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2010.10.31

なんでも鑑定団 堆黒盆に驚愕の1億円!

2082_2      ‘牡丹尾長鳥堆黒盆’(元時代 京都・金地院)

2083_2      ‘酔翁亭堆黒盆’(重文 南宋時代 鎌倉・円覚寺)

2085_2      ‘花鳥堆朱長方形箱’(南宋時代 東博)

2084_2      ‘雲龍文堆朱香合’(明時代 北京・故宮博物院)

今日午後1時から放送されたテレビ東京の‘なんでも鑑定団’(再放送)に超サプライズのお宝が登場した。8/31の放送は番組欄に‘仰天高額に一同絶叫!!中島大興奮、「世紀の大発見です」’とあったので‘観るぞ!モード’になっていたのにブログを書いていて、不覚にも観忘れてしまった。で、そのお宝をなんとしても見たくで毎週、日曜日になると番組欄とにらめっこしていた。

ようやくリカバリーの機会がやってきた。鑑定士、中島誠之助さんが‘世紀の大発見!’と叫んだものは中国の堆黒盆(ついこくぼん)だった。ついたお値段は驚愕の1億円!この盆の鑑定を依頼したのは小松市で農業をやっておられる57歳の浅野さん。浅野さんは今から30年前、27歳のとき骨董店でこれを500万円で買ったという。

本人の評価額は1000万円だったが、鑑定結果を聞いてみるとナ、ナント、10倍の
1億円!本人はもちろんのこと、奥さんや家族も唖然としている。すごいことになった。
5年前、ドイツに住む資産家が所有している初期柿右衛門様式の壺に5億円の値段がついたとき(拙ブログ05/9/30)のように、会場全体が大きく揺れている。

実際の堆黒盆(口径37cm)をここでおみせできないのは残念だが、文様のイメージとしては一番上の画像に近い。牡丹と5羽の鳥が彫られ、浮き彫りになっている。堆黒というのは木胎に黒漆と朱漆を何層にも塗り重ね表面を黒漆塗りにし、これに刃物で彫り込んで文様をつくったもの。中島さんの解説によると、これがつくられたのは今から630年前の明時代初期、洪武帝の太祖朱元璋のころだという。

これと同じ物が朱元璋の第十皇子の墓から出土しているというから驚き。中国の漆工芸界の最高レベルのものが小松の農家からでてきたのである。中島さんは室町時代に足利幕府により輸入され、将軍家から戦国大名に渡り、前田利家の手によって石川県に運ばれたのではないかと推察している。

過去に行われた展覧会で体験した堆黒、堆朱をレヴューしてみると、04年の‘南禅寺展’(京博)に金地院や南禅寺が所蔵する元時代の堆黒盆や明の永楽帝の時代につくられた堆朱の香合など6点が展示され、03年の‘建長寺展’(東博)では南宋時代の‘酔翁亭堆黒盆’など4点(いずれも重文で円覚寺の所蔵)をみた。数はまことに少ない。あとは東博の平常展にでてくる‘花鳥堆朱長方形箱’など数点。

堆朱で印象深いのは18年前東京都美で開催された‘北京故宮博物院展’に出品されたもの。龍や瑞雲や宝珠の文様が力強く彫られた香合(明・永楽帝時代)が今でも目に焼きついている。また、台北の故宮でも堆朱をいくつもみたような気がするが、記憶はだいぶ薄い。

浅野さんの堆黒盆が最高峰のものなら、一度みてみたい。すぐ銀行の貸し金庫に収めないで、東博の平常展(京博は現在休館中なので)でみられる機会をつくっていただけると嬉しいのだが。東博の学芸員さん、動いて!

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2010.10.30

‘エヴァーラスティング ビル・エヴァンス’でもいかが!

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ここ1ヶ月、タワーレコードから7月に発売された‘エヴァーラスティング ビル・エヴァンス’(2枚組)をクルマのなかで聴いている。

このCDは8月中旬、新聞の文化欄で知った。今年はジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンス(1929~1980)の没後30年にあたる。で、このベスト復刻盤がでたというわけ。タワーレコードの担当者がHMVや新星堂など9社に声をかけお奨めの曲を選んでもらい、そのなかから22曲を収録したという。

どんな曲が入っているかというと‘いつか王子様が’、‘枯葉(テイク2)’、‘ワルツ・フォー・デビイ’、‘不思議の国のアリス(テイク2)’、‘MASHのテーマ’など々。

世の中にはビル・エヴァンスにぞっこんというジャズファンが大勢おられると思う。昨年1月発売の雑誌‘一個人’の‘保存版特集 ジャズの快楽’によると、日本でもっとも売れているジャズのアルバムはビル・エヴァンスの‘ワルツ・フォー・デビイ’かヘレン・メリルの‘ヘレン・メリル・ウイズ・クリフォード・ブラウン’だそうだ。

絶大な人気を誇るビル・エヴァンスなのに、若い頃夢中になって聴いたジャズメンに入ってなく、アルバムを買って聴いたことがない。だから、22曲のなかにはどこかで聴いたような旋律だなというのもあるが、大半は‘これがレコード店で見慣れたアルバムに収録されている曲か!’という感じ。

アルバムのなかではシオン城をデザインに使った‘アット・ザ・モントルー・ジャズ・フェスティヴァル’に惹かれていたが、これからは選ばれてなかった。はじめて聴く曲はベストセレクションだけあってどれも魅力いっぱい。繊細なタッチのリリシズムあふれる演奏はホテルのバーで楽しんでいるような気分にさせてくれる。

これはビル・エヴァンスのピアノだけの力ではなく、のびやかかつ洒落た雰囲気で繰り広げられるベース、ドラムとの生き生きしたインタープレイによって生みだされたもの。こんなすばらしい演奏を知らずに過ごしていたら大きな悔いを残すところだった。

クルマのなかではしばらくの間、ビル・エヴァンスのCDがマイルス・デイビスを横に追いやることになりそう。

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2010.10.29

今村紫紅の‘伊達政宗’をやっとみれた!

2076_2        今村紫紅の‘伊達政宗’

2077_2                   鏑木清方の‘夕河原’

2079_2      下村観山の‘闍維’

2078_2      森田曠平の‘渡来図’

ドガ展(横浜美)をみたあと、導線にそって所蔵の近代日本画を鑑賞した(26点、展示期間は9/18~1/10)。ここ数年横浜美へ来るのは年に1回くらいなので、ここの日本画をみるのは久しぶり。図録に載っている自慢の名画は大半みていることもあり、気分的には余裕の裕ちゃん。が、思いもかけなかった作品が目の前に現れたから、もう大変。

なんと、これまでなぜか縁がなかった今村紫紅(1880~1916)の‘伊達政宗’が展示されているではないか!3年前まではこの絵に会えることを期待して平常展は熱心にみていたのだが、いつまでたっても姿をみせてくれず追っかけ意欲が薄れつつあったので、なんだか得した気分。

伊達政宗はご存知、独眼龍。この武将が実際どんな顔をしていたのかは知らないが、日本画と長くつきあっているお陰でこの絵でイメージができあがっている。背景に描かれているのは縦横に組み合わさった木だけ。これは何?画面から先の部分がはみ出しているのでわかりにくいが、じつは十字架。これによって伊達政宗がキリスト教にも熱心だったことを象徴的に表しているのである。造形的にみると後ろの十字架が伊達政宗の存在感をより高めている。

今村紫紅は横浜生まれで17歳まで横浜で育ったので、この美術館には紫紅の絵が沢山ある。今回はこの絵のほかにもう4点でている。紫紅同様、ここは鎌倉に住んでいた鏑木清方(1878~1972)の絵も多く所蔵している。‘夕河原’は確か鎌倉の記念館でみた記憶がある。手に団扇をもった女性の横を向くポーズにうっとり!

下村観山(1873~1930)の‘闍維(じゃい)’をみるのは十数年ぶり。闍維とは荼毘のこと。釈迦が荼毘にふされる場面が描かれている。心を静め息を整えてみた。ほかにも‘小倉山’、‘辻説法’がある。なお、‘小倉山’は11/13(土)の‘美の巨人たち’(テレビ東京)で取り上げられる。

‘出雲阿国’(拙ブログ06/2/13)を描いた森田曠平(1916~)の回顧展に出会わないかと常々願っているのだが、なかなか実現しない。手元に画集がないから画業全体をつかめずにいるが、‘出雲阿国’、‘渡来図’、京近美蔵の‘惜春(盲目物語)’(05/10/28)のほかにどんな絵を描いているのだろうか?

山種美は何年経っても‘夜鶯(アンデルセン童話集より)’を展示してくれないし、ヴァリエーションも増えないまま。この画家はずっと縁遠いかもしれない。

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2010.10.28

虎ノ門 岡埜栄泉の美味しい栗饅頭!

