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2022.01.31

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(26)

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 モディリアーニの‘ジプシー女と赤ん坊’(1918年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 モディリアーニの‘ホアン・グリス’(1915年 メトロポリタン美)

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   マグリットの‘白紙委任状’(1965年 ワシントンナショナルギャラリー)

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   マグリットの‘人間の条件’(1933年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  デルヴォーの‘セイレーン’(1947年 メトロポリタン美)

いろいろなテーマのもので行われる展覧会で最も人気があるのがひとりの画
家に焦点をあて画業全体をみせる回顧展。何回も行われる画家がいる一方で、
一度出くわすのが精いっぱいという画家もいる。モディリアー二(1880
~1920)は後者に入る画家。2008年に名古屋市美ではじめて回顧展
に出くわしたが、それから14年にもなる。1回で終わりかなと思っていた
ら、今年久しぶりに登場する。場所は2月にオープンする大阪中之島美で
会期は4/9~5/22。名古屋市美と同じようにおそらく世界中の美術館か
ら作品を集めてくるのでなかろうか。

画集に載っていてまだお目にかかってないものが何点みれるか、収穫が多い
ことを期待したいが果たして。ワシントンのナショナルギャラリーでみた
‘ジプシー女と赤ん坊’が出品されるなら申し分ない。では、メトロポリタン
蔵はどうだろうか、2008年のときは‘花売り娘’が披露されたが、日本で
行われたメトロポリタン美展に出品された‘ホアン・グリス’とか‘横たわる
裸婦’と再会するのも悪くない。

シュルレアリストのマグリット(1898~1967)の回顧展は
2015年国立新美で行われた。このときナショナルギャラリーの‘白紙委
任状’が宮崎県美が所蔵するもうひとつのヴァージョンと一緒に並べられた。
思わず目が点になるのが馬の体が女性が手綱をもっているあたりで分断さ
れていること。でも、森でこの光景に出くわしたところを想像してみると、
周りの樹々が馬や馬上の女性を垂直の線でカットするようにみえるのはイ
メージできる。錯覚でもそう映ることはある。だから、シュールな作品で
はあるがじつはそれほど不思議な絵でもない。
‘人間の条件’はぱっと見ると何ら違和感はない。どこがシュールなの?しば
らくみていると変な絵であることに気づく。部屋の窓の前にイーゼルが立
てられ、そのキャンバスに外の風景が描かれているのである。

2015年に訪問したメトロポリタンでなんとデルヴォー(1897~
1994)の‘セイレーン’に遭遇した。METにデルヴォーがあったとは!
オデュッセウスが故郷に帰還する途中たくさんの苦難が待ち構えていた。
難所のひとつが‘セイレーンの島’。人間の女性の顔に鳥の身体をもつセイレ
ーンは美しい歌声で船乗りたちを死に追いやる恐ろしい怪物だった。彼女
たちの歌に誘われて上陸したら最後、死ぬまで歌を聞き続けなければいけ
ない。オデュッセウスは部下たちにはしっかりと蜜蝋で耳栓をし、自分は
帆柱に体を縛らせておいた。こういう工夫をして誘惑に敗けずに乗りきっ
た。

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2022.01.30

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(25)

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  ミロの‘農場’(1921~22年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ミロの‘ワインとオリーブ、タナゴナ’(1919年 メトロポリタン美)

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  ミロの‘じゃがいも’(1928年 メトロポリタン美)

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 ダリの‘超立方体 磔刑のキリスト’(1954年 メトロポリタン美)

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 ダリの‘最後の晩餐’(1955年 ワシントンナショナルギャラリー)

今年は以前のように展覧会に多く足を運ぶことは決めているが、6度目とな
る新型コロナの感染の拡大により出だしからつまずいている。そのため、楽
しみにしているミロ展(2/11~4/17 Bunkamura)、メトロポリタン
美展(2/9~5/30 国立新美)は会期の後ろの方で出かけることになり
そう。本音は前のめりの展覧会なので開幕したらすぐかけつけたいが、ここ
は我慢のしどころ。

ミロ(1893~1983)の初期の代表作‘農場’はワシントンのナショナル
ギャラリーが誇るお宝絵画のひとつ。この絵を買ったのはパリに滞在してい
た作家のヘミングウエイ。スペインの文化、自然が大好きなミングウエイ
は一目ぼれし、金をかき集めて手に入れた。ふたりはボクシング教室に通っ
ており、リング上で対戦したことがあるそうだ。巨漢と小柄な男のボクシン
グだから見る人たちの微笑をさそったという。大画面にモチーフのシールを
ペタペタ貼っていって完成したような絵だが、モンロッチの農家に実際にあ
ったものがすべて描きこまれている。家、大きなユーカリの木、農具、鶏小
屋、右の下にはカタツムリやトカゲがおり、遠くには働く農婦や馬がみえる。
幼児の心をもったミロの空想的な夢の世界がここにある。

2013年、メトロポリタンを訪問したとき遭遇した‘ワインとオリーブ、
タナゴナ’も初期の風景画。おもしろいのは前のほうはのどかな農地の感じな
のにその上は抽象画を思わせるような幾何学的なフォルムが横に広がってい
るところ。思わず足が止まった。1928年に描かれた‘じゃがいも’はタイト
ルと画面がすぐにはむすびつかない。中央の白い形はじゃがいも畑に立つ女
性。両腕を広げており、赤が首でこげ茶色が乳房を表している。じつに愉快
な絵である。

1950年代の半ば頃に描かれたダリ(1904~1989)の傑作がメト
ロポリタンとナショナルギャラリーにある。‘超立方体 磔刑のキリスト’には
度肝を抜かれた。こんな磔刑図があったのか!十字架は8個の立方体で構成
され、その前で体に傷のないキリストが宙に浮いている。キリストの足元で
は法衣を着たガラが見上げている。ナショナルギャラリーでダリ流の‘最後の
晩餐’をみれたことは大きな喜び。すぐ写真を撮った。あのシュルレアリス
トのダリが古典画のモチーフに自分流の表現で挑戦するのがスゴイ。

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2022.01.29

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(24)

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  マティスの‘開いた窓、コリウール’(1905年 ワシントンナショナルギャラリー)

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    ‘黒人’(1952年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘若い水夫’(1906年 メトロポリタン美)

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  ‘座椅子のオダリスク’(1926年 メトロポリタン美)

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 ‘ナスタチウムと<ダンス>’(1912年 メトロポリタン美)

ワシントンのナショナルギャラリーへはじめて行ったのは1990年。アメ
リカに出張したとき、土日の休日を利用してNY・ワシントン観光を楽しん
だ。当時はまだ絵画趣味が入口のところだったから、ナショナルギャラリー
を案内してくれた人の後をついていくだけで精一杯。古典絵画や印象派な
どが展示してある西館をみたあと、光のトンネルを動く歩道でぬけて近現代
アートの楽園、東館に移動した。どの絵をみたかはとんと記憶されてないが、
名前を知っているマティス(1869~1954)のミニ回顧展‘モロッコの
マティス’のことはよく覚えている。

図録を購入するほどの熱心さはなかったが、主要な出品作が載っているパン
フレットは無料なのでを持ち帰った。西洋絵画に目が慣れたころ飾って
あった作品をチェックすると、普通ではなかなかみれないプーシキンにある
‘テラスにて’や‘カスバの門’、MoMAの‘モロッコ人たち’などのいい絵だっ
たことがわかり、貴重な鑑賞体験になった。だから、この美術館とマティス
は深く結びついている。

ナショナルギャラリーはこの後2回訪問した。‘開いた窓、コリウール’は
有名な絵でこの絵によって絵画に色彩の革命をおこし、マティスやドランは
‘ㇾ・フォーヴ(野獣たち)’というニックネームをつけられた。窓から見た
スペイン国境にほど近い港町コリウールの外景が自由な色づかいで生き生き
と描かれている。フォーヴィスムの誕生である。東館にはマティスルーム
は設けられここに最晩年に制作された切り紙絵が6点飾られている。‘黒人’
はその一枚。

メトロポリタンが所蔵する‘若い水夫’もコリウールでヴァカンスを過ごし
たとき知り合った漁師がモデル。マティスにとって色彩は画面構成に必要
と感じるものを使うので実際の漁師の顔や衣服の色は横に置かれている。
目や眉が緑の線で引かれズボンの濃い緑と響き合っている。
‘座椅子のオダリスク’では女性のまわりは得意の格子や縞模様などの幾何学
的な装飾モチーフでつつまれている。2004年西洋美で開催された
マティス展に出品された‘ナスタチウムと<ダンス>’は縦長の画面に代表作
のひとつ‘ダンス’が画中画として登場する。三脚台に置かれた花瓶からで
ているナスタチウムは金蓮花のこと。この絵には別ヴァージョン(プーシ
キン)があるが、色数の多いMETのほうが楽しい。

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2022.01.28

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(23)

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 ピカソの‘海辺の貧しい家族’(1903年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘サルタンバンクの一家’(1905年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘ガートルード・スタインの肖像’(1906年 メトロポリタン美)

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  ‘アルルカン’(1901年 メトロポリタン美)

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  ‘恋人たち’(1923年 ワシントンナショナルギャラリー)

ワシントンのナショナルギャラリーのコレクションが凄いなと思うのは古典絵
画のトップスターであるダ・ヴィンチを所蔵しているだけでなく近現代絵画の
王様、ピカソ(1881~1973)のいい絵を揃えているから。ふたりは
科学の世界でいうとニュートンとアインシュタインのような存在だから、その
絵は真に美術館を輝かせる。

ここにはピカソは6点くらいあるが、‘青の時代’に描かれた‘海辺の貧しい家族’
にパリのピカソ美にある20歳の‘自画像’と同様に大変魅了されている。立ち
姿の3人とも下をむいているのがなんとも切ない。そして、色彩の数を増やし
た‘バラ色の時代’の‘サルタンバンクの一家’も傑作。この群像描写で惹かれるの
は曲芸師やアルルカンたちの配置の巧さ。左端の若いアルルカンと横の女の子
はこちらに背を向けて立ち、向こうの3人と対面している。そして、後ろのふ
たりの男の子は右端で座っている女性と同じ方向を眺めている。これにより
空間の広がりをイメージする。

