ゴッホの糸杉、どれがお好き?
‘二人の女性がいる糸杉’(1889年 クレラー=ミュラー美)
‘星月夜と糸杉のある道’(1890年 クレラー=ミュラー美)
NYのメトロポリタン美にはルーヴル同様、絵画、彫刻、工芸の名品が数限りなくあるから館内にいるときはテンションが上がりっぱなし。だから、感動の袋はひとつではとても足りない。とくに傑作が揃う印象派とポスト印象派の部屋では特注の大きな袋がどんどん膨らんでいく。
東京都美で開かれているメトロポリタン美展には目玉作品としてゴッホ(1853~1890)の‘糸杉’がやって来た。あの絵肌が盛り上がった厚塗りのタッチを目の当たりにすると、今本物のゴッホを見ているんだと素直に感動する。
ゴッホが糸杉を描いたのはサンレミの療養所にいたとき。油彩は全部で9点あるが、‘糸杉’、‘星月夜’、‘二人の女性がいる糸杉’など8点が1889年の6月集中的に描かれている。そして、サンレミを離れる直前の1890年の5月に仕上げたのが‘星月夜と糸杉のある道’。
幸運なことにこれまで7点をみることができた。残っているのは‘二人の女性’の別ヴァージョンと3点ある‘糸杉のある麦畑’のうちチューリッヒの個人蔵。これはずっと縁がなさそうだが、ロンドンナショナルギャラリーとMetにあるものをみたのでそう気にならない。
ゴッホファンは同じような鑑賞体験をされている方が多いかもしれない。というのも、これらを日本でみる機会に恵まれたから。‘星月夜’は1993年のMoMA展(上野の森美)、‘星月夜と糸杉のある道’は2005年のゴッホ展(東近美)に出品されたし、この度‘糸杉’も公開された。
4点のなかで糸杉の存在感がどーんとあるのが今東京都美に展示されているものだが、最も惹かれているのは‘星月夜’。夜景画がぐっとくるうえ、青の空に描かれた三日月、光り輝く星雲、渦巻き模様と炎のような骨太の糸杉の響き合いが心をザワザワさせる。この絵をみてからだいぶ時間が経つのでまたみたくなった。
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