美術館に乾杯! ポンピドー・センター その八
ド・スタールの‘楽士たち(シドニー・ベシェの思い出)’(1953年)
独自の抽象絵画を切り開いた画家なら形象にこだわらず色面で画面を埋めたり、幾何学模様の組み合わせを色彩を使って際立たせる表現だけに専念しているイメージが強いが、画家によっては途中からまた具象的な作品に戻ることもある。
サンクトペテルブルクに生まれたド・スタール(1914~1955)にも楽しい気分にさせてくれる絵がある。自殺する2年前に描かれた‘楽士たち(シドニー・べシェの思い出)’、楽器を演奏する人物の顔に目や鼻はないが、彼らがエネルギーを注ぎこんでいる得意の音楽は今まさにのりのり状態。手にしているのはクラリネットかサクソフォンだろうか。
シュプレマティズム絵画をつくりあげたマレーヴィチ(1878~1935)はカンディンスキー(1866~1944)とともに抽象絵画の象徴的な存在だが、晩年にはまた具象画に取り組み‘走る男’というわかりやすい絵を描いた。大股で走っているのはロシアの農民、ツァーリスムや共産主義から必死に逃れているのである。
背景にみえる白い建物がツァーリスムの監獄で赤い建物が共産主義の監獄。マレーヴィチは1930年にソビエト政府から危険思想人物として痛めつけられたからついこんな絵を描きたくなったのだろう。
ドイツ表現主義のキルヒナー(1880~1938)はずっと気になっている画家。登場する女性は細長いガラスの破片をイメージするような体形をしているのが特徴。そして、当時の活気づくベルリンの空気を反映し洒落てはいるがどか退廃的な匂いが漂う。クセのある絵画だが妙に惹かれる。
日本のコレクターが熱心に作品を集め静岡県に専用の美術館ができたベルナール・ビュフェ(1928~1999)、これまで3回くらいまとまった形で作品をみる機会があった。カマキリみたいな人物表現はじつにユニーク、2年前国立新美で行われたポンピドー展に出品されたのが‘室内’。ここには男女がでてこないが、マティスのような平板に描かれた室内空間に魅了された。
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