美術館に乾杯! ブダペスト国立美 その六
ゴヤの‘カバリェーロ侯ホセ・アントニオの肖像’(1807年)
マドリードのプラドへ行くとエル・グレコ、ベラスケス、ゴヤの美術本に載っている傑作が心ゆくまで楽しめる。だから、この3人はプラドだけでもう済みマークがつけられる。でも、絵画鑑賞というのはおもしろいものでこの美術館がスタートになりさらにいい絵をみようと欲もでてくる。
ゴヤ(1746~1828)については、アメリカではエル・グレコと同じようにメトロポリタンとワシントンナショナルギャラリーに名画が揃っているが、ヨーロッパではロンドンのナショナルギャラリーとブダペスト美にぐっとくる作品が飾ってある。
ゴヤのすごいところは画風がワンパターでなくいろいろな絵が描けること。小さな子どもは本当に愛らしく描くし、国王や公人の肖像画ではモデルの個性がリアルに描写される。そして、この美術館にある働く人々を描いた2点は勢いのある筆致でたくましい生命力をたたえるかのようにその姿を力強く表現している。
‘水売りの女’は息を呑んでみていた。この絵と出会ったことはおおげさにいうと生涯の喜び、右手で水瓶をしっかり抱え、両足を広げ堂々と立っている。下から見上げるように描かれているのでそのたくましさがいっそう目に焼きつく。一方、刃物研ぎ師は職人魂がみなぎっている感じ。研磨機に当てられた刃物は鋭い切れ味を取り戻したことだろう。
厳しい目でこちらをみているカバリェーロ侯はスペインの法相。いかにも上目線の保守派の政治家という雰囲気、ベラスケスは国王以外の人物を描くときは内面をずばっとつかんで描くが、ゴヤもモデルの特徴や個性をとらえるのが天才的に上手い。
予想外の作品だったのがロマン派のビッグネーム、ドラクロア(1798~1863)の‘稲妻に驚く馬’、稲妻にたいして馬がこれほど激しく反応することがあまりイメージできないが、稲妻の発する光と耳に突き刺さるような音が恐怖心をふくらませたにちがいない。
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