« 2023年7月 | トップページ | 2023年9月 »

2023.08.31

美術で‘最高の瞬間’! 北川宏人 吉田良 四谷シモン

Img_0003_20230831223301
   北川宏人の‘TU07004-ワンピース・花柄’(2007年)

Img_0004_20230831223301
  ‘ニュータイプ2003ーブラック’(2003年 金沢21世紀美)

Img_0001_20230831223301
   吉田良の‘すぐり’(1986年 東近美)

Img_20230831223301
   四谷シモンの‘解剖学の少年’(1983年 東近美)

Img_0002_20230831223301
   小名木陽一の‘赤い手ぶくろ’(1976年 東近美)

2007年、東近美工芸館で開館30周年を記念する‘工芸の力ー21世紀
の展望’が開かれた。そこで北川宏人(1967~)の具象彫刻のようでも
あり工芸的な人形にもみえる作品に遭遇した。テラコッタでつくられた
等身大の若者男女は細身の体形をしており、少女漫画に登場するチャラク
ターのように最新ファッションの衣服をオシャレに着こなしている。人気
の女の子を思わせる‘ワンピース・花柄’と幼さが残る‘ニュータイプ2003
-ブラック’が目に焼き付いている。

現在、BSプレミアム(金曜夜)で放送している横溝正史の金田一耕助シリ
ーズで殺められる若い女を連想させる人形が東近美にある。それは吉田良
(1952~)が1986年に制作した‘すぐり’。赤い着物を着た娘が足を
前に投げ出して座っている。白いおしろいを塗った顔につり上がった大き
な目、真っ赤な唇、ぞくぞくっとする怖さがある。‘悪魔の手毬唄’や‘獄門島’
で手毬唄や俳句に見立てて実行された殺人事件のおぞましいシーンが頭を
よぎる。

四谷シモン(1944~)の‘解剖学の少年’は小中学校の保健室に置いてあ
った人体模型がすぐ浮かんでくる。自分の体にもこれと同じ心臓、肝臓、
胃、腸があるのかとちょっと不安で怖いような気持が抑えられなかった。
だから、腹の蓋を開けている少年の精神状況はどうなのか、つい聞いてみた
くなる。

人体の一部を巨大に見せる小名木陽一(1976~)の‘赤い手ぶくろ’
には度肝をぬかれた。大きな手で印象深いのはミケランジェロの傑作彫刻‘
ダヴィデ’(1501~04年)にみられる異様に大きい右手。小名木はミ
ケランジェロを意識したのだろうか。

| | コメント (0)

2023.08.30

美術で‘最高の瞬間‘! 平田郷陽 堀柳女 鹿児島壽蔵

Img_0001_20230830224401
   平田郷陽の‘清泉’(1961年 東近美)

Img_0002_20230830224401
    ‘抱擁’(1966年)

Img_0003_20230830224401
    ‘朝霜’(1955年)

Img_20230830224401
    堀柳女の‘瀞’(1956年 東近美)

Img_0004_20230830224401
    鹿児島壽蔵の‘志賀島幻想箕立事’(1967年)

人形というと小さい頃から親しんでいる雛人形とか博多人形くらいしか思い
浮かばなかったのに、展覧会にでかけるのが大きな楽しみになってから創作
人形に接する機会がうまれてきた。たとえば、10年とか20年に一回行わ
れる特別企画の日本伝統工芸展で大変感動する人形に遭遇した。それは
平田郷陽(1903~1981)の超絶技巧によってつくられた写実表現が
冴えわたる斬新な人形。

人形で‘最高の瞬間’を体験したのが‘清泉’、16,17歳くらいの正座した娘
がふと何かに気づいた瞬間が描かれている。小顔の娘は街を歩けばすぐにで
もみつかるので、人形のようにはみえずその生感覚の人体表現に思わずたじ
ろぐ。赤ちゃんと慈愛に満ちた母親が登場する‘抱擁’と‘朝霜’はあまりにいい
出来なので背筋をしゃんとしてみようという気になる。これほど芸術性の高
い人形にお目にかかれたのは生涯の喜び。まるでラファエロの聖母子像をみ
ているよう。すばらしい!

堀柳女(1897~1984)は東京生まれの女性人形作家。東近美でみた
‘瀞’(とろ)はすっと立った中国風の女性の眠っているようにも微笑んでいる
ようにもみえる穏やかな表情が強く印象に残っている。身に着けている衣装
のシックな文様が人形らしくない高貴さを感じさせる。

鹿児島壽蔵(1898~1982)の‘志賀島幻想箕立事’はおもしろい形に
目が点になった。これは夫婦愛の象徴である‘箕立て’の習慣を人形で表して
いる。箕をもった逆さまの女性が腰を思いっきり曲げている。こんな意表を
突く形をした人形があったとは。まさに創作された人形の魅力。

| | コメント (0)

2023.08.29

美術で‘最高の瞬間‘! 生野祥雲斎 飯塚琅玗斎 本間秀昭

Img_20230829230101    生野祥雲斎の‘竹華器「怒濤」’(1956年 東近美)

Img_0003_20230829230201     ‘無双編竹盛器’(1965年 東近美)

Img_0001_20230829230201    飯塚琅玗斎の‘花籠 銘 久寿玉’(1950年頃 出光美)

Img_0002_20230829230201     ‘花籠 銘 旅枕’(1940~44年 メトロポリタン美)

Img_0004_20230829230201    本間秀昭の‘流紋’(2014年 メトロポリタン美)

陶芸や漆工にくらべると竹工芸をみる機会は限られている。東近美工芸館
(現在は金沢に移転)が本館から歩いて5分くらいのところにあったころは
本館の特別展をみた後よく足を運んでいたから、生野祥雲斎(1904~
1974)の傑作‘竹華器「怒濤」’に遭遇することもあった。小さい頃、竹
細工の定番竹トンボはお手のものだった。だから、馴染んだ竹の延長でこれ
をみると高いレベルの出来栄えにMaxのサプライズに見舞われる。

荒れ狂う波濤のダイナミズムを薄い竹を滑らかにねじりまげ軽やかに表現し
ているのは竹を素材にしたアートの大きな魅力である。これに対し‘無双編竹
盛器’は果物でも文房具でもなんでもここにあっても違和感がなさそうな
作品。手間暇をいっぱいかけ高い技術によってこの端正で安定感のある籠が
生まれている。

出光であった企画展でお目にかかった飯塚琅玕斎(1890~1958)の
‘花籠 銘 久寿玉’は‘怒濤’同様、竹による糸巻きのようなイメージが強く残って
いる。台北の故宮博物院に人気の珍玩として象牙の球体が中にいくつもできた
ものがあるが、この作品はそれを連想させる。‘花籠 銘 旅枕’はまさに竹で作
った携帯枕の感じがする。素朴な竹の質感が旅の疲れをとってくれそう。

2019年、東近美工芸館で開催された‘竹工芸名品展’で遭遇した本間秀昭(1959~)の‘流紋’にびっくり仰天した。竹でこんなアートをやってのけるのか!竹をeの文字のように思い切って曲げ躍動感あふれる水の流れを表現している。水が勢いよくざっざっと音をたてて流れているよう。このフォルムに感動する。

| | コメント (0)

2023.08.28

美術で‘最高の瞬間’! 藤田喬平

Img_20230828223401
    ‘飾筥「紅白梅」’(1995年 東芸大美)

Img_0001_20230828223401
    ‘飾筥「湖上の花」’(2003年)

Img_0004_20230828223401
    ‘水指「若葉」’(1994年 藤田喬平ガラス美)

Img_0002_20230828223401
    ‘虹彩’(1964年 東近美)

Img_0003_20230828223401
    ‘追い風’(1991年 東近美)

百貨店のなかにある美術館で開催される展覧会は最近は思い出に残るような
ものは少なくなっているが、以前はHPの定期的なチェックが欠かせないほど
期待値の大きい特別展が頻繁にどこかで行われていた。たとえば、日本橋
三越、高島屋、東京駅大丸、銀座松屋、横浜そごう。2007年、日本橋
高島屋でみた‘藤田喬平ー雅の夢とヴェニスの華’展は一生忘れられないガラス
工芸の名品との出会いとなった。

藤田喬平(1921~2004)の代名詞といえる作品が琳派の装飾様式を
ガラスで表現した‘飾筥(かざりばこ)’の連作。この展覧会でその数は一気に
増え、そのあとにお目にかかったものを合計すると全部で56点くらいにな
った。どれも金箔やプラチナ箔などによって装飾されたガラスの筥なのだが、
ガラスの質感を感じず現代に受け継がれた琳派の華麗な工芸品という印象が
強い。

とくに魅了されているのは琳派のイメージがすぐ浮かぶ‘紅白梅’シリーズ。
これを宗達や光琳がみたら裸足で逃げるだろう。青の地に金箔の流れが浮き
上がる‘湖上の花’は現代感覚にマッチした琳派風表現で立ち尽くしてみてしま
う。‘水指「若葉」’は緑と黄金の組み合わせが品のいい装飾美を生み出し春の
季節感を演出している。外国人がみると、これこそ日本のガラスだと感動す
るにちがいない。

ガラスのもっている飴のような素材の特徴を生かしたいびつな形がハッとさ
せる‘虹彩’は緊張感のあるカオス的な造形美によって強い刺激となり視線を
釘付けにする。目の覚める赤の力と風の流れを連想させるフォルムが気を惹
く‘追い風’も強い磁力を発している。

| | コメント (0)

