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2023.09.30

美術で‘最高の瞬間‘! 十四代酒井田柿右衛門 吉田美統

Img_0003_20230930230001   十四代酒井田柿右衛門の‘濁手山つつじ文鉢’(1986年)

Img_0002_20230930230001    ‘濁手つつじ草花地文蓋物’(2005年)

Img_0004_20230930230101    ‘濁手桜文八角鉢’(2000年)

Img_0001_20230930230101    吉田美統の‘釉裏金彩鉄線文鉢’(1992年 文化庁)

Img_20230930230101     ‘釉裏金彩更紗文花器’(2012年)

有田で焼かれた‘柿右衛門様式’は日本の陶磁器のイロハのイのようなものだ
から、米のとぎ汁のようにやわらかい乳白色の素地のことをいう‘濁手’をTVのやきもの番組で夢中になってみた。話をしてくれるのは十四代
酒井田柿右衛門(1934~2013)。この知識を頭に入れ人間国宝展などで本物の作品をみた。この濁手によって赤が美しく映えるのを感じるのが十四代柿右衛門の作品の一番の楽しみ。

十四代はつつじが好きで絵付によくでてくる。‘濁手山つつじ文鉢’は濁手の
素地に旋回する山つつじの模様がとても軽やかな印象をうける。やはり
視線は赤に集中する。‘濁手つつじ草花地文蓋物’は丸い形が目の心地いい蓋
に二つの大きなつつじが向きあい、のびのびとした姿をみせている。器の
側面には更紗文様や花菱の地紋が帯状にめぐらされている。‘濁手桜文八角
鉢’は型打ち成形による八角の鉢に赤が引き立つ桜が明快に表現されている。
品の良さを感じる鉢である。

九谷焼にも金箔の輝きが使われている作品がTVで紹介された。その陶芸家は釉裏金彩の人間国宝に認定されている吉田美統(よしだみのり 1932~ 小松市の生まれ)。代表作の一つが‘釉裏金彩鉄線文鉢’。釉裏金彩は陶磁器の器胎に金箔や金泥などの金彩を用いて文様を描き、その上から釉薬を施して焼成する技法。金彩が釉薬の下にあるのが特徴で、この技法は中国や日本の古陶磁にはなかった。吉田はこれに挑戦し、緑のグラデーションのかかった鉢を背景に鉄線の花を金箔で格調高く描いている。

‘釉裏金彩更紗文花器’は金箔の更紗文が縦方向に連続模様で表現され、二つのフォルムがぐるっとまわっている。銀ねずみ色の地に優美に浮き上がる更紗文がとても雅で古の日本がイメージされる。これまで少数の陶芸家しかやってなかった技法にのめりこみさらに進化させ荘厳な雰囲気を漂わせるのだから、背筋をしゃきっと伸ばしてみてしまう。

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2023.09.29

美術で‘最高の瞬間‘! 十三代今泉今右衛門

Img_0001_20230929223401     ‘色絵かるかや文鉢’(1969年 東近美)

Img_0003_20230929223401     ‘色絵薄墨露草文大鉢’(1981年 佐賀県九州陶磁文化館)

Img_0004_20230929223401     ‘色絵薄墨珠樹文蓋付瓶’(1987年 東近美)

Img_20230929223401     ‘色絵吹重ね草花文鉢’(1996年 東博)

Img_0002_20230929223501     ‘色絵吹重ね珠樹草花文鉢’(2001年)

NHKのやきもの番組を熱心にみていたとき、十三代今泉今右衛門
(1926~2001)が登場し新たな技法をつかって生み出した現代の色鍋
島を披露してくれた。興味深く映ったのが霧吹きで酸化ウラニウムを噴霧状に
吹き付ける‘薄墨’の技法。絵画と違ってやきものは作品ができあがる過程がみれ
るので理解が促進する。当時、有田焼では今右衛門の作品と井上萬二の白磁に
もっとも惹かれていた。

回顧展になかなか遭遇しなかった間は日本工芸展の特別展や人間国宝展で今右
衛門の作品に散発的にお目にかかっていた。東近美蔵の‘色絵かるかや文鉢’では
思わず足がとまった。かるかやの小気味よいリズム感が目を楽しませてくれる。
江戸中期の鍋島にみられる口縁の赤と青の組紐を連想させる。

‘色絵薄墨露草文大鉢’は初期に薄墨作品の代表作。薄墨でできた灰色の釉色に
露草が緩やかに踊っているような印象をうける。身近にみられる露草をシャー
プな形にデザインし、動的表現をみせる感性に驚かされる。‘色絵薄墨珠樹文蓋
付瓶’は見ごたえのある大型作品。区画された8面には珠樹文と丸文が交互に描
かれている。丸文を浮かび上がらせる雲地文もよく絡み合っている。

‘色絵吹重ね草花文鉢’は藍色の呉須を吹き付ける‘吹墨’と‘薄墨’を重ね合わせたもの。藍色と灰色が見事に吹き分けられ、二種類の草花文は中心部から放射線状に渦をまくように広がっている。同じ技法の‘珠樹草花文鉢’は最晩年の作品。力強い構図に大変魅了される。

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2023.09.28

美術で‘最高の瞬間‘! 加藤卓男 藤本能道

Img_0004_20230928225401     加藤卓男の‘三彩花器「爽容」’(1996年 東博)

Img_0005_20230928225401      ‘藍彩彫花文四方鉢’

Img_0003_20230928225401      ‘ラスター彩芥子文六方器’(2000年 茨城県陶芸美)

Img_20230928225501   藤本能道の‘草白釉釉描加彩翡翠図四角隅切筥’(1985年 東芸大美)

Img_0001_20230928225501    ‘草白釉釉描色絵金彩渓流紅葉図長四角筥‘(1990年)

Img_0002_20230928225501    ‘雪白釉色絵金銀彩合歓双雀図六角筥’

陶芸家の作品に接する機会はTVの美術番組と美術館で行われるやきもの展。
絵画とちがって陶芸などの工芸展はそうは開かれないので、陶磁器に目を
慣らすのは美術番組をみるのが役立つ。加藤卓男(1917~2005)
はやきものの番組にはよく登場していたので、どんな作風かは作品の数は
少ないがそこそこインプットされた。

2014年東博で開催された大規模な‘人間国宝展’に加藤卓男の‘三彩花器
「爽容」’が出品された。横で一緒に飾られているのが‘奈良三彩壺’(奈良
時代・8世紀 九州博)。加藤は正倉院三彩の復元を依嘱され、7年間を費やし‘三彩鼓胴’を完成させた。これで会得した緑、褐、白の3色の釉薬を生かして新しい三彩に挑戦したのが‘爽容’。奈良三彩の硬い表現とは異なるほわっとした柔らかさと動きが感じられる三彩である。

‘藍彩彫花文四方鉢’は色が藍一色になり白の地に藍の細い流れが‘爽容’と同
じような調子で描かれている。みずみずしい釉薬の色調が心をとらえて離
さない。ペルシャ陶器のラスター彩を復元した‘ラスター彩芥子文六方器’
も見事な作品。藤本能道(1917~1992)はやきもので絵画表現をおこなった陶芸家。だから、どの作品もぐっと近くに寄ってみてしまう。

作品にはとても長いタイトルがついている。横をむく翡翠に視線が集中する筥には‘草白釉釉描加彩翡翠図四角隅切筥’。勢いよく水がながれる渓流の上を鳥が飛ぶ姿が俯瞰の視点で描かれた四角筥はちょっと蒔絵の硯箱を連想させる。花をつけた合歓にとまる雀が雪白釉によっていっそう引き立てられている筥は鳥や草花の意匠と器面が一体化した見事な絵画的な表現でまさに神業的。本当にすごい!

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2023.09.27

美術で‘最高の瞬間‘! 川瀬忍 神農巌 志賀暁吉

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    川瀬忍の‘青磁大鉢’(2010年)

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     ‘青磁花入 銘「参星」’(2014年)

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    神農巌の‘堆磁線文壺’(2012年)

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     ‘堆磁線文壺’(2012年)

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    志賀暁吉の‘青瓷壺’(2007年)

関心を寄せている青磁の陶芸家の回顧展を見逃すことのないよう定期的に手
持ちの情報源にアクセスをしているが、思うようにグッドニュースが入って
こない。また、以前ほど展覧会へでかける回数が減っているため、‘犬も歩け
ば棒に当たる’ことが少なくなっていることも影響している。今、個展に巡り
合わないかと期待をかけているのは‘青磁のいまー受け継がれた技と美 南宋
から現代まで’(2014年 東近美工芸館)に登場した陶芸家たち。

神奈川県大磯生まれの川瀬忍(1950~)はTVの美術番組で知り、その
ハッとする作品が目に焼き付いているが、まだ回顧展には縁がない。
2011年に菊池寛実記念智美術館で‘川瀬忍の青磁 天青から静かなる青へ’
が開催されたようだが、このときはまだ開眼してなかった。
東近美で全部で6点お目にかかった。とくに惹かれたのが曲線の柔らかな美
しさが左右非対称の造形により際立つ‘青磁大鉢’と縦にのびる細身のフォルム
に吸い込まれる‘青磁花入 銘「参星」’。

川瀬とともに忘れられない出会いとなったのが神農巌(1957~)の青磁。
いっぺんでファンになった。視線を釘付けにしたのが‘堆磁線文壺’。口縁や胴
に盛り上がりがみられ、どこか神秘的な造形に惹かれる。これは神農が毎日、
工房からながめている琵琶湖の湖面の情景を表現するために生み出した‘堆磁’
と呼ばれる技法が使われている。泥状にした磁土に筆を含ませ何度も塗り重
ねて線文を描きだしている。こんな強いインパクトをもつ線文がついた壺は
みたことがない。同じ2012年に制作された壺も息を呑んでみていた。
本当にすばらしい!