一方、メトロポリタンにあるピカソは‘ガートルード・スタインの肖像’が強い
磁力を放っている。はじめてこの絵をみたとき、この人物は男性と思った。
ところが、実際はアメリカの有名な女流作家で美術愛好家だった。ユダヤ系
アメリカ人で1903年以降パリに定住しており、ヘミングウエイに小説の
書き方をいろいろ指南している。顔はアフリカの仮面彫刻を感じさせ、絵画の
革新をもたらした多視点のキュビスムの片りんがみえる。ガートルードの顔
に似てないという人に対して、ピカソは‘今に彼女の方が似てくるよ’と言った
という。

‘アルルカン’はピカソが20歳ときの作品で青の時代へ進む前のもの。アルル
カンの白い顔や衣裳は絵具が濃く塗られ平面的な画面になっているが、この
描き方をゴーギャンから学んでいる。‘恋人たち’は‘新古典主義の時代’(37
歳の1918年から)の作品。若い男女はキュビスクとは違い写実的で丸み
をおびた人物に描かれ、明快な配色で豊かな画面が目を楽しませてくれる。

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2022.01.27

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(22)

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 アンリ・ルソーの‘ライオンの食事’(1907年 メトロポリタン美)

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  ‘熱帯のジャングル’(1844~1910年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘岩の上の少年’(1895~97年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘森の逢い引き’(1889年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘ビェーヴル渓谷の春’(1909年 メトロポリタン美)

画家が生涯に描いた主要な作品を全部みたいと強く思っているのは印象派以
前ではファン・エイク、ボス、ブリューゲル、カラヴァッジョ、ラ・トゥー
ル、レンブラント。そして、近代絵画でもアンリ・ルソーへの思い入れはか
なりあり、出来ることならコンプリートを果たしたい。だから、アメリカの
ブランド美術館を訪問するときは必見リストに載せたルソーとの対面が大き
な楽しみになっている。

画集にでてくるルソーを所蔵している美術館をざっとあげてみると、メトロ
ポリタン、グッゲンハイム、MoMA,ワシントンナショナルギャラリー、
フィリップスコレクション、フィラデルフィア美、シカゴ美、クリーブラン
ド美、バージニア美、ノートン・サイモン美など。全体の半分、いやこれ
以上アメリカにあるかもしれない。ルソーに魅せられたコレクターがたく
さんいることを美術館をまわっているとよくわかる。2013年久しぶり
にMoMAに行ったとき、代表作‘夢’の前に若い人たちが大勢いたので本当
に驚いた。

メトロポリタンではルソーの代名詞になっている熱帯画のなかでは人気の高
い‘ライオンの食事’が目に焼きついている。ライオンや植物のシールをペタ
ペタ貼っていって出来上った平板な画面のイメージだが、よくみると緑色に
数多くのグラデーションをつけているのでそれなりに奥行き感が生まれて
いる。これは日本にやって来た。ナショナルギャラリーにある‘熱帯のジャン
グル’は葉っぱの後ろに隠れている猿たちはフィラデルフィア蔵の‘陽気なおど
けものたち’(これも日本で披露された)の別ヴァージョンかと思わせるほど
よく似ている。

ルソーは子ども画を数点描いており、‘岩の上の少年’もなかなかいい。
尖った岩がいっぱいのところに子どもらしくない顔をした男の子が大股開きで
立っている。不思議な感覚のする絵である。‘森の逢い引き’は初期の頃の作品
で細い枝を何本もつけ垂直にのびるた木々に目が奪われるのはこの絵の3年
前に描かれた‘カーニバルの夕べ’(フィラデルフィア美)と同じ。‘ビェーヴル
渓谷の春’も木々が主役で人物にあまり視線が向かわない。これだけ大きな木
が林立しているとどうしてもそのフォルムに注目してしまう。

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2022.01.26

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(21)

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  ホーマーの‘右に左に’(1909年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ホーマーの‘夕食の角笛’(1870年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ホーマーの‘メキシコ湾流’(1899年 メトロポリタン美)

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 ホッパーの‘トゥ―ライツの灯台’(1929年 メトロポリタン美)

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 ホッパーの‘夫人のためのテーブル’(1930年 メトロポリタン美)

アメリカの美術館をまわるまではアメリカ画家のホーマー(1836~
1910)を海外の美術館でみた記憶はオルセーにある‘夏の夜’しかなかった。
これひとつだけだと画家のことを知らないのと同じだが、もう一点国内の展覧
会でみたことになっている。その絵はワシントンナショナルギャラリーが所蔵
している‘右に左に’という明らかの浮世絵の影響がみてとれる鳥の絵。出品され
たのは1988年西洋美で開催された‘ジャポニスム展’。ホーマーは水平線を高
くとり、水面を俯瞰するような視点で二羽の鳥を描いているが、北斎のお手本
帖‘三体画譜’にでてくる鳥の姿を参考にしている。

展覧会の図録があるお蔭でインパクトのあるこの絵が強く印象づけられている
が、これをしかとみたという実感がない。当時はまだ絵画趣味の入口のところ
だったから、画家の名前は知らないしどこが浮世絵の描き方の真似なのかも
深く理解できなかったのである。だから、2013年にこの絵と対面したとき
はようやくリカバリーしたという感じだった。その横に飾ってあったのが
‘夕食の角笛’。海辺で風が強いのか角笛を吹く女性の衣服が大きくあおられて
いる。思わず惹きこまれた。ホーマーは海景画ばかりを描いていたのではなか
った。メトロポリタンにある‘メキシコ湾流’は得意の大揺れする波の描写が存分
に発揮されている。そのため、サメの恐怖にハラハラするより波の動きをじっ
とみていることで船酔いすることのほうが心配になってくる。

ホッパー(1882~1967)の代表作‘夜更かしをする人たち’をシカゴ美で
みれたことは生涯の喜びである。これが最大の楽しみだったのに、大回顧展に
遭遇するという運の良さ。海外の美術館を訪問するとこういうビッグな展覧会
にお目にかかれることがある。こういうときは美の女神ミューズが粋な贈り物
をしてくれたのだと思うことにしている。わが家の家宝のひとつになった図録
には、ホッパーの主要な作品はだいたい載っている。数の多いのはホイットニ
ーが所蔵しているものだが、メトロポリタン蔵の2点も出品されている。

‘トゥ―ライツの灯台’は2012年、日本で開催されたメトロポリタン美展で
披露された。丘の上の灯台を仰ぐように描かれたこの作品は人気がなく静寂の
風景なのに、それほどしんみりしない。それは光がまぶしいくらい強い印象が
あるのと真っ青な空が気分を軽くしてくれるから。
‘夫人のためのテーブル’はお気に入りの絵。風俗画は大好きなので前かがみにな
りテキパキとテーブルをつくっている女性の給仕係すぐ反応する。わざわざ腰
を曲げさせるのがホッパー流。

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2022.01.25

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(20)

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 カイユボットの‘ぺリソワール’(1877年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  カサットの‘舟遊び’(1893年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘青いひじ掛け椅子の少女’(1878年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘化粧台の前のデニス’(1908~09年 メトロポリタン美)

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  ‘アヒルの餌づけ’(1894年 メトロポリタン美)

アメリカの美術館でドガに対する好みが大きく変化する一方で、評価ががら
っと変わった画家がいる。カイユボット(1848~1894)と女流画家
のカサット(1844~1926)。この二人はほぼ同時代を生きた印象派
の画家だが、オルセーで作品をみたときはそれほどぐっとこず名前がイン
プットされたくらいの存在だった。ところが、2008年、シカゴ美でカイ
ユボットの大作‘雨のヨーロッパ広場’に遭遇し、その大きさ、出来映えに仰天
した。カイユボットにこんな傑作があったのか!館内の案内をしてくれた
現地の日本人ガイドさんが‘カイユボットのいい絵がありますのでお見逃しな
く’とわざわざ言うだけのことはある。ここに来なかったら、この画家の凄さ
に気づかなっただろう。

ワシントンのナショナルギャラリーにもカイユボットのとてもいい絵がある。
2013年、ブリジストン美(現ア―ティゾン美)で開かれたカイユボット
展にも出品された‘ペリソワール’。ペリソワールは平底のひとり乗りのカヌー
のことで、3隻が軽快にこちらにむかって来ている。一番手間の右横にも
オールがちらっとみえるからもう一隻並行して進んでいる。俯瞰の構図のと
りかたは明らかに浮世絵の影響を受けている。

カサットの‘舟遊び’にも広重の風景画‘名所江戸百景’を連想させる描き方がみ
られる。この絵をみるまではカサットがこれほど浮世絵に刺激されてい
たことは知らなかった。いっぺんにカサットの技量を見直した。同時にこの
女流画家はアメリカの美術ファンに大変愛されていることもわかった。大き
な美術館を訪問すると毎度お目にかかる。またカサットが展示してあった!
そのほとんどが女性の肖像画と幼い子とお母さんの絵、母子の姿はとくべつ
心が和む感じで魅了される。これは人気が高くカサットは‘母子像の画家’と
して親しまれている。

2011年、国立新美でワシントンナショナルギャラリー展があったとき子
ども画が3点披露された。どれもいい絵だったが、印象深かったのが‘青いひ
じ掛け椅子の少女’。瞬間的にミレイの赤い服を着た小ちゃな女の子を思い浮
かべた。メトロポリタンが所蔵するカサットでは‘化粧台の前のデニス’と版画
の‘アヒルの餌づけ’に思わず足がとまる。

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2022.01.24

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(19)

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  スーラの‘サーカスの客寄せ’(1887~88年 メトロポリタン美)

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 スーラの‘ポール=アン=ベッサンの海景’(19世紀 ワシントンナショナルギャラリー美)

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 ロートレックの‘ボレロを踊るマルセル・ランデ’(1896年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ロートレックの‘ムーラン・ルージュのカドリール踊り’(1892年 ワシントンナショナルギャラリー)

