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2021.10.30

Anytime アート・パラダイス! フリードリヒ(2)

Img_0002_20211030215901   ‘窓辺の婦人’(1822年 ベルリン国立美)

Img_0003_20211030215901   ‘霧の海の旅人’(1818年 ハンブルク美)

Img_0001_20211030215901  ‘リューゲン島の白亜岩’(1818年 オスカー・ラインハルト・コレクション)

Img_20211030215901    ‘帆船の上にて’(1819年 エルミタージュ美)

Img_0005_20211030220001    ‘眺望’(1835年 ライㇷ゚ツィヒ 造形美)

‘窓辺の婦人’は日本でベルリン美のコレクションが披露されたときにお目にかか
った。女性を描いた絵には強い思い入れがあるため、惹かれたものは特定の画家
に絞らずどんどん名画ファイルに登録してきた。でも、顔をみせず後ろ姿で描か
れた女性に対しては関心が薄い。ところが、ときどき例外扱いになるものがでて
くる。フリードリヒのこの絵もその一枚。バルテュスには‘窓辺の少女’というタ
イトルのついた絵が2点(ともにメトロポリタン美)あるが、フリードリヒの
婦人を少女に変えてコラボしている。

‘霧の海の旅人’でも旅人は顔が見られないように背を向けている。フリードリヒ
の風景画に登場する人物はだいたい後ろ姿で描かれているのが特徴。はじめはな
かなか絵のなかに入りこめないが、慣れてくると自然の崇高な瞬間を彼らのその
後ろで一緒に感じられるようになる。だから、この絵では旅人同様に霧のベール
につつまれた雲海の世界を心をふるわせて眺めている気分である。なんだか中国
の黄山の景色がかぶってくる。

スイスの美術館巡りを数年後に実現させたいと思っているが、訪問することを
予定している美術館のなかにチューリヒの近くのヴィンタートゥ―ルにあるオス
カー・ラインハルト・コレクションンも含まれている。お目当ては有名な印象派
やゴッホだが、楽しみにしているのがフリードリヒの代表作‘リューゲン島の白亜岩’。この構図は引きこまれる。左右からでている木でつくらえた円に囲まれて尖ったガラスをイメージさせる白亜の岩がV字の形態で表現されている。そして、遠景の海原には2隻の帆船が小さく縦にぽんぽんとみえる。高所恐怖症の人はここには近づけないかもしれない。

エルミタージュにある‘帆船の上にて’はやはり顔をみせない男女が船の舳先に座り前方かすかにみえる街並みを眺めている。帆の大きなマストを大胆に描く表現は広重の‘名所江戸百景’にでてくる船頭が艪を漕ぐ場面を彷彿とさせる。‘眺望(人生の諸段階)’はよくみるとバランスよく配置された船が5隻で岩のところに描かれた三世代の人物は5人、数を同じにしている。本物をみてみたい。

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2021.10.29

Anytime アート・パラダイス! フリードリヒ(1)

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   ‘山上の十字架’(1807~08年 ドレスデン 国立絵画館)

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   ‘教会の見える冬景色’(1811年 ナショナルギャラリー)

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   ‘朝の田園風景’(1822年 ベルリン国立美)

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   ‘カラスのいる木’(1822年 ルーヴル美)

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   ‘氷の海’(1824年 ハンブルク美)

フランスのロマン派ならルーヴルでドラクロアやジェリコーの絵をたくさん
みて目が慣れているが、ドイツ・ロマン主義運動の作品となると鑑賞体験が
ぐっと少なくなる。その代表的な画家、フリードリヒ(1774~1840)
の美術本が手元においてある。だから大方の画業がわかるが、掲載されて
いる主要な風景画でお目にかかったのは非常に限られている。奇跡的な回顧
展が日本で開かれるのを夢見たりするが、実現の可能性はどう考えても低い。

‘山上の十字架’が展示されている場所は有名なラファエロやフェルメールの絵
があるドレスデンの国立絵画館(古典絵画)ではなく、歩いて10分くらい
ところにある近代絵画などを飾っている別館。2003年のときは時間がなく
てこちらには寄れなかったから、またドレスデンに縁があればこの神秘的な
風景宗教画の前に立ちたい。夢が叶うだろうか。

海外の大きな美術館でフリードリヒをみたのはロンドンのナショナルギャラ
リーとルーヴルの2館だけ。画面のなかに十字架が描かれている‘教会の見え
る冬景色’はモチーフの形態のおもしろさがある。それは霧の中にシルエット
で立ち現れるゴシック様式の教会と真ん中にどんと立つ樫の木が相似形になっ
ていること。みたままの木々や野原を描くのではなく精神がとらえた心象風
景として再構成するのがフリードリヒ流。そのため、そこには画家の宗教的
感情や精神の高まりが目の前の風景に映りこんでいる。

‘カラスのいる木’で目を惹くのは樹木から複雑に分岐してでている枝の丁寧な
描写。その形がカラスのイメージと不思議なくらいあっている。カラスは次
から次とやって来てちょっとほかをみていると枝はカラスだらけになりドス
のある鳴き声があたりに響きわたっている感じ。
‘朝の田園風景(孤独な木)’は運よく日本の美術館でみた。前景の中央の大き
な老樹が画面を二つに分けるように描かれている。色彩の数は少なく土色や
緑や灰色がかった青を滑らかに変化させてうみだす透き通る空気感が印象深い。

‘氷の海’は氷河の塊が大地震で崩壊したビルの分厚いガラスの破片がいたると
ころに積み上がっているイメージと重なる。右をみると転覆した船がみえる。
こんな鋭い流氷にでくわしたら小さな船はひとたまりもないだろう。氷の海の
冷酷さに圧倒される。

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2021.10.28

Anytime アート・パラダイス! ロベール ミシャロン

Img_20211028223901   ロベールの‘ポン・デュ・ガール’(1786年 ルーヴル美)

Img_0001_20211028223901  ロベールの‘バスティーユ監獄の破壊’(1789年 カルナヴァレ美)

Img_0002_20211028223901  ロベールの‘古代ローマの公衆浴場跡’(1798年 エルミタージュ美)

Img_0003_20211028223901   ミシャロンの‘滝、ティヴォリ’(19世紀 ルーヴル美)

Img_0005_20211028223901   ヴェルネの‘マルセイユの港の入口’(1754年 ルーヴル美)

フランス絵画で風景画というと美術の教科書にでているミレーの‘晩鐘’がまず
頭のなかに入り、次はすぐ印象派のモネの風景画に関心がふくらんでいく。
だから、ほかの画家、たとえばコローとかクールベの絵などに目が開かれて
いくのは絵画鑑賞が趣味になってからのこと。さらにほかの風景画家にふみ
こんでいくとなると倍の時間がかかる。

18世紀の画家、ユベール・ロベール(1733~1808)の名前がイン
プットされたのはルーヴルにある‘ポン・デュ・ガール’。この三重のアートが
美しい水道橋は2000年前の古代ローマ時代に建てられたもので、南仏の
アヴィニョンから西に20㎞行ったところにかかっている。高さは49mあり、
最下層は今でも道路として使われている。アヴィニョンは行ったことがあるが、
当時はこの水道橋のことはまったく知らなかったので惜しいことをした。この
絵をみるたびにいつか訪れたいという思いが強くなる。

アーチの形が目に焼きつくとエルミタージュでみた‘古代ローマの公衆浴場跡’
との親和性にも気づく。古い建築物に関心を寄せていたロベールはフランス
革命の発端とされる1789年7月14日におきた民衆によるバスティ―ユ
監獄の襲撃事件を絵画化した。ここでは重量感のある円筒が横につながる
フォルムを立体的にみせている。

ミシャロン(1796~1822)の‘滝、ティヴォリ’はローマ賞を獲得し
1818年、イタリアに滞在したときの体験をもとに描かれたもの。日本の
那智の滝や日光の華厳の滝などが日本画や浮世絵によく登場するが、この滝も
落下する水の激しさがリアルに表現されていて思わず息をのんでみてしまう。
構図のとりかたがとてもいい。
ジョゼフ・ヴェルネ(1714~1789)は18世紀に活躍した風景、海景色の最大の画家であり、国王ルイ15世の注文により連作‘フランスの港’を22枚仕上げた。‘マルセイユの港の入口’はその一枚。安心してみられ目を楽しませてくれる港の景色が穏やかな青を多く使い描かれている。

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2021.10.27

Anytime アート・パラダイス! ルブラン

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   ‘自画像’(1791年 ブリストルコレクション)

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   ‘自画像’(1800年 エルミタージュ美)

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 ‘麦わら帽子の自画像’(1782年以降 ナショナルギャラリー)

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   ‘自画像’(1794年)

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  ‘フランス王妃 マリー・アントワネット’(1778年)

画家の画業全体をつかまえるのは時間がかかるし、主要作品との出会いは
よほどの幸運にめぐまれないと実現しない。悲劇のフランス王妃、マリー
・アントワネットの肖像画をたくさん描いたヴィジェ・ルブラン(1755
~1842)の作品を最初にみたのはエルミタージュに飾ってあった自画像。
なんという美貌だろうか。一瞬、女優の沢口靖子がダブった。この出会いが
22年前、ルブランという女流画家の存在は知ったが、その後が続かない。
だから、一枚の自画像がずっと輝いていた。

作品の数が増えたのはエルミタージュから10年くらい経った頃、ロンドン
のナショナルギャラリーで‘麦わら帽子の自画像’が現れた。これはバロックの
巨匠ルーベンスの‘シュザンヌ・ルンデンの肖像’(ナショナルギャラリー)を
真似ており、青空をバックにしたすごく軽やかな表情がいい感じ。こんな顔
をした女優やタレントはすぐTVドラマやCMでみつかりそうなので古くさ
くない印象をうける。

2011年、お気に入り美術館のひとつ三菱一号館美で想定外の‘ルブラン展’
が開かれた。エルミタージュにあるものとも再会したが、さらにすばらしい
自画像にも遭遇した。200%KOされたのが1791年に描かれた自画像。
ルノワールンもマネも吹っ飛んだ!女性画の特別枠をつくらなくてはいけな
くなった。このときルブランは36歳だったが、20代前半くらいの若さに
みえる。一方、この3年後にアップで描かれたものはたしかに30代の女性
の美しさが心にぐさっとくる。ルブランはほかの上流階級の婦人を描くとき
と較べて自画像では容姿、着るものすべてが生き生きと洒落ており、自分を
描くのが楽しくてたまらなかったにちがいない。