志賀暁吉(1977~)は福島県の出身で地元で作陶をしている期待の陶芸
家。2007年に行われた第19回日本陶芸展で見事、実力日本一の大賞・
桂宮杯に輝いた。その作品が‘青瓷壺’、花入のような縦長の壺で大まかな貫入
がとても心地がいい。南宋官窯青瓷の釉を彷彿とさせる色彩と貫入に200
%KOされた。大賞を受賞したのは37歳のとき(史上最年少)で今年46
歳。いつか回顧展をみてみたい。

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2023.09.26

美術で‘最高の瞬間’! 三浦小平二 中島宏

Img_0001_20230926224901     三浦小平二の‘青磁大鉢’(1976年 東近美)

Img_0004_20230926224901      ‘青磁飾り壺「仔象」’(1989年 東近美)

Img_0005_20230926224901      ‘青磁豆彩花瓶「インド文」’(1993年 東芸大美)

Img_0002_20230926225001     中島宏の‘青瓷彫文花生’(2012年)

Img_20230926225001      ‘青磁彫文掻落壺’(1997年)

Img_0003_20230926225001      ‘青瓷彫文壺’(2013年)

青磁の人気は高く、美術館では定期的に特別展が開催される。2014年
東近美工芸館でめぐりあったのが‘青磁のいまー受け継がれた技と美 南宋
から現代まで’。南宋時代につくられた‘砧青磁’の名品が目を楽しませてくれ
るだけでなく、明治以降に活躍した陶芸家がつくりだした独自の青磁も数
多く登場した。たとえば、板谷波山、河井寛次郎、岡部嶺男など。そして、
青磁の人間国宝に認定されている三浦小平二(1933~2006)と
中島宏(1941~)の作品も出品されており、強い磁力を放っていた。
二人の回顧展は運よくともに一回縁があった。

三浦小平二の‘青磁大鉢’は思わず足がとまる名品。南宋官窯風の青磁色にで
きた氷裂風の貫入がとても美しく、輪花状の口縁にも視線が集中する。‘青
磁飾り壺「仔象」’は独特の装飾が施されている。蓋のつまみに動物や人物
がかたどられている。これは仔象だが、ほかには駱駝、舞を演じるトルコ人、
牧童、祈りをささげる人物などがいる。

‘青磁豆彩花瓶「インド文」’は遊び心がうかがえる三浦青磁。これは青磁の
壺の一部に色絵の具で絵が描かれている。胴の上部に白抜きにした窓があり
、異国情緒を漂わせる男が青、紫、黄色、赤で描かれている。おもしろい
発想である。中島宏の青磁は中国旅行を通じて出会った中国古代の青銅器の
力強い形が作品の中にとりこまれている‘青瓷彫文’の花生や壺が印象深い。

青銅器を連想させるために素地に入れられた細かな彫りがリズミカルに連続する文様がとてもインパクトがあり、ほどよい凹凸感が広い宇宙に誘われるよう。それを強く感じさせるのが‘青磁彫文掻落壺’、こんなフォルムの系外惑星がどこかに存在するかもしれない。2013年に制作されたものは文様がさらに複雑で連続と不連続が神秘的につながっており、大変魅了される。

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2023.09.25

美術で‘最高の瞬間‘! 井上萬二 前田昭博

Img_0001_20230925225301    井上萬二の‘白磁丸型壺’(1998年 茨城県陶芸美)

Img_20230925225301     ‘白磁瓜形壺’(2005年)

Img_0002_20230925225301     ‘白磁花形花器’(1996年 東近美)

Img_0003_20230925225301    前田昭博の‘白瓷面取壺’(1996年 東近美)

Img_0004_20230925225301     ‘白瓷面取壺’(2000年)

Img_0005_20230925225301     ‘白瓷面取壺’(2006年)

趣味で美術鑑賞をしていると絵画でも陶磁器でも作品がどういう風にしてで
きあがったのかに大変興味が湧く。TVの美術番組でもその制作過程をみせて
くれることがあるが、絵画よりやきもののほうが圧倒的に回数が多い。土を
こねるところからはじまって轆轤などによる成形、絵付け、焼成までをしっ
かりみせてくれるのでやきもの番組を何度も見ているうちに素人ながら陶器
や磁器のつくり方がだんだんわかってくる。白磁で人間国宝に認定されてい
る井上萬二(1929~)と前田昭博(1954~)が登場したときはビデ
オに収録しくりかえし見た。

有田生まれの井上萬二は白磁の神様的な存在で卓越した轆轤の技術を駆使し
て豊かな曲線を描く丸形の壺をはじめ、優品をたくさん生み出してきた。
深い静けさの漂う白磁は独特のやわらかいフォルムによって温もりをあたえ
ている。茨城県陶芸美で開催されたやきのも特別展に出品された‘白磁丸型壺’
に思わず足がとまった。これが本物の白磁の壺か、完璧な丸型だな!息を呑
んでみていた。‘白磁瓜形壺’も白磁の美しさが際立つ作品。心が癒される。

‘白磁花形花器’は清楚な輪郭が浮かび出ている花形の模様がとても格調があ
りついみとれてしまう。白磁は冷たいイメージがあるがそんなことはまった
く感じられない優しい花器である。鳥取県河原町(現在鳥取市河原町)に生
まれた前田昭博の目を惹く‘白瓷面取壺’に魅了され続けている。広島から
鳥取に出張した際は河原町を通過するときはいつのこの作家のことを思い
出していた。

どれも魅力的だが1996年に制作されたものにもっとも惹かれている。轆轤で成形したあと指や手で力を加えて変形させることによって生み出される面取りがエッジがきいていて抽象彫刻を連想させる。これに対し、2000年と2007年にできあがったものは面取りの緩やかな稜線や面のおりなす光と影が印象深く現代アート感覚の白瓷になっている。本当にすばらしい。

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2023.09.24

美術で‘最高の瞬間‘! 鈴木藏 中里無庵

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    鈴木藏の‘志埜茶盌’(2005年)

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    ‘志埜茶盌’(2006年 菊池寛実記念 智美術館)

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    ‘志埜花器 流旅転生ノ内’(1985年)

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    中里無庵の‘叩黄唐津壺’(1967年 東近美)

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     ‘朝鮮唐津耳付水指’(1975年)

志野の人間国宝に認定されているのは2人いる。志野の窯跡を発見・再興し
た荒川豊蔵と岐阜県の土岐市出身の鈴木藏(すずきおさむ 1934~)。
志野が大好きなので鈴木藏の回顧展は見逃さないようにしていたが、これま
で2回縁があった。広島にいたとき遭遇した回顧展(2003年 天満屋
福山店)とその7年後の2010年に菊池寛実記念 智美術館で開かれた
‘流旅転生 鈴木藏の志野’。

ほかには人間国宝展でもよく登場するので作品の数がだいぶ増えてきた。
2005年の作品‘志埜茶盌’は釉薬のやわらかな淡雪がとても心地よく所々
にみられる緋色が志野の魅力をいっそう引き立てている。翌年つくられた
茶碗は優美さのなかに力強さが秘められた焼け焦げた黒の点がみられ、桃山
にない新味がひときわ目立っている。

鈴木の志野でもっとも驚いたのはオブジェが現れたこと。それが茶の湯の雰
囲気を現代的に深めた‘志埜花器 流旅転生ノ内’。これは3点セットのひとつ。
角々したフォルムは緊張感にあふれ、志野が現代の空気にあわせて進化しあ
らたな姿に変容したという感じ。つくられたのは1985年だから鈴木藏の
感性の鋭さが反映されている。

中里無庵(1895~1985)は古唐津の技法を復活させ唐津焼の窯の隆
盛をもたらしたレジェンド陶芸家。東近美にある‘叩黄唐津壺’はたたきの技法
でつくられた優品。淡黄褐色の色合いや壺の形は古唐津にタイムスリップし
たよう。すばらしい!‘朝鮮唐津耳付水指’も息を呑んでみるほどの存在感に圧
倒される。素朴で逞しい作風がこうして生まれたきたことがスゴイ。    

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2023.09.23

美術で‘最高の瞬間‘! 加藤唐九郎

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    ‘志野茶盌 銘 氷柱’(1930年 翠松園陶芸記念館)

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    ‘志野茶盌’(20世紀 川端康成記念館)

