

先月の日曜美術館に登場したレンブラント(1608~1669)の‘夜警’
がきっかけとなり、わが家は今、レンブラント物語で盛り上がっている。
TVの番組情報で日美が‘夜警’にスポットをあてることを知り、このタイミン
グでなぜレンブラント?と思った。その疑問は番組をみて解消された。
高性能8Kカメラをアムステルダムにある国立美に持ち込み、‘夜警’の大画
面を隅から隅までばっちり撮影し、NHKのスタジオでその映像を原寸サイ
ズ(363×438cm)でみせてくれた。

8Kの威力が予想以上にすばらしく、美術館の特別展示室の最前列に陣ど
り単眼鏡でみたものよりはるかに細かいところまで浮かび上がらせてくれ
る。たとえば、副隊長の黄金のジャケットの見事な質感描写。レンブラン
トは‘私の絵をそこまで細密に分析しなくてもいいよ、もっと気楽にみたら’
と言うかもしれない。

レンブラントの生まれたライデンはまだ訪問してない。番組のなかでライ
デンの街の一角につくられたレンブラントの彫刻がでてきたので、これを
みたくなった。マウリッツハイス美のあるハーグからは北へそう遠くない
ところにあるし根っからのレンブラント好きなのだから、次回のオランダ
旅行ではなんとか足を運ばなくてはという気持ちになっている。

‘夜警’の最新情報が別の情報を呼び込んでくれた。それはたまに行く映画
DVD中古店で以前から気になっていた‘レンブラント 描かれた人生’を購入
したこと。1936年に製作されたイギリス映画(モノクロ 81分)で
もっと早く見ておけばよかったと思わせる一級の伝記映画だった。レン
ブラントが愛した女性たちのことは一応頭に入っているが、映画で役者が
演じる最愛の妻サスキア、息子の乳母のヘールチェ、そして新しい家政婦
ヘンドリッキェを目の当たりにすると、よりレンブラントをとりまく人間
関係が明確になる。映画をみてますますレンブラントが好きになった。

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2023.10.06

美術で‘最高の瞬間‘! 崎山隆之 市野正彦 今泉今右衛門

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    崎山隆之の‘扁壺 「聴涛」’(2007年)

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     ‘花器 「聴涛」’(2010年)

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   市野雅彦の‘Untitled’(2007年)

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    ‘丹波赤ドベ采器’(2010年)

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   十四代今泉今右衛門の‘色絵薄墨はじき時計草文鉢’(2010年)

現在、青磁で人気の高い陶芸家を選んだとき、個展の機会をこれからみつけ
だしていくことを述べたが、ほかにも同じ思いの作家がいる。崎山隆之
(1958~)、市野雅彦(1961~)、十四代今泉今右衛門(1962~)
。いずれも鑑賞した作品は片手ほどで最後にみてからだいぶ間隔があている
ため、現在どんな作品群が出来上がっていのかまったく情報がない。だから、
余計に鑑賞意欲が湧いている。来年は刺激を求めて積極的に動いてみようと
思っている。

崎山のテーマとなっている‘聴涛’は2点お目にかかった。2010年菊池寛実
記念 智美術館で開催された‘現代の茶 造形の自由’でこのシリーズをみたと
き、二つのイメージが交錯した。一つはアフリカのサハラ砂漠では局所的に
こういう砂の造形ができるのかなと想像した。もう一つは蛇の通った跡。今も
‘聴涛’は制作され続けているのだろうか。そうであれば、個展でどっと並んだ
のをみてみたい。

丹波焼の市野雅彦は日本民藝館へ通っていたころ作品を知った。TVのやき
もの番組でも見た覚えがある、その造形と強い色彩はとても気になっていた。
ロシアのマトリョーシカを連想させる‘Untitled’はおもしろいアイデアだし、
智美術館で遭遇した窯からでたばかりの灼熱の赤が強烈なパワーを生んでい
る‘丹波赤ドベ采器’にも心を奪われる。

2002年に十四代を襲名した今右衛門は‘色絵薄墨墨はじき時計草文鉢’が気
に入っている。これをみたのは2015年でちょうど宇宙への関心が深まった
時期と重なるので、大宇宙空間に星々が自然法則にしたがって均整のとれた形
で回転しているように映った。この連作は果たしてあるのだろうか?そろそ
ろこの目で確かめたい。

