アートに乾杯! アーティストは文字で遊ぶ
芹沢銈介の‘喜の字’(1950年代)
世の中には猫が大好きという人が沢山いる。歌川国芳(1797~1861)も筋金入りの猫好き。国芳は猫にかこまれて暮らしていたようで、家には猫の仏壇まであったという。
だから、国芳の戯画のなかには猫がいろいろでてくる。‘猫の当字’シリーズもそのひとつ。全部で5つある。‘ふぐ’‘たこ’‘かつを’‘うなぎ’‘なまず’。‘たこ’は8匹の猫の体で表されているが、‘ふぐ’はよくみると‘ふ’の真ん中には正面向きのふぐをもってきている。
猫の体はまるくなったりおもいっきりのばしたりとその姿は猫百態ブックをみている感じ。若冲の頭のなかに毎日観察していた鶏の動きがすべてインプットされていたように、猫をこよなく愛していた国芳の目にも柔らかい猫の体がやきついていたのだろう。
では、国芳はこの嵌め絵をどうやって思いついたのか?これは19世紀朝鮮で描かれた民画の文字絵を参考したのだと思う。別にもとは朝鮮のものでも全然かまわない。この猫の当字は国芳によって洗練された芸術のかたち。西洋画の技法でも朝鮮の絵でも貪欲に吸収して、国芳はみる者を楽しませる作品に仕上げる。国芳のアーティスト魂はかくも自由でエンターテイメントの精神にあふれている。
民画の文字絵‘禮 孝’は文字の一部に亀や魚が使われ、墨の太い線のなかにモチーフが装飾されている。もうひとつの‘禮’は文字を形づくっている線が画面になり、そこに人物や動物、草木、家、山々が描かれている。こうした文字絵を日本民藝館ではじめてみたときは思わず目が点になった。こんな発想があったのか!新鮮な刺激だった。
芹沢銈介(1895~1984)はこの文字絵にヒントをえて洒落た飾り文字をつくった。‘喜’のなかには縁起の良いもの、松竹梅、鶴、寿の文字、糸巻き、反物、市松文様などが描かれている。
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