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2010.08.03

江戸物小説でわかる火消し人足の実態!

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1803_2         豊原国周の‘真盛江戸之花役 四代目中村芝翫’  

浮世絵と長くつきあっていると江戸の人々の暮らしとか賑やかしい場所に関する知識が自然とふえてくる。知識欲というのはおもしろいもので、浮世絵にてんぷらの屋台や鰻屋がでてくると、こういうのものがいつごろからはじまったの?とか興味の範囲がどんどん広がっていく。

愛読している佐藤雅美氏の江戸物小説のおかげでいろいろなことがわかるようになった。7/26に鰻飯の話を書いた。佐藤氏の時代考証は相当念が入っているから、江戸に関することは今のところ‘物書同心居眠り紋蔵’とか‘半次捕物控’などの人気シリーズで教えてもらうことにしている。

今回は‘半次捕物控・髻塚不首尾一件始末’(講談社、07年9月)にでてくる火消し人足のこと。年初、豊洲のUKIYO-e TOKYOで‘江戸の英雄’(1/6)というなかなかいい展覧会があり、濃い色彩と力感あふれる肉体表現で描かれた時代のヒーローとそれこそガッと対面した。そのひとつが歌舞伎役者が演じるカッコいい町火消し。

上の絵は豊原国周が描いたものだが、図録の解説文にはこうある。
‘火事と喧嘩は江戸の華と言われるように、江戸の町では火事が多く、その消火にあたる火消しの人々の勇気は男の中の男と称えられるものであった。しかも、いなせで人情に厚いとくれば、江戸のヒーローと憧れの対象となったのは当然のこと。、、、’。このように浮世絵に火消しがカッコよく描かれたのは男っぷりがよかったからだろう。

でも、鳶とも仕事師ともいわれた町火消しの実態はだいぶちがう。人々の憧れの対象ではなくその逆だった。そんな話が件の本にでてくる。

ある店の植木の手入れを依頼された植木職人が仕事が早めに片付いたので、木の葉が舞い散ったどぶを浚った。年に何回かはどぶ板を剥がし、詰まった塵芥や土砂を浚っていないと汚水が詰まって異臭を発する。場末の裏長屋ではみながおれの知ったことではないとそれを怠るから、鼻をつまんでないとうろつけないことになっていた。

ところが、植木職人がするどぶ浚いに待ったと声をかける者がいた。町火消しである。いい分はこう。‘この町はは組の縄張りでどぶ浚いはおれらの仕事。よけいなことはしてくれるな’。植木職人はすぐ‘ほんの片付け仕事です。どうか、お気を遣わないでください’と返す。すると、鳶は‘みなさんにそういうことをされてはあっしらが困るんです。おまんまを食いっぱぐれるんです’と声を荒げる。双方だんだん熱くなり、一触即発の状態になる。装画の右が鳶で左が植木職人。

鳶は火事がないときは普請(建築や土木工事)の足場を組んだりの仕事をした。だが、そういう仕事は町内にそうそうない。だから、どぶ浚いも数少ない飯のタネ。お店の者が店の周囲のどぶ浚いをやるのに手は十分に足りていても、そいつはいけません、これはあっしらの仕事ですといって、相場以上の代を払わせた。

こうした仕事をしても彼らは食っていけない。で、何をしたか。大店やお店に慶弔があれば押っ取り刀で駆けつけ、もっともらしくどうでもいいお手伝いをしたり、婚礼や葬送ではきまってぞろぞろお供をした。また、祭りや正月の飾りつけもした。そうやって祝儀にあずかり、ある意味、大店、お店の情けにすがり生計を立てていた。

植木職人と鳶のやりとりはしまいには頭同士の意地の張り合い、面子がどうだあこうだあということになるが、どうみても鳶のほうが分が悪い。岡っ引、半次がぐだぐだいう鳶の頭にいうせりふが町火消しの実像をいいあてている。

‘なにが売られた喧嘩だ。なにが仲裁に入っただ。どうでもいいことを寄ってたかって大きくし、仲裁だなんだといって手打ちに持ち込み、花会と同じように町内の旦那衆や世間さまからお足を掻き集めようってのがてめえらの魂胆じゃねえか。そのくれえのことはここにいる野次馬だってみんな知っている。なんなら一人ひとりに聞いてみな’

‘世間さまのお世話をこうむってお粥をすすっているからには、肩をすぼめていろとはいわなえがちいとは世間を憚るものだぜ。ごろつきがやるごり押しのようなことをやってどうする’

すると鳶の頭は口をとんがらせて、
‘おれらは男伊達を張って渡世をしている。ジャンと鐘が鳴りゃあ、それよと命がけで飛び出す。命を落とすやつもいる。そうやってお江戸は火災地獄から守られている。油紙に火がついたようにぺらぺら舌の回る野郎だが、おれら町火消しを敵に廻す覚悟があっていっているんだろうな’

そういうのならと半次はびしっと切り返す。
‘ここんところ、世間さまがてめえたちをどういっているか知っているか。なにかというとおねだりする。町火消しなんかいらねえ。火事に遭ったって構わない。のべつ町火消しにたかられるより、新しく家を普請するほうがよほど安くつくと。なにがお男伊達を張るだ、ちいたア、わが身を振り返って、恥というものがどういうもんか知るがいい’

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