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    ‘黒織部茶盌 銘 古株’(1966年)

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    ‘黄瀬戸輪花鉢’(1958年 愛知県陶磁資料館)

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    ‘花生(華炎より)’(1968年 財団法人小原流)

ホテルオークラのすぐ近くにある菊池寛実記念 智美術館は質の高いやきもの
展を開催してくれるのでこれまで何度も足を運んだ。たどり着くまできつい
坂があってアクセスがしんどい分、大きな満足がえられることが多い。
2008年に行われた‘加藤唐九郎・重高・高宏 窯ぐれ三代展’は期待にた
がわぬ一級の特別展で強く記憶に残っている。

加藤唐九郎(1898~1985 瀬戸市の生まれ)は桃山時代の陶の復興を
生涯にわたって追求した有名な陶芸家であることはやきものの本などでインプ
ットされていたが、ようやく回顧展にめぐりあい作陶の一部をみることができ
た。‘志野茶盌 銘 氷柱’は32歳のときの作品で近代茶の湯の数寄者、益田鈍翁
の目にとまり‘氷柱’と命名された。現在は唐九郎の窯場と住居に隣接する
翠松園陶芸記念館(名古屋市守山区)が所蔵している。名古屋に住んでいたこ
ともあるのに、その頃はここを訪問するほどやきものに詳しくなかった。鎌倉
の川端康成記念館にある‘志野茶盌’にも大変魅了されている。

‘黒織部茶盌 銘 古株‘は根津美や五島美で開かれる茶陶展に出品された織部の名
品をながめている感じ。沓形の器形や釉薬を掛け残して素地をだしてみせる景
色が目を楽しませてくれる。そして、‘黄瀬戸輪花鉢’の名品ぶりにも驚かされる。
桃山時代の釉調、文様がそのまま蘇ったようで本当にスゴイ黄瀬戸である。

‘花生(華炎より)’は華道小原流とのコラボレーションによるインスタレーショ
ン。唐九郎の得意とした織部の技法で現代感覚の華道とやきものの響きあいが
実現されている。織部の前衛的な文様はこういうコラボが一番冴えるかもしれ
ない。

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2023.09.22

美術で‘最高の瞬間‘! 伊勢崎 淳 隠崎隆一 金重晃介

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    伊勢崎 淳の‘備前黒四方削花入’(2003年 茨城県陶芸美)

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     ‘備前角壺’

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    隠崎隆一の‘芯韻’(2007年)

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    金重晃介の‘聖衣’(1994年 岡山県美)

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     ‘海から’

備前焼のイメージは窯変や緋襷がすぐ思い浮かぶが、もうひとつ胸に強く刻
まれているのが抽象彫刻や現代アート感覚のオブジェのような作品。実際、
こんなやきものが生み出される伊部の窯をみせてもらったことはないが、
日本陶芸展などに出品されたものをみるとアートフルな備前もいいなと思う
ことが多い。

斬新な造形により現代の備前焼の主導的な役割を果たしたのが5人目の人間
国宝になった伊勢崎 淳(1936~)。2006年、茨城県陶芸美で‘日本陶
芸100年の精華’という大変充実したやきもの展にめぐりあった。ここで
伊勢崎のオブジェのような作品に出会った。‘備前黒四方削花入’、角々した
花入は表面につけられたシャープな斜めの線と中央の青の発色に視線が集中
する。色彩的には加守田章二を彷彿とさせる。1997年フランスの国立陶
磁器美で開催された‘備前焼 千年の伝統美展’に出品された‘備前角壺’の清新な
造形美にも魅了される。

伊勢崎に師事した隠崎隆一(1950~)はNHKのやきもの番組や工芸関
連の番組‘美の壺’によく登場していたので、どのようにして作品をつくって
いるのかはだいぶわかった。まだ大きな回顧展に縁がないが、期待はもち続
けている。フランスの大備前焼展にもドキッとする造形感覚からうみださ
れた3点が出品された。19回日本陶芸展(2007年 毎日新聞社主催)
に飾られた‘芯韻’は古代遺跡から出土したようなフォルムに釘付けになる。

備前焼でもっとも驚愕したのが金重晃介(1943~)の‘聖衣’。晃介は備前
焼の中興の祖といわれる金重陶陽の息子。これは土のもっている柔らかさ、
あたたかさを殺さないように硬めの土を薄くして衣をつくり、5枚被せられ
ている。こんな備前焼があったのか!フランスでも‘海から’と一緒に披露され
た。フランスのやきものファンも度肝をぬかれたにちがいない。

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2023.09.21

美術で‘最高の瞬間‘! 金重陶陽 藤原啓 山本陶秀 藤原雄

Img_0001_20230921223101    金重陶陽の‘三角擂座花入’(1953~54年 岡山県美)

Img_0002_20230921223101     ‘耳付水指’(1958年 東近美)

Img_0004_20230921223101    藤原啓の‘緋襷水指’(1959年 東近美)

Img_0003_20230921223101    山本陶秀の‘備前茶入’(1975年 茨城県陶芸美)

Img_0005_20230921223201    藤原雄の‘備前擂座壺’(1984年 茨城県陶芸美)

広島市に仕事で9年住んでいたので備前焼の窯がある備前市伊部には2度出
かけた。また、閑谷学校を訪問し備前焼の屋根瓦をみたのも生涯の思い出と
なっている。備前焼にスポットをあてた特別展は広島滞在中に2度体験した
が、最大の喜びは2019年東近美で開催された決定版‘備前ー土と炎から生
まれる造形美’にめぐりあったこと。釉薬をかけずに堅く焼締められた赤みの
強い土が味わい深く、窯変によりできた模様、稲藁を襷がけていく緋襷
(ひだすき)にも心がゆすぶられる。

金重陶陽(1896~1967)は桃山時代につくられた茶道具としての
備前焼を復興させ、やきものファンの目をふたたび備前焼にむけさせた。
1956年に人間国宝に指定されている。‘三角擂座花入’は桃山様式よりもさ
らに進化したシャープな仕上がりに魅了される。東近美にある‘耳付水指’も茶
陶として風格が感じられる優品。胴部に描かれた大胆な桧垣文風の箆(へら)
筋が印象深い。

藤原啓(1899~1983)は人間国宝展が開催されるときは金重陶陽と
共に陶芸部門の常連メンバーとして作品が出品される。素朴で重厚な作風を
つくりあげた。‘緋襷水指’は東近美の展覧会で4点並んだ緋襷のなかで一番
長くみていた。窯詰めの際に器どうしがくっつかないように巻かれた藁が目
に焼きつく緋色となって形を残す。これをみるのが備前焼鑑賞の大きな楽し
みである。

山本陶秀(1906~1994)は轆轤引きの名人で‘轆轤の陶秀’と言われた。
茶入の制作に力を入れ肩の張った肩衝とよばれる‘備前茶入’を生み出した。
思わず足がとまった。藤原啓の息子、藤原雄(1932~2001)も5人
いる人間国宝の一人。勇壮な作風が特徴の陶芸家で国際的にも高く評価され
ている。‘備前擂座壺’はV字が描く窯変が張りのある形を引き立てている。    

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2023.09.20

美術で‘最高の瞬間‘! 三輪龍氣生

Img_20230921004301    ‘愛の為に(ハイヒール)’(1967年)

Img_0002_20230920230001     ‘魔利耶 初夏’(2001年)

Img_0001_20230920230001    ‘古代の人・王妃墓’(1979~93年 山口県萩美・浦上記念館)

Img_0003_20230920230001     ‘射’(1983年)

Img_0004_20230920230001     ‘紫雲龍氣盌’(2000年 山口県美)

民芸陶器で人気のある濱田庄司は大皿の絵付けに柄杓の釉薬を勢いよくかけ
て模様をつくる方法を生み出した。まさにポロックのアクションペインティ
ングに通じる瞬間芸で、これにより陶芸と抽象絵画の差がなくなった。陶芸
でこういう表現をみるのは衝撃的なことである。そして、これ以上の驚きを
体験することが萩焼の展覧会で起きた。それは2009年(日本橋三越)と
2010年(山口県萩美・浦上記念館)に遭遇した三輪龍氣生(十二代休雪
 1940~)の回顧展。

十一代休雪の長男龍作が東芸大のときつくったのが‘愛の為に(ハイヒール)’。壺や茶碗でなくこんなものを陶芸の作品として焼いたのか!この作品が並んだときは十二代休雪を名のっていたが、若い頃から前衛精神全開の陶芸家だったのである。女性をモチーフにした作品はたくさん創作した。‘魔利耶’は大きなテーマになっているエロスを表現した作品のひとつで乳房がモチーフになっており、2001年に全部で20点くらい制作された。顔がないのではじめはぎょっとするが、肌のやわらかい質感描写により心臓は徐々に落ち着いてくる。

‘古代の人・王妃墓’は‘王墓’とセットで並んでいる作品で、目に焼き付く黄金の輝きにつつまれるとエジプト考古学博にある‘ツタンカーメン王の黄金マスク’が頭をよぎる。黄金づくしの作品はもうひとつ‘卑弥呼’のシリーズにも惹きこまれる。‘卑弥呼’、‘卑弥呼山’、‘卑弥呼の書’,‘続・卑弥呼の書’の四部作からなり、その存在感のある大きな作品からは強烈な磁力がでている。

