田中一村は日本のアンリ・ルソー!
‘初夏の海にアカショウビン’
‘枇榔樹の森’(部分)
千葉市美で開催されている‘田中一村 新たなる全貌’展(8/21~9/26)に200%感動した!奄美に住んで花や蘇鉄の絵を描いた画家、田中一村(1908~1977)の名前は知ってはいるが、みた絵はほんの数点だから、ほとんど知らないに等しい。
7,8年前広島に住んでいたとき、駅前にあるデパート福屋で回顧展があったのだが、当時は関心がうすくパスした。その後、06年東芸大美で開催された‘日曜美術館30年展’で‘枇榔樹の森’など3点みた。このときでも、まだ絵に対する反応はいま一つ。
だから、この回顧展に対しては期待で胸が膨らむということもなく、登場する絵が亜熱帯植物図鑑のようだとおもしろくないなと思っていた。ところが、入館して初期のころの絵や千葉に移り住んで描いた水墨山水画や花鳥画をみているうちに、これはすごい展覧会に出会ったなという気になってきた。
そう思いつつ奄美時代の絵に気がはやる。最後の2つの部屋にお目当ての絵があった。その予想をはるかに上回る一村の奄美ワールドにテンションは一気にあがる。とにかく興奮した。奄美へ行ったことはないが、蘇鉄をみるとここは本州とはまったく違う南の島だということを即納得する。1.3~1.5mもある縦長の絵が全部で15点。いずれも奄美にある田中一村記念美が所蔵するもの。
記念館にある大作はおそらく全点やってきたのだろう。東芸大美ではわずか3点だったが、これだけ揃うと田中一村が並外れた高い技量と豊かな想像力をあわせもったすごい画家であることはすぐわかる。これはエポック的な鑑賞体験だと、心のなかで叫びながら1点々食い入るようにみた。
画集かなにかでこの絵をずっと前にみておれば、一村にもっと早くから心が向かっていたなと思ったのは‘アダンの木’。チラシにも使われているが、これに最も魅せられた。亜熱帯の植物にまったく詳しくないが、このパイナップルのような実と先が細くなった葉をみて、一瞬ルドンの蜘蛛の絵を連想した。アダンの木が大きくのびのびと描かれているのとは対照的に、背景の浜の石ころや海の波はとても緻密に表現されており、静謐な印象を与えている。
隣にある‘不喰芋と蘇鉄’も傑作。この絵の前では今、最接近中のアンリ・ルソーの熱帯シリーズの絵、例えば‘蛇使いのの女’(拙ブログ6/12)とか‘不意打ち!虎のいる熱帯の嵐’(08/2/8)がダブってきた。緑でうめつくされた画面に鮮やかに映える赤やうすピンク、黄色のつぼみや花びらが目にとびこんでくる。
一村の花の絵は種類はそれほど多くなく、葉や実を大きく生き生きと描くのが特徴。その花同士の重ねあわせ方が上手いので、画面がビジーで窮屈な感じがしない。とても惹かれるのは鳥や花を配したあとに残された狭い空間から遠くの風景を垣間みせるところ。向こうは海かな?、太陽の輝く空かな?と夢想するのはじつに楽しい。
花に囲まれて登場するのは鳥、フクロウ、蝶、蛾。鳥は岩の上にいる口ばしがやけに長いアカショウビンが印象深い。緻密な写実力に吸い込まれるのが‘枇榔樹の森’。前後左右に重なり合う枇榔樹は神秘的な森のイメージ。全体が暗いから、ここへ入り込んだら神秘の世界に酔いしれるどころか不安な気持ちのほうが頭をもたげそうだが、左にいる一匹の美しい蝶をみて、ほっとするかもしれない。
ミューズが田中一村に会わせてくれたことを心から喜んでいる。そして、千葉市美に
拍手! 展覧会はこれを共同企画した鹿児島市美(10/5~11/7)、田中一村記念美(11/14~12/14)でも開催される。
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