マリー・アントワネットとルブランは同い年だった。王妃がやっとみつけた
肖像画家がルブランで‘フランス王妃、マリー・アントワネット’は1778年
に描かれたもの。ヴェルサイユ宮殿には子どもたちを一緒にいる王妃などの
作品がいくつかあるが、本物はまだ縁がない。またフランス旅行の機会があ
れば、最後の思い出としてヴェルサイユにもでかけてみたい。ルブランとの
対面が叶うといいのだが、果たして。

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2021.10.26

Anytime アート・パラダイス! ジェラール カバネル

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   ジェラールの‘プシュケとアモル’(1798年 ルーヴル美)

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   ピコの‘アモルとプシュケ’(1817年 ルーヴル美)

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  カバネルの‘ヴィーナスの誕生’(1863年 オルセー美)

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  ブーグローの‘ヴィーナスの誕生’(1879年 オルセー美)

ギリシャ神話にはおもしろい話がたくさんあるから、多くの画家や彫刻家が
関心のあるものを作品にしてきた。フランス新古典主義のジェラール
(1770~1837)とピコ(1786~1868)が描いたのはプシュ
ケとアモルのおとぎ話。ルーヴルにはカノーヴァの彫刻もある。
アモルはローマ神話名でクピドともいう。ギリシャ神話名はエロス、そして
英語名がキューピッド、4つの名前がでてくるからこんがらがってくる。
役どころは愛を司る童神。

ジェラールの絵はじつにきれいな神話画で‘アモルの最初の接吻を受けるプシ
ュケ’とも呼ばれてきた。甘美すぎる絵なので一度見ると忘れられない。
プシュケは王の三人娘のひとりで絶世の美貌の持ち主、そのため美神ヴィーナ
スの嫉妬をかい結婚できなかった。両親は心配してアポロンの神託に尋ねる
と‘花嫁衣装を着せて山頂の岩に立たせよ、彼女の夫は神々さえ恐れをなす者
である’とのお告げが下った。はたして彼女の夫は自分の姿を現さず、夜暗く
なってからやってきて床をともにした。プシュケの幸福を妬んだ姉妹はラン
プに火をともして夫の姿をみるようにとプシュケをそそのかした。で、そう
すると彼女の横に眠る夫が美少年のアモルであることを知った。アモルは
これに気づきあわててその場を逃げ去った。こういう話をもとにしてジェラ
ールはこの接吻の場面を描いた。一方、ピコはプシュケをちょっぴり官能的
な女に仕立て、アモルが眠っているプシュケからこっそり離れるところを描
いた。

‘ヴィーナスの誕生’でもっとも有名なのはボッティチェリが描いたもの。フィ
レンツェ、ウフィツィ美にあるお宝中のお宝の絵である。このヴィーナスに
魅了され続けている。はじめてお目にかかったときがうまいぐあいに修復が
完了した直後だった。だから、ヴィーナスの肌の輝きに心がとろけそうだっ
た。まさに心理学者のマズローのいう‘ピーク・エクスぺリエンㇲ(最高の
瞬間)’。

こういう体験があるとどうしてもカバネル(1823~1889)とブーグ
ロー(1825~1905)の絵は分が悪い。オルセーは3度縁があったが、
最初の頃はこの絵はさらっとみていた。でも、日本で披露されたカバネルの
‘ヴィーナスの誕生’をみたときはなぜか印象がちがい、じっくりみるとカバネ
ル流の表現もなかなかいいじゃないかと思った。絵画体験が積み重なること
で目の前の作品と素直に向き合うことの大切さがわかってきたのかもしれな
い。

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2021.10.25

Anytime アート・パラダイス! ドラローシュ ヴェルネ

Img_20211025224001  ドラローシュの‘レデイ・ジェイン・グレイの処刑’(1833年 ナショナルギャラリー)

Img_0001_20211025224001  ドラローシュの‘サルヴァンティ伯爵’(1846年 ルーヴル美)

Img_0002_20211025224001    ヴェルネの‘死の天使’(1851年 エルミタージュ美)

Img_0003_20211025224001     ヴェルネの‘墓地’(1839年 ナント市美)

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トリオゾンの‘エンデュミオンの眠り’(1792年 ルーヴル美)

絵画のなかにはみたあとものすごくショックを受けるものがある。ポール・
ドラローシュ(1797~1856)の‘レデイ・ジェイン・グレイの処刑’
はそのひとつ。飾ってあるのはロンドンのナショナル・ギャラリー。確か
6,7年前?日本で公開されたような記憶があるが、、イギリス史に関係
する歴史画でありナショナルギャラリーが所蔵しているので、ある時期まで
ドラローシュはイギリスの画家とばかり思っていた。実はフランス人でドラ
クロアやコローと同時代を生きた画家であり、‘サルヴァンティ伯爵の肖像’
を描いたりもしている。

レデイ・ジェイン・グレイは王位争奪の争いのなかで9日間だけイギリス
女王の地位にあったが、ヘンリー8世のカトリックの娘メアリー・テューダ
ーの支持者たちの謀略によって大逆罪に問われ1554年2月12日、
17歳で処刑された。描かれているのはその場面。ここはロンドン塔の陰気
な内部、白の目隠しをされた可憐な王女の姿が胸を打つ。右にいる赤褐色の
タイツをはいた死刑執行人のもつ大きな斧には目をそらしたくなる。

オラース・ヴェルネ(1789~1863)の‘死の天使’はちょっと不気味
な絵。黒い天使が綺麗な娘を幽霊の世界へ連れ去ろうとしている。上から射
す光の描写をみるとベルギー象徴派の作品をみているような気分になる。
死の恐怖に襲われるのは‘墓地’でも同じ。戦地に行った恋人を待ちわびるレノ
ールのもとに、夜、恋人と思われる騎士が迎えに来る。‘あら、嬉しや’と馬に
同乗してゆくと行く先は墓地。で、彼女はこの騎士は死者だと気づく。闇に
光る髑髏の目が200%怖い。

トリオゾン(1767~1824)のギリシャ神話を題材にとった‘エンデュ
ミオンの眠り’もフランスの正統派絵画らしくない作品。月の女神セレネは美
しい青年エンデュミオンに恋をした。彼の美しさが年とともに衰えていくの
に耐えられず、ゼウスに頼んで不老不死にしてもらった。でも、その代償は
大きくエンデュミオンは永遠に眠り続けることになった。

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2021.10.24

Anytime アート・パラダイス! シャセリオー

Img_0004_20211024221901    ‘エステルの化粧’(1841年 ルーヴル美)

Img_0001_20211024221901   ‘風呂から上がるムーア人の女’(1856年 ルーヴル美)

Img_0002_20211024221901    ‘ローマの浴室’(1853年 オルセー美)

Img_0005_20211024221901    

‘2人の姉妹’(1843年 ルーヴル美)

Img_20211024222001   

‘カバリュス嬢の肖像’(1848年 カンベール美)

海外旅行がいつごろ再開できるのかはまだ具体的なイメージがわいてこ
ないが、西洋絵画を国別にまとめていると誰もが知っているルーヴルとか
オルセーが今どうなっているのか、一日の入場者数は何人なのかといったこ
とを知っておきたくなる。パリへ行ったのは2010年が最後。あれから
11年も経つから、次回訪問するときは街並みが新鮮に映るかもしれない。

ルーヴルで気分が一番ハイになる場所はダ・ヴィンチの‘モナリザ’があると
ころ。そして、もう一つはフランスの巨匠たちの有名な絵、例えば、ドラ
クロアの‘民衆を導く自由の女神’などがどどっと飾ってある大きな部屋。
この大展示空間にいると流石、フランス絵画という感じがして‘ルーヴルに
来たんだ!’という喜びが体全体から湧いてくる。ここにはダヴィッドがい
てアングル、ジェリコーの名画が所狭しと飾られている。また、テオドー
ル・シャセリオー(1819~1856)の絵も確かあったはず。

はじめてのルーヴルではこの画家の名前は覚えていなかったと思う。でも、
半裸の女性が手を上にあげて髪をいじっている姿が印象深い‘エステルの
化粧’はかすかに記憶にとどまっていた。ドラクロアやアングル、そしてダ
ヴィッドのナポレオンを描いた大作に鑑賞のエネルギーを全部もっていか
れているのでこれはいたし方ない。そのあと2度目、3度目とルーヴル参
りが積み重なっていくうちに、アングルの肖像画とよく似ている‘2人の
姉妹’の存在感の強さにも気づくようになる。

シャセリオーのオリエンタリスム全開の作品‘風呂から上がるムーア人の女’を
みるとドラクロアの’アルジェの女たち’やアングルの‘トルコ風呂’などがく
っついて思い出され、フランスの画家たちを刺激したオリエンタル趣味に
興味がかきたてられる。アルジェリアとかモロッコ旅行に関心はあるが、
優先順位は一気には上がらない。オルセーでも‘ローマの浴室’があり、ジェ
ロームの絵を一緒にするグルーピング化が自然にできてくる。

2017年、西洋美で開催されたシャセリオー展で大収穫の作品だったの
が‘カバリュス嬢の肖像’。どうでもいいことだが、この女性に出会うたび
にNHKの夜7時のニュースに登場する女性アナウンサーを連想する。

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2021.10.23

Anytime アート・パラダイス! ジェローム

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   ‘蛇使い’(1879年頃 クラークコレクション)

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   ‘闘鶏’(1846年 オルセー美)

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   ‘仮面舞踏会後の決闘’(1857年 エルミタージュ美)

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  ‘ピュグマリオンとガラテア’(1890年 メトロポリタン美)

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 ‘ローマの奴隷市場’(1884年 ウオルターズアートギャラリー)