2023.08.27

美術で‘最高の瞬間’! 黒田辰秋

Img_20230827223101
    ‘赤漆流稜文飾箱’(1957年 東近美)

Img_0001_20230827223101
    ‘朱漆捩紐文火鉢’(1962年 豊田市美)

Img_0002_20230827223101
    ‘拭漆樽彫花文椅子’(1964年 豊田市美)

Img_0004_20230827223101
    ‘栃杢拭漆手箱’(1970年 東近美)

Img_0003_20230827223101
    ‘乾漆耀貝螺鈿飾筺’(1972年)

展覧会をみたあと購入している図録には主催する美術館がつくるもののほか
に、出版社が本の形にして出品作を載せているものがたまにある。2014
年、横浜そごう美で開催された‘黒田辰秋の世界’(世界文化社)の図録はわ
が家のお宝図録のひとつになっている。このタイプの美術本はレイアウト、
デザインや説明文に見慣れた図録とはひと味もふた味も違う工夫が施されて
いるので、手に取る回数が増え愛読書になっていく。

木工作家黒田辰秋(1904~1982 京都の生まれ)の存在を知ったの
は日本民藝館に通っていたとき。工芸関連の特別展に遭遇すると、辰秋の
木工や漆芸に出会う機会があるが、それは単発だから作品の全体をつかむ
にはほど遠い。だから、そごうの回顧展には喜び勇んで出かけた。最も惹
かれるのが‘赤漆流稜文飾箱’。長方形の箱の上の中心から外側にむかって祭り
の屋台で売っている風車のような文様ができている。深く切り込まれた力強
い造形が目の覚める赤によって強く印象付けられる。

インパクトの強さでは‘朱漆捩紐文火鉢’にも思わず足がとまる。大きな火鉢
の胴全体に巻きつくように表現された捩紐文の圧の強いこと。なぜか天狗の
お面が浮かんできたり、龍の胴体を連想したりする。この吉祥文の‘宝結’
の存在感はずっと記憶にとどまる。豊田市美はこれともうひとつすごいもの
を所蔵している。それは映画監督の黒澤明(1910~1998)が御殿場
に建てた別荘で使うために依頼した‘拭漆樽彫花文椅子’。辰秋は‘王様の椅子’
と名付けた。堂々とした椅子で背もたれの部分には定番の彫花文がほどこ
されている。

木目をみていると心が落ちつく‘栃杢拭漆手箱’。木の質感や香りが感じられる
のが木工の魅力。こういう名品がひとつでもわが家にあるといいのだが。
‘乾漆耀貝螺鈿飾箱’は五彩に輝くメキシコ鮑の貝が螺鈿に使われている。深い
海の色を見るような神秘的な美しさに魅了され続けている。

| | コメント (0)

2023.08.26

美術で‘最高の瞬間‘! 深見陶治 田嶋悦子 重松あゆみ

Img_0005_20230826224001
    深見陶治の‘瞬 Ⅱ’(1998年 茨城県陶芸美)

Img_0001_20230826224001
    ‘遥カノ景 望’(1993年 東近美)

Img_20230826224001
    田嶋悦子の‘Cornucopia 02-XI’(2002年 東近美)

Img_0004_20230826224001
     ‘Cornucopia 03-1’(2003年)

Img_0002_20230826224001
    重松あゆみの‘Parasite (やどりぎ)’(1998年 東近美)

魅了され続けている青磁の展覧会が開催されるといつも喜び勇んで出かけて
いる。だから、中国で焼かれた青磁の名品で日本にあるものはだいたい目の
中に入った。明治以降に活躍している陶芸家たちも青磁の美を追い求めて
作陶にエネルギーを注いでいる。冴えわたる色の発色に相変わらず心を打た
れる一方で、形については伝統的な作品からぐんと進化したものに遭遇する
ことも多い。

深見陶治(1947~)の‘瞬 Ⅱ’には大きな衝撃を受けた。すぐ思い浮かん
だのはアメリカのステルス戦闘機。薄くてシャープな造形はこれまでみた
青磁のイメージからはまったく想像できなかったもの。いっぺんに深見のフ
ァンになった。‘遥カノ景 望’もハイセンスな都会のホテルにさらっと置いて
あるような鋭い垂直のフォルムに大変惹かれる。

大阪府出身の田嶋悦子(1959~)が2002年に制作した‘Cornucopia
02-XI’は一度見たら忘れられないオブジェ。植物の大きな葉っぱが生き物
ように重なって見栄えのするフォルムが目の心地いい。絵画でいうと花を画
面いっぱいに描く女流画家オキーフの作品をみているような気分。
‘Cornucopia 03-1’は緑の葉っぱに使われているガラスとそのほかの陶の
組み合わせがさらにダイナミズムを生んでいる。

重松あゆみ(1958~)も大阪府の生まれ。‘やどりぎ’をみたとき瞬間的
にイメージしたのはブランクーシの抽象彫刻、柔らかい質感が手に伝わって
きてヴィーナスを連想させる形態にすーっととりかこまれる感じ。これも
陶芸のオブジェ。

| | コメント (0)

2023.08.25

美術で‘最高の瞬間’! 八木一夫 中島晴美

Img_0002_20230825223601
    八木一夫の‘ザムザ氏の散歩’(1954年)

Img_0001_20230825223601
     ‘黒陶 環’(1967年 東近美)

Img_0003_20230825223601
     ‘発芽の様相’(1977年 広島県美)

Img_20230825223601
   中島晴美の‘苦闘する形態V-1’(1995年 東近美)

Img_0004_20230825223601
    ‘反転しながら増殖する形態0701’(2007年)

京都出身の彫刻家八木一夫(1918~1979)はおもしろい名前のつい
た作品によってイメージができている。オブジェ‘ザムザ氏の散歩’はメキシ
コや南米の古代文明の遺跡から出土したようなものがどうして人の散歩にな
るのか? 戸惑いがぬぐえないままみているとジャコメッティの作品が
かぶってくる。タイトルに似たところがある。たとえば、‘髪を束ねた女性立
像’、‘ヤナイハラの頭部’、‘眠るヤナイハラ’。八木はジャコメッティを意識し
たのだろうか。

前衛表現のオブジェの最たるものが‘黒陶 環’。こういう作品をみるときは
陶芸なのか抽象彫刻なのかは横に置いて、オブジェとして楽しむことにして
いる。これまで体験したなかでこれと黒つながりで頭に浮かぶのがイサム・
ノグチの‘エナジーヴォイド’、そして、ひび割れでぐにゃっとなった部分から
イタリアのポモドーロの‘球のある球体’が連想される。

広島県美の平常展示にお馴染みになった‘発芽の様相’は、小さい頃の記憶で
エンドウ豆を水に浸しているとこの舌をペロッとだしたような形になること
を思い出す。‘ザムザ’とちがってタイトルと作品のイメージがピッタリ合って
いる。

‘中島晴美(1950~)は岐阜県恵那市生まれの陶芸家。‘苦闘する形態V-1’
に東近美でお目にかかったとき、たんこぶのような丸いでっぱりをたくさん
くっつけて形成された柔らかい形とその白の表面に描かれている青の大小の
水玉模様から、この作家はてっきり女性だと思った。でも、名前とは逆の
現代アート感覚の表現にエネルギーを注ぎ込んだ男性だった。2007年に
つくられた‘反転しながら増殖する形態0701’はその形態が複雑に進化し、
広い宇宙のどこかに存在する未来生物を想像させる。

| | コメント (0)

2023.08.24

美術で‘最高の瞬間‘! 大場松魚 田口善国 室瀬和美

Img_20230824224201
    大場松魚の‘平文輪彩箱’(1984年 石川県美)

Img_0003_20230824224201
    田口善国の‘日蝕蒔絵飾箱’(1963年 東近美)

Img_0001_20230824224201
     ‘鯉蒔絵飾箱’(2006年)

Img_0004_20230824224201
     ‘遊蒔絵青貝飾箱’(2002年)

Img_0002_20230824224201
    室瀬和美の‘蒔絵螺鈿八稜箱 彩光’(2000年 文化庁)

近代漆芸界に突出した技術と表現力をもった松田権六が出現すると、そのあ
と権六の教えを消化し独自の作風で新しい漆芸を創作する作家が続く。権六
と同じ金沢出身の大場松魚(1916~2012)は古い技法の平文(ひょ
うもん 金や銀などの板金を文様の形に切って器物に貼る)を現代に復興さ
せ、新風を吹き込んだ。

得意としたのが輪のモチーフ。‘平文輪彩箱’は斬新な文様が目を惹く傑作。
箱の表面に同心円の帯がいくつもまわり、その中に平文の草花がリズミカル
に連なっている。そして、黒の同心円には青貝の輪ができ神秘的な世界が生
まれている。一度石川県美を訪問したとき、権六以外にもこんないい作品が
あるのに驚いた。

東京生まれの田口善国(1923~1998)は早くから漆芸を権六に学び、
日本画を奥村土牛らに師事し、その才能を開花させた。いつか大きな回顧展
に遭遇にすることを願っているが、まだ縁がない。はじめてみた‘日蝕蒔絵飾
箱’は黒漆塗りで仕上げる高蒔絵で描かれた梟に一瞬ギョッとした。意表を
突く文様が蒔絵にでてくるとは。そして、高揚感が一気に高まったのが‘鯉蒔
絵飾箱’と‘遊蒔絵飾箱’、こんな高い芸術性を感じさせる蒔絵に出会ったことに
衝撃を受けた。どちらも個人の所蔵になっているが、いつも眺めていたい気
持ちはよくわかる。

