美術館に乾杯! 足立美術館 その六
3年前の2016年、東近美で安田靫彦(1884~1978)の決定版とよ
べるような大回顧展があり主要な作品がドドっとでてきた。そして、その図録
の表紙に使われたのが足立が所蔵する‘王昭君’。この歴史画の傑作はおさまり
が良く回顧展を思い出すには恰好の図柄になっている。
安田の歴史画には中国の話も画題に選ばれる。王昭君は前漢の皇帝に仕えた
官女。匈奴の機嫌をとるため貢物として後宮の女が贈られた。帝は画工が醜く
描いた王昭君に決めた。ところが、会ってみると絵のように絶世の美女。
ええーこれは拙い!と思ったがもう遅い。王昭君は毅然として匈奴へ旅立った。ほかの女がしたように画工に賄賂を手渡し綺麗に描いてもらえばこんなことにはならなかったのに。世渡りが下手な王昭君はそれができなかった。
小林古径(1883~1957)の‘楊貴妃’も美術館自慢の絵。謡曲‘楊貴妃’の能舞台をもとに描かれており、玉すだれの動きや能役者のゆったりとしたしぐさが幻想的な能のイメージと自然に融合する。まだ能を鑑賞したことがないのでアバウトだが来年はギンザシックスの地下にできた能楽堂へ出かけようかなと思っている。
靫彦、古径とくれば前田青邨(1885~1977)はあるの?となるが、
勿論しっかり‘知盛幻生’がコレクションされている。これは習作的な絵で2年後、86歳の青邨は縦1.4m、横3.1mの大作を仕上げる。‘平家物語’では大物浦沖(現尼崎市)を出港した源義経一行の船が難破したのは壇ノ浦の合戦で海の藻屑と消えた平知盛の恨みのせいであるとされる。いま、まさに知盛の霊魂が義経たちに襲いかかってくる場面が描かれている。
小杉放菴(1881~1964)のユーモラスな‘金時’をみると、肩の力がすっと抜ける。岩から岩へとまさかりをもってジャンプ!たっぷりとった余白の真ん中に金時をすえる構図が決まっている。後ろにいる兎も金時に続いて跳ぶのだろうか? ちょっと無理かな。
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