‘射’は花器だが、まるで抽象彫刻のよう。これは現代美術のなかでアンフォルメル(非対称)やアクションペインティングの正反対の方向として登場したフォルムを堅い縁で区切って単純に表現するハードエッジの作品から刺激を受けている。‘紫雲龍氣盌’は見慣れた茶碗ではあるが、表面に深く刻まれた龍の胴体を連想させる文様が緊張感をゆるめてくれない。

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2023.09.19

美術で‘最高の瞬間‘! 三輪壽雪

Img_0001_20230919225601     ‘鬼萩割高台茶碗’(1998年 岐阜県現代陶芸美)

Img_0002_20230919225601     ‘鬼萩割高台茶碗’(2008年)

Img_0003_20230919225601     ‘萩掛分茶碗「舞衣」’(1986年)

Img_20230919225601     ‘白萩手桶花入’(1965年 山口県萩美・浦上記念館)

Img_0004_20230919225601     ‘白萩灰被水指’(1984年)

やきもの展に以前ほど多くはめぐりあわないが、これまでやきもの展でいい
思いをした美術館やデパートのHPは定期的にチェックしている。最近、来年
は東博で‘本阿弥光悦展’(1/16~3/10)が行われていることを知った。
光悦の蒔絵とやきものに魅了され続けているから大きな期待を寄せている。
同じように萩焼の三輪壽雪(十一代休雪、1910~2012)の大回顧展
(2006年 東近美工芸館)は忘れられない鑑賞体験だった。

壽雪の作品でもっとも惹かれているのは‘鬼萩割高台茶碗’。この荒々しい鬼萩
をつくったのは75歳のとき。岐阜県現代陶芸美が所蔵する1998年の作品は人間国宝展(2014年 東博)にも出品された。‘休和白’と呼ばれる白釉は柔らかく、厚ぼったい白色に特徴があるが、器の表面を覆うようにたっぷり掛けられている。はじめてみたとき、小さいころ食べた砂糖のかたまりで盛りあがったビスケットを思い出した。2006年につくられたものは高麗茶碗からヒントを得た割高台がさらに高く大胆な造形になっている。

‘萩掛分茶碗「舞衣」’は思わず足がとまる優品。口縁はゆるやかに波打ち、斜めに片身替わり風に施された白と薄茶褐色の白化粧が視線を釘付けにする。ところどころにみられる貫入と茶碗のもつ優美さがほどよくとけあっているのもいい。歌人の吉井勇が‘萩焼の碗(もい)を手にして日の本の土のたふとさしみじみと知る’という歌を三輪家に送っている。

壽雪の破格の造形感覚は‘白萩手桶花入’でもしっかりうかがえる。まるで大地にどんと置かれたような手桶形の花入である。そして、剥離した白い釉が早春の雪解けを連想させる。‘白萩灰被水指’はボリューム感がありたくまさしさを強く感じさせる。灰被り特有の艶消し的な釉調と窯変でできた薄い赤紫に大変魅せられる。

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2023.09.18

‘テート美展’(2)

Img_0004_20230918225401    バーン=ジョーンズの‘愛と巡礼者’(1896~97年)

Img_0001_20230918225401    ハントの‘無垢なる幼児たちの勝利’(1883~84年)

Img_20230918225401    マーティンの‘ポンペイとヘルクラネウムの崩壊’(1822年)

Img_0003_20230918225401    ターナーの‘湖に沈む夕日’(1840年頃)

Img_0002_20230918225401    モネの‘エプト川のポプラ並木’(1891年)

テート・ブリテンへ出かけたときのお楽しみのひとつがラファエロ前派。
今回ロセッティはお休みだが、期待していたのはチラシに載っているバーン
=ジョーンズ(1833~1898)の大作‘愛と巡礼者’だった。日本で
過去に一度展示されたことがあり、その横長の大きな画面に描かれた頭の上
に鳥たちが集まっている天使といばらの茂みからでてきた巡礼者を言葉を
失ってみた思い出がある。また会えた嬉しさを噛みしめている。

同じ大きな絵が目に前に現れた。それはまったく予想していなかったハント
(1827~1910)の‘無垢なる幼児たちの勝利’。ハントもラファエロ
前派のメンバーだが、ロセッティの描く女性のように誘惑的な雰囲気はなく、
くりくりっとした目が印象的で圧の強いチャーミングな女性というイメージが強い。ヨセフに連れられて幼子イエスを抱いてエジプトへ逃避するマリアにすっと視線が集中していく。光が当たっている可愛い幼児たちはヘロデ王の命令で虐殺された殉教者。以前、この絵の別ヴァージョンをみたがこちらのほうが光に輝いて生き生きしており画面に引き込まれた。

大きな収穫だったのはジョン・マーティン(1789~1854)の‘ポンペイと
ヘルクラネウムの崩壊’。テートでは‘神の怒りの日’で燃えさかる炎や巨大な
岩山が崩れ落ちる光景をみたことがあるが、ポンペイの火山噴火の悲劇を絵
画化したものがあったとは。息を呑んでみていた。こういう壮大な自然現象
や神の力をみせつけられる絵画をみると長く記憶に残る。

テーマを‘光’にして作品が構成された特別展ではやはりイギリス絵画の代名詞となっているターナー(1775~1851)が真打の役目を果たすことになる。10年前の‘ターナー展’(東京都美)にやってきた‘湖に沈む夕日’が再登場。画面全体に何が描かれているかは判然としないが、光を感じる絵ならこれは一番いい。ほかに‘陽光の中に立つ天使’など3点が並んでいる。ターナーに影響を受けたモネ(1840~1926)の‘エプト川のポプラ並木’も嬉しい展示である。この連作は何点も描かれているが、2010年パリのグランパレで開催された大モネ展にも出品された。明るい白い雲とS字をつくる高いポプラ並木が響きあう光景がとても心地いい。

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2023.09.17

予想を上回る‘テート美展’ (1)

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    ブレットの‘ドーセットシャー崖から見るイギリス海峡’(1871年)

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   オピーの‘トラック、鳥、風’(2000年)

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   カンディンスキーの‘スウィング’(1925年)

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   ライリーの‘ナタラージャ’(1993年)

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   エリアソンの‘星くずの素粒子’(2014年)

国立新美で開催中の‘テート美展 光ーターナー、印象派から現代へ’
(7/12~10/2)をみてきた。会期が残り少なくなり、ちょうど3連
休に入ったため館内は大勢の人でごったがえしていた。チラシで作品をみ
て、とりあえずは出かけておこうかという感じで前のめりになる特別展と
いう位置づけではなかったが、これが大間違い。ラファエロ前派があるわ、
壮大な作風に惹かれているジョン・マーティンも登場するわで俄然みるぞ
モードに火がついた。まずはあまり知らない画家だが大きく心をゆすぶら
れた作品から。

図録の表と裏に作品が使われているジョン・ブレット(1831~
1902)の‘ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡’はテーマの‘光’
がもっとも嵌る風景画かもしれない。しかも見ごたえのある大作。これは
テート・ブリテンに飾られているはずだが、現地でお目にかかったという
実感がない。だから、一番気になっていた絵。果たして、こんないい絵が
あったのか!と息を呑んでみていた。

この絵の次に関心を寄せていたのがカンディンスキー(1866~
1944)の‘スウィング’。こちらはテート・ブリテンから約4㎞離れて建
つテート・モダンに飾れている。一度みたことがあり、大変魅せられてい
る作品なので再会を楽しみにしていた。久しぶりのカンディンスキーなの
で一気にハイになった。同様に思わず足がとまったのがジュリアン・オピー
(1958~)の‘トラック、鳥、風’。2019年、東京オペラシティアー
トギャラリーで回顧展に遭遇したので敏感に反応。どこかドイツのフリー
ドリヒの絵を彷彿とさせる。

現代アートあるいは抽象絵画全開なのが今年92歳になるブリジット・ライ
リー(1931~)の‘ナタラージャ’、5、6年前川村記念美でライリー展
があったが見損ねた。そのときチラシかなにかにこの絵が載っていたような
気がする。リカバリーが叶ったとしたら運がいい。そして、最後のコーナー
で展示されていたオラファー・エリアソン(1967~)の‘星くずの素粒
子’はまるでエンターテイメント空間につるされたミラーボールのよう。ガラ
スの球状多面体から反射した光の模様が空間に映されるのがおもしろい。

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2023.09.15

美術で‘最高の瞬間‘! 徳田八十吉

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   ‘耀彩壺「恒河」’(2003年 小松市博)

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   ‘燿彩鉢「創生」’(1991年 東近美)

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   ‘耀彩華文鉢’(1991年 東近美)

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   ‘耀彩大皿「石畳」’(2003年 小松市博)

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   ‘深厚耀彩十八稜壺’(2004年 小松市博)

