エンジョイ 海百景! 北斎、江漢、広重
浮世絵風景画に海は再三描かれる。だからバリエーションは豊富、北斎の‘神奈川沖浪裏’のように波のお化けが登場し‘動き’が強調されたもの、そして俯瞰の視点で気持ちがいいほど広々とした海をどーんと描いてみせたものもある。海好きなので夫々に敏感に反応する。
葛飾北斎(1760~1849)の‘潮干狩図’に大変魅了されている。でも本物をみたのはまだ2回しかない。8年前東博で開催された‘北斎展’でお目にかかったが、そのあと対面してない。大人、子供総出の潮干狩りは手前の潮が引いた砂浜とだいぶむこうの海に近いところ二ヶ所で行われている。
この絵は視線を画面の下から上に動かすと広大な海の光景がイメージできるのでとても楽しい。潮の香りがする砂浜で今も江戸時代も同じような格好をしてあさりを採っている。魚とりとちがってあさりは誰でも砂をほればとれるから、休日のエンターテイメントにはもってこい。夕飯どきは美味しいあさり汁をすすりながらワイワイガヤガヤ話がはずむ。
雲や波の質感を油彩で表現した司馬江漢(1747~1818)の七里ヶ浜の風景画も印象深い作品。砂浜に打ちよせる白い波が浮世絵版画とは異なる情感を醸し出しているので、思わずじっとみつめてしまう。ここからの富士山の眺めはなかなかいい。
歌川広重(1797~1858)は34歳のとき江戸の名所10カ所を描いた‘東都名所’をだした。その一枚‘高輪之明月’はすばらしい風景画だと思うが、実際には売れなかった。その理由は同時期に北斎のあの‘富嶽三十六景’が発売されたから。どうみたって人々の関心は北斎の富士山の絵に集まる。しかし、今では満月の下を飛行する雁の姿は多くの人の心をとらえて離さない。
能見堂から眺めた金沢八景の夜景は三枚続の大きな絵なので、自分はこの場所にいて同じ光景をみているような気になる。この絵をみるときは単眼鏡が欠かせない。ここでは雁は‘東都名所’とはちがって小さな点のようにしかみえないから、静かに進む雁の群れの情景を単眼鏡を通して目に焼きつけたい。
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