数多くある東京の美術館のなかで好感度の高い美術館のひとつが三菱一号館
美。ここで2013年、アメリカのクラークコレクション(マサチューセッ
ツ州ウィリアムズタウン)の名画が披露された。注目の作品は美術本によく
載っているルノワールだったが、印象派のほかにも貴重な絵が並んでおり、
その一枚がジャン=レオン・ジェローム(1824~1904)の‘蛇使い’。
蛇は大の苦手なのだが、裸の少年が大きな蛇を平然と操る姿が以前から目に
焼きついていたので息を呑んでみた。異国情緒にあふれるエキゾチックな
場面が写真のように緻密な細部描写により鮮やかに表現されている。これを
みせられるともうジェロームは軽くみれない。

ジェロームという画家を知ったのはオルセーでみた‘闘鶏’だが、当時は強い
印象を受けた作品という実感がないのは正直なところ。これはジェローム
の出世作となった絵なのに、激しい闘鶏に裸の男女を絡ませる意図がぴんと
こずさらっとみて終わりだった。これより3倍もインパクトで迫って
きたのがロシアのエルミタージュ美にある‘仮面舞踏会後の決闘’。仮面をか
ぶっているので舞踏会に参加する男女は大胆かつ奔放な振る舞いになるの
はよくわかるが、それは死のリスクがある決闘までやってしまうのだから
非日常化した世界は恐ろしい。手前の白い服を着た男は無残にも胸に剣を
刺されて絶命している。誰の絵?とプレートをみたらジェロームだった。

‘ピュグマリオンとガラテア’は画家によって絵画化されるギリシャ神話の
おもしろい話。自分がつくった女性の彫像に恋することは彫刻家の思い入
れが強ければありうることだが、こんな綺麗な女性をお与え下さいとアプ
ロディテ女神にお願いするのはやりすぎ。でも、まさかの事が起こる。
優しい女神がなんと石の像を生身の女性(ガラテア)に変えてくれたので
ある。このピュグマリオン物語がもとになって生まれたのがミュージカル
や映画の‘マイ・フェア・レディ’。また、アメリカの教育心理学者ローゼン
タールは‘人は褒められ期待されると期待通りになる’ということを提唱し、
これをピュグマリオン効果と名づけた。

この絵と女性のポーズをほぼ同じにして描かれたのが‘ローマの奴隷市場’。
顔を隠し恥じらいの気持ちを表現しているのがジェローム流の好み。
この写実的な表現は当時市民たちに喜ばれた。ほかにも古代ローマに主題
を得た歴史画も手がけた。例えば、‘カエサルの死’がある。まるで映画の
ワンシーンをみているような作品である。

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2021.10.21

Anytime アート・パラダイス! モリス アルマ=タデマ

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  モリスの‘麗しのイズー’(1856~58年 テート美)

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 バーン=ジョーンズ&モリスの‘フローラ’(1885年)

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 アルマ=タデマの‘お気に入りの習慣’(1909年 テート美)

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 アルマ=タデマの‘シルヴァー・フェイヴァリッツ’(1903年 マンチェスター市美)

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   スタンホープの‘過去の追想’(1858~59年 テート美)

ロセッティの絵画に共鳴しバーン=ジョーンズとともに第二世代のラファエ
ロ前派となったウィリアム・モリス(1834~1896)は1861年に
工芸デザインの会社を設立し、ステンドグラス、壁紙や家具、装飾写本を手
本とした印刷本などを製作した。中世やルネサンスの美術と文学に由来する
夢想的で装飾性の高い美意識は自然の細部を感じとる観察眼と卓抜なデザイ
ン感覚によってとぎすまされ、日常生活の質の向上をめざした‘アーツ・アン
ド・クラフツ運動’を推し進めた。そして、このムーブメントは大陸における
世紀末のアール・ヌーヴォーに大きな影響を与えた。

モリスの描いた唯一のイーゼル画として知られるのが‘麗しのイズー’。‘トリ
スタンとイゾルデ’伝説を画題にしており、宮廷から追放された恋人のトリス
タンがいないのを嘆いているイゾルデ(イズー)の姿が描かれている。突然、
愛する人が消えれば誰だって悲しみにくれるが、イゾルデの沈んだ表情
が悲哀の深さを物語っている。ボッティチェリの‘春’を連想させる‘フローラ’
はバーン=ジョーンズが人物を描き、モリスが背景の花々のデザインを仕上
げた。

オランダ生まれのアルマ=タデマ(1836~1812)はモリスやバーン
=ジョーンズと同世代の画家で、34歳のときイギリスに移り3年後に帰化
している。日本で披露されたテート蔵の‘お気に入りの習慣’は思わず足がとま
った一枚。これは古典主義の主題をもとにした見立て絵で手前の二人の女性
が水浴しているのは古代ローマのポンペイの浴場。水の揺れがつくる波紋と
大理石のリアルすぎる質感描写に視線が釘づけになる。こんな上手い画家が
イギリスにいたのか!‘シルヴァー・フェイヴァリッツ’でも大理石の描き方
に見惚れてしまう。

スタンホープ(1829~1908)の‘過去の追想’は色彩的にはヒューズの
‘4月の恋’の目にしみる青紫がかぶってくるが、ここにいる娼婦の切なさそう
な顔のほうがぐっと胸に突き刺さる。ハントの‘良心の目覚め’に登場する愛人
の部屋とは大違いで窓ガラスはひび割れ、べニアのはがれたテーブルがみえ
る。貧しさと孤独をかみしめる女の心情がじんわり伝わってくる。

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2021.10.20

Anytime アート・パラダイス! フリス ダッド ダイス

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   フリスの‘ダービーの日’(1856∼58年 テート美)

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     ‘駅’(部分 1862年)

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  ダッドの‘妖精の樵のたくみな一撃’(1855~64年 テート美)

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 ダイスの‘ペグウェル・ベイ、ケント州’(1858~60年 テート美)

ラファエロ前派のロセッティらより10年くらい年上の画家、ウィリアム・
フリス(1819~1909)が描いた‘ダービーの日’という大きな絵があ
る。絵のサイズは縦が1m、横は2.2m。この絵が日本にやってきたのは
1998年、東京都美で開かれたテートギャラリー展。マネやドガにも競馬
の絵はあるが、競馬という一大イベントに集まる多くの人々をこれほどリア
ルのとらえたものはみたことがない。ロイヤルアカデミーに出品されたとき、
ヴィクトリア女王はカタログ順に作品をみる習慣を破り、真先にフリスの絵
のところにいったという。

ダービーに足を運ぶのは美しいサラブレッドのレースをみるためだが、楽し
みはこれだけではない。得意の芸を披露して金を稼ぐ軽業師もいれば、物売
りもいる。ほかにも放蕩貴族の愛人、売春婦、いかさま師などヴィクトリア
朝時代の様々な社会階級の人々が描写されている。賑やかで陽気な情景をひ
とつひとつみていくのはじつに楽しい。フリスにはロンドンの西側の玄関
だったグレート・ウエスタン鉄道のパディントン駅の構内を描いた‘駅’がある。
プラットフォームに人生の縮図をみるような絵で、画面の右では一等車に乗
りこもうとした男がステップに足をかけた瞬間張りこんでいた私服刑事に肩
をつかまれ、逮捕状をつきつけられている場面が描かれている。おもしろい!

テートにあるリチャード・ダッド(1817~1886)の‘妖精の樵のたく
みな一撃’は不思議な絵。ダッドは25歳のとき一種の幻覚症状になり父親を
発作的に刺殺してしまった。そのため、没するまでの40年以上を精神病院
過ごすことになる。でも、幸運なことに病院長のはからいで絵を描くことが
許され、この傑作を10年の歳月をかけて完成させた。画面をじっくりみる
とその丁寧な細部描写に驚かされる。とくに惹かれるのが克明をきわめた花
や細長い草。これらに囲まれた中央の後ろ向きの樵は斧でナッツを割ろうと
している。樵の正面に座る白髭の老人は魔法使いの王。

ウィリアム・ダイス(1806~1864)の‘ペグウエル・ベイ、ケント州
ー1858年10月5日の思い出’で心をうごかされるのは構図のとりかた。
手前に人物を配し、中景に印象的な灰色の崖を海に向かってのばしている。
なんだか浮世絵の風景画をみているよう。

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2021.10.19

Anytime アート・パラダイス! リリー ロムニー

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 リリーの‘キルデア伯爵夫人エリザベス’(1677年 テート美)

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   リリーの‘レイク家の姉妹’(1660年 テート美)

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 ロムニーの‘ハミルトン夫人’(1782年 フリック・コレクション)

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 ロムニーの‘キルケ―に扮したハミルトン夫人’(1782年 テート美)

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 ヘンリーの‘東と西’(1904年以降 スコットランド国立美)

ピーター・リリ―(1618~1680)はオランダ出身の画家でヴァン・
ダイクが亡くなった1641年にロンドンに渡り、共和政時代と王政復古期を
通じてすぐれた肖像画家として名をはせた。ぞっこん参っているのは‘キルデア
伯爵夫人エリザベス’。上流階級の女性の肖像画は実物以上に脚色して綺麗に
描くのは常識だが、エリザベスの美しさは伝説的といわれるほどだったので
リリーはどんな演出でその美貌をひきたたせるかを考えるだけでよかった。
エリザベスは純潔の象徴であるオレンジの花をもっている。

‘レイク家の姉妹’はとくべつ魅力的な女性という印象はうけないが、左の女性
が弾いているギターのことがとても気になる。17世紀のギター音楽は掻き鳴ら
すというより軽く爪弾くものだった。くつろいだ感じが宮廷の婦人のとっつ
きにくさをやわらげている。

レノルズのライバルでもあったジョージ・ロムニー(1734~1802)の
ハミルトン夫人の肖像画に魅了され続けている。彼女はTVのバラエティ番組
に出演している売れっ子タレントのような感じがする。貧しい家庭に生まれた
が可愛いので下院議員の愛人になったりして自由奔放に暮らした。後年はネル
ソン提督の妾にもなった。NYのフリック・コレクション蔵もテートにあるの
もチャームポイントの愛嬌のある目が心をとろけさせる。イギリスではこうい
う生感覚のする女性の肖像にも、ロセッティの圧の強い‘プロセルピナ’にも遭遇
できるのだから腰をすえて美術館をまわったら本当に楽しいだろう。