やきものが現代アートの絵画やオブジェをみるような感覚になると心が高揚
する。徳田八十吉(1933~2009、石川県小松市の生まれ)はそんな
気分にさせてくれる陶芸家。運がいいことに2011年、横浜そごう美で
‘追悼 人間国宝 三代徳田八十吉展~煌めく色彩の世界’に巡り合った。目の
前には祖父、父から習得した伝統的な九谷焼の技法をもとにさらに進化させ
たグラデーション表現による独創的な作品の数々がずらっと並んでおり、息
を呑んでみていた。

もっとも惹かれたのは2003年に制作された‘耀彩壺「恒河」’。丸々とした
球状のフォルムはグラデーションにより外側から紺色、緑、黄色へと神秘的
に変化し、中央で白い線に変容する。白が色彩を切り裂くようになっている
のは八十吉がキャンバスを切り裂くイタリアの画家フォンタナの表現に強く
触発されたから。松井康成同様、この球体をじっとながめていると宇宙に輝
く恒星や惑星に想像が膨らんでいく。

東近美が所蔵する‘燿彩鉢「創生」’と‘耀彩華文鉢’は超新星爆発のような星の
大爆発を連想させる。BS2の科学番組‘コズミックフロント’で星の一生やブラ
ックホールがでてくるときはこんな感じのCG画像を何度みたことか。回顧展
の会場ではまだ宇宙の知識がなかったから、色彩のグラデーションに関心が
むかっていたが、今は恒星の創成や消滅とからめてみてしまう。

‘耀彩鉢「石畳」’はまるで抽象絵画をみているよう。青や緑の濃淡がよくでて
おり、正方形が連続する文様は鉢の表面から飛び出してたり奥にへっこんだ
りしている。アメリカのステラが得意とする四角のフォルムをダイナミック
に動かしたイメージ。きりっとした稜の線がとても美しい‘深厚耀彩十八稜壺’
にも魅了され続けている。

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2023.09.14

美術で‘最高の瞬間‘! 松井康成

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    ‘練上嘯裂茜手大壺「深山紅」’(1981年 茨城県陶芸美)

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    ‘練上嘯裂文大壺「シルクロード」’(1981年)

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    ‘練上嘯裂文大壺’(1978年 兵庫陶芸美)

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    ‘練上風白地大壺「ロプノール」’(1987年 茨城県陶芸美)

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    ‘練上玻璃光壺’(2001年 茨城県陶芸美)

茨城県笠間市にある茨城県陶芸美は最近足が遠のいているが、2005年に
‘人間国宝 松井康成の全貌’、翌年2006年は‘日本陶芸100年の精華’展
と生涯の思い出となるやきもの展にめぐりあい相性のいい陶芸美術館になっ
た。松井康成(1927~2003)の大回顧展をみたあと目を通した図録
により、この天才陶芸家は笠間市で住職をしながら30代から本格的に作陶
を開始したことを知った。それで、この美術館で特別展が開かれたという
訳である。

いろいろなやきもの展を体験したが、独自の練上手の作品ばかりがずらっと
並らんでいるとは。球体のまるいフォルム、鮮やかな色づかい、そして独特
の器肌の質感描写が視線を釘付けにする。どれも強い磁力を放っているが、
とくに引き込まれたのが‘練上嘯裂茜手大壺「深山紅」’。嘯裂(しょうれつ)
とは表面にできる細かな亀裂のことで、土の粗い質感が見どころになってい
る。

これと兵庫陶芸美蔵の‘練上嘯裂文大壺’は当時と今では作品のイメージがだ
いぶ変わった。10年くらい前から宇宙論ににめり込んでいるため、この
嘯裂文が生み出す世界が大宇宙に無数に存在する惑星や星とダブってくる。
太陽系でいうとNHKBS2の番組‘コスミックフロント’に登場する木星や土星
を連想させるし、系外惑星にも想像が膨らんでいく。‘練上嘯裂文大壺「シル
クロード」’は惑星のようでもあるが、たしかにタイトルのシルクロードの
光景が前に広がってくる。

‘練上風白地大壺「ロプノール」’は思わず足がとまったことをよく覚えている。
ロプノールは中国新疆ウイグル自治区のタリム盆地の砂漠にある塩湖。風に
ふかれて湖が波立っている感じ。表面のつるつる感とすがすがしい黄色が目
を惹く‘練上玻璃光壺’も忘れられない作品。

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2023.09.13

美術で‘最高の瞬間‘! 加守田章二

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    ‘曲線彫文壺’(1970年)

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    ‘灰釉鉦鉢’(1966年 東近美)

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    ‘彩色角扁壺’(1972年)

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    ‘彩色壺’(1973年 栃木県美)

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    ‘彩色壺’(1980年 東近美)

今年は東京ステーションギャラリーとの相性がとてもいい。4月‘大阪の日本
画’を楽しんだ後、7月は‘甲斐荘楠音の全貌’で心をザワザワさせられた。新し
い美術館になってからは岸田劉生の大回顧展にも遭遇したから、ここの企画展
は目が離せなくなった。改築される前は頻繁に足を運ぶことはなかったが、
2回忘れられない特別展があった。歌川国芳展と加守田章二(1933~
1983)の回顧展。後から振り返ると運が良かったと思うのは20世紀陶芸
界の鬼才といわれた加守田のやきものと多く出会ったこと。

もっとも魅了されたのが‘曲線彫文壺’。この曲線彫文シリーズをみてると古代
日本にタイムスリップした気分になる。手捻り成形による年輪のような曲線が
つくりだす独特のフォルムは律動感があり夢中にさせる。薄い緑が渋い味をだ
している‘灰釉鉦鉢’は堂々たる風格が強く印象に残る。これは轆轤成形でつくら
れている。

ピカソは天才の証を見せつけるように画風をどんどん変えていくが、加守田も
形、文様、色彩を次々に変遷させていく。‘彩色角扁壺’は一見すると芋虫が角々
した扁壺の表面をぐるぐる這い回っているイメージ。だから、やきものなのに
生き物の生命が宿っているようにも映る。色彩的に見栄えがするのが緑と黒の
コントラスト。これに大変惹かれる。

栃木県美が所蔵する‘彩色壺’はまるで古代メキシコ・南米文明に出現したやき
もの、あるいはアフリカの部族がつくったオブジェのよう。加守田の内面には
無限の宇宙の世界がひろがっているのかもしれない。一方、東近美でもお目に
かかった‘彩色壺’は壺の形は伝統的なものだが、色彩や模様の表現は抽象陶
器にぐっと踏み出した感じ。青、黒、白の組み合わせはハッとするほど現代的。

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2023.09.12

美術で‘最高の瞬間‘! 川喜田半泥子

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   ‘志野茶碗 銘 赤不動’(1949年 東近美)

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   ‘黒織部茶碗 銘 富貴’(1940年頃)

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   ‘井戸手茶碗 銘 渚’(1942年頃)

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   ‘粉引茶碗 銘 雪の曙’(石水博)

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   ‘伊賀水指 銘 慾袋’(1940年 石水博)

銀座の松屋は質の高いやきもの展を開催してくれるので好感度がとても高い。
ここで2010年の初頭‘川喜田半泥子のすべて’展が開かれた。川喜田半泥子
(1878~1963)がすごい陶芸家という話はいろいろ聞いていたが、
その抹茶茶碗をみる機会がまったくなかった。だから、この大回顧展に遭遇
したのは生涯の喜びだった。

津市の資産家に生まれた半泥子は銀行の頭取を長く務め、仕事の合間に没頭
した作陶は趣味でやっていた。アマテュアであることにこだわり生前、展覧
会に出品されたことも販売されたこともなく、3万とも5万ともいわれる
作品の多くは知人に贈られた。回顧展の前唯一お目にかかった‘志野茶碗 銘
赤不動’は珍しい志野で最大の魅力は赤み。これは備前焼の藁をまきつけたと
ころが緋色になる緋襷(ひだすき)の技法が使われている。異なる産地の
技法を組み合わせるという自由な発想からこの名品が生まれた。

志野をみると織部もいっしょにとなる。‘黒織部茶碗 銘 富貴’は霧にかすむ
ような風景に魅せられる。根津美などで行われる織部名品展にでかけたのと
変わりない。テンションが上がりっぱなし。‘井戸手茶碗 銘 渚’は朝鮮から
持ち帰った土で焼いている。波に見立てた鮮やかな水色の釉薬が目に心地い
い。内側はまるで砂糖菓子のようになっている。‘粉引茶碗 銘 雪の曙’にも
思わず足がとまる。淡い青から白、桃色へと変わる景色はじつにいい。
そして、指のあとがおもしろい。

圧倒的な存在感で迫ってくる‘伊賀水指 銘 慾袋’は五島美にある‘銘破袋’を連
想させる。半泥子はこの水指をみてイメージが浮かび、水指を‘慾袋’をふくめ
3点つくった。すばらしい。半泥子に乾杯!