田口に師事し、権六からも薫陶を受けた室瀬和美(1950~)の‘蒔絵螺鈿
八稜箱 彩光’も忘れられない傑作。正倉院に納まっているような古の蒔絵を
みている感じ。端正で気品のある文様表現が心をとらえて離さない。室瀬の
作品を田口同様、まとまった形で鑑賞してみたい。とくに最新作にお目にか
かりたい。

| | コメント (0)

2023.08.23

美術で‘最高の瞬間‘! 松田権六

Img_0001_20230823222701     ‘草花鳥獣文小手箱’(1919年 東芸大美)

Img_0002_20230823222701     ‘鷺蒔絵棚’(1938年 広島県美)

Img_0003_20230823222701     ‘蓬莱之棚’(1944年 石川県美)

Img_20230823222701     ‘赤とんぼ蒔絵箱’(1969年 京近美)

Img_0004_20230823222701     ‘金胎蒔絵花瓶’(1970年)

‘うるしの神様’、‘漆聖’と崇められる松田権六(1896~1986 金沢の
生まれ)の回顧展と2006年東近美でめぐりあったのは生涯の思い出であ
る。ずらっと飾られた名品の数々をみると、権六が近代陶芸の板谷波山のよ
うに漆芸界における別格の存在というのが腹にすとんと落ちる。

‘草花鳥獣文小手箱’は東京美術学校の卒業制作として、権六の才能が存分に
発揮され世間に一躍認められた作品。鹿や兎、鳥などが猛スピードで跳んだ
り飛翔しているのが、蓋の裏側に口を大きく開け吠えている唐獅子が描かれ
ており、獅子の恐怖から逃げまどう場面になっている。緊迫した状況がすぐ
感じられる躍動感マックスの姿で表現されているのがすごい。

広島県美の平常展でお馴染みの‘鷺蒔絵棚’と故郷の石川県美が所蔵するお宝中
のお宝‘蓬莱之棚’の前では息を呑んでみてしまう。‘鷺’は波を背景に大きく羽
を広げ着地寸前の姿がまるで日本画のように描かれている。‘蓬莱’は一見する
と琳派の宗達や光琳の絵がダブってくる。しなやかな水流模様と意匠化され
た鶴の群れは琳派の豊かな装飾性を受け継いでいる。

権六の円熟期の代表作が‘赤とんぼ蒔絵箱’。小さい頃よく追っかけた赤とんぼ
の群れが水辺に自生する葦の花の上をひらひらと飛んでいる。胴は朱漆で描か
れ、羽は夜光貝が使われている。黒地に黄金にみえる葦の花と赤とんぼが浮き
上がり、長側面では玉虫貝の青で表された水面が神秘的にとけこんでいる。
‘金胎蒔絵花瓶’は前衛芸術を連想させる大胆な模様表現に思わず足がとまる。

| | コメント (0)

2023.08.22

美術で‘最高の瞬間‘! 板谷波山

Img_20230822224701    ‘葆光彩磁珍菓文花瓶’(1917年 重文 泉屋博古館東京)

Img_0002_20230822224801     ‘彩磁禽果文花瓶’(1926年 重文 敦井美)

Img_0003_20230822224801     ‘葆光彩磁草花文花瓶’(1917年頃 石川県美)

Img_0001_20230822224801     ‘葆光彩磁花卉文花瓶’(1928年頃 出光美)

Img_0004_20230822224801     ‘彩磁瑞花祥鳳文花瓶’(1916年 MOA美)

近代陶芸で一番すごい陶芸家と思うのはやはり板谷波山(1872~1963
 茨城県筑西市の生まれ)。これまで波山の回顧展が開催されるときは見逃す
ことなく足を運んできた。広島に滞在中は北九州市にある出光美の別館にまで
でかけた。波山のコレクションで知られている美術館は出光、泉屋博古館、
熱海のMOA、新潟の敦井美、茨城県陶芸美。最初にまとまった形で波山のやき
ものをみたのは日本橋三越で開かれた‘敦井コレクション展’。

ここに川合玉堂らの日本画の名品とともに展示されていたのが波山。そのなか
にとびっきりいいのがあった。それが2006年重文に指定された‘彩磁禽果文
花瓶’。花瓶の表面全部に薄肉彫りにより花々や羽を大きく広げた鳥が描かれて
いる。重文のニュースを知ったときは思わず拍手した。

最初の重文となった‘葆光彩磁珍菓文花瓶’は惚れ惚れするような傑作中の傑作、
こんな品格のある近代陶芸はそうそうない。台北の故宮博物院に中国の名品と
一緒に並んでいる感じ。泉屋博古館東京で定期的にみれるのが嬉しくてたまら
ない。石川県美にある初期の作品‘葆光彩磁草花文花瓶’はアールヌーヴォー調に
意匠化された草花がとても洒落ている。波山の動きがあり現代的なデザインセンスにはほとほと感心させられる。

出光で存分に楽しめる波山のなかでお気に入りは‘葆光彩磁花卉文花瓶’。光沢をかくした葆光釉によってもやっとした柔らかい色彩に優美なモクレンや牡丹がつつまれている。なんともいえぬ幻想的な花の姿に惹きこまれる。MOAでも両手くらいお目にかかったが、とくに魅了されているのが目にとびこんでくる鳳凰が印象深い‘彩磁瑞花祥鳳文花瓶’。総模様の花瓶では2つの重文同様、声を失ってみてしまう。

| | コメント (0)

2023.08.21

美術で‘最高の瞬間‘! 濤川惣助

Img_20230821225601
    ‘七宝富嶽図額’(重文 1893年 東博)

Img_0002_20230821225601
   ‘七宝花鳥図三十額 尉鶲に牡丹’(1909年 迎賓館赤坂離宮)

Img_0004_20230821225601
   ‘駒鳥に藤’(1909年 迎賓館赤坂離宮)

Img_0003_20230821225701
   ‘小鷺’(1909年 迎賓館赤坂離宮)

Img_0001_20230821225701
    ‘菊紋蛍図瓶’(明治時代 清水三年坂美)

七宝家の濤川惣助(なみかわそうすけ 1847~1910)は京都出身の
並河靖之と苗字は漢字は違うが同じ‘なみかわ’、どちらもすごい技術で一世
を風靡したのがおもしろい。千葉県の農家に生まれた濤川は無線七宝という
技術を開発し、まるで絵画のような七宝を生み出した。焼成前に金属の植線
を抜き取ることにより輪郭線をなくし、日本画の濃淡やぼかしの表現が可能
になった。

最も有名なのが重文に指定されている‘七宝富嶽図額’。東博本館1階の正面
向かって左側の展示室に結構頻繁に飾られている。東近美の‘重要文化財の
秘密’にも出品された。1893年のシカゴ・コロンブス世界博覧会で披露さ
れ高い評価をえた。ぱっとみると水彩画の富士山をみている感じ。額にも入
っているからとても七宝には思えない。

2015年、わが家は大変うれしいことがあった。迎賓館赤坂離宮の見学に
応募したら、なんと大当たり!ウキウキ気分で‘花鳥の間‘に行くと濤川が日本
画家の渡辺省亭が描いた原画をもとに制作した‘七宝花鳥図三十額’がずらっと
飾られていた。迎賓館に濤川の無線七宝の傑作があることは知っていたが、
本物にお目にかかれるとは思ってもいなかった。ミューズに感謝!

見慣れたの花鳥画を楽しむ感覚で1点々夢中でみた。とくに惹かれたのが牡
丹のボリューム感がすごい‘尉鶲に牡丹’(じょうびたきにぼたん)に思わず足
がとまった。藤の紫に視線がむかう‘駒鳥に藤’や‘小鷺’の水辺にたたずむ白鷺
の姿にも心がとても和む。清水三年坂美は濤川をたくさんもっているが‘菊紋
蛍図瓶’がお気に入り。

| | コメント (0)

2023.08.20

美術で‘最高の瞬間‘! 並河靖之

Img_20230820223401
    ‘四季花鳥図花瓶’(1899年 三の丸尚蔵館)

Img_0001_20230820223401
    ‘桜蝶図平皿’(明治中期 京近美)

Img_0003_20230820223401
    ‘花蝶文花瓶’(1892年 東博)

Img_0002_20230820223401
    ‘藤草花文花瓶’(明治後期 並河靖之七宝記念館)

Img_0004_20230820223401
    ‘菊唐草文細首小花瓶’(明治中期 並河靖之記念館)

七宝は祭りの屋台や観光旅行したとき立ち寄るお土産店に並んでいることが
多いので、どんなものかというのはわかっている。でも、明治期人気の工芸
品として海外に輸出されたものとかパリやシカゴの万国博覧会に出品された
名品を実際にみたのは美術鑑賞が趣味になってからのこと。

七宝で‘最高の瞬間’!を体験したのは並河靖之(なみかわやすゆき 1845
~1927)の‘四季花鳥図花瓶’。皇室名宝展か三の丸尚蔵館の特別展でみた
が、これほど品格のある七宝があったのか、大変感動したのを鮮明に覚えて
いる。皇室に納められた名品で1900年のパリ万国博覧会に出品され金賞
を獲得した。まるで絵筆で描いたような細密な絵柄により七宝焼きのイメー
ジが変わった。春満開の桜に青い鳥が遊んでいる。黄色や緑に目がいくが、
背景の艶のある黒地が鮮やかに浮かび上がらせている。