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   ロートレックの‘ソファ’(1894年 メトロポリタン美)

2008年アメリカでの美術館巡りが本格的にスタートしたとき、最初に訪
問したのがシカゴ美。ここへ何としても足を運びたかったのは2つの絵をみ
たかったから。門外不出となっているスーラ(1859~1891)の‘グラ
ンド・ジャット島の日曜日の午後’とホッパーの‘夜更かしの人々’。運がいい
ことにホッパーの大回顧展が開かれていた。こんなビッグなオマケがついて
いるのだから天にも昇るような気持だった。これだから美術館通いは止めら
れない。

このスーラの点描画の代表作をはじめ、アメリカには画集に載っている主要
作品がたくさんある。NYでもMoMAには海景画の傑作が揃っているし、
メトロポリタンに行くと有名な‘サーカスの客寄せ’が目を楽しませてくれる。
そして、ワシントンのナショナルギャラリーは‘ノルマンディのポール=アン
=ベッサンの海景’と‘オンフルールの灯台’を所蔵している。

スーラの点描画はNY,ワシントンもそうだが海外旅行で人気のある都市に
集中しているので、団体旅行に参加しても結構な数お目にかかれる。たとえ
ば、ロンドンではナショナルギャラリー(1点)、テートモダン(1点)、
コートールド(2点)、パリのオルセー(2点)、オランダのクレラー=
ミュラーにも5点あるが、ここはアムステルダムから1時間半くらいで行け
るところだから自由行動でがんばれば行けるし、美術館見学が行程に組み
込まれているツアーもあるのでこれを選択するという手もある。

ドガと同様に、アメリカの美術館にでかけて収穫が多いと実感するのはロー
トレック(1864~1901)の油彩画。日本で体験するポスターがメイ
ンのロートレック展とは違って、どのブランド美でもいい油彩をみることが
できる。これは本当に嬉しい。メトロポリタンとナショナルギャラリーでは
ともに5点展示されていた。2013年のときようやくお目にかかれた
‘シルぺリック劇場でボレロを踊るマルセル・ランデ’と‘ムーラン・ルージュ
のカドリール踊り’が忘れられない。残念なのがまだ姿をみせてくれないメト
ロポリタン蔵の‘ソファ’。三度もふられると滅入る。

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2022.01.23

大相撲初場所 関脇御嶽海 優勝!

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御嶽海 照ノ富士を破り3度目の優勝

大相撲初場所は千秋楽の結びの一番で関脇御嶽海が3連覇をめざす横綱照ノ
富士を寄り切りで下し優勝した。成績は13勝2敗、御嶽海の優勝はこれで
3度目。今日の勝ちで念願の大関昇進をぐっと手繰りよせた。拍手々!照ノ
富士が12日の明生との相撲で右足を痛めたので御嶽海のほうが有利とみ
ていたが、先場所まで7連敗していたからまわしをとられたら横綱のものか
なとも思っていた。でも、大一番のときの御嶽海はいい集中力をみせるとい
う強みを発揮し見事に横綱を寄り切った。13日の阿炎、昨日の宝富士に
続き今日も完璧に勝った。まさに大関相撲だった。

これで御嶽海は来場所は大関として土俵に上がる。やっと大関になったな、
という感じ。大関候補とずっと前からいわれていたのに、あとから上がって
きた貴景勝、朝乃山、正代に追い抜かされた。はたからみると悔しくないの
か、もっと気合を入れて大関を狙えよ!と叱咤激励したくなる。こういう
状態が何年も続き、気が付けば御嶽海はもう29歳。先場所、11勝と二桁
をあげたので大関獲りのラストチャンスに全力をあげなくてはいけない。
今場所も二桁勝ちを、来場所昇進を果たすというのが長く相撲をみている人
の予想ではなかった。これが、初日から9連勝と期待以上の充実ぶりで勝ち
進んだので、優勝すれば一気に大関という空気が生まれてきた。押し相撲の
北勝富士と阿武咲に破れたが、敗けの影響を引きずることなくいい相撲で
大事な一番を勝ってきた。この頑張りは立派。

御嶽海を追い抜いて大関になった3人は今どうなったか。貴景勝は体調の
維持管理ができず今場所また怪我で休場した。そして、朝乃山は心のコント
ロールが甘く、6場所出場停止を食らって土俵にあがれるのは名古屋場所か
ら。三段目からまたあがってくるのは1年以上かかる。今場所6勝9敗で敗
け越した正代は技の鍛錬を怠り、相撲を忘れたカナリア状態。今の稽古では
大関陥落はまちがいない。この状況を考えると新大関となる御嶽海は綱取り
レースでは先頭を走ることになりそう。照ノ富士は強い横綱だが、怪我の
リスクがあることが今場所の相撲で現実のものとなった。だから、御嶽海は
精神力を鍛え技に磨きをかければ、横綱に案外早く上がれるかもしれない。
期待したい。

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2022.01.22

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(18)

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  ドガの‘菊のある婦人像’(1865年 メトロポリタン美)

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  ‘アイロンをかける女姓’(1876~87年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘婦人帽子店にて’(1882年 メトロポリタン美)

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  ‘舞台稽古’(1873~74年 メトロポリタン美)

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 ‘障害競馬―落馬した騎手’(1866年 ワシントンナショナルギャラリー)

印象派の絵画をヨーロッパの美術館、たとえば、パリのオルセーやロンドン
のコートールドだけでなくアメリカの大きな美術館でもみたことは印象派の
画家たちの作品の特徴や魅力をさらに深めるのにとても役立った。とくに
収穫があったのはドガ(1834~1917)とロートレック(1864~
1901)。ドガの画集には踊り子、競馬、風俗画を画題にした作品がオル
セーのほかにもいろんな美術館にあるものが載っているのに、オルセー蔵
しかあまり縁がないためモネやルノワールに較べてドガに対する好みの熱が
高まらなかった。

これが2008年にアメリカのブランド美術館巡りをスタートさせてから、
だんだん変わってきた。もともと関心を寄せていたドガの絵はパリに生きる
人々を風俗画の味付けで描いた作品、こうした作品が美術館を訪れるたびに
現れたのでどんどん惹き込まれていく。そして、おもしろいことに以前は
さらっとみていた踊り子たちの絵もじっくりみるようになった。アメリカで
ドガに開眼したのである!だから、シカゴ、メトロポリタン、ワシントンの
ナショナルギャラリー、コーコラン、ボストン、フィラデルフィアにある
ドガの傑作は目に焼きついている。数が多いのがメトロポリタンとナショナ
ルギャラリー、ともに8点お目にかかった。

メトロポリタンにある‘菊のある婦人像’に魅了され続けている。視線がむか
うのは真んなかの菊ではなく、右端に描かれた右手で頬杖をつく女性。外の
ほうをみている姿がとても気になる。こういう構図はすごく映画的。どんな
音楽が流れているかはイメージできる。ナショナルギャラーでお目にかかっ
た‘アイロンをかける女性’はオルセー蔵のあくびをして手を休めている女性
とは大ちがいで一人で黙々とアイロンでシャツのしわをのばしている。家の
近くでみるクリーニング屋さんの忙しさと変わらない感じ。

ドガは帽子店が好きで‘婦人帽子店にて’と同じタイトルをつけたものを3点
描いている。そのひとつがMETのもので、あとの2点はシカゴとマド
リードのティッセン・ボルネミッサにある。いずれも日常のさりげない光景
の一瞬をとらえお客、店員ともども女性たちを生き生きと描いている。

踊り子の絵はメトロポリタンには3,4点あるが、たくさん踊り子がいて動
きのある描写が印象深い‘舞台稽古’が目を楽しませてくれる。本舞台でなく
こういう舞台稽古の様子を活写するという発想がドガの鋭いところ。同じこ
とが‘障害競馬ー落馬した騎手’にも言える。激走する馬と騎手なら絵になるの
に、こんな落馬の場面まで描いてしまう。並の画家からはこんな絵は生ま
れてこない。

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2022.01.21

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(17)

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 セザンヌの‘カード遊びの人たち’(1890~92年 メトロポリタン美)

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  ‘新聞を読む画家の父’(1866年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘サンク=ヴィクトワール山’(1882~85年 メトロポリタン美)

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 ‘レスタックから見たマルセイユ湾’(1880年 メトロポリタン美)

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   ‘林檎と桃のある静物’(1905年 ワシントンナショナルギャラリー)

セザンヌ(1839~1906)の絵でもっとも好きなのは林檎などを描い
た静物画。これは高校生の頃、歴史や美術の教科書に載った‘林檎とオレンジ’
(1899年 オルセー美)をみて静物画の魅力に心を打たれたから。その
ため、Myセザンヌ図録には主要な静物画をぺたぺた貼り続けている。
アメリカのブランド美術館をまわると多くがいい静物画を所蔵している。ワシ
ントンのナショナルギャラリーにあるものは‘林檎と桃のある静物’と‘ぺパーミ
ント瓶のある静物’がお気に入りで、メトロポリタンでは‘林檎と鉢植えの桜草’
と‘壺、カップと林檎’が目を楽しませてくれる。

静物画の次に関心を寄せているのは風俗画の形をとった人物画。とくに惹か
れているのが‘カード遊びの人たち’のシリーズ。最初に縁があったのが二人の
農夫が楽しんでいるカード遊びを真横から描いたもの。それから同じく二人
の別ヴァージョン(コートールド美)、メトロポリタンにある三人の男が
プレーしそれを一人の男が立ってみているもの、さらには日本でバーンズコ
レクション展が開催されたとき披露された3人の男+見物人に男のほかに
少女が加わったものも運よく遭遇することができた。

幸運なことは2011年の秋にもあった。ロンドンのコートールド美でこの
‘カード遊びの人たち’にスポットをあてたミニセザンヌ展と巡りあった。
お陰でもう一枚の絵もみることができ、5枚をコンプリートした。これは2人
の男のもう一つのヴァージョンで今は263億円で手に入れたアラブの富豪
が所有している。ワシントンにある新聞を読む父親の姿を描いた肖像画は画集
に必ず載っている絵でガイドブックにも大きく取り上げられている。

