邸宅美術館にぴったりはまる‘シャルダン展’!
静物画というとすぐでてくるのはセザンヌとシャルダン。そして、もう一人イタリアのモランディ。そのシャルダン(1699~1779)の回顧展(9/8~1/6)がはじまった。
3人のなかで体験した作品の数はモランディが一番少ない。シャルダンは4年前ルーヴルのロココ作品が展示してある部屋で画集に載っている‘赤えい’やこの展覧会にも出品されている‘銀のゴブレット’などをゆっくりみたから、ある程度は目が慣れている。
でも、シャルダンは印象派のように世界中の美術館でみれるという画家ではないから、ルーヴルへでかけたときにまた楽しめばいいかなという構えだった。ところが、三菱一号館美が回顧展をやってくれるという。こうなるとおおいに期待してしまう。おかげでシャルダンにかなり近づけたような気がする。
作品の数は全部で38点。シャルダンはこういう邸宅美術館でみるのが一番いい。部屋を進んでいくうちに国立新美であったセザンヌ展のことが思い出された。静物画との関連というのではなくここに展示されている作品を所蔵する美術館のこと。
セザンヌ展と同様にブランド美術館が次々とでてくる。ルーヴルを筆頭にエルミタージュ、ワシントンナショナル・ギャラリー、フィリップス・コレクション、ボストン、フィラデルフィア、フリック・コレクション、ティッセン・ボルネミッサ。これはどこからみてもグローバルレベルの特◎回顧展であることは間違いない。
絵の前に長くいたのが‘木いちごの籠’。絵の存在を知ったのは25年前のことだが、日本でみれることになろうとは!典型的なピラミッド構図で描かれた赤い木いちごに目が吸い寄せられていく。いちごの生感覚の存在感をこえ永遠の神々しさまで感じさせるのだからシャルダンの画技はすごいところにいっている。
静物画に描かれた果物で最も好きなのは葡萄。だから、‘桃の盆とぶどう’や‘桃の籠とぶどう’、‘ティーポットとぶどう’、‘ぶどうの籠’をうっとりした気分でみてしまう。また、シャルダンの静物画はオランダの画家たちの描くものと比べ対象が少ないから、果物などと一緒に並べられている瓶やゴブレットやガラスコップの見事な質感描写に釘付けになる時間もつい長くなる。
人物画の収穫は2点ある‘食前の祈り’。ルーヴルのものは前回展示されてなく、またエルミタージュが所蔵するものは現地を訪問したときはシャルダンまで気が回らなかった。それが一気にリカバリーできたのは嬉しいかぎり。オランダの風俗画にもこんな親子の場面が登場するが、シャルダンの絵のほうがなにか静かでやさしい感じ。
二人の女の子の姿をみていると肩の力がすっとぬける。
‘羽根を持つ少女’はちょっとフェルメールの絵と似た雰囲気をもっている。子どもが一人で描かれるときはいつも横向きで暗い背景のなかに浮き上がっている。少女の赤いほっぺと木の質感がよくでているラケットをしばらくみていた。
バーン=ジョーンズ展に続き満足度200%の展覧会だった。
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コメント
いづつやさん、いつも三菱一号館美術館の催しを観ていただいて有難うございます。今回のシャルダン展は、私が前任地の国立西洋美術館で「G.ド・ラ・トゥール」展、「コロー」展に続いて考えていたもので、丸の内で実現して感無量です。
フェルメールばかりがクローズアップされがちな日本で、もう少しバランスを持って美術を観てもらいたいと思いもあってのことです。日本ではたぶん、これ以上のシャルダン展は当分の間実現しないと思う位の真に国際レヴェルの展覧会です。一昨年のフェラーラ、マドリードでの展覧会よりも良い、という感想は監修者P.ローザンベールさん自身が漏らしていました。是非、日本の多くの方々に観ていただきたいです。
ただし、18世紀絵画の見事な傑作のひとつ「羽をもつ少女」が、個人所蔵家の意向で、カタログ以外ポスターや絵葉書にも使用できなかったのがちょっと残念でしたが・・・。
投稿: 高橋 | 2012.09.16 14:35
to 高橋さん
シャルダン展、いい気分でみさせてもらい
ました。おかげさまでシャルダンの静物画に
これまで以上に近づけた感じです。
とくに‘木いちごの籠’をみれたことは一生
の思い出になりそうです。My好きな静物画
ではカラヴァッジョの‘果物籠’とセザンヌの
‘リンゴとオレンジ’の2点が最上位を占め
ていたのですが、今回この絵が加わりました。
本物をみれたことを心から喜んでいます。
そして、‘羽根を持つ少女’もいいですね。
個人が所蔵するこういうすばらしい絵がひょい
と目の前に現れますと、いい回顧展にめぐり
合えたことをつくづく実感します。
多くの美術好きの方とシャルダンの魅力を共有
したいですね。私もまわりにいる西洋画好きの
友人や行きつけの歯科医院の先生にもおおいに
PRしているところです。いい展覧会を本当に
有難うございました。
投稿: いづつや | 2012.09.16 20:50
今日シャルダン展に行ってまいりました。
以前からシャルダンのファンだったのですが、画集や欧米の美術館で、すでに見たことのある質の高い作品も来ていて、びっくりしました。
シャルダンの作品を見ていると、絵とは何をではなく、あくまでもいかに描くかが大事なのだと再認識させられます。
筆触、色彩の微妙な階調と調和、構成。そうした要素の総和として、シャルダン独自の絵画世界ができあがっていますね。
同じく18世紀のスペインのメレンデスも好きなのですが、写真的リアリズムに徹するメレンデスよりシャルダンの絵画的な世界が私には一層魅力的です。
水の入ったグラスの描写などなんとも言えないですね!
投稿: ケンスケ | 2012.09.21 21:02
to ケンスケさん
シャルダンは写実をやっている画家のお手本
ですね。物の存在感がしっかり描かれており、
色彩がきれいですね。
こういう見事な質感描写にしみじみ魅せられる
静物画はほかにみたことありません。とくに
‘木いちごの籠’に200%KOされました。
赤がこんなに神々しくみえるなんて、神秘的な
雰囲気さえ感じました。余韻にひたってます。
投稿: いづつや | 2012.09.22 00:32