‘桜蝶図平皿’もお気に入りに一品。細密画をみているようで、中央にあつまる
喋々の意匠的な美しさが目に心地いい。2017年、東京都庭園美で没後
90年を記念し並河靖之のはじめての回顧展が開催された。いつかみたいと
願っていた‘桜蝶図’が登場したので天にも昇る気持ちだった。東博でときどき
展示される‘花蝶文花瓶’はここでも蝶が華麗に舞っている。1893年のシカ
ゴ・コロンブス世界博覧会に出品され高い評価を得た。

この回顧展に巡りあえたのはつくづく運が良かったと思う。京都にある並河
靖之七宝記念館が所蔵する’藤草花文花瓶‘の前では思わず、おおーと声がでた。
優雅に垂れる藤の美しいこと。そして、鮮やかな青の地が目にとびこんでく
る‘菊唐草文細首小花瓶’も息を呑んでみていた。並河靖之に乾杯!

| | コメント (0)

2023.08.19

美術で‘最高の瞬間‘! 宮川香山 鈴木長吉

Img_0003_20230819224101    宮川香山の‘黄釉銹絵梅樹図大瓶’(重文 1892年 東博)

Img_0004_20230819224101    ‘藤花絵菊花形共蓋壷’(明治時代後期 泉屋博古館東京)

Img_0002_20230819224101    ‘褐釉蟹貼台付鉢’(重文 1881年 東博)

Img_20230819224101     鈴木長吉の‘鷹置物’(重文 1892年 東博)

Img_0001_20230819224101

Img_0005_20230819224101     ‘十二の鷹’(重文 1893年 国立工芸館)

東博によくでかけていたころ、本館の平常展示をHPで定点観測し、東博の
ガイドブックの代わりになる立派な特別展図録に収録されている作品と突
き合わせをし、鑑賞の済みマークをつけていた。宮川香山(1842~
1916)の‘黄釉銹絵梅樹図大瓶’は思い入れの強いやきもの。この瓶の
美しい形にいっぺんに魅せられのだが、どういうわけかミュージアムショ
ップには絵葉書が用意されてない。やっと図版が手に入ったのは4年くら
い前に開催された‘東博の名品展’。今はいい気持で眺めている。

香山のやきものを数は多くはないがまとまった形でお目にかかったのは
泉屋博古館東京の‘板谷波山展’(2009年)。とくに目を奪われたのは
藤の紫にくらくらする‘藤花絵菊花形共蓋壷’。波山ばかりに関心がむかっ
ていたが、このあとは香山にも目が寄っていくようになった。それをさら
に促進させたのが2016年、サントリー美で遭遇した‘没後100年 
宮川香山’。ここで東博にある蟹をくっつけた置物のようなやきもの‘褐釉蟹
貼台付鉢’の別ヴァージョンにであった。陶器の表面に蟹だけでなく花びら
や小さい鳥まで貼られた装飾にびっくり仰天した。こういう大胆きわまり
ないやきものは海外で絶賛された。

今年の春、東近美で行われた‘重要文化財の秘密’は大勢の美術ファンの目を
楽しませてくれた。近代美術の国宝展のようなものだったが、絵画の傑作
だけでなく陶芸、工芸にも見ごたえのある作品が並んだ。圧巻だったのが
東博の平常展に定期的に飾られる高村光雲の‘老猿’と鋳金家の鈴木長吉
(1848~1919)の‘鷹置物’が一緒にみられたこと。この鷹は両翼幅
が89cmもある巨大な置物。まるで彫刻をみてるよう。

これに対し‘十二の鷹’のほうは色とりどりの金属が使われた12羽の鷹がいろんなポーズで木の架にとまっている。久しぶりの対面。国立工芸館は現在は金沢に移転したが、東近美から少し歩いたところにあった別館の工芸館でみたことがある。鈴木長吉の神業的な技術を声を失ってみていた。その鷹たちがまた現れた。うっかり近づくと攻撃されそうなので距離をとり、あまり目を合わさないようにした。

| | コメント (0)

2023.08.18

美術で‘最高の瞬間‘! 石川光明 旭玉山 海野勝珉

Img_20230818224201


    石川光明の‘古代鷹狩置物’(1899年 三の丸尚蔵館)

Img_0001_20230818224301
     ‘郭子儀’(明治時代)

Img_0002_20230818224301
    旭玉山の‘宮女置物’(1901年 三の丸尚蔵館)

Img_0003_20230818224301
    海野勝珉の‘太平楽置物’(1899年 三の丸尚蔵館)

Img_0004_20230818224301
      ‘蘭陵王置物’(1890年 三の丸尚蔵館)

拡張工事が行われている三の丸尚蔵館はこの秋に一部が終了し、展示が再開
されることになっている。楽しみである。皇室には美術品のとびっきりの名
品があることは過去2度体験した名宝展や三の丸尚蔵館で定期的に開催され
る企画展でおおよそ知ることができた。嬉しいのは三の丸尚蔵館は入館料が
いらないこと。出品作は展示室の関係で数は限られているものの、質の高い
日本画や陶芸や工芸が登場するのでいつも大きな満足度がえられ、気分が高
揚する。

小さい頃修学旅行で京都や奈良にいったとき、土産物屋で興味津々で眺めて
いたのが象牙でつくられた置物。小さいのに高い値段がついているので、と
ても買えないが欲しくてたまらなかった。三の丸尚蔵館には大変な量を使
って制作された牙彫の名品がある。石川光明(1852~1913)の‘古代
鷹狩置物’。均整のとれた鷹匠といまにも飛び立ちそうな鷹を息を呑んでみて
いた。写実性が強く表現されており、厳しい表情をした鷹匠が目の前のいる
よう。石川は江戸浅草の宮彫大工の家に生まれたので木彫にもいいのがある。
‘郭子儀’は思わず足がとまる。

旭玉山(1843~1923)の牙彫‘宮女置物’も傑作。何枚も重ねられた
衣装の紋様が高い技術によって細かく浮き彫りで表され、宮女の髪や桧扇が
丹念に彫られ、優美で雅な女性像になっている。こんな置物が家に会ったら
どんなに楽しいことか。

明治期金工技術の最高水準を示す作品といわれているのが海野勝珉(1844
~1915)の‘太平楽置物’。雅楽から題材をとり、‘太平楽’を舞う演者が表さ
れている。華麗な兜と鎧に身をつつんだ武人の剣をかまえる姿がじつにカッコ
いい。武者人形のように細部の意匠までこだわった装束が見事。この作品の
10年前につくられた‘蘭陵王’も動きのある表現が目を惹く。

| | コメント (0)

2023.08.17

美術で‘最高の瞬間‘! 舟越保武 舟越桂 

Img_0001_20230817222001
    舟越保武の‘病醜のダミアン’(1975年 埼玉県近美)

Img_20230817222001
     ‘原の城’(1971年 茨城県近美)

Img_0002_20230817222001
    舟越桂の‘戦争にみるスフィンクス’(2005年)

Img_0003_20230817222001
     ‘肩で眠る月’(1996年 愛知県美)

Img_0004_20230817222001
     ‘冬の本’(1988年)

首都圏にある美術館で東京以外でよく訪問するのは千葉市美、川村記念美、
埼玉県近美、神奈川県近美、横須賀美。埼玉県近美の印象はとてもよく、
たとえば、草間彌生展や原田直次郎展などは一級の回顧展だった。また、
平常展示のコーナーには日本画の鏑木清方、モネの積み藁といった名画が
並ぶので見ごたえがある。

彫刻家の舟越保武(1912~2002)を知ったのはこの埼玉県近美。
1975年に制作されたブロンズ像‘病醜のダミアン’に大きな衝撃を受けた。
この像のモデルはハワイにわたりハンセン病患者救済に献身的な働きをし
て自らもこの病気に倒れて亡くなったダミアン神父(1840~1889
 ベルギー人)。神父の死の直前に撮られた写真をもとにつくられた。
1982年インドを訪問したとき、でかけた観光名所でハンセン病患者を
よくみかけたので敏感に反応した。‘原の城’はカソリック信者である舟越
がキリシタン一揆、島原の乱の戦場となった原の城を訪ねたときの体験か
ら生まれた。キリシタン武士の亡霊のような感じ。

舟越桂(1951~ 盛岡市の生まれ)は舟越保武の息子。2008年、
運よく東京都庭園美で開かれた‘舟越桂展’に巡り合った。作品をみて日本
人のつくった肖像彫刻にはとても思えなかった。まさにワールドクラスで
高く評価される具象彫刻家のイメージ。とくに驚かされたのが両性具有の
スフィンクス・シリーズ、‘戦争をみるスフィンクス’。首が異様に長く、犬
を連想させる長い耳、大きな乳房をもつ筋骨隆々の肉体、どうみても周知
のスフィンクスではない。どこからこの発想が生まれたのだろう。

‘肩で眠る月’はタイトルの意味がつかめない作品。舟越桂の人物彫像はど
れも半身像、全身像とはちがいモデルとの距離が近く存在感をそのまま感
じる。でも、戸惑うのは後ろにも小さい顔がついていること。ジャコメッ
ティのシュール彫刻がちらっと頭をよぎる。‘冬の本’はヨーロッパにいる
若い女性がすぐ浮かんでくる。大きな瞳孔にとても惹かれる。

| | コメント (0)

