美術館に乾杯! 神奈川県立近代美術館 その三
古賀春江(1895~1933)の‘窓外の化粧’をはじめてみたとき2つの疑
問があった。まず、画家の名前、春江とあるからてっきり女性画家と思った。
じつはそれは間違いで福岡県の久留米で浄土真宗のお寺の長男として生まれ
た男性だった。次に不思議なことは右端のビルの屋上で体を動かしている
女性、どうしてここにいるのか?タイトルの‘窓外の化粧’を強引に解釈すると
ちょっと落ちつく。絵全体の印象はデ・キリコの形而上絵画から静けさと暗
さをとりのぞいた感じ。
群馬の富岡町出身の福沢一郎(1898~1992)は早死にした古賀とち
がい94歳まで生きた。‘窓外の化粧’と同じ年に描かれた‘よき料理人’はおもし
ろい絵。白い布の敷かれたテーブルの上におかれた椅子が一番のサプライズ、
普通はテーブルの横に並べられる椅子がよき料理人以上に目立っている。
古賀や福沢よりひとまわり歳をとっている藤田嗣治(1886~1968)の
作品は2点ある。水彩の‘ちんどんや 職人と女中’と油彩の‘二人裸婦’。‘職人
と女中’は藤田が中南米旅行を終えて日本に帰って来た翌年に描かれた。この
とき藤田は48歳。気になるのは女中の顔の大きさ。横にいる神経質そうな
職人とくらべると1.5倍はある。だから、しっかりもんの姉さんとまだ職人
の修行が足りない弟のようにみえてしまう。
贔屓にしている堂本尚郎(1928~2013)の‘連続の溶解No.5’は
2005年世田谷美で行われた回顧展でお目にかかった。ざらざらした白の
質感は学校の廊下を連想する。そこにピアノの鍵盤のように赤と黒の短い帯を
連続し手並べていく。そのスッキリ感が強く印象に残る。
本籍韓国、現住所日本の作家リ・ウファン(1936~)の‘風と共に’は抽象
画モード全開といった作品だが、鋲のようにみえる黒の塊が脳裏にこびりつく
だけで難解さはない。陶芸家の河井寛次郎に土管をモチーフにしたやきものが
あるが、これが鋲と重なる。
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