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2074_2      小林古径の‘栗蟷螂’

2075_2      山口蓬春の‘秋香’

今日はとても美味しい栗饅頭の話を。最近、大学のころから付き合っている友人から栗饅頭をいただいた。これまで栗饅頭をあれもこれも食べたというわけではないが、これがとびぬけて美味しいという感じ。隣の方も同じ気持ちで、2人して2、3日ニコニコ顔だった。

これを販売しているのは虎ノ門にある‘岡埜栄泉(おかのえいせん)’。おそらく固定客が沢山いる人気のお店にちがいない。わが家でもこれを定番のお菓子にしようと、来年の秋からはここでこの栗饅頭を買うことにした。和菓子が好きな方のために店の場所と営業時間をご案内したい。

(住所) 港区虎ノ門3-8-24
(電話) 03-3433-5550
地下鉄銀座線虎ノ門駅より徒歩8分
(営業時間) 月~金 9:00~17:00
        土    9:00~12:00
        日祝 定休

小さい頃から秋になると栗はよく食べた。栗饅頭のような和菓子よりも栗御飯で美味しさを味わうことが多い。塩味のきいた暖かい栗御飯はとても美味しいのでおかずがあまりいらない。秋のシーズンに旅行をすると旅館でもホテルでも食事に栗御飯がよくでてくる。菓子だと栗きんときと栗饅頭が定番。

岡埜栄泉の栗饅頭で幸せな気分になったので、栗が描かれた日本画をレヴューしてみた。栗は秋を感じさせるモチーフのひとつであるが、これがとりあげられることは少ない。手元にある画集には小林古径(3点)、福田平八郎、山口蓬春、堂本印象(1点ずつ)の絵があった。

古径の栗は蟷螂(かまきり)と、蓬春の栗は柿と一緒に描かれている。栗の実をつつんでいる殻からでている棘をみると、昔これが指に刺さった痛い思い出が蘇ってくる。

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2010.10.27

‘ドガ展’は期待値を上回る一級の回顧展!

2070_2       ‘バレエの授業’(オルセー美)

2071_2       ‘綿花取引所の人々’(ポー美)

2072_2       ‘アマチュア騎士のレース’(オルセー美)

2073_2         ‘エドモンド・モルビッリ夫妻’(ボストン美)

横浜美で開催中の‘ドガ展’(9/18~12/31)を楽しんだ。今年は印象派およびポスト印象派の展覧会が年初から切れ目なく続いているが、秋の目玉はこのドガ展と国立新美の‘ゴッホ展’(10/1~12/20)。

日本でドガ(1834~1917)の回顧展に遭遇するのははじめて。チラシをみるかぎり一級の回顧展であることは間違いない。オルセー美から美術本に必ず載っている傑作‘エトワール’(拙ブログ08/2/17)や‘バレエの授業’などが13点もやってくるなんてことはこれから先何十年もないだろう。2度、3度と出かけ1点々じっくりみたらドガの通になれること請け合いである。

バレエの絵はオルセーにいい絵が揃っているが、ほかではロンドンのコートールド・コレクション、シカゴ美、メトロポリタン、フィラデルフィア美にもぐっとくるのがある。画集に載っている絵を全点みることを目指しているが、最も気に入っているのはオルセー蔵の‘バレエの授業’。

奥行きの感じられる稽古場の片隅にちょこっと紛れ込んでリハーサルを見ている感じ。床板の線が遠近法の効果をもたらしているので、視線は手前に大きく描かれた背中をみせるバレリーナから中央のバレエ教師、そして右奥で次の指導を待っているバレリーナへと移っていく。やはりこの絵は何度みても魅了される。

今回の大収穫は‘綿花取引所の人々’。これは‘もっとみたい名画’(8/27)でもとりあげたが、チラシに掲載されているのをみたときは跳び上がるほど嬉しかった。ドガの作品ではバレエ画よりも‘アイロンをかける女たち’(08/2/17)とか‘アプサント’(08/12/28)のような風俗人物画に心が向かっているので、こういう綿花取引所といった仕事場の光景を描いたものにはすごく惹かれる。家具や衣服の黒が画面の多くを占めるなか、綿花とワイシャツの白の輝きがとても印象的だった。奥行きをつくる画面構成はお気づきのように‘バレエの授業’とよく似ている。

‘アマチュア騎士のレース’は08年オルセーを訪問したとき、必見リストに入れていたのに残念ながら展示されてなかった。だから、これもありがたい展示。競馬場を描いたものはほかに4月、森アーツセンターにやってきた‘田舎の競馬場で’(ボストン美)、‘出走前’(E.G.ビューレー・コレクション)に足がとまった。

ボストン美からはなかなかいい肖像画‘エドモンド・モルビッリ夫妻’が‘田舎の競馬場で’同様、再度お越しいただいた。この夫婦はどちらも目力がある。20年くらい前、現地でみたときはそれほど魅せられなかったが、鑑賞を重ねるうちにだんだん心の中に深く入ってくるようになった。

横浜美のすぐ近くで11/7からAPECが開かれるが、会議が終了すると‘いいドガ展をやっているなら、これをみて帰ろうか’と考える各国の首脳がいてもおかしくない。実際入館するとなると警備が大変だが、このあたりはどうなっているのだろうか。

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2010.10.26

‘三菱が夢見た美術館’展で期待のルノワールと対面!

2066_3              渡辺崋山の‘遊魚図’(重文)

2067_2       ‘黒本 浦島出世亀’

2068_2       岸田劉生の‘童女像(麗子花持てる)’

2069_2       ルノワールの‘長い髪をした若い娘’

三菱一号館美へ再度出かけ‘三菱が夢見た美術館’展(8/24~11/3)の残りの作品
21点をみてきた。目的はこのなかの数点だったので鑑賞時間は20分ちょっと。

狙いの一つが渡辺崋山(1793~1841)の‘遊魚図’。この絵はどういうわけか静嘉堂で縁がなく追っかけが続いていたが、やっとみることができた。魚がいろいろ描かれているが、視線が向かうのは中央の大きな鯛。ほかの魚はあまり目にとまらず、鯛のあとは魚群を挟み込むかたちで天地にひろがる勢いのある波頭をしばしみていた。この波の描き方は酒井抱一の‘波図屏風’によく似ている。

最初この展覧会をみた際(拙ブログ8/24)購入した図録に鑑賞欲をそそるのがあった。それは東洋文庫蔵の‘黒本 浦島出世亀’。こういうモティーフを正面から描いた浮世絵はときどき遭遇する。亀とそれに乗る浦島太郎にドンと相対する感じだから強く印象に残る。太田記念美で今行われている‘ハンブルク浮世絵コレクション展’のⅠ期(終了)に展示された歌川豊国の‘見立宝舟七福神’は船首の鳳凰がちょうどこの亀のように描かれていた。

日本の洋画は会期中27点登場。そのなかで足がとまったのは岸田劉生(1891~
1929)の‘麗子花持てる’(通期展示)、藤島武二の‘日の出’(終了)、安井曾太郎の‘菊’(通期)、そして9/28から展示されている梅原龍三郎の‘紫禁城’。劉生のこの麗子像は幸いにも見る機会が度々あったから、すごく親しみを覚える。劉生とは一生つきあうつもりだから、この絵をまたじっくりみた。

ルノワール(1841~1919)の‘長い髪をした若い娘’(9/28~11/3)を図録でみたとき仰天した。だから、展示されるのを心待ちにしていた。はたして、期待通りのすばらしい絵だった。茶色の髪は大阪でみた‘可愛いイレーヌ’(4/21)にそっくりだし、黄色の帽子やピンク色の頬も心を惹きつけてやまない。

日本にあるルノワールの女性画でこれまでぞっこんだったのはポーラ美蔵の‘レースの帽子の少女’(05/3/22)と吉野石膏コレクションの‘幼年期’(05/11/11)だが、この‘若い娘’への思い入れ度は2点を上回る。個人が所蔵する場合、いい作品であればあるほど展覧会にでてこないことが多いが、この絵はその典型みたいなもの。ルノワール好きとしては幸運なめぐり合わせを心から喜んでいる。

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2010.10.25

‘岩澤重夫展’にひきあわせてくれたミューズに感謝!

2062_2      ‘渓韻’(1992年 日本芸術院)

2063_2      ‘雪の朝’(1993年 日田市)

2064_2      ‘天水悠々’(2003年 日田市)

2065_2       ‘浜の朝’(2005年 大分県立芸術会館)

現在、日本橋高島屋で開かれている‘岩澤重夫展’(10/20~11/1)のことは今月5日に美術館めぐりをしているとき、どこかの美術館にあったチラシで知った。この画家の絵はまだほんの数点しかみたことがないのだが、その雄大な風景画に前々から関心があったので、何かの縁だと思い初日に寄ってみた。

岩澤重夫(1927~2009)は昨年亡くなっていた。享年82。図録の略年譜をみると、昭和2年(1927)、大分県日田市に生まれている。大分県出身の日本画家というと、すぐ思いつくのが福田平八郎と高山辰雄(ともに大分市の生まれ)。2人とも文化勲章をもらっているが、岩澤重夫は昨年文化功労者の顕彰を受けている。文化功労者になると数年後に文化勲章を受賞することが多いから、岩澤ももうすこし長生きをしたら受賞したのではなかろうか。

今回の鑑賞でその思いを強くした。これまでみたのは1992年の日展に出品し翌年日本芸術院賞を受賞した‘渓韻’とプラス2点くらい。岩澤は遅咲きの画家で画業の後半にすごくいい絵を描いている。‘渓韻’を描いたときが65歳。日展とか院展とかへ毎年でかける習慣がないので、岩澤の60歳以降の作品ははじめて接したが、大きな風景画はどれも心を打つ。

‘渓韻’は画面いっぱいに描かれた木々の緑が目にしみるすばらしい絵。この光景は遠くからしかみられないから、腕のいい写真家がズームで撮った写真を拡大したような感じ。こういう山深いところに入った経験はないが、勢いよく流れる川の水の白さとまわりの緑の美しい対比を目の当たりにすると、すごくテンションがあがるような気がする。

これまでこの絵に魅了され続けてきたが、今回これと同じくらい感激した絵にお目にかかった。03年、76歳のときの作‘天水悠々’。声を失い、思わず体が震えた。拡大図でみていただきたいが、本物はさらにグッとくる。この滝はどこにあるのだろうか?