セザンヌの風景画というとすぐ思い浮かべるのは‘サンク=ヴィクトワール山’、
METにも有名なフィラデルフィア美にある抽象画的な表現で描かれたのと
同じタイプものが1点あるが、魅了されているのは真ん中に松の木が一本立っ
ている‘ベルヴューから見たサント=ヴィクトワール山’。これはどうみても
浮世絵の構図を参考にしているが、セザンヌはモネやゴッホらと違い浮世絵か
ら刺激を受けたとは決して言わない。これがおもしろい。空間の広がりがあり
安心してみられる‘レスタックから見たマルセイユ湾’にもぐっときている。

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2022.01.20

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(16)

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   ゴッホの‘糸杉’(1889年 メトロポリタン美)

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  ‘薔薇’(1890年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘夾竹桃と本のある静物’(1888年 メトロポリタン美)

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  ‘ムスメの肖像’(1887年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘アルルの女 ジヌー夫人’(1888年 メトロポリタン美)

新型コロナ感染の影響で2020年以降、国内の美術館で開催される展覧会
に足を運んだのは両手くらいだった。そのため、お目にかかった絵画で魅了
されたものは目に強く焼きついている。こんな低調な展覧会状況でもしっか
りと大きな感動をもらえる画家がいる。そう、あのゴッホ(1853~
1890)。記憶に新しいところでは昨年11月にみた‘イスラエル博展’
(三菱一号館美)にでていた‘プロヴァンスの収穫’のイエローパワーが忘れら
れない。2020年は開幕が2月から6月に延期された‘ロンドンのナショ
ナルギャラリー展’でも心が浮き浮きする鑑賞体験があった。久しぶりの対面
となった‘ひまわり’(1888年、アルルで最初に描かれたひまわり)。

ゴッホ展も相変わらずよく開催される。昨年10月東京都美でクレラー・ミュ
ラー美蔵がまた披露され、そのあと今は福岡市美(2/13まで)で行われて
いる。これが終わると名古屋市美(2/23~4/10)に巡回する。こうした
人気ぶりをみるとゴッホが展覧会の最強のキラーコンテンツであることを思い
知らされる。これはパスしたが、2020年の1月まで上野の森美で開催され
た回顧展には顔をだした。今から思うと新型コロナ感染の直前だったので運が
よかった。ここで目玉の絵として披露されたのがメトロポリタンにある‘糸杉’。
一緒にワシントンナショナルギャラリー蔵の‘薔薇’も並んだ。この薔薇の絵は
ワシントンナショナルギャラリー展があたっときも出品された。

以前METのミュージアムショップでルネサンス絵画から印象派、現代アート
まで全部カバーした大判のガイド本‘メトロポリタンの傑作絵画’を購入したが、
ゴッホは‘糸杉’が選ばれている。ここでは7点くらいみたが、‘糸杉’のほかには
人物画では‘麦わら帽子の自画像’、‘アルルの女 ジヌー夫人’が有名。そして、
静物画にもいいのがある。2017年のゴッホ展(東京都美)にやって来た
‘夾竹桃と本のある静物’と見ごたえのある‘アイリス’に魅了される。

ナショナルギャラリーでお目にかかった6点のなかでもっとも好きなのが
‘ムスメの肖像’。この絵はゴッホがアルルで読んだロチの異国趣味小説‘お菊さ
ん’に刺激されて描かれた。アルルの少女を日本人のムスメに見立てているが、
小説のことを知らないでこれをみるとおとなしそうな田舎の少女という感じ。
ゴッホが日本で人気があるのはとにかくこの天才画家が浮世絵が好きで日本に
大変関心をもっているから。こんな日本好きに悪い印象があるはずがない。

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2022.01.19

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(15)

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  マネの‘鉄道’(1873年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘プラム酒’(1877年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘老音楽師’(1862年 ワシントンナショナルギャラリー)

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   ‘舟遊び’(1874年 メトロポリタン美)

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  ‘女とオウム’(1866年 メトロポリタン美)

画家に対する好みの度合いは時間とともに変化していく。女性を描いた絵で
はルノワールが断トツのトップで最初から君臨していたが、あるときから
マネ(1832~1883)が迫ってきた。美術の教科書で知ったマネの
代表作というと‘草上の昼食’と‘オランピア’。オルセーでお目にかかったとき
は息を呑んでみた。こういう有名な絵との出会いは絵画が大好きな人でも
普通の観光客(最初のオルセーではここだった)でも、人生における思い出
に残るエンターテイメントの体験としては反応にはそう差がないかもしれな
い。これがあの‘オランピア’か!と神経が強く注目する。

この2点に描かれた女姓にぐっと惹かれることはなく、ゴヤの‘着衣のマハ’&
‘裸のマハ’をみたときと似たような感じ方だった。マネの女性画に開眼したの
はワシントンのナショナルギャラリーで‘鉄道’に遭遇したとき。サン・ラザ
ール駅を背景にしてこちらをじっとみつめている女性に大変魅了された。
このみずみずしい表情にいっぺんに参った。そして、びっくりすることがもう
ひとつあった。このモデルはあの‘オランピア’に登場する女性と同じ人物と
いう。ええー、そうなの?二人のイメージが結びつかない。不思議な体験で
ある。‘プラム酒’のモデルもすごくいい。一人でカフェに座って片手で頬杖を
突き、もう一方の手で煙草をもって考えにふけっている。どこかドガの‘アプ
サント’を彷彿とさせる。風俗画でもこういう心の内面がうかがえるようなも
のは長く記憶される。

マネには男性が主役の絵が多くあるがナショナルギャラリーには‘老音楽師’、
‘死せる闘牛士’、‘悲劇役者(ハムレットに扮するルビエール)’が美術館のカタ
ログに掲載されている。お気に入りは存在感のある年老いた音楽師。2008
年のとき7点お目にかかったが、どういうわけかこの絵は姿をみせてくれず、
5年後ようやくリカバリーした。

メトロポリタンにあるマネは7点みることができた。主要作品のひとつ‘舟遊
び’は明らかに浮世絵の構図を意識している。ヨットの帆を画面の端で断ち切
ることにより空間の広がりが生まれている。‘女とオウム’は同名のクールべの
官能的な作品を意識して描かれたもの。モデルは‘オランピア’に登場するあの
女性(ヴィクトリーヌ・ムーラン)。七変化ムーランにまたまた仰天!

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2022.01.18

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(14)

Img_0001_20220118222701  ゴーギャンの‘アベ・マリア’(1891年 メトロポリタン美)

Img_0004_20220118222701   ‘光輪のある自画像’(1889年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_20220118222701    ‘海辺’(1892年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0002_20220118222701  ‘悪魔の言葉’(1892年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0005_20220118222701   ‘赤い花と乳房’(1897年 メトロポリタン美)

絵画が好きになると作品についていろんなことを考える。画家が生涯
に描いた作品のなかでどれが最高傑作か、それはどこの美術館にあるのか。
NO.1の絵でなくてもトップ5くらいに評価される絵を所蔵している美術
館というのは足を運ぶ価値のある美術館といえる。これは美術館の規模の大
きさとは関係ない。大きな美術館だとそういう自慢の作品が複数あるという
のが強みであり、絵画ファンを呼び込む最大の武器になる。こういう視点で
メトロポリタンとワシントンのナショナルギャラリーをみたとき、美術館を
輝かせる画家としてすぐ思いつくのがゴーギャン(1848~1903)。

メトロポリタンにある‘アベ・マリア(イア・オラナ・マリア)’はエルミタ
ージュ蔵の‘果実を持つ女’とともにMy好きなゴーギャンの1位をずっと維持
している。だから、この美術館にでかけるときはこの絵との対面が楽しみの
ひとつになっている。ここにはゴッホの糸杉など傑作があるが、ほかの美術
館、たとえばMoMAでもクレラー=ミュラーにも糸杉のいいのがあるから、
この絵によってメトロポリタンへの愛着度が高まるというものでもない。
METにあるゴーギャンはいつも所蔵作品を全部展示してはいないのが実情。
2008年のときは5点でていたが、2013年は‘アベ・マリア’のみで、
2015年は画集に載ってないタヒチの絵などが3点並んでいた。二人のタ
ヒチ女性がどんと描かれた‘赤い花と乳房’も大変魅了されているが、どういう
わけはまだ一度しかお目にかかってない。

2010年の10月、ロンドンのテート・モダンで開かれていた‘ゴーギャン
展’に運よく遭遇したのは生涯の喜び。長年の夢であったスコットランド国立
美にある‘説教のあとの幻影’がみれ、エルミタージュの‘果実を持つ女’とも再
会できたので天にも昇るような気分だった。この大回顧展は翌年ワシントン
のナショナルギャラリーにも巡回した。こういう大きな回顧展が開催できる
のは自分のところにもゴーギャンが多くあるから、ナショナルギャラリーは
全部で10点も出品している。じっさい2008年に訪問したときは8点、
2013年は7点も楽しませてもらった。

‘光輪のある自画像’は画集で必須のピースとなっている有名な絵。黄色と薄赤
の平板な色面と首だけが浮き上がって見えるようなゴーギャンが目に焼きつ
いている。‘海辺’はゴーギャンがよく使う紫に惹き込まれる。画面の下半分で
装飾的な紫で波の動きをイメージさせている。‘悪魔の言葉’にも‘海辺’と同じ
ような紫の模様がみられる。はっとさせられるのは二人の女性のすごい目力。
タイトルの感じがよくでている。

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2022.01.17

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(13)

Img_0001_20220117222001   モネの‘パラソルを持つ婦人’(1875年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0003_20220117222001   ‘サンタドレスのテラス’(1867年 メトロポリタン美)

Img_0004_20220117222101   ‘マヌポルト(エトルタ)’(1883年 メトロポリタン美)

Img_20220117222101   ‘ポプラ’(1891年 メトロポリタン美)

Img_0005_20220117222101   ‘太鼓橋’(1899年 ワシントンナショナルギャラリー)

アメリカの美術館はどこへ行っても印象派やポスト印象派の絵が続々出てく
る。確かに印象派関連の美術本をみてるとアメリカの美術館によく出くわす
ので、資金力のあるコレクターたちがこぞって印象派を蒐集したことは容易
に想像できるが、じっさいまわってみると展示のハイライトは印象派だとい
うことを実感する。絵画愛好家たちの印象派への傾倒ぶりがこれほど強かっ
たとは!