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2023.09.11

美術で‘最高の瞬間’! 北大路魯山人

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    ‘色絵雲錦文大鉢’(1935~44年 世田谷美)

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    ‘つばき鉢’(1938年 何必館・京都現代美)

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    ‘織部俎皿’(1949年 京近美)

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    ‘銀彩鶴首花入’(1955年)

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    ‘色絵糸巻平向付’(1950年)

北大路魯山人(1883~1959)はやきもの展をよく開催する美術館に
とって観客動員を期待できるキラーコンテンツ。これまで常設展示をふくめ
て回顧展は7回めぐりあった。魯山人のコレクションで名の知られているの
は足立美(島根県安来市 ここには河井寛次郎と魯山人の専用の展示室があ
る)、吉兆庵美(鎌倉市)、世田谷美、何必館・京都現代美、笠間日動美、
敦井美(新潟市)。2020年、運がいいことに何必館所蔵の魯山人が日本
橋三越で披露され、念願の‘つばき鉢’をみることができた。京都では訪問
したが、なぜか魯山人と遭遇しなかったのでやっとリカバリーが実現した。

はじめて魯山人のやきものをまとまった形でみたのは2005年、川崎市岡
本太郎美で行われた‘北大路魯山人と岡本家に人びと’展。もっとも惹かれたの
が雲錦鉢(うんきんばち)と呼ばれる桜と楓を意匠化した大きな鉢。魯山人
の敬愛する尾形乾山風の描き方に敏感に反応した。世田谷美蔵はこの文様2
点と椿文1点が並んでいた。以来、この雲錦鉢が魯山人のイメージになった。
そして、15年後何必館の椿文の名品に出会った。

志野同様、織部はやきもの展の大きな楽しみ。魯山人は自由奔放な桃山時代
の織部が好きで織部釉の器をたくさんつくった。とくに惹かれるのは桃山織
部ではみたことのない‘織部俎皿’。こういう皿に盛りつけられた刺身を食べた
らさぞかし美味しいだろう。ほかに鱗文や武蔵野文のものにもお目にかかっ
た。

富本憲吉でも河井寛次郎でも濱田庄司でも色彩表現にぐっとくるものがある。
天性のカラリストぶりは魯山人も同じ。お気に入りは鮮やかな緑にくらくら
する‘銀彩鶴首花入’と赤、青、黄色、緑が美しく輝いている‘色絵糸巻平向付’。
現代的な色彩感覚にふれると芸術家というのは瞬間的に時代を突き進むのか
と思ってしまう。

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2023.09.10

美術で‘最高の瞬間‘! 荒川豊蔵

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    ‘志野筍絵茶碗 銘 随縁’(1961年 豊蔵資料館)

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    ‘志野茶碗’(1953年 五島美)

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    ‘鼠志野梅絵茶碗’(1958~59年 清荒神清澄寺)

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    ‘瀬戸黒金彩木葉文茶碗’(1965年 豊蔵資料館)

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    ‘黄瀬戸竹花入’(1960年 東近美)

桃山時代に美濃で生まれたやきもの‘志野’に魅了され続けている。その志野の
再現に取り組んだのが陶芸家の荒川豊蔵(1894~1985 岐阜県多治
見市の生まれ)。回顧展は一度縁があった。2008年茨城県陶芸美で開か
れると聞き、喜び勇んでクルマを走らせた。志野のファンならこれは見逃せ
ない。

‘志野筍絵茶碗 銘 随縁’はまるで古志野の特別展を楽しんでいる気分にさせて
くれる。所々に現れた緋色、簡素な筆遣いで描かれた2本の筍と志野の見ど
ころのつまった優品である。五島美が所蔵する‘志野茶碗’にも思わず足がとま
る。力強い半筒の形にあばたのような空気穴が星のように点在している。
この2年後、豊蔵は人間国宝の第1回認定に選ばれた。

志野茶碗で好きなのは鼠志野。現代に蘇った荒川鼠志野のすばらしいこと。
薄青のようにみえる地に梅の文様がV字のように描かれている。回顧展にはほ
かに亀甲文と鶴をモチーフにした茶碗などが出品されていたが、軍配はこれ
にあがる。いい気分でながめていた。

豊蔵は瀬戸黒の再現にもエネルギーを注ぎ、名品を生み出した。それが‘瀬戸
黒金彩木葉文茶碗’。日本伝統工芸展の60回を記念して東博で開催された
‘人間国宝展’(2014年)では瀬戸黒の認定者としてこの茶碗が飾られた。
豊蔵は力強い造形を継承するとともに金彩で木葉の文様を施すという新しい
試みにも挑戦している。そして、動的なイメージのする‘黄瀬戸竹花入’でも
古伊賀のような前衛的な表現がみられる。

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2023.09.09

美術で‘最高の瞬間‘! 石黒宗麿

Img_0002_20230909224501     ‘彩瓷柿文壺’(1959~61年 東近美)

Img_0001_20230909224501    ‘赤絵水指’(1966~67年 愛知県陶磁美)

Img_20230909224601     ‘黒釉褐斑鳥文壺’(1958年 東近美)

Img_0003_20230909224601     ‘白地黒絵魚文扁壺’(1941年頃 東近美)

Img_0004_20230909224601     ‘鉄絵荒蕪文平鉢’(1967年頃 愛知県陶磁美)

板谷波山や民芸陶器の河井寛次郎、濱田庄司らの回顧展ほど回数は多くなく
ても、人間国宝に認定された陶芸家ならじっと待っているとどこかの美術館
がスポットを当ててくれる。1955年、最初の人間国宝に富本憲吉、濱田
庄司、荒川豊蔵とともになった石黒宗麿(1893~1968)の回顧展
(2015年)は運よく渋谷の松濤美でめぐりあった。

石黒のやきものは東近美にある‘彩瓷柿文壺’に最も魅了されている。白地に
描かれた赤茶色の吊るし柿と黒の吊り縄がじつにいい感じ。即興的にさらさ
らと筆を動かすと出来上がったような力みのない洒脱な文様である。小さい
頃干し柿はよく食べたから、その質感にすぐ反応する。

‘赤絵水指’は同じタイプの絵付けだが、こちらは赤の筆跡のような模様と緑の
斑文が西洋の抽象画とダブってくる。具象的なイメージを意識的にはずした
のでないだろうが、色彩の組み合わせとフォルムはしっかり前衛的にみえる
のがおもしろい。そして、‘鉄絵荒蕪文平鉢’は見込みの全面に感情の揺れ動く
ままに激しいタッチで描かれた荒れ地に生える草がどこかドイツ表現主義の
画家の絵を彷彿とさせる。

生き物をモチーフにして大皿などにドーンと描くバーナード・リーチと同様
に、石黒の‘黒釉褐斑鳥壺’では鳥たちが壺全体を生き生きと飛び交っている。
鳥のイメージはこの軽々しさとスピード感だから、思わずじっとみつめてし
まう。そして、‘白地黒絵魚文扁壺’の魚にも惹きこまれる。これをみて大原美
にある棟方志功の鯉の絵が頭をよぎった。

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2023.09.08

美術で‘最高の瞬間‘! 楠部彌弌

Img_20230908225601     ‘彩埏惜春花瓶’(1979年 敦井美)

Img_0005_20230908225601     ‘彩埏暁春香炉’(1982年)

Img_0001_20230908225601     ‘色絵早春茶盌’(1979年 敦井美)

Img_0002_20230908225601     ‘碧玉釉包花瓶’(1969年 敦井美)

Img_0003_20230908225601     ‘展花瓶’(1964年 敦井美)

やきもの展を見る機会が多いのがデパートの美術館。近代陶芸家の名前
は板谷波山くらいしか知らなかったころ、日本橋三越でびっくり仰天の
美術品が並ぶ‘敦井美名品展’に遭遇した。敦井美は新潟市にあるやきも
のや近代日本画のコレクションで知られる有名な美術館。川合玉堂らの
いい絵が出ていたが、サプライズの連続だったのがやきもの。板谷波山
あり富本憲吉ありで息を呑んでみたが、もうひとりすごい陶芸家がいた。
京都生まれの楠部彌弌(くすべやいち 1897~1984)。

目を楽しませてくれたのが優美でほのぼのとした気品が漂っている‘彩埏
惜春花瓶’。これは晩年82歳のときの作品。彩埏(さいえん)は磁土
に色を混ぜて何度も塗り重ね深みのある色を生み出す楠部独自の制作技
法でピンクの椿がくっきりとしたフォルムで目に強く印象付けられる。
この3年あとにつくられた‘彩埏暁春香炉’も思わず足がとまる。

野々村仁清を彷彿とさせるのが‘色絵早春茶盌’。これは‘惜春花瓶’と同じ
く文化勲章を受章した1978年の翌年につくられた。楠部は京焼の伝
統から多くを学んでおり、仁清の作品の優雅さや新鮮さを吸収してい
た。茶碗だけでなく紅梅をモチーフにした丸花瓶も手掛けている。まさ
に現代の仁清である。

近代的な造形感覚から生み出された斬新なフォルムも楠部のやきものの大きな魅力。‘碧玉釉包花瓶’は手の指をつかって花瓶の表面をきれいにへこませたような形にはっとさせられる。シンプルかつ大胆につくられた青一色の花瓶、忘れられない花瓶になった。‘展花瓶’はさらに前衛的な作品で花瓶の表面からつきでる小片の曲がった壁が抽象性を高めている。