雪一色の絵がこれまた心を揺すぶる。大作が2点あったが、‘雪の朝’を立ち尽くしてみていた。自然の厳しさと美しさに身が引き締まる思いである。もうすこしすると東北や北海道はこんな光景になるのだろうか。

5年前の作‘浜の朝’は岩の島を縦に描く構成がとてもいい。海も島も金泥一色できりたった岩に打ち寄せる白いさざなみが島全体を浮き上がらせている。08年に描かれた‘天水’も見事な絵だが、これは残念ながらここには展示されてなかった。いつかみてみたい。

岩澤重夫がこんな豊かな才能をもった風景画家であったことを教えてくれた回顧展にミューズが導いてくれた。犬も歩けば棒にあたるである。

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2010.10.24

‘南宋の青磁展’は10年に一度クラスの大やきもの展!

2059_2         ‘青磁鳳凰耳瓶 銘萬聲’(国宝 龍泉窯)

2060_2        ‘青磁鳳凰耳瓶 銘千聲’(重文 龍泉窯)

2061_2      ‘青磁槌形瓶(砧形瓶)’(重文 龍泉窯)

2058_2      ‘青磁輪花鉢’(重文 官窯)

現在、根津美で開催中の‘南宋の青磁展’(10/9~11/14)は10年に一度クラスのすごい展覧会。65点ある青磁は国宝2点、重文7点を含む超一級のものがずらっと揃っている。

龍泉窯でやかれた鳳凰耳瓶は9点あるのだが、国宝の‘萬聲’(ばんせい 和泉市久保惣記念美)と重文の‘千聲’(せんせい 陽明文庫)が一緒に展示されるのは1999年にあった‘神品とよばれたやきもの 宋磁展’(東武美、大阪市立東洋陶磁美、山口県立萩美・浦上記念館)以来のこと。

世界中から宗代(960~1279年)につくられた陶磁器の名品が結集したこの宋磁展には南宋(1127~1279年)の青磁が19点展示された。その12点が再度同じ展示室に並んでいるのである。まったくすばらしい。流石、根津美!

‘萬聲’をみるのは3度目。玉を思わせる澄んだ淡青色がとても美しく息を呑んでみた。その形はみればみるほど吸い込まれる。とにかく筒形の頚部とふっくらとした胴のバランスがいい。ここにある鳳凰耳瓶はいずれもトップクラスのものであることはわかっているが、それでもこの‘萬聲’の完璧な造形美は際立っている。

陽明文庫が所蔵する‘千聲’は2年前にあった‘近衛家1000年の名宝展’(拙ブログ08/1/10)に出品されたから、記憶に新しいところ。‘萬聲’よりひとまわり小ぶりのこの砧青磁の魅力は空の色を連想させる明るいうす青色と表面にできた白の細い貫入。‘萬聲’は深く重厚な美につつまれているのに対し、こちらは清々しく雅な趣がある。こんな名品を並んでみれるなんて夢のよう。

肩がまるくて太鼓胴のようなふくらみがとても気に入っている‘槌形瓶’(梅澤記念館)とは16年ぶりに再会した。これはまさに砧形の瓶。2点ある‘筒形瓶’より、こういう下がまるくて安定感のあるもののほうがみている時間が長い。蕪を連想させる国宝の‘青磁下蕪形瓶’(龍泉窯 アルカンシェール美 07/12/21)は東博の平常展にわりとよく展示されるから、親しみを覚える。やさしくて気品のある青色が心を打つ。

官窯でやかれた青磁で惹かれているのは東博にある‘青磁輪花鉢’。これの見所は最も美しいといわれる二重貫入。黒く大きな貫入の合間をぬって白く輝く細い貫入が縦横に走っている様は心を虜にする。多くの作品のなかでこれをみると、やはりこの貫入はとびぬけて美しいなと思う。

満足度200%の展覧回だった。根津美に感謝!

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2010.10.23

お茶の間の笑い ‘仙厓展’!

2054     ‘布袋画賛’

2057     ‘座禅蛙画賛’

2055          ‘橋上人物画賛’

2056     ‘堪忍柳画賛’

出光美で開かれている‘仙厓展 禅とユーモア’(9/18~11/3)は3年前に回顧展をみたばかりだから、プラスαが期待できるのか心配だった。同じ図録を使っている可能性もあるので、さらっと見て引き上げようと思っていた。

ところが、作品91点(画賛のみ)の2/3は前回なかったものだったので、すぐ‘見るぞ!モード’にスイッチオン。ここに仙厓(1750~1837)のコレクションが一体何点あるのか知らないが、前回(拙ブログ07/9/24)は94点あったから2回の展覧会で160点近くをみたことになる。これに他の美術館蔵を加えると鑑賞したのは200点くらい。これで仙厓は済みマークがつけられそう。

初見で足がとまったのはあくびをしている布袋さん。13点の布袋画のなかでこれと‘指月布袋’がお気に入り。このあくびをする布袋さんは口を大きく開けたあくび顔と横によじれた太鼓腹がじつにユーモラス。散歩の楽しみのひとつがあくびをする赤ん坊にでくわすこと。赤ん坊はあれほど寝ているのに布袋さんみたいによくあくびをする。

どうでもいいことだが、電車の中であくびをする大人をみる頻度としては女性のほうが多いような気がする。といいつつも‘あなたが女性ばかりみているからでしょう!’とつっこまれるとその印象もすぐへなりと変わってしまうのだが。

再会した‘座禅蛙’を楽しんだ。この蛙は目にとても力がある。そして、ちゃんと座禅の姿勢になっているところがエライ。悟りを開けたらなおエライのだが。でも、人間だって仏になれるのはごくわずか。蛙流の悟りだってあるだろうから、そう案ずることはない。

はじめてお目にかかる‘橋上人物画賛’をみていて、池大雅の同じような絵を思いだした。恐る恐る丸太の橋を進む僧は太っているのでとても渡れそうにない。さらさらっとひいた描線はじつにのびやかで、緊張した僧の姿がとてもユーモラスにみえる。

‘堪忍柳画賛’は腹にグッとくる絵。賛は‘気に入らぬ風もあろうに柳哉’。誰しも世の中そう思い通りにはいかないことはわかっている。気持ちのよい風が吹いてくることもあれば、気にいらぬ風に心が滅入ることもある。

柳はこの絵のように枝を曲げて激しい風に耐えているが、われわれは忍耐にも限度がある。心が折れるような不条理な風に吹きとばされることがないことをいつも願っている。

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2010.10.22

とことん好き! ‘江戸の英雄Ⅱ’展(後期)

2050_3           歌川国貞の‘嵐冠十郎の武蔵坊弁慶’

2052_4      歌川国貞の‘里見八犬伝 放龍閣之場’

2053_3           月岡芳年の‘鳥居又助’

2051_3      豊原国周の‘十三代目市村羽左衛門の浅山銅六’

豊洲のUKIYO-e TOKYOで開催中の‘江戸の英雄Ⅱ’展(後期:10/1~24)をみてきた。作品の数は57点。浮世絵は小さな絵だから、ここのあまり広くない部屋でもこのくらいの数が展示できる。

前期(拙ブログ9/17)同様、インパクトのある役者絵を存分に楽しんだ。数の多い歌川国貞(1786~1864)の絵で一番みたかったのが‘嵐冠十郎の武蔵坊弁慶’。これは役者を弁慶に見立てて描いたもの。衣装の輪宝の黄色と隈取の赤、頭髪の黒の組み合わせが鮮やかで、気分がぐっとハイになる。いい絵をみた!

市村座の‘里見八犬伝’をもとに描かれた‘放龍閣之場’は屋根の三角形構図が目をひく。小さいころ見た時代劇は忍者がこういう屋根の上で闘う場面がよくでてきた。犬塚信乃と犬飼現八は忍者ではないのだから、こんな足場の悪いところで戦うことはないと思うが、月を背景にすると絵になるから演出的にはこういうところのほうがいいのかも。

国貞はほかにも収穫があった。それはなかなかみる機会がない五枚続の2点。画面の上部に桜や梅を描き、横に男女を横に並べるという構成はとても見栄えがする。しかも役者が身につけている衣装の模様と色に力があるので、華麗な舞台を間近でみているような気持ちになる。

月岡芳年(1839~1892)は前後期1点ずつ。この‘鳥居又助’は初期に描かれたものだが、青地の衣装に施された大きな黒の点々がこの時代のものとは思えないほど斬新。寄り目よりこの黒点の意匠と垂直にのびる線の束で表現された雨をしばらく息を呑んでみていた。

黄色の水車を背景に立て看板を両手にもち上に振り上げている男を描いた絵は豊原国周(1835~1900)の作品。これは三枚続の右二枚で、左にもう一人男がいる。話は絵金が描いたのと同じ‘播州皿屋敷’(10/6)。浅山銅六はお菊を殺した播州細川家の家老、浅山鉄山のこと。場面は浅山鉄山が左にいるお菊の夫、舟瀬三平(ここでは戸奈瀬三平)に討ち果たされるところ。迫力のある人物描写なので、夢中になってみてしまう。

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2010.10.21

2回目の楽しみ‘ハンブルク浮世絵コレクション展’!

