パワーにあふれ工芸的な香りのする山雪ワールド!
狩野山雪(1590~1651)に開眼する機会が過去に3回あった。そのひとつが08年NYのメトロポリタン美を訪問したときお目にかかった‘老梅図襖’。日本館のなかに小さな座敷がつくられ奥に飾ってあった。全体が暗く襖に最接近できないので細かいところはよくつかめないが、角々と曲がる太い梅の枝に強い衝撃を受けた。と同時にこんな梅が実際に存在するの?ということに気が回りだした。
この‘老梅図襖’が展示されている。‘妙心寺展’のときにも出品されたが、今回の里帰りには嬉しい演出がなされていた。この襖絵はもともと妙心寺塔頭 天球院にあったもの。そして裏側にあったのが現在ミネアポリス美にある‘群仙図’。アメリカに渡る前までは二つは一緒に所蔵されていた。アメリカの東部と中部にあるこの二つの襖絵がこの展覧会で同時にみれることになった。流石、京博、やってくれました!二つが表裏の状態になるのは50年ぶりという。これが回顧展の醍醐味。
3度目の対面となる‘老梅図’、この度時間かけてみたのは強いインパクトを持った太い幹や枝より細い枝のほう。よくみると脇役の細い枝が横や斜めさらには真下、垂直にのび、これにより画面に奥行きを与え立体的な空間が生まれている。
最後に飾ってある屏風‘雪汀水禽図’は7年前この回顧展が開かれている京博の平常展で遭遇した。このとき山雪のスゴさに体が震えた。再び対面していろんなことが思い浮かぶ。まず、右隻の松に積もった雪の描写、蒔絵箱に施された意匠をみているような感覚になる。とても気になるのが中央の岩。いく層にもできた穴はとてもモダンでシュールな造形、日本の伝統美である装飾性とシュールな前衛表現が一枚の絵のなかに同居しているのに違和感を感じない不思議さ。こんな体験はこれまでなかった。
右隻でも左隻でも目を奪われるのが銀が輝く波、このてかてか光る波の線は柴田是真が得意とした青海波塗をイメージさせる。そして、波のうねりかたはトポロジーの柔らかな曲面をみているよう。こういう装飾性豊かで洗練された波は宗達や光琳の‘松島図’とか加山又造の‘千羽鶴’で表現された波濤と合い通じるものがある。ほとほと感心する山雪の造形感覚、言葉を失ってみていた。
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コメント
おはようございます。山楽・山雪展を見に京都まで行ってまいりました!
作品数も多く、質的にも素晴らしい回顧展ですね。いづつやさんのお言葉を借りれば200%KOされました。(笑)
山楽もさることながら、特に山雪が圧巻でした。METで見て以来の『老梅図襖』のダイナミックな構図。30年ほど前画集で見ていたものの、実見していなかった『寒山拾得図』の迫力ある顔の表情。『長恨歌図巻』の美しい細密描写。その他枚挙にいとまがないですが一点一点見とれました。
中でも圧倒されたのが『龍虎図屏風』と『雪汀水禽図屏風』でした。
『龍子図屏風』は山楽作品との比較もできて、大変面白かったです。ディズ二―を思わせる虎の顔の描写、そして毛皮の湿ったような質感に引き込まれました。龍の目も情けなく面白く書かれていますが、このようなユーモラスな描き方には山雪の遊び心がでていますね!
『雪汀水禽図屏風』は、全体の色彩の美しさはもちろんですが、銀泥を使ったという波や雪のうっすら積もった松の描写がすごく、立ち尽くしてしまいました。画集で見た時も素晴らしいと思っていましたが、やはり実物を見られて本当によかったです。
ご紹介ありがとうございました!
投稿: ケンスケ | 2013.05.02 08:20
to ケンスケさん
山雪ワールドの虜になる人がドンドンふえると
いいですね。‘寒山拾得図’は大きな絵で迫力
満点です。アクのあるグロテスクさの漂う顔
からは蕭白の人物描写が思い起こされます。
蕭白には山雪のDNAが強く流れている感じがし
ますね。
‘龍虎図屏風’は念願の一枚でした。この虎の
丁寧に描かれた毛一本々をみて、応挙の虎をイメ
ージしました。そして、龍の目が漫画チック
ですね。このゆるキャラモード、山雪はどこから
こういう描き方のヒントを得たのでしょうね。
まだ17世紀の前半だというのに。スゴイです。
この絵心は。
‘雪汀水禽図’は琳派の世界を彷彿とさせますね。
山雪は俵屋宗達が生きた時代と重なっています
から、琳派の装飾性にも敏感に反応したのでしょ
うね。山雪の多面的な画風に参りっぱなしです。
投稿: いづつや | 2013.05.02 17:13