日本の人形のやきものをみている美しい女性にうっとりする‘東と西’は15年く
らい前?、日本で開催されたスコットランド国立美展でお目にかかった。描い
たのはスコットランド出身のジョージ・ヘンリー(1858~1943)。
この画家は日本へ旅行し(1893~94年)、ジャポニスムの影響を強くうけ
ており、芸者などを描いている。帽子をかぶったこの女性の姿が忘れられない。  

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2021.10.18

Anytime アート・パラダイス! ホガース スタッブズ

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   ホガースの‘カレーの門’(1748年 テート美)

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   ホガースの‘ストロード家の人々’(1738年 テート美)

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 ホガースの‘ホガースの使用人の頭部’(1755年 テート美)

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 スタッブズの‘ホイッスルジャケット’(1762年 ナショナルギャラリー)

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 スタッブズの‘馬に食らいつくライオン’(1769年 テート美)

社会風刺画家というとフランスのドーミエをすぐ思い出すが、お隣のイギリ
スにも政治家や貴族階級の道徳観の低さなどを痛烈に風刺して庶民から拍手
喝采を浴びた画家がいた。ドーミエの100年くらい前に活躍したウィリア
ム・ホガース(1697~1764)。代表作の‘カレーの門’が大変おもし
ろい。

この絵はホガースのフランスに対する復讐。フランスのカレーの港にやって
来たホガースはスケッチをしていたら警察に逮捕されてしまった。容疑はこ
の絵の後ろに描かれているフランス軍の要塞を画家を装い調べていたという
スパイ行為。中国や北朝鮮で捕まる外国人の話と同じ。何とか事情を説明し
て許してもらったが、ホガースの怒りはおさまらない。絵で仕返しをした。
カレーの門をバックにやせ細ったフランス人哨兵と太った修道士がイングラ
ンド名物の美味しいローストビーフをみている。ローストビーフで自国を
自慢し、フランスを揶揄しているのである。

‘ストロード家の人々’と‘ホガースの使用人の六つの頭部’はホガースの名を世
に知らしめた団らん画(格式ばらない集団肖像画)の作品。ほかにみたこと
のない肖像画が使用人を描いたもの。自分の生活を支えてくれた使用人を
個性的に生き生きと描いている。ホガースのやさしい心根がうかがえる。
彼は晩年親しい人々の肖像画にかこまれて過ごしたいと願い、この絵も死の
際まで手元においていた。

ジョージ・スタッブズ(1724~1806)は‘馬の画家’として強く記憶さ
れている。日本画でも馬はよく登場するが、‘ホイッスルジャケット’のような
英雄のようにうつる馬の絵というのも感動する。この馬はアラブの種馬だが
、後ろ脚で立ち前脚を内側に曲げるポーズは高等馬術の難しいポーズ。背景
を描かないで馬の美しさを際立たせるのがスタッブズ流。一方、テートにあ
る‘馬に食らいつくライオン’は体をよじる白馬の悲痛な叫びが聞こえてくる
壮絶な動物画。  

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2021.10.17

Anytime アート・パラダイス! レノルズ

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  ‘バナスター・タールトン卿’(1782年 ナショナル・ギャラリー)

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   ‘クースマケール大佐’(1782年 メトロポリタン美)

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  ‘ジュゼッペ・バレッティ’(1773年)

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 ‘ボウルズ嬢と犬’(1775年 ウォレス・コレクション)

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  ‘着飾る三人の婦人’(1773年 テート美)

レノルズ(1723~1792)は4歳年下のゲインズバラとは肖像画で
ライバル関係にあった。若い頃、ローマで2年間すごし古代作品や盛期ルネ
サンスの巨匠たち、とくにミケランジェロの作品を研究した。当時の美術
界ではゲインズバラ同様、上流社会から肖像画の制作依頼が多くあり、
ロイヤル・アカデミーの初代会長をつとめた。

日本でレノルズの絵をみた記憶はないが、ナショナル・ギャラリーとメトロ
ポリタンでグッとくる男性の肖像画に遭遇した。‘バナスター・タールトン
卿’は確かはじめてのナショナル・ギャラリーで印象深かったイギリス絵画の
ひとつ。背後で暴れる馬とそれをみているように感じられるタールトン卿の
少し腰をかがめる姿に目が釘づけになった。同じ年に描かれた‘近衛歩兵第一
連隊ジョージ・クースマケール大佐’の立ち姿にも思わず足がとまる。ここで
は大佐の立ち姿と馬の首がつくりだす曲線が見事にからみあっている。

肖像画ではモデルの個性がでていたほうが絵のなかに入りやすい。イタリア
の学者を描いた‘ジュゼッペ・バレッティ’はじっとみていると‘一体何の本を
読んでいるのだろうか?’、と気になってくる。気難しい学者だと近づくと嫌
な顔をされそう。それくらい人間臭いところがこの肖像画の名画たるゆえん
かもしれない。

一方、女性の肖像画では可愛いお嬢ちゃんを描いた‘ボウルズ嬢と犬’がなか
なかいい。ペットの犬を抱きしめる女の子の優しさと愛らしさが胸を打つ。
‘着飾る三人の婦人’は古典画が蘇った印象を受ける作品。レノルズは画面に
動きをつくりだすのが大変上手い。真ん中に跳びはねているような婦人を描
き左では膝づかせ、右では手を上にあげさせている。この工夫は観る者
の視線が左下から斜めに上がっていくようにするため。三人が手にもってい
る多くの花びらでできの飾り物が婦人たちの美しさを際立たせている。

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2021.10.16

Anytime アート・パラダイス! ゲインズバラ(2)

Img_20211016220901   ‘青衣の少年’(1770年  ハンティントン美)

Img_0001_20211016220901  ‘ジェイムズ・クリスティの肖像’(1778年Jポール・ゲティ美)

Img_0003_20211016221001  ‘ウィリアム・ハレット夫妻’(1785年 ナショナル・ギャラリー)

Img_0002_20211016221001   ‘水呑み場’(1777年 ナショナル・ギャラリー)

Img_0004_20211016221001   ‘野営するジプシー、日没’(1778年~80年 テート美)

イギリスの上流階級は肖像画を描いてもらうのは当たり前のことだから、
ゲインズバラには制作の依頼がどんどんはいった。生涯に描いた肖像画は
約800点。貴婦人だけでなく男性の肖像画にもいいのがある。お気に入
りは‘青衣の少年’、ファッショナブルな青の衣装を着た少年の名はジョナ
サン・バトール。堂に入ったポーズをつくるのは上流階級に生まれれば
少年だってお手のもの。こげ茶色の背景に青のシルク生地が輝いている。

‘ジェイムズ・クリスティ―の肖像’のモデルはサザビーズと並ぶ世界的な
美術品競売会社クリスティーズの創立者。競売店の隣にたまたまゲインズ
バラが移り住んできたのが縁で3歳下の競売商を描くことになった。クリ
スティーはやり手の事業家という感じで自信に満ちた表情が印象的。
1938年、この肖像画を手に入れたのが石油王ポール・ゲティ。昨年春、
まだ足を踏み入れてなかったロサンゼルス、カルフォルニアのある西海岸
と大自然みるツアーを計画していたのに、新型コロナの感染で取りやめに
なった。2023年くらいには再チャレンジするつもりだが、そのときは
J・ポール・ゲティ美を訪問しこの肖像画と対面したい。

‘ウィリアム・ハレット夫妻’は田園風景を背景に散歩する夫妻が
礼儀作法をわきまえたポーズをとる姿で優雅に描かれている。
ナショナル・ギャラリーのイギリス絵画を展示する部屋にはこういう貴族の
肖像画がたくさん飾られているが、この夫妻の前では思わず立ち止まって
しまう。ナショナル・ギャラリーは長年所蔵する名画をほかの美術館に貸し
出すことはしなかったが、その方針が大転換されを昨年は日本にゴッホの
‘ひまわり’など必見の名画がどどっとやってきた。近い将来、イギリス絵画
展が開催される予感がする。果たして?

風景画‘水呑み場’と‘野営するジプシー、日没’をみているとコンスタブルの絵
が頭をよぎる。どちらも画面の左右に木々のかたまりをつくりその間に遠く
の景色をみせている。そのため、近景に描かれた人物や馬や牛をみたあと、
木の間の通り道にそって視線をのばすとここの空間と遠景の距離感がだんだ
んつかめてくる。ブリューゲルにもこのような空間の広がりが感じられる
農村画がある。

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2021.10.15

Anytime アート・パラダイス! ゲインズバラ(1)

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  ‘ジョヴァンナ・バチェッリ’(1782年 テート美)

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  ‘デボンジャー公爵夫人の肖像’(1787年)

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  ‘ゲインズバラ夫人の肖像’(1778年 コートールド美)

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  ‘青い衣装の婦人’(1778年 エルミタージュ美)

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   ‘画家の娘メアリー’(1777年 テート美)

女性の肖像が得意な画家は数多くいるので好みの幅が広くなっている。
絵画の美というものにどれだけ心がとぎすまされるかはやはり視覚体験の
積み重ねが大きく関係してくる。これまでイギリスのゲインズバラ
(1727~1788)の女性画を見た回数はルノワールにくらべるとだ
いぶ少ない。そのため、イギリスの美術館を訪問し作品の数がふえたら
マネ、ルノワールと同じくらい好きになるかもしれないと予感している。

テートにある‘ジョヴァンナ・バチェッリ’はとても見ごたえある肖像画。
動きのあるポーズをとっているのはヴェネツィア生まれのジョヴァンナ・
バチェッリという当時人気のダンサー。彼女は田園を舞台にして舞台用の
衣裳とメイクのまま踊っている。その陽気さを表現する軽快な筆致がすば
らしい。ゲインズバラは風景画家でもあったからこんな傑作が誕生した。

‘デボンジャー公爵夫人ジョㇽジアーナの肖像’にまつわるおもしろい話が
ある。美形の公爵夫人を描いたこの肖像画は1876年にオークションに
かけられ史上最高額で画廊に落札された。ところが、展示された絵は何者
かに盗まれてしまった。その男は名うての強盗野郎、ワースだった。
16年後ワースは別件で逮捕されるが、絵画を盗んだとにらんでいる警察
から‘自白すれば釈放してやる’と取引をもちかけられる。でもワースは口を
割らず7年の刑に服する。理由はワースは絵の中の公爵夫人に恋してしま
ったから。で、絵を肌身離さず持ち続けた。そして25年たった1901
年、死期を悟ったワースは絵をもとの持ち主の画廊へ返した。夫人はこれ
だけの美貌だから愛する気持ちは本当によくわかる。

