日本の美 紅白梅! 浮世絵で梅といえば広重・春信(5)
浮世絵で梅の絵というとすぐ思いつくのは歌川広重(1797~1858)が描いた名所江戸百景にでてくる‘亀戸梅屋敷’。広重はもうひとつ‘蒲田の梅園’も描いているが、こちらは影がうすい。梅屋敷は亀戸天神の近くにあった。
目をひくのは手前の奇妙な形の梅の木。これは枝の張りようがまるで龍が地を這う姿に似ていることから‘臥龍梅’と呼ばれていた。この奇木を広重は手前から画面奥に向かって斜めに配置し、そして中央の梅見客を極端に小さくして横に並べている。前の大きな木と人物の大小対比が効果的で、そこには広々とした空間が生まれている。また、紅色の夕景に映えるかわいい白梅が印象深く、おもわず見入ってしまう。
鈴木春信(1725~1770)の‘夜の梅’はこれまでみた春信の絵のなかで最も気に入っているもの。1995年名古屋市博であった‘メトロポリタン美浮世絵名品展’は浮世絵鑑賞のエポック的な体験だった。これを浮世絵コレクションで知られるボストンやギメなどが所蔵しているという情報は得てないから、二度目の鑑賞はもうないかもしれない。
娘のかざす手燭に照らされて闇夜に浮かび上がる白梅がじつに美しい。このロマンチックは情景をひきだしているのが背景の黒。こんなに黒を魅力的に感じる絵がそうない。どこかの美術館でまたメトロポリタンが所蔵するすばらしい浮世絵をみせてくれないかと密に思い続けている。
甘党の方は‘夜の梅’に敏感に反応されるかもしれない、そう、とらやの羊羹。とらやの代名詞‘夜の梅’の銘は羊羹の切り口の小豆が夜の闇にほの白く咲く梅を表すことからつけられた。わが家は週末だけ甘いもの解禁なのだが、久しぶりにこのおいしい‘夜の梅’を食べようかなという気に80%なっている。
歌川国芳(1797~1861)の美人画にも梅がでてくる。三枚続の‘梅の魁’には春信の絵とはまた違った情趣が感じられ、V字形に開く梅の幹が目に焼きつく。国芳ではもう一枚、障子に写る梅の影が女を引き立てている‘三拍子娘拳酒’が目を楽しませてくれる。
天神さまは江戸時代には浄瑠璃や歌舞伎の題材になり、浮世絵にも登場した。勝川春章(1726~1792)の絵は菅丞相こと菅原道真が雷神になる場面。右手に梅の枝をもち風雨の中、髪を振り乱す姿は迫力満点。観客は誰だって道真に同情しているから、この怒り爆発にグッと感情移入したにちがいない。
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