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美術で‘最高の瞬間‘! 十五代楽吉左衛門

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 砕動風鬼’(1990年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 陽谷’(1989年)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 吹馬’(1993年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗’(2004年 楽美術館)

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    ‘焼貫黒楽茶碗 銘 一犂雨’(2005年 楽美術館)

2019年に隠居し現在は直入を名乗り作陶を続けている十五代楽吉左衛門
(1949~)の茶碗に大変魅了されている。だから、個展の情報は見逃さ
ないようにしているが、最近は残念ながら縁がない。はじめて十五代の作品
をまとまった形でみたのは2005年、菊池寛実記念 智美術館で15年ぶ
りに開催された‘楽吉左衛門展’。これが2度目の個展というので幸運なめぐ
りあわせだった。そして、2017年の‘茶碗の中の宇宙 楽家一子相伝の
芸術’(東近美)でも十五代の作品を存分に楽しませてもらった。

NHKでやきもの番組が放送されるときはビデオをとってみていたが、これま
で楽吉左衛門は2度登場し、轆轤を使わず手びねりで茶の湯の茶碗の形をつ
くっていくところから釉がけ、焼成という制作の現場をみせてくれた。その
ため、素人ながら十五代のあのすばらしい茶碗がどうやって生まれてきたか
はおおよそイメージができるようになった。

‘焼貫’は徹底的に火にさらし高い温度で焼く貫く技法で窯の炎や墨が直接作品
にあたり肌が荒々しくなるという特徴がある。これにより新たな‘楽’の世界を
つくりだした。いろんなヴァリエーションがあるのは陶芸家、楽吉左衛門の
技術の高さと表現の強さを反映している。‘焼貫黒楽茶碗 銘 砕動風鬼’は
焼貫茶碗にさらに金銀彩が用いられており、装飾性という要素をつけ加え
十五代流の楽茶碗を創作した。

茶碗の形としては本阿弥光悦の国宝‘不二山’や‘加賀’を連想させる角造りの
茶碗に惹かれている。これには数えきれないほど名品が揃っている。赤と黒
の鮮やかなコントラストが印象的な‘陽谷’、ダイナミックな黒の太い線が馬を
おもわせる‘吹馬’、雨だれのような緑と青が深く響きあっている2004年の
黒楽茶碗、そして、大きくゆがんだ形と群青色や黒、緑が心を打つ‘一犂雨
(いちりう)’が忘れられない。十五代楽吉左衛門に乾杯!

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2023.10.05

美術で‘最高の瞬間’! ハンス・コパー

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    ‘ポット’(1954年)

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    ‘ポット’(1962年)

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    ‘ポット’(1965年)

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    ‘スペード・フォーム’(1971年)

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    ‘キラクデス・フォーム’(1972年)

2010年は今から振り返るとイギリスの有名な陶芸家に出会ったエポック
的な年だった。4月国立新美で‘ルーシー・リー展’があり、その2ヶ月後に
パナソニック電工 汐留ミュージアムで‘ハンス・コパー展ー20世紀陶器の
革新’に遭遇した。ドイツ人のハンス・コパー(1920~1981)は
1939年19歳のときイギリスに渡り、26歳のとき18歳年上のルーシ
ー・リーの工房で働きはじめる。2人は第二世代の陶芸家として多くのファ
ンの目を惹きつける作品を次々と制作し、世界的に名が知られる陶芸家に
なった。コパーは1958年イギリスに帰化している。

1954年の作品‘ポット’は上下2つの丸い形を合接してつくられている。
この安定感がよく暖か味のある丸さにとても引き込まれる。同様に安心し
て見られる1965年のポットはすっきりした対称形のフォルムに限りな
い愛着を覚える。1962年のポットは一見すると中南米に起こった
古代文明でつくられたやきものとかアフリカにおける部族の宗教行事に使わ
れたシンボルのようなものを連想する。3つのパーツで構成されているが、
上は茶碗で真ん中は円盤、そして下が筒にみえる。

