美術館に乾杯! ウォーレス・コレクション その五
絵の上手い画家は肖像画を描くとき注文主の気持ちを忖度して脚色を加えることがある。ベラスケス(1599~1660)はフェリペ4世がモデルのときは宮廷画家の本分をわきまえ国王らしく顔を整えて描写する。だから、生身の国王をみたらその違いに唖然とするかもしれない。
‘扇子を持つ婦人’のモデルはベラスケスの娘フランシスカ、そのため脚色なしの素のままの姿が描かれている。何年か前、スペインを観光したとき、クエンカという街を訪問した。そこで現地ガイドが興味深い話をしてくれた。フランシスカはここで旅館を営む男の息子と結婚したとのこと。その建物が今も残っており、部屋をみてまわった。
スペインのラファエロといわれるムリーリョ(1617~1682)の作品は貴族の間では人気が高く、ヨーロッパの名の通った美術館でよくでくわす。ここにある‘羊飼いの礼拝’も思わず見入ってしまう名画。こういう心が洗われる宗教画は特別な鑑賞体験として深く記憶される。
コートールド美にあるゲインズバラ(1727~1788)の妻の肖像と較べると、‘ロビンソン夫人’はまさにお馴染みの眉毛が濃く目鼻立ちがくっきりしたゲインズバラ流の女性。白い肌がうす暗い背景に浮かび上がりとびっきりの美貌を際立たせている。
先月、テレビ東京の看板番組、‘美の巨人たち’ではアングル VS ドラクロアを取り上げていた。久しぶりの登場なので楽しくみたが、とくに新しい情報が付け加わったということでもなかった。日本でドラクロアの作品に遭遇する機会は少ないが、2015年にボルドー美蔵の‘ライオン狩り’が公開された。
ロマン派の画風はとにかく激しい、虎や馬が体を思いっきりよじらせ暴れる様子が描かれたり、鬼の形相をした人物同士の戦いの場面、そして屍などが頻繁にでてくる。‘総督マリノ・ファリエロの処刑’では手間の床に首を刎ねられた総督が転がっている。総督の罪状はヴェネツィア共和国を転覆させる陰謀に加わったこと。
| 固定リンク
コメント