美術館に乾杯! 日本芸術院 その三
回顧展がよく開催される画家なら自然に名前も絵のスタイルも記憶されてい
くが、日本画家は数多くいるので一人々の作品に馴染むには時間がかかる。
こういう状況で役に立つのが‘日本画家100人’といったような美術本。
わが家で日本画のバイブルとなっているのが‘昭和の日本画100選’展
(1989年 朝日新聞主催)の図録。
この図録によって日本画の追っかけがはじまった。現在、90の絵が目の
なかに入った。松岡映丘(1881~1938)と中村貞以(1890~
1969)は夫々‘右大臣実朝’と‘シャム猫と青衣の女’が選ばれている。
歴史人物画に目が慣れるきっかけになった作品が新大和絵調で描かれた
‘右大臣実朝’。この絵から安田靫彦の頼朝像などへ関心が広がっていった。
‘シャム猫と青衣の女’をみるとふっとでてくるのが安井曾太郎の‘金蓉’。い
い肖像画に日本画、洋画の枠組みは要らない。
中村岳陵(1890~1969)の‘窓辺’は日本画とは思えないような明るく
洒落た色使いが心を打つ。ライト感覚の表現は山口蓬春に似たところがある。
これに対し、杉山寧(1909~1993)の‘暦’は密度の濃い人物画。まる
で抽象画の背景に赤ん坊を抱く母親を浮き上がらせている。見方を変えれば
シャガールの世界にちょっと近づいたようにもうけとれる。
平櫛田中(1872~1979)の彩色木彫‘霊亀随’の人物は最後の広島藩主
をつとめた浅野長勲(ながこと)。田中がこれを制作することになったのは
90歳を超えた老人が供を連れて悠然と散歩する姿に感銘したからだという。
‘霊亀随’は福徳円満な人が歩くと縁起のいい亀が随いてゆくという中国の故事
にちなんでいる。
| 固定リンク
コメント