2023.08.16

美術で‘最高の瞬間‘! 米原雲海 橋本平八 澤田政廣

Img_20230816222501
   米原雲海の‘清宵’(1907年)

Img_0001_20230816222601
    ‘竹取翁’(1910年 東博)

Img_0003_20230816222601
   橋本平八の‘幼児表情’(1931年 東近美)

Img_0004_20230816222601
    ‘花園に遊ぶ天女’(1930年 東芸大美)

Img_0002_20230816222601
    澤田政廣の‘白鳳’(1929年 佐野美)

彫刻に焦点をあてた展覧会は絵画にくらべると開催される回数はぐんと少な
い。だから、京都や奈良のお寺にある仏像の名品が東博で公開されるような
ときは喜び勇んででかけることが多い。その思いは明治以降に制作された
木彫作品についても同じだが、これはなかなか実現しない。となると、東博、
東芸大美、東近美、MOAのHPで平常展示や彫刻展を定点観測して粘り強
く鑑賞の機会を待つのが最良の対応となる。美術とのつきあいは長期戦と心
得ているといつか幸運が巡ってくる。

米原雲海(1869~1925)の‘清宵’(個人蔵)にお目にかかれたのは
2008年に開催された‘日本彫刻の近代’(東近美)に運よく遭遇したから。
こんなにぐっと惹き込まれる女性の木彫像があったとは。いつも眺められる
コレクターが羨ましい。‘竹取翁’は竹林の中に可愛い幼子をみつけた翁が驚く
場面が生き生きと表現されている。映画のシーンをこれをみて思い出すくら
い立体的な構成力がスゴイ。

橋本平八(1897~1935)の‘幼児表情’は強く印象に残っている作品。
口をきっと結んだ男の子はなにか不満があり納得できない顔をしている。
母親に叱られたことに無言の抵抗をしているのだろうか。こういう日常生活
によくある光景をそのままとらえた人物彫刻をみたことがないから、橋本平
八の名前が深く胸に刻み込まれた。橋本はモデルの手に視線が向かうように
制作する。‘花園に遊ぶ天女’でも裸体像の天女はインパクトのある手の動きを
している。

刀剣の名品を所蔵することで知られている佐野美(静岡県三島市)でみた
澤田政廣(1894~1988 熱海の生まれ)の‘白鳳’もエポック的な鑑賞
体験だった。像の高さは2.63mもある大作。白鳳時代の仏像を連想させ、
木彫のもつおおらかでシンメトリーな造形が心をとらえて離さない。

| | コメント (0)

2023.08.15

美術で‘最高の瞬間‘! 平櫛田中 

Img_0005_20230815223801
   ‘鏡獅子’(1965年 小平市平櫛田中美)

Img_0001_20230815223801

Img_0002_20230815223801
   ‘転生’(1920年 東芸大美)

Img_20230815223801
   ‘幼児狗張子’(1911年 井原市田中美)

Img_0004_20230815223801
   ‘落葉’(1913年 広島県美)

Img_0003_20230815223801
   ‘張果像’(1942年 出光美)

広島で仕事をしているとき、休日は中国地方にある美術館をよく訪れた。
岡山県で楽しい思い出があるのは倉敷の大原美、日本画家の小野竹喬の作
品を展示している笠岡市立竹喬美、そして、近代木彫界に輝かしい足跡を
残した平櫛田中(1872~1979)に出会える井原市立田中美。井原
市は田中の故郷。竹喬も田中も文化勲章を受章しているビッグネームだが、
この広島時代からつきあいがはじまった。

平櫛田中(ひらくしでんちゅう)は最初、田中が‘でんちゅう’と読めなか
った。107歳まで生きた伝説の彫刻家が井原市の出身だったとは。田中
に関連した美術館はもうひとつ小平市平櫛田中美がある。ここに傑作中の
傑作がある。有名な‘鏡獅子’。これは国立劇場にある鏡獅子が1958年
に完成したのちに、縮小して制作されたもの。歌舞伎で演じられる人気演
目が彩色された木彫作品となって目の前にある。圧倒的な存在感に目を奪
われる。

東芸大美でお目にかかった‘転生(吐き出されたる人)’には度肝を抜かれた。
筋肉たくましい、恐ろしい形相をした鬼が口からさかさまに子どもを吐き
出している。すさまじい筋骨美は鎌倉時代の彫刻をみるよう。鬼は子ども
を食ったが、なまぬるいので吐き出した。田中は小さい頃よく父親から‘な
まぬるい(中途半端な)子は鬼も食わない’と叱られたらしい。その話を
彫刻で表現した。

‘幼児狗張子’はお気に入りの作品。目がくりっとした可愛い男の幼児が愛嬌
をふりまいている。毎日でもみたくなる。広島県美にみた‘落葉’はひょうひ
ょうとした僧の姿がじつにいい。ももんがが体を広げたような形が目に焼
きついている。‘張果像’は中国唐代、民間に伝えられる八仙人の一人。
‘ひょうたんから駒’の話でここでは白い驢馬を出している。

| | コメント (0)

2023.08.14

美術で‘最高の瞬間‘! 山崎朝雲 萩原守衛 中原悌二郎

Img_0003_20230814224301
   山崎朝雲の‘みなかみ’(1915年 三の丸尚蔵館)

Img_0004_20230814224301
    ‘大葉子’(1908年 東近美)

Img_20230814224301
   萩原守衛の‘女’(重文 1910年 長野県信濃美)

Img_0001_20230814224301
     ‘抗夫’(1907年 東近美)

Img_0002_20230814224301
   中原悌二郎の‘若きカフカス人’(1919年 東近美)

高村光雲に師事した山崎朝雲(1867~1954)の木彫で惹かれている
のが‘みなかみ’。三の丸尚蔵館でお目にかかったときは光雲の男性的な力強
い作品にくらべて女性の内面性がよく感じられ、息をのんでみていた。か弱
い女性の切なさのようなものがじーんと伝わってきた。‘大葉子’も同様に体
の前で両手をむすぶ姿がどこか寂しげ。この目をじっとみているとなにか悲
しいことを抱えているように思えてならない。

東近美の彫刻が飾ってある部屋にいると、一度訪問したことのあるロダン美
の思い出がよみがえってくる。その彫刻は重文に指定されている萩原守衛
(1879~1910)の‘女’。日本にもこんなロダン的な彫刻があるのかと
いう感じ。31歳の若さで亡くなった萩原がロダンの作品から受けた衝撃の
大きさがそのままでている。ロダンの‘永遠の偶像’とかロダンを愛したクロー
デルの‘熟年’が目の前をよぎる。

‘抗夫’は頑丈な男の体が傾いてみえるのが印象深い。その視線には緊張感がは
しり、辛い仕事を物語っている。ロダンの‘考える人’や‘カレーの市民’のよう
な圧倒的な存在感があり、見事な作品である。もっと生きていたら萩原は
すごい作品をたくさんつくったにちがいない。

北海道 釧路出身の中原悌二郎(1888~1921)もロダンに感銘を受け
たが、惜しいことに33歳のとき肺疾患が悪化し早世した。‘若きカフカス人’
をみるたびにこの彫刻家も本当にスゴイなと思う。

| | コメント (0)

2023.08.13

美術で‘最高の瞬間‘! 竹内久一 新海竹太郎 朝倉文夫

Img_20230813225101
    竹内久一の‘神武天皇立像’(1890年 東芸大美)

Img_0001_20230813225101
    ‘伎芸天’(1893年 東芸大美)

Img_0002_20230813225101
    新海竹太郎の‘ゆあみ’(重文 1907年 山口県美)

Img_0004_20230813225101
  朝倉文夫の‘墓守’(重文 1910年 台東区立朝倉彫塑館)

Img_0003_20230813225101
   ‘つるされた猫’(1909年 台東区立朝倉彫塑館)

絵画でも彫刻でもあっと驚くほど大きいと長く記憶に残る。日本でつくられ
た巨大木彫というと東大寺にある運慶・快慶の‘阿形・吽形‘がすぐ思い浮かぶ。
これは別格扱い級のスケールだが、明治以降につくられたもので一番驚いたの
は竹内久一(1857~1916)の‘神武天皇立像’。像の高さはなんと
2.36mもある。神武天皇の顔がこんな風だったかはさらっと流しても、この
彫像の大きさは深く心に刻まれる。

木彫に彩色された‘伎芸天’も大きな像で2.15mもある。ふっくらした顔立ち
や衣装の鮮やかな色使いをみると運慶の作品を連想させる。竹内の2点は東芸
大美の所蔵なので、ここの企画展や年2回の所蔵展に運よく巡り合えばお目に
かかれる。こういう大きな彫刻に出会うのは特別な鑑賞体験となるので、年に
一度公開されると嬉しいのだが。

新海竹太郎(1868~1927)のブロンズ‘ゆあみ’は海外の美術館でお馴染
みのギリシャ彫刻の裸婦像と同じ感覚でみてしまうが、よくみると髪型から
日本人の女性を意識してしまう。絵画では黒田清輝に‘智・感・情’とタイトルさ
れた裸婦図があるが、この彫像のほうがぐんと優しく柔らかい印象をうける。

台東区立朝倉彫塑館を訪問したとき、朝倉文夫(1883~1964)の有名
な‘墓守’をじっくりみた。手を後ろに組んで立つ墓守の爺さんがあまりに写実的
に表現されているので。本人に会っている感じがして離れられないのである。
自然体の姿がこれほどきまっている人物彫刻にはそうそう会えない。‘つるされ
た猫’は手と腕の大きさと猫の体が一体化しているところがおもしろい。

| | コメント (0)

2023.08.12

東博の‘古代メキシコ’展!