2046_3         鈴木春信の‘下駄の雪取り’

2047_2      渓斎英泉の‘岐岨街道 鴻巣 吹上富士遠望’

2048_2      歌川広重の‘魚づくし 鯵と海老’

2049_2     鈴木其一の‘竹取’

2回目の‘ハンブルク浮世絵コレクション展’(Ⅱ期:10/19~11/7)も楽しい鑑賞だった。作品は71点、うち4点は会期中展示してある勝川春章や河鍋暁斎らの肉筆画。

Ⅰ期(拙ブログ10/7)同様、お目当ての鈴木春信(1725~1770)の2点、‘寄山吹’と‘下駄の雪取り’をじっくりみた。8年ぶりにみた‘下駄の雪取り’の見所は地面に積もった雪。きめ出しの技法によって表現されているので、紙がぼこっと盛り上がり立体的になっている。こんな雪の質感描写がみられる浮世絵はめったにない。これ1点だけでもでかける価値がある。

風景画は初見の歌川広重(1797~1858)の‘京都名所之内 八瀬之里’と‘渓斎英泉(1791~1848)’の‘岐岨街道 鴻巣 吹上富士遠望’に足がとまった。どちらも道を斜め構図で描き、そこを進む旅人に動きを与えている。

‘鴻巣’では道の脇に立つ木々は風に吹かれているように向こう側に傾いており、等間隔に配置された人物は手前からだんだん小さく描かれている。これにより画面に奥行き感が生まれ、街道を行き交う人々につい感情移入したくなる。美しい富士をみながらの道中だから足も軽やかにちがいない。

広重の花鳥画が1点あった。‘魚づくし 鯵と海老’。まだ、この‘魚づくし’はコンプリートになってない。画集をみると‘鯛’、‘伊勢海老と芝えび’、‘ぼらとほうぼう’、‘あわび さよりに桃’などがある。全部みれるようにミューズに祈っているが、長い道のりになりそう。浮世絵の鑑賞はロングレンジだから、気長に待つことにしている。

歌川国芳は画集でみたことのない大画面の絵がある。見てのお楽しみ!収穫はこれと鈴木其一(1796~1858)の摺物、‘竹取’。琳派のDNAを受け継ぐ其一は浮世絵の肉筆画や錦絵も描いており、里帰り浮世絵展でちょくちょくお目にかかる。龍の図柄の凧をこれからあげるのだろうか。子供の元気のいい姿に思わず見入ってしまった。

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2010.10.20

江戸隅田川エンターテイメントに誘われて!

2043      鍬形けい斎の‘江戸名所之絵’

2042     橋本貞秀の‘東都両国ばし夏景色’

2044     歌川豊国の‘両国花火之図’

2045     歌川国貞の‘大角力両国橋渡図’

江戸東博へでかけ‘隅田川’展(9/22~11/14)を楽しんだ。今は後期(10/19から)で隅田川を描いた風俗画、浮世絵、明治以降の作品が114点でている。

江戸の庶民に親しまれた隅田川は浮世絵風景画や美人画で最も描かれたモチーフなので、広重の‘名所江戸百景 大はしあたかの夕立’など馴染みの絵は多い。この展覧会にはこうした定番の名画はもちろんのこと、普段はなかなかみれない隅田川図がごそっとでているので、江戸時代にタイムスリップした気分で舟遊びや花火といった恒例のエンターテイメントや詩情豊かな川の光景を楽しむことができる。

隅田川は江戸の町をどういう風に流れているかは最近よく出ている江戸本を手に入れ、そこに必ず載っている解説つき古地図をながめているとだんだんわかってくる。出品作のなかでは鍬形けい斎(1764~1824)の俯瞰の視点から描かれた‘江戸名所之絵’と鳥文斎栄之(1756~1829)の大きな‘隅田川風物図屏風’の前に長くいるといい。屏風は解説図があり永代橋、両国橋、大川はしや佃嶋、深川八幡、三囲稲荷、浅草観音などが書き込まれているから、橋や名所の位置関係がおおよそつかめる。

チラシを手にして最もみたかったのが橋本貞秀(1809~?)の‘東都両国ばし夏景色’。中央の両国橋に一体何人いるのだろうか?これだけびっしり人がいると橋が崩れ落ちるのではないかと心配になってくる。隅田川花火エンターテイメントの華やかさをこれほどストレートに伝える絵はほかにない。

歌川豊国(1769~1825)の絵は上下2段の三枚続の大きな絵。下には橋の下で舟に乗って花火と音曲を楽しんでいる男女たちが描かれている。貞秀の絵の橋の部分を拡大すると人々の様子はこんな感じになっているのだろう。人人、、、この混雑ぶりは半端じゃあない。

今回の収穫は橋を渡る力士の絵。江戸東博の隣は国技館だから、こうした絵をここに並べるのは気がきいている。3点あり、後期は2点みれる。歌川国貞(1786~1864)の三枚続の絵は圧巻の力士群像!‘いい眺めだなあ、オイ、あそこに燕が飛んでいるぞ’とかなんとかいっているのだろうか?

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2010.10.19

アートに乾杯! 微笑みの美学 Ⅳ

2041_2     木喰の‘地蔵菩薩像’(日本民藝館)

2040_2         円空の‘十一面観音菩薩’

2038_2       備前焼‘布袋’(三の丸尚蔵館)

2039_2      村田陶えんの陶彫‘喜悦鬼’

日本民藝館へ出かけると木喰(1718~1810)の‘地蔵菩薩像’と‘自刻像’に度々お目にかかる。この‘微笑仏’の頬がぷくっとふくれた笑顔をみるたびに、笑いを心のエンジンにして生きていかなくてはいけないなと思う。

木喰仏は民藝館以外の展覧会では3回体験した。06年東博であった‘仏像展’(拙ブログ06/10/12)、08年横浜そごうの回顧展(08/7/3)、そして東博で開催された‘対決 巨匠たちの日本美術ー円空vs木喰’。お陰で沢山の‘微笑仏’とお友達になった。木喰の仏像は丸くてその笑いがとても親しみやすいのでつい友達感覚になってしまう。

円空(1632~1695)の‘十一面観音菩薩’と対面したのは5年前横浜そごうであった回顧展(05/6/7)。この観音菩薩の微笑みに心が洗われた。糸目の微笑みがここにもあそこにもあったが、この菩薩の笑みが格別によかった。木喰の仏像は男性の笑いだが、円空仏は女性の笑いそのものでやさしさに溢れている。

木喰の‘微笑仏’はとてもあたたかい感じ。だから、それまでかかえていた重い気持ちが会ったとたん吹っ飛んでなくなる。これに対し、円空の仏は形が粗削りで角々しており、顔の彫りは浅くその微笑みは消えてなくなりそうな感じ。この小さな笑みが心を揺すぶる。声をかけてくれはしないが、その顔は‘元気出しなさいね!’と無言で励ましてくれているよう。ありがたい仏像である。

七福神の一人、布袋さんの置物はいろいろみたが、三の丸尚蔵館であった‘福やござれ’展(07年)にあったものが忘れられない。これは備前焼のつくりものだが、これほど笑顔がはじける布袋さんはこれまでみたことがない。家に持ち帰りたくなる。やはり皇室にあるものは見慣れた布袋像とは一味も二味もちがう。これだから、尚蔵館通いはやめられない。

京焼陶工の村田陶えん(1905~2002)の回顧展が04年10月日本橋の高島屋であった。思い出に残るとてもいい陶器が沢山あったのだが、立ち尽くしてみていたのが陶彫の‘喜悦鬼’。鬼が前に置かれた財宝をみながら大笑いしている。夢でもいいから、大金を手に入れてこの鬼のように腹をかかえて笑ってみたい!