画家たちの中でお目にかかる作品の数がとびぬけて多いのがモネ(1840
~1926)。たとえば、メトロポリタン:17点、ワシントンナショナル
ギャラリー:15点、シカゴ:25点、ボストン:9点、フィラデルフィア
:18点、館内では写真撮影はOKだから、片っ端から撮っていった。美術
本に載っている以外のものが次々出てくるので感動の袋がパンパンに膨らん
でいく。アメリカの美術館でこんなに多くのモネに出会うとは想像もしてなか
った。これには本当に驚いた。

メトロポリタンのベスト3は北斎の絵の構図を意識して描いた‘サンタドレス
のテラス’、激しい波の動きと奇岩をアップでとらえた‘マヌポルト(エトル
タ)’、装飾的な表現と抽象画のイメージが気分をハイにしてくれる‘ポプラ’。
とくに思い入れがあるのがポプラの連作。1990年ロンドンのロイヤル・
アカデミーで行われた‘モネの連作展’に海外出張のとき運よく遭遇した。
日曜日を利用してでかけるとなんと2時間待ちという大人気。大混雑の中、
興奮状態でみたのでMET蔵の‘ポプラ’をみたことはみたのだろうが、しかと
その黄色の輝きを実感したという思いがなかった。それで2008年久しぶ
りのメトロポリタンではこの絵と対面するのを楽しみにしていた。ところが、
飾られてなかった。そのリカバリーを果たしたのは2013年の訪問のとき。
リズミカルに並ぶ垂直のポプラの美しさを目に焼つけた。

ナショナルギャラリー蔵では‘パラソルを持つ婦人’に魅了され続けている。
これは日本にもやって来た。すごいのは白が光源のように輝いていること。
絵の前を離れて遠くにいても、絵の存在感が全然薄れない。これだからモネ
はやめられない。‘太鼓橋’は美術館のガイドブックに掲載されている。そして、
‘ヴェトゥイユの画家の庭’も光に照らされた巨大なひまわりと子どもの姿が心
を強く揺すぶる。

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2022.01.16

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(12)

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 ルノワールの‘じょうろを持つ少女’(1876年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘ルグラン嬢の肖像’(1875年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘シャルパンティエ夫人と子どもたち’(1878年 メトロポリタン美)

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  ‘ピアノの前の少女たち’(1892年 メトロポリタン美)

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  ‘シャトゥ―の漕ぎ手たち’(1879年 ワシントンナショナルギャラリー)

1990年ワシントンにはじめて行ったときは美術館はナショナルギャラリ
ーしか回らなかった。当時はまだ絵画にどっぷりつかってはおらず、旅行の
ガイドブックに載っている情報しかなかったので、この美術館のコレクショ
ンがどれほどスゴイものかはよくわからなかった。時が流れて、アメリカの
美術館巡りを本格的にスタートさせた2008年からナショナルギャラリー
が誇る名画の数々が心に沁み込んでいくことになる。

ルノワール(1841~1919)の絵で当時手元にあった‘週刊世界の美術
館 ワシントンナショナルギャラリー’に紹介されていたのが‘じょうろを持つ
少女’だった。だから、この絵を必見リストの最上位にメモしていた。じっと
みていたら、ブリジストンにある足を組んだポーズが愛らしい‘ジョㇽジェッ
ト・シャルパンティエ嬢’がかぶってきた。ほかにも‘アルジェの女’や大作の‘デ
ィアナ’や‘踊り子’などともお目にかかったが、インパクトのあるこの女の子
に完全に食われてしまった。次に惹かれたのが‘ルグラン嬢の肖像’、まだ少女
なのに品があり大人の女性の雰囲気があるので思わず足がとまった。この絵
は確か日本にやって来たような記憶があるが、当たっている?

メトロポリタンにあるルノワールは2008年の訪問では9点だった(ナシ
ョナルギャラリーは5点)。画集に必ず載っているのが‘シャルパンティエ夫
人と子どもたち’。日本風の居間のソファに腰かけている夫人はぱっとみると
おばあちゃんにみえる。このイメージが今も変わらない。だから、可愛い二人
の子どもが孫にみえて仕方がない。手前の犬の上に腰かけているのがお姉ちゃ
んで、奥の子は実は弟。ルノワールの時代、好い家では男の子に女の子の恰好
をさせていた。

‘ピアノの前の少女たち’は2015年のとき大変魅了された。この主題には
もう2点の別ヴァージョンがオルセーとオランジュリーにあるが、この絵が
一番良く映るのである。色彩が輝いており部屋の中の光源のような感じだっ
た。この絵はロバート・レイマンのコレクションだが、同じコレクションの
‘座っている浴女’にもぞっこん参っている。

‘シャトゥ―の漕ぎ手たち’は風景画の主要作品のひとつで、日曜日にする舟遊
びの楽しみが動きのある構図や人々の表情からよく伝わってくる。ナショナル
ギャラりーにはもう一点パリで一番賑やかな橋を描いた‘ポン=ヌフ橋’がある。
これもなかなかいい。

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2022.01.15

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(11)

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 ゴヤの‘サバーサ・ガルシア’(1806~11年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘ポンテーホス女侯爵’(1786年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘マヌエル・オソーリオ・デ・スーニガ’(1788年 メトロポリタン美)

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 ‘マリア・テレサ・デ・ボルボン’(1783年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ‘セバスティアン・マルティネス’(1792年 メトロポリタン美)

マドリードのプラド美で‘着衣のマハ’、‘裸のマハ’をみてゴヤ(1746~
1828)に済みマークをつけるのは早合点すぎるかもしれない。というの
もアメリカのメトロポリタンとワシントンナショナルギャラリーにびっくり
する傑作があるからである。エル・グレコ同様、アメリカのコレクターの
名画蒐集に注ぐ熱情にはほとほと感心させられる。

どこの美術館へ行っても女性の絵をみるのは大きな楽しみだが、ワシントン
のナショナルギャラリーにはとくに思い入れの強いゴヤの絵がある。
2008年にはじめてお目にかかった‘サバーサ・ガルシア’の前に立ったとき、
瞬間的に頭をよぎったのが女優の薬師丸ひろ子。若い頃の薬師丸はこんな顔
をしていた。だから、サバーサはスペイン人なのにすごく親しみを覚える。
ゴヤはこの清楚な女性の美しさに惹かれ、肖像画を描かせてほしいとみずか
ら申し出たという。

‘ポンテーホス女侯爵’は当時フランスで流行した衣装に身を包んだ女侯爵が緑
豊かな自然を背にして描かれている。右手にもっているカーネーションや手前
にいるパグ犬は純潔や貞節を意味するが、こうした演出もしっかり行うのが
ゴヤ流。

メトロポリタンにある子ども画‘マヌエル・オソーリオ・デ・スーニガ’に魅了
され続けている。この可愛い坊やはMy子ども画のランキング1位をずっと
維持している。真紅のコンビネゾン(上下がひとつなぎの服)が肌の白さを浮
き上がらせているため、ひもにつながれたカササギやその後ろにいる不気味な
3匹の猫に注意がいかない。一方、ナショナルギャラリー蔵の‘マリア・テレサ
・デ・ボルボン’は幼い女の子なのに腰に手をあてまっすぐ前を見据える姿に
は王族の気品が表れている。

ベラスケスの従者兼助手の肖像画と同じく思わず足がとまるのが‘セバスティア
ン・マルティネス’。この人物はワイン商で財をなした実業家で本、版画、絵画
の蒐集家としても知られていた。ベラスケスの描き方とどこか似ており、本人
と今会っているような気がする。エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤと男性肖像
の卓越した表現が引き継がれている。

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2022.01.14

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(10)

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 プッサンの‘朝日を捜す盲目のオリオン’(1658年 メトロポリタン美)

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 プッサンの‘サビニの女たちの略奪’(17世紀 メトロポリタン美)

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 プッサンの‘キリストの洗礼’(1641~42年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ベラスケスの‘ファン・デ・パレーハの肖像’(1650年 メトロポリタン美)

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 ベラスケスの‘縫い物をする女性’(1640年 ワシントンナショナルギャラリー)

海外の美術館をまわっていると時々まったく情報がなかった展覧会に遭遇す
ることがある。たとえば、2008年3月メトロポリタンを訪問したとき
開催されていたプッサン(1594~1665)の回顧展もそのひとつ。
この年はプッサンの当たり年。1月ルーヴル、ロンドンのナショナルギャラ
リーで有名な‘アルカディアの羊飼いたち’など合わせて24点鑑賞し、アメ
リカではこのプッサン展で39点、そしてシカゴ美、ワシントンナショナル
ギャラリーでもお目にかかったから、総数でいうとなんと73点ものプッサ
ンの絵をみたことになる。これでプッサンに開眼した。

メトロポリタンには5点のプッサンがあるが、回顧展にでていたのは‘朝日を
捜す盲目のオリオン’。右に描かれている巨人がオリオン。美男の狩人だった
が、キオス島で王の娘に恋したが島の野獣を殺せと難題をつきつけられる。
これをクリアしても王はうんと言わず、オリオンに酒を飲まして酔わせ眠っ
ている間に眼をつぶしてしまった。オリオンは日の出の時に太陽の陽を浴び
れば目が見えるようになるとの神託を得た。この場面は肩に案内役のケダリ
オン少年を乗せて東に向かって歩き出すところ。この巨人もガリバーのよう
に馬鹿デカいし、頭の上にいる月の女神ディアナが雲に肘をついているのが
おもしろい。

