美術館に乾杯! ナショナルギャラリー その一
ピエロ・デラ・フランチェスカの‘キリストの降誕’(1470~75年)
これまで数限りなくみてきた美術品のなかで心に強く残ったものを西洋美術については‘ズームアップ 名画の響き合い!’、日本美術は‘近代日本美術の煌き!’によって時代を通観する形で紹介してきた。ここで焦点をあてたのは近現代に生み出された作品、そこで第三弾としてそれ以前の時代のものを中心にした‘美術館に乾杯!’を立ち上げることにした。
運のいいことに日本だけでなく海外の美術館にも足を運ぶことができ、アートに親しんできた。訪れたのは大きな美術館だけでなく邸宅風の美術館や小さな美術館もある。どの美術館もそれぞれコレクションに個性があり、多様性豊かな美術の世界を見せてくれた。そこで出会った思い出の作品をできるだけ多くとりあげたい。
スタートはロンドンにあるナショナルギャラリー、この美術館はルーヴルやメトロポリタンのように彫刻や工芸などはなく絵画のみ。大きな美術館の多くは日本でそのコレクションを公開し‘名品展’を開いてくれる。ところが、ナショナルギャラリーだけはそれが実現しない。だから、ロンドンに出向かないかぎり傑作の数々とお目にかかれない。これは美術館の基本的な方針だから仕方ないが、残念なことではある。
館内に展示されている作品の質の高さはもうエベレスト級。とにかく名画がここにもあそこにもあるという感じ。ダ・ヴィンチ(1452~1519)は‘岩窟の聖母’にぞっこん参っている。いつも長くみているのは聖母マリアと天使のきれいにカールされた金髪。このリアルな描写をみるたびにダ・ヴィンチにひれふしている。
ボッチチェリ(1445~1510)の‘ヴィーナスとマルス’は左右に男女が広がる構図がとても印象深い。古代ローマの屋敷における食事の光景をみるような感じ。それにしてもヴィーナスのアンニュイなこと。
古典絵画の肖像画のなかで強い磁力を放っている作品のひとつがラファエロ(1483~1520)が描いた‘教皇ユリウス2世’、軍人教皇といわれたユリウス2世、頑固そうで厳しい目つきをした顔をみると戦場では大声をあげて兵士たちを叱咤していたにちがいない。
ピエロ・デラ・フランチェスコ(1416~1492)の‘キリストの降誕’からはまさに美しい歌声が聴こえてくる。画面の空気が楽器の音や女性たちの合唱によって振動する絵というのはそうはない。動と静が美しく融和した絵画が描けるというのがスゴイ。
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コメント
ロンドンのナショナル・ギャラリーは二度訪れましたが、前回は25年も前なので、またぜひ行ってみたいと思っています。
ここのイタリア絵画は素晴らしいですが、特に初期ルネサンス絵画は、イタリア本国以外では最上ではないでしょうか。さすがに大英帝国の遺産です。
ボッティチェリの『ヴィーナスとマルス』は、色彩的に美しいだけでなく、愛らしいサテュロスが描かれていて、楽しい絵ですね。私のお気に入りの絵です!
ピエロ・デラ・フランチェスカの絵は、科学的であると同時に穏やかな詩情がありますね。『キリストの降誕』の雰囲気は、その典型だと思います。もう一点の『キリストの洗礼』も清澄な色彩で、大好きです。
投稿: ケンスケ | 2016.11.29 20:52
to ケンスケさん
ナショナルギャラリーにある絵画は本当にすごい
ですね。古典絵画から印象派まで何でも揃っていて
見ごたえがあります。
2点あるフランチェスカがいいですね。この画家と
会う機会が少ないですから、じっくりみてしまい
ます。
投稿: いづつや | 2016.11.29 23:49
ピエロは私の好きな画家で‘NO.5 片手で数えられるくらいの’画家の一人です。
今、NHKテレビの日曜夜にイギリス貴族のドラマが放映されてます。
毎回録画して 繰り返しみてます。
ダビングをわすれた時はレンタルビデオ屋さん出かけて借りてくる位 熱心デス・・・・
ナショナルミュージアムの場面があり
今回はそのピエロのこの作品の登場でした・・・・。
投稿: Baroque | 2016.12.20 23:38
to Baroqueさん
岩波の‘世界の美術シリーズ’(2004年)の
一冊に加えられている‘ピエロ・デッラ・フラン
チェスカ’をしっかり読みましたので、いつか
アレッツォを訪問することが目標になってます。
イタリア人はカラヴァッジョ同様、ピエロが好き
な人が多いですね。
投稿: いづつや | 2016.12.21 00:05