ズームアップ 名画の響き合い! 1883年
西洋の美術史をみていて名画が生まれた年でも頭によく残る年となかなか覚えられない年がある。1883年はある作品をイメージするから強く記憶されている。
ルノワール(1841~1919)は1882から83年にかけて一組の男女が踊るところを描いた作品を3点制作した。オルセー美にある‘田舎のダンス’‘都会のダンス’、そしてボストン美の誇るお宝‘ブージヴァルのダンス’。いずれのお気に入りの絵だが、あえて好みの順番をつけると‘ブージヴァル’が一番で、そのあとが‘田舎’、‘都会’。
この3部作にはおもしろい話がある。‘都会’と‘ブージヴァル’のモデルはご存知のようにユトリロの母親であるシュザンヌ・ヴァラドン、当時17歳。一方、‘田舎’は後にルノワールの妻になるアリーヌ・シャリゴ。このころルノワールはシュザンヌに熱をあげていた。怒り狂ったアリーヌは‘なによ、シュザンヌばかり描いて、田舎のダンスは私にしなかったら承知しないからね!’と強く迫った。で、一枚だけアリーヌになっている。
5年前Bunkamuraでモスクワの国立トレチャコフ美が所蔵するロシア絵画にスポットをあてたとてもいい展覧会があった。目玉の作品として多くの来館者の目を楽しませてくれたのがクラムスコイ(1837~1887)の描いた‘忘れえぬ女’。
この女性肖像画の存在を知ったのは30年前、朝日新聞の日曜版に‘世界名画の旅’という連載シリーズがあり、1984年12月にこの絵が登場した。大変惹きつけられたがモスクワの美術館にある絵、だから、本物をみることはないだろうと思っていた。ところが、この美女、なんと日本にやって来た!Bunkamuraという美術館を高く評価しているのはこういう美術本に載っている名画をもってきてくれるから。この絵をみるたびにクラムスコイってスゴい画家だなと思う。
1999年にモスクワを旅行し、トレチャコフ美へも入館した。当時はロシア絵画の情報は乏しかったので今のようにグループを離れての単独行動はせず、ガイドドさんの後をついて説明してくれる作品を楽しんだ。そのなかで大きな感動を覚えたのがレーピン(1844~1930)の大作‘クールス県の十字架行進’、この絵でロシア絵画のリアリズムに開眼した。
シャヴァンヌ(1824~1898)が60歳のころ描いた‘夢’は‘貧しき漁夫’とともに魅了されている作品。空中を飛ぶ3人の乙女と眠る旅人の位置関係がじつによく、左上の三日月の光によってここで何がおこっているかがイメージできる。
| 固定リンク
コメント
レーピン、クラムスコイ、アイワゾフスキーなど19世紀のロシア絵画は、魅力的ですね。一昨年のBunkamuraでのレーピン展は名品が集まっていて、素晴らしい展覧会でした。
『クールス県の十字架行進』をご覧になられたんですね。私もいつか見たいと思っています。画像で見ても、乾いた光や砂煙の上がっている大気の描写はすばらしいです!
19世紀の美術というと、フランス美術が圧倒的で、他にはイギリスとオーストリア美術にスポットライトが当たっていますが、ロシア、イタリア、スペイン、ドイツなどの絵画も豊かな世界を持っているのではないでしょうか。
そうした国々の19世紀美術は、日本での本が少ない分、自分でいろいろ発見できる喜びがあります。
たとえばスペインのソローリャの印象主義は、フランスより強い、スペインのまばゆい光が描写されていて、魅力的だと思います。
投稿: ケンスケ | 2014.03.24 23:14
to ケンスケさん
19世紀の後半になるとヨーロッパの美術は重層的
になりいろいろな様式が登場してきますね。こういう
ふうにある年に生まれた名画の数々を横に並べてみ
ますと、アートの表現も自然環境のちがいや政治
文化の差が影響しているのだなとつくづく思います。
ロシア絵画もいいですね。スペインのソローリャは
一度見た覚えがあるのですが、なにか光が明るく
輝いていたイメージがあります。
投稿: いづつや | 2014.03.25 00:55