‘微笑みの美学’はこれで終り。

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2010.10.18

アートに乾杯! 微笑みの美学 Ⅲ

2034_5           伝顔輝の‘寒山捨得図’(重文 東博)

2035_3           岸田劉生の‘寒山風麗子像’

2036_3      仙厓の‘福釣恵比寿画賛’(出光美)

2037_3      藤井松林の‘百福之図’(部分 三の丸尚蔵館)

西洋と違って東洋では人々は笑いにつつまれた人物画や彫刻に慣れ親しんできた。中国で描かれた笑いの絵で最も有名なのは‘寒山拾得図’。中国から日本に入ってきたもの、日本の絵師が描いたもの、いろいろある。

これまでみたなかでお気に入りは東博蔵とMOAにある梁楷作(拙ブログ07/2/14)。元代前半に活躍した顔輝の一派が描いたとされる‘寒山拾得図’はその明るくて大きな笑いにわけもなく惹かれる。二人は唐時代の僧、右の経巻をもつのが寒山で、左の箒をもっているのが捨得。口の大きさは京唄子、ティナ・ターナー級。

これに対し、南宋の画家梁楷の描いた寒山捨得は口の大きさは同じだが、その笑いは大笑いではなく‘うふふふ、、’といった感じ。目じりの垂れ下った顔の表情がじつにいい。この絵同様、口元がついゆるんでしまうのが東博にある因陀羅が描いたもの(国宝)。これは梁楷よりぐっとくだけて‘布袋’(根津美、4/10)と似た調子の絵で、漫画チックに描かれた満面の笑みが目を楽しませてくれる。

日本で描かれたものでは曽我蕭白(1730~1781)と岸田劉生(1891~1929)が印象深い。蕭白は2点あり、屏風のほうが‘対決 巨匠たちの日本美術’(08年、東博)で展示された。顔輝のグロテスクな画風にとりつかれたのが劉生。墨画の‘寒山風麗子像’と‘野童女’(07/11/7)を描いている。岡本神草や甲斐庄楠音のデロリ系女性画は好きになれないのだが、劉生のデロリ麗子には惹かれている。2点とも‘ゲゲゲの鬼太郎’に登場するお化けや妖怪のような雰囲気が漂っており、とてもおもしろい。

仙厓(1750~1837)のゆるキャラ、恵比寿さんの絵も心を和ませてくれる。仙厓の描く人物は口を大きくあけて幸せ気分を爆発させる。‘みてくれたかい、この大きな鯛を。わたしゃ、嬉しくってヨイヨイ気分でね。一緒に歌でも唄おう!’と誘われているよう。すぐ‘福の神、恵比寿さんの顔をみるだけでいいことがありそうなのに、こんな大きな魚を釣られたのだから、あっしらにも大きな福がやってくるような気がしますよ、ありがたや、ありがたや’と返したくなる。

福を呼ぶお多福が大勢いる‘百福之図’は3年前の正月、‘福やござれ’展(三の丸尚蔵館)でみた。これを宮内省の命により明治22年(1889)に描いたのは福山の画家で円山派の流れをくむ藤井松林(1824~94)。おでこと頬がふくれた丸顔のお多福は笑わなくても、ただそこにいてくれるだけで楽しくなる。子供から老人まで、お多福尽くし。これだけのお多福に会えば2,3年分の福を引き寄せただろうと真に思った。

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2010.10.17

アートに乾杯! 微笑みの美学 Ⅱ

2033_3           ‘ペプロスのコレー’(アテネ アクロポリス美)

2030_3     フェルメールの‘兵士と笑う女’(NY フリックコレクション)

2032_3             ルノワールの‘田舎のダンス’(オルセー美)

2031_3     ロートレックの‘ボックス席の夕食’(ロンドン コートールド美)

笑いを表現した美術品というと古代ギリシア彫刻の‘アルカイック・スマイル’を思い浮かべる方が多いかもしれない。6年前、アテネのアクロポリスの丘にある美術館を訪問したとき、最も感激したのはこの彫刻だった。

現在アクロポリス美はパルテノン神殿があるところから下の平地に移動し、新築の建物にアクロポリスで発掘された出土品や神殿を飾っていた大理石彫刻が展示されている。次回のギリシア旅行はちょっと先になるが、そのときが来ればイの一番にここを訪問し、心を和ますアルカイックスマイルの傑作‘ペプロスのコレー’(紀元前530年頃)と再会したい。コレーは乙女のこと。

女性画の鑑賞はライフワーク。だから、これまで鑑賞エネルギーの多くを費やして名画に接してきたが、笑っている女性に出くわしたのは男性同様、本当に少ない。で、セレクションはさっとできる。とびっきりの笑顔力でいい気持ちにさせれくれるのが3点ある。フェルメールの‘兵士と笑う女’、ルノワールの‘田舎のダンス’、そしてロートレックの‘ボックス席の夕食’。

追っかけ作品が残り5点になったフェルメール(1632~16759)だが、このフリックコレクションにある絵は好み度でいうと上位ランクの位置づけ。とにかくこの女性の美しい笑顔に200%参っている。フェルメールにはもう1点、女性が笑っている絵がある。それは08年、東京都美であった展覧会にやってきた‘ワイングラスを持つ娘’(拙ブログ08/8/6)。男が言い寄っているこちらの娘は兵士と対面している女性にくらべると、明るくてちゃきちゃきしている感じ。

ルノアール(1841~1919)の‘田舎のダンス’は大好きな絵。モデルは妻のアリーヌ。女性を沢山描いたルノワールではあるが、笑い顔はこの1点のみ。日本は印象派天国だから、08年のBunkamuraであった回顧展に‘田舎&都会のダンス’(08/2/18)が、今年の国立新美に‘ブージヴァルのダンス’(2/21)が展示された。3点の人気投票をすると、どれが一番だろうか?もし好きな絵を差し上げますと言われたら、‘田舎’にするか‘ブージヴァル’にするか?とても迷うが、やはり‘ブージヴァル’かな。

15年くらい前、日本橋高島屋にコートールドコレクションが来たとき、マネやルノワールの傑作とともに楽しんだのがロートレック(1864~1901)の‘ボックス席の夕食’。真っ赤な口紅と屈託のない笑顔が今でも目に焼きついている。お気づきの通りこの女は‘ココット(娼婦)’。いかにも座持ちがよさそうで、相手をする男性も酒や食事が進むにちがいない。

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2010.10.16

アートに乾杯! 微笑みの美学 Ⅰ

2029_2       カラヴァッジョの‘勝ち誇るアモール’(ベルリン 国立絵画館)

2026_2      ベラスケスの‘デモクリスト’(ルーアン美)

2028_2      ハルスの‘笑う少年’(ハーグ マウリッツハイス美)

2027_2  クールベの‘チェッカーをする男たち’(カラカス アドルフォ・ハウザー・コレクション)

人物を描くのはとても難しく、生きた人間の形になるまでには相当の修行をつまなければならない。ましてや世間から高く評価される作品となるとほんの一握りの才能に恵まれたものの手からしか生まれてこない。芸術家の仕事というのは真に厳しいものである。

これまで肖像画や人物画を沢山みてきたが、大体は前をきっと見据えたもので笑っている顔を描いたものはごく稀にしかない。だから、こういう絵は強く印象に残ることが多い。で、その微笑みが心を明るくしてくれる絵を集めてみた。まずは男性の絵から。

5月、ローマでカラヴァッジョ(1571~1610)の‘勝ち誇るアモール’(拙ブログ5/14)をみた。図版でずっとこの笑みに魅せられていたのだが、本物は期待通りの傑作だった。カラヴァッジョがこんな生感覚の笑顔をみせる少年を描いたのはミケランジェロが亡くなって40年くらいした経ってない1601年頃。まだ宗教画が主流の画壇にあって、こういう身近な人物の笑顔をこれほどリアルに描くというのは本当にすごいことだと思う。

カラヴァッジョの画風に影響を受けたベラスケス(1599~1660)にも笑顔が印象深い絵がある。‘バッカスの勝利’(プラド美、07/3/19)と‘デモクリスト’。バッカスの隣で笑っている男の表情がじつにいいが、デモクリストの性格のよさそうな笑顔にもすごく魅せられる。この絵はまだ縁がないが、大ベラスケス展がプラドで開催され見る機会があれば駆けつけたい。

カラヴァッジョの流れをくむレンブラント(1606~1669)の絵で極めつきの笑いがみられるのがドレスデン美にある‘サスキアといる自画像’(8/17)。そして、同じオランダ生まれのハルス(1581~1666)が‘微笑みの美学’を最も感じさせる画家かもしれない。‘笑う少年’や日本に昨年やってきた‘リュートを持つ道化師’(ルーヴル美、09/3/14)のような底抜けに明るい笑顔をみると自然に元気がでる。

クールベ(1819~1877)の‘チェッカーをする男たち’はまだみてないがとても気に入っている。08年パリのグランパレであった回顧展には残念ながら出品されなかった。それにしてもチェッカーをしている男たちの表情がじつにいい、もう嬉しくてたまらないという感じ。クールベはラ・トゥール同様、カラヴァッジョの風俗画のDNAをしっかり受け継いでいる。

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2010.10.15

アートに乾杯! とても笑える絵(西洋画)

2023_2     ボスの‘聖アントニウスの誘惑’(部分、リスボン国立美)

2024_2        アンチンボルドの‘司書’(スウェーデン スコークロステル城) 

2025_2     ドーミエの‘立法腹部’(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

2022_2     ミロの‘アルルカンのカーニバル’(バッファロー オルブライト=ノックス美)

西洋では宗教画や歴史画が長いこと絵画の主流だったから、中世からルネサンス期において日本の‘鳥獣戯画’のような腹の底から笑える絵にお目にかかることはまずない。だが、まったくないわけではなく、少しある。それはダ・ヴィンチより2年前に生まれたボス(1450~1516)とアンチンボルド(1527~1593)の絵。

ボスの絵は代表作の‘快楽の園’(プラド美、拙ブログ07/3/21)でもほかの絵でも、その画面は幻覚と怪奇一色につつまれているから、地獄絵をみているのと同じで精神状態はかなり緊張する。だから、笑える場面などあったかいな?と思われるかもしれないが、ところどころに‘オオオ、これはおもしろい’と笑ってしまう描写がある。

ここに取り上げたのは‘聖アントニウスの誘惑’の左パネルの部分。ガリバーみたいなデカイ体をした男が膝をつきお尻をこちらにむけて座っている。じっとみるとおもしろいことになっている。股のところが家の入り口で、背中の部分が屋根。左足の太股の横では女が窓から顔をみせている。これはシュルレアリスムの絵でお馴染みのダブルイメージ。ボスの豊かな想像力にはほとほと感心する。

アンチンボルドの‘司書’を所蔵しているのは昨年、Bunkamuraで開催された‘だまし絵展 奇想の天国’に出品された‘ルドルフ2世’(09/6/14)と同じスウェーデンの
スコークロステル城。これをTASCHEN本ではじめてみたときはあっけにとられた。そして、だんだん可笑しさがこみ上げてきた。描かれているのは司書だから腕、胴体、顔、頭を皆本で形づくっている。とくに目を見張らされるのが頭の髪を開いた頁で表現しているところ。これは本当に笑える!