コートールド美が所蔵する‘ゲインズバラ夫人マーガレットの肖像’も感動す
る作品。ルノワールの若い女性とはちがった大人の女性の魅力がそのまま
でている感じ。気品がありすぎてとても声はかけられない。‘青い衣装の
婦人’はエルミタージュでお目にかかった。これも半身像の形式が使われて
いる。色彩をささっとのせていく描き方はベラスケスや印象派を連想させ
る。‘画家の娘メアリー’は母親に似ているが、ちょっと気が強そう。

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2021.10.14

Anytime アート・パラダイス! ウォーターハウス ドレイパー

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  ウォーターハウスの‘シャロットの女’(1888年 テート美)

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  ウォーターハウスの‘オフィーリア’(1894年)

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  ドレイパーの‘ユリシーズとセイレーン’(1909年 ハル市美)

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  ドレイパーの‘イカロス哀悼’(1898年 テート美)

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  ポインターの‘アンドロメダ’(1869年 テート美)

ロンドンで美術館巡りをするならナショナル・ギャラリー、テート・ブリテン
&モダン、コートールド美の4館がまず第一列にあげられる。パリでいうと
ナショナル・ギャラリーがルーヴルで、コートールドがオルセー、テート・モ
ダンがポンピドーにあたる。そして、ブリテンはその名の通りイギリス絵画の
殿堂でターナー、コンスタブル、ラファエロ前派、ブレイクなどが存分に楽し
める。

風景画よりは人物画が好みという人にとってブリテンは何度も足を運びたくな
る美術館かもしれない。なんといってもラファエロ前派の傑作がたくさん展示
されているうえにその影響を受けた画家たちの作品にもいいのが揃っている。
その筆頭がジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(1849~1917)の
‘シャロットの女’。ロセッティの‘プロセルピナ’、ミレイの‘オフィーリア’と並ぶ
人気の高い作品でこれをみるために訪れるファンは大勢いる。その人気がわざ
わいしてか、日本で公開されたことは過去40年に限っていえば一度もない。
ラファエロ前派展なら何度もあったのだから、ウォーターハウスを一緒にもっ
てきてもいいはずなのに実現しない。おそらく、美術館が出したがらないのだ
と思う。

この絵はテニソンの詩から題材をえており、外を見ると死ぬという呪いをかけ
られ幽閉された姫シャロットの物語が描かれている。小川に浮かぶ小舟に乗っ
ているシャロットは生気を失い静かで淋しい自然のなかにただ身をまかせる
ほかないという感じ。舞台が小川なのでミレイの‘オフィーリア’と重なるが、
シャロットの表情からは感情の揺れを押し殺そうとするはかなさがみえる。
一方、青の衣裳が目に焼きつく‘オフィーリア’はミレイとは違い、彼女の悩みは
かなり深刻。いまにも気が変になりそうな心情がストレートに伝わってくる。

ギリシャ神話の大ファンだから古典画に登場する英雄や女神の物語はいつも夢
中になってみるが、レイトンの後継者であるハーバート・ドレイパー(1863
~1920)が手がけた‘ユリシーズとセイレーン’、‘イカロス哀悼’、そして
エドワード・ジョン・ポインター(1836~1919)の‘アンドロメダ’にも
大変魅了されている。ユリシーズがセイレーンの性的な誘惑に負けないため体
をマストに縛り付けるシーンははらはらする。また、調子に乗り過ぎて天から
落ちたイカロスの羽根が大きいこと!海獣への生贄として岩に繋がれたエチオ
ピア王の娘、アンドロメダの裸体をつつむ青の衣裳が強風により大きく袋のよ
うに膨らむ形態が印象深く、目に焼きついている。

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2021.10.13

Anytime アート・パラダイス! ライト・オブ・ダービー

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  ‘空気ポンプの実験’(1768年 ナショナル・ギャラリー)

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      ‘塊鉄炉’(1772年)

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   ‘鍛冶屋の仕事場’(1771年 イェール英国美)

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  ‘外から見た鍛冶屋の光景’(1773年 エルミタージュ美)

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  ‘ブルック・ブースビーの肖像’(1781年 テート美)

イングランド中部のダービーに生まれたライト・オブ・ダービー(本名
ジョセフ・ライト 1734~1797)は光の表現が心に響く画家なので、
カラヴァッジョ、レンブラント、ラ・トゥール同様特別な思い入れがある。
でも、これまでお目にかかったものは少なく密着度からいうとカラヴァッ
ジョらとくらべると遅れをとっている。これを解消するためにはどうして
もイギリスの美術館をまわる回る必要がある。

‘空気ポンプの実験’は見事な‘燭光(キャンドルライト)画’、老いた学者が空
気ポンプを使ってガラス球を真空状態にしてなかの小鳥を窒息死させて空気
の存在を証明しようとしている。その緊張した表情と鳥を痛ましげに目をそ
むける少女の感情表現との対照がおもしろい。光と影のコントラストが強く
印象に残る絵のイメージは宗教を題材にしたラ・トゥールを彷彿とさせるが、
科学者の実験の場面を描いているところはニュートンがおり産業革命が起こ
した大英帝国の画家らしい。

ライトは鉄工所の情景を5枚描いている。‘塊鉄炉’は水力を利用した当時と
しては進んだ方法で鉄が鍛えられているのを家族が見守っている場面、目を
傷つけないよう顔をそむけている。‘鍛冶屋の仕事場’と‘外から見た鍛冶屋の
光景’も思わず見入ってしまう。光源となっている白熱した鉄に男たちがハン
マーをガツーンと打ちつけているのは日本画の川端龍子の絵にもあるが、
この光の描写には叶わない。ちょっと引いたアングルから鍛冶場をとらえ、
熱した鉄からでてくる光の明るさを少し落とし雲間からさす月の光とうまく
コラボさせた作品にも魅了される。この絵は9年前に開催された定番のエル
ミタージュ名品展に出品された。

‘ブルック・ブースビーの肖像’はテート美にあるもっともいい男性肖像画かも
しれない。森のなかで横たわる姿が一際大きく描かれている人物はフランス
のルソーの友人でもあった作家のブルック・ブースビー。彼はイギリスに
自然回帰を訴えるルソーの思想を広めた。手に持っているのはルソーの著作。

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2021.10.12

Anytime アート・パラダイス! ブレイク(2)

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   ‘サタン、ヨブを撃つ’(1826年 テート美)

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   ‘ヘカテ’(1795年 テート美)

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   ‘ペスト’(1805年 ボストン美)

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   ‘好色の輪’(1824∼27年 バーミンガム市美)

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 ‘人間の堕落’(1807年 ヴィクトリア&アルバート美)

世の中には霊魂を感じるとか奇怪な幻視を日常的に体験する人がいる。ブレ
イクは早くから異常な幻視能力に恵まれていた。4歳のとき窓から外をみて
‘畑仕事をしている人々の間を天使が歩いている’と大きな叫び声をあげたと
いう。その能力によって生まれた不気味で異様なイメージが詩のなかにも
絵画にも現れている。たとえば、‘のみの幽霊’(1819年)はもっとも恐ろ
しい幻視体験がもとになっておりグロテスクな怪物が登場する。

ブレイクの絵をでてくる映画はある。それは1991年に大ヒットしたサイ
コスリラー映画の‘羊たちの沈黙’。物語の主役である精神科医のレクター博士
(アンソニー・ホプキンス)が愛したのがブレイク。レクターが脱獄すると
き警察官を磔にしたようなシーンがあるが、それをみるたびに‘サタン、ヨブ
を撃つ’を思い出す。旧約聖書‘ヨブ記’は神がヨブの忠誠心を自慢したいがため、
身柄をサタンの自由にさせるという話を伝える。おかげで、ヨブは全財産と
家族を奪われ、体はできものだらけにされて苦しむ。描かれているのはサタ
ンが煮え湯をヨブに注いでいる場面、こんなことされたら痒みがさらに刺激
されて発狂する。

‘ヘカテ’は呪いや亡霊から守る女神、ときには魔法も操る。暗い画面のなかで
色が白く美形の女性は顔を横にむけて座っている。後ろで顔をみせない左右に
並ぶ裸婦と体をくっつけあう姿に視線が集中する。すぐそばにいる頭と羽だけ
の魔物のようなものが怪奇さを増長させる。これに対し左にいるらばやフク
ロウたちは優しいキャラクターなので緊張感がすこし和らぐ。

‘ペスト’の擬人画はサタンの絵同様、レクター博士の猟奇殺人のイメージが重
なってくる。ペストの下には病に倒れた人々が横たわっており、背景の黒が死
をもたらすペストの緑の体を浮き上がらせている。こういう絵をレスターはみ
たのだろう。2015年、ボストン美を再訪したとき、これに期待していたが、
姿をみせくれなかった。その前もブレイクは展示されてなかったから普段は
倉庫の中にあるのかもしれない。

ブレイクは回転の模様が好きで‘好色の輪’では途中でひと回りしてできた光の輪
のなかに裸体の男女が密状態で列をなし光の運動エネルギーにまかせて上へあ
がっていく。そして‘人間の堕落’でも両サイドに人間たちは円を構成するように
上から下に落ちてくる光景がみえる。

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2021.10.11

Anytime アート・パラダイス! ブレイク(1)

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 ‘アベルの体をみつけたアダムとエヴァ’(1826年 テート美)

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   ‘アダムを創造するエロヒム’(1795年 テート美)

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   ‘ニュートン’(1795年 テート美)

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   ‘太古の日々’(1794年 ウィットワース美)

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‘ダンテに語りかけるベアトリーチェ’(1824~27年 テート美)

テート・コレクションはイギリス絵画を集めたテート・ブリテン(テート美
のことで以前はテートギャラリーと呼ばれていた)と近代絵画や現代アート
を展示するテート・モダンの2つに分かれている。新しくつくったモダンの
ほうは2度訪問したが、2010年にみた大ゴーギャン展が忘れられない。
ブリテンはテートギャラリーのときとあわせて4度でかけた。ここは美術館
の出版物に特徴があり全体のカタログは勿論あるが、これに加え人気画家の
本もつくっている。情報が増えるのは有難いのでターナー、ロセッティ、
バーン・ジョーンズを購入した。もう一冊気になる画家もあったので追加し
た。その画家の名前はウイリアム・ブレイク(1757~1827)。ター
ナーやコンスタブルより20年くらい前に生まれた画家で、ほかの国で近い
人物というとスペインのゴヤ(1746~1828)とドイツのゲーテ
(1749~1832)がいる。

ブレイクの絵でもっとも目に焼きついているのが‘アベルの死体をみつけた
アダムとエヴァ’。聖書の物語はだいたい頭に入っているがこうして絵画化さ
れると内容を立体的に理解することができる。頭を抱えて恐怖におびえてい
るのが弟のアベルを殺してしまったカイン。後ろでのけぞりかえり放心
状態の父親アダムの動きにも衝撃をうける。そのため、アベルの死体の傍ら
で悲観にくれるエヴァへ視線がとどまっている時間は少ない。そして、背景
描写も巧みで事件の衝撃の深さを物語るように青で表現された大小の山々の
間に赤く燃える太陽が顔をだしている。ブレイクにいっぺんに嵌った!