‘スペース・フォーム’は力強いフォルムがだんだん洗練されていく感じ。
上半分が鋭角的な印象の強い農工具とか手提げバッグのイメージで、それ
を柔らかい円筒がしっかり支えている。一度みたら忘れない形である。こ
のタイプはほかに上部が3倍くらい大きな円筒と合体したものもある。

コパーの作品でもっとも魅了されるのが‘キクラデス・フォーム’。
前3000年紀にエーゲ海のキクラデス諸島で栄えた文明の遺品が目の前
に現れたような錯覚にとらわれる。アテネの国立考古学博でみたものが
現代に蘇った感じ。いろんなヴァージョンがあるが、ロケットが宇宙に飛
び出すイメージが湧いてくるこの作品に惹かれている。

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2023.10.03

美術で‘最高の瞬間‘! ルーシー・リー

Img_20231003230001     ‘線文鉢’(1970年頃 東近美)

Img_0001_20231003230001     ‘鎬文花器’(1976年頃 東近美)

Img_0002_20231003230001     ‘青釉鉢’(1978年頃 東近美)

Img_0003_20231003230001     ‘ピンク線文鉢’(1980年頃)

Img_0004_20231003230001     ‘溶岩釉花器’(1980年代 アサヒビール大山崎山荘美)

イギリスの女性陶芸家、ルーシー・リー(1902~1995)の作品をは
じめてお目にかっかたのは東近美工芸館。竹橋にある東近美へ出かけたとき
は時間に余裕があれば、歩いて10分くらいで到着する工芸館へも寄り平常
展に並んでいる作品をみるというのがルーティンの流れだった。ここで
板谷波山のやきものとか着物などいろいろな工芸の分野に親しんできたが、
ときどき情報がまったくなかったのにみた瞬間に虜になるような作品に遭遇
することがある。

目の前に現れたルーシー・リーの‘線文鉢’はそんなやきものだった。説明書きを
読むと陶芸家はウィーン生まれで活動の拠点をイギリスに変えて活躍し、93
歳で亡くなったとある。イギリスの陶芸家としてインプットされている民藝派
のバーナード・リーチを第一世代とするとルーシー・リーは第二世代にあたる
人気の陶芸家のひとり。これでやきものの世界が広がったという思いを強く
もった。

‘線文鉢’は茶褐色の高台の上で乳白色に切り替わり、細い茶色の線がリズミカ
ルに走っている。このすっきり感のある軽やかな文様に大変魅了される。この
形がさらに変化したのが鮮やかな青が目とびこんでくる‘青釉鉢’。これはルー
シー・リーを代表する朝顔型の器形。口縁の直径に比べて高台が小さめにつ
くられているが、不安定な感じはしない。これは強い磁力を放っている。そし
て、さらにインパクトのある色が登場した。‘ピンク線文鉢’。陶芸の色彩に
ピンクがでてくるとは!

ルーシー・リーの作品に大変魅了されるのは形の美が楽しめること。朝顔型のほかで思わず足がとまるのが‘鎬文花器’。鎬文の上は首がぐっと細くなり視線をさらにあげるとラッパのように大きく開いた口作りがみえる。古代ギリシャにやきものでこんな形をみた記憶がある。晩年の作品‘溶岩釉花器(マーブル)’は形は古代の器というイメージが強いのに、色合いは薄土色と淡い青が絶妙に溶け合い上品な雰囲気を漂わせている。すばらしい!

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2023.10.02

美術で‘最高の瞬間‘! 金城次郎 島岡達三

Img_0001_20231002230401    金城次郎の‘線彫魚文抱瓶’(1968年 日本民藝館)

Img_0004_20231002230401     ‘線彫海老文大皿’(1970年 日本民藝館)

Img_0005_20231002230401     ‘貼付文藍飴差厨子甕’(日本民藝館)

Img_20231002230401    島岡達三の‘塩釉象嵌縄文皿’(1999年 茨城県陶芸美)

Img_0003_20231002230401     ‘象嵌縄文三筋大丸壺’(1955年 日本民藝館)