オルセーで体験したフランスの風刺画家、ドーミエ(1808~1879)の戯画は今でも強く心のひだに刻み込まれている。大胆にデフォルメされた政治家の顔、顔、顔は忘れようにも忘れられない。どこの国でも政治家を揶揄したカリカチュアは一般市民には喜ばれる。ワシントンのナショナル・ギャラリーにある‘立法腹部’は一人々がいかにも政治家面をしている。漫画肖像画ほど楽しいものはない。

赤塚不二夫の漫画をみているような気分になるのが大好きなミロ(1893~1983)の‘アルルカンのカーニバル’。これは‘もっと見たい名画’(09/1/16)でも紹介したが、200%惚れている絵。まだみてないのでいつも何とかしなくてはと思っている。

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2010.10.14

新シリーズ アートに乾杯! とても笑える絵(日本画)

2018_2    ‘鳥獣戯画’

2019_2         歌川国芳の‘金魚づくし 玉や々’

2020_2    河鍋暁斎の‘芝居説話画帖・巨大化猫’

2021_2           歌川国芳の‘狸の川がり・狸の夕立’

新シリーズ ‘アートに乾杯!’を立ち上げます。これまで不定期に書いていた‘美術に魅せられて!’では美術品のことと美術館の運営などを取り上げてましたが、これからはモチーフとかテーマ、あるいはジャンルの点からお気に入りの作品を紹介するときは‘アートに乾杯!’に、美術館や美術鑑賞全般に関するときは‘美術に魅せられて!’にしようと思います。

美術品の鑑賞体験をいろいろ重ねてくると、‘あの絵とこの絵は時空を超えて響き合っているな!’とか‘このモチーフで最も惹かれる絵はどれか?’とかを展覧会の感想記とは別に書いて見たくなります。‘西洋画・日本画比較シリーズ!’はこれのひとつの形ですが、モチーフやテーマでのセレクションはまだ少なく本格稼動してません。

いつものことですが画像の選択にエネルギーの多くを使っていますが、ほとんどは全図で部分図はほとんどありません。絵画でも工芸でもときどき驚愕の細密描写に遭遇することがあります。図録にその部分図が一緒に載っているともう嬉しくなり、夢中になってみます。

と同時に、この部分図をピックアップして皆さんをびっくりさせたい気持ちがふつふつと沸いてくるのですが、紹介する作品は3ないし4点と決めてるので、こちらはどうしても割愛せざるをえません。これからは若冲の絵のように‘美が細部に宿っている’作品については、この‘アートで乾杯!’でおみせする機会をふやしていくつもりです。

新シリーズ、最初に取り上げるのは‘笑い’を誘う絵。まず、日本画から。ユーモラスな絵やコミカルな絵の原点はなんといっても‘鳥獣戯画’(国宝、1180年頃、高山寺)。いつくかある場面で最も長くみていたいのは‘兎と蛙の相撲’の場面。蛙ってこんなに大きかった!?兎に比べ蛙がこんなにデカくはないのに、戯画だから違和感もなく画面のなかにすっと入っていける。蛙の口からでている長い息のあとが漫画の吹きだしのようになっているのがおもしろい。

浮世絵師で戯画の名手は歌川国芳(1797~1861)と河鍋暁斎(1832~1889)。国芳は思わず口元がゆるむ絵を沢山描いている。そのなかでお気に入りは金魚の絵。2年前、太田記念美であった‘ベルギーロイヤルコレクション展’に出品された金魚の絵(7点)は記憶に新しく、浮世絵ファンは大いに楽しまれたはず。

その一枚、猫が金魚を驚ろかす‘百ものがたり’を弟子の特権でちゃっかりいただいたのが河鍋暁斎。こちらは巨大な化猫になって農夫を襲っている。農夫の怖がりようといったらない。体は海老のように後ろに反り返り、首は骨が折れんばかりに曲がっている。

最後の国芳の絵については説明は不要かと。拡大図でどうぞ!でも、お隣の家のご迷惑になるのであまりゲラゲラ笑わないように。

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2010.10.13

チリ落盤事故 作業員69日ぶりに生還!

2017

チリの鉱山で起きた落盤事故で地下700mに閉じこめられた作業員33人の救出が本日昼すぎからはじまった。1人の救出に1時間要するから現在8人が地上に無事生還した。事故発生から69日ぶりの奇跡の生還である。あらゆる知恵と全エネルギーを使って成し遂げた救出チームの献身的な活動と作業員たちの希望を捨てず救出を待っていた不屈の精神力に拍手々!

事故が起きたのは8月5日、当初は全員死亡したと思われていたが、17日後に33人は避難所に無事いることが判明。だが、救出には4ヶ月かかるという。‘暗くて狭い部屋にあと4ヶ月もいるのか!これは尋常な辛さではないな。精神的にもつかな?’と率直に思った。

メディアによると救出チームは作業員に地上に戻ってこれる時期については伝えない方針だという。また、チリ政府はNASAに依頼して宇宙飛行士がスペースシャトル内で過ごすときに行っていることやメンタル面での注意事項など狭いところで長期間生活するノウハウを入手する意向を表明した。

救出用の縦穴は3本掘られたが、真ん中のものが最も早く地下に到達した。2ヶ月も短縮できたはこのプランを実行した掘削会社が高い技術力と豊富な経験をもっていたから。作業を指揮した米国人主任技師は要請を受けたときは、アフガニスタンで米軍と一緒に井戸を掘っていたという。

フェニックスと名づけられた直径50cm、長さ4mのカプセルは順調に作業員を地上に運んでいるようだから、もう少しで33人全員の救出が完了するだろう。とにかく、本当によかった。作業員本人、そして家族の喜びを思うと神仏に大きな感謝をささげたくなる。

世の中には閉所恐怖症とか高所恐怖症の人が大勢いるが、これまで幸いにも電車やエレベーターの事故に遭遇し長いことこの中に閉じこめられたことがないから、自分が閉所恐怖症かどうかはわからない。数年前エレベーターの事故が多発した時期、‘もしこのエレベーターが故障してこの狭い空間に閉じこめられた場合、精神的に大丈夫かな?’とふと考えることがあった。このとき、急に脈拍数が上がったから潜在的には閉所恐怖症かもしれない。

これからこの救出劇はいろんなところで注目を集めるだろう。心理学者は2ヶ月の間作業員たちがとった行動や精神状態を注意深く分析するだろうし、出版社は作業員による手記の発刊に、また映画会社はその手記にもとずく映画化に動き出すことは容易に想像できる。

昔から災難やパニックものの映画はよくみた。例えば、‘ポセイドンアドベンチャー’、‘タワーリングインフェルノ’、‘カサンドラクロス’、‘アポロ13号’、‘アルマゲドン’、‘タイタニック’。このチリ鉱山事故でおきた奇跡の生還も映画で感動を味わいたい。大ヒットするような気がするが。

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2010.10.12

いつか行きたい美術館! マントヴァ ドゥカーレ宮殿

2015_3

2016_3      ドゥカーレ宮殿 ‘夫婦の間’

2013_4      マンテーニャ作 ‘夫婦の間’の天井画

2014_3      ロマーノ作 テ宮殿 ‘巨人の間’の壁画

1月イタリアを旅行したとき、ミラノからヴェネツィアへはバスで移動した。高速道路を快調に走り、途中‘ロミオとジュリエット’の街、ヴェローナでトイレ休憩を兼ねてお土産屋さんに寄った。地図をみるとパドヴァやマントヴァやパルマはこのヴェローナからそう遠くないところにある。

昨日取り上げたパドヴァ同様、いつか足を踏み入れようと思っているのがマントヴァと
パルマ。でも、実行プランはまだイメージできてない。当然のように通常のイタリアツアーではここへは行かない。パドヴァならヴェネツィアの半日観光をパスして足をのばせるが、マントヴァ、パルマまではとても無理。

となると、ヴェネツィアとかミラノに4,5日滞在する個人旅行というオプションしかない。海外旅行先の選択肢のなかでトータルの楽しみを考えると、この街より優先順位の高いところがほかにあるので訪問の時期はまだ先になりそう。そうはいっても、‘ビバ!
イタリア’の心に変わりないから、次回のナポリ、アマルフィ、シチリア旅行のあと‘この際、イタリアを一気に行っちゃうか!’ということになるかもしれない。

マンテーニャ(1431~1506)の絵に魅せられると、どうしてもマントヴァのドゥカーレ宮殿を訪問したくなる。マントヴァを支配したゴンザーガ家に依頼されて制作した宮殿の‘夫婦の間’の装飾で、最もみたいのが天井のだまし絵。見事な短縮法で描かれた童子をいつかじっくりみてみたい。