Img_0001_20230812225201
   ‘赤の女王のマスク・冠・首飾り’(マヤ文明 7世紀後半)

Img_0003_20230812225201
   ‘チャクモール像’(マヤ文明 900~1100年)

Img_0004_20230812225201
   ‘トニナ石彫171’(マヤ文明 727年頃)

Img_0002_20230812225301
   ‘死のディスク石彫’(テオティワカン文明 300~550年)

Img_20230812225301
   ‘鷲の戦士像’(アステカ文明 1469~86年)

6月にはじまり9月3日に終了する‘古代メキシコ’展(東博)は予想を上回る
観客数で館内は大変混雑していた。チラシにはこれまで開催されたマヤ展や
ナスカ展などに出品されたものより見ごたえ十分の古代遺跡がたくさん載っ
ているから、これは見逃せないという気分が強くなる。

もっとも関心の高かったのはマヤ文明の遺跡から出土した‘赤の女王のマスク
・冠・首飾り’。マヤ文明はメキシコとグアテマラにまたがっているが、この
マスクはメキシコのパレンケで発見された。使われた緑の孔雀石が心をとら
えて離さない。‘チャクモール像’は想像をふくらませると怖くなる。これは神
に捧げる供物の台。供物とは生贄が生きたまま胸を切り裂かれ取り出された
心臓。まだぴくぴく動く心臓がここに置かれた。思わず足がとまったのが球
技の浮彫り‘トニナ石彫171’、その動感描写が見事。

メキシコ中央高原に起こったテオティワカン文明に強い磁力を放つ石彫があっ
た。300~550年頃につくられた‘死のディスク石彫’。巨大ピラミッド、
‘太陽のピラミッド’からの出土で真ん中の舌をペロッとだした髑髏が不気味。
メキシコ国立人類学博物館が所蔵するものが日本でみられるのだから幸運な
巡り合いである。

もう一点、みたかったのがアステカ文明(1325~1521)が誇った‘鷲
の戦士像’。土製の等身大の像なので本物の戦士が目の前に立っているよう。
このエリート戦士たちが生け捕りにした敵の捕虜が生贄にされて捧げられた。

| | コメント (0)

2023.08.11

‘甲斐荘楠音の全貌’展!

Img_0003_20230811223501
    ‘女人像’(1920年頃)

Img_0002_20230811223501
    ‘幻覚’(1920年頃 京近美)

Img_0001_20230811223501
    ‘春’(1929年 メトロポリタン美)

Img_20230811223501
    ‘虹のかけ橋’(1915~76年 京近美)

Img_0004_20230811223601
 ‘「畑本退屈男 謎の幽霊島」衣装 ’(1960年)

現在、東京ステーションギャラリーで開催されている‘甲斐荘楠音の全貌’
(7/1~8/27)をみてきた。甲斐荘楠音(かいのしょう ただおと 
1894~1978)との出会いは福富太郎の美人画コレクションからはじ
まったが、本物をみたのはほんの数点。だから、その画風のイメージは同じ
京都市生まれの秦テルオや神戸の岡本神草らと一緒になってインプットされ
ている。浮世絵でいうと渓斎英泉の描く遊女との連想が断ち切れない。
一番の収穫は甲斐荘の絵をたくさんみれたことだが、ほかにもびっくりする
オマケがあった。それは甲斐荘が映画の風俗考証を手がけたり、衣装のデザ
インなどにも豊かな感性を発揮していたこと。

チラシにどんと使われている‘女人像’は花をもっている手の描き方が妖しげ。
これが静かなゾクゾク感なら‘幻覚(踊る女)’は農村から出てきた若い女が毒
のある匂いをふりまきながら素のままではじけている感じ。妙に惹かれる。
メトロポリタン美から里帰りした‘女’は外国人が好きそうなエキゾチックな美
人画。岡本神草の‘口紅’以上に刺激的なポーズに心がザワザワする。とても映
える着物の模様が体のラインにピッタリあっているのがすばらしい。

最後の展示室に飾ってあった大作の屏風‘虹のかけ橋’。豪華絢爛な衣裳を着た
7人の遊女が文を手にした姿で描かれている。おもしろいのは顔は丸ぽちゃ
でフィギュアの浅田真央ちゃんを連想させること。妖艶なイメージでなくか
なり可愛い遊女がずらっと揃って、観る者の気持ちをぱんぱんにさせてくれる。

懐かしい東映の人気映画‘畑本退屈男’のポスターが続々でてきた。主役を演じ
るのはあの市川右太衛門(知っている人は知っている)!。かっこいい右太
衛門が着る着物のデザインは甲斐荘が手がけたもの。ええー、そうだったの
か!今、古い日本映画の中古DVDをブックオフで熱心に集めているが、
残念なことに時代劇ものでは‘畑本退屈男’はまったくない。いつか、ゲットし
たくなった。

| | コメント (0)

2023.08.10

待望の‘ホックニー展’!

Img_0003_20230810224101
   ‘クラーク夫妻とパーシー’(1970~71年 テート)

Img_0002_20230810224101
   ‘額に入った花を見る’(2022年)

Img_0001_20230810224201
   ‘ウォーター近郊の木々’(2007年 テート)

Img_20230810224201
   ‘春の到来イーストヨークシャー’(2011年 ポンピドー)

Img_0004_20230810224201
   ‘ノルマンディーの12ヶ月’(2020~21年)

昨日は大変蒸し暑いなか、今年行われる展覧会で最も期待していた‘デイヴィ
ッド・ホックニー展’(7/15~11/5)をみるため東京都現美を訪問した。
4,5年ぶりなのでいつも通っていた道を忘れており、わかりやすい方を教
えてもらって進んだ。10時10分頃着くと、前にフランス人グループの
男女5人が並んでいた。ホックニー(1937~)の人気の高さをうかがわ
せる光景だが、展示会場に入っても多くの外国人がいた。こういう体験は
2018年の‘デュシャン展’(東博)以来だから、テンションがだんだん上が
っていく。

‘クラーク夫妻とパーシー’は日本では2度目に対面。この絵でホックニーとい
う画家を知った。光の強さを感じさせるのが猫(パーシー)の白い毛と白ユ
リの輝き。日本画でも胡粉の白が視線を惹きつけるポイントだが、西洋画で
も白の使い方が強い印象をもたらす。今年86歳になるホックニーが登場す
る‘額に入った花をみる’からは高い評価をうける現役画家の強い創作意欲が
ひしひしと伝わってくる。

チラシをみて鑑賞欲を刺激され続けていた大型作品が今回最大のみどころ。
‘ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作’は横に大き
く広がる木々の細い枝の描き方をみて、すぐアンリ・ルソーや日本画家の
横山操、加山又造の絵を思い出した。ポンピドーが所蔵する‘春の到来イース
トヨークシャー、ウォルドゲート’はすっきりした左右対称の構図、紫、橙色、
赤で彩られて木の太い幹の印象深さ、舞い散る花びらの見事な動感描写を息
を呑んでみていた。

1階にある最後の展示室にぐるっと飾られた90mの‘ノルマンディーの12
ヶ月’を楽しくみた。こんな花が沢山でてくる絵巻のような絵を描くというの
はホックニーが中国画や日本画が大変好きなのだろう。途中、円山応挙の松
の描き方を連想させる場面もでてくる。みてのお楽しみ。こんなすばらしい
絵がみれたことは生涯の思い出になる。ホックニーに乾杯!

| | コメント (4)

2023.08.08

美術で‘最高の瞬間‘! 高村光雲 高村光太郎

Img_0002_20230808224801
   高村光雲の‘老猿’(重文 1893年 東博)

Img_0004_20230808224801
     ‘矮鶏置物’(1889年 三の丸尚蔵館)

Img_0003_20230808224901
   高村光太郎の‘手’(1918年 東近美)

Img_20230808224901
     ‘鯰’(1926年 東近美)

Img_0001_20230808224901
     ‘柘榴’(1924年)

展覧会をみたときの感動を長く心にとどめておくために、見終わった後図録
を購入するのがいつものルーティン。そのため、図録を保管するスペースの
確保するのが大きな課題になっている。部屋の大きさは変わらないので、ど
うしても図録の数を整理や統合によって少なくする必要に迫られる。そのや
りくりをしていると、同時に真に残す価値のある立派な図録も浮かび上がっ
てくる。2007年東近美で開催された‘日本彫刻の近代’展の図録もその
ひとつ。

東博で定期的に展示される高村光雲(1852~1934)の‘老猿’はみるた
びに心を奪われる木彫の傑作。見どころはなんといっても超絶技巧ともいえ
る克明に表現された猿の毛並み。頭から足の先まで毛全体が波打つような感
じ。だから、猿ってこんな毛並みしていた?と思うこともある。
三の丸尚蔵館にある‘矮鶏置物’は老猿同様、矮鶏(ちゃぼ)が目の前にいるよ
うな写実性が目に焼きついている。細密に描写された羽根や体温を感じさせ
る胸まわりに視線が集中する。

光雲の長男、高村光太郎(1883~1956)の作品は東近美に何度も足
を運んだから、いまではとても馴染み深いものになっている。その最たるも
のがブロンズの‘手’。自分の手を繁々みることはないが、この手はハッとする
ほどきれいな手をしている。こんな風に指をちょっと反り返らせるから美し
くみえるのだろうか。手にこんなインパクトを与えられることがスゴイ。

