ビバ!イタリア ヴァティカン博(4)システイーナのもう一つの壁画!
ヴァティカン博鑑賞の目玉はなんといってもシスティーナ礼拝堂にある圧倒的な迫力をもつミケランジェロの壁画。だから、中に入るともう興奮状態で祭壇の‘最後の審判’と天井の‘天地創造’をひとつ々追っかけていく。そのうち首が疲れてくるが限界まで夢中でみる。
最初の観光ではだいたいこれで終り。二度目からはすこし余裕があるので祭壇に向かって両側の壁に描かれた絵が目にとまるようになる。でも、壁画はだいぶ高いところにあり、ラファエロの間の絵のようにはっきりみえないので、双眼鏡を使わないとこの左右6枚づつある絵は楽しめない。
これらが描かれたのは1482年頃。時の教皇シクストゥス4世からお呼びがかかったのはフィレンツェで活躍するポッティチェリ(1445~1510)、ギルランダイオ(1149~
1494)、コジモ・ロセッリ(1439~1507)、そしてペルージア出身のペルジーノ
(1448~1523)。
左側に‘モーゼ伝’、右側に‘キリストの生涯’が描かれている。ボッティチェリが手がけたのは‘モーゼ伝’の2番目‘モーゼの生涯のできごと’と3番目‘モーゼの戒律に対する反抗’、‘キリストの生涯’の2番目‘ユダヤの犠牲とキリストの試練’。
‘モーゼの生涯’は異時同図法によりモーゼが若いころの逸話が一つの画面に時間をずらして描かれている。中央ではエテロの娘たちの羊にモーゼ(橙色と緑の衣服を着ている)が水を飲ませている。やがて、この娘の一人がモーゼの妻になる。ボッティチェリらしい美しい線描にグッと惹きこまれた。
ロセッリは‘紅海を渡るモーゼ’を描いた。この話になるとすぐチャールトン・ヘストンが主演した映画‘十戒’を思い出す。海が割れてそこにできた道をモーゼを先頭にイスラエルびとたちが渡っていくシーンは何度見ても感激する。で、この絵にもすっと入っていける。左には紅海を渡り終えたモーゼたちがおり、右では追撃するエジプト軍が波に呑みこまれている。
‘キリストの生涯’で長いこと双眼鏡をのぞいていたのはギルランダイオとペルジーノの絵。ミケランジェロの壁画の陰にかすみがちだが、本当に見ごたえのある絵である。二度目だから絵の完成度の高さがわかってきた。
館の図録の表紙に使われているギルランダイオの絵はガリレア湖のほとりで漁夫のペテロとアンデレがキリストに弟子入りする場面が描かれている。手前中央のキリストと跪く二人に見る者の視線をひきつけ、そのまわりや背景にV字を大きく広げるように人々や左右の山を配置する構成にとても魅了される。
ギルランダイオは宗教画に当時の風俗を描きこんでおり、この画風はサンタ・マリア・ノヴェッラ教会の壁画(拙ブログ2/22)で頂点を極める。
ペルジーノの‘鍵を手渡すキリスト’も傑作。ラファエロが21歳の頃描いた‘聖母の結婚’(ミラノ・ブレラ美、07/4/29)は師匠の絵を踏襲している。この絵は広重の描く風景画の構成とよく似ている。
手前の横に並ぶキリストや鍵を渡されるペテロたちは頭の高さをそろえて大きく描き、中景、遠景では人物はだんだん小さくなる。また、遠近法の消失点が中央の建物にあることがクリアカットにわかるので、広々とした光景を安定感よろしくみれるのもいい。
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