美術館に乾杯! 静岡県立美術館 その三
ローマのヴァチカン博物館からこの秋カラヴァッジョの‘キリストの埋葬’がや
ってくることになっている。今は静かに開幕を待っているところだが、ここ
にはもうひとつ忘れられない絵がある。それはラファエロの遺作となった
‘キリストの変容’。登場する人物で視線を集めるのが右端で両手を大きく広げ
ている少年。悪魔にとり憑かれているため気がふれて尋常な目つきではない。
この少年を思い出させるのが橋本雅邦の‘三井寺・狂女’
この女が狂ってしまったのは人買いにわが子をさらわれたから。子どもを探
し続けて駿河から近江の三井寺にたどりつき鐘楼の鐘をついたことでわが子
との再会を果たす。愛する子どもに会いたい一心で三井寺の階段を急いで登
っていく。足元をみると鼻緒が切れている。これはズキンとくる。
横山大観(1868~1958)と盟友の下村観山(1873~1930)
がコラボして描いた絵が静岡県美にある。右隻が観山の‘日蓬莱山図’で左隻が
大観の‘月蓬莱山図’。描かれたのは120年前。当時の日本画では吉祥の画題
である蓬莱山は画家の制作意欲を強く刺激したにちがいない。そして、蓬莱
山には鶴が欠かせない。絵をみる側にも吉祥の願いがある。昔から鶴の絵を
みたらをなにかいいことがありそうと思うことにしている。
中村岳陵(1890~1969)は下田の生まれ。そう、伊豆半島は静岡県。
だから、ここには地元の偉大な画家の作品が5,6点ある。その中でもっと
も魅了されているのが‘残照’。茜色の空に極細の線で描かれた木々の枝がシル
エットとなって浮かび上がっている。この光景は視点を変えると抽象画に
変奏する可能性を秘めている。岳陵と同時代をすごした福田平八郎(1892
~1974)の描くモチーフにも日本画の枠組みをこえて抽象画のイメージ
を感じる。‘雪庭’は風景を描いているというよりは静物画の範疇でしかも現代
アートの感覚。
| 固定リンク
コメント