カラヴァッジョ VS ラ・トゥール! 子ども
カラヴァッジョの‘勝ち誇るアモール’(1601年 ベルリン国立絵画館)
カラヴァッジョの‘聖マタイの殉教’(1600年 サン・ルイジ・デイ・fランチェーシ聖堂)
カラヴァッジョ(1571~1610)の絵がどうしてこれほど心を強く打つのか、それは果物の表現にしても人物描写にしてもとびぬけた写実力があるから。目の前のリンゴに思わず手をふれキリストを囲む男女の顔の皺にふと親しみを感じてしまう。
宗教画では穏やかな聖母像であっても絵との距離はある程度できる。でも、カラヴァッジョの描く風俗画や静物画はその驚愕のリアリズムのせいで思わず目が寄り、自分が今描かれた当時の場面に立ち会っているような気分になる。これこそがリアリズム表現に魅せられるところ。
そのすばらしい表現力がよくでているのが子どもの絵、笑っている男の子を描いた‘勝ち誇るアモール’はお気に入りの一枚。ルネサンスやバロックの扉が開きそうな時代に制作された絵画では怒りや苦しみの感情表現はあっても、人が笑っている姿はほとんど描かれない。
ところが、カラヴァッジョはこれを打ち破り、笑顔がとても可愛い子どもを絵画のなかに登場させた。隣の家の子どもが美味しいものを食べて笑っている様子をそのまま描いたという感じだから、つい‘何を食べたんだい?’と聞いてみたくなる。絵がすごく身近に感じられギリシャ神話の話などどこかへいってしまう。まさに子ども劇をまじかでみているよう。後ろで‘うちの子、なかなかの演技でしょう’と母親が自慢している。
‘聖マタイの殉教’の右に描かれている少年も熱のこもった演技をしている。‘ひやー、大変!マタイのおじちゃん怖いお兄さんに殺されちゃうよ、誰かなんとかしてー’、これをローマの聖堂でみたとき視線が釘づけになったのは若い男の刺客よりこの口を大きくあけ、右手を後ろにまわしている男の子のほう。
そして、ラ・トゥール(1593~1652)の絵にでてくる子どももカラヴァッジョ同様、近くにある幼稚園の園児を連想させる。2点とも絵のタイトルは聖ヨセフになっているが、主役は幼子キリストと天使を演じる愛らしい小さな子。マグダラのマリアと美しさを浮き彫りにしたろうそくの光がここでは子どもの純真さを照らしている。これらの傑作をみていると‘ラ・トゥールに乾杯!’と叫びたくなる。
| 固定リンク
コメント
ベルリンの『勝ち誇るアモール』は実見したことはないのですが、すばらしい傑作ですね。
カラヴァッジョとラ・トゥールでは、同じ子供を明暗の中に描いても雰囲気はだいぶ違いますね。カラヴァッジョ作品は動的で感情が明らかに表されていますが、ラ・トゥール作品は静的で感情は窺いしれません。カラヴァッジョ作品のほうがわかりやすく、ラ・トゥール作品はミステリアスで、人物の内面を考えさせますね。
投稿: ケンスケ | 2016.03.20 22:43
to ケンスケさん
ベルリンにある‘勝ち誇るアモール’はすごく親しみ
を覚える絵ですね。17世紀の終わりごろ、ローマ
にはこんな少年がいたのか!今と変わりないな、
という感じです。
ラ・トゥールの登場する子どもも可愛いですね。
この2枚とマグダラのマリアには本当に大きな魅力
を感じます。
投稿: いづつや | 2016.03.21 00:31