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2011.02.27

アートに乾杯! 絵の中に入っていける‘ラス・メニーナス’

2421_2     ベラスケスの‘ラス・メニーナス’(1656年)

2420_2     レンブラントの‘夜警’(1642年)

2418_2     ニューマンの‘アンナの光’(部分 1968年)

2419_2     ロスコの壁画‘無題’(1958年)

美術館へ出かけて本物の絵を体験したとき、画集や美術の本でイメージしていたことと大きく異なることがよくある。図版と本物では色の濃淡がちがっていたり、目の前にある絵が想像していたものより2倍も3倍も大きかったりする。色については赤が青になったりすることはないから、みているうちにそういうことは忘れる。ところが、絵の大きさはサプライズが後々まで残る。

29年前はじめてプラドを訪問しベラスケス(1599~1660)の‘ラス・メニーナス’の前に立ったときは、絵の大きさにびっくりした。高さは3.18mもあり、横は2.76m、とにかくデカイ。しばらくするとすこし興奮状態がおさまり、画面中央の王女マルガリータや大きなキャンバスの前で絵筆をもってこちらをじっとみている画家に目がいくようになる。そのとき後ろの鏡に映った男女までみたかどうかはかなり怪しい。多分みてないだろう。

そのあと3回みたが、だんだんこの大作がほかの絵とは何かが違っていることがわかってきた。それはこの絵の前では誰もが感じること。そう、マルガリータや画家、女官たちがいる部屋の床の延長線上に自分が立っているような気がするのである。同じ部屋にいるように感じるのは人物が等身大で描かれ、手前の床の部分が展示ホールの床と同じ高さにみえるから。絵のなかに見る者が入り込める絵はこれまであっただろうか。

西洋絵画では遠近法が使われているため、見る者の視線は画面のなかにできた奥行きのある空間に吸い込まれていく。この‘ラス・メニーナス’でも遠近法により後ろの戸口や鏡のある壁まで奥行きができている。でも、視線は部屋の中を行ったり来たりせず画面の手間でとどまる。

それは画家をふくめ6人が横一線で平面的に描かれているためで、画面の手前から見ているわれわれのほうに空間が広がっているように感じるのである。だから、この絵は従来型の視線だけが絵の中にむかっていく絵とはちがい、対象が平面的に描かれている絵のように絵の前方に空間をイメージさせ見る者をつつみこむタイプの絵といえる。

これと同じように絵の中に自分たちも登場しているのではないかと錯覚させるのがレンブラント(1606~1669)の‘夜警’(アムステルダム国立美)。これも縦3.59m、横4.38mの大作。夜警団の手前にわれわれはおり、集まった町の人たちと一緒にこの出発の様子を見ていることになる。人物が横に並ぶ絵なので空間が画面手前からこちらに出っぱってくるのは‘ラス・メニーナス’と同じ。

現代絵画で絵と一体になる感じがするのはニューマン(1905~1970)やロスコ(1903~1970)が描いたカラー・フィールド・ペインティング。フラットな赤や茶色の大きな色面に体全体がつつみこまれるので、色彩美に戯れあるいは神秘的な精神世界に誘われるような気分になる。で、ときどき川村記念美へでかけ、いい気持ちになっている。

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コメント

いづつやさんは、ベラスケスの『ラス・メニ―ナス』を1982年に最初にご覧になられたのですね。まったくの奇遇なのですが、私も同じ年に『ラス・メ二―ナス』を初めてプラドで見ました!

さて最近、画家の西岡文彦氏が自著『名画の暗号』で『ラス・メニ―ナス』について語っています。

氏は、ベラスケスが裏面を見せているカンヴァスに描いているのは『ラス・メニ―ナス』の光景そのものだと言っているのですが、私も以前からずっとその解釈をしていたので、まったく同感です。

ベラスケスは、自分にとって畢生の大作だった『ラス・メニ―ナス』を、自分が制作しているところを描いたのだと思えて仕方ありません。

裏を見せている画中のカンヴァスは、ちょうど3メートル18センチくらいありますよね! これまでの主流の解釈では、ベラスケスは鏡に映った国王夫妻の肖像を描いているというものでしたが、このカンヴァスは全身肖像画としても大きすぎますし、第一ベラスケスも含めスペイン画家の肖像画では、国王夫妻二人を同一画面に描いたものは一作もありません。

カンヴァスの裏を見せている『ラス・メニ―ナス』にも鏡が描かれているはずなので、ベラスケスはその鏡の中に国王夫妻を描こうと、夫妻に絵の前にモデルとして立ってもらっているのではないでしょうか。

もう一つ私見では、『ラス・メニ―ナス』を見る観賞者は、制作していたベラスケスと同じ位置に立って、実際のカンヴァスの左側に立っていたはずの国王夫妻に対峙しているとも言えるのではないでしょうか。

そうすると、裏面を見せている『ラス・メニ―ナス』の中でも無限に続いていく『ラス・メニ―ナス』のカンヴァスの表と裏の繰り返しは、ベラスケス=私たちの立ち位置から始まっているのだと思うのですが。

いづれにしても、ラス・メニ―ナスは魔術的ですね!

投稿: ケンスケ | 2015.04.09 23:12

to ケンスケさん
興味深い説ですね。西岡氏はそんな本を出して
いましたか。いままで通説がインプットされた
ままこの絵をみてましたが、おもしろい考え
ですね。丸善にいったとき手にとってみます。

ベラスケスはロンドンのナショナルギャラリーに
あるヴィーナスでも鏡を使ってますが、いろん
な意図をこめて鏡を表現のキーアイテムとした
のでしょうね。そして、マネはベラスケスを敬愛
してましたから鏡のマジックを自分の作品にもと
りいれたくなった。そんな流れでしょうか。

投稿: いづつや | 2015.04.10 01:17

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