エンジョイ 海百景! 広重、北斎、国芳、国貞
歌川広重の‘六十余州名所図会 薩摩 坊ノ浦 双剣石’(嘉永6年)
5年前、神奈川県歴博で歌川広重(1797~1858)の没後150年を記念した展覧会があり、‘六十余州名所図会’全点と出会った。以前このシリーズでお目にかかったのは‘天の橋立’など数点しかなかったので幸運な機会だった。
心を奪われた名所は沢山あったが、びっくり度でいうと薩摩の坊ノ浦にあるという双剣石が一番。広重はここへ実際足を運んだわけではないが、種本を参考にしてはっとさせる構図でこの奇岩を見事に描いた。本物の双剣石はこれほど高くはないだろうが、古代エジプトのオベリスクみたいに天にむかってそそり立っている。
葛飾北斎(1760~1849)の琉球八景の揃いものも北斎の想像力によって生み出されたもの。とはいえ、想像をふくらませるため‘琉球国志略’という種本がちゃんと存在する。そして、これをもとに中国の瀟湘八景に見立てて俯瞰の視点で仕上げた。‘臨海湖声’は家々が集まっているところの前を通る道が斜めにのびていく構図がおもしろい。
歌川国芳(1797~1861)が日蓮の雨乞いの祈りの場面を描いた‘高祖御一代略図 文永八鎌倉霊山ケ崎雨祈’は誰かの絵に似ている。そう、北斎の‘富嶽三十六景 甲州石班沢’!国芳は北斎を敬愛していたから、頭のどこかに石班沢があったのかもしれない。そこでちょっとしたカモフラージュを施した。日蓮の祈りが天に通じ大雨がふってきた。雨を表す黒の線を何本も引き見る者の目から石班沢を消している。
伊勢の二見浦へは名古屋に住んでいたとき2回行った。歌川国貞(1786~1864)の夫婦岩を見るたびに二つの岩をつないでいるあの太いしめ縄を思い出す。水平線から放射状にでてくる光の表現が印象的で忘れらない一枚になった。
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