アートに乾杯! ゴヤの描いた戦争画
ゴヤの‘戦争の惨禍・立派なお手柄!死人を相手に’(1810~20年)
プラドへでかけゴヤ(1746~1826)の描いた戦争画や‘黒い絵’をみると人生観が変わる。人間の闇の部分や残虐性について人一倍考えているわけではないが、絵画の鑑賞をずっと続けているから、地獄絵や戦争画をつうじて人間が行う恐ろしい行為や戦争の悲惨さに向きあう機会は結構ある。
歴史画や神話画には戦いを描いた場面は数多くあるが、心拍数があがるほどのショックは受けない。これにたいして、近代になるとかなりの衝撃度をもった絵が登場してくる。ゴヤの‘1808年5月3日の銃殺’はその筆頭かもしれない。
描かれているのはスペインに侵入してきたナポレオン率いるフランス軍に対抗して立ち上がった市民が捕えられ銃殺される場面。手を上げている男にはキリストの磔刑が重なってくる。体がこわばるのがすでに銃殺された男の顔や地面に流れる血潮。このべっとりした血をゴヤは祈りをこめて指で塗ったという。
対仏独立戦争は6年間続くが、ゴヤは実際に体験したことや見聞をもとにして銅版画‘戦争の惨禍’(82枚)を描いた。でも、これはゴヤの生前には発表されず、没後の
1863年に出版された。人間はこんな残虐なことでもやってしまうのか!の連続、本当にショックを受ける。あまりに悲惨で長くはみれないのが‘立派なお手柄!死人を相手に’。
スペインの歴史をみると悲惨なことがいろいろでてくる。異端審問によるユダヤ教徒の弾圧、フランス軍に対する市民のゲリラ戦、第二次世界大戦の前哨戦となったスペイン内戦、こういう時代の真実の姿を画家は絵に描きとめた。
マネ(1832~1883)がゴヤの銃殺の絵に刺激されて描いたのが‘マクシミリアンの処刑’。ドイツのマンハイム市立美にあるものがよく画集に載っているが、これはロンドンのナショナル・ギャラリーにある別ヴァージョン。マンハイムの作品がみれることを願っているが、縁がなさそう。
ピカソ(1881~1973)もまた‘ゲルニカ’を描くにあたり、徹底的にゴヤの‘1808年5月3日’を研究したといわれる。右端に描かれているひざまずき両手を上にあげて嘆き悲しんでいる女や左下に横たわる男の姿をみると、ゴヤの絵が連想される。
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