ヴァロットン サプライズは神話画!
‘竜を退治するペルセウス’(1910年 ジュネーヴ美術・歴史博)
‘引き裂かれるオルフェウス’(1914年 ジュネーヴ美術・歴史博)
ヴァロットン(1865~1925)の作品でこれまでみたものは版画を数点とオルセーにある‘ボール’や男性の群像肖像画などの油彩を合わせて両手くらい。だから、三菱一号館美の回顧展(6/14~9/23)で神話を題材にした作品が目の前に現れたときは大げさにいうと仰天した。
アンドロメダを救うペルセウスの絵が2点あるがともに大変魅せられた。大作‘竜を退治するペルセウス’で強い存在感を放っているのは中央のペルセウスよりやっつけられているワニのほう。竜ではなくワニもありか、ヴァロットン、おもしろい発想をするじゃない、という感じ。
そして、左にいるアンドロメダ、顔から表情が消えているペルセウスとは対照的に鋭い目でペルセウスとワニの格闘をみつめている。恐怖におびえるアンドロメダのイメージではなく、‘ペルセウス、助けに来るの遅いじゃない、私は早く家に帰りたいんだから、このワニさっさとかたずけてよ’とでもいいたげな顔。
‘立ち上がるアンドロメダとペルセウス’は構図と色使いがすばらしい。感心しながらみていた。天の裂け目から現われるペルセウス、その姿を海を進む竜が睨みつける。まさに激しい戦いがはじまる寸前、そして左では岩を背にしたアンドロメダが‘早く助けて!’と声を震わせている。ここで使われている色は青(ペルセウス)、緑(竜)、赤(アンドロメダ)、赤茶色(岩)の4色、この色が黒と黄色で二分された画面に浮き上がり、いっそうの緊迫感を生み出している。
最後の部屋に飾ってあった‘引き裂かれるオルフェウス’を立ち尽くしてみていた。哀れ、オルフェウス、失意にくれて冥界から戻って来たというのに、何がトラキアの女たちの癇にさわったのか、石をぶつけられ、背中の皮を引き裂かれ血が吹きだしている。トラキア人は男も女も強いワインを水で割らずに吞んでいたから、女たちの気性も激しかったにちがいない。
‘女性を連れ去るサテュロス’をみた瞬時にピエロ・ディ・コジモの描く暴力的な人物描写が頭に浮かんだ。そして、背景のキラキラ光る海面にも目が吸いこまれた。
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