1795年に描かれた‘アダムを創造するエロヒム’と‘ニュートン’は横から
人間の体をみつめることがこれほど新鮮にうつることを教えてくれる作品。
神もアダムもニュートンもなぜか筋肉隆々なのがおもしろい。蛇にまかれる
アダムは本当に祝福されて生まれてきたのだろうか。ふたりの目が暗すぎる。
ブレイクはニュートンは合理主義の危険を象徴する人物と考えており、図形
に夢中になるニュートンをコンパスで全生涯を計測できると思っている科学
者として描いている。コンパスのイメージが残るのが‘太古の日々’。刺激的
な形態をみせる人間と自然の姿である。

ダンテの‘神曲’に対する想像力が膨らむのが‘ダンテに語るかけるベアトリー
チェ’。右にいるのがダンテ、目をひくのは怪物のグリフィンと高い所にいる
ベアトリーチェのまわりを回転している目。こんなユーモラスなグリフィン
が神曲に登場したっけ?深刻でない神曲の絵をみるとブレイクの良さがわかる。

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2021.10.10

Anytime アート・パラダイス! ムーア レイトン

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     ムーアの‘花’(1881年 テート美)

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    ムーアの‘ふたりづれ’(1879年 フォッグ美)

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   ムーアの‘夏の夜’(1890年 リバプール国立美)

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   レイトンの‘音楽の稽古’(1877年 ギルドホール・アート・ギャラリー)

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   レイトンの‘燃える6月’(1895年 ポンセ美)

イギリス絵画にスポットをあてた企画展が日本の美術館で開催されるときは
テート美が所蔵するものをメインの展示することが多い。フランスの美術館
名品展だとルーヴル、オルセーが定番のように、テート美からはターナー、
コンスタブル、ラファエロ前派など人気の画家たちだけでなくあまり馴染
みのない画家の作品も出品されるため、画家のラインナップも今ではだいぶ
広がっている。古典的唯美主義のアルバート・ムーア(1841~1893)
のその一人。

ムーアのイメージは‘花’や‘ふたりづれ’のような古代風の衣装を着た女性の
単身立像でできあがっている。物語性をなくし大英博物館の大理石彫刻群か
ら学んだ純粋な色彩と形態の調和をもとに描かれた女性像は一種の癒しの絵
画にもなっている。そして、背景の花模様やギリシャ風の装いにも装飾の効
果があらわれその芸術性を高める表現が目に心地いい。

‘夏の夜’は5年くらい前?渋谷のBunkamura?で遭遇した絵。それま
で縦長の画面に一人かフリーズ状に並んだ女性が描かれたものばかりをみて
いたので、この裸婦の姿にバリエーションをもたして描いた横に長い作品
は刺激的だった。しかも、向こう側の月の光の照らされた海の情景が心を打
つ。まさに唯美主義が全開といったところ。これがムーアの最高傑作。

フレデリック・レイトン(1830~1896)は鑑賞の機会が少ないが、
ムーア同様古典風の絵画を描いている。いつかロンドンを再訪することがあ
れば‘レイトンハウス’にでかけることをアバウトに決めており、もっと作品
に接近したい画家である。お気に入りはアラビアの楽器と衣裳が精緻に描
写されている‘音楽の稽古’と意味不明のタイトルがついた‘燃える6月’。6月
は女性の心に火をつける特別のことがあるのだろうか。じっとみていると
クリムトの官能的な女性画が浮かんでくる。

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2021.10.09

Anytime アート・パラダイス! ジョン・マーチン

Img_20211009221601      ‘神の怒りの日’(1852年 テート美)

Img_0001_20211009221601  ‘忘却の水を探すサダク’(1812年 サウサンプトン市美)

Img_0004_20211009221701    ‘最後の審判’(1853年 テート美)

Img_0003_20211009221701    ‘エジプトの7番目の呪い’(1823年 ボストン美)

Img_0002_20211009221701   ‘ケルトの吟遊詩人’(1817年 ㇾイングアートギャラリー)

アメリカの美術館をまわるとハドソンリバー派の画家、トマス・コールやエド
ウィン・チャーチ、アルバート・ビーアスタットの作品とよく遭遇する。植物
や動物が細密に描写され雄大な山々の光景がパノラマ写真のように広がる風景
画をみたらいっぺんで嵌ることは請け合い。だから、彼らの大作をみるのは
メトロポリタン、ワシントンナショナルギャラリー、シカゴ美、フィラデルフ
ィア美、ボストン美を訪問する楽しみのひとつになっている。日本のどこかの
美術館が‘ハドソンリバー派展’を企画したら跳びあがるほど嬉しいのだが、その
可能性は10%以下だろう。

アメリカでハドソンリバー派が大きな感動をもたらしてくれる作品なら、イギ
リスにもこれと同じように‘うわー、スゴイ絵!’と思わず唸ってしまうのがある。それは崇高な美学を追及したロマン主義のジョン・マーチン(1789~1854)の‘神々の怒りの日’。はじめてこの絵をみたときは腰が抜けるくらいびっくりした。赤く燃えあがる空はまさに神の怒りによって天地が崩れ落ちるイメージ。縦2m、横3mの大画面に想像力を駆使して描かれているのは、人を圧倒する巨大なものや大洪水、火山の噴火といったなど自然の脅威によって生み出される恐怖の感情や畏敬の念、つまり‘崇高’な世界。この絵をお目にかかれたのは生涯の思い出。一見の価値はある。

‘忘却の水を探すサダク’でも気を引くのは地獄を連想させるような燃えさかる炎
と巨大な岩とその間を流れ落ちる水。手前で岩にしがみついているのがサダクで
‘アラビアン・ナイト’にもでてくるオリエントの伝説的な人物。サダクは囚われ
の身となった妻を取り戻すため、‘忘却の水’をさがして旅にでた。
‘最後の審判’はローマのシスティ―ナにあるミケランジェロの絵とはまったく異
なる構図、目がクラクラするほどの広大な舞台が岩や木々、神殿などで分割さ
れ、主役の天使たちのグループ、小さく描かれた裁きをうける大勢の人たちが
上下左右にばらして配置されている。

ボストン美にある‘エジプトの7番目の呪い’はすぐチャールトン・ヘストンが
モーゼ役を演じた映画‘十戒’を思い出す。こういうスペクタクル絵画は映画好き
にはたまらない。ハドソンリバー派の山の描き方や激しい水の流れが似ている
‘ケルトの人吟遊詩人’にも魅了される。岩の上から身をなげる白髪の詩人はうっかりすると見落とすが、左の方に目をやるとそれよりさらに小さく描かれた王の兵士や馬がみえる。

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2021.10.08

Anytime アート・パラダイス! ジェイムズ・ティソ

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   ‘船上の舞踏会’(1874年 テート美)

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  ‘パリの女たち、サーカス’(1883~85年 ボストン美)

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       ‘舞踏会’(1880年 オルセー美)

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   ‘放蕩息子 遠い国にて’(1880~82年 ナント美)

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  ‘徳川昭武の肖像’(1868年 徳川博)

生を受けた国と制作活動の拠点が異なる画家がいる。イギリスの画家かとみ
まがうのが本籍アメリカで現住所イギリスのホィッスラーとサージェント、
そして、フランス西部の街、ナント出身のジェイムズ・ティソ(1836~
1902)も同じ印象をもつ画家。ロンドンのテート美が所蔵している
代表作‘船上の舞踏会’を描いたティソはこの絵のイメージが強すぎて最初の
頃はてっきりイギリス人だと思っていた。

よく色彩の使い方と構図のとりかたは画家が努力して獲得する能力ではなく、
もって生まれたセンスだと言われる。‘船上の舞踏会’は中央の空間を大きく
開けて導線をつくり視線を船の奥の方へひきこんでいく構図がなかなかいい。
大勢の紳士淑女が集う賑やかな舞踏会のなかを通りぬけていく感じ。右のと
ころをよく見ると下のフロアで踊りの真っ最中でそのずっと先でも楽しく
ペアを組んでいる。人物の中でとても気になるのが左手でこちらをみている
色白の女性。フランス人がイギリス上流社会を描いた傑作である。

ボストン美でお目にかかった‘パリの女たち、サーカス’、縦長の画面にサー
カスでお馴染みの丸い形の舞台が見る者にイメージできるように左半分をば
っさりカットし下からだんだん高くなる客席はたっぷりみせている。2人の
団員が演じているのは定番のブランコ。手前で一人こちらをみている女性は
‘船上の舞踏会’に登場したのと同じ人物で友人のマーガレット・ケネディ。
ほかの男女とはまったく異なるポーズをした特定の女性を何度も描くという
アイデアがおもしろい。‘舞踏家’でも何人も描かれているのに彼らは存在感
がとても弱く、視線は黄色の衣裳に身をつつんだ美形の女性だけに集中する。
まるで映画‘マイフェアレディ’にでてくるオードリー・へプバーンをみている
よう。