マントヴァでもうひとつみたいイリュージョン絵がある。それはジュリオ・ロマーノ(1499~1546)がゴンザーガ家の夏の離宮であるテ宮殿の‘巨人の間’に描いた天井画と壁画。これはゼウスとの闘いで巨人族が滅亡する場面を描いたものだが、これまで美術本やTVの映像などでみてそのマニエリスム調&劇画チックな画面にすごく惹きこまれた。いつかこの崩壊の空間に身をおきたい。

コレッジョの絵にぞっこんというわけではないが、一度はパルマを訪れて有名な教会の天井画や国立美術館にある‘聖ヒエロニムスのいる聖母’などの傑作と対面することを夢みている。

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2010.10.11

いつか行きたい美術館! パドヴァ スクロベーニ礼拝堂

2009_2      スクロベーニ礼拝堂

2012_2      ジョットの‘東方三博士の礼拝’

2011       ‘裏切られたキリスト’

2010       ‘キリストの哀悼’

イタリアでルネサンス時代に生み出された絵画や彫刻の傑作を相当数みてきたが、有名なものでまだ縁がないのがいくつかある。そのなかで最もみたいのがパドヴァのスクロベーニ礼拝堂にあるジョット作の連作壁画‘キリストの生涯’。これをみないとルネサンス美術は完結しない。

一般的なイタリア観光ツアーにはこの礼拝堂の見学は入ってない。だから、ここの訪問は一工夫しないと実現しない。ヴェネツィア観光の場合、午後から自由時間になっているのがあるので、これを利用するとなんとかみれるかなという感じ。ガイドブックをみるとパドヴァはヴェネツィアから50kmくらいのところだから、列車に乗れば1時間くらいでつきそう。

スクロベーニ礼拝堂の見学はアバウトだがこんなイメージをもっていた。昨日紹介した‘システィーナ礼拝堂の劣化’という朝日の記事にスクロベーニ礼拝堂の見学システムのことがでていた。ここの入場は予約制で、ダ・ヴィンチの‘最後の晩餐’(ミラノ サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会)同様、一度に25人しか入れない。

これは知らなかったのであらためて本をみるとちゃんとそう書いてあった。ボルゲーゼ美を訪問したときにも事前にメールで予約をとったが、なにかとめんどくさい。時間がたっぷりあれば時間指定はどうってこともないのだが、ツアーを抜け出して行くケースではこういう予約制は列車の時間割の調整などがあるからちょっと厄介。ヴェネツィア再訪はまだ先だが、少々気が重い。

ガイドブックによるとスクロベーニ礼拝堂は小さな、なんということのない建物のようだ。ところが、中に入るとジョット(1267~1337)の描いたフレスコ壁画に大感激するという。ジョットの画集に載っている絵でいつかこの目でと思っているのは、‘東方三博士の礼拝’と‘裏切られたキリスト’と‘キリストの哀悼’。

‘東方三博士’ではキリストのいる小屋の上に描かれたハレー彗星が関心の的だし、‘裏切りのキリスト’の獣のようなか顔をしたユダを最接近してみたい。そして、‘哀悼’では聖母や天使たちの悲しい表情が心を打つ。この連作はヨーロッパ芸術の至高の作品、なんとしてもみなくてはという思いをもち続けている。 

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2010.10.10

システィーナ礼拝堂のミケランジェロ画が劣化の危機!

2006_2         システィーナ礼拝堂内部

2007_2    ミケランジェロの‘天井画・大洪水’

2008_2    ミケランジェロの‘最後の審判・トランペット吹き’

8日の朝日新聞にルネサンス美術の鑑賞をライフワークにしているものにとっては気になる記事がでていた。ー‘最後の審判’劣化危機、システィーナ礼拝堂対策へ本腰ー お読みになった方もおられると思うが、今日はこの話を。

これについてはローマ在住で最近ママになられたcucciolaさんがブログ‘ルネサンスのセレブたち’に‘システィーナ礼拝堂が発したSOS’(9/9)と題してお書きになったので、少しばかり知っていた。この情報や朝日の記事によると今、礼拝堂の内部は大変困ったことになっているらしい。

ミケランジェロが描いた天井画や正面の壁画から取り除いたチリやホコリを分析したところ、予想をはるかに上回るペースで劣化が進む危機があることがわかったという。原因の一つは入場する観光客の靴が運んできた土ぼこりや細菌。これがフレスコ画に付着して悪さをするらしい。また、入場者の出す汗や熱で内部の温度や湿度が上昇するのもよくないという。観光客がいなくなると、礼拝堂の温度と湿度は急低下する。このアップ・ダウンの繰り返しで画面に付着した細菌などが化学変化を起こし、カビを発生させるらしい。

では一体、どのくらいの人がここを訪れているのか?今年は450万人を突破するそうだ。一日平均1.5万~2万人、休日には2.5万人が訪れる。90年のころは200万人というから、20年間で2倍以上に増えている。まさにローマの人気、恐るべし!である。1月のときも5月のときも礼拝堂は大勢の人であふれかえっていた。観光客がふえる夏になると混雑度はもっと上がるから、汗と熱気の総量は確かに半端じゃないだろう。

ヨーロッパの国ではロシア人が目につくが、観光客増加に一番寄与しているのは中国人。イタリアだけでなく、パリでもロンドンでも中国人は沢山いる。これからも増え続けることが予想される。観光業が国の経済を大きく支えているイタリアにしてみれば、経済発展に伴い海外旅行に楽しみを求める人が増えている中国、ロシア、インドなどは大事な国。

ヴァティカン博は礼拝堂内部の劣化対策にこれから本腰を入れるようだが、館長は人数制限はしたくないと言っている。ここは超人気の観光名所だからこれには踏み切れないだろう。見学者の流れを止めないで劣化を食い止める方策がみつかるか?ここは知恵を絞っていい案を考えてもらうしかない。

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2010.10.09

大盛況 ‘上村松園展’(後期)!

2002_2            ‘序の舞’(重文、東芸大美)

2005_2            ‘風’(水野美)

2003_2        ‘雪’

2004_2       ‘晴日’(京都市美)

東近美で開催されている‘上村松園展’(後期9/28~10/17)は3日の日曜美術館で取りあげられたことが影響してか、館内には大勢の人がいた。開幕してから(拙ブログ9/8)切れ目なく日本画ファンが押し寄せているようだ。

後期に新たに登場する10点も名品揃い。‘序の舞’(東芸大美)や‘雪月花’(三の丸尚蔵館、展示は10/5~17、09/7/9)、‘灯’(出光美、08/9/21)、‘娘浮雪’・‘待月’(ともに足立美)、‘砧’(山種美)、‘晴日’(京都市美)など松園の回顧展には必ずでてくる定番の絵がひとつとして漏れてないが本当にすごい。

昨年芸大コレクション展で久しぶりにみた‘序の舞’(09/7/9)は扇子を握る右手にみられる緊張感と着物にほどこされた薄緑のグラデーションをきかせた雲の柄に視線が集中する。大きな絵だし、じっとみているとこの女性から発せられるオーラにつつみこまれる感じ。

日本橋高島屋で上村家三代展(09/3/5)が行われたが、図録に女優の司葉子と
上村淳之(松園の孫)の対談が載っている。松園の絵のことがでてくるので一部紹介したい。

司葉子:松園先生で好きな点はやはりお着物。あの美人画は明治時代とか大正時代のお着物の参考にもなるので非常に興味深く拝見していました。歌舞伎座にも松園先生の作品がかかっていて、女性の立ち姿がとてもすてきなので、あこがれて。

上村淳之:松園が取材をしたのは歌舞伎や能の舞台で、ふっと次に手が動くであろうとか、そういうあたりがうまく表現できていますね。芝居では、その瞬間の一番いい姿が型ですから。そういうのを勉強していますね。

司葉子:私たちはまた、お描きになった型をまねして、演技の参考にしてます。

上村淳之:松園は若い時には、現実の市井を描いていない。能楽との出会いの中でコンセプトを世阿弥の世界に求めたわけですよ。市井の生活を描くのは、自分を育ててくれた母親の姿が絵になる世界になり、晩年ようやく‘夕暮’などの作品を残しています。

会期中展示されている‘風’(水野美)は対面を長らく待っていた作品。今残っている追っかけ作品2点のうち1点をみることができたのは大きな喜び。動きのある描写に目が釘づけになるが、もっと驚かされるのが青の着物の下に白い肌が透けてみえるところ。これはボストン美のスポルディングコレクションにある歌麿の美人画を彷彿とさせる。

画面の半分に傘が描かれた‘雪’も心を揺すぶる。雪の絵ではこの絵と前期に出品された‘牡丹雪’(足立美)がとくに気にって入る。しんし(伸子)張りに精をだす女性を描いた‘晴日’をみるたびにある女性を思い浮かべる。誰に似ている?ズバリ、TBSの三雲さん! どうでもいいことだが、隣の方もすぐ同意してくれた。

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2010.10.08

大作はないが楽しめる明治神宮の‘横山大観展’!

