テート・ブリテンのターナーとコンスタブル!
歴代のイギリス絵画がたっぷりみれるテート・ブリテンは2年前訪問したので、今回はオプション扱いにしていた。時間と体力が残っていれば出かけようという作戦。そうはいっても前回みれなかった絵のリカバリーのため、必見リストはちゃんと用意してある。
美術館めぐりはおもしろいもので、こちらの気合にすこしでも緩みがあると美術館との相性はえてしてよくない。館のソファでお休みタイムに入った隣の方と時間の打ち合わせをして、一人でターナー(1775~1851)の作品があるクロア・ギャラリーへ向かったものの、お目当ての絵がことごとく姿をみせてくれない。これで気分はだいぶへこんだ。
この度はみれるだろうと思っていた絵はどの画集にも載っている有名な‘吹雪’と‘雪の嵐ーアルプスを越えるハンニバルの軍勢’、‘雪崩で破壊された小屋’の3点。残念!展示してあったターナーの作品は20点くらい。なんといってもここはターナー絵画の殿堂だから、気持ちを切り替えてみた。
収穫のひとつが‘難破船’。こういう荒れ狂う波の光景をみると自然の怖さを感じずにはいられない。形の定まらない波の描写はとても難しいと思うが、ターナーは高い技量を発揮して、難破する船を激しくダイナミックに描いている。まったく見事な海景画である。前の日、ナショナル・ギャラリーで同じように波が大きくうねる‘カレーの桟橋’がみれたから、今回のターナーはこれでよしとした。
クロア・ギャラリーはターナー専門の展示室なのに、なぜかコンスタブル(1776~
1837)のいい絵が2点あった。‘フラット・フォードの製粉場’と‘ハドリー城、テムズの河口-嵐の夜の翌朝のための習作’。あとでわかったのだが、現在館内は近・現代絵画だけはみれるがほかは工事中で閉鎖されている。で、一部の作品が本来ある場所からクロア・ギャラリーに移ってきていた。
‘フラット・フォードの製粉場’は98年に東京都美であった‘テート・ギャラリー展’にもやってきた絵で、コンスタブルの代表作のひとつ。この絵の5年あとに制作された‘干し草車’の水面のようには光は感じられないが、広がりのある空間、そして川沿いの道や手前の大きな木や遠くの樹木にみられる細かい描写が心をとらえて離さない。なんでもない田園風景だが、そこがかえって親しみがもてていい。いつかコンスタブルの生地を訪ねてみたい。
この部屋にもう一点惹かれる絵があった。それはホイッスラー(1834~1903)の‘ノクターン:青と銀色ークレモンの灯’。こういう日本テイストに満ちた絵が現れてくれると心が落ち着く。手前下では葦が画面の下にはみだし、靄のかかったテムズ河は簡略的に描かれた筏のほかには何もみえず、右上では川面に燈火が映っている。無用なものは一切カットされた茫漠としたし詩情あふれる光景をじっとみていると、どこからともなく静かなピアノの音色が聴こえてきた。
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