常設展示に飾られていた‘サビニの女たちの略奪’は多く描かれた歴史画や宗教
画のなかでは人気の作品。この主題はもう一枚別ヴァージョンがあり、ルー
ヴルに展示されている。ここでは古代史の有名なエピソードが再現されており、
ローマの支配者ロムルス(左上)はサビニ族の未婚の女性たちを略奪するため
に上着を持ち上げて行動を促している。女たちの悲鳴が聞こえてくるようで、
老人や赤ちゃんの悲しそうな顔が目に焼きついている。ワシントンのナショナ
ルギャラリーにあるプッサンは4点、ガイドブックに載っているのが人物が横
にずらっと並ぶ‘キリストの洗礼’。

プッサンの5年後に生まれたのがスペインの大画家ベラスケス(1599~
1660)。ベラスケスが描いた肖像画でマドリードのプラド以外の美術館で
みて感動した絵が2点ある。ローマのドーリア・パンフィーリ美蔵の‘教皇イン
ノケンティウス10世’とMETにある‘ファン・デ・パレーハの肖像’。2点
とも2回目のイタリア滞在中に描かれた。スペインにいるときは宮廷画家とし
てフェリペ4世をいい男に描くため脚色をしなくてはいけないが、イタリアで
なら自由に人物をとらえられる。下僕兼助手のパレーハをみたときは目の前に
本人がいるような感じだった。これをみるとベラスケスの凄さがわかる。
この生な感覚は天才にしか描けない。ナショナルギャラリーの‘縫い物をする女
性’はパレーハ同様自然な姿で描かれているのがとてもいい。

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2022.01.13

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(9)

Img_0001_20220113221901  レンブラントの‘ホメロスの胸像をみるアリストテレス’(1653年 メトロポリタン美)

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‘フローラ’(1654年 メトロポリタン美)

Img_0004_20220113221901  ‘旗手(フローリス・ソープ)’(1654年 メトロポリタン美)

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‘ルクレツィア’(1664年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0002_20220113221901    ‘自画像’(1659年 ワシントンナショナルギャラリー)

レンブラント(1606~1669)の画集をみると主要な作品は世界中の
ブランド美術館に分散されて所蔵されていることがわかる。もっとも有名な
‘夜警’があるアムステルダム国立美だけに傑作が集中しているのではないの
である。ほかの美術館でレンブラントを数、質の点で堪能させてもらったの
はエルミタージュ、ロンドンのナショナルギャラリー、マウリッツハイス、
ルーヴル、ドレスデン国立絵画館、メトロポリタン。

メトロポリタンでみたレンブラントは全部で15点。そのなかで大変魅了さ
れているのが‘ホメロスの胸像をみつめるアリストテレス’。これは美術館ガ
イドに‘フローラ’とともに掲載されている。ひと目見てすごい絵だなと思う。
視線がむかうのが光をうけて黄金に輝くアリストテレスの両袖。カラヴァッ
ジョにしろレンブラントにしろ卓越した光の描写でみる者の心をとらえるの
が天才の証。

‘フローラ’は国立新美の‘メトロポリタン美展’に出品される。確か何年か前に
も披露されたような記憶があるが、どの展覧会だったか思い出せない。同じ
タイトルの絵をエルミタージュでみたが、こちらはこの絵の20年くらい前
に描かれたもので妻のサスキアをモデルにして古代ローマの花と春の女神に
見立てている。そして、2度目のフローラの役をつとめたのはサスキアが
死んだあとレンブラントが愛したヘンドリッキェ。どこか控えめで性格のよ
さそうな女性である。

‘旗手(フローリス・ソープ)’は2011年西洋美で開催されたレンブラント
展にやって来た。男性の肖像画にくらべると鑑賞のエネルギーの大半は女性
像に使われているが、レンブラントは例外でこういう立派な肖像画は息を呑
んでみてしまう。

ワシントンのナショナルギャラリーでもレンブラントは多く飾られており、
16点飾られていた。強い磁力によって惹き込まれたのは‘ルクレツィア’。
暴君ローマ王の息子セクストゥスに犯された貞女ルクレツィアが自害する直
前の決意の瞬間がとらえられている。まるで悲劇映画の一シーンをみている
よう。お馴染みの自画像はレンブラントが50歳のときのもの。自画像はど
れも近づきやすさがあり、街の一角で出会ったような感じ。‘やぁー、レンブ
ラントさん、お元気ですか’とつい声をかけたくなる。

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2022.01.12

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(8)

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 ルーベンスの‘ライオンの穴の中のダニエル’(1613年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ルーベンスの‘パエトンの墜落’(1605年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ルーベンスの‘ヴィーナスとアドニス’(17世紀 メトロポリタン美)

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 ヴァン・ダイクの‘王妃と小人’(1633年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ヴァン・ダイクの‘ジェイムズ・ステユワート公’(17世紀 メトロポリタン美)

ヨーロッパで美術館巡りをしていると大きな美術館でも邸宅美術館でも
ルーベンス(1577~1640)に遭遇することが多い。とくに圧倒され
るのがダイナミックな構図で激しい動きが表現された大画面のバロック絵画。
アメリカでもルーベンスはみられるが数は少なく、大きな絵は出くわすこと
ことはほとんどない。そのため、印象深かった作品は目に強く焼きつけられ
ている。

お気に入りの絵がワシントンのナショナルギャラリーにある。縦2.24m、
横3.3mの大きな画面に描かれた‘ライオンの穴の中にいるダニエル’。
2008年、ここで7点のルーベンスをみたがこの絵には度肝を抜かれた。
ダニエルのまわりにライオンがなんと10頭もいる。こんなに多くのライオ
ンがいる絵をみるのははじめて。ギリシャ神話を題材にした‘パエトンの墜落’
はそれほど大きくない絵だが、ヨーロッパの美術館でみるような大作だった
ら斜めに走る光線や大混乱を想像させる馬や人々の動的描写に相当な緊張感
を感じるかもしれない。これは日本で開催されたワシントンナショナルギャ
ラリー展に出品された記憶があるが?

メトロポリタンにあるルーベンスは手元の鑑賞記録によると10点。一番惹
かれているのは‘ヴィーナスとアドニス’。ティツィアーニの同名の絵が‘メト
ロポリタン美展’(国立新美)にやってくるが、好みとしてはルーベンスの方。
アドニスはヴィーナスだけでなくキューピッドにも強く引き留められている。
‘おじちゃん、行っちゃあダメ!’と言っているキューピッド坊やが可愛いこと。

ルーベンスがあるなら1632年イギリス王チャールズ1世の宮廷画家になっ
たヴァン・ダイク(1599~1641)も揃えたくなるのがコレクター心理。
こちらはナショナルギャラリーが13点とMETの9点を上回っている。思
わず足がとまったのが‘王妃ヘンリエッタ・マリアと小人’。ヴァン・ダイクは
女性を脚色して描くので実際の王妃はこんな美形とは違うかもしれないが、
じっとみつめてしまう。METにある‘ジェイムズ・ステュワート公’は見事な
肖像画、背の高いグレイハウンド犬が献身的に主人に身を寄せているのが印象
的だった。

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2022.01.11

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(7)

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 エル・グレコの‘トレド風景’(1597年 メトロポリタン美)

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  ‘枢機卿の肖像’(1600~01年 メトロポリタン美)

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  ‘羊飼いの礼拝’(1605~10年 メトロポリタン美)

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  ‘ラオコーン’(1610~14年 ワシントンナショナルギャラリー)

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  ‘聖マルティヌスと乞食’(1597~99年 ワシントンナショナルギャラリー)

海外旅行が趣味という人のなかには全世界オールラウンドに出かける人も
いれば、特定の地域、たとえばヨーロッパだけとか、アメリカしか興味が
ないとか、アフリカ大好きといった人もいる。ある芸能人はミュージカル
に嵌り毎年NYのブロードウェイに行くらしい。これまでアメリカよりヨ
ーロッパのほうに多く足を運んだので、新型コロナの感染騒動がおさまり
海外旅行が再開できたときはアメリカへシフトしようと思っている。

その場合、東部と西部は1:2ぐらいの割合になりそう。期待の都市は
まだ足を踏み入れてないロサンゼルスやサンフランシスコ。こうして西部
の街を体で感じながら、多少は目が慣れているNYを中心とした東部の街で
も美術館巡りをする。やはり、NYやワシントンで美術鑑賞をするのは大き
な楽しみだから、東部オプションはなくしたくない。昨日はヤン・ファン
・エイクの傑作をメトロポリタンとワシントンナショナルギャラリーでみ
た。今日のスポットはエル・グレコ(1541~1614)。この画家も
マドリードのプラドやトレドの大聖堂へ行かなくても存分に楽しめるすご
い絵が揃っている。

数はMETの方が多く9点くらいある。美術館のカタログに載っているのは
もっとも人気の高い‘トレド風景’、堂々とした‘枢機卿の肖像’、‘盲人を癒す
キリスト’の3点。ほかには画集に必ず載っている‘黙示録第五の封印’、
いくつかあるヴァージョンでは一番いいと言われている‘十字架を担うキリ
スト’、‘自画像’、‘聖ヒエロニムス’。そして、国立新美の‘メトロポリタン美
展’に出品される‘羊飼いの礼拝’と‘祝福するキリスト’。‘羊飼いの礼拝’は最晩
年のヴァージョンで激しい筆致で描かれている。

一方、ナショナルギャラリーにあるエル・グレコは5点くらい。とくに
有名なのは‘ラオコーン’。ローマにある彫刻とはまたちがった迫力満点の作
品で中央の巨大な蛇の首をつかむラオコーンに視線が集中する。死への恐
怖におののきながらと生き延びることへ執着する姿に釘づけになる。白馬
に跨るフランスの守護聖人を描いた‘聖マルティヌスと乞食’も忘れられない。
ローマの兵士だった聖マルティヌスは寒さに震える乞食に出会い自分のマン
トの半分を裂き与えた。すると、そのマントをまとったキリストが夢のなか
に現れたという。エル・グレコはこの場面をフランスのトゥールではなく
見晴らしのいいトレドを背景にして描いた。