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2023.09.07

美術で‘最高の瞬間‘! バーナード・リーチ

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    ‘楽焼駆兎文皿’(1919年 日本民藝館)

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    ‘ガレナ釉蛸文大皿’(1925年 東近美)

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    ‘鉄絵組合せ’陶板 獅子‘(1930年 大原美)

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    ‘鉄砂抜絵巡礼者文皿’(1960年 日本民藝館)

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    ‘緑釉櫛描水注’(1954年 日本民藝館)

2012年、英国の陶芸家バーナード・リーチ(1887~1979)の
大規模な回顧展が日本橋高島屋で開催された。リーチのコレクションで知ら
れる日本民藝館、アサヒビール大山崎山荘美、大原美、東近美、京近美など
から出品された名品の数々がここにもあそこにもあるというご機嫌な特別展
だった。これにより日本語ペラペラのリーチが日本全国をまわり情熱を傾け
た作陶活動の全貌を知ることができた。生涯の思いで出である。

民藝運動を推進した柳宗悦にとってリーチとの交遊はその活動に大きな影響
を与え、リーチを通して富本憲吉、河井寛次郎、濱田庄司らとの親密な交流
が広がっていった。美術とのつきあいが本格的になるまでは、英国の小説家
バーナード・ショーは知っていたが、リーチの情報はまったくなかった。運
が良かったのは陶芸作品は日本民藝館に行けばお目にかかれること。ここで
‘楽焼駆兎文皿’をみていっぺんにリーチのファンになった。生き物を絵付けの
モチーフにして皿にドーンと描くやきものはそうはない。だから、跳び回る
兎らしい表現に視線が釘付けになった。

皿に描かれた動物や鳥たちはいろいろ登場する。民藝館ではかっこいい姿を
した山羊やペリカンの親子も目を楽しませてくれる。東近美ではグロテスク
なイメージが強い蛸の存在感に圧倒される。大原美で惹かれるのは‘鉄絵組合
せ陶板 獅子’、このような怪物的な獅子はあまりみたことがない。大原には
人魚文の大皿もある。アサヒビール大山崎山荘美でみたグリフィンとすいす
い飛ぶ燕も忘れられない。

日本を愛し、日本に愛されたリーチならではの作品がジーンとくる。それは
‘鉄砂抜絵巡礼者文皿’。巡礼者をシルエットで皿の真ん中にすっと立たせる
という感性がすごい。これに対し、英国を連想させる緑色のピッチャー‘緑釉
櫛描水注’もつい長くみてしまう。色形とともにシンプルな文様がなかなか
いい。

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2023.09.06

美術で‘最高の瞬間‘! 濱田庄司

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   ‘白釉黒流描 大鉢’(1967年 川崎市市民ミュージアム)

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   ‘青釉白黒流描 大鉢’(1951年頃 大阪市立東洋陶磁美)

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   ‘柿釉丸紋大平鉢’(1959年 東近美)

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   ‘赤絵丸紋角瓶’(1938年 日本民藝館)

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   ‘琉球窯呉須赤絵銅鑼鉢’(1968年 益子参考館)

わが家の美術本は民藝派関連のものが本棚のかなりのスペースを占めている。
民藝運動の主導者柳宗悦の本をはじめとして、富本憲吉、河井寛次郎、濱田
庄司、バーナード・リーチの陶芸家カルテット、型絵染の芹沢銈介、木工
作家の黒田辰秋、そして版画家の棟方志功。濱田庄司(1894~1978
)については神田の古本屋でみつけた‘窯にまかせて’(1976年 日本経済新
聞社)をときどき読んでいる。

濱田庄司の作品で心をわくわくさせるのは大鉢。出会うたびに大きな感動を
もらうが、‘白釉黒流描 大鉢’もそのひとつ。この絵付けはポロックのアクシ
ョンペインティングの陶芸版みたいなもの。濱田の芸術心はまさにアヴァン
ギャルド全開といったところ。流し描きは15秒で終わる。訪問客から‘そん
なに早い作業で物足りなくありませんか?’と言われたので、濱田は‘これを
つくるのには60年と15秒かかっているのです’と答えている。技を何年
も磨きあげ究極の瞬間芸に到達したのである。‘青釉白黒流描 大皿’も白と黒
により即興的にできたわっかのような文様が生き生きしている。

東近美でみられる‘柿釉丸紋大平鉢’は素朴な茶色に妙に惹かれる。さらさらと
草の葉のような模様を描き込んだ白の円盤が6つぐるっと配されている。
日本の農村に行けばすぐ見つかりそうな平鉢が濱田の手にかかるとずっと
ながめていたい陶芸作品に変わる。こういうのが民芸陶器の大きな魅力。

色彩で心がとても軽くなるのが朝鮮の李朝陶磁の影響がみられる角瓶に描か
れたのびのびとした線模様と草花文が印象的な‘赤絵丸紋角瓶’。そして、カラ
フルな色彩が弾んでいる‘琉球窯呉須赤絵銅鑼鉢にも強くひきこまれる。子ど
ものお絵描きのような自由な筆使いがじつにいい。

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2023.09.05

美術で‘最高の瞬間‘! 河井寛次郎

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   ‘三色打薬扁壺’(1961年頃 河井寛次郎記念館)

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   ‘鉄呉辰砂草花文扁壺’(1939年 京近美)

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   ‘辰砂丸紋四方壺’(1938年 京近美)

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   ‘鉛釉白流し掛け蓋付き壺’(1930年 日本民藝館)

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   ‘丸紋壺’(1929年頃)

河井寛次郎(1890~1966)は島根県安来市に生まれた民藝派の陶芸
家。広島で仕事をしていたころ、安来にある人気の足立美に数度出かけ専用
展示室でお目当てのやきものを存分に楽しんだ。河井寛次郎が好きなやきも
のファンは多く、百貨店にある美術館で度々回顧展が開かれており、その際、
欠かさず図録を購入している。そのため、陶芸家の図録では板谷波山や民藝
派の仲間の濱田庄司同様、数が増え続けている。

寛次郎の作品がみれるのは足立美のほかでは京都の河井寛次郎記念館、京近
美蔵の川勝コレクション、アサヒビール大山崎山荘美。そして、東京なら
日本民藝館。どこへ行っても体が寄っていくのが‘三色打薬扁壺’。扁壺の
前衛的なフォルムに加え、薄茶色の地に映える緑、赤、黒の組み合わせに強
く心を打たれる。いつもマティスの色彩革命とかぶらせて色彩の力を感じて
いる。

‘鉄呉須辰砂草花文扁壺’は安定感のある角々した形とさらっと絵筆を動かして
できた文様が目に心地いい。友人の川勝氏が本人には内緒で1957年ミラノ
・トリエンナーレに出品し見事グランプリを受賞した。京近美の川勝コレク
ションンでは‘辰砂丸紋四方壺’にも大変惹かれている。これに日本酒を入れて
飲むとすぐ酔えそう。

以前はよく足を運んだ日本民藝館で一番のお気に入りは‘鉛釉白流し掛け蓋付
き壺’。丹波焼を連想させる茶褐色が圧倒的な存在感をみせ、その地に上から
流れ落ちる鋭角的な線が緊張感をうみだしている。これは柳宗悦が愛用した
壺。昨年の中頃、大阪の中之島香雪美でみた‘丸紋壺’に200%KOされた。
大阪のコレクターが所蔵しているものだが、はじめて公開された。こんな
名品があったとは!

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2023.09.04

美術で‘最高の瞬間‘! 富本憲吉

Img_20230904225401    ‘色絵金銀彩羊歯模様八角飾箱’(1959年 東近美)

Img_0004_20230904225401    ‘色絵金銀彩飾壺’(1953年 京近美)

Img_0001_20230904225401    ‘色絵赤更紗模様飾皿’(1941年 富本憲吉記念館)

Img_0003_20230904225501    ‘色絵飾筥’(1941年)

Img_0002_20230904225501    ‘色絵金銀彩四弁花模様蓋付飾壺’(1960年 東近美)

富本憲吉(1886~1963)のやきものは連続する模様の美しさが最大
の魅力。その模様は伝統的な模様を模倣するのではなく草花の写生にもとづき
自ら独自の模様を作り出した。‘模様から模様を造らず’という名言を残してい
る。憲吉の作品をはじめてみたのは東近美にある‘色絵金銀彩羊歯模様八角飾
箱’。大変華麗な金銀彩である。模様のモチーフは中心から四方に広がる
4つの葉からなる羊歯。これがぴったり菱形におさまり赤地に金銀彩が施さ
れている。完璧という言葉が相応しいほど驚かせるこの羊歯模様の表現はまさに神業的。