日本民藝館へ通っていた頃は民藝派のやきものをみるのが大きな楽しみだ
った。富本憲吉、河井寛次郎、濱田庄司、バーナードリーチの作品に目が慣
れたいったのもここで名品の数々に出会ったから。そして、沖縄出身の金城
次郎(1912~2004)の生き々した魚文のやきものを目にしたのも
忘れられない思い出になっている。リーチの作品にもタコがでてきたりする
が、金城のやきものは海に囲まれた沖縄らしいモチーフが躍動している感じ
がする。

‘線彫魚文抱瓶’は力強い線彫りで表現された魚が器面一杯にどーんと描かれて
いる。抱瓶は沖縄特有の酒瓶の一種で、紐を通して肩からぶら下げて携帯す
る。本来は小ぶりだが、金城は大型化した抱瓶を独自につくりだした。成形
した後、器面にへらなどで線を彫り込み存在感のある魚文をかたどっていく。
体を大きく曲げた魚の闊達な表現は沖縄の豊かな海洋文化を象徴している。

魚文だけでなく海老文もぴちぴちしている。‘線彫海老文大皿’はお茶目な海老
の大きな目が愛嬌があり親しみを覚える。金城はいろんな器物に向き合っており、厨子甕(蔵骨器)では‘貼付文藍飴差厨子甕’が強く印象に残っている。このタイプのものは見たことがなかったのでその形にひきつけられた。

濱田庄司に師事した島岡達三(1919~2007)は金城次郎と同じく日本民藝館通いで存在を知った。もっとも魅了されているのは‘塩釉象嵌縄文皿’。皿の中心からぐるぐる回っている線は組紐を転がしてつけたもので、鮮やかな青の釉薬と塩でできたソーダの釉のかけ合わせによって縄目模様が引き立てられている。また、中国の越州窯の青磁壺を連想させる‘象嵌縄文三筋大丸壺’も心を鎮めてくれる。

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2023.10.01

美術で‘最高の瞬間‘! 十二代・十五代沈壽官

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 十二代 沈壽官の‘錦手松竹鶴図花瓶’(1880~1900年 沈家伝世品収蔵庫)

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    ‘錦手菊花浮上総飾三足香炉’(1870年代 三の丸尚蔵館)

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  十五代 沈壽官の‘薩摩蝶乗花瓶’(2010年 沈家伝世品収蔵庫)

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    ‘薩摩獅子乗大香爐’(2010年 沈家伝世品収蔵庫)

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    ‘薩摩七宝伏香爐’(2010年 沈家伝世品収蔵庫)

薩摩焼をまとまった形でみる機会があったのは広島からクルマで九州大旅行
をし鹿児島にある長島美を訪問したとき。シャガールの絵同様、感激したの
が薩摩焼のコレクション。これが西洋人に人気のあったSATSUMAか、と息
を呑んでみたいた。ここから薩摩焼への興味が膨らんでいくが、幕末から
明治にかけて活躍した十二代 沈壽官(1835~1906)の作品を実際
にみたのは三の丸尚蔵館にある‘錦手菊花浮上総飾三足香炉’。

この時代たくさん制作された装飾品としての大型の香炉にまずびっくりする
が、器面に立体的な造形を貼り付けるその装飾に目が点になる。精巧な彫刻に
よる竹籠の器面に丸い小さな菊が咲き乱れ、香りに誘われてまわりを蝶が舞っ
ている。全体が茶褐色なので一見するとグロテスク感もあるが、じっくりみ
ると高い技術が駆使された名品であることを実感する。

‘錦手松竹鶴図花瓶’は2011年日本橋三越で開催された‘薩摩焼 桃山から
現代へ 歴代沈壽官展’でお目にかかった。色絵金彩の手法である錦手の名品
中の名品である。金彩で描かれた華やかな花鳥画はまるで屏風絵をみている
よう。やきものだからその輝きが永遠に失われないのがいいところ。

薩摩焼に特別の関心を向けさせるのが十五代 沈壽官(1959~)の存在が
大きい。三越で2010年につくられた作品をみて大変魅了された。これは
スゴイ才能を持った人が沈家を継いだと思った。やきものの蝶をあしらった
ユニークな‘薩摩蝶乗花瓶’にガツンとやられ、‘薩摩獅子乗香爐’と‘薩摩七宝伏
香爐’のすばらしい出来栄えにも感心させられる。

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