ドガとうまがあったティソはジャポニスムの影響を受けており、‘放蕩息子ー
遠い国にて’はエキゾティスムに陶酔する気分があらわれている。また、万国
博の日本代表としてパリに滞在した徳川昭武に絵の手ほどきをし、昭武の
肖像を水彩で描いた。ティソはこの絵の3年後にロンドンに移り、1982年
まで住み人気の画家になった。

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2021.10.07

Anytime アート・パラダイス! ワッツ

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   ‘希望’(1886年 テート美)

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   ‘アリアドネ’(1890年 フォッグ美)

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 ‘オルフェウスとエウリュディケ’(1872年 フォッグ美)

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  ‘サー・ガラハット’(1862年 フォッグ美)

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    ‘マモン’(1884~85年 テート美)

ロセッティやミレイより10歳くらい年上のジョージ・フレディリック・
ワッツ(1817~1904)の存在を知ったのはロンドンのテート美にあ
る一枚の絵をみたのがきっかけ。その絵は代表作の‘希望’、一度見たら絶対
忘れない神秘的な作品で目隠しをした女性が球の上に乗り弦が一本しか残っ
てない竪琴の音色を聴いている。地球を連想させる球体、盲目とむすびつく
目隠し、壊れた竪琴、これらはタイトルの希望とどうつながるのか。絶望の
感じがするのに希望とするのはどんな意味をこめているのか。こんなことを
思わせるのが象徴主義絵画の真髄かもしれない。

ロンドン生まれのワッツは20代後半イタリアへ赴き古典彫刻、ティツィアー
ノやミケランジェロらの作品を学び、その技法を吸収し神話画などをいくつ
も描いている。‘アリアドネ’ではヴェネツィア派の色彩表現の影響がみられ
る。そして、ラファエロ前派の細密描写とは異なり輪郭線をぼかすのも特徴。
アリアドネは愛したテセウスに見捨てられナクソス島に残される。海の彼方
に遠ざかるテセウスの船をうつろな目で見つめる姿が悲しみを誘う。テセウ
スはクレタ島に住みつく怪物ミノタウロス退治を手助けしてくれたアリアド
ネを連れて一旦はナクソス島までやってくるが、アリアドネが眠っている間
に逃げてしまう。英雄はえてしてこういう身勝手な行動をする。もう忘れて
しまえ。この先もっともっと楽しいことがある。果たして、バッカスが来て
妻に迎えてくれた。

画面いっぱいに描かれた‘オルフェウスとエウリディケ’にみられるねじれた
ポーズはミケランジェロから学んだもの。冥界からの帰路、オルフェウスが
後ろを振り返ったため、妻のエウリュディケとは永遠に引き離されることに
なった。その瞬間が描かれている。すでに意識を失った妻は見えない力に引
っ張られて大きくのけぞっている。これほどアップで表現されたオルフェウ
ス物語はほかにみたことがない。

武勇に優れ信仰心に篤いガラハットは騎士道精神の手本となる若い騎士。
ロセッティやバーン=ジョーンも題材にとり入れているが、ワッツは縦長の
画面にガラハットが目指す聖杯のある杜を見いだした場面を描いている。
イケメンのモデルと大きな存在感をみせる白馬に釘づけになる。
‘マモン’は社会問題を扱った作品で、若者と美しい女性を足蹴にしているグロ
テスクな怪人、マモンは拝金主義、強欲の象徴。ワッツは‘希望’の前にこんな
インパクトのある絵も手がけていた。

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2021.10.06

Anytime アート・パラダイス! ブラウン

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   ‘よき子らの聖母’(1847∼61年 テート美)

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  ‘ペテロの足を洗うキリスト’(1856年 テート美)

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  ‘寡婦の息子を戻すエリヤ’(1868年 テート美)

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  ‘最後のイギリス’(1864∼66年 テート美)

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   ‘穀物の収穫’(1854∼55年 テート美)

ルネサンスの画家たちにとって宗教画は定番の画題。このお馴染みのキリス
トの物語をカラヴァッジョは自分のまわりにいた人物をモデルにして風俗画
のように仕上げて人気の画家となった。フランスのカレーの生まれだが、
イギリスで活躍したフォード・マドックス・ブラウン(1821~1893)
もカラヴァッジョほど風俗画ぽくはないが、芝居がかった宗教画を描いてい
る。ラファエロ前派には入らなかったが、ロセッティは影響をうけており、
彼らの兄貴分のような存在だった。

‘よき子らの聖母’は聖母マリアが有翼の天使の差し出すたらいの水を使って膝
にのせた赤子イエスを洗っている場面が描かれている。古典画ではこのテーマ
はあまり出くわさないが、ブラウンは週に一度は子どもを風呂に入れる当時
のイギリスの風習をもとに現実感を画面に持ち込んだ。後ろのほうに赤子を抱
いているもう一人の天使がみえる。肩の力がすっと抜け癒される絵である。

これに対し、‘ペテロの足を洗うキリスト’と‘寡婦の息子を戻すエリヤ’は体に
緊張感の走る宗教画。このテーマを描いたルネサンス期の作品で忘れられな
いのはマドリードのプラドにあるティントレットの絵。線遠近法の焦点を中央
から少しずらした見事な構図が目に焼きついている。ブラウンの作品はカラヴ
ァッジョの作風を彷彿とさせる。キリストより申し訳なさそうな表情をみせる
弟子のペテロのほうが印象に強く残り、後ろにいる7人の使徒のなかでは左で
サンダルのひもをいじっているユダの描写がなかなかいい。

旧約聖書に記された預言者エリヤが登場する絵はシェークスピア劇場の舞台を
観るような感覚。エリヤはある時、飢饉で食べ物に苦労している未亡人に手厚
くもてなされる。描かれているのはエリヤがその慈悲に報いようと死んだ息子
を蘇らせて寝室から降りてくるところ。斜めに人物を配置する構図は体の動き
とともに感情の昂ぶりを演出している。この動感描写が印象深い。

‘最後のイギリス’はイギリスでの成功が叶わずオーストラリアへ移住する人た
ちが蒸気船にのりこむため小舟で移動している情景が描かれている。前列の若
い夫婦は落ち込んでいる様子で新天地へ希望をふくらませて出かける心境には
とてもみえない。風景画‘穀物の収穫’は小さな作品だが影の表現と明るい色彩に
思わず足がとまる。ほかにも月の輝く‘干し草畑’という心に響く風景画がある。

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2021.10.05

Anytime アート・パラダイス! アーサー・ヒューズ

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   ‘4月の恋’(1855~56年 テート美)

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   ‘逢引き’(1860年 テート美)

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   ‘白い雌鹿’(1870年頃)

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   ‘音楽会’(1861~64年 リヴァプール国立美)

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 ‘ブラッケン・ディーンのクリスマスキャロル’(1879年 バーミンガム美)

目に焼きついた色で絵画を強く記憶することはよくある。例えば、白だと
モネの雪化粧とか空の雲を描いた作品がすぐ思い浮かぶ。黄色はやはりゴッ
ホの‘イエローパワー’が全開した‘ひまわりの連作。黄金だと19世紀末に
ウィーンで花開いた分離派のクリムト。濃い緑だとロセッティの‘プロセル
ピナ’がすぐでてくる。そして、ミレイの影響をうけたアーサー・ヒューズの
代表作である‘4月の恋’はモデルの衣裳の青紫が目に沁み込んでいる。この
絵はロンドンでみたという実感がなく、日本の美術館で2度対面したのをよ
く覚えている。青紫と木に巻きついた蔦の緑の組み合わせという色彩の圧の
強さが、恋にゆれる女性の心理をよくあらわしており、印象深い色彩表現に
なっている。

一方、同じ縦長の画面に描かれた‘ロムニーを退けるオーロラ・リ―(逢引き)
’は穏やかな色調で表現されているので画題の内容とはしっくりこないところ
がある。詩人になりたいオーロラは従兄であるロムニーの求婚を拒絶する
場面だが、その彼女の気持ちの強さが画面からは伝わって来ない。そして、
ロムニーの存在感の弱いこと、なんだか亡霊が立っているよう。

水彩の‘白い雌鹿’はジョン・キーツによる詩‘エンディミオン’に霊感をえたもの
で、本来は古代ギリシャを舞台にした物語詩をヒューズは中世イギリスのおと
ぎ話に翻案した。鹿を優しく愛撫する女性の姿が魅せられる。その優美で繊細
な描き方は古典絵画の神話絵をみているよう。一瞬モローの絵に登場する
一角獣を連想したが、よくみると角は2本あるので鹿だった。左のちょこんと
座っている兎がとても可愛い。だから、兎、鹿、金髪の女性を結ぶラインに
視線がすーっと動く。

2019年、三菱一号館美で開かれた‘ラファエロ前派の軌跡’に出品された
‘音楽会’と‘ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロルージェイムス・リサ
ート家’に思わず足がとまった。ヒューズというと‘4月の恋’でイメージができ
ているので、色彩が明快に感じられ表情がリアルにとらえられた人物が登場す
ると夢中でみてしまう。これは大収穫だった。

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2021.10.04

Anytime アート・パラダイス! ハント

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    ‘良心の目覚め’(1853年 テート美)

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   ‘ビアンカ’(1869年 ワージング美)

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 ‘幼いキリストと寺院の博士たち’(1886~90年 レスター美)

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  ‘キリストと二人のマリア’(1847年 南オーストラリア州美)

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  ‘聖なる火の奇蹟’(1893~99年 フォッグ美)

ロセッティ、ミレイと一緒にラファエロ前派兄弟団(1848年)を設立し
たウィリアム・ホルマン・ハント(1827~1910)は日本で回顧展が
開かれるほど人気のある画家ではないが、イギリス絵画の展覧会を何度かみ
ているうちにその高い画才に惹きこまれるようになった。もっとも印象深い
のがテート美にある代表作‘良心の目覚め’。描かれているのは男とかこわれ
ている妾がいちゃついているところ。でも、この女性の表情が明るく天真爛
漫なためその陰のある乱れた関係を色眼鏡をかけてみるという気持ちにはな
らない。それに衣裳や床の絨毯などのモチーフの細密な描写が目を見張らさ
れるほどのリアリティをもっているから画面の隅から隅までみてしまう。

‘ビアンカ’にも魅了され続けている。モデルの生な姿を感じさせる描写には
思わず足がとまる。着ているドレスがルネサンス風で古典画をみているよう
。シルクのつやつやした感触や手に持っているマンドリンみたいな楽器の
質感描写も目を惹く。理想化した女性像を嫌うラファエロ前派らしい見事な
肖像画である。‘幼いキリストと寺院の博士たち’に描かれたキリストはどうみ
ても美形の女姓。10人いたら10人まちがえるにちがいない。‘ビアンカ’と
同じように惹きこまれる。

‘キリストの二人のマリア’は大胆な構図で描かれたキリスト物語。これは磔刑
から3日目に蘇ったキリストが二人のマリアの前に現れ、恐れないでガリラ
ヤで自分と会うよう弟子たちに伝えてほしいと言っている場面。光輪が丸い
虹のようになっているのが見どころ。ルネサンスの時代にはこんなキリストは
描けない。こんな宗教画がイギリスで生まれたというのがおもしろい。

倉敷の大原美にベルギーの画家、レオン・フレデリックの描いた大勢の子ど
もたちが登場する‘万有は死に帰す、されど神の愛は万有をしてよみがえらし
めん’がどーんと飾られている。これを思い出させるのが‘聖なる火の奇蹟:
イェルサレムの聖墳墓聖堂’。聖堂に集まった数え切れないほど多くの子ども、
女性、男性たちが超密の状態で描かれている。大変な集中力と時間を費やして
完成させたのだろう。ハントに乾杯!