2000_2               ‘竹雨’

1999_2           ‘春雨・秋雨’

2001_2       ‘八幡緑雨(洛中洛外雨十題のうち)’

1998_2          ‘蝦蟇仙人・鐵拐仙人’

明治神宮文化館では現在、明治神宮鎮座90年記念展‘横山大観’(10/2~
11/28)が行われている。作品数は45点(習作は除く)なので、回顧展としてはこじんまりしたもの。大観(1868~1958)は一生付き合う画家だから、前後期(作品は全部入れ替わる)2回でかけるつもり。

前期(10/2~27)にでている21点のなかに懐かしい絵が交じっている。じつはこの展覧会は1993年、京都文化博物館で開催された大観の回顧展を再現しているのである。これを企画した横山大観記念館が今回も同じ役まわり。で、17年前同様、播磨屋本店(8点)や永青文庫(5点)や福岡市美(2点)、滋賀県美(2点)に声をかけ(8割は同じもの)、これに自分のところの作品(習作を含めて11点)やほかの美術館、個人蔵を加えて展覧会を構成している。

こんなわけで、楽しみの多くは再会した絵となったが、はじめてみる絵にもいいものがあったから、ヴァリエーションを1点でも増やしたい大観好きにとっては○の回顧展である。お気に入りの絵をいくつか。

‘竹雨’は東博や足立美にも別ヴァージョンがあるが、最も好きなのが今回でている横山大観記念館にあるもの。見とれるのが竹林を表現する墨のグラデーションと縦長の画面に人物と道を巧みに配置する構成。埼玉近美が所蔵する‘春雨・秋雨’は急勾配の山の斜面にある楓の木が印象深い。これが横物の掛け軸だったら楓をこれほど横には倒せないだろう。

目にやさしい緑が画面の大半を占める‘八幡緑雨’(滋賀県美)と‘喜撰山’(個人)は回顧展の常連作品。そして、今年の春にあった‘細川家の至宝展’に登場した‘柿紅葉’(拙ブログ4/9)の習作(大観記念館)にも足がとまる。習作でも柿の葉の橙色にはとても惹きつけられる。

播磨屋本店のコレクションには中国古典を題材にした絵がいくつもあるが、前期にでているのは下村観山との合作‘蝦蟇仙人・鐵拐仙人’。大観が描いた鐵拐仙人はハットする場面だから前回の記憶がよく残っている。空中に吐き出す息のなかにいる自分の分身はどこへ行くのだろう?

後期(10/29~11/28)に展示される‘鍾馗’(播磨屋)と‘宝舟’(長田神社)がとても気になるのでまた訪問しようと思う。

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2010.10.07

‘ハンブルク浮世絵コレクション展’はお楽しみ満載の里帰り展!

1994_2        鈴木春信の‘三十六歌仙・源宗于朝臣’

1995_2         喜多川歌麿の‘高輪の美人’

1996_2      歌川国芳の‘道外化もの夕涼’

1997_2      魚屋北渓の‘三十六禽続・猫’

太田記念美で行われている‘ハンブルク浮世絵コレクション展’(10/1~11/28)を楽しんだ。海外の美術館が所有する浮世絵を公開する、いわゆる里帰り展は今では浮世絵鑑賞の楽しみの一つになっている。ここ数年でみてもボストン美、ギメ美など毎年のように開催され高い評価を得ている。

昨年はギリシャの外交官マノスが蒐集したすばらしい名品(拙ブログ09/7/5)が目を楽しませてくれた。今回、ハンブルク美術工芸博物館から200点あまりがやってきた。これまで浮世絵本でこの美術館がもっている作品はみたことないので、リスク半分という気分があるのは否めない。が、この心配は入館するとすぐ消えた。流石、太田美!

会期はⅠ期(10/1~17)、Ⅱ期(10/19~11/7)、Ⅲ期(11/9~11/28)に分けられ、作品は4点を除き全部入れ替わる。Ⅰ期は72点。入館料は1000円なのだが、半券をみせると次回は200円引きになる。はじめからいいのを見せられるとあと2回も見逃すわけにはいかない。予想以上のサプライズに心もはずむ。

こういう里帰り展で最も関心があるのが春信(1725~1770)と歌麿(1753~
1806)、まだ見たことのないものに遭遇することが多いのですぐ‘見るぞ!モード’に火がつく。春信6点のうちⅠ期は‘三十六歌仙’の2点。‘源宗于朝臣’は三味線の音や手まりをつく音が聞こえてくるよう。柱のところにある達磨の置物をみると自然に肩の力が抜ける。

歌麿は会期中10点登場する。‘高輪の美人’がとてもいい。色白美人で扇子をいじる手が可愛らしい。この隣の絵も楽しめる!大首絵の美人画にぞっこんだが、三枚続の風俗画も心を惹き付けてやまない。Ⅰ期の‘婚礼之図’と‘婚礼色直し之図’も画面に吸い込まれるが、図録をみて美欲をそそるのが‘江戸名物錦画耕作’(Ⅲ期)と‘美人子供行列’(Ⅱ期)。とくに‘江戸名物錦画耕作’はエドモン・ド・ゴンクール著‘歌麿’(東洋文庫、05年12月)にも紹介されている絵なので気がはやる。

歌川国芳(1797~1861)の収穫ははじめてお目にかかる‘道外化もの夕涼’。まだこんなおもしろい絵があったのか!という感じ。今年の夏は猛暑続きだったから、化物たちもそこかしこでデレッと夕涼みしていたにちがいない。そして、Ⅱ期にでてくる‘摂州大物浦平家怨霊顕るゝ図’にも胸が高まる。これは手持ちの図録や浮世絵本にも載っていない。

市販の浮世絵とはちがう仲間うちに配った摺物は本当に楽しめる。凝った摺りと綺麗な色使いで対象が精緻に描かれた一品は上物浮世絵といったところ。足がとまったのは魚屋北渓(1780~1850)の猫の絵。猫は向こうをみているが、耳の後ろの線は空摺りでだしている。また、蝶の羽の黄色とうす青が目に心地いい。

残りの作品をすぐにでも見たい気持ちである。

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2010.10.06

もっと早くみておけばよかった蕭白と絵金のコラボレーション!

1991_2      曽我蕭白の‘群童遊戯図屏風’

1990_2      絵金の‘播州皿屋敷 鉄山下屋敷’

1992_2      白隠の‘壽布袋図’

1993_2                 林十江の‘鰻図’

板橋区美まで足をのばし終了間際の‘諸国畸人伝’展(9/4~10/11)をみてきた。当初、この展覧会はパスのつもりだったが、9月19日の日曜美術館のアートシーンで紹介されたとき白隠の絵がでていることがわかったので、予定を変えてみることにした。

作品の数は46点。頭の中の90%を占領していたのは曽我蕭白(1730~1781)の絵一点と白隠。蕭白の‘群童遊戯図’は08年4月に発行された‘もっと知りたい曽我蕭白’(狩野博幸著 東京美術)に載っていないから、ここ2年くらいの間にでてきたのだろう。これは九博の所蔵、意外なところがもっている。

背景となっている銀地のコンディションがすこし悪いが、絵自体はとてもおもしろいのでついつい夢中になってしまう。右に比べると左で遊ぶ子供たちのほうが動きがある。逃げようとする鰻をしっかり掴んでいる子供がいるし、その下では魚がぴちぴち跳ねている。また、左の方に目をやると2人が亀をめぐって喧嘩の真っ最中。

蕭白の人物描写で目を惹くのが童でも母娘でも真っ赤な唇。代表作の‘群仙図屏風’同様、この唇の赤を見るたびに京劇の役者が思い浮かぶ。釣り竿を川にたらしている子供は笑っており、眉毛が八の字になっているが、この表情は‘寒山拾得’(重文)の寒山によく似ている。気にはなっていた絵なのに見逃してもまたどこかで見る機会があるだろう、くらいの気持ちだったが、出かけて正解だった。

第2展示室の目玉作品を描いた絵金(絵師金蔵の略、1812~1876)が高知で生まれた絵師であることは10年くらい前、‘美の巨人たち’で知った。でも作品をみたことはなく、期待値も半々といったところ。もっとグロッぽい絵をイメージしていたが、思いのほか心を揺すぶった。劇画風タッチの人物は上手く配置されているので、描かれている場面がよくのみこめる。それにしても目の覚めるような赤と緑が強烈!4点あるうちこの絵は幽霊のお菊が皿を‘一まーい、二まーい、、、’と数えるあの怖い怪談話、‘播州皿屋敷’。スゴイ絵をみた!絵金に嵌りそう。

日曜美術館が背中を押してくれた白隠(1685~1768)は6点。ぐっときたのは‘蓮池観音図’と‘壽布袋図’。白隠の絵は昨年東博と京博であった‘妙心寺展’で‘自画像’(拙ブログ09/2/17)や‘達磨像’(09/4/22)など16点みて、今年も東博の‘細川家の至宝展’で19点お目にかかった。順調に鑑賞体験が増えているが、ここ数年のうちにビッグな回顧展に遭遇すれば理想的流れ。果たして、実現するか?

林十江(1777~1813)の‘鰻図’は東博平常展でお馴染みの絵。はじめてこの鰻をみたときは痩せた鰻という印象が強く、この蒲焼は食べたくないなと思ったが、今は食欲のことより墨の線の力に目がいくようになった。十江は視点のとり方がとてもユニーク。隣にある画面いっぱいに描かれた‘蜻蛉図’にびっくり。さて、どんなサプライズが待っている?

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