フェルメールの傑作‘牛乳を注ぐ女’と再会!
アムステルダム国立美のもう一つのお宝、フェルメール(1632~1675)は現在3点展示されている。‘牛乳を注ぐ女’、‘恋文’、‘小路’。‘手紙を読む青衣の女’もここの所蔵だが、今はご存知のようにBunkamuの‘フェルメールからのラブレター展’へ特別出張中。
‘牛乳を注ぐ女’をみるのは4年ぶり。国立新美の展覧会(拙ブログ07/10/6)のときは絵からすこし離れての鑑賞だったので、今回は最接近してみた。この絵は画面全体がフェルメールのほかの絵とくらべて格別に明るい。背景の白い壁は発光体のように輝いているので、遠くにいてもその強い磁力に引き込まれていく。
構図は完璧、なにより女性の右と後がすっきりしているのがいい。描かれているのは女性が容器から牛乳を注いでいる場面。日常の市民生活の一コマを描写したものだから、この時代よく描かれた風俗画の一枚。でも、ほかの画家が描く風俗画とはまったくイメージが違う。
風俗画なのにこの絵のなかには気軽に入っていけない。それはこの部屋があまりに静寂で豊かな詩情性につつまれているから。その詩的な雰囲気を一番感じるのが籠の中やテーブルの上にあるパン。光があたっているところが小さな白い点で表現され、近づくとキラキラ輝いている。
実際には人の目ではパンにあたる光はこのようにはみえない。フェルメールはカメラ・オブスキュラのレンズを通してみた光の世界に魅せられ、これを絵画で表現したのである。また陶器や瓶から注がれる牛乳のリアルな質感描写にも心を奪われる。フェルメールの光の輝きをとらえる技は比類がなく、こうした光にみちた静謐な世界は当時の画家は誰も描けなかった。
36点あるフェルメール作品をこれまで32点みてきたが、全部気に入っているわけではない。ここまできたから全点制覇を目標にしているが、カラヴァッジョのように万難を排して追っかけるという構えとはちがう。気に入っているのは10点くらいであとの絵はそれほど心は動かされてないのが正直なところ。熱い思いを寄せ、西洋絵画全体の中でも上位に位置づけているMyフェルメールベスト5(順位なし)は、
★‘牛乳を注ぐ女’
★‘真珠の耳飾りの少女’(マウリッツハイス美)
★‘デルフトの眺望’(マウリッツハイス美)
★‘絵画芸術’(ウィーン美術史美)
★‘真珠の首飾りの少女’(ベルリン国立美)
‘小路’で切り取られた家並みは平凡、家の描き方も子どもが大小の家のシールをぺたぺた貼ってできた感じ。フェルメールにとって風景画は好きなジャンルではなかったのだと思う。
‘恋文’もインパクトのない絵。ドアの両サイドの壁が画面の大半を占め、部屋の奥にいる二人がほかの絵に比べると小さく描かれているので見ごたえがない。
ブリューゲルの絵を彷彿とさせるアーフェルカンプ(1585~1635)の‘氷上遊びのある冬景色’をまたじっくりみた。この絵をみるタイミングでここへ来たから好みの度合いがまたアップした。
この絵は前回のときよく覚えているのに、ホントホルスト(1592~1656)の‘愉快な音楽家’はみたという実感がない。だから、レンブラントの‘パウロの自画像’とともにリカバリーをめざしていた。入ってすぐのところにあったので、すぐ向き合った。マウリッツハイスでみた‘ヴァイオリン奏者’(11/12/13)と同じように明るい絵でぐっと惹きこまれる。
ハルス(1580~1666)の‘陽気な酒呑み’の前ではこちらもついつい頬の筋肉がゆるむ。速い筆さばきで顔の赤い典型的なオランダ人を生き生きと描いている。ハルスの絵を1点でも増やしたいと思い、‘男の肖像’を捜したがこの度もダメだった。
これで‘オランダ・ベルギー美術館めぐり&名所観光の感想記’は終わりです。長らくお付き合いいただきありがとうございました。紹介した10の美術館を体験された方、そしてこれから訪問を計画されている方と名画の情報を共有できたことを心から喜んでいます。
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