‘色絵金銀彩飾壺’は羊歯模様をおもちゃの風車のように動きをつけたもの。思わず足がとまる。この文様にはいろいろなヴァリエーションがあり、京近美には菱形を4つ使ってさらに大きな菱形をつくり、金銀をそれぞれ横に連続させる壺もある。‘色絵赤更紗模様飾皿’では憲吉がよく使った模様が皿の表面を埋め尽くしている。これは歌人藤原定家の名を負う定家葛という蔓草で本来は白い五弁花だが、連続模様にするために四弁を考案している。プロペラのように捩じれを表現するフォルムになっている。この綿密な絵付けを43枚仕上げている。

憲吉はデザインのセンスが抜群に良く、色彩とデザインが心を晴れやかにするものを制作している。それが魅了され続けている‘色絵飾筥’。瓢箪の形をした壺からでた花は黄色の地に明るく浮かび上がっている。2007年、世田谷美で開かれた回顧展で遭遇したときは黄色の輝きにびっくりし、声を失ってながめていた。憲吉は天性のカラリスト! 以来、ときどき図録を引っ張り出してこの飾筥と対面している。

東近美が所蔵する‘色絵金銀彩四弁花模様飾壺’はとても見栄えのする作品。印象深いのは金彩で輪郭された四弁の花の白。壺の口辺の白と蓋の端の白と良いバランスで銀彩の地に美しく映えている。模様が大きいため四弁が強いインパクトをもって目にとびこんでくる。忘れられない壺である。

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2023.09.03

美術で‘最高の瞬間‘! 川之辺一朝 香川勝広 江里佐代子

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   川之辺一朝の‘石山寺蒔絵文台’(1899年 三の丸尚蔵館)

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   香川勝広の‘和歌浦図額’(1899年 三の丸尚蔵館)

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   江里佐代子の‘截金彩色飾筥「花風有韻」’(1991年 文化庁)

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    ‘截金飾筥「清風」’(2001年)

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    ‘まり香盒’(2005年)

秋に改築工事の一部が完成する三の丸尚蔵館の訪問計画はまだ決まってない
が、どんな名品がでてくるか楽しみである。ここで川之辺一朝(1830~
1910)の‘石山寺蒔絵文台‘にお目にかかったときは高い技術に裏付けられ
た蒔絵のすばらしさに200%魅了された。長方形の文台に描かれているの
は石山寺の名所である蛍谷の図で、紅葉の散る湖岸に打ち寄せるさざ波とそ
こにおぼろに映った月の情景が繊細な蒔絵で表現されている。このさざ波は
琳派の流水文様を連想させる。

彫金家香川勝弘(1853~1917)の‘和歌浦図額‘は自分の家に飾ってお
きたいという気がする作品。彫金技術の数々が尽くされて制作されており、
飛翔する鶴の群れは銀や赤銅などを組み合わせた象嵌により立体的になり、
本物の鶴が飛んでいるようにみえる。同じく象嵌が施された波のリアルな盛
り上がりにも目が点になる。

仏像装飾技法である截金に高い関心をもち続けているが、それを飾筥、香合、
屏風、衝立などの工芸品としてよみがえらせた作家がいる。京都市出身の
江里佐代子(1945~2007)。2005年、三島市にある佐野美で
開催されたはじめての回顧展に運よく巡り合ったのは生涯の思い出となって
いる。その前、特別工芸展などで散発的にお目にかかっていたのが‘截金彩色
飾筥「花風有韻」’。金や銀の箔を極限まで細く切った線でつくられた文様の
すばらしいこと。これほど精緻な截金を生み出すのに必要な時間とエネルギ
ーを想像すると背筋がすぐシャキッとする。

正方形の飾筥‘清風’は地味な色調だが、截金文様がかもしだす気品や荘厳さに
心が洗われる。そして、繊細な截金の曲線と色彩の輝きが目を楽しませて
くれる球体の‘まり香盒’にも大変惹かれる。江里佐代子に乾杯!

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2023.09.02

美術で‘最高の瞬間‘! 中村勝馬 山田貢 芹沢銈介

Img_0003_20230902230401     中村勝馬の‘一越縮緬地友禅訪問着 縢’(1962年 東近美)

Img_0004_20230902230401     山田貢の‘紬地友禅着物 夕凪’(1977年 東近美)

Img_0001_20230902230401  芹沢銈介の‘型絵染松竹梅文渋木おやり地着物’(1933年 日本民藝館)

Img_0002_20230902230401    ‘紬地型絵染二曲屏風・四季’(1960年 東近美)

Img_20230902230401    ‘風の字文のれん’(1957年 東北福祉大芹沢銈介美術工芸館)

東近美が所蔵する友禅の着物ですごく前衛的な図柄が気を惹くのが中村勝馬
(1894~1982)の‘一越縮緬地友禅訪問着 縢(かがり)’。右肩から斜
めに伸びる青と金色の繊細な線は左からくる線と交差して夜の都会のビルの
ようなイメージをつくっている。黒の縮緬地にこんなハッとさせる模様が使
われた訪問着にであうとは。着物にもアート的なデザインがみられても違和
感はないが、作家には相当シャープなセンスが備わっている。

中村に師事した山田貢(1912~2002)の‘紬地友禅着物 夕凪’はたくさん登場する網干に目が寄っていく。三角形の形が印象的な干し網は海北友松が描いた‘網干図屏風’(三の丸尚蔵館)が胸に深く刻まれているから、この友禅にも敏感に反応する。絵画的な表現ができる友禅の特徴が最大限に発揮されている。

民藝派にも参加した芹沢銈介(1895~1984)は絵模様を型紙で表した型絵染の分野で独自の作品分野を切り開いた。芹沢の着物をみたのは日本民藝館に飾ってあった‘型絵染松竹梅文渋木おやり地着物’が最初だったかもしれない。これで芹沢の名前を知った。リズミカルに繰り返される文様はビジーな感じがせず目に心地いい。

独創的な型染めはモチーフの選択のおもしろさによって魅了をましている。‘紬地型絵染二曲屏風・四季’では四季の身の回りの風物と文字がすっきりした意匠と色彩で構成されている。たとえば、夏の字は黄色、緑、赤で塗られ青の字にくっきり浮かび上がっている。この発想にくらっときた。そして、‘風の字文のれん’は見た瞬間、これはすごいと思った。これは1976年パリのグラン・パレで開催された回顧展のポスターとして使われた。数あるのれんデザインのなかではもっとも魅了されている。

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2023.09.01

美術で‘最高の瞬間‘! 木村雨山 森口華弘 志村ふくみ 

Img_0001_20230901224801    木村雨山の‘縮緬地友禅梅文訪問着’(1966年 東近美)

Img_0004_20230901224801     ‘縮緬地友禅花鳥文訪問着’(1934年 東近美)

Img_20230901224801   森口華弘の‘麗光縮緬地友禅訪問着 梅林’(1957年 東近美)

Img_0003_20230901224801    ‘友禅訪問着 羽衣’(1984年 滋賀県近美)

Img_0002_20230901224801     志村ふくみの‘紬織着物 澤’(1967年 東近美)

Img_0005_20230901224801     ‘紬織着物 若紫’(2007年)

大相撲9月場所が9/10からはじまるので気分がだんだん盛り上がってき
た。わが家は隣の方も相撲が好きなので年6場所ある大相撲で一年がまわ
っているといっても過言でない。9月場所は国技館での興行だが、地方場
所のときは土俵近くの席に陣取った着物姿の女性がTV画面に15日間映し
出される。着物は毎日違う。着物には小さい頃から親しんでいるからその
色や柄を興味津々でみている。

街の呉服屋に飾られている着物とは違って工芸展に出品される友禅染や
型染の着物とのつきあいは東近美工芸館からはじまった。加賀友禅の木村
雨山(1891~1977 金沢の生まれ)の‘縮緬地友禅梅文訪問着’の前
に立ったとき、大変感動した。琳派の光琳が得意とした水流文を
彷彿とさせる自由な図柄を息を呑んでながめていた。日本画の伝統的なモ
チーフである花鳥を着物全身に模様として表した‘花鳥文訪問着’も絵画その
もの。鴛鴦、雉が牡丹などの花に囲まれて飛んだり動きまわっている。

森口華弘(1909~2008 滋賀県守山市の生まれ)は京都を代表す
る友禅作家で梅や菊を主題にして華やかさのなかに気品の漂う文様の世界
を創り出した。お気に入りの‘麗光縮緬地友禅訪問着 梅林’は梅の模様が
ビジーさを感じさせないのがすごいところ。本当にすばらしい。1984
年につくられた‘友禅訪問着 羽衣’は抽象絵画をも連想させる洗練された
‘羽衣’の美しさが際立っている。この現代感覚にあふれる意匠センスには200%参った!

草木からの自然染料で染められた糸によって織られた作品で国際的にも高く評価されている志村ふくみ(1924~ 滋賀県近江八幡市の生まれ)の着物に魅了され続けている。はじめてお目にかかったのは東近美にある‘紬織着物 澤’。すごく繊細で優しい雰囲気につつまれたようでじっとみていると心が鎮まっていく。これにいっぺんに嵌った。2016年、世田谷美で開催された回顧展には喜び勇んで出かけた。志村ワールドを堪能したが、‘若紫に強く惹かれた。

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