サンアントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂でゴヤの天井画をみた!
クーポラに描かれた‘パドヴァの聖アントニウスの奇蹟’(1798年)
ゴヤ(1746~1828)が描いた天井画をみるため、プリンシペ・ピオ駅の近くにあるサンアントニオ・デ・ラ・フロリダ礼拝堂をめざした。地下鉄を降り地上にあがってくるところまではまあなんとかやって来れる。さて、ここから右へ行くのか、左へ行くのか?最初に聞いた若い女性は‘あっちネ、二つ目を右に曲がるの’、話が通じたと思いホイホイ進んでいるとどうも違う感じ、2人の男性に聞くと逆の方向だという。こちらの案内のほうが正しかった。
あともう少しのところでガイドブックをもって歩いてくる日本人女性に出会った。つい気安くなり、再度確認。‘すばらしい天井画でした!手前にある礼拝堂です’とニコッと笑って教えてくれた。若い方だったが、同志に会ったような気分。早足になった。
礼拝堂のクーポラ(円蓋)の高さは9.1mあまり、直径は5.8m。クーポラと祭檀上のアプス(半ドーム)など14面からなる天井画をゴヤは助手を一人だけを使いフレスコで描いた。クーポラの題材は‘パドヴァの聖アントニウスの奇蹟’、下のアプスなどには定番の天使や愛らしいプットがみえる。
この天井画の制作をカルロス4世から注文されたのは1798年3月、52歳のゴヤ(このころはもう聴覚はない)はこれを4ヶ月で仕上げた。ミケランジェロも裸足で逃げだしそうな仕事の速さである。まず、単眼鏡も使ってクーポラの絵をじっくりみた。ここにはだまし絵がみられる。中央で横向きに立つ修道服の人物が聖アントニウス。その後ろにいる男の子や白い服の女が本物の鉄の欄干によじのぼったり、もたれかかっているようにみえる。これはマンテーニャのだまし絵にそっくり。
聖アントニウスはどんな奇蹟を起こしたのか?どんより窪んだ目をした裸の男が後ろの男に腹のあたりに手を回されて聖人の前にいるが、これは今しがた死から蘇ったところ。じつはこの男は殺されたのである。犯人は?あろうことか、聖人の父親(黄色い服を着て目を閉じている老人)が殺人の罪で告訴される。イタリアにいた聖人は‘こりゃ大変!’と孫悟空のように空を飛んで故郷ポルトガルへ戻ってくる。
父親の冤罪を晴らすにはこの男を生き返らせ、真犯人を聞き出すしかない。で、得意の呪術を使い、奇蹟を起こす。‘誰がお前を殺したのかい?’と聖人は答えを迫る。そのとき聖人の後ろにいた黒い帽子を被り黄色い服を着た男が背をむけて逃げ出そうとする。‘あ、あいつですよ!’
アプスやそのまわりに頬を赤く染めた天使たちが沢山描かれているが、右にほうにとびっきりチャーミングな天使をみつけた。奇蹟をみている群集は卑俗っぽく、ときには残忍性までだして描かれているのに対し、聖なる世界の天使やプットたちは明るい色合いでじつに愛らしく、生き生きと描かれている。
聖と俗の対比描写をしっかりみたので堂内に置かれたゴヤの墓を最後にもう一度みて、ひきあげた。
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