美術館に乾杯! フィラデルフィア美 その二
ヨーロッパの美術館をまわるとルーベンス(1577~1640)の大きなバロック絵画と定番のようにでくわすが、アメリカにはそんな大作は存在せずルーベンスで熱くなることは少ない。印象の残る作品というとワシントンにあるのライオンの絵と女性の肖像画、そしてフィラデルフィアにある‘鎖につながれたプロメテウス’くらい。
‘プロメテウス’は静物画と動物画を得意とするスネイデルスとの共同制作。ルーベンスがプロメテウス、スネイデルスが鷲を担当している。短縮法で描かれたプロメテウスにおおいかぶさる鷲は何をしているのか。肝臓をついばんでいるのである。プロメテウスに罰をあたえるために。
ではプロメテウスはどんな悪いことをしたのか、神々を怒らせたのはプロメテウスが火の秘密を盗み人間に教えたから。そのため岩にしばりつけられ鷲に肝臓を食べられるはめに、肝臓はすぐ再生するからこの罰は未来永劫にわたって続く。これも‘怖い絵’の一枚。
プッサン(1594~1665)の‘海神ネプチューンの勝利’はみごたえのある神話画。ぱっとみてどこかでみたような気がするのはローマでラファエロの‘ガラテアの勝利’が胸に強く刻まれているため。プッサンはラファエロを意識したにちがいない。
息を呑んでみてしまうのがターナー(1775~1851)の‘国会議事堂の火災’、この火災は実際に1834年10月16日の夜に発生した。火災の現場を描くというのはターナーが世間の動きや事件にすごく関心があり新聞社の社会部の記者の心持ちになっていたからであろう。日本画では川端龍子が同じくジャーナリスティックな感性で炎につつまれた金閣寺を描いている。
クールベ(1819~1877)の‘海辺に横たわる裸婦’は日本で開催されたフィラデルフィア美名品展に出品された。波の描写があまりにリアルなので帆の下にいる裸婦に視線が集中しないのが正直な感想。裸婦を人魚に重ねてみてもまだ落ち着かない。裸婦はやはりベッドの上に寝ているとか森の草花に囲まれている姿のほうがぐっとくる。
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