ダ・ヴィンチにも深く傾倒していたカラヴァッジョ!
ダ・ヴィンチの‘アンギアーリの戦いのための老戦士の習作’
カラヴァッジョの‘聖マタイの殉教’(部分)
カラヴァッジョが描く聖書のエピソードや聖人像をみた人はそれまでにはなかったリアルな人物描写と強い明暗対比に大きな衝撃を受けたにちがいないが、しばらくすると見慣れたミケランジェロやラファエロの描き方が取り入れられていることに気づき、少しは冷静になることもあっただろう。
その心を静める役割を果たしたのはミケランジェロ、ラファエロだけではなかった。当然のごとくレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)の絵にもカラヴァッジョは深く傾倒していた。最もわかりやすいのが‘聖マタイの殉教’(拙ブログ5/17)に登場する刺客の般若のような顔。4年前、この絵をみたときすぐダ・ヴィンチが‘アンギアーリの戦い’のために描いた老戦士の習作を思い出した。じつによく似ている。カラヴァッジョがこのすさまじい形相をした老人の顔を参考にしたことは200%確信している。
ミラノに生まれたカラヴァッジョはローマへ行く21歳までこの地にいたから、1482年から1499年までミラノで活躍していたダ・ヴィンチのことは常日頃特別の存在としてみていたにちがいない。
ご承知のようにダ・ヴィンチは肖像画では背景を黒くしているし、聖母子でも画面全体を暗い色調で描いている。光と闇のコントラストが強烈なカラヴァッジョの絵と理想化された美が表出されているダ・ヴィンチの絵とでは受ける印象は大きく違っているが、暗い色調という点では同じタイプの絵である。
カラヴァッジョの‘エジプト逃避途上の休息’(ドーリア・パンフィーリ美)とダ・ヴィンチの‘岩窟の聖母’をよく見比べてもらいたい。人物手前の立体的に描写された植物と後ろの遠景への誘い方がとても似ているのである。カラヴァッジョは‘岩窟の聖母’を下敷きにして‘エジプト逃避’を描いたのではないかと思う。
存在感のある植物は‘エジプト逃避’のほかには‘洗礼者ヨハネ’の3点(3/3、5/16、2/15)にもでてくるが、とくにネルソン=アトキンズとカピトリーニのものがあまりに見事に描かれているので食い入るようにみた。回顧展で対面しているときはカラヴァッジョが得意とした静物をここでもみせつけているなという感じだった。
ところが、後でダ・ヴィンチの画集をじっくりみていたら、‘岩窟の聖母’のところで目が点になった。‘聖マタイの殉教’の刺客だけでなく、草花の配置や背景の自然の描き方についてもダ・ヴィンチから強い影響を受けていたのである。
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