美術館に乾杯! 松伯美術館
京都にくらべると奈良の街についての方向感覚はだいぶ低下する。京都か
ら奈良まで行くのに便利な近鉄線ならよく知っているのでドギマギしないが、
奈良と大阪をつなぐ近鉄線はとたんに心もとなくなる。これに乗り西の方へ
進み学園前駅で下車すると二つの美術館へ行くことができる。距離的に近い
のが大和文華館でタクシーを利用したほうが樂なのが松伯美術館。
松伯美の建物の形は記憶が薄れているが、すぐ横に池があったことはよく
覚えている。ここは上村松園(1875~1949)、松篁(1902~
2001)、敦之(1933~)の親子三代の作品を展示している美術館
で1994年に開館した。2010年、大阪の国立国際美でやっていた
ルノワール展をみるため奈良から移動する途中に折角の機会だから寄って
みた。
11点ある松園で一番のお気に入りは‘鼓の音’。構図は絵の出来映えを左右
する大きな要素であるが、この絵は鼓をたたく女性がきれいに三角形構図
におさまっている。こういう画題を絵にするとき松園は瞬間的にこの構図
がひらめいたのだろうか。鼓の音色を生で聴くことはほとんどなく昔
NHKEテレの能舞台をみせる番組で耳にしたくらい。その小気味いい鼓の
音には関心がある。だから、銀座シックスの地下にできた能楽堂へ一度足
を運ぼうと思っている。
‘花がたみ’は松園の回顧展には欠かせない一枚。歌舞伎好きの友人が今週
京都の南座の舞台をみにいくと忘年会で語っていたが、この絵に描かれて
いる紅葉のように赤く染まっていることだろう。愛する人が天皇になるた
め別離を余儀なくされたこの女性の精神のバランスを崩した姿をみるとつ
いミレイの‘オフィーリア’を連想する。気が変になると無表情になること
をメンタル病院で教えてもらった松園は能面のイメージで描いた。
松園の息子の松篁も母親同様文化勲章を受章した。花鳥画の名手だが、
ほかの人にはない斬新な鳥も登場する。‘熱帯花鳥’はハワイへ写生旅行を
したとき目にした光景をモチーフにしたもの。目の覚める赤の花びらと尾
っぽが大きな円を描くように曲がっている鳥が強烈なインパクトを放って
いる。
父親松篁と同じ花鳥画家の道を歩んできた敦之は今年86歳、毎年期待し
ている文化勲章がなかなか実現しない。作品のすばらしさからすると受賞
に値すると思うのだが、、‘飛鴨’は鴨はこんな風な姿で飛んでいたなと、
イメージさせるところがこの絵の魅力。敦之は鳥の飛翔を表現するのが
本当に上手。
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