マネのここが好き! ベラスケス vs マネ
西洋絵画でも日本画でも画家とのつきあい方は好みによっておのずと差がでてくる。好きな画家だと、これはもう一生のお付き合いになる。で、これまで出かけた展覧会の図録や画集に載っている作品を頻繁にながめ、ますますのめりこんでいく。
ところが、本物に接する機会が少なくなるとダレることがある。だから、定期的に1、2点でもいいから本物を実際にみて、作品のすばらしさをあらためて目に焼き付けるようにしている。
スペインの画家、ベラスケスは長く付き合おうと決めている画家だが、ローマのドーリア・パンフィーリ美で‘インノケンティウス10世’をみてその思いがさらに強くなった。手元のある画集は図書館にあるような本格的なものではないが、限られた頁に紹介されている絵というのは画家の代表作の上位にランクされる絵であることをこの肖像画の傑作をみて再認識した。
この絵の余韻に浸っていたら先週の日曜美術館でベラスケスがとりあげられた。そして、間をおかずマネの回顧展がはじまり、ベラスケスの影響を受けた‘死せる闘牛士’(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)とも再会した。ベラスケスもマネもお気に入りの画家。で、二人の絵をよく見比べてみたところ、マネに感じていた魅力の源泉がつかめたような気がしたのでそのことを少し。
マネの絵のなかで好き度の最上位ランクは‘サン・ラザール駅’(ワシントン・ナショナル・ギャラリー)と‘フォリー・ベルジェールの酒場’(コートールドコレクション)。二つの絵には共通点がある。それはこちらに背を向けている人物が描かれていること。
‘駅’では鉄柵に手をかけている女の子。だが、‘フォリー’のカウンターの右にいるのは別の女ではなく、正面をみている女が後ろの鏡に映った像。だから正確にいうと違うのだが、ぱっとみると10人が10人、カウンター内では二人の女性が客を相手にしていると思うだろう。
画面に複数の人物を描くとき、こういうふうに正面と後ろ向きを一緒にして描く画家はそういない。画家の空間表現は天性のものだから、誰でも思いつくというものでもない。ベラスケスの絵には人物を後ろからとらえた絵がいつくかある。
‘アラクネの寓意’(プラド美)の手前右端で糸をつくっている女も‘鏡をみるヴィーナス’(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)も後ろからの姿は‘背中の美’とでもいおうかとても惹きつけられる。そして、後ろ向きの人物を配することで画面に奥行きができ、魅力的で深みのある構成になっている。
マネはこの背中をみせる絵が霊感となって、二つの絵を描いたのではなかろうか。また、トリッキーな描き方をした‘フォリー’はやはり‘ラス・メニーナス’を相当意識したものと思われる。こういう人の意表をつく構成を生み出すのだから、ベラスケスもマネも本当にすごい画家である。
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