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2022.01.10

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(6)

Img_0001_20220110222801  ファン・エイクの‘受胎告知’(1434~36年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_20220110222801 ファン・エイクの‘磔刑 最後の審判’(1425~30年 メトロポリタン美)

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クリストゥスの‘カルトウジオ会修道士の肖像’(1446年 メトロポリタン美)

Img_0003_20220110222801   ボスの‘守銭奴の死’(1485~90年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0004_20220110222801  ブリューゲルの‘穀物の収穫’(1565年 メトロポリタン美)

15世紀フランドル絵画のもっとも偉大な画家であるヤン・ファン・エイク
(1390~1441)にいっぺん嵌るともうそこから抜け出せない。幸い
なことにベルギーを旅行する機会に恵まれたので画集に載っている主要な
作品はおおよそみることがでできた。体が震えるほどのインパクトをもって
いる色彩の輝きと超絶技巧を駆使した細密描写が目に焼きついている。

団体ツアーだとベルギーはオランダとセットになっているが、イタリアや
スペイン、パリ、ロンドンなどと比べると人気の点では及ばないからこうし
た北方ルネサンス美術を楽しむ順番が遅くなるかもしれない。こういうとき
お薦めなのがメトロポリタンとワシントンのナショナルギャラリー。旅行
会社が企画する‘アメリカ東部の旅’に参加すれば、極上のファン・エイクに
お目にかかれること請け合いである。すばらしいのが2点ある。‘受胎告知’
と‘キリストの磔刑、最後の審判’。緻密な描写をみたらダ・ヴィンチやラファ
エロが吹っ飛ぶかもしれない。

メトロポリタンで遭遇したファン・エイクの一世代後のクリストゥス(?~
1476)の‘カルトゥジオ会修道士の肖像’も忘れられない。視線が釘づけに
なるのは額縁にとまっている蠅。ええー!?こんなところに蠅をいるの?
だまし絵はこの蠅だけではない。額縁も本物ではなく描かれたもの。一見の
価値はある。

ボス(1450~1516)とブリューゲル(1525~159)はカラヴァ
ッジョと同じくコンプリートを狙っている画家でこれまで画集に載っている
作品を追っかけてきた。ワシントンにあるボスの‘守銭奴の死’は怪奇な世界が
描かれている。左の戸口には矢をもった髑髏の姿の悪魔がおり、ベッドのわき
では別の悪魔が金のつまった袋を守銭奴に差し出している。METが所蔵する
ブリューゲルの穀物の‘収穫’は現存する5枚の‘季節画’の1点。黄金色が目に沁
みる麦刈りの風景だから晩夏の8月を表している。ウィーン美術史美に行かな
くてもこんな名画がみられるのだからメトロポリタンは本当に楽しい。

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2022.01.09

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(5)

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  ベリーニの‘聖母子’(1480年代 メトロポリタン美)

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  ベリーニの‘神々の祝宴’(1514~29年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ティツィアーノの‘鏡の前のヴィーナス’(1555年 ワシントンナショナルギャラリー)

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 ティツィアーノの‘ヴィーナスとアドニス’(1550年代 メトロポリタン美)

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 ヴェロネーゼの‘愛で結ばれたマルスとヴィーナス’(1570年代 メトロポリタン美)

ヴェネツィアで美術館巡りをするとき真っ先に出かけるのはアカデミア美、
ここでは14世紀から18世紀までのヴェネツィア派の名画が目を楽しませ
てくれる。主役をつとめるのはジョヴァン二・ベリーニ(1434~
1516)、ジョルジョーネ(1476~1510)、ティツィアーノ
(1488~1576)、ティントレット(1519~1594)、ヴェロ
ネーゼ(1528~1588)の面々。煌くような色彩や光の効果、動きの
ある構図のとり方により描かれたヴェネツィア派の様式は新しい流れをもた
らした。

プラドやロンドンのナショナルギャラリーでもヴェネツィア派は楽しめるが、
アメリカとなるとワシントン・ナショナルギャラリーとメトロポリタンにと
ても惹かれる絵がある。ヴェネツィア派の生みの親みたいな存在であるベリ
ーニはMETの‘聖母子’に思わず足がとまる。顔立ちのスッキリした聖母は
すごく生感覚があり親しみを覚える。ワシントンにある‘神々の祝宴’は画集に
必ず載っている主要作品のひとつ。ワインの神、バッカスにちなんだ古代
バッコス祭りの主題を描いている。

国立新美の‘メトロポリタン美展’に登場するヴェネツィア派は手元の情報で
はティツィアーノの‘ヴィーナスとアドニス’。猪に殺されることも知らずに
運命の狩りに出かけようとしているアドニスにヴィーナスが抱きついてい
るところが描かれている。この主題はいくつかのヴァージョンがあり、
プラドとウフィツィでもお目にかかった。背景の虹が印象深い。ナショナル
ギャラリー蔵の‘鏡の前のヴィーナス’にぞっこん参っている。横顔のヴィー
ナスをみていると古い映画にでてくる美人女優を連想する。

メトロポリタンにあるヴェロネーゼの‘愛で結ばれたマルスとヴィーナス’は
大変な傑作でプラハの皇帝ルドルフ2世が所有していた5点のうちのひとつ。
この絵はルーヴルの超大画面の‘カナの婚宴’、ロンドンのナショナルギャラ
リーにある天井装飾画‘愛の寓意’とともにアカデミア美以外の美術館で感動
した絵だから、特別な思い入れがある。

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2022.01.08

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(4)

Img_0002_20220108222001  ダ・ヴィンチの‘ジネヴラ・デ・ベンチ’(1474年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0003_20220108222001  ラファエロの‘アルバの聖母’(1510年 ワシントンナショナルギャラリー)

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ラファエロの‘聖者と玉座の聖母子’(16世紀 メトロポリタン美)

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ラファエロの‘ゲッセマネの祈り’(1504年 メトロポリタン美)

Img_0004_20220108222101  ボッティチェリの‘ジュリアーノ・デ・メデイチ’(1478年 ワシントンナショナルギャラリー)

アメリカの美術館をまわっていて、ワシントンのナショナルギャラリーだけ
はほかとちがう特別な感覚をもつことがある。イタリアルネサンス絵画が
展示してある部屋にいるとフィレンツェのウフィツイ美あるいはパリの
ルーヴルにいるような気分になる。そう思わせるのはそこにダ・ヴィンチ
(1452~1519)の‘ジネブラ・デ・ベンチ’とラファエロ(1483
~1520)の‘アルバの聖母’が飾ってあるから。アメリカの大美術館にダ・
ヴィンチがあってもおかしくないが、なにしろ数が少ないのでここにこの
女性の肖像画があるのはやっぱりスゴイことである。

そして、ラファエロの‘アルバの聖母’もこれぞラファエロ!という感じのす
ばらしい聖母像。これはナショナルギャラリーの創設者である実業家のアン
ドリュー・W・メロン(1855~1937)が旧ソ連のエルミタージュ美
から購入したもの。ここにはもう2点ラファエロがあるが、‘アルバの聖母’
の磁力が強すぎてどうしても印象が薄くなってしまう。ピッティ美の‘小椅子
の聖母’、ウフィツィの‘ひわの聖母’、ルーブルの‘美しき庭師’などとともに
この絵をみれたことは生涯の想い出である。

一方、メトロポリタン美にあるラファエロは祭壇画の‘聖者と玉座の聖母子’
と小さな物語絵の‘ゲッセマネの祈り’。国立新美で行われる‘メトロポリタン
美展’には‘ゲッセマネの祈り’がやって来る。日本でラファエロがみられるな
んて滅多にないことだからしっかりみたい。これは祭壇画の下部を飾るプル
デッラ(祭壇下段画面)だったもので、最後の晩餐のあとオリーブ山に引き
こもったキリストが聖ペテロ、聖ヤコブが眠りこんでいる間に祈りを捧げて
いるところが描かれている。

ボッティチェリ(1445~1510)はナショナルギャラリーが存在感の
ある‘ジュリアーノ・デ・メディチ’を所蔵しているのに対し、METには小品
2点‘聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領’とお馴染みの画題‘受胎告知’がある。
国立新美にこのうち1点でも出品されたら嬉しかったが、世の中そううまく
はいかない。

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2022.01.07

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(3)

Img_20220107224101    ヴァトーの‘メズタン’(1718~20年 メトロポリタン美)

Img_0003_20220107224101  ヴァトーの‘イタリアの喜劇役者たち’(1720年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0001_20220107224101   ブーシェの‘ヴィーナスの誕生’(1751年 メトロポリタン美)

Img_0004_20220107224101  フラゴナールの‘読書する娘’(1775年 ワシントンナショナルギャラリー)

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フラゴナールの‘恋文’(18世紀 メトロポリタン美)

ダイナミックで壮大な画風が目を見張らせるバロックのあとは優美さや軽快
な感じをだしたロココ絵画が一世を風靡する。このロココ様式の作品に目が
慣れるのは時間がかかる。まずみておきたいのはルーヴルに展示されている
作品だが、展示されている場所は人気のドラクロアやジェリコーの大きな絵
があるドゥノン翼の2階の大広間からだいぶ離れたシュリー翼の3階。はじ
めてのルーヴルではここへ寄る時間はなかなかとれない。だから、ヴァトー
(1684~1721)やブーシェ(1703~1770)やフラゴナール
(1732~1806)の絵をじっくりみるのは2回目以降に持ち越される
ことが多い。パリにそう度々行けないし、日本の美術館でロココにスポット
をあてた特別展はほとんどみないから、どうしてもロココ美に開眼するには
長い年月がかかってしまう。

今年の展覧会の見どころをいろいろみてみると、‘メトロポリタン美展’(国立
新美)に登場するロコロ絵画は貴重な鑑賞機会であることはまちがいない。
なにしろ愛用しているMETのガイドブックの表紙に使われているヴァトーの
‘メズダン’が出品されるのだから、嬉しい話である。メズダンはピエロ(フラ
ンスではジルと呼ばれる)と同様イタリア喜劇のキャラクター。これはワシ
ントンのナショナルギャラリーの‘イタリアの喜劇役者たち’、ルーヴルの‘ピエ
ロ’とともにヴァトーの画集には必ず載っている傑作。

