長谷川等伯はまるい形は苦手だが細い線の達人!
‘波濤図’(部分)
‘禅宗祖師図襖’(部分)
東博で待望の‘長谷川等伯展’(2/23~3/22)をみた。会期は24日と短く、来週からは後期(3/9~)がスタートするから、また出かけなくてはならない。こういうビッグな回顧展はこの先2,30年はないだろう。全部見るためチケットもちゃんと事前に2枚確保してある。
作品数は78点、東博ではこのなかの5点は展示されない。これらは仏画、肖像画、金碧障壁画、水墨画にグルーピングされている。展覧会へ出かけるのは追っかけ作品をみるのが目的だから、長谷川等伯(1539~1610)のまだみてない作品に鑑賞エネルギーの大半を使うことになる。
その前にまずは久しぶりの国宝‘楓図壁貼付’で目慣らし。いつもこの絵で錯覚するのは横U字のフォルムをした紺色の流水。これがどういうわけか空を飛ぶ鳥の姿にみえるのである。巨大な楓が手を大きく広げるように横にのびる形にとても魅せられる。右と左の花では、視線はどうして余白がある左のほうへいく。
追っかけ一番は‘波濤図’(重文)だった。05年、出光美で‘長谷川等伯の美’があったとき、長谷川派のヴァージョンに会い、いつか等伯のものをみたいと願っていた。待望の絵だが、グッとこない。理由は波頭の形。どうもごちゃごちゃしている。峻厳な岩に負けないように波も乱れまくっているので落ち着かない。で、あまりみずに離れた。
もうひとつのお目当ては予想通り心に響いた。猫をもった‘禅宗祖師図’(重文)がずっとみたかった。愛嬌のあるクリクリっとした目がなんとも可愛い。この絵に描かれている人物の目の瞳は皆黒くない。人物が登場する水墨画で‘竹林七賢図’や‘高士騎驢図’などには瞳に墨がはいっているのに、この‘禅宗祖師図’だけが例外的に黒い点がない。
等伯の絵でどれが最も心に沁みるかといわれれば、NOタイムで国宝の‘松林図’!等伯の描くまるいフォルムはなにか緩くて退屈。例えば、‘萩芒図’では細長いまるの形の葉が連続する右より、左の細い線が丁寧に描かれた芒のほうが惹かれる。また、‘柳橋水車図’で視線が集まるのは左の上から垂れる柳で、水車の横にみえる波の文様は硬く、柳のようなやわらかさがない。
まるい形はいまひとつなのに対し、柳や松の細い線は200%心を打つ。‘松林図’はたちこめる深い霧の中その細い葉を墨に濃淡をつけ幽玄的に描いている。この絵は東洋絵画の真髄である余白の意味をあらためて感じさせてくれる日本の水墨画の金字塔。本当にすごい絵である。
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