‘ルーベンス展’はサービス精神満点の大回顧展だった!
‘レルマ公騎馬像’(1603年)
4年前プラドへ来たときはゴヤ門の2階から中に入ったが、今回はここからではなくゴヤの彫像の前を進み右に曲がったところにあるヘロニモ門から入館した。ツアー客や入場券をもっている人はここがエントランスになっている。入ると広いホールになっていて正面奥にミュージアムショップ、左に2つの展示室がある。
ここは増築された(いつオープン?)ヘロニモ館で、1階と2階にある展示室は特別展に使われる。嬉しいことに1階で‘ルーベンス展’(11/5~1/23)が開催されていた。ただし、出品されているのはすべてプラドが所蔵しているもの。作品数は90点。所蔵品のおそらく9割がでているだろう。まさに自慢のルーベンスコレクションを全部お見せしますという感じ。こういうサービス精神にあふれる特別展は館に対する好感度が大いに増す。お陰で9点あった追っかけ画は1点を除いてみることができた。
バロック絵画最大の巨匠といわれるルーベンス(1577~1640)が生涯に制作した歴史画、宗教画、肖像画、風景画は2000点をこえる。ルネサンスがひとまず終わりをつげたころ、人々は新しい表現を求めていた。そこに登場したのが人物を複雑なポーズで描き激しい動きが画面にあふれるルーベンスの歴史画や神話画。バロック絵画の誕生である。
‘龍を退治する聖ゲオルギウス’はこれぞバロックという感じ。ゲオルギウスのまとっている赤のマントや濃い青の軍服にとても惹きつけられるが、それ以上に気分がハイになるのが画面の激しい動き。馬は対角線上に跳ね上がり、下の龍やゲオルギウス、後ろにいる姫はそれぞれ複雑なポーズをとっている。まるでスペクタクル映画の一シーンをみているよう。とにかくルーベンスの絵には静止しているものが何もなく、生き生きとした動きが満ち溢れている。
ルーベンスはレンブラントとともに肖像画の名手。とくにいいのが妻を描いたものと自画像。二度目の妻は37歳も年が離れた若いエレーヌ・フールマン。色白で目が大きいこのチャーミングな女性は‘三美神’(拙ブログ07/3/24)でモデル(左の女神)をつとめているが、‘愛の園’にも登場する。左から2番目の腰をおろしてこちらを見ているのがエレーヌ。
結婚の幸せを象徴的に表したこの絵で最も心を揺すぶるのは人物たちが身につけている衣裳の色彩。そのビロードのような柔らかい質感と光沢のある色彩のなかでとりわけ印象深いのが左端の男性の赤、そのふたつ隣の女性の濃い青、そして中央で座っている女性の黄色。これほど色彩に酔わされる絵はそうない。夢中になってみた。
今回リカバリーを果たした画にもいいのがあったのだが、こういう風にルーベンスの傑作が全部でてくると、すでにみていても感動の大きいものをとりあげたくなる。‘レルマ公騎馬像’はすばらしい肖像画。騎馬像は元々古代ローマの皇帝の肖像彫刻の一形式だったが、ルーベンスは横向きではなく大胆にも正面からとらえた。今にも馬がこちらに突進してくるような迫力が感じられる。
‘農民の踊り’をみているとすぐ昨年11月のロンドン美術館めぐりで楽しんだ‘ステーンの城館のある風景’(ロンドン・ナショナル・ギャラリー、10/12/25)、‘虹のある風景’(ウォレス・コレクション、10/12/17)が思い起こされた。
どれも農民が描かれた心地のいい風景画。でも、この‘農民の踊り’は風景があまり意識されず、視線は渦巻きのような踊りの輪の中にむかう。男女の踊りは躍動感があり表情は生き生きしているが、サテュロスをイメージさせる男が踊りながら女に言い寄る危ない場面にも目がとまる。ブリューゲルの‘農民の踊り’とは一味も二味も違うところがルーベンス流。
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コメント
う ら や ま し い !
↓(変化)
う ら め し や!
外交官 ルーベンス展 でしたか・・・
わたしの好きな画家の一人はルーベンスです。
投稿: Baroque | 2011.02.14 00:24
to Baroqueさん
プラドでは増築された展示会場を使って
一人の画家の所蔵品を一堂にみせる特別展を
はじめたようです。本館における作品の展示
場所が頻繁に変わるのはこのためです。
ルーベンスが90点も出ているので会場は
大入り、熱気でむんむんでした。バロックも
いいですネ
投稿: いづつや | 2011.02.14 17:21