木彫の‘鯰’はお気に入りの作品。鯰をモチーフに選ぶの?というのが頭の端に
あるが、いやいやどうしてこれはじつに鯰らしい。光太郎は直感的にいい
作品になると感じたにちがいない。‘柘榴’のも思わず足がとまる。小さい頃
、すっぱい柘榴をよく食べた思い出がある。この角々した赤い実の質感描写
が見事。本物そっくり。

| | コメント (0)

2023.08.07

美術で‘最高の瞬間‘! 吉岡徳仁 新宮晋

Img_20230807224201
   吉岡徳仁の‘ウォーターブロック’(2002年)

Img_0002_20230807224201
    ‘白鳥の湖/結晶の絵画’(2013年)

Img_0001_20230807224201
    ‘パーネチェア’(2006年)

Img_0003_20230807224201
  新宮晋の‘小さな花’(2013年)

Img_0004_20230807224201
   ‘雲の日記’(2016年)

現代アートの最前線にどんな絵画や彫刻、オブジェ、インスタレーションが
並んでいるのか、その情報をアバウトには押さえておきたいと思うもののあ
まりに幅が広すぎて断片的にぽつぽつとしか入ってこない。でも、評価の高
い日本人アーティストについては各種メディア媒体や展覧会をつうじて十分
ではないがそこそこ作品にふれる機会も生まれてくる。

佐賀県生まれの吉岡徳仁(1967~)の名前は2011年秋に新装オープ
ンしたパリのオルセー美の展示室に登場したガラスの椅子‘ウォーターブロッ
ク’をみて覚えた。空気の泡を入れずにこれだけの厚さの一枚ガラスをつくる
のは大変なこと。新オルセーの大きな話題にもなった。本物をみたはパリで
はなくて、運よく巡り合った2013年東京都現美で開催された‘吉岡徳仁-
クリスタライズ’展、オルセーの観客を楽しませたのがよくわかった。

最大規模の個展で吉岡の豊かな感性と創作力を見せつけられたのが‘白鳥の
湖’と題された結晶絵画。音楽を聴かせながら自然結晶の形状を水槽のなかで
成長させたり、キャンバスに見立てたものに並べている。こんなつくりもの
は見たことがないし、その発想に唖然とする。そして、植物繊維構造をとり
いれまるで空気に座るような感覚の‘パーネチェア’にも目が点になった。
サイエンスの知識がないとこんな作品はつくれない。本当にスゴイ才能である。

かなり前から風の彫刻家といわれた新宮晋(1937~)には関心をもって
いたが、本物に遭遇したのは2016年の‘新宮晋の宇宙船’展(横須賀市美’)。
アメリカのカルダー(1898~1976)のハンギングモビールを連想させ
る‘小さな花’や‘夢の日記’などを心ゆくまで楽しんだ。野外に設置してある作品
もこれから積極的に追っかけると心が晴れるような気がする。

| | コメント (0)

2023.08.06

美術で‘最高の瞬間‘! 瀧下和之 ミヤケマイ

Img_20230806223301
  瀧下和之の‘風神雷神図屏風’(2008年)

Img_0001_20230806223301
    ‘龍虎図屏風’(2008年)

Img_0002_20230806223301
    ‘桃太郎図 鬼ヶ島で鬼退治’(2008年)

Img_0004_20230806223301
   ミヤケマイの‘お出かけ’(2011年)

Img_0003_20230806223301
    ‘秘密’(2011年)

デパートのなかにある美術館とか画廊を使って開かれる個展に偶然遭遇して、
作家の名前を覚えることがときどきある。熊本市出身の瀧下和之(1975~)
の作品にであったのは渋谷西武の美術画廊。2008年のことだから、瀧下
が33歳のころ。プロフィルをみると東芸大で日本画家のビッグネーム中島
千波に学んでいる。画風はすぐわかる通り漫画チックなので、お馴染みの
画題でも楽しいからついじっくりみてしまう。

部屋に飾りたくなるのがどことなく愛嬌のある‘風神雷神図屏風‘。ペタッと
した子どもでも描けそうな感じだが、風神雷神の丸っこいフォルムと鮮やか
な赤や青により強い風や爆発的な雷を十分印象づけている。‘龍虎図’はあま
りみられない構図が目を惹く。虎を真正面からとらえ、龍はその虎の線を真
横に切るように長い胴をくねらせている。これからいざ決戦という緊迫感は
感じられない。

‘桃太郎 鬼ヶ島で鬼退治’は変わった描き方がされている。二つの屏風は右手
で描かれているが、‘桃太郎’シリーズはすべて左手で描いている。筆運びの
ぎこちなさが良いと思い、それを9年も続けている。おもしろい発想をする
画家である。たしかに‘鬼退治’はギザギザした筆の流れになっているが、逆に
それが鬼のキャラクターを表現するのはもってこいになっている。

ミヤケマイさんはとてもユニークな女性美術家。日本の伝統的な美術や工芸
などを独自の新鮮なアイデアで表現している。2回個展をみたが、Bunkamura
のギャラリーで2011年にお目にかかった作品は今も目に焼きついている。
‘お出かけ’は思わず笑ってしまった。右で蛙がパスポートを手にもっている。
ええー、蛙がこれから海外旅行に出かけるの!? ‘秘密’は構図にハッとする。
横長の画面の中央に女の一部欠けた顔が横向きで描かれている。そこにダリ
の絵のように2匹の蜂が飛んでいる。そして、顔を結んで三角形をつくるよう
に下の左右に美しいピンクのバラを配置している。タイトルはシュルレアリス
ム流を意識したのかもしれない。

| | コメント (0)

2023.08.05

美術で‘最高の瞬間‘! 杉本博司 林忠彦

Img_0002_20230805223801
    杉本博司の‘北太平洋、大黒崎’(2002年)

Img_0003_20230805223801
    ‘ハイエナ・ジャッカル・ハゲタカ’(1976年)

Img_0004_20230805223801
    ‘オリンピック雨林’(2012年)

Img_20230805223801
  林忠彦の‘配給を受ける長い列 銀座’(1946年)

Img_0001_20230805223801
  ‘川端康成’(1970年)

独自のコンセプトで写真の常識をうち破り国内外で高く評価されている
杉本博司(1948~)と出会ったのは2003年に開館した森美の記念展。
‘北太平洋、大黒崎’の前でこれは絵画なのか写真なのか戸惑った。どうやら
写真らしい。水平線が画面を海と空で等分にわけており、雲も白波もない
静寂な海景が広がっている。静かすぎる海の絵ならスーラの点描法のよる作
品があるが、この写真では海は絵画よりもっと深い静けさにつつまれている。
印象に強く残る写真だった。

杉本博司との2度目の遭遇は2015年、千葉市美で行われた回顧展。これ
で作品の全体がおおよそつかめた。1980年からはじまった‘海景’シリーズ
もあり、どのヴァリエーションもモノトーンで音がまったくない世界。大き
な収穫は‘ジオラマ’シリーズ。1976年に制作された‘ハイエナ・ジャッカ
ル・ハゲタカ’は一見するとTVなどでお馴染みのアフリカの大地にみえる。
ハイエナ、ジャッカル、ハゲタカがいるから、てっきり死んだ動物の肉に皆で
食らいついているのだろうと思った。

ところが、騙された。これは自然史博物館などにあるジオラマを撮影したもの
。どうみたってこの光景は本物の自然そのもの。では、実際に動物写真家が
アフリカにでかけて同じようにハイエナなど集結する場面を撮ったものと較べ
て、この作品はどう違ってくるのか。ジオラマではアフリカに生きる鳥や動物
たちの剥製を使ってその生態が瞬間的につかめるような演出されている。
そのため、見世物としては申し分なく臨場感満載となってる分テンションはあ
がる。欺かれたお陰でより楽しんだかもしれない。‘オリンピック雨林’も鹿の
存在感がとても感じられる。

林忠彦(1918~1990)は作家や芸術家の人物写真で有名な写真家とい
うことはインプットされていた。その数400人以上というからスゴイ。
モデルとは決闘するような感じでシャッターを切り続けたので‘決闘写真’と呼ば
れている。お気に入りは‘川端康成’。ほかには谷崎潤一郎や太宰治、坂口安吾な
どもあるが、この川端康成が群を抜いていい。戦後の東京を撮ったものでは
‘配給を受ける長い行列 銀座’をつい長くみてしまう。銀座4丁目のまわりは
こんな風だったのか。

| | コメント (0)

2023.08.04

美術で‘最高の瞬間‘! 植田正治

Img_20230804222701
    ‘パパとママとコドモたち’(1949年)

Img_0004_20230804222701
    ‘小狐登場’(1948年)

Img_0001_20230804222701
    ‘「砂丘モード」より’(1989年)

Img_0003_20230804222701
    ‘「砂丘モード」より’(1985年)

Img_0002_20230804222701
    ‘「花視る」より’(1990年代)

絵画や陶芸の展覧会にはもう何年も足しげく通っているが、写真展にはこれ
まで縁が薄かった。そのため、知っている写真家は土門拳、林忠彦、篠山紀
信、、など片手くらいしかいない。世の中には写真が好きで高額なカメラで
風景などをシャッターにおさめる人は大勢いるので、こういアマチュアの
写真展をみるのも一興かなと思うこともある。しかし、プロの写真家となる
と入館料がかかるため動きは鈍くなる。ところが、演出写真で高い人気を誇
る‘植田正治’(1913~2000)は例外で2013年東京ステーション
ギャラリーで開催された‘生誕100年! 植田正治のつくりかた’には関心があ
り、期待をこめて出かけた。

果たして、刺激がいっぱいあり楽しい写真展だった。はじめてみた代表作の
‘パパとママとコドモたち’にはびっくりした。写真というとスナップショット
による人物のリアリズムな表現というイメージができているので、こういう
幸せそうにみえる家族が演出によって横に並んでいる場面は大変新鮮に映る。
日本画では小倉遊亀が描いた母親と女の子と犬の絵がすぐ頭に浮かぶ。そし
て、‘小狐登場’も物語性がたっぷり感じられる。同じく砂丘で男の子が狐の面
を被って跳び上がっている。まるで歌舞伎の舞台をみているよう。

‘「砂丘モード」より’をみたとき強い衝撃が走った。タキシードを着たイケメ
ンの男性モデルが大勢出現し、空が赤く染まった砂丘に様々なポーズで立っ
ている。瞬間的にこれはシュルレアリストのマグリットの写真バージョンで
はないか!と思った。植田正治がシュールな表現に感化されていたとは。も
うひとつの作品はモデルは帽子を逆さにして左手でもっている。そして、遠
くにもう一人立たせ、その姿が帽子の上に乗っているようにみせている。
これはおもしろい!