ブーシェの‘ヴィーナスの誕生’にお目にかかれるのも幸運なこと。再会したら
クラクラして立っていられないかもしれない。パリに生まれたブーシェは
ルイ15世の愛人ポンパドール夫人に気に入られた。この絵は夫人のために
描かれたものだが、夫人はロココの理想とする女性美をつくりあげるのに
協力したと言われている。ルーヴルにある‘水浴のディアナ’と一緒にMyブー
シェベスト1に登録している。

フラゴナールは今回はお休みだが、METはこちらをふりむく女性の強い目力
が印象的な‘恋文’を所蔵している。そして、これよりもっと魅了されるのが
ワシントンにある。もうたまらないくらい好きな‘読書をする娘’。また、ナシ
ョナルギャラリー展が企画されるときはこの横向きの娘さんを目玉にしても
らいたいと思っている。

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2022.01.06

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(2)

Img_20220106221801  フェルメールの‘信仰の寓意’(1670~72年 メトロポリタン美)

Img_0001_20220106221801    ‘窓辺で水差しを持つ女’(1662~65年 メトロポリタン美)

Img_0003_20220106221801    ‘眠る女’(1656~57年 メトロポリタン美)

Img_0002_20220106221801  ‘天秤を持つ女’(1662~65年 ワシントンナショナルギャラリー)

Img_0004_20220106221901  ‘手紙を書く女’(1665~66年 ワシントンナショナルギャラリー)

国立新美で開催される‘メトロポリタン美展’にはカラヴァッジョ&ラ・トゥー
ルという豪華なペアリングが目玉になっているが、もうひとつ話題を集めそう
なのが西洋絵画関連の展覧会ではキラーコンテンツになっているフェルメール
(1632~1675)。所蔵する5点の中から‘信仰の寓意’がはじめて披露
される。そして、フェルメールファンにはたまらない絵が同じ時期、別の美術
館に登場する。東京都美の‘ドレスデン国立古典絵画館蔵 フェルメールと17
世紀オランダ絵画展’に出品される‘窓辺で手紙を読む女’。こちらも初来日で
修復によって浮かび上がった‘片手を差し上げるキューピッド’が関心の的とな
っている。

メトロポリタンにある他のフェルメールは‘窓辺で水差しを持つ女’、‘眠る女’、
‘リュートを調弦する女’、‘少女’。作品の数が少ないフェルメールを5点も所蔵
しているのだから恐れ入る。幸運なことに全部みたが、展示室で全部揃ってい
たのは2008年のときだけ。人気のフェルメールのためか2013年3点、
15年4点とどれかが欠けていた。すべての絵をコンプリートしようと躍起に
なっている人にこういうのは痛い。

NYはフェルメール追っかけにはもってこいの街。フェメールに会える美術館
がMETからすぐ近くのところにある。ご存知、邸宅美術館のフリックコレク
ション、ここでは‘士官と笑う女’、‘女と召使’、‘稽古の中断’が楽しめる。どれもいい絵で大変気に入っている。日本にはこれまで数多くのフェルメールがやって来たが、ここにある3点は披露されてない。内規で他館には貸し出さないことを決めているのだろう。METとフリックを訪問すれば8点もみれるだから、最高の美術館巡りである。

そして、ワシントンのナショナルギャラリーに足をのばすとさらに3点みれる。
日本にやって来たことのある‘天秤を持つ女’、‘手紙を書く女’と小品の‘赤い帽子
の女’。今現在、フェルメールはコンプリートまであと1点となっている。気長
に待っているその絵は‘音楽の稽古’(バッキンガム、宮殿王室コレクション)。
フェルメールとのつきあいのはじまりは2000年、大阪市美で行われた‘フェ
ルメール展’。お目当ての‘真珠の耳飾りの少女’と念願の対面を果たしたが、一緒に展示されていたのが‘天秤を持つ女’。だから、この絵には特別な思い入れがある。

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2022.01.05

メトロポリタン美 VS ワシントン国立美!(1)

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 カラヴァッジョの‘音楽家たち’(1597年 メトロポリタン美)

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 カラヴァッジョの‘聖家族’(16世紀 メトロポリタン美)

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 メトロポリタンのラ・トゥール展示

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 ラ・トゥールの‘二つの炎のあるマグダラのマリア’(17世紀 MET)

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ラ・トゥールの‘鏡の前のマグダラのマリア’(17世紀 ワシントンナショナルギャラリー)

アメリカの美術館で古典絵画から現代アートまで一通りみれるのはNYの
メトロポリタン美、ワシントンのナショナルギャラリー、ボストン美、シカ
ゴ美、フィラデルフィア美。運よくこのビッグ5を全部訪問できたことは
生涯の想い出である。では、このうち2つに無料で招待すると言われたら
どこにするか、返事はすぐできる。メトロポリタンとナショナルギャラリー。
その理由は印象派や近現代アートならどこもいい作品が揃っているのでどこ
にしてもいいのだが、METとナショナルギャラリーには印象派より前の
ルネサンスやバロック絵画などが群を抜いていいのが揃っているから。

そのメトロポリタンのお宝絵画が2/9から国立新美で披露される。とくに
嬉しいのがカラヴァッジョ(1571~1610)の‘音楽家たち’とラ・ト
ゥール(1593~1652)の‘女占い師’が一緒に展示されること。これ
はすばらしい企画!海外の美術館をまわるときはどの絵をみたかをできる
だけ記録しているが、2008年、2013年、2015年のMET訪問
で2点が揃ってみれたのは2015年だけ。

METはラ・トゥールは今回やって来る‘女占い師’と‘二つの炎のあるマグダ
ラのマリア’の2点を所蔵しているが、どういわけか08年も13年も‘マグ
ダラのマリア’1点しか展示されていなかった。だから、1990年にはじめ
て会って大変魅了された‘女占い師’と再会できたのは25年ぶりのことだった。
そして、この絵とは翌年の2016年にもプラド美で行われた大ラ・トゥー
ル展でもみた。横に並んでいたのはルーヴルとフォートワースのキンベル美
にある‘ダイヤ・クラブのエースを持ついかさま師’。圧巻の3点展示に大感激
だった!

METにあるカラヴァッジョは4点、今回登場する‘音楽家たち’、‘リュート弾
き’、‘聖家族’、‘聖ペテロの否認’。‘音楽家たち’は2010年ローマで開催さ
れたカラヴァッジョ展にも出品された。若者の頬のピンク色と衣裳の白の輝
きが忘れられない。ワシントン・ナショナルギャラリーには残念ながらカラ
ヴァッジョはないが、ラ・トゥールは4点ある‘マグダラのマリア’のひとつ
‘鏡の前のマグダラのマリア’を所蔵している。これはプラドの回顧展にLA
のカウンティ・ミュージアム蔵の‘ゆれる炎のあるマグダラのマリア’と一緒
に飾られた。

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2022.01.04

謹賀新年 2022年前半展覧会プレビュー!

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   ラ・トゥ―ルの‘女占い師’(1630年代 メトロポリタン美)

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 ベラスケスの‘卵を料理する老婆’(1618年 スコットランド国立美)

今年も拙ブログをよろしくお願いします。新型コロナ感染の第六波がすぐ
近くまで来ている感じで、予定されている展覧会にも影響がでないとも限
りませんが、今年は過去2年低調だった美術館巡りがまた再開できそうな
ほど話題満載の特別展がたくさん登場しますので関心の高いものをまとめ
てみました。
★西洋美術
グランマ・モーゼス展  11/20~2/27    世田谷美
フェルメール展     1/22~4/3      東京都美
メトロポリタン美展   2/9~5/30      国立新美
ミロ展         2/11~4/17     Bukamura

ピカソ展        4/9~6/19      パナソニック汐留美
モディリアーニ展    4/9~7/18      大阪中之島美
スコットランド国立美展    4/22~7/3      東京都美
リヒター展       6/7~10/2      東近美
ルートヴィヒ美展    6/29~9/26     国立新美

★日本美術
ジャポニスム展     1/12~3/6      千葉市美
刀剣×浮世絵       1/21~3/25     森アーツセンター
空也上人        3/1~5/8       東博
春の江戸絵画      3/12~5/8      府中市美

鏑木清方展       3/18~5/8      東近美
大蒔絵展        4/1~5/8       MOA美
北斎展         4/16~6/12     サントリー美
琉球展         5/3~6/26      東博

(注目の展覧会)
昨年末にお目当てのものを少しばかり紹介したが、今年は年間を通して充実
した展覧会シーンが全国の美術館でみられそう。とくに期待しているのが
国立新美で開催される‘メトロポリタン美展’、明らかになった出品作をみると
METのお宝西洋絵画がドーンと並んでいる。これまで3、4回くらいこの
美術館のコレクションが披露されたが、今回が一番良さそう。多くの美術
ファンの目を釘づけにしそうなカラヴァッジョ、ラ・トゥール、フェルメー
ルだけでなく、ヴァトーやブーシェも含まれているのだからたまらない。

東京都美の‘フェルメールと17世紀オランダ絵画展’(ドレスデン国立古典絵
画館蔵)と‘スコットランド国立美 THE GREATS 美の巨匠たち’も期待で胸が
膨らむ。フェルメールの‘窓辺で手紙を読む女’、ベラスケスの‘卵を料理する
老婆’との対面を心待ちにしている。そして、近代絵画ではBunkamuraの
‘ミロ展’と大阪中之島美の‘モディリアーニ展’がとても楽しみ。

日本美術関連では東近美の‘鏑木清方展’に大勢の人が足を運びそう。決定版の
清方展にちがいないから浮き浮きしている。森アーツセンターギャラリーの
‘THE HEROES 刀剣×浮世絵’(ボストン美蔵)は刀好きの若い女性で展示室がい
っぱいになる可能性が大。

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