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2021.10.03

Anytime アート・パラダイス! バーン=ジョーンズ(2)

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  ‘愛に導かれる巡礼’(1896∼97年 テート美)

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   ‘プシケの結婚’(1895年 ベルギー王立美)

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  ‘ヴィーナスの鏡’(1873∼77年 グルベンキアン美)

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  ‘眠り姫’(1873∼90年 ファクドンコレクション)

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  ‘果たされた運命’(1885年 サウサンプトン市美)

鑑賞した絵画に感動するときは作品のもつ色彩の輝きや思わず見惚れてしま
う構図、緻密な描写のどれかであることが多い。そして、もうひとつ強い
印象をもたらすものがある。それは描かれている内容。宗教画ではキリスト
教の物語やギリシャ神話にでてくる英雄譚、歴史画には合戦の場面がよく描
かれる。さらに詩歌やおとぎ話、伝説など想像上の世界も絵画の重要な素材
になっている。バーン=ジョーンの一番の魅力は神話やおとぎ話を装飾性を
強め夢想的に描いてくれるところ。

‘愛に導かれた巡礼’は2014年森アーツセンターギャラリーで開催された
‘ラファエロ前派展’で大収穫となった作品。美術本の図版ではわからないのが
本物の絵の大きさ。これは縦1.6m、横3mの大作、展示されている部屋
に入るとうわー!となった。描かれているのは中世の詩人チョ―サーが翻案
した‘薔薇物語’の一場面。巡礼者の姿をした詩人が有翼の寓意像‘愛’に導かれ
てイバラの茂る荒野を歩いている。エポック的な鑑賞体験で忘れられない絵
になった。

ベルギー王立美でお目にかかった‘プシケの婚礼行列’は女性が横にずらっと描
かれているところがボッティチェリの‘春’を連想させる。美女のプシケは真ん
中の女性で怪物らしい婚約者のもとに向かうため気分は憂鬱。でも、神託に
より配偶者が決まったので従うしかない。後ろにいる王も娘の不運に意気消
沈。‘ヴィーナスの鏡’は池の水面に女性たちが映り人数が倍になっているので
‘女の園’の雰囲気に満ち満ちている。プシケの絵が‘陰の世界’ならこちらは‘華
の世界’。

‘眠り姫’は17世紀のフランスの作家ペローの有名な寓話‘眠り姫’がもとになっ
ている。王女は年老いた妖精の気まぐれで魔法をかけられなんと100年も眠
らされたのだからたまらない。美女は眠っている姿がこれまたいいから、王子
はすぐに魔法を解く。最近はチャイコフスキーのバレエ‘眠れる森の美女’を聴
いてない。物語と音楽と踊りの力が合体するとチャイコフスキーの名曲になる
が、絵画の力で表現される物語でも幻想絵画として楽しめる。

連作‘ペルセウス’の一枚‘果たされた運命 大海蛇を退治するペルセウス’はイン
パクトのある蛇の形に視線が集中する。日本画で龍の絵をたくさんみているが、
こんな胴体をペットボトルみたいに曲げた蛇は絶対でてこない。バーン=ジョ
ーンズはこの蛇の姿をどこで霊感をえたのだろうか。

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2021.10.02

Anytime アート・パラダイス! バーン=ジョーンズ(1)

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  ‘コーフェチュア王と乞食娘’(1884年 テート美)

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  ‘運命の女神の車輪’(1882年 オルセー美)

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    ‘希望’(1896年 ボストン美)

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   ‘天地創造の日々’(1870~76年 フォッグ美)

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     ‘深海’(1887年 フォッグ美)

ラファエロ前派の‘ビッグ3’はロセッティ、ミレイと第二世代のバーン=
ジョーンズ(1833~1898)。カラヴァッジョ同様、画集に載って
いる作品を叶うことなら全部みたいと願っている画家たちである。バーン
=ジョーンズについては2012年、三菱一号館美で回顧展が開かれ、
イギリスの美術館からいい絵がたくさんやって来たので画家との距離がぐ
んと縮まった。また、その2年後にも森アーツセンターギャラリーでも
‘ラファエロ前派展’があり、バーン=ジョーンズのビックリするような大作
と遭遇した。だから、日本にいても結構いい思いをしている。

バーン=ジョーンズと最初に縁があったのはロンドンのテート美の‘コー
フェチュア王と乞食娘’。王と乞食の娘の物語はエリザベス朝のバラード
(詩歌)からとられたものなのでイギリス通でないと深く入り込めない。
サプライズだったのは縦長の額縁の大きさ。なんと縦2.93m、
横1.35mもあるから見ごたえ十分、下の床に座っている王から順に娘、
立っている2人の女とみていくとだんだん物語の中に誘われる。

オルセーにある‘運命の女神の車輪’も2m×1mの大作、ぱっとみると中央
の車輪が短縮法で横のほうから描かれているので車輪のイメージが掴みに
くいが、ここに3人の裸の男が組体操をしているように張りついている。
真ん中の男は上の男の足を頭で支えており、インパクトのあるこの姿が絵
の印象を決定づけている。男たちの体の大きさを勘案すると車輪を回して
いる運命の女神はガリバー並みの巨人ということになる。こういう構図を
思いつくのだからバーン=ジョーンズの画才のレベルは相当高い。

ボストン美はこれまで3回訪問したが、‘希望’をしかと見たという実感が
あるのは3度目の2015年のアメリカ旅行のとき。はじめのころは
バーン=ジョーンズを知らなかったから、関心はモネ、ルノワールやゴー
ギャン、ゴッホばかりにいっていた。だから、必見リストにこの絵を載せ
ておいた。女性の体のS字に曲げられたラインや花を抱える右手、上にの
ばされた左手をうっとりながめていた。縦長の画面で窮屈そうだが、ポー
ズの美しさからそれが気にならない。

‘天地創造の日々’と‘深海’は日本で披露されたハーバード大のフォッグ美の
コレクション。‘天地創造’は天使たちが手にする水晶のなかに神が創造した
ものが描かれている。左が第5日目で海と空の動物がつくられ、右の6日
目は陸の動物と人間がつくられた。海の底にいる人魚が裸体の男を抱きか
かえている‘深海’も忘れられない。人魚の絵というとこれと鏑木清方の絵を
すぐ思い浮かべる。

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2021.10.01

Anytime アート・パラダイス! ロセッティ(2)

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   ‘ダンテの夢’(1871年 ウオーカーアートギャラリー)

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   ‘ベアトリーチェの一周忌’(1853年 アシュモリアン美)

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   ‘アスタルテ・シリアカ’(1877年 マチェスター市美)

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  ‘祝福されし乙女’(1875~78年 フォッグ美)

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   ‘聖母マリアの少女時代’(1849年 テート美)

ロセッティにはダンテの‘神曲や‘新生’を題材にした作品がいくつか
ある。自身の名前もイタリアからの政治亡命者でダンテの研究者だっ
た父からダンテ・ゲイブリエルと授けられている。‘新生’の一場面が
描かれているのが‘ダンテの夢’。ダンテは愛するベアトリーチェが亡
くなり、婦人たちが亡骸にヴェールを被せる情景の幻影を見た。‘愛’
が擬人化された天使は生気の失せたベアトリーチェを抱擁しそれを
じっと見つめるダンテの手を握っている。とても魅せられる一枚な
ので本物との対面する日がくることを強く願っている。

水彩画の‘ベアトリーチェの一周忌’は愛する人の一周忌に天使を描い
ていたダンテのところへ友人たちがやってきた場面、ダンテは沈んだ
表情をしておりまだ立ち直れていない感じ。肩に手をかけた男は
‘大丈夫かい、ダンテ’と優しい言葉を慰めている。心を打つ作品にな
っているのはダンテを尊敬するロセッティの感情が深く入っている
からかもしれない。

1877年に描かれた‘アスタルテ・シリアカ’は画家の晩年の代表作
でモデルのジェーン・モリスが扮するのは古代シリアの愛の女神アス
タルテ。ジェーンは3年前‘プロセルピナ’に登場した女性だが、ここ
では正面向きの姿でその美貌をみせている。後ろの二人もジェーン?
一人の女性が回転しているのだろうか。

‘祝福されし乙女’はロセッティが書いた同名の詩を絵画化したもの。
先に天国に行った女性が地上に残してきた恋人と再会する日を待つと
いう物語。下のプルデッラで手を頭にのせて横たわっている男性が
恋人、彼女のまわりは再び結ばれた恋人たちが抱擁をかわしているの
で、次は彼女の番かなと思うが悲しいことにその願いはとどかない。
この絵が日本にやってきたときは息を呑んでみていた。

初期の作品‘聖母マリアの少女時代’は人物の配置がとてもよくすっと
画面のなかに入っていける。ロセッティの母親と妹がモデルをつとめ
ているので親子の情愛がそのままでており、画題との親和性がぴった
りはまっている。

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