1990年代に制作された‘「花視る」より’は画面いっぱいに花を描いたオキ
ーフの絵を彷彿とさせる。写真によって花のもっている生命力や美しさを
抽象絵画感覚でこれほどシャープに表現できるというのがスゴイ。マグリッ
トにもオキーフにも想起がおよぶとはまったく想定外。いっぺんに植田正治
のファンになった。広島で仕事をしているとき出張で植田の故郷である鳥取
県の境港市には行ったことがある。もっと早くこの写真家の存在を知ってお
ればよかった。

| | コメント (0)

2023.08.03

美術で‘最高の瞬間’! 草間彌生

Img_0002_20230803224501
    ‘自画像’(2010年 ウフィツィ美)

Img_20230803224501
    ‘No.H.Red’(1961年 東近美)

Img_0001_20230803224501
    ‘南瓜’(1994年)

Img_0003_20230803224501
    ‘私に愛を与えて’(2015年)

Img_0004_20230803224501
  ‘行こう、空の彼方へ’(2014年)

先月末、TVのニュースを見ていたら興味深い展覧会が紹介された。場所は日
本の美術館ではなくて英国のマンチェスター、ここで今年94歳になるあの
草間彌生(1924~)の大規模な回顧展が7/30~8/28に開催される。
展覧会のディレクターによると草間のバルーンアートを一堂に集めたのは
はじめてとのこと。クサマは90歳をこえてなお海外でも高く評価され、幅
広い世代から注目されている。本当にすばらしい!2010年に描かれた
自画像はフィレンツェのウフィツィ美で肖像画だけを集めた回廊に飾られて
いるから、ヨーロッパで現代アーティストとして広く認知されていることは
間違いない。2011年からバルセロナのソフィア王妃アートセンターなど
世界屈指の美術館をめぐる回顧展が行われ、大きな話題となった。

草間彌生が規格外の前衛芸術家ということは耳に入っていたが、現代アート
の情報は薄く東近美にあるミニマル・アートの‘No.H.Red’しかみたことがな
かった。この状態から草間が近い存在になったのは2012年(埼玉県近美)
と2017年(国立新美)に行われた回顧展に巡り合ったから。目に入って
きた最新作はもうミニマル・アートからポップ・アート感覚の表現も取り込ん
だじつに楽しいものに進化していた。

その最たるものが立体作品の‘南瓜’やバルーンアート。黄色のカボチャが数限
りなく打たれた数限りない大小の黒の点によって圧倒的な存在感をみせて
いる。ヴァージョンがいろいろ発展し、黄色の地がシルバーになり中が空洞
のなっているカボチャも誕生した。老人になっても創作のアイデアは次々と
でてくるのだから、並みの芸術家とはものはちがう。

国立新美の広い会場が草間ワールド一色になった2017年の回顧展は驚き
の連続だった。2014年から15年にかけて描かれた作品がずらっと並ん
だが、とくに目を惹いたのが人間の顔が縦、横、逆さに出てくる‘私に愛を与
えて’と鮮やかな色面の組み合わせが美しい‘行こう、空の彼方へ’。

| | コメント (0)

2023.08.02

美術で‘最高の瞬間‘! 千住博

Img_0004_20230802224501
    ‘ザ・ウォールズ’(1995年)

Img_20230802224501
    ‘松風荘襖絵’(2006年)

Img_0003_20230802224601
    ‘松風荘襖絵’(2006年)

Img_0001_20230802224601
    ‘フォーリングカラー’(2006年)

Img_0002_20230802224601
    ‘高野山金剛峯寺襖絵 瀧図(部分)’(2018年)

日本画の現代アートとしての可能性を瀧の絵で表現し続ける千住博
(1958~)さんには作品だけでなく、アメリカ絵画のこともいろいろ教
えてもらった。たとえば、コール、チャーチ、ビーアスタットらハドソンリ
バー派の広大な風景画に魅了され、アメリカの美術館をまわる大きな楽しみ
となっていったのは2003年に放送された‘NHK人間講座 美は時を超える
’で講師をつとめられた千住さんおかげ。

大きな画面の上から絵具を下に流したり、スプレーガンを使い飛び散る水の
しぶきをみせたりして描いた滝の絵をはじめてみたのは2006年の山種美
で開催された‘千住博展‘、アメリカ・フィラデルフィア市にある日本建築
‘松風荘’から依頼された新しい襖絵が完成し披露されたのである。1995年
に制作された‘ザ・ウォールズ’から滝の美はさらに進化し、魂をゆすぶる深遠
さと臨場感がいっそう増していた。

大変驚いたのが色つきの滝ヴァージョンが登場したこと。画面の中央にどど
っと落ちてくる膨大な水量はモノクロからピンクや赤、黄色、橙色、青、緑
に変身している。現代アート感覚がまさに全開といったところ。水の動きを逆
にし滝を火山にすると、赤は下からマグマが吹きだしているようにもみえる。

2度目の回顧展に遭遇したのは2019年の横浜そごう。ここでは3年かけて
完成させた‘高野山金剛峯寺襖絵 瀧図’(全長25m)にお目にかかった。
垂直に流れ落ちる滝の景色は鋭くて長い剣が何本も下に向かってつき刺さって
いくイメージ。微妙に揺れる水の繊細な動きと霞のようなしぶきの描写が見事。
千住博に乾杯!

| | コメント (0)

2023.08.01

美術で‘最高の瞬間‘! 瑛九 李禹煥 丸山直文

Img_20230801223901
   瑛九の‘れいめい’(1959年 東近美)

Img_0004_20230801223901
   李禹煥の‘線より’(1977年 東近美)

Img_0002_20230801223901
    ‘風と共に’(1991年 神奈川県近美)

Img_0003_20230801224001
    ‘関係項ーサイレンス’(1979/2005年 神奈川県近美)

Img_0001_20230801224001
   丸山直文の‘GardenⅠ’(2003年 東近美)

東近美の平常展によく通っていたころ、洋画と近現代絵画の鑑賞にはお決ま
りの流れがあった。まず、例えば原田直次郎の‘騎龍観音’でテンションをあ
げ、次に岸田劉生、村山槐多をみる。そして、カンディンスキー、レジェら
の抽象絵画に進んでいく。このあたりからはもう現代アートの世界だから、
日本と海外の作家の区別がつかない作品がどんどんでてきて、知らなかった
日本人アーティストに足がとまることも多くなる。

瑛九(1911~1960)の‘れいめい’は日本で誕生した抽象絵画のなかで
はもっともいい作品かもしれない。すぐあるやきものが目に浮かんだ。静嘉
堂文庫美にある国宝の‘曜変天目茶碗’。どちらも宇宙のかなたに体が吸い込ま
れていくような感じになる。この絵に200%魅了されたのだが、あとが続
かない。ほかにはどんな作品を瑛九は描いたのか。これまで回顧展に出会
うことがなかったので、画業全体がつかめていない。

本籍韓国、現住所日本の李禹煥(リ・ウファン 1936~)を知ったのも
東近美。‘線より’は一級の抽象絵画。先が丸くとがった青の線が上から下へま
っすぐにのびている。下にいくにつれて青がかすれてくるのは線ごとに微妙
に違う。‘風と共に’は画面の多くを占める余白の意味がなんとなく伝わってく
る作品。薄い灰色で表現された2つのフォルムは木製の棚を組み立てるとき
に使うとめ具のよう。これが3つあると多すぎる感じ。‘関係項-サイレンス’
は鉄板と丸い石が向かい合っているのをみるとタイトルが確かに腹にすとん
と落ちる。鉄板の形は三角形、正方形などもあるが、最後は縦の長方形に
落ち着く。

丸山直文(1964~)の‘Garden Ⅰ’は淡いトーンのため画面にとっつきや
すい抽象的な風景画。よくみると影のできた人物が2人いる。これはダリの
シュルレアリスム絵画を連想させる。ちょっと不気味なのが下で何本も描か
れた緑の線。なんだか、蛇が左から右へ向かって動いているよう。

| | コメント (0)

« 2023年7月 | トップページ | 2023年9月 »